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       第3回期日 2006年11月16日(木)13時10分〜
             
平成18年(行ウ)第12号 三重県共同研究文書非開示処分取消請求事件
   原 告  寺 町 知 正
   原 告  兼 松 秀 代
   
   被 告  三重県 代表知事野呂昭彦
   
津地方裁判所民事部御中
                           2006年11月1日
        判例の整理

                    原 告  寺 町 知 正
                     Tel/fax 0581-22-4989
                    原 告  兼 松 秀 代
                     Tel/fax 058-232-2073

第1 本書面の趣旨
 本件争点である「対象外とする情報」の情報公開に関して、本件条例と同旨の規定である岐阜県情報公開条例について、第一審、第二審がその公開を認めなかったところ、最高裁はこれを覆した(判決文添付/最高裁Webページ判例にも登載されている) (各級判決文添付)。

 行政関係者が他の事例の情報を収集し各種検討することは、行政一般に通ずることであり、加えて情報公開条例においては通常、実施機関は公開に努めることが規定されている。よって、各自治体の関係者は情報公開に関する訴訟の動向については情報収集しており、岐阜県の担当者によれば、他の自治体の担当者同士で情報交換することもあるという。
 前記判決についても隣県であることから、被告が2005年6月14日15日等の新聞報道を知らないことは考えらない。即ち、被告は本件争点の非開示方法が違法であることを認識していたと思料される。
 
 ところで、被告三重県も同岐阜県、いずれも「処分である」ということを否定しており、請求権者の権利を奪うこと甚だしい。

 本書面に引用する岐阜地裁判決2件、同控訴審である名古屋高裁判決の2件は、いずれも「対象外情報に関して実施機関に公開するかどうかの決定をする義務はない」との旨の判示である(これらは本件被告主張と同旨である)。
 しかし、上記最高裁判決で否定された。

第2 県営渡船情報非公開処分取消請求事件
1. 第一審
 (1) 平成11年(行ウ)17号  県営渡船情報非公開処分取消請求事件
    提訴1999年8月25日 結審2000年6月29日
    原告・寺町知正ほか   被告・岐阜県知事 
    岐阜地裁判決 2000年9月28日
    ◇請求外情報=文書中の公開請求された渡船業務に関するもの以外の情報
◇合算情報=文書中の公開請求された渡船業務に関する情報と渡船業務に関する以外の情報が合算されて記録されている情報
 判決は、この両者について、非公開を追認した。

 (2) 以下に同判決の関連部分を抜粋する(甲第3号証)。


三 争点に関する当事者の主張
 4 争点4 (請求対象外情報及び合算情報の取扱い)について
   (被告)
 原告選定者らが公開を請求したのは、大垣・岐阜各土木事務所の県営渡船場越立業務等に関する公文書であり、それ以外の情報は、そもそも条例上公開の義務のないものである。
 また、公開請求の対象に係る海津町への出張に関する旅費とそれ以外の旅費とが合算されている情報は分離することが不可能であり、本件条例八条の趣旨に照らしても、これを公開しないことができるものというべきである。

   (原告選定当事者ら)
 公開請求の対象に係る支出とそれ以外の支出とが合算されている情報は、請求の対象そのものであるから、当然に公開されるべきである。
 公開請求の対象外の支出と混同されるおそれがある場合には公開をしないことができるとの規定はないから、合算情報も公開することが条例の趣旨である。本件条例六条一項所定の非公開事由以外の理由により、公文書の公開をしないことができることは到底許されない。
 また、これらの情報をすべて公開しても、公開請求対象外の支出が付随的に列記されているというにすぎず、本件条例八条にいう「請求の趣旨が損なわれる」こともあり得ないというべきである。

第三 当裁判所の判断
五 争点4 (請求対象外情報及び合算情報の取扱い)について
 1 前記目録一2(九)、同目録二2(五)、同目録三2(六)中の各請求対象外情報につき、被告が公文書の公開をしないとしたことは許されるか否かについて検討する。
 本件条例は、九条二号及び一〇条一項からも明らかなように、公文書の公開の請求方法において、請求書には請求しようとする公文書を特定するために必要な事項の記載を要求するとともに、公文書の公開の請求に対する決定において、公開をするかどうかの決定をしなければならない対象は右請求に係る公文書としていることにかんがみると、実施機関は、請求に係る公文書の件名又は内容を特定した上、右公文書の公開をするかどうかの決定をすべき義務を負うものであるが、それ以上に、請求に係る公文書以外の情報が記録されている公文書についてまで、公開をするかどうかの決定をすべき義務がないことは明らかである。
 そうすると、本件において、前記の請求対象外情報は、請求に係る公文書以外の情報が記録されている公文書であり、実施機関において、このような公文書についてまで、公開をするかどうかの決定をすべき義務はないから、被告が右情報の公開をしないとしたことに違法はない。

 2 次に、右目録一2(九)及び同目録三2(六)中の合算情報につき、被告が公文書の公開をしないとしたことは許されるか否かについて検討する。
 本件条例八条の規定は、公文書に六条各号のいずれかに該当する情報が記録されているなどのため、公開しないことができる情報とそれ以外の情報が併せて記録されている場合に関するものである外、その趣旨は、公開請求の対象となる情報とそれ以外の情報が併せて記録されている場合においても、同じく妥当するものと解すべきである。
 原告選定当事者らは、公開請求の対象に係る情報とそれ以外の情報とが合算されている情報は、請求の対象そのものであるから、当然に公開されるべきであると主張する。確かに、右情報は、請求の対象に係る情報を含んではいるものの、右情報とそれ以外の情報とが不可分一体となっているからこそ、これが公開されるべきであるか否かがまさに問題となるのであって、原告選定当事者らが主張するように当然に公開されるべきことにはならない。前示のとおり、実施機関において、請求の対象外の情報は公開をすべき義務を当然に負うものではないから、この場合には、公文書の部分公開の可否によって解決すべき問題である。したがって、合算情報は当然に公開されるべきであるとの原告選定当事者らの右主張は採用できない。
 そうすると、本件において、右目録一2(九)の公文書の本件渡船場越立業務に関する支出とそれ以外の支出とが合算された情報、同目録三2(六)の公文書の海津町への出張に関する旅費とそれ以外の旅費とが合算された情報は、いずれも、それ自体、一つの数字として現れていると推認されるものであり、請求に係る部分とそれ以外の部分とを容易に分離することができないことは明らかであるから、当該分離により請求の趣旨が揖なわれることがないかどうかを検討するまでもなく、これを公開すべき義務はないというべきである。
 したがって、被告が右情報の公開をしないとしたことに違法はない。



2. 第二審
  (1) 2000年10月10日 県が控訴   平成12年(行コ)第53号
     2001年2月27日 原告も附帯控訴 平成13年(行コ)第9号
     名古屋高裁判決 2001年6月28日
 この判決は、請求外情報及び合算情報の両者について、非公開を追認した。

 (2) 以下に関連部分を抜粋する(甲第4号証)。


第3 当裁判所の判断
5 争点4(請求対象外情報及び合算情報の取扱い)について
(1) 原判決別紙文書目録一2(九)、同目録二2(五)、同目録三2(六)中の各請求対象外情報を控訴人が公文書の公開をしないことにした処分が違法と認められないことに関する当裁判所の認定及び判断は次に付加するほか、原判決「事実及び理由」の「第三 当裁判所の判断」の「五 争点4(請求対象外情報及び合算情報の取扱い)」の1(原判決50頁末行以下同52頁4行目)記載のとおりであるから、これを引用する。
 被控訴人選定当事者らは、前記(原判示)の解釈は、原則公開を旨とする本件条例の趣旨を没却すると主張するが、被控訴人選定当事者らが改めて公開請求することを妨げないのであるから、本件条例が、請求者が請求対象として明記しなかった情報を記録した公文書の部分についてまで、控訴人に公開義務を負わせるものと解することは到底できない。

(2) 弁論の全趣旨によれば、選定者らが請求対象とした公文書の件名又は内容は、「大垣土木事務所の、県営渡船越立業務に関する・・・旅行命令(依頼)書及び支出金調書・復命書(平成10年度)」(本件処分一)、「大垣土木事務所の、管理課及び道路維持課に関する・・・海津町への出張に関する支出金調書(平成9年度分)」(本件処分三)といったものであって、記録された情報の内容をもって、公開対象となる公文書とそうでない公文書とを区分する基準として用いたものとみられるところ、控訴人は、原判決別紙文書目録一2(九)及び同目録三2(六)に記録された情報につき、公開を求める情報以外の情報が合算されていることから、特定した公文書のうち、このような合算情報記録部分が請求対象からはずれるとみて、非公開としたものと認められる。
 ところで、上記の選定者らが請求対象とした公文書の件名又は内容からみて、県営渡船場越立業務に関する情報が記録された公文書が公開対象として請求されたことは一義的に明らかであるが、県営渡船場越立業務に関する情報とそうでない情報とが合算されて不可分の情報となって記録された公文書についても公開対象として請求されていたか否かは必ずしも明確とは言い難く、このような公開請求を受けた被控訴人が、本件条例上、公文書の合算情報記録部分についても公開義務を負ったものと直ちに解することはできない。
 そうすれば、選定者らにおいて、上記合算情報が記録された公文書を明確に特定し、改めて公文書公開請求をするのはともかくとして、本件各処分中、上記合算情報記録部分を公開しないとする部分を、本件条例に照らし違法であったと断ずべき理由はない。


3. 最高裁
 (1) 平成13年(行ヒ)第263号 県営渡船情報非公開処分取消請求上告事件
    平成17年6月14日 第三小法廷判決
 この判決は、請求外情報および合算情報について、非公開処分を取り消した。

(2) 以下に関連部分を抜粋する(甲第5号証)。(参考:甲第6ないし10号証)

 2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
 (2) ・・・文書目録二の2の(五)記載の非公開部分(以下「本件非公開部分2」という。)は公開を請求された県営渡船越立業務に関するもの以外の情報が記録されている部分であり,公開すると,そのすべてが同業務に関するものであると混同されるおそれがあるとの理由で,本件非公開部分2を公開しないこととした。
 (3) ・・・,文書目録三の2の(六)記載の非公開部分(以下「本件非公開部分3」という。)は公開を請求された海津町への出張に関するもの以外の情報又は同出張に関するものとそれ以外のものの数額が合算された情報が記録されている部分であり,公開すると,そのすべてが同出張に関するものであると混同されるおそれがあるとの理由で,本件非公開部分3を公開しないこととした。
 (4) 本件条例2条2項は,「この条例において『公文書』とは,実施機関の職員が職務上作成し,又は取得した文書,図画及び写真であって,実施機関が管理しているものをいう。」と規定し,同条3項は,「この条例において『公文書の公開』とは,実施機関が,この条例の定めるところにより,公文書を閲覧に供し,又は公文書の写しを交付することをいう。」と規定している。そして,本件条例5条は,「次に掲げるものは,実施機関に対して,公文書の公開を請求することができる。一 県内に住所を有する者 二 県内に事務所又は事業所を有する個人及び法人その他の団体」と規定している。
 3 原審は,上記事実関係等の下において,次のとおり判断した。
 本件条例の下において,実施機関は,公開を請求された対象以外の情報又は公開を請求された対象とそれ以外のものの数額が合算された情報が記録された部分について公開義務を負うものではないから,被上告人が,本件処分1ないし3(以下,併せて「本件各処分」という。)において,本件非公開部分1ないし3(以下,併せて「本件各非公開部分」という。)を公開しないこととしたことに違法はない。
 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 本件条例2条2項,3項及び5条の規定によれば,本件条例が,本件条例に基づく公開の請求の対象を「情報」ではなく「公文書」としていることは明らかである。したがって,本件条例に基づき公文書の公開を請求する者が,例えば,「大垣土木事務所の県営渡船越立業務に関する情報が記録されている公文書」というように,記録されている情報の面から公開を請求する公文書を特定した場合であっても,当該公文書のうちその情報が記録されている部分のみが公開の請求の対象となるものではなく,当該公文書全体がその対象となるものというべきである。本件条例の下において,実施機関が,公開の請求に係る公文書に請求の対象外となる情報等が記録されている部分があるとし,公開すると,そのすべてが公開の請求に係る事項に関するものであると混同されるおそれがあるとの理由で,上記部分を公開しないことは許されないというべきである。
 前記事実関係等によれば,本件各非公開部分が記録されている文書は,いずれも本件選定者らが本件条例に基づいて行った公開の請求の対象となる公文書に当たるのであるから,被上告人が,上記文書に請求の対象外となる情報等が記録されている部分があるとし,公開すると,そのすべてが公開の請求に係る事項に関するものであると混同されるおそれがあるとの理由で,上記部分を公開しないことは許されないというべきである。本件各処分のうち本件各非公開部分を公開しないこととした部分は,違法と断ずるほかはない。



第3 氏名等非公開処分取消請求事件 
1. 第一審
  (1) 平成11年(行ウ)第13号 氏名等非公開処分取消請求事件
     提訴1999年7月12日 結審2000年4月13日
     原告  寺町知正 ほか   被告岐阜県知事、岐阜県教育委員会
     平成12年7月19日判決 
      ◇請求外情報=文書中の公開請求された情報に関するもの以外の情報
◇合算情報=文書中の公開請求された旅費に関する情報とそれ以外の旅費に関する情報が合算されて記録されている情報
 この判決は、請求外情報および合算情報について非公開を追認した。
 
 (2) 以下に関連部分を抜粋する(甲第11号証)。


三 争点に関する当事者の主張
3 争点3(合算情報の取扱い)について
 (被告ら)
 原告選定者らが公開を請求したのは、県議会文教・警察委員会の県内・県外視察に同行した県職員に関する旅費及び需用費の執行に関する情報であり、それ以外の情報は、そもそも条例上公開の義務のないものである。
 また、公開請求の対象に係る旅費とそれ以外の旅費とが合算されている情報は分離することが不可能であり、本件条例八条の趣旨に照らしても、これを公開しないことができるものというべきである。

 (原告選定当事者ら)
 公開請求の対象に係る旅費とそれ以外の旅費とが合算されている情報は、請求の対象そのものであるから、当然に公開されるべきである。
 公開請求の対象外の旅費と混同されるおそれがある場合には公開をしないことができるとの規定はないから、合算情報も公開することが条例の趣旨である。本件条例六条所定の非公開事由以外の理由により、公文書の公開をしないことができることは到底許されない。
 また、これらの情報をすべて公開しても、公開請求の対象外の旅費が付随的に列記されているというにすぎず、本件条例八条にいう「請求の趣旨がそこなわれる」こともあり得ないというべきである。

第三 当裁判所の判断
四 争点3(合算情報の取扱い)について
 1 被告教育委員会が、旅費が合算して関係書類が作成されているため、これらを併せて公開すると、すべて公開請求の旅費であると混同されるとして非公開とした部分は、前記「争いのない事実等」欄記載のとおり、文教・警察委員会旅費文書のうち、支出負担行為兼支出金調書及び支出内訳書、旅費(合算)請求書中の公開請求された同行職員の旅費以外の情報、及び、同行職員の旅費とそれ以外の旅費とが合算された情報である。

 2 そこで、まず、請求に係る同行職員の旅費以外の情報につき、被告教育委員会が公文書の公開をしないとしたことは許されるか否かについて検討する。
 本件条例は、公文書の公開を請求しようとするものは、実施機関に対し、請求しようとする公文書を特定するために必要な事項等を記載した請求書を提出しなければならないとし(九条二号)、実施機関は、右請求書を受理したときは、当該藷求書を受理した日から起算して一五日以内に、請求に係る公文書の公開をするかどうかの決定をしなければならないと規定している(一〇条一項)。
 このように、公文書の公開の請求方法において、請求書には請求しようとする公文書を特定するために必要な事項の記載が要求されるとともに、公文書の公開の請求に対する決定において、公開をするかどうかの決定をしなければならない対象は右請求に係る公文書とされていることにかんがみると、実施機関は、請求に係る公文書の件名又は内容を特定した上、右公文書の公開をするかどうかの決定をすべき義務を負うものであるが、それ以上に、請求に係る公文書以外の情報が記録されている公文書についてまで、公開をするかどうかの決定をすべき義務がないことは明らかである。
 そうすると、本件において、文教・警察委員会旅費文書のうち、支出負担行為兼支出金調書等の書類中の請求に係る同行職員の旅費以外の情報は、請求に係る公文書以外の情報が記録されている公文書であり、実施機関において、このような公文書についてまで、公開をするかどうかの決定をすべき義務はないから、被告教育委員会が右情報の公開をしないとしたことに違法はない。
 もっとも、右解釈を前提とすると、同一の公文書の公開を請求した場合であっても、請求しようとする公文書を特定するために必要な事項の記載の仕方によって、公文書の公開がなされる部分が異なることも十分考えられるところである。しかしながら、右のような結果は、前記のとおり、公文書の公開の請求に対する決定が、すべての公文書の公開を決定しようとする者によって特定された公文書を基準にしてなされる以上、やむを得ないものというべきであるし、また、右のような結果が発生するのを回避するためにも、実施機関において、請求に係る公文書以外の情報が記録されている公文書についてまで、公開するかどうかの決定をすべき義務を負わせることは、かえって情報公開制度の適正かつ円滑な運用を阻害することとなり、相当でないというべきである。

 3 次に、同行職員の旅費とそれ以外の旅費とが合算された情報につき、被告教育委員会が公文書の公開をしないとしたことは許されるか否かについて検討する。
 本件条例は、実施機関は、公文書に第六条及び前条第一項ただし書の規定により公開しないことができる情報とそれ以外の情報が併せて記録されている場合において、公開しないことができる情報に係る部分とそれ以外の部分とを容易に分離することができ、かつ、当該分離により請求の趣旨が損なわれることがないと規定する(八条)。
 右規定の趣旨は、請求に係る公文書は、その一部に公開しないことができる情報が含まれていることを理由として、当然に全体を公開しないことができるとすべきではなく、これらの情報を容易に分離することができるときは、請求の趣旨が損なわれない限り、公開可能な部分は公開すべきである、しかし、これらの情報を容易に分離できなかったり又は、分離により請求の趣旨が損なわれたりするときには、公文書の部分公開をすることができなくてもやむを得ない、という点にある。
 そして、右規定は、公文書に六条各号のいずれかに該当する情報が記録されているなどのため、公開しないことができる情報とそれ以外の情報が併せて記録されている場合に関するものであるが、その趣旨は、公開請求の対象となる情報とそれ以外の情報が併せて記録されている場合においても、同じく妥当するものと解すべきである。
 そうすると、本件において、文教・警察委員会旅費文書のうち、支出負担行為兼支出金調書等の書類中の同行職員の旅費とそれ以外の旅費とが合算された情報は、それ自体、一つの数字として現れていると推認されるものであり、請求に係る部分とそれ以外の部分とを容易に分離することができないことは明らかであるから、当該分離により請求の趣旨が損なわれることがないかどうかを検討するまでもなく、これを公開すべき義務はないというべきであり、被告教育委員会が右情報の公開をしないとしたことに違法はない。
 この点、原告選定当事者らは、公開請求の対象に係る旅費とそれ以外の旅費とが合算されている情報は、請求の対象そのものであるから、当然に公開されるべきであると主張する。確かに、右情報は、請求の対象に係る情報を含んではいるものの、右情報とそれ以外の情報とが不可分一体となっているからこそ、これが公開されるべきであるか否かがまさに問題となるのであって、原告選定当事者らが主張するように当然に公開されるべきことにはならない。前示のとおり、実施機関において、請求の対象外の情報は公開をすべき義務を当然に負うものではないから、この場合には、公文書の部分公開の可否によって解決すべき問題である。したがって、合算情報は当然に公開されるべきであるとの原告選定当事者らの右主張は採用できない。



2. 第二審
(1) 平成12年(行コ)第39号、平成13年(行コ)第3号氏名等非公開処分取消請求控訴事件、同附帯控訴事件
    平成13年5月17日判決 
 この判決は、請求外情報の非公開を追認し、合算情報については非公開処分を取り消した。
 
 (2) 以下に関連部分を抜粋する(甲第12号証)。


第4 当裁判所の判断
5 争点3(合算情報の取扱い)について
(1)控訴人教育長が、旅費は合算して関係書類が作成されているため、これらを併せて公開すると、すべて公開請求の旅費であると混同されるとして非公開とした部分は、前記「争いのない事実」欄(原判決)記載のとおり、文教・警察委員会旅費文書のうち、支出負担行為兼支出金調書及び支出内訳書、旅費(合算)請求書中の公開請求された同行職員の旅費以外の情報、及び、同行職員の旅費とそれ以外の旅費とが合算された情報である。

(2)まず、請求に係る同行職員の旅費以外の情報につき、控訴人教育長が公文書の公開をしないとしたことは許されるか否かについては、当裁判所もこれを肯定すべきものと判断するが、その理由は原判決54頁10行目冒頭から同57頁7行目末尾までのとおりであるから、これを引用する。

(3)次に、同行職員の旅費とそれ以外の旅費とが合算された情報につき、控訴人教育長が公文書の公開をしないとしたことは許されるか否かについて検討する。

  @ 本件条例8条の規定の趣旨は、請求に係る公文書の一部に6条所定の公開除外事由がある場合に、これを理由として、当然に全体を公開しないことができるとすべきではなく、これらの情報を容易に分離することができるとは、請求の趣旨が損なわれない限り、公開可能な部分は公開すべきであるが、他方、これらの情報を容易に分離することができなかったり、又は、分離により請求の趣旨が損なわれたりするときには、公文書の部分公開をすることができなくてもやむを得ないという点にある。すなわち、公文書に6条各号のいずれかに該当する公開除外事由情報が記録されているなどのため、公開しないことができる情報とそれ以外の情報が併せて記録されている場合に関するものである。

  A しかしながら、本件で公開請求された同行職員の旅費情報に本件条例6条所定の公開除外事由が存しないことは控訴人教育長において争わないところである(記録上明らかである。)。そうすると、本件公開請求の対象とされている情報と対象外と思われる情報とが混在し、容易に分離できないとすれば、対象外と思われる情報に非公開事由が認められない限り、全体の情報を公開すべきであり、対象外と思われる情報と一体化していることを理由として、本件公開請求の対象とされている情報を公開しないことが許されるものではないというべきである。よって、同行職員の旅費とそれ以外の旅費とが合算された情報に非公開事由を認めることはできない。

6 以上によると、本件処分一、二のうち、原判決別紙文書目録二記載の2の旅費に関する公文書の(三)の非公開部分中の「同行職員の旅費以外の情報」を非公開とした処分に違法はないが、その余についてはいずれも非公開事由が認められないから、違法として取り消されるべきである。


3. 最高裁
 (1)  第一審被告の平成13年10月11日付け上告受理理由書の関連部分を以下に抜粋する(甲第13号証)。本件被告三重県と同じような主張である。

   
    上告提起事件番号平成13年行ノ第12号
    上告人岐阜県知事梶原拓 外1名
    被上告人 選定当事者 寺町知正ほか

第2
4 原判決は、合算情報について、上告人等の主張を勝手に矮小化し、判断を回避している。しかし、上告人は一貫してそもそも、被上告人の公開請求されていないものが、合算情報に加わっており、これは容易に分離できないものであるから、当然に、または8条の法理から公開しないことができる、と主張しており、第1審もこれに対し適切な判示をしている(第1審判決59ページ第2行から第6行まで)。
 しかも請求されていない情報に6条所定の事情があるか否かなど、情報公開運用上も、請求に入っていないという点では訴訟でも応答する必要も意味もないものである。にもかかわらず、6条除外事由該当性につき答弁していないことをもって直ちに公開を認めるのは不合理であるといわざるを得ない。



 (2) これに対して最高裁は、上告人岐阜県教育委員会教育長分について「平成15年10月24日 平成13年(行ヒ)第323号」の決定をした(甲第14号証の1)。


      「本件を上告審として受理する。
       申立ての理由中,第2の3,4を排除する。」



 なお、第2の3は法人・事業者情報に関しての主張であり、第2の4が「合算情報」についての主張である。

 (3)  最高裁は、上告人岐阜県知事分については「平成16年1月16日 平成13年(行ヒ)第323号」においてすべて不受理の決定をした(甲第14号証の2)。
 なお、最終判決の内容はごくごく一部の民間人情報の非公開を是認し、他の大部分の公開を命じたものである(甲第15号証)。

 (4) 最高裁が、合算情報に関する第一審被告の上記申立理由(第2の4)を排除したことで、合算情報に関する非公開処分の違法が確定した。
 なお、この訴訟(事件)に関して、第二審で判決が「請求外情報」の非公開処分を追認したことに関して、第一審原告は上告しなかった。よって、「請求外情報」は最高裁では争点にならず、結果として、第二審の「請求外情報の非公開処分追認」が、この時点として確定した状態であった。
 原告がこの事件で上告しなかった理由は、同文書(情報)に係る旅費や食料費などに関して、違法支出であるとして同時進行で住民訴訟を進めていたところ、当該の公費支出の実態についての早期の情報取得を期待したが故に、本論以外の争点は別件訴訟で整理しようと考えたからである。

 その別件訴訟とは前記第2の事件であり、平成17年6月14日 第三小法廷判決 平成13年(行ヒ)第263号 県営渡船情報非公開処分取消請求事件において、初めて、請求外情報および合算情報について、論理を示して、最高裁が非公開処分を取り消したものである。
 仮に、同最高裁判決が合算情報について論理を示していないと認識するとしても、先に示したとおり、平成12年(行コ)第39号、平成13年(行コ)第3号の名古屋高裁判示で、違法であることが明確に論理だてられている。そして、第一審判示を覆して合算情報に関して「違法として取り消されるべき」との判示の第二審判決を最高裁は是認したのである。
                               
第4 非公開処分と権利回復の時期の所在
平成9(行ツ)136 交際費等非公開決定処分取消請求事件
平成14年2月28日 最高裁判所第一小法廷
 被告が反論した最高裁判決をさらに詳しく下記に引用しておく。


 第2  本件条例は,県民の公文書の公開を請求する権利を明らかにするとともに,公文書の公開に関し必要な事項を定めている(1条)。本件条例における公文書の公開とは,実施機関が本件条例の定めるところにより公文書を閲覧に供し,又は公文書の写しを交付することをいい(2条3項),実施機関は,本件条例に基づき公文書の公開を求める請求書を受理したときは,請求に係る公文書の公開をするかどうかの決定をしなければならないものとされている(8条1項)。そして,県内に住所を有する者や県内に事務所又は事業所を有する個人及び法人その他の団体等,5条各号のいずれかに該当する者は,実施機関に対して公文書の公開を請求することができるのであり(5条),本件条例には,請求者が請求に係る公文書の内容を知り,又はその写しを取得している場合に当該公文書の公開を制限する趣旨の規定は存在しない。これらの規定に照らすと,【要旨】本件条例5条所定の公開請求権者は,本件条例に基づき公文書の公開を請求して,所定の手続により請求に係る公文書を閲覧し,又は写しの交付を受けることを求める法律上の利益を有するというべきであるから,請求に係る公文書の非公開決定の取消訴訟において当該公文書が書証として提出されたとしても,当該公文書の非公開決定の取消しを求める訴えの利益は消滅するものではないと解するのが相当である。したがって,本件処分1のうち原審係属中に書証として提出された番号325,327,577,707,723及び746の情報が記録されている本件現金出納簿中の部分を非公開とした部分並びに本件処分2のうち原審係属中に書証として提出された交際の相手方以外の者が発行した本件領収書を非公開とした部分を取り消すべきものとした原審の判断は,正当として是認することができ,原判決に所論の違法はない。論旨は,採用することができない。


                                以 上
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