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福井県男女共同参画審議会音声記録非公開処分取消請求事件

 訴訟物の価格 金1、600、000円
 貼用印紙額     金13、000円
予納郵券       金5、780円

福井地方裁判所民事部御中

         訴   状


2007年2月17日
 
 原 告  上野千鶴子 外12名(別紙目録のとおり)
 被 告  福井県 
      同代表者知事 西川一誠    住所 福井市大手3-17-1
                     Tel  0776-21-1111
                        
                        原告(選定当事者) 寺 町 知 正
                     (送付先) 岐阜県山県市西深瀬208−1
                         Tel/fax 0581-22-4989
       
          請 求 の 趣 旨
1.被告が、原告らに対して、2006年11月20日付で行った公文書非公開決定「男女県第313号」(別紙−1)を取り消す。
2.訴訟費用は、被告の負担とする。
  との判決を求める。
          請 求 の 原 因
第1 当事者
1.原告らは肩書地に居住する住民であり、本件各文書の公開請求を行った。

2.福井県知事は、福井県情報公開条例(平成12年3月21日 福井県条例第4号 甲第1号証)(以下、「本件条例」という)第2条1項の実施機関であり、民事訴訟法により被告は福井県(代表者知事西川一誠)(以下、単に「被告」という)である。

第2 請求の趣旨に係る公開請求と非公開処分
1.  請求と処分
 原告らが2006年11月6日付けで行った「2006年11月2日開催の福井県男女共同参画審議会の会議の記録(電磁的データ・テープなど)」の公開請求に対して、被告は同年11月20日付で全部非公開(「公文書不存在」)との処分をした(別紙−1)(以下、「本件処分」という)である。
2. 異議申し立て
 原告らは、2006年11月21日付けで被告に異議申し立てをした。本件は条例違反が明白な非公開処分であるから、速やかに見直されるものと考えていた。しかし、被告は、2007年1月18日付けで福井県公文書公開審査会に諮問した。
 同審査会は、他の案件の処理状況をみても、結論に至るには、きわめて長期間を要している。古い順に審査するから、本件も同様に長期化することは間違ない。
 ところで、行政事件訴訟法では、「(処分の取消しの訴えと審査請求との関係)第8条 1項 処分の取消しの訴えは、当該処分につき法令の規定により審査請求をすることができる場合においても、直ちに提起することを妨げない。 3項 第1項本文の場合において、当該処分につき審査請求がされているときは、裁判所は、その審査請求に対する裁決があるまで(審査請求があつた日から3箇月を経過しても裁決がないときは、その期間を経過するまで)、訴訟手続を中止することができる。」と規定している。
 原告は速やかな解決を期待するものであるところ、前記「3箇月を経過しても裁決がないとき」という趣旨を尊重して、11月21日の異議申立から約3ヶ月後の本日、提訴するものである。

第3 本件提訴の経過と音声記録の公開の必要性
1. 経過
(1) 2006年3月下旬、ジェンダー関連図書153冊が「福井県生活学習館」の書架から撤去された。
5月 2日、本件原告らは「事件に関するすべての文書」を被告に情報公開請求した。5月16日、153冊は書架に戻された。
6月12日、被告は、前記情報公開請求に対して、書籍リストは「非公開」、関連公文書は「不存在」「一部公開」の処分をした。が、直後に抗議を受けて処分変更し、書籍リストの「非公開」が「一部公開」に、「不存在」文書は処分変更なしで10枚が「一部公開」になった。
6月26日、原告らが「書籍リスト」のみを情報公開請求したところ、7月7日付けで被告は「一部公開」処分とした。
   7月27日、原告らは、書籍リストの「情報非公開処分取消訴訟」提起を公表した。
8月11日、突然、被告は、「一部公開」処分を変更し、書籍リストを「全面公開」処分とした。
8月29日、原告や福井県民らは、「福井県男女共同参画推進条例」第20条第2項に基づく「苦情申出」書を提出した。
  11月 2日、「苦情申出」を議題とする県男女共同参画審議会が公開で開催された。
  11月 6日、原告らは、審議会の会議の記録(電磁的データ)を情報公開請求した。
  11月 9日、被告から原告らの「苦情申出」に対する回答書が発出された。
  11月20日、被告は、音声記録の「公文書非公開(不存在)決定」をした。
  11月21日、「音声記録」非公開に対する「異議申し立て」。
07年1月18日、被告は、異議申し立てを福井県公文書公開審査会に諮問した。

 (2) 前記の経過などからしても、被告には、情報公開にかかる非公開決定は「国民の権利を侵害する行政処分である」との認識が極めて乏しい。

2. 公文書公開の必要性
 (1) 自治体の諸会議は原則公開とする、という傾向が時代の流れである。
 さらに、自治体の議会、審議会等の会議の全体をIT技術を利用した視聴覚情報の公開(同時中継および記録の公開)するという流れも加速している。その理由は、行政が速やかな情報公開を進めることで説明責任を果たすこと、もって住民参加を進めることを重要視するからである。
 会議の音声記録に関して、地方自治体における現状は、分化している。即ち、公開を基本とする自治体は会議の音声記録を公開し、非公開体質の自治体は非公開とする運用がなされている。

 (2) 各種審議会の存在や、たとえば指定管理者の選定委員会の議事録など、その審議過程の透明性が求められる時代に入った。都合のよい審議結果の公表でお墨付きを与えないためにも、審議記録を保存し、かつ、公開されなければならない。 
 各種会議の議事録が作成された場合に、行政機関がその正当性を立証し、住民が真偽あるいは間違いの有無を確認するためにも、録音の記録はきわめて重要である。本件において、音声記録が公開される意義はきわめて高い。福井県行政が公正、公平に事務事業を執行していることが公知されるためには、これら公文書が公開されることが必要で、公開によって県政への理解と信頼が高まることは明らかである。本件情報が公開されることは、本件条例の解釈、運用として正当なものである。
 
 (3) 今回公表された「議事録」は、その記述文言自体からも、傍聴者の記録からも、事実とは相違がある。議事録が行政や特定の人物、機関などに都合のいいように、恣意的に作成されていないかを検証する必要がある。
 公開でなされた会議の音声記録を非公開とすべき特段の事情も存在しない。
 一般的に、行政の意思形成における住民参加が進められているなか、真実に忠実な再現性の高い会議記録の公開は不可欠である。

3. まとめ
 国においても審議会などの会議は原則公開であることは閣議決定されている(平成7年9月29日・閣議決定 甲第3号証)。
 情報公開条例の制定時に、「会議の原則公開」を明記する自治体もある。
 本件条例は、福井県政の実情などに対する住民の理解を深め、福井県政に対する住民の信頼を高めるために制定されたもので、実施機関が管理する情報について公開を原則とし、非公開は例外である。
 そして、本件条例の各条項の解釈を、専ら行政機関の側の利便等を基準・根拠に、その主観的判断に基づいて決するとすれば、その範囲が不当に拡大する危険性があり、情報公開制度の実質的意味が失われることにもなりかねないから、各条文構造をよく理解し、正確に適合性を判断し、条例該当性の解釈は厳格でなければならない。
本件公文書の公開は、社会的意義も高く、情報公開条例の制定趣旨に合致するものである。よって、被告は、誤った情報公開制度の運用を是正する必要がある。
 
第4 福井県男女共同参画審議会(以下、「審議会」という)と県職員の位置づけ
1. 審議会は、苦情申し立てにおいて知事から意見を求められる機関である
 (1) 福井県男女共同参画審議会は、福井県男女共同参画推進条例(平成14年11月1日 福井県条例第59号 甲第4号証)において、位置づけられている。

「(相談および苦情の処理) 第21条  知事は、性別による差別的取扱いその他の男女共同参画の推進を阻害する行為について、県民等から相談があったときは、関係機関と連携して適切な処理に努めるものとする。
 2 知事は、県が実施する男女共同参画の推進に関する施策または男女共同参画の推進に影響を及ぼすと認められる施策について、県民等から苦情、意見その他の申出があったときは、当該申出に対し適切な処理をするよう努めるものとする。
 3 知事は、前項に規定する申出の処理に当たり特に必要があると認めるときは、福井県男女共同参画審議会の意見を聴くものとする。
 
 第3章 福井県男女共同参画審議会
 (福井県男女共同参画審議会)第24条  男女共同参画の推進に関する重要事項について調査審議等を行うため、福井県男女共同参画審議会(以下「審議会」という。)を置く。

(所掌事務)第25条  審議会は、次に掲げる事務を所掌する。
  一 この条例の規定により審議会の権限に属させられた事項の処理に関すること。
  二 男女共同参画の推進に関する重要事項についての調査審議および建議に関すること。

(組織)第26条  審議会は、委員十人以内で組織する。
2 男女いずれか一方の委員の数は、委員の総数の十分の四未満であってはならない。
3 委員は、学識経験を有する者のうちから、知事が委嘱する。
4 委員の任期は、二年とし、再任されることを妨げない。ただし、当該委員が欠けた場合にお            ける補欠の委員の任期は、前任者の残任期間とする。
 
(会長および副会長) 第27条  審議会に会長および副会長を置き、委員の互選によりこれを定める。
 2 会長は、会務を総理し、審議会を代表する。
 3 副会長は、会長を補佐し、会長に事故があるとき、または会長が欠けたときは、その職務を  代理する。

(会議) 第28条  審議会の会議は、会長が招集する。
2 審議会の会議は、委員の過半数が出席しなければ開くことができない。
3 会長は、審議会の議長となり、議事を整理する。
4 審議会の議事は、出席した委員の過半数で決し、可否同数のときは、会長の決するところによる。

(その他) 第29条  この章に定めるもののほか、審議会の運営に関し必要な事項は、会長が審議会に諮って定める。 」
  
 (2) 同審議会の活動や(甲第5号証)、同委員の氏名や所属団体名等(甲第6号証)はHPで公開されている。
 
(3) 同委員は、福井県の非常勤職員として報酬及び費用弁償を受ける。
 福井県特別職の職員の給与および旅費に関する条例(昭和29年3月25日 福井県条例第3号 甲第7号証)において、第2条議会の議員、第3条知事等、第4条教育委員等に続いて、「(附属機関の委員等の報酬および費用弁償) 第5条 法律もしくはこれに基づく政令または条例で定める執行機関の附属機関(以下「委員会等」という。)の委員その他非常勤の構成員等(以下「委員等」という。)の報酬は、法律もしくはこれに基く政令または条例に別段の定めのある場合を除くほか、別表第四に掲げるとおりとする。
 1 委員会等の委員等には、その職務を行うために要する費用を弁償する。」
とされているとおり、条例規定の報酬及び費用弁償を受ける「福井県の非常勤の特別職の職員」である。

2. 福井県男女参画・県民活動課の所掌事務
 (1) 当該文書を扱っている担当課は、福井県男女参画・県民活動課(以下、「本件担当課」という)である。同課は、同県の事務分掌上、福井県男女共同参画審議会の運営事務を担当している。2006年11月2日開催の福井県男女共同参画審議会の開催にも携わった。
 
 (2) 同課のもっとも主要な事業は以下である(同課のHPより 甲第8号証)
「福井県男女共同参画審議会
 県では、福井県男女共同参画推進条例第24条の規定に基づき、男女共同参画の推進に関する重要事項について調査審議等を行うため、福井県男女共同参画審議会を設置しています。
 委員の数は10名以内となっており、そのうち2名を一般県民の方から公募しています。

◎審議会の役割
 ◆福井県男女共同参画基本計画の策定に対し、意見します。(条例第8条第3項)
 ◆県施策への苦情の申出を処理するに当たり、必要があれば意見します。(条例第21条第3項)
 ◆男女共同参画の推進に関する重要事項についての調査審議および建議をします。(条例第25条)」

第5 本件条例の定める制度(関連部分) (甲第1号証)
1. 本件条例の前文=知る権利の位置づけ
 本件条例は、冒頭において次のとおり明らかにしている。
「地方自治の本旨に基づいた県政を推進するためには、県が、県政を負託している県民に対して、その諸活動の状況を説明する責務を全うすることが必要であり、このことは、同時に、県民の『知る権利』の実現に寄与することでもある。
 情報公開制度は、県がこのような『説明責務』を全うするための重要な制度であり、地方分権が進展し、今後ますます地方自治体と住民の自立と自己責任が求められていく中で、県民の理解と信頼を基本とする、公正で透明性の高い県政を実現する上においても、不可欠のものである。このような考え方に立って、この条例を制定する。」としている。
 
2. 本件条例の趣旨、目的(第1条)
 本件条例第1条は、この条例の目的を明らかにし、福井県における情報公開制度の基本的な考え方を定めたものであり、第1条は、「この条例は、公文書の公開を請求する権利の内容を明らかにするとともに、公文書の公開の手続その他必要な事項を定めることにより、県民の県政参加の一層の推進および県政の公正な運営の確保を図り、もって地方自治の本旨に基づいた県政の推進に資することを目的とする。」と規定している。
 福井県の情報公開制度は、この住民固有の権利を具体化し、住民の県政への参加を促し、開かれた県政を実現することを目的とするものである。
 そして、公開されるべき情報は公開請求後速やかに公開されなければならない。なぜなら、情報公開制度を使う住民は何年後かに過去を振り返って政治を論じたいと考えているのではなく、いま行なわれている政治に主権者たる住民として責任ある適切な意見を表明したいと考えているからである。
 そして本件条例は情報公開請求権を位置づけているのであるから、実施機関と住民とが噛み合った議論をするために実施機関が保有する情報が住民に速やかに提供されることを予定している、といえる。情報を持たない住民の意見はその主観はともかく客観的には行政実務の現実を無視した一方的なものになりかねないが、行政と情報を共有する住民は「知らなかった」という弁解ができなくなるので合理性のない意見を言わなくなるか、言いたくても言いにくくなる。そのような状況は行政にとっても誠実に自治体のことを考える住民にとっても好ましい前向きかつ効率的な関係である。
 よって、非公開処分が誤っているとして処分の取消を求める裁判は、本件条例第1条の目的を大前提として進められる必要がある。

3. 解釈の原則=実施機関の責務(第3条)
 第3条(実施機関の責務)は、以下である。
「実施機関は、この条例に基づく公文書の公開を請求する権利がじゅうぶん保障されるように、この条例を解釈し、および運用しなければならない。」
 非公開処分の判断においては、この原点が重視されねばならない。

4. 公開請求権 (第5条)
 本件条例第5条は、(公文書の公開を請求できるもの)として「何人も、この条例の定めるところにより、実施機関に対し、公文書の公開を請求することができる。」としている。

5. 公文書の公開義務 (第7条)
 本件条例第7条の規定の要点は、本文柱書が「実施機関は、公開請求があったときは、公開請求に係る公文書に次の各号に掲げる情報(以下「非公開情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き、公開請求者に対し、当該公文書を公開しなければならない。」とし、1号で個人情報、2号で事業者情報(以下、略)を規定している(後述)。

6. 部分公開・公文書の一部公開(第8条)
 本件条例第8条1項は、「実施機関は、公開請求に係る公文書の一部に非公開情報が記録されている場合において、非公開情報が記録されている部分を容易に区分して除くことができるときは、公開請求者に対し、当該部分を除いた部分につき公開しなければならない。ただし、当該部分を除いた部分に有意の情報が記録されていないと認められるときは、この限りでない。」とし、できる限りの広範な公開の努力を求め、かつ、規定している。

7. 公益上の理由による裁量的公開(第9条)
 本件条例第9条は、「実施機関は、公開請求に係る公文書に非公開情報(第7条第8号に該当するものを除く。)が記録されている場合であっても、公益上特に必要があると認めるときは、公開請求者に対し、当該公文書を公開することができる。」
としている。

8. 電磁的記録の定義や扱い(第15条)
 (1)  本件条例(公文書の公開の実施)
 本件第15条第3項は、「公文書の公開は、文書または図画については閲覧または写しの交付により、電磁的記録については実施機関が別に定める方法により行うものとする。」としている。
 
 (2) 本件条例施行規則における定め(甲第2号証)
 (電磁的記録の公開の方法)
第7条第「条例第15条第3項の実施機関が別に定める方法は、次の各号に掲げる電磁的記録の区分に応じ、当該各号に定める方法とする。
 一 知事が保有する機器およびプログラムを用いて用紙に出力することができる電磁的記録
 当該電磁的記録を用紙に出力した物またはそれを複写した物の閲覧または交付
 二 知事が保有する機器およびプログラムを用いて再生することができる電磁的記録
 当該電磁的記録または当該電磁的記録を複写した物を再生したものの閲覧、聴取または視聴
 2 前項の実施機関が別に定める方法は、当該電磁的記録を録音カセットテープ、ビデオカセットテープ、フロッピーディスクその他の電磁的記録媒体に複写した物の交付が容易であるときは、同項の規定にかかわらず、当該複写した物の交付とすることができる。」としている。

9. 公文書の管理(第31条)
 本件条例第31条は、「実施機関は、この条例の適正かつ円滑な運用に資するため、公文書を適正に管理するものとする。
 2 実施機関は、公文書の分類、作成、保存および廃棄に関する基準その他の文書の管理に関する必要な事項についての定めを設けるとともに、これを閲覧に供しなければならない。」としている。

第6 本件音声記録の位置づけ
1. 本件音声記録の存在
 2006年11月2日当日の会議の全発言は、県の職員によって電磁的記録媒体に保存され、本件情報公開請求時点においても、本件担当課に実存した。11月20日の非公開処分決定時においても、翌日21日の異議申立時においても、音声記録は存在した(と、県に確認した)。
 異議申立や本件訴訟中に廃棄・消去するなど情報公開請求者の権利侵害は許されない。

2. 管理
 (1) 担当課によれば、録音の議事録化が完了したら当該音声記録は廃棄する、という。
 しかし、公的な会議、しかも本件のような重要な会議の音声記録を削除・消去・廃棄することは、後述するとおり、そもそも、許されないことである。
 
 (2)  音声記録は、「単に『備忘的』なもの」でないこと
 本件条例の本来の趣旨に合致する会議公開の原則や本件条例における公文書の管理規定からすれば、音声記録を廃棄して良いと判断し、過去にそのようにしてきたのであれば、その行為自体が本件条例に照らして違法である(第2.7.9.15.31条)。
 そもそも、被告が、本件音声記録を「単に『備忘的』なもの」と判断していること自体が違法である。
 音声記録を作成したその時点で、すでにそれは公文書の一部であり、それに対する情報公開請求があれば、保管・管理している公文書であるとして判断しなければならない。
 なお、「議事録作成前の音声記録が『公文書』に該当しない」というためには、本件条例もしくは本件条例の委任を受けた規則に「(逐語筆記である)会議録を作成するための音声記録は『公文書』から除く」旨の明文の規定が存在する場合のみである。
 
 (3) 百歩譲っても、会議のすべての審議・議論・発言を記載した議事録が作成されない場合は、当該要約版の議事録と音声記録で初めて一体の記録というべきである。
 音声記録こそ、もっとも真実を忠実に再現することができる記録である。

 (4) 音声記録など電磁的データの保存は、現在の機器の水準からすれば、きわめて簡便であり、かつ経費を必要としない。
 
 (5) 以上の諸点からして、本件音声記録は福井県が公的に管理する「公文書」というべきである。

3. 情報公開請求権
 実施機関が、音声記録について、将来は消去するとか廃棄するとか、それらの予定があるかどうかは、本件の争点ではない。
 本件訴訟は、情報公開請求時点の公文書に対する処分が争点である。
 その点、以下の判例に明確である。情報公開請求者の権利侵害は許されない。
 平成9(行ツ)136 交際費等非公開決定処分取消請求事件 平成14年2月28日 最高裁判所第一小法廷判決の関連部を引用する。
「第2  本件条例は,県民の公文書の公開を請求する権利を明らかにするとともに,公文書の公開に関し必要な事項を定めている(1条)。本件条例における公文書の公開とは,実施機関が本件条例の定めるところにより公文書を閲覧に供し,又は公文書の写しを交付することをいい(2条3項),実施機関は,本件条例に基づき公文書の公開を求める請求書を受理したときは,請求に係る公文書の公開をするかどうかの決定をしなければならないものとされている(8条1項)。そして,県内に住所を有する者や県内に事務所又は事業所を有する個人及び法人その他の団体等,5条各号のいずれかに該当する者は,実施機関に対して公文書の公開を請求することができるのであり(5条),本件条例には,請求者が請求に係る公文書の内容を知り,又はその写しを取得している場合に当該公文書の公開を制限する趣旨の規定は存在しない。これらの規定に照らすと,【要旨】本件条例5条所定の公開請求権者は,本件条例に基づき公文書の公開を請求して,所定の手続により請求に係る公文書を閲覧し,又は写しの交付を受けることを求める法律上の利益を有するというべきであるから,請求に係る公文書の非公開決定の取消訴訟において当該公文書が書証として提出されたとしても,当該公文書の非公開決定の取消しを求める訴えの利益は消滅するものではないと解するのが相当である。したがって,本件処分1のうち原審係属中に書証として提出された番号325・・を非公開とした部分並びに本件処分2のうち原審係属中に書証として提出された交際の相手方以外の者が発行した本件領収書を非公開とした部分を取り消すべきものとした原審の判断は,正当として是認することができ,原判決に所論の違法はない。論旨は,採用することができない。」

4. 利益衡量の必要性
 本件条例は「公文書の公開を請求する権利が十分に尊重されるようこの条例を解釈し、運用するものとする。この場合において、個人に関する情報がみだりに公にされることのないよう最大限の配慮をしなければならない。」と規定して個人情報の公開に「みだりに」としぼりをかけている(第3条)。
 公開されることが「みだりに」という主観的ではなく客観的評価となるためには、具体的利益衡量を行う必要がある。

5. 本件審議会は、審議会条例の苦情申立制度における知事の意見聴取機関であること
  現に、本件会議の議題は「苦情申し立て受けての知事から意見聴取を委ねられた議題の会議」であって、権利の保護の意味からも、その審議記録の正確性及び記録の恒久性は担保されねばならない格別の意義がある。

6. まとめ 
 以上、本件音声記録の公文書であることの意義は高い。
 
第7 本件処分の違法性
1.本件条例第2条の規定 (公文書の定義)
  本件条例における公文書の定義の第2条は以下である。
「この条例において『実施機関』とは、知事、教育委員会、選挙管理委員会、人事委員会、監査委員、地方労働委員会、収用委員会、海区漁業調整委員会、内水面漁場管理委員会および公営企業管理者をいう。 
 2. この条例において『公文書』とは、実施機関の職員が職務上作成し、または取得した文書、図画および電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られた記録をいう。以下同じ。)であって、当該実施機関が管理しているものをいう。ただし、次に掲げるものを除く。
 (1)官報、公報、白書、新聞、雑誌、書籍その他不特定多数のものに販売することを目的として発行されるもの
 (2)県立図書館その他の県の機関において、歴史的もしくは文化的な資料または学術研究用の資料として特別の管理がされているもの」
 よって、本件条例第2条2項の意味を述べる。
 
2. 「職務上」という規定の該当性について
 「職務上」とは,実施機関の職員が,法律,命令,条例,規則,規程,通達等により与えられた任務又は権限をその範囲内において遂行、処理することをいう。
 なお,「職務」には,国等が,法律又はこれに基づく政令により知事その他の実施機関に委任した事務(機関委任事務平成12年4月1日の地方自治法の改正により廃止),法律又はこれに基づく政令により県が処理することとされる事務のうち,国が本来果たすべき役割に係るものであって,国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律又はこれに基づく政令に特に定めるもの(法定受託事務)及び地方自治法第180条の2又は第180条の7の規定により実施機関若しくは実施機関の職員が受任し,又は補助執行している事務を含むものである。ただし,実施機関の職員が,地方公務員等共済組合法第18条第1項の規定により従事している地方共済組合の事務,地方公務員災害補償法第13条第1項の規定により従事している地方公務員災害補償基金の事務等は含まれない。
 本件においては、福井県職員の担当の職務にかかることは明白である。

3. 「作成し、または取得し」という規定の該当性について
 「作成し、又は取得した」とは、実施機関の職員が自己の職務の範囲内において事実上作成し、又は取得した場合をいい、文書等に関して法律上の作成権限又は取得権限を有するか否かを問わない。つまり、当該文書の作成名義人が誰かは問題ではなく、例えば、私人が作成した文書でも前記要件を満たすかぎり情報公開請求の対象たる「公文書」に該当する。
 本件においては、会議の内容を記録するために、本件音声記録を作成した。のちに議事録を作成するという業務遂行がなされている。
 
4. 「電磁的記録」という規定の該当性について
 (1) 本件会議の音声記録を電磁的に保存していることは、職員が認めている。

 (2) 会議や場面・状況の記録の方法は時代とともに変化してきた。音声記録に速記と紙媒体しかなかった時代とは違い、電磁的な媒体の利用が可能になった。
 文字情報のみならず視聴覚情報が記録可能になった。このような技術革新を前提にすれば、現場の視聴覚情報を忠実に記録した電子媒体が、その再現性の高さでもっとも信頼に値する記録と言え、CDやDVDなどの電磁情報がそのまま公的記録媒体となりつつある。
 
 (3) 自治体の議会の本会議の記録は地方自治法第123条において作成が義務付けられているところ、従前は紙媒体への記録が唯一公的なものとして定められていた。
 しかし、昨年2006年5月、地方自治法が改正され、電磁的記録のみの会議記録も認定された。
「第123条 議長は、事務局長又は書記長(書記長を置かない町村においては書記)に書面又は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下この条及び第234条第5項において同じ。)により会議録を作成させ、並びに会議の次第及び出席議員の氏名を記載させ、又は記録させなければならない。
 2 会議録が書面をもって作成されているときは、議長及び議会において定めた2人以上の議員がこれに署名しなければならない。
 3 会議録が電磁的記録をもつて作成されているときは、議長及び議会において定めた2人以上の議員が当該電磁的記録に総務省令で定める署名に代わる措置をとらなければならない。
 4 議長は、会議録が書面をもって作成されているときはその写しを、会議録が電磁的記録をもつて作成されているときは当該電磁的記録に記録された事項を記載した書面又は当該事項を記録した磁気ディスク(これに準ずる方法により一定の事項を確実に記録することができる物を含む。)を添えて会議の結果を普通地方公共団体の長に報告しなければならない。

 (4) カラー写真を白黒でコピーして交付していた時代から、今は、カラーはカラーコピーして交付することで、情報公開の意義が格段に高まった。カラーはカラーでこそ意義があり、情報量も格段に違う。
 録音テープや音声記録は、紙媒体に印字された、あるいはディスプレイに表示された文字に比べて、格段に情報量が多い。発言の声としての抑揚や口調、間合いなど、それ自体が情報というべきである。
 音声記録は、会議録作成のために議事内容を録音したものではあるが、それ自体で完成し独立した情報であって、正確性も機械的に担保されたものであり、これを公開してもなんら公務遂行に支障はない。
 いまや、県の職員は電磁機材なしには、公務の遂行ができない。
 今日、そのような情報技術で作成された情報を「公文書」と定義しないことは時代錯誤であり、行政の怠慢というべきである。
 いかなる媒体にも記録されていない無形の情報である会議そのものは、情報公開制度の直接の対象情報には含まれないが(それ故、会議の公開を情報公開条例で宣言する自治体もある)、会議の内容を記録した会議録や録音テープ、ビデオテープ、音声記録等は情報公開条例の対象に含まれると認識しなければならない。
 
 (5) 本件条例第2条第2号は、公開請求の対象となる情報として、「文書、図画および電磁的記録」を掲げており、これらの情報については、通常の場合、決済印や保存番号をつけることもほとんどないから、「実施期間が管理している」ということは判然としにくい性質がある。それ故に、単に電磁的な記録状態であり、かつ、いずれ廃棄・消去する予定であることをもって公開請求の対象から除外されるとすれば、大部分の電磁的記録が本件条例上は「公文書ではない」つまり「不存在」となり、同号が「電磁的記録・写真、フイルム及び磁気テープ」を特に掲げていることの意義が没却される事態を招く。
 即ち、電磁的記録の場合に、情報公開請求の対象から除外される情報が広範囲となるなど、情報公開請求の対象についての地方自治体の恣意的コントロールを招くおそれも生じるなど、情報公開制度の趣旨に反することになる。

 (6) 以上、電磁的記録や音声記録は、法制度上も、機器システム上も基本的に「公文書」
である。

5. 「当該実施機関が管理しているもの」という規定の該当性について
 (1) 被告は、議事録を作成するために備忘的に音声記録をとっただけで、文書規定などに基づいて管理や保管していないから、県が組織的に管理しているものではない、という。
 職員が、議事録作成の目的で保管しているのは事実である。

 (2) 当日の会議は、一般市民及び報道機関に公開された。これら傍聴者の採った録音やメモなどとの齟齬があった場合、そのときの県の公表した会議記録の正当性の立証のためにも、議事録作成後も公文書として正規に保存されてこそ存在意義がある。

 (3) 情報公開制度の解釈運用においては、管理や保管は、各実施機関において定めている公文書管理規定等の定めるところにより保管し、又は保存することにより、公的に支配している公文書をいう、と理解されている。
 これを本件に当てはめると、音声の録音者が誰であろうと、議事録作成のために、職員が保管・管理していれば、本件条例の対象となる公文書にあたる。本件は、県の公費で維持管理される事務用の電磁的な媒体に記録されて、議事録作成のためにその状態を保ち続けているのである。管理にあたることは明白である。
 
6. 音声記録は、固有の「公文書」である
 (1) 近時、電磁的な媒体の利用が可能になったからこそ、情報公開法も各地の地方自治体の情報公開条例も、電磁的な情報を公開の対象と規定し、あるいは改正されてきた。
 それは、電磁的な記録には紙媒体とは違う特性があるからである。特徴のひとつは、安価かつ容易に大量の情報が簡単に情報公開の請求者に交付できるようになったことがある。
 つまり、記録された文字や映像は同一でも、紙媒体と電磁的媒体とでは、異なる要素が多々存する。電磁的記録は、電磁的記録は電磁的記録であるが故に、「固有の情報」なのである。
被告には、この点の認識が欠如している。
 
 (2) 後述するように、本件会議での発言内容は、きわめて恣意的に改変・加筆・削除などされているから、「議事録」は、会議の正確な記録ではなく、音声記録こそ会議の記録である。
 本件音声記録は、独立性、固有性を確固とする「公文書」である。

 (3) 自治体の公費で負担し公務中に使用している
 本件の音声記録のような媒体は、当該自治体の公費で購入・維持・管理され、職員は有給の執務時間中に、媒体を利用して音声記録から議事録を作成するものであるのだから、固有性は格別である。

7.  公文書管理としての違法
 (1) 本件条例は、公文書の管理について、第31条において、「公文書を適正に管理する」(同1項)、「公文書の分類、作成、保存および廃棄に関する基準その他の文書の管理に関する必要な事項についての定めを設ける」(同2項)としているが、公文書等の保存や廃棄について、本件条例や同規則中には格別の定めは見当たらない。
 
 (2) 福井県文書規程においても、「(定義) 第2条「(1) 文書等 職務上作成し、または取得した文書、図画および電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られた記録をいい、電子文書を除く。以下同じ。)をいう」とされている程度で、本件争点を解明する格別に有意な管理や廃棄の規定は見当たらない(甲第9号証)。

 (3) 明確な規定がない故に、「この音声記録は、議事録作成後には消去する」というような安易な考え方が生ずるとしたら、それは間違いである。明文の規定がないなら、慎重に管理すべきであるし、安易に廃棄・消去などしたら本件条例第31条に違背するというべきである。
 実質的に、電磁的情報に関して、明確な管理規定がないことは、被告の著しい怠慢というしかなく、それを放置して、「電磁記録は公文書ではないから、適宜随意に扱う」という姿勢は本件条例の制定趣旨にも各規定にも違背する。
 控えめにいっても、本件同様の議事録であるなら、会議の真実を知るには、音声記録との照合が不可欠であるところの、議事録と一体化して位置づけ、保管されるべきものである。

8. まとめ 
 以上のとおり、本件音声記録は、本件条例の定義する「公文書」に該当するから、被告の本件非公開(不存在)処分は違法であって、速やかに取り消されねばならない。

第8 本件音声記録には一部非公開とすべき個人情報は存在しない
1. 本件条例第7条1号の規定(個人情報)の規定
「個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができるものまたは特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの。ただし、次に掲げる情報を除く。
イ 法令もしくは他の条例の規定によりまたは慣行として公にされ、または公にすることが予定されている情報
 ロ 人の生命、健康、生活または財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報
  ハ 当該個人が公務員である場合において、当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは、当該情報のうち、当該公務員の職および氏名ならびに当該職務遂行の内容に係る部分(当該公務員の職および氏名に係る情報にあっては、公にすることにより当該公務員の権利利益を不当に害するおそれがある場合の当該情報を除く。)」

2.  ただし書きハの規定からも、「公務遂行情報」であるから非公開事由に該当しない
 (1) 公務員の公務に関する情報は、個人情報としての非公開事由に該当しないこととされている。これは、本件ただし書きハの規定がなくても、情報公開条例の制定趣旨からして当然であることは最高裁判例で確定している。
 県の常勤職員である本件担当課職員や上司の部長らも、県の非常勤職員としての審議会委員も、会議中の発言は、「公務に関する情報」である。
 これら公務員の公務・職務に関する記録は、氏名を含めてすべて公開されることになる。
 
 (2) 県職員の職務の遂行に関する情報は、県民の県政に対する監視を実効あらしめ、さらに県民の県政に対する理解と信頼を深め、県民参加の開かれた県政を推進し、県民の県政参加の一層の推進及び県政のより公正な運営を確保する上で、公開すべき必要性の高い情報といえる。
 
 (3) 即ち、会議の音声記録はすべて、個人情報としての非公開事由には該当しない。
 
3.  ただし書きイの規定
 本件審議会のように「公開される会議」に関しては、その審議・議論内容は、そもそも本ただし書きイにおける「公にすることが予定されている情報」と解釈すべきものである。
 よって、会議の音声記録はすべて、個人情報としての非公開事由には該当しない。

4. まとめ
 以上のとおり、本件音声記録には、非公開とすべき個人情報は存在しないのだから、音声記録を全面公開することになんら支障はない。
  
第9 被告作成の議事録は、要約版もしくは意訳版である
 そもそも、「会議録に会議の一部を記載しないことにより、会議のてん末を偽った場合においては、会議録に虚偽の記載をしたものに該当する」(大審院刑事 昭和2年6月8日 昭和2(れ)557 刑事6巻295頁)とされている。
 本件において、審議会の出席者の発言について、被告が作成して公開したとする議事録の記載内容及び表現には、明白な加工、修正、加筆や、当日の審議会の会議内容の位置づけに関してのある委員の質疑の全文が削除されているなど、それは行政機関として都合の良くなるように改変されていると考えざるを得ない(公表された議事録と傍聴者のメモとを対照したうちのごく一部を抜粋した比較表 甲第10号証)。また、全員が福井県の公務員としての公務における発言であるのに、一般職公務員名のみ記載し、委員名は記載していない。
 本件に関して、「議事録」は、会議の正確な記録ではなく、音声記録の方が信頼性が高い会議記録である。
 本件同様の議事録であるなら、会議の真実を知るには、音声記録との照合が不可欠であるところの、本件音声記録は、議事録と一体化して位置づけ、保管されるべきものである。
              
第10 情報公開条例上での「公文書」の定義の比較
1. 電磁的記録などの改正
 従来、対象の公文書は、「紙の文書」だけだったところ、2000年ころ以降に条例改正もしくは新たに制定するところは、「図画、写真、フィルム及び電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られた記録をいう。)」等の規定とするところが増加した。同時に、「知る権利」を盛り込む条例も増えた。

2. 条例のタイプ
 わが国の情報公開条例において、「公文書」の定義にはパターンがあり、類型化できる。
 (1) Aタイプは、「決裁・供覧等の手続的を了したもので、実施機関が管理しているもの」
  決済の印が押してある文書及びそれに添付された一連の文書だけが対象となる。
  よって、役所の中にある文書の一部が情報公開条例の対象と認識される。
  
(2) Bタイプは、「実施機関が管理しているもの」
  基本的に、役所にあるすべてが対象になる。
  本件条例はBタイプである。
 
 (3) Cタイプは、「職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が保有・管理しているもの」
  国の情報公開法の定義にならうもので、Bタイプに「組織的に用いるもの」という限定がつけられた。
 「職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が保有しているもの」とは、当該実施機関がその組織において業務上の必要性に基づいて利用・保存している状態にあるものをいうと解釈されている。

3. Cタイプの条例の場合の解釈運用
 (1) 「組織共用目的で保管・管理されていること」を条件とするCタイプの条例においては、基本的に、音声記録は条例の対象となる。
 
 (2) 各自治体の情報公開条例の解釈と運用を説明したところの「情報公開の手引き」の当該部分の比較をすれば以下のようである。
◎ 「組織において業務上の必要性に基づいて利用・保存している状態」(岐阜県の手引き 甲第11号証)
◎ 「具体的には、グループリーダーの職(それに相当するものと所属長が認める職を含む)以上の職にある者と他の職員が共に利用することとなった状態をいう」(三重県の手引き 甲第12号証)
◎ 「課長補佐に相当する職以上の職にある者又は主任主査に相当する職にある者(班長に相当する職を命ぜられたものに限る。)と他の職員が共有し,保有しているものをいう」(宮城県の手引き 甲第13号証)
 
(3) 組織共用かどうかは、事務分掌などから識別されることになる。
 一般に、担当課の再重要な事務事業においては、所管の審議会の議事録作成は組織的な業務であって、音声記録は、その業務遂行のために組織的に保管・管理していることは明白である。

 (4) 自治体の公費で負担し公務中である
 本件の音声記録のような媒体は、当該自治体の公費で購入・維持・管理され、職員は有給の執務時間中に、機器を利用して音声記録から議事録を作成するものであるのだから、音声記録は実施機関が組織として共用していることは明白である。
 
 (5) Cタイプの条例の埼玉県は、本件原告の一人から、2006年11月21日に「埼玉県男女共同参画審議会の音声記録」との情報公開請求を受けて、翌日22日に開示決定をした(甲第14号証)。
 
4. 本件条例における認識
 (1) 本件条例の規定であれば、音声記録から議事録として成文されて後に音声記録を破棄する予定であっても(だからこそ私たちは、破棄される前に速やかに情報公開請求した)、本件条例の対象文書となる。なぜなら、情報非公開処分取消訴訟は、情報公開請求時点の「公文書」に関する処分が対象(最高裁判決)であるからだ。

 (2) 被告は、本件条例をCタイプの規定であるかのように誤って解釈している(福井県の手引き 甲第15号証)。
 
 (3) 仮に、Cタイプの規定で判断するとしても、本件担当課の職務内容や職員の事務分掌 (福井県課職員録 甲第16号証) からすれば、「審議会」の事務方を担うことは、同課の最重要な担任事務事業であるから、議事録作成は組織的な業務であって、音声記録は、その業務遂行のために「職員が作成し、実施機関が管理している」ことは明白である。
 この点、最も狭義に解釈するとしても、議事録作成を担当した職員は「主査」であって、たとえば同職員が病欠などすれば他のものが代行することは当然であるから、前記Cタイプの規定の解釈運用に照らしても、音声記録は組織共用の「公文書」である。

第11 録音テープにかかる判例の評価
1. 判例
 自治体の会議に関する録音テープや電磁的記録の情報公開条例上の位置づけとして「不存在」とした処分にかかる判例は、下記の3ケースしか見当たらない。
 いずれも、自治体の議会における地方自治法第123条所定の会議録作成のために議会の議事内容を収録し録音したテープの情報公開請求に関しての訴訟である。
 下記最高裁判決が、決済を終了した「公文書」を対象とするAタイプの条例であっても議事録が完成し決済段階になれば録音テープも「公文書」であるとしていることは、反面として、「決済」前の文書も「公文書」と位置づけているB・Cタイプの条例の場合は議事録の完成前の音声記録も「公文書」であることを黙示している。
 下記、名古屋高裁判決は、議事録作成のための録音テープは職務上作成したものであることを認定しているし、岡山地裁判決は、議事録が全発言記録でない場合は、当該会議録と音声記録は一体であると認識されるとしている。

2.  最高裁判決(原審大阪高裁、第一審高松地裁) (確定)
 (1) 対象条例はAタイプの条例で「決裁又は閲覧の手続が終了」した公文書を対象としていることから、決裁・閲覧前であるところの議事録作成中は対象「公文書」ではないが、議事録が作成された後には、録音テープは「公文書」であるとした。
 この論理からすれば、決済・供覧を要件としていないB.Cタイプの条例の場合は、管理・保有している限りは録音テープ(音声記録)は当該条例の対象であることになる。
 
 (2) 最高裁は2004年11月、香川県土庄町の定例町議会の模様につき会議録作成のために議会の議事内容を収録し録音したテープの公開請求訴訟で、《1》録音テープは開示対象の会議録を作成するための基礎資料《2》会議録が開示できる状態になれば、テープも公開対象になるとした。
 最高裁 平成16年11月18日判決(第一小法廷)、平成14年(行ヒ)第108号、情報公開請求却下決定処分取消請求事件の判示の要点は以下である。
  
 土庄町情報公開条例第2条第2号は「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画、写真、フィルム及び磁気テープであって、決裁又は閲覧の手続が終了し、実施機関において管理しているものをいう。」である。
 土庄町処務規則(昭和42年土庄町規則第1号)第10条第1号は、決裁とは町長等の決裁権者がその権限に属する事務の処理につき最終的に意思決定を行うことをいう旨定義している。他方、閲覧については、土庄町処務規則にもこれを定義する規定はないが、一般には、閲覧とは、当該文書等に係る事務を所掌する上位の職員等が、その内容を確認することをいうものである。
 本件テープは、被上告人の事務局の職員が、被上告人の議長の職務命令を受けて、地方自治法第123条所定の会議録を作成するため、議会の議事内容を録音したもので、会議録作成のための基礎となる資料としての性格を有している。会議録作成のための録音に使用した磁気テープは、通常は、会議録作成後にその録音内容が消去され、再利用される。
 本件テープ等に基づいて作成される会議録については決裁等の手続が予定されているが、本件処分当時、同会議録はいまだ作成されていなかった。
 本件テープは、被上告人の事務局の職員が会議録を作成するために議事内容を録音したものであって、会議録作成のための基礎となる資料としての性格を有しており、会議録については決裁等の手続が予定されていることからすると、会議録と同様に決裁等の対象となるものとみるべきであり、決裁等の手続を予定していない情報ではないというべきである。したがって、会議録が作成され決裁等の手続が終了した後は、本件テープは、実施機関たる被上告人において管理しているものである限り、公開の対象となり得る。

3. 名古屋高裁判決(原審津地裁判決)(確定)
 (1) この判決は、同様にAタイプの条例についてであるところ、録音テープは議事録作成したメモであるとした。しかし、その後年度に前項のとおり、別件の訴訟としての最高裁判決で、条例タイプに関係なく録音記録は「条例対象の『公文書』」であることが確定したから、本判決は、修正して理解される必要がある。
 
  (2) 平成14(行コ)41情報公開・同請求控訴事件(原審・津地方裁判所平成13年(行ウ)第13号・同平成14年(行ウ)第7号) 平成14年12月26日名古屋高等裁判所?の判示の要点は以下である。

 本件条例において,公開の対象となる公文書とは「実施機関の職員が職務上作成し,又は取得した文書,図面,写真及びスライド(磁気ディスク及び磁気テープ並びにマイクロフィルムを含む。)であって,決裁又は供覧の手続が終了し,実施機関が管理しているもの」と定めている(2条2項)。したがって,本件条例は,公開の対象となるのは行政情報そのものではなく公「文書」であり,かつ「公」文書の要件として「職務上作成・取得した」ものであることに加えて,「決裁・供覧手続を終了した」ものであることを要求しているのであり,「決裁・供覧手続を終了した」文書であることを要求している趣旨は,実施機関が対外的に責任を負うことができる文書に限定することにあるものと解するほかない。
 本件録音テープ全体は,議会事務局長が議事録を正確に起案作成するための補助手段とするために,紀勢町議会(定例会)の議事を録音したものであるから,「実施機関の職員が職務上作成し」した文書であるとはいえるけれども,そもそも決裁文書である議事録の起案の準備のためのいわばメモの代わりにすぎないという性格のものであって,録音テープに対する「決裁・供覧手続」自体を想定していないため,そのような手続を経ることなく,また特別の管理規程等もなく,議会事務局において事実上保管されているにすぎないものである。
 ところで,実施機関の職員が職務上作成又は取得した録音テープであっても,これに対する「決裁・供覧手続」が全く想定されない訳ではなく,被控訴人が主張するように,決裁権者がこれを再生聴取して録音テープやケースに決裁のための署名押印をするなどの方法で決裁し,これを供覧に付することは可能であるというべきである。そうすると,本件録音テープは「決裁・供覧手続」を経ていなくても「公」文書性を有すると解するに足りる合理的根拠を見出すことは困難である。

4. 岡山地裁判決 (確定)
 (1) Cタイプの条例についての判断であるが、判示は「職員が組織的に用いるものとして」の解釈を「決済、供覧等の手続きが終了し、組織としての供用文書として利用・保存されている状態になっているもの」という決定的な過ちをおかしている。原告が控訴しなかったから確定しただけというしかない。
 
 (2) 平成14年(行ウ)第17号「議事録テープ非公開決定処分取消請求事件」(平成15年9月16日 岡山地裁判決)の判示の要点は以下である。

 議事録が、議会会議規則等による記載要件を備えていなかったり、記載内容の判読のために、補充的機能を果たすものあるいは説明資料として、議事経過を録音したテープを利用するしかないような場合には、議事録と一体化すべき行政文書として、当該録音テープを位置づける余地があるが、上記のような特段の事情のない限り、議事経過を録音したテープ等は、議事録作成に向けて、その、正確性等を担保するための補助的手段に過ぎないものというほかなく、それ自体では、『実施機関の職員が組織的に用いるものとして、実施機関が保有する行政文書』とはいえない。
以上
 添付書類
   別紙−1
   原告目録
   証拠説明書及び同記載の書証
   原告代表上野千鶴子の意見書
   選定書13葉及び当事者選定書届1葉                  以上
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