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平成17年(行ハ)第5号 許可抗告申立事件
(平成16年(行タ)第17号 文書提出命令申立事件)
(基本事件・平成16年(行コ)第46号)

 申立人         別 処 雅 樹
 相手方    岐阜市長 細 江 茂 光

             抗告許可申立理由書
平成17年7月10日
名古屋高等裁判所民事3部 御中
                     申立人     別 処 雅 樹
                       

 本件同種の文書についての提出命令に関する最高裁判決は見当たらないから、高裁、地裁判決を示して、原決定の誤ることを主張する。

第1 本件文書の必要性について
 原決定は、「第2 当裁判所の判断」において、「基本事件の中心的争点は,岐阜市の職員が勤務時間中に選挙運動に関与し,あるいは選挙違反に関する事情聴取を受けることによって1か月に30分を越えて勤務をしない時間があったか否かであるところ,勤務をしなかった時間の有無を解明すべき当事者が誰であるかについての情報は,本件申立人には限られたものしかなく,その大部分は相手方岐阜市長の側にのみ存在していることからすると,別紙文書目録1ないし5の各文書について証拠調べの必要性がないとまでは言えない。これは岐阜市職員の一部が特定されて証拠調べが実施されたこと,別紙文書目録2及び3の文書の一部が公開されていることをもって左右されるものではない。したがって,相手方の上記主張は採用できない。」として、本件文書の必要性を認定した。

第2 引用文書としての提出義務
1,(1) 大熊秀行は、実質的に市の人事を代表している
 原決定は、第2(3)の引用文書としての提出義務について、「基本事件における相手方である浅野勇及び同大熊秀行は,上記各文書の所持者ではないから,その主張や供述中に上記各文書の引用があったとしても,それをもって相手方岐阜市長に引用文書としての提出義務を認めることはできない」とした。
 原決定は浅野勇及び同大熊秀行は所持者ではないとする。確かに、浅野勇及び同大熊秀行は個人である。しかし、同時に、浅野は当時の市長、大熊は市の人事の実務を掌握する人事課長であった。
 大熊秀行は、証人尋問に先立ち陳述書を提出し、出廷して詳述したことは、一私人としての大熊秀行個人のことについてではなく、本件当時の岐阜市の本件非違行為にかかわって、最も岐阜市の行政組織内部のことを権限をもって知り得たものとして、証人として最適であるとして、証言等したことは明白である。
 つまり、大熊秀行は、第一審被告として、というより、第一審被告岐阜市長の本件選挙違反の職員の行為等を熟知しているものとして岐阜市長の職務代理者として述べているのだから、相手方岐阜市長が「引用した文書」というべきである。
 これを原決定は、浅野を含めて大熊秀行個人の引用したものと判断したことは、法令の解釈を誤る違法がある。よって、原決定は取り消されるべきである。

 (2) 岐阜市について
 さらに、原決定は、岐阜市長について、「また,本件記録によっても,相手方岐阜市長において,上記各文書を積極的に引用していることを認めることはできない。したがって,引用文書として提出義務があるとする申立人の上記主張は理由がない。」とする。
 しかし、引用文書というには、単に相手の当該文書を用いての主張に対して当該文書に触れて述べただけの場合はともかく、自らの主張・反論に積極的に引用していなくても引用文書していれば足りるとされている。この点は、後述する。
 よって、原決定は、法令の解釈を誤る違法があるから、原決定は取り消されるべきである。

2, 原決定は、第2の(4)文書提出義務の除外事由について次のように判示した。  (1)「イ 判断 (ア)別紙文書目録1の文書について」において、原決定は、「別紙文書目録1の文書については,岐阜市(岐阜市長)がその職員に対して行った内部調査の際に作成された記録である。この調査においては,その性質上,任意に正確な情報の提供を受ける必要があるところ,そのためには情報提供者の氏名,情報内容を聴取目的以外に利用せず,外部に公開しないことを納得して貰ったうえ,協力を求めることが不可欠となる。
 仮に,この聞き取り調査票の内容が公開されることになると,職員との信頼関係が破壊され,将来の同種の人事管理に係る事務について情報提供等への協力を得られず,実態・真実の的確な把握ができないために適正な懲戒処分等を行うことができなくなるおそれがあるなど,公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがある。したがって,民訴法220条4号ロの除外事由があるものと認められる。」とした。

 (2)しかし、以下の2つの観点において誤っている。
   ア 制度上の問題の誤解
 情報公開条例に規定するのことと同旨の「職員との信頼関係」「人事の事務」などを認定する。これは、別件の本件文書等の全面非公開処分取り消し訴訟が当該名古屋高裁民事3部に係り、同部が基本的に非公開処分を追認したことの事案(現在最高裁で係争中)により係って、著しく先入観に固まって偏向して民事訴訟法の解釈を誤った違法な結論を導いた。

   イ 民事訴訟法改正の意義や理念に反する
 今回の民事訴訟法改正の意義、つまり情報公開制度より民事訴訟法の提出命令の方が広い概念であることについては、第一審原告が法改正の国会審議議事録を提出したところであるが、本理由書では第3で述べる。

3, 文書提出義務の原因として法第220条第1号に係る主張
 申立に係る文書−1、2、3、4、5は以下に述べるとおり、民事訴訟法第220条第1号に該当する。
 (1) 文書について
 民事訴訟法221条第1項2号が文書提出の申立に際して「文書の趣旨」を明らかにすることを要求するのは、同条第1項1号の「文書の表示」を補って提出すべき文書を特定し、文書提出義務の存否の判断を可能にさせるとともに、同条第1項4号の「証すべき事実」との関連性を明らかにして、証拠としての必要性の判断ができるようにさせることにあり、同条第1項4号が「証すべき事実」を明らかにすることを要するとするのは、「文書の趣旨」と相まって当該文書の証拠としての必要性の判断を可能にさせるとともに、文書の所持者である相手方が文書提出命令に従わないときに、同法224条を適用して、文書に関する申立人の主張を認定、判断する資料として役立たせることにあると解されている。

 (2) 文書提出義務の原因について
 民事訴訟法第220条第1号が、当事者が引用した文書につきその当事者に提出義務を課した趣旨は、当該文書を所持する当事者が、裁判所に対し、その文書自体を提出することなく、その存在及び内容を積極的に申立てることにより、自己の主張が真実であるとの心証を一方的に形成させる危険を避け、当事者間の公平をはかって、その文書を開示し、相手方の批判にさらすべきであるという点にあると解されるから、同条号所定の「訴訟において引用した文書」は、当事者の一方が、訴訟において立証それ自体のためにする場合だけに限られず、準備期日や口頭弁論、準備書面等において、争点にかかる自己の主張を明確にし又はその裏付けとするために文書の内容を引用した場合、あるいは文書の存在について具体的自発的に言及しその存在を積極的に引用した場合における当該文書を指すものと解されている。

 (3) 本件文書の第1号該当性
 本件申立文書が、民事訴訟法第220条第1号にいう「訴訟において引用した文書」にあたることを述べる。
   ア 本件における原審での争点は、@職員が自らの選挙違反への関与に起因して選挙前・選挙中・選挙後に職務に専念できなかった事情があるか、あればそれはどの程度か、時間はどの程度か、A警察等の聴取を受けたか、それはどの程度の時間か、B本件相手方市長の怠る事実(市職員の人事管理の職責を本件相手方市長から任された大熊の怠る事実は同義といえる)の有無、である。本件申立文書−1に記録・記載されている職・氏名と行為もしくは関与の内容や程度等、本件申立文書−2、3、4に記録・記載されている職・氏名と懲戒・訓告の内容及び理由や事情等、本件申立文書−5に記録・記載されているところの本件相手方市長設置の懲戒審査特別委員会(甲第29号証)による懲戒懲戒等処分に係る意見は、前記争点の判断に不可欠なものである。

   イ 本件の場合、本件相手方の書面及び尋問における主張や立証は、本件相手方がみずからの方針として選択して、積極的、自発的に行なっているものであることは明らかである。第一審記録を精査すると、本件相手方らが本件文書を本件相手方主張の正当性あるいは本件申立人主張の不当性、失当性の主張の趣旨で引用したものと認められる部分は、以下のとおり各所に存する。

   (ア) 申立文書−1(聴取り調査票)
 訴状への反論として、本件相手方市長の第一審準備書面(2)の4の1)の13行目以降における「調査によると・・いずれも30分以上の時間を費やしたことを認めるに足りる証拠は見当あたらなかった」との主張は、本件申立に係る調査票が主張の論拠であることは明白である(最高裁への申し立てにおいては、第一審や第二審の準備書面等での主張の引用はできないところ、本件は「引用しているかいなか」が争点となっている事案であるから、このように引用せざるを得ない)。
 訴状への反論として、同書面6(まとめ)における「調査ではその事実が見つからなかった」との主張は、本件申立に係る調査票が主張の論拠であることは明白である。
 訴状への反論として、大熊らの第一審準備書面(1)第2の3の後段における「調査票に基づき240名の職員を調査した結果、紹介者カードを・・・・判明したが、いずれの調査対象者についても30分以上選挙運動に関わった職員がいなかった」との主張は、本件申立に係る調査票が主張の論拠であることは明白である。
 大熊は、被告人主尋問において「調査票を見た中では30分を超えた者はいなかったと認識している」(第1回本人調書4頁中段)としている。
 大熊は、被告人反対尋問において「岐阜市は、選挙期間中については調査票で把握したが、捜査にかかわったものについてはその時点でも調査していないし、現段階でもわからない」(第2回本人調書18頁14ないし18行目)としている。
 大熊は、被告人反対尋問において「選挙違反事件につきましてはこの調査票で調査しております」(第2回本人調書21頁5行目)とし、調査票の記載に関して「結果としてこの中にそういう該当者がいなかったということだけです。職務専念義務違反による減額者はいなかったということです」(第2回本人調書21頁中段から後段)としている。
 大熊は、被告人反対尋問に続く再主尋問において「調査票の中には職務専念義務違反を念頭に置いた質問が盛り込まれているというお答えでしたね」「はい」「その調査票による結果の結果は、職務専念義務違反に該当して減額をしなきゃいけない該当者はいなかったと、こういうふうに聞いていいですね」「はい」(第2回本人調書22頁冒頭)としている。
 以上のとおり、本件申立文書−1は、職務上の人事課長の主張に係るものであるから本件相手方が引用している文書に当たるのは明白である。

   (イ) 申立文書−2、3、4(懲戒処分・任意処分説明書・口頭関係)
 本件相手方市長の原審準備書面(2)の5において、処分の概要とそれに基づく給与関係の本件相手方の対処を述べているところ、これは、処分関係書類に基づく本件相手方の正当性の主張であるのは、明白である。
 訴状への反論として、大熊らの原審準備書面(1)第2の4の中段における「懲戒処分等の処分により、給与等の減額処分を受けた職員については・・・支給されていない」との主張は、本件申立に係る処分関係書類が主張の論拠であることは明白である。このことは、引用に当たるというべきである。
 以上のとおり、本件申立文書−2、3、4は、本件相手方が引用している文書に当たるというべきである。

   (ウ) 申立文書−5(懲戒等処分に係る懲戒審査特別委員会の意見)
 大熊は、被告人主尋問において「・・今回の選挙違反事件のために特別の委員会が設置されました」「今説明された特別委員会の審議を経て、最終的に岐阜市長の方で処分が行われた・・」「はい、そうでございます」(第1回本人調書6頁下段から7頁上段)として、特別委員会の審議の結論を主張の論拠としている。
 本件相手方市長の第一審準備書面(2)の5において、処分の概要とそれに基づく給与関係の本件相手方の対処を述べているが、本件相手方市長の設置した懲戒処分委員会は、調査票を前提に本件「意見書」をとりまとめて本件相手方市長に答申し、本件相手方市長は、この意見書に基づいて処分したのである。よって、申立文書−1、2、3、4と申立文書−5は不可分なものであるのは明白であり、この意味において、引用に当たるというべきである。

 (4) まとめ
 第一審において本件相手方は、本件申立人の求釈明に応じ、消極的に本件文書の存在について言及したものとの領域をはるかに越え、その内容を具体的に明示しようとしていることは明らかである。
 このように、本件相手方は、本件文書の存在について具体的、自発的に言及し、かつ、その内容を積極的に引用しているといえ、本件文書の存在と趣旨によつて自己の主張を裏付ける証拠に供しようとしたことは明らかである。
 したがって、本件申立文書はいずれも、民事訴訟法第220条第1号にいう「訴訟において引用した文書」に該当するから、本件申立人らの本件文書提出命令の申立ては理由がある。

4, 「引用」について
  (1) 下記判例の趣旨からも、本件文書が引用され、かつ、本件相手方が所持している場合に当たるというべきであるから、本件相手方には提出義務がある。

  (2) 東京地方裁判所/昭和43年9月14日決定/昭和40年(ワ)第4949号は、「(旧)民亊訴訟法三一二条一号にいう「引用」とは、当事者が文書を挙証のために引用した場合に限らず、自己の主張の助けとして文書の内容と存在を明らかにした場合を指すものと解すべきである」「文書提出義務について民事訴訟法二七二条の類推適用はない。」とした。以下の要点である。
 「各文書は教科用図書検定調査審議会がそれぞれ直接保管責任者としての地位にあるものと考えられる。しかし、文部大臣もしくは審議会は国の行政を担当する一行政機関として検定の実施に関与するのであるから、その行政処分に対して国家賠償請求訴訟が提起され国が当事者たる地位となつた場合には、当事者となった被告国自体がその行政機関の保管する文書を『所持』するものと解すべきであって、その文書の提出義務を負うものといわねばならない。
 即ちここにいう引用とは、当事者が口頭弁論等において、自己の主張の助けとするため、とくに文書の内容と存在を明らかにすることを指すものと解するのが相当である。
 次に被告は右の各文書については、原告において、立証すべき事実上の主張をしていないから、原告には文書の提出を求める利益がないと主張するが、原告は、本件調査員並びに調査官の各調査意見書並びに評定書によって立証すべき事実について主張をしているものと認められるから、被告の右主張も採用できない。」

  (3) 判例
 文書提出命令に対する抗告事件/大阪高等裁判所決定/平成15年(ラ)第115号
/平成15年6月26日決定は、@運送会社の一部門が不採算であるとして同部門所属のドライバーに対して行われた人事異動命令の無効を争った本案訴訟において同運送会社が証拠として提出した同部門以外の部分を黒塗りにした売上振替集計表につき,同集計表は民訴法220条1号所定の文書(引用文書)に当たるものであり,除外(黒塗り)部分だけが引用文書に該当しないということはありえないとして,その原本の提出を命じた。さらに、A集計表の体裁・内容等に照らして,当該除外部分が民訴法220条4号ニ(専ら文書の所持者の利用に供するための文書)に該当するとも認められないとし、B黒塗り部分と同部門とが一体となって売上振替集計表をなしており,全体が明らかとならなければ人事異動の根拠となる売上高減少の判断ができないとして,黒塗り部分についても引用文書に当たるとし,その部分を開示して提出することを命じた一審決定の結論が相当であるとした。
 本件原決定は、この判例に相反する。

  (4) 判例
 徳島地方裁判所/昭和58年12月20日決定/昭和58年(行ク)第4号、昭和58年(行ク)第5号、昭和58年(行ク)第6号は、受刑者が購入した雑誌の一部にせん情的で露骨なセックス写真記事等があるとして削除した刑務所長の処分の取消請求訴訟において、右削除部分が民訴法312条1号の「訴訟ニ於テ引用シタル文書」に当たるとして文書提出を命じた。以下の要点である。
 「・・・なお相手方は、本件文書の提出が命じられると、本件図書削除処分が実質的に取り消されたのと同一の結果となる旨主張する。確かに、本件文書が提出され口頭弁論に顕出されれば、申立人は書証としてその写しの交付を受けることになるとしても、それは民事司法における適正な裁判実現のために必要とされるものである。また、本件文書提出命令によつて、在監者である申立人が、刑務所施設内において本件文書を常時閲読可能な状態で所持することまで許容されるものではなく、当然民事訴訟の追行上必要な限度内での所持に限られねばならないことはいうまでもない。
 したがって、本件文書提出命令により、常に本件図書削除処分が実質的に取り消されるのと同一の結果となるわけのものではなく、またそうなる場合があるとしても、国民の裁判を受ける権利の実現という民事司法制度の運用上やむを得ないところであるというべきであり、所論は採用できない。
 また、相手方は、刑務所における矯正施設としての管理運営上の公共の利益が、申立人の性欲の満足という個人的利益を上回る旨主張する。しかし、全法律秩序の中での調和の要請から、一つの公共の利益が自余の利益のために譲歩することを相当とするような合理的理由が存する場合には、右譲歩を承認しなければならない。そして、所論の公共の利益が、日本国憲法によつて保障されている国民の裁判を受ける権利実現の利益のため、それに必要な限度で譲歩せしめられることには、これを相当とする合理的理由があるというべきである。そうすると、所論は、ひっきょう独自の見解であって採用できない。
 以上のとおりであるから、本件文書の所持者である被告は、その提出を拒むことができないものというべきであり、本件申立ては理由がある。」

 前記の判例で「本件文書提出命令により、常に本件図書削除処分が実質的に取り消されるのと同一の結果となるわけのものではなく、またそうなる場合があるとしても、国民の裁判を受ける権利の実現という民事司法制度の運用上やむを得ないところであるというべきであり」としているとおり、本件訴訟の別件訴訟としてなされ本件文書等の非公開取消訴訟の判決と本件文書提出命令の判断とは別個のものと認識すべきは明らかである。

5, 以上のとおり、本件原決定は判例に違反し、法令解釈を誤るから、取消されるべきである。

第3 民訴法220条4号ロ該当性
1, 原決定
 (1) 別紙文書目録3及び4の各文書の民訴法220条4号ロ該当性
 原決定は第2(ウ)Cにおいて、「その各処分の対象となった者とその処分内容が明らかにされることは,当事者間の信頼関係を損ね,指導監督との効果を失わせるおそれのみならず,上記各処分の前提となる事実関係の調査等への任意の協力が得られないなどの事態を招来することも想定され,今後の同種事務(公務)の円滑な遂行に著しい支障を生じさせるおそれがある。」とした。

 (2) 別紙文書目録2ないし4の文書について
 原決定は第2(ウ)aにおいて、「別紙文書目録2ないし4の文書については,いずれも公務員の人事に関する文書であって,非公開,秘密保持を前提として作成されたものであり、個人のプライバシーに係る情報が記載された文書である。」とした。
 「別紙文書目録2の文書は,懲戒処分の対象者とその処分内容とその恨拠となった事実関係が明らかになる。懲戒処分の対象となった者とその処分内容が明らかにされることは,当事者間の信頼関係を損ねるとともに,懲戒処分の前提となる事実関係の調査等への任意の協力が得られないなどの事態を招来させることも想定され,今後の同種事務(公務)の円滑な遂行に著しい支障を生じさせるおそれがある。したがって,除外事由がある。」とした。

 (3) 別紙文書目録5の文書について
   ア 原決定は、「別紙文書目録5の文書は,上記調査結果の報告を受けた特別委員会の意見(進達)の記載された書面である。その実質において上記の聞き取り調査票の情報を公開することになり,上記(ア)と同様のおそれがあるうえ,職員に対する最終的な処分に至る過程における意見を公開することは,将来,同種の人事管理に係る事務の公正又は円滑な執行に支障を生じさせ,岐阜 市における自由で公正な意思形成を阻害するおそれがあるなど,公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがある」とする。

   イ しかし、仮に情報公開条例で上記のことが言えたとしても、民事訴訟法の改正主旨からすれば、文書提出による支障は具体的かつ厳密でなければならないところ、相手方は何ら具体的に述べておらず、原決定は、根拠なく除外事由を認定したもので、原決定は、法令の解釈を誤る違法がある。よって、したがって,民訴法220条4号ロの除外事由はないから原決定は取り消されるべきである。

   ウ 「公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがある」と根拠なく断定しているのは、明らかに誤っている。
 市職員らは、本件第一審の書面尋問の結果のとおり、相当数が応じた(拒否したものはない)。しかし、現実に、職員からの不満や職員間の混乱、市の事務遂行の混乱も生じていない。
 例えば、幹部を中心に相当数が聞取りを受けた訳であるが、その後も賭けゴルフをしていたことが発覚するなど、(その行為は市民からは呆れた、の言葉しかないが)聞取り自体に職員へのプレッシャーはないのだから、それられ記録文書が提出されたからといって、少なくても、岐阜市の職員にとって、公務遂行の支障が生ずると予想する根拠はないというべきである。

2, 文書提出義務の原因として法第220条第4号に係る主張
 申立に係る文書は以下に述べるとおり、民事訴訟法第220条第4号を適用するに当たって除外すべき文書とされるイロハニホのいずれにも該当しないから、所持者である本件相手方岐阜市長には第220条第4号によって本件文書の提出義務がある。原決定は、ロについて認定したので、ロに該当しない理由を述べる。
 (1) 本件各文書について
 本件各文書は本件相手方岐阜市長が市職員らの勤務中に公職選挙法に違反して行った行為や処分の内容、委員会の意見などを記した文書である。
 公務員の当該非違行為について、しかも、勤務中に行ったことが大部分であることについての聴取及び当該行為を根拠とする処分に関する記録であるから、公務員の職務上の秘密には該当しない。
 憲法第15条2項「公務員は全体の奉仕者」、地方公務員法第30条「公共の利益のために勤務し、職務の遂行にあたっては、全力を挙げてこれに専念」、同第33条「その職の信用を傷つけ、職全体の不名誉となるような行為をしてはならない」、同第35条「職務専念義務」等の公務員の責務に照らせば、到底秘密にすべきこととは言えない。 また、事案や人的流れ等は報道され、逮捕者らは職氏名等も公表さている。
 本件各文書中に記録された情報が公務員以外に知れても公共の利益を害することは考えようがないし、公務の遂行に支障はない。少なくても「著しい」支障が生ずることはあり得ない。
 そもそも、事件の全体は終結しているし、職員らも事案を認めているのだから、本件訴訟に提出することによって支障が生ずるおそれはない。
 よって、ロにいう除外文書に該当しない

 (2) 法第220条第4号ロ非該当性
 本件申立文書−1、2、3、4、5に関して、前項のとおりの位置付けができること及び当該文書の作成の経緯や内容からも、申立文書の提出が本件相手方市長の守秘義務違反を生ずるとは、到底言えない。
 また、同時に、本件の事情から類推しても、公務の遂行に支障が生ずるものと考える必要はないといえる。
 よって、申立文書のいずれも、法第220条第4号のロに該当性しない。

 (3) 守秘義務及び公務への支障について
 原審で証人尋問に代わる書面の提出が認容されていることは、証人として採用されていることと同義である。それは、当該尋問の内容から判断しても、本件提出命令申立に係る調査票記載の設問と何ら変わらないものといえるにもかかわらず、決してプライバシーの侵害や公務遂行の支障にならないことは、明白である。 この経緯や内容から類推しても、本件文書の提出によって本件相手方に守秘義務違反が生ずるとか、市の公務に支障が生ずるとの具体的な蓋然性は見いだせない。

 (4) なお、前記の第5の4のとおり、文書提出命令の制度は情報公開の法令より提出の義務が高いことが立法者から示されている。

3, 今回の民事訴訟法の一部を改正する法律案について
 (1) 民事訴訟法の一部を改正する法律(第151回国会提出、2001年6月27日成立。同7月4日法律第96号として公布。同年9月19日官報本紙3204号2頁掲載の政令303号「民事訴訟法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令」により、同年12月1日施行。)に関する政府の提案理由は「民事訴訟における証拠収集手続の一層の充実を図るため、公務員又は公務員であった者がその職務に関し保管し、又は所持する文書に係る文書提出命令について、私文書の場合においても提出義務が除外されている文書のほか、その提出により公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがある文書等を除いて、文書提出義務があるものとするとともに、除外された文書に該当するかどうかを裁判所が判断するものとし、その判断のための手続としていわゆるインカメラ手続を設ける等の措置を講ずる必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。」とされている。
 この改正の経緯及び趣旨を述べ、法令解釈の立脚点を下記で明らかにする。

 (2) 改正の経緯
 改正の経緯について、政府は「平成八年の新民事訴訟法政府原案は、文書提出義務の対象となる文書の範囲を拡張する反面、公務員の職務上の秘密に関する文書については、監督官庁が承認をしない限り提出義務はないとしたもの。この枠組みに対し、国会で、行政情報公開の流れに逆行し、行政官庁による提出拒否を正当化することになるのではないかという指摘があり、公文書の提出の一般義務化を見送った」と述べている(原審提出命令申立に添付した資料/改正法案を審議した衆議院法務委員会の議事録/1頁29〜38行目)。
 さらに「改正法案では、公文書の提出義務も私文書のそれと同様に一般義務化し、その提出により公共の利益を害し、または公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがある文書等を除いて、一般的に提出義務があるとした。公務員の職務上の秘密に関する文書に該当するか否かの点も裁判所が判断する」(同/2頁18〜21行目)としている。
 行政官庁による提出拒否の事態を極力回避するために、当初の政府原案を修正するために公文書の提出の一般義務化を一時見送ったのである。換言すれば、今回の法律改正の趣旨は、行政官庁の判断によるのでなく裁判所の判断に委ねる、というものである。
 客観的な判断に基づく公文書の提出命令を目的としていることは明白である。

 (3) 証拠の偏在を回避することについて
  「証拠が一方の当事者に偏在している事件においては、当事者の実質的な対等を確保することができないというような指摘があった」(同/2頁8〜14行目)との意見について「御指摘のとおり」と答弁しているとおり、証拠の偏在を回避し、当事者の実質的な対等を確保することを目的として改正しているのである。

 (4) ロの除外事由に関して、行政情報公開制度との比較 
 法律の220条4号のロの除外事由に関して、行政情報公開法による開示の範囲と、公文書に対する文書提出命令による提出が命ぜられる範囲のどちらが広いかについて、「情報公開法の個人に関する情報それから法人に関する情報については、情報公開制度の中では不開示文書そのものに当たるという位置づけをしているが、民事訴訟法に関しては、そういうものであっても、『公務員の職務上の秘密に関する文書でその提出により公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるもの』は除外されるとしており、これを比較すると、民事訴訟法の方が提出される文書が広くなる」と答弁している(同/3頁32〜37行目)。

 (5) ロの公務遂行上の支障のおそれ
 「提出により公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるものとの規定があるが、公共の利益は著しく増進し、その反面、公務の遂行に著しく支障を来すような場合にはどうなるか」(同/14頁2〜3行目行目)との質問に、 「基本的な考え方として、この『公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがある』場合とは、公共の利益を害するおそれがある場合の一類型である。このおそれがある場合の内容をより明確にするために、特に明文で規定したもので、一番大きな範囲はやはり、公共の利益を害するおそれにある」(同/14頁5〜8行目行目)と答弁している。
 さらに、公務の支障について「そこに書かれている、記載されていることそれ自体が外へ出るということによって今後の公務の遂行にいろいろ支障がある、あるいは私人からいろいろ預かっているもの、これは秘密であるということで特に預かっているもの等があるがこういうものを出したということになると、今後はもう協力も得られない、あるいはその方の守秘義務を害するとか、そういうような実質的な公務の支障を言っている」(同/14頁16〜20行目)。
 公務の遂行への著しい支障のおそれの解釈について、公共の利益を害するおそれの一類型であるから、公共の利益を害するおそれを逸脱した認定はあり得ない。さらに、公共の利益は著しく増進し、その反面、公務の遂行に著しく支障を来すような場合には、前者をとるべきなのである。
 また、実質的な公務の支障のおそれであるから、客観的かつ明白あるいは蓋然性のあるおそれでなければならないのである。

 (6) 以上のとおり、法改正により行政文書に関して格別に提出義務が高まった。

4, 4号ロ非該当性について
 (1) 情報公開条例の規定とは異なること
 自治体の情報公開条例で「公務」「職務遂行」などの情報に非公開事由を設ける場合がある。本件の岐阜市も同様である。
 しかし、文書提出命令における「公務員の職務=公務」「職務上の=職務遂行」「公務の遂行=職務遂行」とは、情報公開条例の規定と同列視して判断するのでなく、地方公務員法など職務の基本を定める法令によらなければならないのは言うまでもない。

 (2) 懲戒等と法令について
 地方公務員法第29条1項は「処分」を、同2項は「条例で定め」とし、同第49条は説明書の交付等を、同第49条の2、3、同第50条、51条、51条の2は不服申立を規定している。
 そして、地方公務員法第27条は分限及び懲戒の基準を定め、同第28条は降任、免職、休職等を定め、同第30条は服務の根本基準を、同第32条は法令等に従う義務を、同第33条は信用失墜行為の禁止を、同第35条は職務専念義務を規定している。
 地方公務員法第31条に関して「職員の服務の宣誓に関する条例(昭和26年条例5号)を定めている。
 本件文書は、このように法令で位置付けられた公務員の公務に係る懲戒処分の必要性判断等のための調査記録、あるいはその結果である。
 即ち、単に、純粋な公務に関する情報である。

 (3) 職務上の秘密について
 次の判例の趣旨に照らしても、本件文書は1号に当たらないばかりか、職務上の秘密に該当しないというべきである。
 名古屋高等裁判所/昭和52年2月3日決定/昭和51年(行ス)第1号は、(旧)民訴法272条、281条1項1号の規定は、同法312条の規定により文書提出義務を負う文書所持者に類推適用はないものと解すべきである、とした。要点は以下のようである。
 「本件文書は、原決定がその理由四、に説示のとおり、相手方がその本案訴訟において証拠として取調べを請求した文書の原本であり、隠ペい部分はその内容の一部をなしているものであるから、それは相手方が訴訟に提出した右の乙号各証をとおしてその文書の存在を明らかにして自己の主張の根拠としたものであり、まさに相手方が当事者として訴訟において引用した文書に当るというべきであつて、一つの文書についてその一部分の内容を準備書面等において言及していないことを理由に引用文書に該当しないものということはできない。そして、取調のために提出された文書の内容の一部が隠ぺいされているときは、民訴法三二一条一号の文書として、当該訴訟における相手方は原則としてその隠ぺい部分の開示を求めることができるというべきである。
 そこで進んで、本件文書は納税者が申告した法人税或いは所得税の申告書並びにその附属書類であるから、その隠ぺい部分を開示したこれらの文書を提出するときには、相手方或いは他の税務職員がその職務上知り得た特定の納税者の所得に関する秘密を公にすることになるので、相手方としては所得税法二四三条、法人税法一六三条の規定による守秘義務に違反することになるという理由で本件文書の提出義務を免除されるものであるか考察する。文書所持者の証拠調べの協力義務である文書打出義務は、限定的ではあるが、公法上の義務、訴訟法上の義務として証人義務と同じ性格を有するものであるけれども、民訴法三一二条一号の当事者がみずから引用した文書については、証言拒絶に関する民訴法二七二条、二八〇条、二八一条の規定は類推適用されず、たとえ守秘義務のあるものであつても提出義務は免除されないと解すべぎである。けだし、民訴法三一二条一号で当事者がみずから引用した文書について提出義務を認めたのは、もっぱら訴訟において当事者は実質的に平等であらねばならないという基本的要請に基づくものであり、当事者が訴訟においてその所持する文書をみずから引用して自己の主張の根拠としながら、秘密の保持を要請されているからといつてその提出を拒否するのは当該訴訟における相手方、本件について言えば抗告人の防禦権を侵害するばかりでなく、訴訟における信義誠実の原則に反し、文書を引用してなした租手方の主張が真実であるとの心証を一方的に形成せしめ適正な裁判を誤らしめる危険さえ包蔵しているのでこれを抗告人の批判にさらすことが採証法則上公正であると考えられるからであり、そしてこのような場合秘密の保持を要請されている内容の文書であるにもかかわらずこれを訴訟維持のために敢えてみずからの主張の根拠にした当事者は、該文書についての守秘義務を遵守せず、それによつて得られる秘密保持の利益を放棄したものとみなされるべきだからである。」

 (4) 比較考量 
   ア 本件においては、事案の発覚の経緯、全職員がリポートを提出していること、事件後は職員研修が頻繁になされていること、相当人数の処分もなされたこと、刑事事件も判決が確定したこと、市長が辞職したこと、などを勘案すれば、再び、市の職員が職制を利用して違法な選挙運動を行う、というようなことは将来は予想され得ない。
 よって、本件においては、この事情が考慮されねばならない。
 しかも、本件文書に係る職員の行為が、憲法、地方自治法、地方公務員法等で定める公務員の位置付けと責務にかかわる重大なものであることを考慮して比較衡量されねばならない。
 また、提出命令によって、4号ロの「公共の利益」を害することはなく、逆に公益に資する異は明らかである。

   イ 4号ロで規定する公務員の職務上の秘密に関して、本件では人事管理に係る事務が考えられるが、人事管理に係る事務というものの大部分が定期的な異動や昇進等に係る事務が基本である。
 本件は、前代未聞の職員の非違行為であり、例外的な人事案件であって、しかも前記のとおり公務に関しての極めて特殊な場合である。

   ウ 大阪高等裁判所/平成元年6月28日決定/平成元年(ラ)第194号は、当該文書の提出によって第三者の秘密が公表されるおそれのある場合に、諸般の事情を比較衡量した上でその提出を命じた。以下の要点である。
 「・・もっとも、引用文書であっても、それが提出されるごとにより第三者の秘密が公表されるおそれのあるようなときには、同法二八一条等の趣旨に照らして、当該文書の提出を拒絶できる場合がありうることはこれを否定することかできないけれども、そのようなおそれのあるときであっても、当該文書の性質・内容、文書の提出により公表されることになる第三者の秘密の内容や秘密漏洩の蓋然性の程度、当該文書の重要性及びこれに替わりうる証拠の存否等諸般の事情を比較衡量した結果、なおこれを提出させることか相当と認められるような場合には、所持者はその提出を拒みえないものと解するのが相当である。
 そこで、右のような前提に立って本件名簿を提出させることが相当と認められるかどうかについて検討するに、本件名簿の記載事項は被告神社を崇敬する者の氏名住所のみであって、他に第三者の名誉・信用等を毀損するような記載はなく、また、その内容が公表されるといっても、相手方及び訴訟記録を閲覧する者にその内容を知る機会が与えられることになるだけで、不特定多数の者に広くその内容を公開して顕示するものでもない。
 他方、挙証者である相手方らにとっては、本件名簿は、相手方らか被告神社の氏子であるとの主張事実を証明すべき殆ど唯一の直接的な証拠方法であり、他にこれに替わるべき的確な証拠の存在は考え難く、また抗告人としても、その主張のとおり本件名簿に相手方らの記載かないというのであれば、これが証拠として提出されれば、そのことは一目瞭然であるのに、これを引用するだけで証拠として提出しようとしないのは公正を欠くものと評さざるをえないところであって、以上のような諸事情をかれこれ比較衡量するならば、本件名簿の所持者である抗告人にこれを提出させるのが相当と認められるから、抗告人が本件名簿の提出を拒絶することは許されないものというべきである」

 (5) 裁判に提出されても著しい支障はないことについて
   ア 地方公務員の非違行為への対応について
 地方公務員法第1条には「地方公共団体の行政の民主的且つ能率的な運営」とある。本件はその行政機関職員が組織的に違反したというのだから、単に職員個人の問題とするのでなく、住民や自治体に利害や関心が高い問題であるとの観点が不可欠である。
 本件事案の解明と再発防止策の徹底は、岐阜市のその後の市政の運営に不可欠であるからこそ、本件相手方みずから要綱を定め(甲第29号証)、外部の委員を特別に任命してまで(甲第30号証)委員会をつくり、そこに諮るための調査をしたものである。
 このような場合の調査においては、関係した職員は調査に応ずる義務がある。本件のような事案は他に例はないのだから、仮に本件文書を明らかにしたときの影響に関して多少の支障や懸念があるとしても、この事案についての懸念が他の一般的な人事に影響する、調査に影響する、とまでは言えず、まして著しい支障など生じない。

   イ 本件事案の特質に関して
   (ア) 本件は行政機関の組織ぐるみの不法行為ともいうべき事案であって、今後将来はあり得ないはずの特殊な事案である。
 この特殊な事案への関与についての職員の反省は強いから、関係職員は、処分を覚悟し、調査に率先して臨んだ、といってよい。
 これは、全職員がリポートを提出していることからも窺えるのである。
 このことからも、信頼関係が破壊されるおそれとか、率直な情報の提供が妨げられるおそれとか、本件相手方に対する信頼が損なわれるおそれとか、今後の情報提供を得ることが困難となり、事案の実態・真実を的確に把握できないおそれとかはない。
 仮に市職員らが市に対する信頼を失ったとしても、同種調査の実施に必要な行為をしないとは考えられない。

   (イ) 本件と同種の不適正行為の調査が行なわれる場合、それは、市長などの責任者から個々の市職員に対する職務上の命令として実施されるはずである。
 そして、個々の市職員らは、内心においてどのように感ずるかに関わらず、上司の適法な職務命令に従う義務があり(地方公務員法第31条)、これに従わない場合懲戒処分の対象となる(同法第1条第1項第2号)。このことは、市職員全員が、服務宣誓、業務研修及び日常の業務等を通じて十分熟知しているものである。
 仮に、一部に調査に否定的な者がでるとしても、それはすべからく各種調査一般に言える程度のことである。
 そもそも、本件のような全庁調査は、不正に関与した職員の自己申告によりかかってはならないのであるから、仮に一部の職員が市に対する信頼を失ったとしても、実施するものである。

   (ウ) そして、当該公務員が単に他者から言論による非難を受けたり、マスコミの取材を受けるだけでは、社会生活に必要な法規範その他の社会秩序が害されると評価することはできない。本件では、当該市職員らは市民に貞献すべき立場にあるのに、多かれ少なかれ選挙違反事件に関与している以上、当該市職員らこそが社会規範・社会秩序から逸脱した行動をとったものである。
 仮に、市民が市職員のかかる行為を非難することがあっても、社会における正常・正当な行動であって、刑事・民事とも名誉毀損に該当するとは考えられず、法的にも是認されたものであるというべきである。また、市職員の不正事件に関する事実は社会の正当な関心事である。

5, 判例
 (1) 文書提出命令申立事件/神戸地方裁判所決定/平成13年(モ)第1463号/平成14年6月6日決定は、@労災認定にかかる労基署長所有の「同僚よりの聴取書」,「各復命書」,「地方労災医員作成の意見書」,「気象観測照会結果」,「救急活動状況照会結果」,「診療給付歴照会結果」がいずれも民訴法220条4号所定の除外文書には該当せず,いわゆる一般義務文書に該当するとした。
 さらに、A本件各文書が,「公務員の職務上の秘密に関する文書」ではないこと,その提出により「公共の利益を害し,又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがある」文書でないことの主張・立証は申立人が行わなければならないが,申立人は申立てにかかる文書を所持しておらず,その内容を具体的に認識することは困難であるから,文書を所持する相手方が提出義務があることを争うときは,民訴法220条4号ロの除外事由に該当する具体的な事情を反証する必要があり,反証のない限り,除外文書には該当しないことが推認されると解されるのが相当であるとした。
 加えて、B民訴法220条4号ロの公務秘密文書といえるためには,当該文書に記載された職務上の秘密の公開により公共の利益を害し,または公務の遂行に著しい支障を生ずる可能性が具体的に存しなければならないとさした。
 以上に照らしても、本件原決定は判例に違背している。

 (2) 文書提出命令申立事件/京都地方裁判所決定/平成10年(モ)第3129号/平成11年3月1日決定は、賃金台帳は、新民事訴訟法二二○条四号のロおよびハに該当せず、相手方にはその提出義務があるとして、申立人が求めた全従業員の賃金台帳の提出を認めた。
 「相手方は、賃金台帳は、民事訴訟法二二○条四号口が定める「職業の秘密に関する事項」(同法一九七条一項三号)で「黙秘の義務が免除されていないものが記載されている文書」に該当する旨主張する。
 しかしながら、同法一九七条一項三号にいう「職業の秘密」とは、その秘密が公表されると、その職業に経済上重大な打撃を与え、社会的に正当な職業の維持遂行が不可能又は著しく困難になるようなものをいうと解すべきところ、従業員の賃金や労働時間の状況等が公開されたとしても、相手方の業務遂行が不可能又は著しく困難になるような事情を認めることはできないから、賃金台帳が、同法二二○条四号ロに該当する文書であるということはできない。また、自己の賃金を公表されたくないという従業員のプライバシーは、保護に値しないものではないが、その公表によって生じる不利益は、賃金台帳を提出させ、適正な事実認定をすることによって得られる利益を上回るほど重大なものではないと考えられるので、従業員のプライバシーを根拠に文書提出義務を否定することはできない。」としたのである。

6, 以上、本件原決定は、判例に反し、法令解釈を誤るから、取り消されるべきである。
                                                                          以上