H15.12.25 名古屋高等裁判所 平成14年(行コ)第9号実行委員会文書非公開処分取消請求控訴事件
事件番号 :平成14年(行コ)第9号
事件名 :実行委員会文書非公開処分取消請求控訴事件
裁判年月日 :H15.12.25
裁判所名 :名古屋高等裁判所
部 :民事第1部
結果 :取消自判
原審裁判所名:岐阜地方裁判所
原審事件番号:平成12年(行ウ)第4号
原審結果 :棄却
判示事項の要旨:
第20回宇宙技術及び科学の国際シンポジウム岐阜県事業実行委員会等の実行委員会が,岐阜県情報公開条例2条の「実施機関」に含まれ,本件各文書は,同条例2条2項の実施機関の職員が作成し,又は取得した文書であって,実施機関が管理している文書に当たるとして,文書公開を認めなかった1審判決を取り消した事例
主 文
1 原判決を取り消す。
2 1審被告の1審原告らに対する平成9年10月31日付け非公開処分(工振第538号の2)を取り消す。
3 1審被告の1審原告らに対する平成9年11月7日付け非公開処分(地振第494号)を取り消す。
4 1審被告の1審原告らに対する平成9年11月7日付け非公開処分(地自第216号)を取り消す。
5 1審被告の1審原告らに対する平成9年11月7日付け非公開処分(国文第59号)を取り消す。
6 1審被告の1審原告らに対する平成9年11月7日付け非公開処分(総文第168号の2)を取り消す。
7 1審被告の1審原告らに対する平成9年11月7日付け非公開処分(総文第168号)を取り消す。
8 訴訟費用は,第1,2審とも1審被告の負担とする。
事実及び理由
(以下,略語は原判決に準ずる。)
第1 当事者の求めた裁判
1 1審原告ら
主文同旨
2 1審被告
(1) 本件控訴を棄却する。
(2) 控訴費用は,1審原告らの負担とする。
第2 事案の概要
本件は,岐阜県(以下「県」という。)の住民である1審原告らが,岐阜県情報公開条例(平成6年岐阜県条例第22号。但し,平成12年岐阜県条例第56号による制定前のもの。以下「本件条例」という。)に基づき,1審被告に対し,@ 第20回宇宙技術及び科学の国際シンポジウム岐阜県事業実行委員会(以下「委員会@」という。)の平成8年度の負担金等の支出に関する収支予算書及び決算書の明細を表す文書並びに実行委員会の名簿(以下「本件文書@」という。),A 飛騨・美濃地域おこしフェア実行委員会(以下「委員会A」という。)の平成8年度の負担金等の支出に関する収支予算書及び決算書の明細を表す文書(以下「本件文書A」という。),B 全国地域づくり先進事例会議inぎふ実行委員会(以下「委員会B」という。)の平成8年度の負担金等の支出に関する収支予算書及び決算書の明細を表す文書並びに実行委員会の組織表(以下「本件文書B」という。),C 第14回国民文化祭岐阜県実行委員会(以下「委員会C」という。)の平成8年度の負担金等の支出に関する収支予算書及び決算書の明細を表す文書(以下「本件文書C」という。),D 文化庁芸術祭岐阜公演実行委員会(以下「委員会D」という。)の平成8年度の負担金等の支出に関する収支予算書及び決算書の明細を表す文書(以下「本件文書D」という。),E 岐阜県民文化祭運営協議会(以下「協議会E」という。)の平成8年度の負担金等の支出に関する収支予算書及び決算書の明細を表す文書(以下「本件文書E」という。)の公開を請求したところ,1審被告から,当該各文書を取得していないという理由でいずれも公開しない旨の処分(以下「本件各処分」という。)を受け,これに対する異議申立てに対して,本件各文書は,県とは別個,独立した本件各委員会が作成し,管理する文書であり,本件条例2条2項の「公文書」に該当しないという理由で棄却決定を受けたので,本件各処分の取消しを求めた事案である。
原審は,本件各委員会が,いずれも県とは独立した別個の権利能力なき社団であり,本件各文書は,同項の「公文書」に該当せず,また,既に解散した委員会@ないしDの作成した各文書も同条1項の実施機関が管理しているものとは認められず,同条2項の「公文書」に該当しないとして,1審原告らの本件請求をいずれも棄却したため,1審原告らが控訴した。
1 争いのない事実等は,原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」の1(争いのない事実)のとおりであるからこれを引用する。但し,原判決2頁15行目の「争いのない事実」を「争いのない事実等」に,17行目の「岐阜県民である。」を「岐阜県民である(1審原告らが肩書住所地に居住することは弁論の全趣旨により認める。)。」に,3頁3行目の「図面」を「図画」に,6行目の「宇宙技術」を「第20回宇宙技術」に,4頁9行目の「組織票」を「組織表」に,5頁17行目,19行目及び6頁1行目の各「異議申立」をいずれも「異議申立て」にそれぞれ改め,5頁15行目から16行目までを削除する。
2 争点
本件各文書は,本件条例2条2項の「実施機関の職員が職務上作成し,又は取得した文書」であって,「実施機関が管理しているもの」といえるか否か(本件各委員会は,県の事業の一部を実施するものであり,同条1項の「実施機関」と同視できるか。)。
3 争点に対する当事者の主張は,原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」の「2 争点」の「(原告の主張)」及び「(被告の主張)」のとおりであるからこれを引用する。但し,原判決6頁9行目の「本件各文書は,」を「本件各委員会は,以下の(2)ないし(4)のとおり,その業務執行の実態が,県の各所管課における事業実施と実質的に同一であり,県の一部というべきであり,本件各文書は,」に,9頁7行目の「要項」を「要綱」にそれぞれ改める。
4 当審における主張
(1) 1審原告ら
本件各委員会の業務執行の実態に即していえば,本件各委員会の業務は,県の各所管課において実施するものと差はなく,県が外部の者を入れて事業を実施する一方法にすぎない。仮に,本件各委員会が独立した任意団体であったとしても,その職員は同時に県の職員でもあり,本件各委員会での職務遂行はそれ自体,県の職員としての職務遂行という性質をも有するから,本件各文書は,実施機関の職員が職務上作成し,又は取得した文書というべきである。
また,本件各文書の保管,管理の根拠規定は,岐阜県公文書規程以外に存在しないところ,本件公開請求時,既に解散している委員会@ないしDについての文書は県の所管課で管理するもののほか,協議会Eが保有する文書についても,本件各委員会の職員は同時に県の職員であることからして,本件各委員会の職務に従事する県の職員が上記規程に基づいて管理しているとみるほかなく,実施機関が管理している文書に該当する。なお,本件各文書が県の業務に関する文書と物理的に分離されているとしても,1審被告が最終的な管理権者である県庁内の執務室内に保管されている以上,1審被告の支配下にあるもので,実施機関が管理しているというべきである。
(2) 1審被告
本件条例にいう実施機関たる県(知事)が,本件各文書を受け入れて,その支配下に置き,公文書規程等によってこれらを管理している事実はなく,本件各委員会において,本件各文書の引継ぎの決議等もなく,県もこれを引き継いでいない。そして,本件各文書は,県の業務に関する文書とは分離されて執務室等に事実上置かれているにすぎず,事務の用に供していないから,これらを公的に支配しているとはいえず,実施機関が管理している文書には該当しない。
第3 当裁判所の判断
1 本件条例2条2項は,「この条例において『公文書』とは,実施機関の職員が職務上作成し,又は取得した文書,図画及び写真であって,実施機関が管理しているものをいう。」と規定している。 したがって,本件各文書が本件条例による公開請求の対象となる公文書に当たるというためには,実施機関の職員が職務上作成し,又は取得した同項所定の文書であり,かつ,実施機関が管理しているものであることを要するというべきである。そして,同条1項は,「この条例において『実施機関』とは,知事,教育委員会,選挙管理委員会,人事委員会,監査委員,地方労働委員会,収用委員会及び内水面漁場管理委員会をいう。」と規定している。
本件において,1審原告らは,本件各委員会の平成8年度の負担金等の支出に関する収支予算書及び決算書の明細を表す文書等の公開を請求しているところ,これら各文書は,本件各委員会の職員が職務上作成したものと認められる(弁論の全趣旨)ので,本件各文書について実施機関が作成し,取得した文書であるとするには,まず,本件各委員会と県との関係,すなわち,同委員会は県の事業執行の一方法たる存在であるのかどうかが検討されなければならない。
2 そこで,まず,県における実行委員会の設置とその具体的な内容及び方針等,本件各委員会の目的等について検討すると,以下のとおりの事実が認められる。
(1) 一般に,地方公共団体においては,地方行政への住民の参加や協力等を促し,行政運営を円滑にするなどの目的から,地方公共団体以外の第三者たる個人ないし団体に対し,一定の事業計画等への参加,協力を求め,各種の実行委員会方式により事業の実施を行う例が多いところ,県においても,本庁各課及び出先機関(地方自治大学校等)等の所管事業において,当該事業実施の手法として,実行委員会方式によるのが民間等の資金や意見等を反映し,効果的であると判断した場合,民間を含む関係機関に対して事業趣旨等の説明や事業主体への参加の依頼等を行い,その賛同を得て,実行委員会を設置しており,その予算については,補助金交付規則や条例によらず,予算計上の段階で,知事が公益上必要と判断し,地方自治法211条の規定に基づき,当該実行委員会に対する負担金を含めた予算を調製し,議会が当該事業を含む予算等の審議を行い,可決成立して予算が定められ,事業の実施が承認されている。そして,実行委員会への負担金の支出は,県の予算執行として行われる。本件各委員会もそれぞれ各事業を実施するための手法として実行委員会方式によったもので,その事務局は,県の所管課(出先機関も含む。)に設置され,本庁舎等(行政財産)を使用することについて目的外使用の許可申請をする必要がないものとして取り扱われている。そして,本件各委員会の事務局長は,いずれも県の所管課長が前任者からの引継ぎを受けて就任するものであり,県からの辞令の交付はなく,また,県の担当職員は,職務専念義務の免除を受けることなく,本件各委員会の事務に従事し,県から給与と手当の支給を受けている。そして,県(中間機構等を含む。)が実行委員会の事務局を担当する場合における実行委員会の経理事務についての留意点として,@ 実行委員会体制の方針として,所管部局長の責任を明確にした実行体制をとること及び会計監事を複数人設置することとし,県の職員は1名とし,出納課長又はこれに準ずる者を充てること,会計監事は,決算監査のほか,必要に応じ随時監査を行い,監事の監査を徹底すること(甲41の2),A 実行委員会の経理処理については,岐阜県会計規則(昭和32年岐阜県規則第19号)の規定に準じて適正に行うこととし,収入及び支出に関する事前決裁書は必ず作成し,決裁権者の決裁を受けること,出張に係る旅費については岐阜県職員等旅費条例(昭和32年岐阜県条例第30号)等関係法令の規定に準じた取扱いを行うこと,旅行命令書の所定欄には旅行命令権者が確実に認印を押印すること,収入又は支出の原因となった書類(請求書等)を添付した収入金調書又は支出金調書は必ず作成し,決裁権者の決裁を受けること,実行委員会解散後も予算・決算,負担金,実績報告の各書類について,議会,県民等に説明できるよう整理しておくこと,B 実行委員会の文書の整理,保管,保存及び廃棄は,事務局所管課において,岐阜県公文書規程(昭和44年岐阜県訓令甲第1号)の規定に準じて処理することなどを挙げて,平成9年5月20日付けで行政管理室長から各部(局)主管課長等宛通知(行管第40号,甲41の1,2)がなされ,実行委員会の事務局を担当する当該職員等への県としての具体的取扱いや留意点の周知徹底を図っている(なお,この通知は,甲40号証によれば,従前の処理方法を改めたものではなく,当該担当職員に対し,改めて,これを周知させるためのものであり,従前も同様の取扱いを原則としていたことが窺える。甲40,41の1,乙2ないし13,20,弁論の全趣旨)。
(2) そして,本件各委員会の目的,組織,収支状況等については,原判決「事実及び理由」の「第
3 争点に対する判断」の1(1)ないし(6)のとおり(原判決10頁11行目から18頁17行目まで)であるのでこれを引用する。但し,原判決10頁14行目の「(甲6)」,12頁2行目の「平成8年9月27日,」及び14頁7行目の「平成8年8月19日,」をいずれも削除し,18頁5行目の末尾に,「なお,平成15年4月1日から事務局が岐阜県教育文化財団(岐阜県県民ふれあい会館内)に移転している。」を加える。
(3) 本件各委員会には,文書保存に関する規程等は存在しておらず,本件各委員会で作成し,取得した文書は,事務局の担当職員において県の事業関連の文書と区別して保管しており,本件各委員会(委員会@ないしD)の解散後も,県への文書の引継ぎを行っておらず,県庁等の敷地内の倉庫等に事実上保管している状況にある(乙17,18,20,弁論の全趣旨)。
3 以上の事実を前提に,本件各委員会と県との関係について検討すると,上記認定事実によれば,@ 県は,各所管事業において,当該事業実施の手法として,実行委員会方式によることが相当であると判断した場合には,民間を含む関係機関に対して参加依頼を行い,その賛同を得て,実行委員会を設置するもので,本件各委員会も,県の事業の円滑な運営を図ることないし会議,公演等の企画及び実施に関する業務を行うことを目的とし,また,県民の文化活動への参加意欲を喚起し,新しい文化の創造を促し,地方文化の交流・発展に寄与することや県民文化祭の総合的,かつ効果的な運営を期すために設置が計画されたものであること,A これを受けて,県は,各事業の内容,特質に応じて,国の機関,民間の関係諸団体の長及び学識経験者等に参加,協力を働きかけ,その賛同のもとに参加を得て設置したもので,その設置には,県が深く関与し,その運営についても,県知事が本件各委員会の名誉委員(委員会@),会長(同BないしE)に,又は県企画部長が会長(委員会A)にそれぞれ就任して要職を占め,その中心的な役割を果たしていること,B そして,本件各委員会の事務局は,県の各所管課に設置されており,その事務のほとんどは,県の職員が担当し(なお,本件各委員会において,事務局の職員を別途雇用していたことを認めるべき証拠はない。),本件各委員会において職務上作成すべき文書については,県の担当職員が作成しているものと認められ,当該職員の本件各委員会における職務については公務員の職務専念義務違反等は問題とされず,給与及び手当等も県の職員としての通常の基準により県から支給されていること,C その予算(経費)についても,県から支出される負担金が,最も少ないもので総収入の約61.4%(委員会D)であり,他は,すべて85%以上を占めており,県議会において,県の事業の概要として本件各委員会の開催費用等の承認を得ていること(甲42),D 本件各委員会の経理事務についても,岐阜県会計規則に準じて処理し,実行委員会解散後においても予算・決算及び負担金等の各書類につき,議会や県民等に説明できるよう整理すること,また,本件各委員会には文書管理規程等がなく,その文書の整理,保管等は,県の事務局所管課において,岐阜県公文書規程に準じて処理することなどの指導がされているもので,本件各委員会の事務局が設置されている所管課で本件各文書を事実上管理していることなどが認められる。
そうすると,県は,(1審被告の主張するような)単なる本件各委員会の構成員にすぎないということはできず,本件各委員会と一定の距離を保ち,対等ないしは独立した位置にあることを前提にして,互いに協働するといった関係にもないものであって,これを裏返せば,本件各委員会は県の事業執行の一方法たる存在であるということができ,本件各委員会の運営等の事務は県の処理すべき事務に含まれるというべきである。したがって,本件各委員会の職員が職務上作成し,又は取得した本件各文書は,本件条例2条2項にいう実施機関の職員が職務上作成し,又は取得した文書であって,実施機関が管理している文書であると解するのが相当である。なお,本件各委員会のうち協議会E以外の各委員会は既に解散しているが,その文書については,正式に県との引継ぎを行ってはいないものの,そもそも本件各委員会自体が実施機関に含まれる以上,現在,実施機関が管理している文書ということができる。
そして,本件条例は,第1条において,情報公開の目的を,「県民の公文書の公開を請求する権利を明らかにするとともに,情報公開の総合的な推進に関し必要な事項を定めることにより,県民の県政への参加を促し,県政に対する理解と信頼を深め,もって開かれた県政を実現することを目的とする。」とし,第3条では,本件条例の解釈と運用の基本につき,「実施機関は,公文書の公開を求める権利が十分に尊重されるようこの条例を解釈し,運用するものとする。」と定めているところ,上記のとおり解するのでなければ,かえって県のなすべき事務について,民間等の協力を得ることを理由として実行委員会方式で運営することにより,県において,当該委員会の要職を占め,運営等についても深く係わり,その収入の相当額に当たる負担金を支出しながら,本件各文書のような県の職員が職務上作成し,又は取得した文書が公開の対象から除かれる結果となり,本件条例自体が定める目的や解釈と運用に反することにもなりかねず,相当でないというべきである。
4 1審被告は,本件各委員会が県と県以外の団体により構成され,その代表者が定まっており,本件各委員会の収支及び実施計画が独自に決定され,予算の執行が県の会計とは独立していて,契約行為や支払が実行委員会名で行われていることなどから,本件各委員会が県とは別個独立した権利能力なき社団であり,本件条例2条2項の公文書に該当しない旨主張している。
しかしながら,前記認定の本件各委員会の設置目的から同委員会が県とその他の団体等により構成されていることは当然のことであり,代表者が定まっており,実行委員会名で契約行為がなされることは,その活動をより機動的になすためのものであるといえるものであり,更に,一定の意思決定を行うことを予定しているとしても,県と異なる独自の利益の追求やその方針と異なる任務を果たすことは,その設置目的から予定されていないのであり,これらをもって,本件各委員会が県と別個,独立したものであるとは認められず,上記認定を左右するものではない。
5 以上によれば,1審原告らの公開請求に係る本件各文書について,その不存在(本件各文書を作成,取得ないし管理をしていないこと)を理由としてこれを非公開とした本件各処分はいずれも違法である。
第4 結論
よって,1審原告らの本件請求は,いずれも理由があり,これを認容すべきところ,これと結論を異にする原判決は不当であるから,これを取り消した上,1審原告らの本件請求を認容し,訴訟費用の負担を定めて,主文のとおり判決する。
名古屋高等裁判所民事第1部
裁判長裁判官 田 中 由 子
裁判官 小 林 克 美
裁判官 佐 藤 真 弘
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