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岐阜県議会議員選挙公営費第2次返還請求事件
訴訟物の価格 金1.600.000円
貼用印紙額     金13.000円
予納郵券代金    金10.000円
      訴   状
原告 寺町知正 外5名(目録の通り)
被告 岐阜県知事 古田肇 
   〒500−8570 岐阜市薮田南2−1−1 
                             2008年8月28日
岐阜地方裁判所民事部御中
             請 求 の 趣 旨
1. 被告は、別紙−1「2007年 岐阜県議会議員選挙」及び別紙−2「2003年 岐阜県議会議員選挙」の各表中、各左側「選挙運動用自動車の使用」欄の「燃料の使用」欄の「%」欄のうち、「100%」から「50%以上」までの各欄に「率」の記載のある「候補者名」欄の記載の者及び当該候補者に対応する「燃料の使用」欄中の「契約名義」欄に記載のある者に対し各「返還額」欄記載の各金額及びこれに対する本訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うように請求せよ。
2. 被告が、別紙−1「2007年 岐阜県議会議員選挙」及び別紙−2「2003年 岐阜県議会議員選挙」の各表中、各左側「選挙運動用自動車の使用」欄の「ハイヤー方式」「自動車の借上」「燃料の使用」「運転手の雇用」欄にかかる選挙公営費に関して、水増しもしくは真実と異なる請求をした「候補者名」欄の記載の者及び各「契約名義」欄に記載のある者に対し当該水増し部分の各金額もしくは真実と異なることで本来請求する権利を有さない部分の各金額及びこれに対する本訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うように請求することを怠ることは違法であることを確認する。
3. 訴訟費用は、被告の負担とする。
  との判決、ならびに第1項につき仮執行宣言を求める。

           請 求 の 原 因
第1 はじめに
 昨年2007年4月及び2003年4月実施の岐阜県議選における選挙公営に関して、詐欺による水増し請求があったとしてポスター代の返還を求める住民訴訟が継続中である。
 当該選挙に関して、ポスター代以外の「選挙カーの燃料費」「選挙カーの借上料」「選挙カーの運転手の日当」についても、疑惑がもたれ、自主返還の例も出ている。
 選挙公営に関しては、山県市の詐欺事件に始まり、住民訴訟においても岐阜県内の状況や事件が全国のもっとも先を行き、注目を集め、あるいは事例として各地で使われている。
 原告は、当該選挙カー関連費用につき、岐阜県監査委員に監査請求したが、監査委員は何も審査せず「すべて却下する」つまり「全部門前払い」という信じがたい違法をなした。
 原告は、到底納得できないので、裁判所の判断を仰ぐべく住民訴訟を提起する。
第2 当事者
1. 原告は、肩書地に居住する住民である。
2. 被告は、岐阜県知事古田肇(以下、「被告」という)である。
3. 原告らが被告に対して不当利得返還請求もしくは損害賠償請求するよう求める相手方は、2003年4月執行もしくは2007年4月執行の岐阜県議選に立候補し選挙公営制度における公費負担(ポスター代を除く)を請求した候補者及びその候補者に対応する業者や運転手らとして届け出た者のうち、水増しもしくは真実と異なる請求をした者である。

第3 住民監査請求前置と本件提訴
1. 本件住民監査請求の結果
 原告らは、2008年5月30日、岐阜県監査委員に住民監査請求した。監査委員は同7月28日付けで却下し結果通知し(甲第1号証)、原告らは同29日以降に受け取った。
 その要点は、次のとおりである。

「 本件請求をみると、損害賠償請求権を行使しないことが怠る事実であるか否かを監査するためには、県の財務会計上の行為(燃料費等の支出)が違法あるいは不当であったか否かを判断しなければならないものである。つまり、本件請求は、上記平成14年判決のとおり、財務会計上の行為(燃料費等の支出)が違法あるいは不当であるか否かを判断しなければ怠る事実(不当利得返還請求権の不行使)の監査を遂げることができないという関係にあり、これを客観的、実質的にみれば、当該行為を対象とする監査を求める趣旨を含むものとみざるを得ない。
 したがって、平成15年執行の県議会議員選挙に関する請求は、法第242条第2項の期間制限の適用を受けるものであり、その他同条同項ただし書による正当な理由もないことから、監査請求の対象とは認められない。
 次に、請求人は、平成19年執行の県議会議員選挙に関する燃料費等の支出が違法又は不当であると主張する。
 住民監査請求が、適法なものとして受理されるためには、問題としている財務会計上の行為が法令に違反している等の違法性又は不当性を具体的かつ客観的な事実の摘示により主張されていることを要するものである。
 しかしながら、本件請求においては、選挙運動用自動車の燃料費について、請求人が設定した仮定の数値によって1日の走行距離を計算し、これを基に条例で定める基準額の50%を超える部分が水増し請求であると指摘するのみであり、法令に違反していること等を示す上記の具体的かつ客観的な事実が摘示されていない。
  以上により、本件請求については、法第242条に定める住民監査請求の対象には該当しないため、請求を却下する。」

2. 本件監査は違法である
 住民監査請求制度は、住民が違法な支出や財産の管理の怠りの存在もしくはその懸念を監査請求によって指摘することで監査委員の職権による調査を発動させる制度であるから、「法令違反等を示す具体的、客観的な事実」がない場合も想定して制度が規定されている。
 しかし、本件において監査委員が「法令に違反していること等を示す具体的かつ客観的な事実」がないとして却下し、何もしなかったということは、法で監査委員に規定している職務を放棄したもので、違法な監査であることは明白である。

3. 岐阜県監査委員の「怠る事実」及び「請求期間」についての判断の誤りの実例
 本件は、候補者と各業者や運転手らとの契約を前提に、不法行為としての水増し請求を理由として、岐阜県の公費支出の違法性や不当利得返還責任、損害賠償責任等を争点とするものである。
 岐阜県にかかる同種の事件として、岐阜県が海津市(旧海津町)に委託した県営渡船委託業務につき、海津と地元船頭・渡船組合との契約を前提にする岐阜県の公費の支出の違法性や不当利得返還責任、損害賠償責任等を争点とする1999年6月21日付け住民監査請求がある。同事件につき岐阜県監査委員は、支出から1年以上前の部分を却下し、1年以内分については棄却した。
 しかし、同事件の住民訴訟である岐阜地方裁判所(岐阜地裁平成11年(行ウ)16号県営渡船委託料損害賠償請求事件)の2007年5月31日言渡しの判決は、法242条2項の監査請求期間の規定の適用の有無について、「請求は実体法上の債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償請求権の不行使が違法、不当であるという財産の管理を怠る事実についての監査請求も含んでいる。県の損害を確定しさえすれば足りる」とし、「相手方についても期間制限の適用はないから誤って却下されたもの」で、「委託精算書や業務日誌の記載内容の不自然さや体裁のずさんさにかんがみると、その記載内容は正確ではないといわざるを得ない。実情を反映した正確な記載をしていない精算書や日誌を提出して委託料を受領した被告市の行為は不法行為に当たる」「債務不履行ないし不法行為等によって県に損害が生じている」として、請求額の約9割を認容した。
 続く控訴審である名古屋高等裁判所(平成19年(行コ)25号 県営渡船委託料損害賠償請求控訴事件)は、2008年3月14日言い渡しの判決において、地裁判決から返還額の一割程度の減額をしたものの、基本的に支出の1年以上前の部分について不法行為に基づく怠る事実として不当利得返還責任、損害賠償責任等認定し、相手方に返還を命じた。海津市と船頭らは、控訴審での返還命令部分につきこれを上告せず確定した。
 岐阜県監査委員は、従来より「不法行為に基づく怠る事実」の認定判断及び「請求期間の判断」において、基本的誤りをおかしているのである。
 
4. 一部に返還者が存在する
 すでに岐阜地裁で係争中のポスター製作費(平成19年(行ウ)第15号 岐阜県議会議員選挙公営費返還請求事件 原告寺町知正外9名 被告 岐阜県知事)に関しては、2007年の住民監査請求中、4件の訂正があり、計143万2332円が返還された。
 本件燃料費などに関しては、「(県の)支払い後、6人が金額の訂正を申し出て、県に返還。返還はほかにも3件あり、返還額は最高約4万円で、総額21万6216円に上る。」(2008年5月23日 中日新聞) と、原告らが住民監査請求する前の2007年の12月以降に9件の返還があった。
 さらに本件住民監査請求ののち、「現職11人を含む14人が28日までに請求額の訂正・減額を申し出て、計約41万9000円が返納された。大半が『選挙カーに伴走する車の給油分も請求した』との理由だった 」(2008年7月29日 岐阜新聞) 。
 これを承知している監査委員は、本件監査にはいると「その返還の事実を見なければいけない」から「棄却」でなく「却下」にしたというしかなく、監査委員は、「水増しの客観証拠はない」として職務を放棄したというしかない。

5. 以上、原告らの住民監査請求(甲第2号証の1及び2)に対する上記監査結果には納得できないので、本件提訴に及ぶ。

第4 選挙公営制度の概要
1. 岐阜県の県議や知事の選挙の時のポスター代、選挙カーの燃料費や借上料、運転手の日当などについて、候補者側から請求に基づき税金で負担する制度がある。選挙はがきの経費負担は義務的であるし、有権者に候補者の政策を周知するための「選挙公報の作成・頒布」の(経費負担の)意義は高く評価されている。
 しかし、ポスターや選挙カーの燃料費、日当、車代などの公営には多様な議論がある。
 
2. 一説によれば、「『選挙公営』の趣旨は、お金のかからない選挙を実現するとともに、候補者間の選挙運動の機会均等を図る手段として制度化されている」とされる。が、その理屈では、「『町村の選挙』では選挙カーやポスターなどの選挙公営を採用できない法制度である」という事実の説明がつかない。

3. 候補者が選挙に立候補しても、適法かつ適正な政治活動、選挙運動をするなら立候補に必要な総費用は、さほどの額にはならない。お金のかからない選挙を実現することは、候補者が努力すべきことであって、税金で負担することは、各候補の選挙費用を減らすことに逆行するだけである。選挙は、意志を持って立候補するのだから、経費は候補者が自分で出すべきで、贅沢なポスター代や選挙カー燃料費などを公費で認めようということは筋違いである。

4. 過去に、選挙ポスター代や燃料費の水増し請求が見つかった自治体もある。実際に、制度の趣旨に厳格に従って請求すれば、請求可能な金額は低いといわれる。現在の法制度の基準は実態と合致しておらず、引き下げる自治体もある。いまや、選挙公営は本来の制度の趣旨を逸脱して、単に候補者個人の高額な選挙費用一部補填制度となっている。

5. 岐阜県の財政は逼迫している 
 多様性は自治や分権の基本である。財政に余裕のある自治体ならともかく、財政の著しく困窮した岐阜県においては、県民の理解を得られない選挙の候補者の費用を税金で負担するという制度は見直す必要がある。

6. まとめ
 よって、請求人は、選挙カーの燃料費の水増し等による相当額の県の損害の回復を候補者ら相手方らに求める措置の勧告とともに、岐阜県知事が選挙カーの燃料費、借上料、運転手日当、一般運送契約方式の場合の諸費にかかる水増し等による岐阜県の損害の回復を怠ることは違法であることの認定と必要な措置の勧告を監査委員に求めるものである。

第5 岐阜県の選挙公営制度と公費支出の状況
1. 条例規定 
 岐阜県議会議員及び岐阜県知事の選挙における自動車の使用及びポスターの作成の公営に関する条例(本件当時の条例/平成6年10月14日条例第23号。以下「本件条例」という。)の規定は以下である(関連部を抜粋)。

(趣旨) 第1条 この条例は、公職選挙法第141条第8項及び第143条第15項の規定に基づき、岐阜県議会議員の選挙における法第141条第1項第1号の自動車の使用及び同項第5号のポスターの作成の公営に関して必要な事項を定めるものとする。
(自動車の使用及びポスターの作成の公営) 第2条 岐阜県議会議員の選挙における候補者は、次の各号に掲げる区分に応じ当該各号に定める金額の範囲内で、無料で、自動車を使用し、又はポスターを作成することができる。ただし、当該候補者に係る供託物が法第93条第1項の規定により岐阜県に帰属することとならない場合に限る。
 1 自動車を使用する場合 候補者一人について、6万4千5百円に、その者につき候補者の届出のあった日から当該選挙の期日の前日(投票を行わないこととなった場合には告示の日)までの日数を乗じて得た金額

(契約締結の届出) 第3条 前条の規定の適用を受けようとする者は、次の各号に掲げる区分に応じ当該各号に定める契約を締結し、岐阜県選挙管理委員会が定めるところにより、その旨を委員会に届け出なければならない。
 1 自動車を使用する場合 道路運送法第3条第1号ハに規定する一般乗用旅客自動車運送事業を経営する者(以下「一般乗用旅客自動車運送事業者」という。)その他の者(次条第1項第2号に規定する契約を締結する場合には、当該適用を受けようとする者と生計を一にする親族のうち、当該契約に係る業務を業として行う者以外の者を除く。)との間における自動車の使用に関する有償契約

(公費の支払) 第4条 岐阜県は、候補者(前条第1号の届出をした者に限る。)が同号の契約に基づき当該契約の相手方である一般乗用旅客自動車運送事業者その他の者に支払うべき金額のうち、次の各号に掲げる区分に応じ当該各号に定める金額を、第2条ただし書に規定する要件に該当する場合に限り、当該一般乗用旅客自動車運送事業者等からの請求に基づき、当該一般乗用旅客自動車運送事業者等に対し支払う。
 1 当該契約が一般乗用旅客自動車運送事業者との運送契約(以下「一般運送契約」という。)である場合 当該自動車(同一の日において一般運送契約により2台以上の自動車が使用される場合には、当該候補者が指定するいずれか1台の自動車に限る。)のそれぞれにつき、自動車として使用された各日についてその使用に対し支払うべき金額(当該金額が6万4千5百円を超える場合には、6万4千5百円)の合計金額

 2 当該契約が一般運送契約以外の契約である場合 次に掲げる区分に応じ、それぞれに定める金額
 イ 当該契約が自動車の借入れ契約(以下「自動車借入れ契約」という。)である場合 当該自動車(同一の日において自動車借入れ契約により二台以上の自動車が使用される場合には、当該候補者が指定するいずれか一台の自動車に限る。)のそれぞれにつき、自動車として使用された各日についてその使用に対し支払うべき金額(当該金額が1万5千3百円を超える場合には、1万5千3百円)の合計金額

 ロ 当該契約が自動車の燃料の供給に関する契約である場合 当該契約に基づき当該自動車に供給した燃料の代金(当該自動車(これに代わり使用される他の自動車を含む。)が既に前条第1号の届出に係る契約に基づき供給を受けた燃料の代金と合算して、7千3百5十円に候補者の届出のあった日から当該選挙の期日の前日までの日数を乗じて得た金額に達するまでの部分の金額であることにつき、委員会が定めるところにより、当該候補者からの申請に基づき、委員会が確認したものに限る。)

 ハ 当該契約が自動車の運転手の雇用に関する契約である場合 当該自動車の運転手(同一の日において二人以上の自動車の運転手が雇用される場合には、当該候補者が指定するいずれか一人の運転手に限る。)のそれぞれにつき、自動車の運転業務に従事した各日についてその勤務に対し支払うべき報酬の額(当該報酬の額が1万2千5百円を超える場合には、1万2千5百円)の合計金額

2. 選挙公営の趣旨・目的と支出に関する手続き
 以上の規定に基づき、候補者は、契約後直ちに自動車使用契約書(「一般運送」もしくは「借上、運転手、燃料」)を県に提出、選挙後に自動車燃料代確認申請書を県に提出、県の確認を受けることとされる。
 一般乗用旅客自動車運送事業者との契約の場合、候補者を経て業者から使用証明書や請求内訳書とともに県に請求がなされる。また、一般乗用旅客自動車運送事業者以外の者との契約の場合は、燃料費は自動車を使用した場合の月日別の販売単価と販売量の内訳を記載した請求内訳書とともに(選挙運動用自動車の使用)請求書を提出、自動車の借上や運転手についても請求内訳書とともに請求書を提出する。
 県は、請求の翌月末日に業者や運転手等に支払う。
 このように、手続きが契約書や確認書の提出を厳格に定めていることからも、選挙公営の趣旨・目的は、真実に基づく請求を前提に候補者の負担を軽減しようとすることにあるのは明白である。第2条の「無料」とは、「上限いっぱいどうぞ」でなく、「上限の範囲で真実に要した費用を請求に基づき負担する」という趣旨であることは明らかだ。

3.2007年の県議選の支出
 (1) 2007年4月の岐阜県議会議員選挙に関する公費負担は、次のようである。
71人が立候補し、没収による権利喪失者2名があるほか1候補はどの公営を請求しなかった。
 
 (2) 2007年6月末日時点の県の支払結果集計では、一般運送契約(いわゆる「ハイヤー方式」で、以下、「一括借上」という)料(4候補/232万0200円)、選挙カー借上料(61候補/710万9415円)、運転手日当(53候補/528万1955円) (以上は甲第3号証)、燃料費(57候補/196万3797円) (以上は甲第4号証)の交付合計は1667万5367円であり、ポスターを含めた本件条例に基づく公営の県費負担全体合計は、5088万7815円であった(甲第4号証の2の右下)。
 また、選挙カー燃料費について限度額の50%以上の額を請求した27候補の合計額は134万8688円、そのうち50%超える分は48万5063円であり、50%未満の額を請求した30候補の合計の額は61万5109円、未請求(一括借上を除く)は8候補である(甲第4号証)。
 
 (3) なお、既に住民訴訟となっている案件に関して、ポスター作成費の交付総額は約3400万円であり、このうち、47候補がポスター1枚作成単価上限額の50%以上の額を請求し、47候補の合計額は約3000万円であり、50%未満の額を請求した21候補の合計の額は約400万円である(甲第4号証の2の下の欄参照)。

4. 2003年の県議選の支出
  2003年4月の岐阜県議会議員選挙に関する公費負担は、次のようである。
 (1) 2003年県議選では、73人が立候補し、没収による権利喪失者2名があるほか2候補がどの公営も請求しなかった。
 
 (2) 一括借上料(5候補/290万2500円)、選挙カー借上料(58候補/675万3195円)、運転手日当(50候補/490万2975円)(以上は甲第5号証)、燃料費(54候補/238万0688円)(以上は甲第6号証)、その交付合計は1693万9385円であり、ポスターを含めた本件条例に基づく公営の県費負担全体合計は、5687万8591円であった(甲第6号証の2の右下)。
 また、選挙カー燃料費について限度額の50%以上の額を請求した23候補の合計額は112万5354円、そのうち50%超える分は45万6504円であり、50%未満の額を請求した30候補の合計の額は58万5342円、未請求(一括借上を除く)は14候補である(甲第6号証)。
 
 (3) なお、既に住民訴訟となっている案件に関して、ポスター作成費の交付総額は約3900万円であり、このうち、50候補がポスター1枚作成単価上限額の50%以上の額を請求し、50候補の合計額は約3400万円であり、50%未満の額を請求した21候補の合計の額は約500万円である(甲第6号証の2の下の欄参照)。
 
5.  超える部分の合計額
 以上、2007年と2003年の燃料費の基準の50%超える部分の合計は、94万1567円である。

第6 本件における違法性もしくは著しい不当性
1. 選挙公営における燃料費等の問題は全国各地で発覚している
 選挙公営における燃料費等の問題が全国各地で明らかになっている。問題化する前に自主的に返還し、事後に報道されるという例が後をたたない。候補者らは不法行為の存在を自ら立証している(甲第7号証)。
 談合などと同様の不法行為が選挙公営に蔓延しているのである。
 選挙公営制度に関して、2007年6月になって、山県市でのポスター代水増し容疑で県警が市議や印刷所を捜査、候補者7人を含めて業者らが送検された。議員辞職などで起訴猶予となったものの、議員主導のケース、現金をキックバックした例も本人たちが認めている。なお、辞職しない議員については、岐阜検察審査会が不起訴不当を議決した。

2. 本件選挙の場合 (2007年の燃料費)
 では、本件について具体的に見る。
 (1) 燃料費に関して条例の定める基準額は、1日7350円を上限とし、かつ、9日間の合計6万6150円(無投票の場合は1日分)である。
 2007年当時3月当時、財団法人日本エネルギー経済研究所の石油情報センターによる石油製品価格情報の「岐阜県」データでは、レギュラーガソリン1?単価130円、軽油1?110円、ハイオク1?単価141円とされている。
 
 (2) 本件の法外な事例の一部を抜き出してみる。
○1日で92.32?(木股米夫)、90?(岩井豊太郎)、88.4?(平岩正光)、79.3?(脇坂洋二)、76.78?(名和勘二)、75.5?(伊藤正博)、71.2?(安田謙三)等を給油したとされるが、通常車両の燃料タンク容量からしてあり得ない。選挙カーをつかった運動に関しては、1日の時間制限(午前8時から20時まで)があるから同一スタンドで1日2回も給油するなど通常はあり得ないし、不自然であることは請求内訳書に記載されたその前後日の給油状況からもうかがえる。

○小型貨物で、2日目から80、60、60、70、80、60、90、50?の8日間合計66150円という額はあり得ない(岩井豊太郎) 。

○普通貨物車で、連日「最小61.0?から最大71.2?」で9日間合計66000円という額はあり得ない(安田謙三) 。

○小型乗用貨物車で、8日間毎日55?、最終日だけ60?の9日間合計65619円という額はあり得ない(野村美穂)。

○68.2?(横山浩之)は、車種タウンエースバンであるところ、同車種の燃料タンク容量は「ガソリン43?」である。

○ハイエースで、55.68.59.70.68.60.72.73.75?の9日間合計66000円という額はあり得ない(溝口昭八郎)。

○「全ての毎日、54?=7290円、合計65610円」(松村多美夫)は不可能な事実。

○2つの異なるガソリンスタンドで給油をしているが「請求内訳書」の筆跡は同一であり、最多日は1日に同2つのスタンドで「合計104?(A店38.5?とB店65.5?)」入れたとされ、9日間の合計においてA店は7回3万3075円、B店は4回3万3075円として正確に2店に2分して基準額の100%を達成している(伊藤嚴悟)。

○ガソリン1?平均単価127円のころに、「トヨタ レジアスエース(岐阜 400 わ 846)でガソリン1?単価147円で基準額の94.1%(平岩正光)」、「小型貨物でガソリン1?単価145円で同98.2%(名和勘二)」は著しく高額で契約段階においても、請求段階においても、虚偽もしくは水増しというしかない。

 (3)  速度からみてもあり得ない燃料消費量
 1日60?を消費して走行するには、休憩なしで走ったとしても平均して時速50kmで走行したことになる。
 しかし、通常の選挙運動において、昼食の時間など選挙カーを停止させる候補、演説会の際には選挙カーを停止させる候補もいるし、街頭演説をすれば選挙カーは実質は止まるなど、実際の選挙カーの運行時間は無休憩の走行ではない。
 このように、消費燃料から導かれる可能な速度からみても、真実ではない燃料消費量である。

 (4)  走行距離からみてもあり得ない燃料消費量
 本件燃料代は「候補者の選挙用自動車1台が実際に消費したガソリン代」の代金である。
 1日60?を消費したら、約500km以上走行したということになる。また、1台の車が9日間で約500?の給油をしているということは、9日間、毎日約450〜600km以上を走り続けたことになる。岐阜・東京間は約380km、岐阜・大阪間は約180kmであることから推察しても、如何にあり得ない燃料消費量であるは明白である。
 普通車の街中での走行可能速度が時速30kmから多くても40kmがせいぜいであること、実際の街頭宣伝時の選挙カーは、時速20キロから30キロ程度の超低速走行であること、休息もすること等を考えれば1日の走行可能距離は250km以下である。
 1日の総走行距離も延びる要因はない。
 よつて、本件の大量消費の燃料費はいずれも選挙として不可能であるから虚偽である。
 
 (5) 大量給油を実際に消費するには通常の一般車と同程度の速度で走行しなければならないのだから、「選挙カーとして使うと燃費が悪くなる」という反論は成立しない。
 
 (6) また選挙期間中、毎日同じ量を給油している例もあるが、一般人の常識からして、そのようなことはあり得ない。
 
 (7) 当該燃料販売店の一般価格と比較して上乗せされたことで営業実体と乖離した金額部分は水増しであって違法である。
 
 (8) 選挙カーの随行車やその他の車の燃料費も一括して請求したり、候補者の自家用車に給油する例もあるとされている。
  
 (9)  原告の特定する「限度額の50%」の合理性は次のようである。
 限度額7350円の1/2にガソリン1?単価127円とすると約29?のガソリンの消費であるから、リッター10km走行可能な車とすると290kmの1日の走行距離となる。この距離は、選挙においては相当にハイピッチで走る場合でも大変困難である。
 よって、「限度額の50%」という基準は、本件住民監査請求及び住民訴訟における違法性もしくは著しい不当性に相当する限度としての妥当性を有する。
 
  (10) 以上、条例に違反して、架空請求あるいは選挙カー以外の燃料代を請求しているというしかない。
 結局、燃料費基準額の50%を超える部分につき、単価設定が真実と異なる場合、走行距離が一日に選挙カーとして可能な距離を越える場合、選挙カー以外の車の燃料費も含んでいるか水増しであるというべきである。
 
3. 本件選挙の場合 (2003年の燃料費)
 2003年3月当時の同センターのデータでは、ガソリン1?単価102円、軽油1?83円、ハイオク1?単価113円の相場である。
 事例を抜き出してみる。
 1日で、139?、132?、93?、90 ? 、84?、75.9? 、86? 、75 ? 、68?、65.5?等は通常車両の燃料タンク容量からしてあり得ない。
「全日45?=5725円、合計42525円」とか、「9日目(81?)を除く毎日65?=7150円、合計66110円」などもどう検討してもあり得ない。
 その他諸点、前記2007年と同様もしくはもっと悪質である。
 これらについては、訴訟の進行に応じて詳しく述べる。

4. 仮に、燃料費について「基準額の50%超が違法なライン」という線引きが相当でないとしても、理論的にも、一般人の常識からしてもあり得ない量や回数、日変動などで燃料を購入したということは、真実に反した水増し請求、詐欺的請求というべきである。よって、このような不法行為に基づく県の損害の回復を怠ることは許されない県の違法行為であり、かつ相手方である候補者や業者らは、賠償・返還義務がある。
 
5. 選挙カーの借上料、一括借上方式、運転手日当について(2003年、2007年)
 (1) 2003年、2007年県議選における選挙カーの借上料、一括借上方式、運転手日当の場合の諸費にかかる水増し等に関して、岐阜県選管にかかるポスター代や燃料費の訂正・返還の実例、警察の動きや他の自治体におけるポスター代や燃料費の訂正・返還の例から類推適用して想定される部分についても、違法で岐阜県の損害であることは明らかである。
 例えば、選挙運動の実務から通常にあり得るのは、次のことである。

  (2) 「選挙カー借上料」について
 候補者もしくは家族の自家用等の車の場合は違法である。
 あるいは当該借入れ契約の場合の貸し出し(業)者の通常の標準価格を超える場合は水増しというしかない。
 あるいは真実の賃貸料と違って、上乗せして請求されている場合も違法である。
 また、いわゆる選挙カー用の氏名を大書きする車上看板あるいはマイクやスピーカー、バッテリーなど音響設備を含んでいる場合は、条例の対象外として過大もしくは水増し請求分である。
 これらの真実を越える部分はずれも条例に違背する水増し請求である(条例第3条第2項イ違反)。

 (3) 「一括借上方式」について
 選挙カーが、真実の一括借上でない場合(条例第3条第1項違反)、あるいは当該一般運送業者の標準価格を超える場合の超える部分、または、いわゆる選挙カー用看板枠及び音響設備を含んでいる場合、いずれも条例に違背する水増し請求である。
 無論、自動車業者に最終的に収納されていない場合や、回りまわって候補者の選挙運動費用等にキックバックされる場合は違法である(条例第3条第2項ハ違反)。

(4) 「運転手日当」について
 運転手日当にかかるどの候補の請求も、運転手は一人から数人である。
 しかし、選挙運動において選挙カーをたった一人で1日12時間、もしくは1日の大部分を運転することは不可能である。しかも9日間の選挙期間を一人から数人で動かすことも不可能である。
 他方、何人も交替して運転する当番スケジュールを組んで選挙カーを回す場合、そのうちの特定の人物にだけ「日当」を支給するということは、選挙運動の実務上も極めて困難なことである。そのようなことをしたら、候補者や選挙運動中枢部の公平観が問われるからである。
 本件において、真実の運転労働を担った者でない氏名で請求し交付を受けた場合、当然違法である。
 結論として、請求に基づき交付された全額が当該名宛人運転手に全額が最終的に収納されていない場合や、回りまわって候補者の選挙運動費用等にキックバックされる場合も違法である(条例第3条第2項ハ違反)。

 (5) 以上、候補者サイドが真実でない記録を作成し申請をしたことは、本件条例に違背する。

6. 刑法違反
 選挙用自動車の真実と異なる燃料費や借上料、運転手日当、一括借上料等を記載した契約書、供給実績等が提出されている場合私文書偽造罪および同行使罪というべきである。
 各業者あるいは候補者サイドが県の吏員を欺いたり、欺罔(ぎもう・人をあざむき、だますこと)は詐欺である。
 ※(刑法第246条第1項)人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。 (同第2項)前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

7. 信義則違反
 燃料費等の請求手続きにおいて、契約書及び使用実績の申請書を提出し、選挙管理委員会等が確認したうえで請求額を交付すると規定していることは、各請求書が真実であることを前提にしているのは明白である。
 候補者らが意図的に真実に基づかない書類を作成し、過剰な請求をしたことは、信義則違反である。

8. 地方自治法違反
 本件請求手続きが契約書を提出し、選挙管理委員会等が確認したうえで作成費を交付すると規定していることは、契約書が真実であることを前提にしているのは明白である。
 地方自治法第2条、「16項 地方公共団体は、法令に違反してその事務を処理してはならない。なお、市町村及び特別区は、当該都道府県の条例に違反してその事務を処理してはならない。」「17項 前項の規定に違反して行った地方公共団体の行為は、これを無効とする。」とされているところ、本件に妥当する。
 真実に基づかない請求書及び内訳書に基づいて県が支払ったうちの「過払い部分」は、県が負担する必要も根拠もない債務であるから違法な支出である。

9. 以上、通常人の常識から判断しても、選挙運動の実務から判断しても、真実を著しく上回って請求されていることは疑いなく、上記諸点の違法がある。

第7 岐阜県の損害
1. 県民の願い
 2006年、岐阜県庁ぐるみの長年の裏金作りが明らかになった。その裏金作りの主たる方法は、旅費の架空=水増し請求である。水増し部分が裏金であった。
 本件もまったく同様であって、県議選候補者による自らの選挙の諸々の費用に充当する目的の裏金作りである。真実の費用の請求・交付は条例上正当であるが、他方、真実に使用した費用を上回って請求し県に交付をさせたことは、不法行為によって岐阜県の金庫から、奪取したものというべきである。
 本件原告らの一部は、2007年4月に実施される県議選の前に2003年分のポスター代の水増し部分について住民監査請求することで、候補者らに警鐘をならすことも目的として2007年3月20日に住民監査請求した。それにもかかわらず、2007年の選挙において水増しや過大請求があったことは、候補者らに悪意があるというしかない。  
 これらの是正は、納税者かつ有権者としての県民の願いである。
 
2. 燃料費に関しての損害
 (1) 燃料費に関して50%以上について一律に「基準額の50%以上の支払い部分」を過払い分であるというしかない。
 即ち、本件請求において損害とする額は、第5の3及び4で述べた2007年県議選の燃料費限度額の50%以上の額を請求した27候補のそれぞれの50%の額を超える部分の額の合計である48万5063円(請求の趣旨の別紙−1の1ないし4)、2003年県議選の燃料費限度額の50%以上の額を請求した23候補のそれぞれの50%の額を超える部分の額の合計である45万6504円(請求の趣旨の別紙−2の1ないし4)、その合計は94万1567円である。
 返還すべき相手方は、上記範囲に存する候補者と対応する業者らである。

(2) 仮に、不正額が「燃料費限度額の50%を超える部分」と一致しなくても、本件において、明らかに不法行為に基づく水増し請求があるととらえることができるのだから、岐阜県は水増し請求に基づく損害回復を達するために、独自の調査をしなければならない。2007年の2件の住民監査請求の後においてこのような実態であるから、知事のの怠る事実として違法であることにかかる責任は重大である。
 
3. 選挙カーの燃料費、借上料、一括借上方式、運転手日当にかかる怠る事実について
 (1)  2003年、2007年県議選における選挙カーの燃料費、借上料、一括借上方式、運転手日当の場合の諸費にかかる水増し等に関して、岐阜県選管にかかるポスター代や燃料費の訂正・返還の実例、警察の動きや他の自治体におけるポスター代や燃料費の訂正・返還の例から類推して想定される部分は、違法で岐阜県の損害であることは明らかである。
 その詳細は、請求の趣旨の別紙−1及び2のとおりである。
 
 (2) 怠る事実については、損害を確定させることは知事の職責にかかることであり、それを怠っていることの違法を求めるものであるから、訴状での金額の明示は必ずしも必要とされていないと解されている。もちろん、原告は、情報公開では秘匿された各種情報や候補者と業者との契約にかかる違法、不法行為及びそれの行為に対応する額を訴訟中で明らかにしていく。

第8 不法行為責任と返還義務
1. 返還請求 (請求の趣旨−1) (法第242条の2第1項4号の請求)
 (1) 候補者や業者、運転手ら相手方が不当に過大請求していることで県の損害の発生は明らかであり、次項第9で述べるとおりこの損害の回復を怠ることは真正怠る事実として2003年及び2007年分の損害につき住民監査請求期間の制限はない。
 
 (2) 相手方である候補者及び対応する業者は、不法行為責任があり、各候補者及び対応する業者(名目的には業者が代金を県から受け取る)らの取得した額のうちの本件請求の趣旨にかかる分につき損害賠償義務あるいは不当利得返還義務がある。
 相手方である候補者及び対応する業者や運転手に水増しあるいは虚偽請求による不当利得部分の返還をしなければならない。
 2007年の2件の住民監査請求の後において現状がなお継続しているから、相手方の責任は重大である。
 
 (3) よって、原告は請求の趣旨−1につき地方自治法第242条の2第1項4号に基づき、損害賠償請求もしくは不当利得返還請求をする命令を求めるものである。
 本件水増請求した部分の金員の受領には悪意があることは疑いないから、少なくとも民法規定の年5%の遅延損害金をつけて請求すべきである。

2. 怠る事実の違法確認 (請求の趣旨−1) (法第242条の2第1項の3号の請求)
 (1) 違法な支出により岐阜県に損害が生じた場合、被告は関係者に損害賠償請求もしくは賠償命令しなければならない。損害賠償請求権は「財産」に当たるところ、被告が請求権を行使していないことは、被告の「財産の管理を怠る事実」として違法である。
 2007年3月20日の住民監査請求の後においてこのような実態であるから、知事の責任は重大である。
 知事には、職務怠慢あるいは不法行為責任があり、本件請求にかかる分につき損害賠償義務がある。山県市の選挙公営の詐欺の状況から推測すればなお更である。
 本件選挙公営の補助金的要素からしても、知事は速やかに調査、対処し「精算」させねばならない。
 
 (2) 岐阜県知事が知事の職責として、2003年4月及び2007年4月実施の岐阜県議選にかかる「選挙カーの燃料費」、「借上料」、「一括借上方式の場合」、「運転手日当」の諸費にかかる水増し等によって岐阜県に生じた損害の回復を怠ることは違法であることの確認の判決を求める。
 燃料費については第6の1ないし4で述べたとおりであるが、全国の事例、過去のポスター代の事例及び本件の状況からして、他の車借上料にかかる不正、運転手日当にかかる不正、一括借上方式の場合においても不正の疑い濃厚に存することが、2007年の全国の事件化の状況によって初めて明らかとなった。
 よって、不法行為としての水増し分を確定させ、その損害の回復をすべきなのに、それを怠ることは違法である。水増しあるいは虚偽請求による不法行為に基づいて法律上の根拠なく候補者サイド(候補者もしくは、燃料業者、自動車運送業者、自動車提供者、運転手サイド)に真実を上回って支出された県費部分は県の損害であるから、知事はその損害を確定した上で相手方に返還請求をする義務があるところ、2003年及び2007年県議選に関して、知事がその損害の回復を怠ることは違法であることの確認を求める。

 (3) 以上本件支出に関して知事は財産の管理を怠る事実の違法があるから、原告は請求の趣旨−3につき地方自治法第242条の2第1項3号に基づき、違法確認を求めるものである。

3. 候補者や業者、運転手ら相手方の特定について
 本件原告は、5月30日提出の住民監査請求において、「2003年4月」「2007年4月」の「選挙カーの燃料費」、「借上料」、「運転手日当」、「一括借上方式の場合の諸費」にかかる「水増し」等によって岐阜県に生じた損害の回復を怠ることは違法であるとして、その認定と必要な措置を勧告すること等を監査委員に求めた。
 ところで、住民監査請求において、監査委員が請求人の特定が不十分として却下する例が少なくない。本件請求人は、5月30日提出の請求書及び書証において、事業者や運転手などの個人について必ずしもその全部を特定しきれていない部分があった。
 よって、原告らは住民監査請求の補充書(甲第2号証−2)として、県民が岐阜県から情報公開で明らかにされた範囲という本質的限定の中で可能な最大限の特定をした書証を提出した。ここで特定した相手方は、上記第8の1及び2で述べた「候補者」と対応する業者らである(請求の趣旨/別紙−1及び2)。
 なお、運転手の個人名などの一部に関して、岐阜県が非公開にしたものを県民がそれ以上特定することは不可能であるから監査委員の監査によって明らかにされなければならなかったのである。よって、仮に本住民監査請求で提出の書類において運転手の個人名のすべてが明記されていなくても、候補者との契約書の存在から、運転手(あるいは事業者等)は監査委員が監査を遂行するに足りる程度に特定されていたから適法である。

第9 本件住民監査請求及び住民訴訟の特質(正当理由の存在及び期間制限の無いこと)
1. 財務会計行為としての正当理由の存在
 2003年4月執行の選挙分に関して本件住民監査請求が当該支出(財務会計行為)から1年以上を途過しているわけだが、そのことには正当理由がある。
 水増しという事実は県民が知ることができることではない。原告は、選挙カーに関する経費としての請求額の全額でなく、水増し行為を原因とする損害部分のみについて当該不法行為を原因とする損害と主張して返還を求めているところ、水増しのことは秘密にされてきたわけである。そのことが、山県市の刑事事件の事案等で明らかとなり、同じ事態が本件県議選でも強く推測をもって疑われる状況になったのである。 

2. 一般論として真正怠る事実に関する請求には期間制限が無い
 (1) 本件住民監査請求は、不法行為に基づいて、支出の根拠のない水増し部分についての請求を受けて、被告が当該部分も含めて選挙公営の交付金として支出し、相手方らが「受領」してきたことによる岐阜県の損害の回復を怠ることについての請求である。
 相手方(本件では、候補者や業者)らの不法行為を原因とする怠る事実(「真正怠る事実」という)、つまり候補者と業者や運転手らが談合して県に不正請求したことによる過払というべき事態を放置すること、不法行為に基づく岐阜県の損害の回復を怠ることは違法であり、その点に関する住民監査請求であるから、「当該支出(財務会計行為)から1年に住民監査請求すべき」との期間制限は適用されない。
 
 (2) 「法242条1項は財務会計上の行為については、1年を経過したときは監査請求をすることができないものと規定し、怠る事実についてはこのような期間制限は規定されておらず、住民は怠る事実が現に存する限りいつでも監査請求をすることができる・・・そして、監査請求の対象として何を取り上げるかは、基本的には請求をする住民の選択に係るものであるが、具体的な監査請求の対象は・・・請求書の記載内容、添付書面等に照らして客観的、実質的に判断すべきものである。・・・談合、これに基づく入札及び県との契約締結が不法行為法上違法の評価を受けるものであること、これにより県に損害が発生したことなどを確定しさえすれば足りる」(最高裁判所第3小法廷平成14年7月2日判決平成12年(行ヒ)第51号)

 (3) 「本件監査請求は、県は、被上告会社に対し不法行為により受けた損害を賠償させるべきであるのに、当該請求権の行使を怠っているという事実・・・について監査を遂げるためには、監査委員は、被上告会社9社について上記行為が認められ、それが不法行為法上違法の評価を受けるものであるかどうか、これにより県に損害が発生したといえるかどうかなどを確定しさえすれば足りる。・・・県の被上告会社9社に対する損害賠償請求権は、本件変更契約が違法、無効であるからこそ発生するものではない。・・・そうすると、本件監査請求中、不法行為により代金を余分に支払わせた被上告会社9社に対する損害賠償請求権の行使を怠る事実を対象とする部分は、不適法とはいえない。」(最高裁判所第1小法廷判決平成14年10月3日平成9年(行ツ)第62号)

 (4) 財務会計職員を欺罔又は強迫して財務会計上の行為をさせたときについては、真正怠る事実である
 「《1》窃盗、横領、公有財産の無断使用等、事実的侵害に基づく場合、並びに、《2》これと同視できる場合、例えば、財務会計職員を欺罔又は強迫して財務会計上の行為をさせたときについては、真正怠る事実である。」(大阪地方裁判所平成11年10月28日判決)。まさに、本件「過払額部分」に関しての評価として妥当する判示である。

 (5) なお、「怠る事実」に関する住民監査請求に関しては、「怠る事実」が「時効」になった時点から「1年以内に住民監査請求するべし」との期間制限が適用される(平成17(行ヒ)341事件名 損害賠償履行請求事件平成19年04月24日最高裁判所第三小法廷 判決)ところ、未だ時効になっていないから、本件住民監査請求は適法である。

3. 本件は真正怠る事実であるから請求には期間制限が無い
 (1) 2007年分は2007年5月31日もしくはそれ以降に支出されているから、「当該支出から1年」という請求期間内に住民監査請求している。
 
 (2) 2003年分につき真正怠る事実であるから期間制限の適用はない
 本件は真正怠る事実である。
 候補者と業者が談合して県に不正請求したことによる過払というべき事態を放置すること、つまり不法行為に基づく岐阜県の損害の回復を怠ることは違法であり、その点に関する住民監査請求に「支出から1年に住民監査請求すべき」との期間制限は適用されない。

4. まとめ
 本件住民監査請求及び住民訴訟は、真正怠る事実の違法確認と関連する県の損害の回復を求める主旨である。
 以上、本件住民監査請求及び住民訴訟は適法な請求である。
以上

《添付書類》 別紙 原告目録

《請求の趣旨の別紙の説明》
別紙−1の1ないし4
       2007年4月県議選の選挙カーの借上料及び燃料費の相手方一覧表
                    (住民監査請求の第8号証と同じである) 
別紙−1の5ないし8
       2007年4月県議選の選挙カーの運転手等の一覧表
(住民監査請求の第9号証と同じである) 
別紙−2の1ないし4
       2003年4月県議選の選挙カーの借上料及び燃料費の相手方一覧表
                   (住民監査請求の第10号証と同じである)
別紙−2の5ないし8
       2003年4月県議選の選挙カーの運転手等の一覧表
                   (住民監査請求の第11号証と同じである)

《証拠書類》
甲第1号証 2008年7月28日付け岐阜県監査委員による結果の通知 (原本あり)
甲第2号証の1 本件住民監査請求書 (写し)  (書証は略)
     の2 本件住民監査請求・補充書 (写し)  (書証は略)
甲第3号証 2007年4月県議選の選挙カーの借上料、運転手日当の候補者別比較表
                     (住民監査請求の第1号証と同じである)
甲第4号証 2007年4月県議選の選挙カーの燃料費の候補者別比較表
                     (住民監査請求の第3号証と同じである)
甲第5号証 2003年4月県議選の選挙カーの借上料、運転手日当の候補者別比較表
                     (住民監査請求の第2号証と同じである)
甲第6号証 2003年4月県議選の選挙カーの燃料費の候補者別比較表
                     (住民監査請求の第4号証と同じである)
甲第7号証 各地の水増しや返還等に関する報道記事
                     (住民監査請求の第6号証と同じである)

 その他、口頭弁論において、必要に応じて提出する。
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