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2007年9月7日に提訴した選挙公営ポスター代水増・過払分の返還を求める住民訴訟のページ



岐阜県議会議員選挙公営費返還請求事件
訴訟物の価格 金1.600.000円
貼用印紙額     金13.000円
予納郵券代金    金10.000円

    訴    状  
原告 寺町知正 外9名(目録の通り)
被告 岐阜県知事古田肇
      岐阜市薮田南2−1−1 
                             2007年9月7日
岐阜地方裁判所民事部御中
             請 求 の 趣 旨
1. 被告は、別紙1及び2「岐阜県議選 選挙ポスター代・支払一覧」表中、「返還請求額」欄に金額の記載のある「候補者名」欄の記載の者及び同「利用印刷会社」欄記載の者に対し各「返還請求額」欄記載の各金額及びこれに対する本訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うように請求せよ。
2. 被告は、古田肇もしくは本件支出に権限のある職員に対して(計2888万6037円)を支払うように請求せよ。
3. 被告が、別紙1及び2「岐阜県議選 選挙ポスター代・支払一覧」表中、「返還請求額」欄に金額の記載のある「候補者名」欄記載の者及び同「利用印刷会社」欄記載の者に対し各「返還請求額」欄記載の各金額(計2888万6037円)を支払うように請求することを怠ることは違法であることを確認する。
4. 訴訟費用は、被告の負担とする。
  との判決、ならびに第1項につき仮執行宣言を求める。

           請 求 の 原 因
第1 当事者
1. 原告は、肩書地に居住する住民である。
2. 被告は、岐阜県知事古田肇(以下、「被告」という)である。
3. 原告らが被告に対して、不当利得返還請求もしくは損害賠償請求するよう求める相手方は、2003年4月執行もしくは2007年4月執行の岐阜県議選の立候補した者ののうち選挙公営制度におけるポスター代の公費負担を請求した者及びその候補者のポスターを作成したとして届け出た業者である。
4. 相手方の一部は、本件支出に権限を有して関与した岐阜県職員らである。

第2 住民監査請求前置と本件提訴
 原告らは、2007年6月18日、岐阜県監査委員に住民監査請求したが、監査委員は同8月10日付けで却下、棄却する決定をし、結果通知(甲第1号証)してきた。
 その要点は、次のとおりである。

「本件の請求のうち、
 (1) 平成15年執行の県議会議員選挙に関する請求については、請求を「却下」する。
 (2) 平成19年執行の県議会議員選挙に関する請求については、請求を「棄却」する。
  (一) 「上限基準額の50%以上は、過払である」との請求人の主張
    ・選挙運動の自由や契約自由の原則を尊重する趣旨から、公職選挙法や条例は
     上限基準額の範囲内の請求であれば、それは候補者の自由であるとしている。
    ・上限基準額の50%以上の支出があったとしても、法令が許容するものである。
・「ポスター掲示場の2倍の枚数まで公費負担の対象となるのは、1回のはり替え分まで公営の対象とする趣旨である」と手引きにおいて明らかとされている。
  (二) 「不正な水増し請求がなされていた」との請求人の主張
    ・関係人調査の結果、不正な水増し請求がなされていたことを確認できなかった。
  (三) 「県に違法又は不当な財産の管理を怠る事実がある」との請求人の主張
・関係人調査の結果、選挙ポスター代に係る68件の請求のうち、4件の請求について合計1.432.232円の過払の事実を確認した。しかし、市町村課において、8月6日までに上記金額について戻入手続(納入の通知)がなされた。」

  原告らは上記監査結果には納得できないので、本件提訴に及ぶ。

第3 選挙公営制度とポスター代の公費負担制度の概要
1. 岐阜県の県議や知事の選挙の時のポスター代、選挙カーの賃貸料や燃料費、運転手の日当などについて、候補者側から請求に基づき税金で負担する制度がある。選挙はがきの経費負担は義務的であるし、有権者に候補者の政策を周知するための「選挙公報の作成・頒布」の(経費負担の)意義は高く評価されている。
 しかし、ポスターなどの公営には多様な議論がある。
 
2. 一説によれば、「『選挙公営』の趣旨は、お金のかからない選挙を実現するとともに、候補者間の選挙運動の機会均等を図る手段として制度化されている」とされる。が、その理屈では、「『町村の選挙』では選挙カーやポスターなどの選挙公営を採用できない法制度である」という事実の説明がつかない。

3. 選挙に出ても、適法かつ適正な政治活動、選挙運動をするなら立候補に必要な総費用は、さほどではない。お金のかからない選挙を実現することは、候補者が努力すべきことであって、税金で負担することは、各候補の選挙費用を減らすことに逆行するだけである。選挙は、意志を持って立候補するのだから、経費は候補者が自分で出すべきで、贅沢なポスター代などを公費で認めようということは筋違いである。

4. 過去に、選挙ポスター代の水増し請求が見つかった自治体もある。実際に、制度の趣旨に厳格に従って請求すれば、請求可能な金額は低いといわれる。現在の法制度で基準とされるポスター印刷単価は世の中の実勢価格と合致しておらず、引き下げる自治体もある。いまや、選挙公営は本来の制度の趣旨を逸脱して、単に候補者個人の高額な選挙費用一部補填制度である。

5. たとえば、岐阜県山県市では、本年1月16日に選挙公営条例の廃止を求める直接請求が開始された。署名が法定数に達し、その手続が粛々と進む中、3月2日の山県市議会定例会開会の初日に議員提案により、同条例の廃止が議決され、速やかに公布された。

6. 多様性は自治や分権の基本である。財政に余裕のある自治体はともかく、財政の著しく困窮した岐阜県においては、県民の理解を得られない選挙の候補者の費用を税金で負担するという制度は見直す必要がある。速やかに廃止すべき、もしくは、仮に、継続するとしても、ポスター印刷・作成代等について真実の実勢価格を基準とする条例に改正すべきである。
 例えば、ポスターの紙質や印刷技術等も向上しているから、県条例において、「ポスター掲示板の2倍の枚数を上限とする」との本件条例の規定は時代錯誤であり、「ポスター作成・印刷の基準額が高すぎる」ことは本件住民監査請求で例示する事案から明白なことであって、この2点はいずれも不正の余地を生じさせるものであり、不要・過剰な部分である。

7. よって、本件制度の適用は慎重かつ厳格でなければならない。

第4 岐阜県の具体的なポスター公営制度と公費支出
1. 条例規定 
 岐阜県議会議員及び岐阜県知事の選挙における自動車の使用及びポスターの作成の公営に関する条例(平成6年10月14日 条例第23号。以下「本件条例」という。)の規定は以下である(関連部を抜粋)。

  (ポスターの作成の公営)(本件条例第2条)
  「・・当該各号に定める金額の範囲内で、無料でポスターを作成することができる。
二 ポスターを作成する場合 候補者一人について、第5条各号に掲げる区分に応じ同条各号に定めるところにより算定した金額にポスターの作成枚数(当該作成枚数が、当該選挙区におけるポスター掲示場の数に2を乗じて得た数を超える場合には、当該2を乗じて得た数)を乗じて得た金額」」

  (契約締結の届出)(本件条例第3条)
「前条の規定の適用を受けようとする者は、次の各号に掲げる区分に応じ当該各号に定める契約を締結し、岐阜県選挙管理委員会(以下「委員会」という。)が定めるところにより、その旨を委員会に届け出なければならない。
二 ポスターを作成する場合 ポスターの作成を業とする者との間におけるポスターの作成に関する有償契約」

  (公費の支払)(条例第5条)
「岐阜県は、候補者が同号の契約に基づき当該契約の相手方であるポスターの作成を業とする者に支払うべき金額のうち、当該契約に基づき作成されたポスターの一枚当たりの作成単価に当該ポスターの作成枚数を乗じて得た金額を、第2条ただし書に規定する要件に該当する場合に限り、当該ポスターの作成を業とする者からの請求に基づき、当該ポスターの作成を業とする者に対し支払う。
一 当該選挙区におけるポスター掲示場の数が500以下である場合 514円48銭に当該ポスター掲示場の数を乗じて得た金額」
 
 これら規定によるところのポスター1枚の上限単価は選挙区ごとに異なる。

2. 手続き及び契約等
 本件条例にかかる「平成15年岐阜県選挙管理委員会 通知第268号」(以下、「本件通知」という。)は、選挙運動用ポスター作成公費負担に関して、各種の書類の提出を定めている。
     (候補者→地方事務局)
        ポスター作成契約届出書   ポスター作成枚数確認申請書
     (地方事務局→候補者等→業者等)
        ポスター作成枚数確認書
     (支払請求時 業者等→県知事)
        請求書及び請求内訳書    ポスター作成枚数確認書
        ポスター作成証明書・・・・・候補者→業者等→県知事

 ※いずれの提出書類も「選挙の手引き」において基本書式が規定されている。

3. 2003年、2007年県議選のポスターの作成経費に係る支出(参考/甲第2号証)
 2003年(平成15年)4月4日届出岐阜県議会議員選挙に関する選挙運動用ポスター作成に係る公費負担は、各候補者から選挙管理委員会に選挙運動用ポスター作成契約届出書(契約書の写し添付)の提出を受け、その後の諸手続きを経て、同年7月頃までに、県は、各ポスター作成業者にポスター作成費を支払った。
 選挙には、73人が立候補し、本件条例に基づくポスター公営に関しては71人の立候補者が請求した。
 ポスター作成費の交付総額は4060万9225円であり、このうち、50候補がポスター1枚作成単価上限額の50%以上の額を請求し、その合計額は3584万1477円であり、50%未満の額を請求した21候補の合計の額は476万7748円である。
 2007年県議選のポスターの作成経費に係る支出は、選挙には71人が立候補し、本件条例に基づくポスターに関しては68人の立候補者が請求、ポスター作成費の交付総額は3447万7538円であり、このうち、47候補がポスター1枚作成単価上限額の50%以上の額を請求し、その合計額は3075万3090円であり、50%未満の額を請求した21候補の合計の額は372万4448円である。

第5 選挙用ポスター公営制度をとりまく状況
1. 栃木市議会では2001年(平成13年)3月議会で議員提案によって条例改正し、ポスター作成費の「企画料」30万1875万円を削った。理由は、ポスター作成費の水増しがばれて、議会全体が謝って、あいまいな「企画費」の部分を0にしたものである。
 栃木市議会議員及び栃木市長の選挙における選挙運動の公費負担に関する条例(平成6年9月27日 条例第18号)は以下のように規定されている。
 「附則 3 当分の間、第8条の規定の適用については、同条中『301.875円』とあるのは、『0円』とする。」
 よって、同市のポスター作成費として認定している額は、「501円99銭に当該ポスター掲示場の数を乗じて得た金額」、つまり1枚501円99銭である。

2. 愛知県豊明市の見積調査例(ポスター掲示場数の135枚を制作する場合)
 A社 印刷7万5000円+デザイン料2万5000円=10万円
 B社 印刷6万7250円+デザイン料4万円=10万7250円(+撮影代3万円)
 選挙用ポスター1枚あたりにすれば、A社740円、B社1016円である。
 A社の営業マンは、「リーフレットやはがきの印刷代もポスターといっしょに請求してくれればいいと言われることが多い」とした。
  条例の基準額は、1枚2740円である。

(参考) 豊明市文化会館のコンサートなどのポスター用紙サイズで選挙用の2倍の大きさのA2版につき、紙の種類は、雨に強い紙ではあるがユポ紙ではなく、印刷枚数30枚、写真持ち込みで印刷代+デザイン料、カラーで一枚あたりの印刷代2000円である。

3. 印刷業界は、ポスター作成費で「全部突っ込み」が通常
 三重県内の某自治体の選挙前、ある印刷業者が、「ポスター作成費に、ハガキやリーフレット、名刺など突っ込みで印刷しますから」という主旨を記載したチラシを配って営業活動をした。
 これが、都市部等の選挙グッズ印刷業者の相当な部分の実態である。

4. 水増し部分を候補者にキックバック(現金で返す)する業者もいる。この点は、自動車や運転手でも同様である。ガソリン代については、選挙用自動車(1台に限定されている)以外の車のガソリンを請求する例もある。
 
5. 今年2007年6月になって、山県市でのポスター代水増し容疑で県警が市議や印刷所を捜査、7月11日に現職県議1人、市議6人、業者ら6人を書類送検した。
 山県市の設置した3人の弁護士による調査委員会も7人の水増しを認定、議員主導のケース、現金のキックバックも認定されている(甲第3号証)。報告では、ポスター代上限額の53%で請求した議員も水増し請求を認めた。すなわち、上限額の50%台でも不正の余地を疑うべき事情の存在が明らかになった。山県市長は利息をつけて返還することを求め、現在、返還が終了した。
 容疑の山県市議は、8月31日時点で2人が辞職している。
 県内他市においても、同様の問題が報道されている。
 岐阜県議会議員の選挙においても同様の懸念がなされ、本年4月の選挙に関して、県選管に返還の動きが出た。

6. 以上、実際のポスター作成費は、現在の条例基準額の3割程度で十分に作成できるというデータがそろってきているといえる。ポスター作成費の真実は、条例で基準額と設定される額の1/3程度、どう高く見ても1/2以内で済むとみるべきものである。

第6  本件における違法性もしくは著しい不当性
1. 本件条例違反
 真実でない請求をしたことは、第2で述べたとおり本件条例(第2条、3条)に違背する。

2. 刑法違反
 真実と異なる金額や枚数等を記載した契約書、請求書、領収書などが提出されていたら私文書偽造罪および同行使罪(偽造は、詐欺の手段として行われたもので科刑上一罪の余地あり)というべきである。
 各印刷業者に対する債務は、本来候補者が自分で支出すべきものであって、県の吏員を欺いたり、欺罔(ぎもう・人をあざむき、だますこと)の結果、債務を免れた(財産上不法の利益を得た)としたら、「2項詐欺罪」(刑法第246条第2項)である。
 印刷所から候補者への現金のキックバック、寄付行為による事実上の割り戻しなどは論外である。
 無論、お金の動きの態様によっては、候補者がポスター代などを水増しして業者に支払って、あとで県から候補者に公営選挙の費用が支払われるという場合についての「1項詐欺罪」(刑法第246条第1項)の余地もある。

3. 地方自治法違反
 本件請求手続きが契約書を提出し、選挙管理委員会等が確認したうえで作成費を交付すると規定していることは、契約書が真実であることを前提にしているのは明白である。
 地方自治法第2条、「16項 地方公共団体は、法令に違反してその事務を処理してはならない。なお、市町村及び特別区は、当該都道府県の条例に違反してその事務を処理してはならない。」「17項 前項の規定に違反して行った地方公共団体の行為は、これを無効とする。」とされているところ、本件に妥当する。
 真実に基づかない契約書によって生じた「過払い部分」は、県が負担する必要も根拠もない債務であるから違法な支出である。

4. 地方自治法、地方財政法の原則
 仮に水増しなどの行為がない請求の場合でも、50%を超える部分については通常相場と比較して著しく高いもので、かかる支出は地方自治法2条14項「最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない」に違反し、地方財政法第4条1項「必要且つ最少の限度をこえて、これを支出してはならない」に違反している。

5. 予算の編成の原則
 また、地方財政法第3条(予算の編成)「地方公共団体は、法令の定めるところに従い、且つ、合理的な基準によりその経費を算定し、これを予算に計上しなければならない」ところ、実態と著しく乖離した本件条例を放置して、もって漫然と予算計上した行為は同項に違反している。

6. 条例の「2倍規定違反」
 本件住民監査請求において監査委員は、「ポスター掲示場の2倍の枚数まで公費負担の対象となるのは、1回のはり替え分まで公営の対象とする趣旨である」と手引きにおいて明らかとされている認定した。しかし、たった10日間の県議選において、ポスターを張り替えることを事前に企画し実行した候補をきかない。この点からすれば、張替え意思がないにもかかわらず掲示場の数を超える枚数を請求した候補は、その越える部分につき悪意をもって違法に請求したわけである。

7. 補助金規定
 地方自治法第232条の2(寄附又は補助)は「普通地方公共団体は、その公益上必要がある場合においては、寄附又は補助をすることができる。」としている。
 岐阜県補助金等交付規則第一条(目的)は、「この規則は、法令、条例及び他の規則に特別の定めのあるもののほか、補助金等の交付の申請、決定等に関する事項その他補助金等に係る予算の執行に関する基本的事項を規定することにより、補助金等に係る予算の執行の適正化を図ることを目的とする。」とし、第二条(定義)は、「この規則において「補助金等」とは、県が県以外の者に対して交付する次に掲げるものをいう。  一 補助金  二 利子補給金   三 その他相当の反対給付を受けない給付金で知事の定めるもの」、第九条(事情変更による決定の取消し等)、第十五条(是正のための措置)、第十八条(補助金等の返還)、第十九条(加算金及び延滞金)
としている。
 本件選挙公営費は、同規則「その他相当の反対給付を受けない給付金で知事の定めるもの」に妥当するところ、これに違反している。
 被告知事や選挙管理委員会は主体的に取り組む義務があるから、速やかに調査、対処しなければならない。

第7 社会通念との著しい相反
1. 信義則違反
 本件ポスター代請求手続きが、契約書を提出し、選挙管理委員会等が確認したうえで作成費を交付すると規定していることは、契約書が真実であることを前提にしているのは明白である。
 候補者らが意図的に真実に基づかない契約書を作成し、過剰な請求をしたことは、信義則違反である。

2. 議員の責務についての社会的な認識
 (1) 私生活のことなら「趣味」「嗜好」の選択は自由としても、選挙経費を税金で負担することについて、「贅沢を容認」する姿勢は県民には受け入れがたい。
 組織などに頼らず低額な経費で選挙をする人たちにとって、公費負担の金額は意義が高いとの意見もあるが、総額を切り詰めた選挙なのであるから、ポスターの低額化など従来の公費負担部分や諸費のさらなる経費削減は可能である。潔くあるべきだ。
 仮に、県では選挙経費が高いから必要な制度だとの意見があったとしても、当選すれば、県議は、毎報酬月額85万円(ボーナスを含めれば一ヶ月当120万円以上)が支給される。このような議員らにとって、ポスター代などの経費は相殺できるとも言える。
 さらに、議員には、全国で社会問題になり、返還訴訟もたくさん起こされている「政務調査費」が別に支給されている。これも、希望して申請した議員に対して交付される。岐阜県では、毎月33万円、年間396万円、1期4年分の合計では1584万円になる。
 
 (2) いずれにしても、公費負担があるから贅沢なポスターを作ればよいのか
 議員等になろうとする候補者が、制度があるからと贅沢を求めることは、いまや許されない事態、時代である。税金を贅沢に費消して自省のない政治家は、職員にコストや経済効率の追及を求めることはできないはずである。いまや、「知恵と工夫」が不可欠である。

3. 政治家の倫理に反する
 掲示板の2倍前後の数もしくは多数を請求する候補者らのうちで、当該選挙区内で「室内用ポスター」の掲示を見たことのある県民も少なくない。これらが、本件条例のポスター作成費に「突っ込み」にして印刷されていたら、政治家の倫理としても、本件条例の主旨からしても許されない行為である。

第8 岐阜県の損害
1. 県民の願い
 2006年、岐阜県庁ぐるみの長年の裏金作りが明らかになった。その裏金作りの主たる方法は、旅費の架空=水増し請求である。水増し部分が裏金であった。
 本件もまったく同様であって、県議選候補者による自らの選挙の諸々の費用に充当する目的の裏金作りである。真実のポスター作成費用の交付は条例上正当であるが、他方、真実のポスター作成費用を上回って請求し県に交付をさせたことは、第6、7等で述べたとおりの不法行為によって岐阜県庫から、奪取したものというべきである。
 以上からして、「過払い分のすべて」について岐阜県の損害を回復することは納税者かつ有権者としての県民の願いである。

2. 対象とする支出(損害)
 本件原告らは、2007年4月に実施される県議選の前に2003年分を住民監査請求することで、候補者らに警鐘をならすことも目的として2007年3月20日に住民監査請求した。その後の選挙では、ポスター作成上限基準額100%の請求は幾分減少したとはいえ相変わらず100%請求の候補が少なくないこと、細かく見れば10%程度下げただけという意図的な姿勢を感ずる候補者もいる。
 前記山県市の例(甲第3号証)からして、基準額の50%台以上については水増しを疑わざるを得ない。これは、県警の捜査によるものであるから、相当の客観性を有している。その他、第5で述べたような諸般の状況から推測して、請求人は一律に「基準額の50%以上の支払い部分」を過払い分であると考える。
 即ち、本件請求人が本件請求において損害とする額は、第4の3で述べた2003年県議選のポスターの作成経費に係る支出のうち、ポスター1枚作成単価上限額の50%以上の額を請求した50候補の合計額3584万1477円のうちの50%の額を超える部分の50候補の額の合計である1633万3118円、2007年県議選のポスター1枚作成単価上限額の50%以上の額を請求した47候補の3075万3090円のうちの50%の額を超える部分の47候補の額の合計である1255万2919円、総合計は2888万6037円である(甲第2号証)。
 以上の相手方別の明細は、2003年選挙分を訴状別紙1−1及び2、(2007年選挙分を訴状別紙2−1及び2に示した(「返還請求額」欄が「0」との記載者は含まない)。

第9 不法行為責任と返還義務
1. 候補者や業者
 相手方は、上記第8の2で述べた「候補者」と対応する「利用印刷会社」(業者)である。
 相手方である候補者及び対応する業者は、不法行為責任があり、各候補者及び対応する業者(名目的には業者が代金を県から受け取る)らの取得した額のうちの本件請求にかかる分につき損害賠償義務あるいは不当利得返還義務がある。
 よって、原告は請求の趣旨−1につき地方自治法第242条の2第1項4号に基づき、損害賠償もしくは返還請求の命令を求めるものである。
 本件水増請求した部分の金員の受領には悪意があることは疑いないから、少なくとも民法規定の年5%の遅延損害金をつけて請求すべきである。

2. 知事の怠る事実は違法である
 違法な支出により岐阜県に損害が生じた場合、被告は関係者に損害賠償請求もしくは賠償命令しなければならない。損害賠償請求権は「財産」に当たるところ、被告が請求権を行使していないことは、被告の「財産の管理を怠る事実」として違法である。
 本件において知事が相手方(各候補者及び対応する事業者)に対して、各自にかかる交付額のうち「『ポスター1枚作成単価基準額の50%以上の請求の部分』につき返還請求しないこと」は知事の怠る事実として違法である。
 3月20日の住民監査請求の後においてこのような実態であるから、知事の責任は重大である。
 知事には、職務怠慢あるいは不法行為責任があり、本件請求にかかる分につき損害賠償義務がある。山県市の状況から推測すればななお更である。
 本件補助金的要素からしても、知事は速やかに調査、対処しなければならないところ、無作為である。
 本件支出に関して知事は財産の管理を怠る事実の違法があるから、原告は請求の趣旨−3につき地方自治法第242条の2第1項3号に基づき、違法確認を求めるものである。

3. 岐阜県職員個人に対して
 (1) 知事である古田肇個人
 普通地方公共団体の長は、当該地方公共団体から委任を受けた者として、当該地方公共団体の条例、予算その他の議会の議決に基づく事務その他の事務を自らの判断と責任において誠実に管理し執行する義務を負っている(地方自治法148条、149条)。
 また、普通地方公共団体の長は、補助機関たる職員に対して一般的な指揮監督権を有し(法第154条)、会計事務を監督する義務を負う(同法149条5号)。 
 以上述べたところから、当該長が一定範囲の財務会計上の行為を委任した場合であっても、当該長はその財務会計上の行為の適否が問題とされている代位請求住民訴訟においては、当該職員に該当するというべきであり、当該長に民法上の不法行為責任があれば、当該長は地方公共団体に対し損害賠償義務がある。
 知事である古田肇個人には、職務怠慢あるいは不法行為責任があり、本件請求にかかる分につき損害賠償義務がある。
 よって、原告は請求の趣旨−2につき地方自治法第242条の2第1項4号に基づき、損害賠償の命令を求めるものである。
 
 (2) 支出権限のある職員個人
 職員の賠償責任に関する規定、即ち地方自治法第243条の2「・・これによって生じた損害を賠償しなければならない。次に掲げる行為をする権限を有する職員又はその権限に属する事務を直接補助する職員・・怠ったことにより普通地方公共団体に損害を与えたときも、また同様とする・・」とされ、同法第236条により5年の時効とされている。
 本件において、岐阜県内の選挙公営の実態からすれば、2007年分は当然であるが、満額請求など高額な請求が多かった2003年分についても、本件違法な支出により岐阜県に損害が生じているから、支出権限のある職員はその責務として損害の補填を図らねばならない。損害賠償請求権は「財産」に当たるところ、同職員らが請求権を行使していないことは、「財産の管理を怠る事実」として違法である。
 いったん支出した後であるとしても、再検査し返還請求などしなければ「怠る事実」として認定すべきである。
 少なくとも、3月20日の住民監査請求の後においてこのような実態であるから、3月20日の住民監査請求以後に在籍した職員らの責任は重大である。
 山県市の状況から推測すればなお更である。
 以上、本件支出に権限を有する職員個人には、職務怠慢あるいは不法行為責任があり、本件請求にかかる分につき賠償義務がある。
 よって、原告は請求の趣旨−2につき地方自治法第242条の2第1項4号に基づき、賠償の命令を求めるものである。

第10 本件住民監査請求及び住民訴訟の特質(正当理由の存在及び期間制限の無いこと)
1. 財務会計行為としての正当理由の存在
 2003年4月執行の選挙分に関して本件住民監査請求が当該支出(財務会計行為)から1年を途過しているわけだが、そのことには正当理由がある。
 水増しという事実は県民が知ることができることではない。原告は、ポスター代の請求額の全額でなく、水増し行為を原因とする損害部分のみについて当該不法行為を原因とする損害と主張して返還を求めているところ、水増しのことは秘密にされてきたわけである。そのことが、山県市の刑事事件の事案等で明らかとなり、同じ事態が本件県議選でも強く推測をもって疑われる状況になったのである。本件は、それから、速やかな期間に住民監査請求している。 

2. 怠る事実に関する請求には期間制限が無い
 (1) 本件住民監査請求は、不法行為に基づいて、支出の根拠のない水増し部分についての請求を受けて、被告が当該部分も含めてポスター代金として交付し、相手方らが「受領」してきたことによる岐阜県の損害の回復を怠ることについての請求である。
 相手方(本件では、候補者や業者)らの不法行為を原因とする怠る事実(「真正怠る事実」という)、つまり候補者と印刷業者が談合して県に不正請求したことによる過払というべき事態を放置すること、不法行為に基づく岐阜県の損害の回復を怠ることは違法であり、その点に関する住民監査請求であるから、「当該支出(財務会計行為)から1年に住民監査請求すべき」との期間制限は適用されない。
 
 (2) 「法242条1項は財務会計上の行為については、1年を経過したときは監査請求をすることができないものと規定し、怠る事実についてはこのような期間制限は規定されておらず、住民は怠る事実が現に存する限りいつでも監査請求をすることができる・・・そして、監査請求の対象として何を取り上げるかは、基本的には請求をする住民の選択に係るものであるが、具体的な監査請求の対象は・・・請求書の記載内容、添付書面等に照らして客観的、実質的に判断すべきものである。・・・談合、これに基づく入札及び県との契約締結が不法行為法上違法の評価を受けるものであること、これにより県に損害が発生したことなどを確定しさえすれば足りる」(最高裁判所第3小法廷平成14年7月2日判決平成12年(行ヒ)第51号)

 (3) 「本件監査請求は、県は、被上告会社に対し不法行為により受けた損害を賠償させるべきであるのに、当該請求権の行使を怠っているという事実・・・について監査を遂げるためには、監査委員は、被上告会社9社について上記行為が認められ、それが不法行為法上違法の評価を受けるものであるかどうか、これにより県に損害が発生したといえるかどうかなどを確定しさえすれば足りる。・・・県の被上告会社9社に対する損害賠償請求権は、本件変更契約が違法、無効であるからこそ発生するものではない。・・・そうすると、本件監査請求中、不法行為により代金を余分に支払わせた被上告会社9社に対する損害賠償請求権の行使を怠る事実を対象とする部分は、不適法とはいえない。」(最高裁判所第1小法廷判決平成14年10月3日平成9年(行ツ)第62号)

 (4) 財務会計職員を欺罔又は強迫して財務会計上の行為をさせたときについては、真正怠る事実である
 「《1》窃盗、横領、公有財産の無断使用等、事実的侵害に基づく場合、並びに、《2》これと同視できる場合、例えば、財務会計職員を欺罔又は強迫して財務会計上の行為をさせたときについては、真正怠る事実である。」(大阪地方裁判所平成11年10月28日判決)。まさに、本件「過払額部分」に関しての評価として妥当する判示である。

3. なお、今年2007年3月20日付けで2003年執行の県議会議員選挙におけるポスター代の「県の過払い分」返還を求める住民監査請求は、4月末に却下された。「却下」の監査結果を受けた時は、住民は何度でも住民監査請求できることは最高裁判決で確定している。即ち、「監査委員が適法な住民監査請求を不適法であるとして却下した場合、当該請求をした住民は、直ちに住民訴訟を提起することができるのみならず、同一の財務会計上の行為又は怠る事実を対象として再度の住民監査請求をすることも許される」(平成10(行ツ)68最高裁判所第三小法廷平成10年12月18日)。

4. まとめ
 本件住民監査請求及び住民訴訟は、ポスター作成費のうち「ポスター1枚作成単価上限額の50%以上の額を請求した候補及び業者に関しての50%以上の額を超える部分の合計額2888万6037円は水増し請求である」という観点での真正怠る事実の違法確認と、それに伴う県の損害の回復を求める主旨である。
 以上、本件住民監査請求及び住民訴訟は適法な請求である。
以上
《添付書類》   別紙 原告目録
《証拠書類》
甲第1号証 2007年8月10日付け岐阜県監査委員による結果の通知 (原本あり)
甲第2号証 本件2件の選挙の請求・支払の概括表 (作成/原告寺町知正) (原本あり)
甲第3号証 2007年7月31日付け岐阜県山県市の調査報告書 (写し)

 その他、口頭弁論において、必要に応じて提出する。
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