扶桑社の自社発行予定教科書の白表紙本配布及び、「新しい歴史教科書をつくる会」関係者の他社教科書中傷・誹謗にかかわる申告                          2005年7月19日
公正取引委員会
       委員長 竹 島 一 彦 殿
                    申告者
                    住所 岐阜県多治見市平野町4-81-53
                    氏名 寺尾光身
                      他101名(住所氏名は末尾に記載)

 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下、「独禁法」と略します)第45条@にもとづき、下記のとおり申告します。

T 違法行為者(被申告者)
1. 名 称   株式会社扶桑社(以下、被申告者甲とします)
  所 在 地   東京都港区海岸1-15-1
  代 表 者   社長 中村 守
  資本金額   68億円
  事 業   雑誌、書籍、他開発商品等
2. 名 称   新しい歴史教科書をつくる会(以下、被申告者乙とし、
         また「つくる会」と略します)
  所 在 地   東京都文京区本郷2-36-9 西ビル1階
  代 表 者   会長 八木秀次
  収入金額   1億3557万3880円(2003年度決算額)
  会の目的   「新しい歴史・公民教科書をつくり、児童・生徒の手に
         渡すこと」(会則第3条 1999年9月『史』)

U 申告の趣旨

 被申告者甲および乙は、以下に示すことを行いました。

(1) 被申告者甲は、自らが編集・執筆し、発行を予定している中学校「歴史」「公民」教科書の使用または選択(採択)を勧誘する手段として、自社の組織を通して直接、教科書を使用するものまたは教科書の採択に関与するもの多数に対し、白表紙本(検定申請図書)を供与しました。

(2) 被申告者甲の共同事業者たる被申告者乙「つくる会」は、他社教科書を誹謗する文書を配布し、被申告者甲の事業に協力しました。

 これらの行為は、
独禁法第二条H
三 不当に競争者の顧客を自己と取引するように誘引し、又は強制すること。
六 競争事業者とその取引先との取引を不当に妨害すること。
に該当し、公正な競争を阻害する不公正な取引行為であり、独禁法に違反する行為なので、公正取引委員会が、被申告者甲および被申告者乙に対し、すみやかに排除措置をとるよう申告するものです。

V 上記違反行為の詳細

 今回、私たちが上記排除の措置を、独禁法を根拠に公正取引委員会に求めているのは、教科書採択が競争入札の落札行為に他ならないことが明らかだからです。教科書採択とは、教科書採択権のある教育委員会が、複数の候補となる検定済み教科書の中から最も適切と判断する教科書を選択することであり、採択はすなわち国費での購入決定を意味するからです。したがって、教科書採択に関して、上記U(1)および(2)のような、採択の公正を害する行為は決して許されてはならず、そのような行為が行われた教科書採択の候補教科書は、排除されなければなりません。以下、上記(1)および(2)について詳述します。

(1)に関して
 被申告者甲は、2004年3月に検定申請を行い、その後同年7月下旬以降、教科書の選択に関与するものに対し白表紙本を配布していることが、文部科学省(以後文科省と略します)に寄せられた情報により発覚しました。文科省は、白表紙本の漏出は「教科用図書検定規則実施細則」に違反するとして被申告者甲扶桑社への事情聴取を10月27日に行いましたが、その結果、同社は1都10県で歴史・公民の白表紙本計43冊を同社が貸与したことを認め、陳謝しました。文科省は回収を指示するとともに管理の徹底を指導しました。
 その後、被申告者甲がなお白表紙本を配布しつづけているとの情報が文科省へ寄せられたため、本年1月25日、改めて被申告者甲扶桑社を聴取したところ、同社は3県で6冊を貸与し、1都9県で19冊を閲覧させていたことを認め、再度陳謝しました。
 さらに3月12日、なお被申告者甲扶桑社の白表紙本が配布されていることがマスコミ等で明らかにされたことを受けて文科省は3月22日、被申告者甲扶桑社を聴取したところ、同社が京都府と和歌山県の教育委員会関係者に白表紙本を提供したことを認め、陳謝しました。
 以上は、文科省が被申告者甲扶桑社から事情を聴取した範囲で把握した内容にすぎませんが、合わせて白表紙本計70冊、貸与配布した地域は1都1府17県におよぶ広範なもので、都府県名は以下のようでした。
東京都、京都府、山形県、茨城県、栃木県、埼玉県、千葉県、神奈川県、新潟県、富山県、石川県、福井県、山梨県、静岡県、三重県、和歌山県、島根県、福岡県、鹿児島県。
 これらは文科省が被申告者甲扶桑社から聴取した範囲内で把握したものであり、氷山の一角に過ぎないと考えられます。また扶桑社が文科省の度重なる指導にもかかわらず、白表紙本を配布し続けていたことは極めて悪質な不正行為と言わざるを得ません。
 公正取引委員会は「教科書業における特殊指定の内容解説」11の(2)イにおいて白表紙本の配布を明確に禁止しており、被申告者甲扶桑社の行為は独禁法第二条H三に該当する不公正な取引行為そのものです。

(2)に関して
独禁法律第二条D項は、「この法律において私的独占とは、事業者が、単独に、又は他の事業者と結合し、若しくは通牒し、その他いかなる方法を以てするかを問わず」として、複数の事業者が共同し不法行為を行う場合を想定しています。被申告者甲扶桑社の共同事業者である被申告者乙「つくる会」(註1)は、昨年から今年にかけて別紙のような同業他社の教科書を中傷する文書(別紙@)を自らの主催する集会で大量に配布し、また各地の教育関係者に送付しました。これは公正取引委員会が公示した不公正な取引方法(註2)に該当するものです。

註1 被申告者乙つくる会が被申告者甲扶桑社の共同事業者と認定される理由
 「つくる会」の主要メンバーが扶桑社の教科書の執筆者・監修者となっており(別紙A、別紙B1頁)、つくる会が教科書の製作と普及という共同事業を行なっていることは明らかです。
 「つくる会」は、2004年9月11日、第7回定期総会を開きましたが、その議案書(別紙B)は「今年度事業計画」として、教科書の改訂・改善(「叙述の平易化と一貫性の強化」、つまり執筆)とともに「扶桑社の営業体制の強化」(別紙B11頁)を挙げ、同社と緊密な連絡関係にあることが記されています。
 また「事業計画」では、扶桑社版教科書「採択率10パーセント」という目標を設定するとともに、4年前と同じ8000万円を「採択経費」として計上し、それに不足する5000万円の特別募金を会員に呼びかけています(別紙B17頁と別紙C)。1億円近い採択費用をかけた、7000人以上の会員を持つ組織による扶桑社教科書の採択事業計画は、「つくる会」が扶桑社と共同の事業者であることを明確に示すものです。

註2 公正取引委員会が公示した不公正な取引方法
公正取引委員会告示第五号(教科書業における特定の不公正な取引方法)
 三 教科書の発行を業とするものが、直接であると間接であるとを問わず、他の教科書の発行を業とする者またはその発行する教科書を中傷し、ひぼうし、その他不正な手段をもって、他の者の発行する教科書の使用又は採択を妨害すること

以上

申告者
氏  名   住  所

以上102名