平成一二年九月二八日判決言渡判 同日原本交付 裁判所書記官

平成一一年(行ウ)第一七号 県営渡船情報非公開処分取消請求事件

(口頭弁論の終結の日 平成一二年六月二九日)

           判     決

   岐阜県山県郡高富町西深瀬二〇八番地の一
        原告選定当事者      寺   町   知   正

   岐阜県揖斐郡谷汲村岐礼一〇四八番地の一
        原告選定当事者      山   本   好   行

                (選定者は別紙選定者目録のとおり)

   岐阜市薮田南二丁目一番一号
        被      告     岐  阜  県  知  事  
                    梶   原       拓

        右訴訟代理人弁護士    端   元   博   保
        同            伊   藤   公   郎
        同            池   田   智   洋

      本     文

一 被告が原告選定者らに対して平成一一年六月三日付けでした別紙文書
 目録一記載の1の公文書に係る部分公開決定処分のうち、同目録一記載
 の2(三)ないし(五)、(七)及び(八)の公開をしないとした部分
 を取り消す。

二 被告が原告選定者らに対して平成一一年六月一四日付けでした別紙文
 書目録二記載の1の公文書に係る部分公開決定処分のうち、同目録二記
 載の2(一)ないし(四)の公開をしないとした部分を取り消す。

三 被告が原告選定者らに対して平成一一年七月二八日付けでした別紙文
 書目録三記載の1の公文書に係る部分公開決定処分のうち、同目録三記
 載の2(一)、(三)及び(五)の公開をしないとした部分を取り消す。

四 被告が原告選定者らに対して平成一一年六月七日付けでした別紙文書
 目録四記載の1の公文書に係る部分公開決定処分のうち、同目録四記載
 の2の公開をしないとした部分を取り消す。

五 原告選定当事者らのその余の請求を棄却する。

六 訴訟費用はこれを一〇分し、その一を原告選定当事者らの、その余を
 被告の負担とする。

          事実及び理由

第一 請求
一 被告が原告選定者らに対して平成一一年六月三日付けでした別紙文書目録一記載の1の公文書に係る部分公開決定処分(以下「本件処分一」という。)のうち、同目録一記載の2(三)ないし(九)(なお、本件訴訟において、(一)及び(二)は取消請求の対象となっていない。)の公開をしないとした部分を取り消す。

二 被告が原告選定者らに対して同月一四日付けでした別紙文書目録二記載の1の公文書に係る部分公開決定処分(以下「本件処分二」という。)のうち、同目録二記載の2(一)ないし(五)の公開をしないとした部分を取り消す。
三 被告が原告選定者らに対して同年七月二八日付けでした別紙文書目録三記載の1の公文書に係る部分公開決定処分(以下「本件処分三」という。)のうち、同目録三記載の2(一)、(三)、(五)及び(六)(なお、本件訴松において、(二)及び(四)は取消請求の対象となっていない。)の公開をしないとした部分を取り消す。

四 被告が原告選定者らに対して同年六月七日付けでした別紙文書目録四記載の1の公文書に係る部分公開決定処分(以下「本件処分四」という。)のうち、同目録四記載の2の公開をしないとした部分を取り消す。

第二 事案の概要
 本件は、原告選定者らが、岐阜県情報公開条例(平成一一年岐阜県条例第三〇号による改正前のもの。以下、右条例を「新条例」といい、後出の平成九年岐阜県条例第二二号による改正前のものを「旧条例」という。)に基づき、被告に対し、四回にわたり、大垣及び岐阜各土木事務所の県営渡船場越立業務等に関する公文書の公開を請求したところ、被告が、原告選定者らに対し、本件処分一ないし四の各部分公開決定処分をした(以下、右各処分にそれぞれ対応する公開請求を「本件請求一」、「本件請求二」、「本件請求三」及び「本件請求四」という。)ので、原告選定当事者らが、被告に対し、本件処分一ないし四の各取消しを求めた事案である。

一 争いのない事実
 l 当事者
 原告選定当事者ら及び原告選定者らは、いずれも岐阜県内に住所を有する者であり、新条例五条二号による公文書の公開を請求することができるものである。
 被告は、新条例二条一項の実施機関である。

2 本件条例
 新条例には、次のとおりの規定がある。
 ただし、六条一項言下ただし書ハ、四号ただし書この規定は、平成九年一二月二六日岐阜県条例第二二号による改正に基づくものであって、平成一〇年四月一日以後に実施機関が作成し、又は取得した公文書について適用される(附則平成九年一二月二六日条例第二二号一、三項参照)。
 また、六条二項の規定は、平成一〇年七月一日岐阜県条例第二一号による改正に基づくものであって、平成一一年四月一日から施行される(附則平成一〇年七月一日条例第二一号一項参照)。

 (解釈及び運用の基本)
第三条 実施機関は、公文書の公開を求める権利が十分に尊重されるようこの条例を解釈し、運用するものとする。この場合において、個人に関する情報がみだりに公にされることのないよう最大限の配慮をしなければならない。

(公開しないことができる公文書)
第六条 実施機関は、次の各号のいずれかに該当する情報が記録されている公文書については、当該公文書に係る公文書の公開をしないことができる。

一 個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、特定の個人が識別され得るもの。ただし、次に掲げる情報を除く。
  イ 法令及び条例(以下「法令等」という。)の定めるところにより、
   何人でも閲覧することができるとされている情報
  ロ 公表を目的として実施機関が作成し、又は取得した情報
  ハ 公務員(国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)第二条第一
   項に規定する国家公務員及び地方公務員法(昭和二十五年法律第二百
   六十一号)第二条に規定する地方公務員をいう。)の職務の遂行に係
   る情報に含まれる当該公務員の職名及び氏名に関する情報(公開する
   ことにより、当該公務員の権利利益が著しく侵害されるおそれがある
   ものを除く。)
  ニ 法令等の規定に基づく許可、免許、届出等に際して実施機関が作成
   し、又は取得した情報であって、公開することが公益上必要であると
   認められるもの
四 法人(国及び地方公共団体を除く)その他の団体(以下「法人等」という)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、公開することにより、当該法人等又は当法事業を営む個人の競争上の地位その他正当な利益が損なわれると認められるもの。ただし、次に掲げる情報を除く。
  イ 事業活動によって生じ、又は生ずるおそれがある危害から人の生命、   身体又は健康を保護するために、公開することが必要であると認めら
   れる情報
  ロ 違法又は不当な事業活動によって生じ、又は生ずるそれがある支
   障から人の生活を保護するために、公開することが必要であると認め
   られる情報
  ハ イ又はロに掲げる情報に準ずる情報であって、公益上公開すること
   が必要であると認められるもの
  ニ 県との契約又は当該契約に関する支出に係る公文書に記録されてい
   る氏名又は名称、住所又は事務所若しくは事業所の所在地、電話番号
   その他これらに類する情報であって、実施機関があらかじめ岐阜県公
   文書公開審査会の意見を聴いて公示したもの
八 監査、検査、取締り等の計画及び実施要領、争訟又は交渉の方針、入札の予定価格、試験の問題及び採点基準その他県又は国等の事務事業に関する情報であって、公開することにより、当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の目的が損なわれ、又はこれらの事務事業の公正かつ円滑な執行に著しい支障が生ずるおそれのあるもの。

2 実施機関は、前項第一号の規定の解釈に当たっては、岐阜県個人情報保護条例(平成十年岐阜県条例第二十三号)第七条が規定する個人情報に係る提供の制限の趣旨に反することのないようにしなければならない。

 (公文書の部分公開)
第八条 実施機関は、公文書に第六条及び前条第一項ただし書の規定により公開しないことができる情報とそれの情報が併せて記録されている場合において、公開しないことができる情報に係る部分とそれ以外の部分とを容易に分離することができ、かつ、当該分離により請求の趣旨が損なわれることがないと認めるときは、公文書の部分公開(公文書に記録されている情報のうち公開しないことができる情報に係る部分を除いて、公文書の公開をすることをいう。以下同じ)をしなければならない。

3 本件各請求
 (一) 本件請求一
 原告選定者らは、平成一一年五月二一日付けで、被告に対し、大垣土木事務所の県営渡船場越立業務に関する公文書の公開を請求した。

 (二) 本件請求二
 原告選定者らは、同年六月三日付けで、被告に対し、大垣土木事務所の県営渡船場越立業務に関する公文書の公開を請求した。

 (三) 本件請求三
 原告選定者らは、同月二九日付けで、被告に対し、大垣土木事務所の管理課及び道路維持課に関する公文書の公開を請求した。

 (四) 本件請求四
 原告選定者らは、同年五月二七日付けで、被告に対し、岐阜土木事務所の県営渡船場越立業務に関する公文書の公開を請求した。

4 本件各処分
 (一) 本件処分一
 被告は、平成一一年六月三日付けで、本件請求一に係る公文書の件名又は内容を別紙文書目録一記載の1の公文書と特定した上、右文書のうち、同目録一記載の2(一)ないし(四)は旧条例六条一号又は新条例六条一項一号に、(五)ないし(七)は新条例六条一項四号に、(八)は新条例六条一項八号にそれぞれ該当し、(九)は、当該情報は公開請求対象外の情報又は公開請求対象外のものが合算された情報であり、公開すると、すべてが公開請求された県営渡船越立業務に関するものであると混同されるおそれがあるとの理由で、これらの部分を公開しない旨決定し、原告選定者らに対し、その旨通知した。

 (二) 本件処分二
 被告は、同月一四日付けで、本件請求二に係る公文書の件名又は内容を別紙文書目録二記載の1の公文書と特定した上、右文書のうち、同目録二記載の2(一)及び(二)は新条例六条一項一号に、(三)及び(四)は新条例六条一項四号にそれぞれ該当し、(五)は、当該情報は公開請求対象外の情報であり、公開すると、すべてが公開請求された県営渡船越立業務に関するものであると混同されるおそれがあるとの理由で、これらの部分を公開しない旨決定し、原告選定者らに対し、その旨通知した。

 (三) 本件処分三
 被告は、同年七月二八日付けで、本件請求三に係る公文書の件名又は内容を別紙文書目録三記載の1の公文書と特定した上、右文書のうち、同日録三記載の2(一)ないし(五)は旧条例六条一毎に該当し、(六)は、当該情報は公開請求対象外の情報又は公開請求対象外のものが合算された情報であり、公開すると、すべてが公開請求された海津町への出張に関するものであると混同されるおそれがあるとの理由で、これらの部分を公開しない旨決定し、原告選定者らに対し、その旨通知した。

 (四) 本件処分四
 被告は、同年六月七日付けで、本件請求四に係る公文書の件名又は内容を別紙文書目録四記載の1の公文書と特定した上、右文書のうち、同目録四記載の2は旧条例六条一号に該当するとの理由で、この部分を公開しない旨決定し、原告選定者らに対し、その旨通知した。

二 争点
 1 被告が新条例六条一項一号又は旧条例六条一号(同号本文の文言自体は改正がないので、以下、単に「本件条例六条一項一号」という。)に該当するとして公文書の公開をしないとした前記各部分は、右各条項各号の情報に当たるか。

 2 被告が新条例六条一項四号(以下、単に「本件条例六条一項四号」という。)に該当するとして公文書の公開をしないとした前記各部分は、右条項の情報に当たるか

 3 被告が新条例六条一項八号(以下、単に「本件条例六条一項八号」という。)に該当するとして公文書の公開をしないとした前記各部分は、右条項の情報に当たるか。

 4 被告が公開請求の対象外の情報が記録されている部分(以下「請求対象外情報」という。)又は公開請求の対象外の情報が併せて記録されている部分(以下「合算情報」という。)として公文書の公開をしないとしたことは適法か。

三 争点に関する当事者の主張
 1 争点1(本件条例六条一項一号の該当性の有無)について

   (被告)
 本件条例六条一項一号は、プライバシーであるか否かが不明確なものも含めて、特定の個人を識別し得る情報が記録されている公文書は原則として公開しないことを定めたものであり、しかも、プライバシー権は、名誉権等の人格権的利益と重なり合い、プライバシーによる保護を直接的には受けなくても、名誉権等の人格権的利益として保覆すべきであると認められるものもあるから本件条例六条一項一号の解釈に当たっては、個人の名誉権等の人格権的利益の保護も特に考慮に入れるべきである。
 個人の氏名は、個人に関する情報の中でも最も根元的なものである。
 そして、公務員の氏名等は、行政事務を遂行した公務員の特定のために公文書に記録されることが一般的であるが、それと同時に、公務員の私生活における個人識別のための基本情報としての性格も有しており、これを公開した場合には、公務員の私生活に影響を及ぼす可能性が大きいから、公務員の氏名等を公開すべき規定が条例上存しない限り、公開すべきでない。
 したがって、被告が公文書の公開をしないとした部分は、本件条例六条一項一号に該当する情報に当たる。

   (原告選定当事者ら)
 本件条例六条一項一考は、個人のプライバシーの権利の保護を目的とするものであるから、特定の個人が識別され、又は識別され得る情報であっても、個人のプライバシーの権利を侵害しない場合には、公開の義務は免除されない。 個人の氏名及び職名は、これにより個人を識別することはできるが、それは、同号の「特定の個人が識別され得るもの」に当たることが認められるというにすぎず、そもそも「個人に関する情報」には当たらない。
 船頭が渡船を操業し、渡船場を維持管理する業務は、県営渡船と命名されているだけでなく、道路法上も県道と認定されている事業である上、岐阜県ないし海津町との委託契約に従って右業務に相応する委託料の支払を受けるものであるから、船頭の個人的又は私的な行為ではなく、県の公務の一部というべきである。
 県職員の氏名等に関する情報、船頭の氏名及び執務状況等に関する情報、公的な検査業務に関する立会人の氏名等に関する情報のいずれにも、プライバシー性はない。
 したがって、被告が公文書の公開をしないとした部分は、本件条例六条一項一号に該当する情報に当たらない。

 2 争点2(本件条例六条一項四号の該当性の有無)について

   (被告)
 本件条例六条一項四号は、事業者の経済的自由権の保護として、営業・販売に関する情報、経営方針、経理等の内部管理に関する情報、社会的評価、信用が損なわれるおそれのあるものを公開することにより、事業活動が揖なわれるおそれのある場合にはこれを公開しないことができるとするものである。
 印影は、無関係な第三者に知られた場合には偽造を許すなどの危険をはらみ、また、口座番号は、事業者の財産の所在又は種別が明らかになるなど、事業者が事業活動を行う上で重用な内部管理に関する情報であり、事業者が自らの営業活動の中で使用するものであって、その開示の範囲は自らの判断で選択し、自ら開示した者以外に対しては公開せずに内部情報として管理しているものであるから、これを一般に公開することにより事業活動が損なわれることは明らかである。
 公開を請求された公文書の中には、事業者が県に対して提供したサービスの内容が記載されたものもあるところ、価格の設定に関する情報は、当該事業者の営業上のノウハウ、ひいては営業の実態そのものを形成するものであり、いわゆる企業秘密とされるものである。
 しかも、本件において、渡船組合及び納入業者は、海津町との間で契約を締結しているのであって、岐阜県との間で契約を締結しているのではないことにかんがみると、岐阜県に対する情報公開請求との関係では、岐阜県と直接取引をしている事業者以上に、その事業活動に関する情報は保護されるべきである。 したがって、被告が公文書の公開をしないとした部分は、本件条例六条一項四号に該当する情報に当たる。

   (原告選定当事者ら)
 渡船委託業務契約は、歴史的にも、また将来的にも、独占かつ寡占的契約であって、他の個人又は団体に代替し得るものではないから、債権者の氏名等の公開が組合業務に悪影響を与えるおそれは全くない。
 債権者の氏名、住所、店名、印影及び口座番号等の情報は、通常の取引において公になっているものであり、およそ競争上の地位その他正当な利益が損なわれるたぐいの情報ではあり得ない。
 また、これらの情報が公開されたからといって、事業者に不利になるものでもない。
 検査及び証明業務は、検査機関が、機関及び法定の資格を有する検査担当者の責任において、検査依頼者及び第三者に対して基準への合致又は安全等を保証するものであるから、検査機関等の印影及び担当者の氏名等は公開が当然に予定されているものというべきである。
 したがって、被告が公文書の公開をしないとした部分は、本件条例六条一項四号に破当する情報に当たらない。

 3 争点3 (本件条例六条一項八号の該当性の有無)について

   (被告)
 海津町の口座番号は広範に周知されているものではなく、例えば納税通知への記載は、納税の便宜等の必要性から、当該通知者に対してのみ限定的になされるものである。
 海津町の口座番号は出納管理上重要な内部情報であり、これをみだりに公開すると、町の会計事務に支障を来し、事務事業の公正かつ円滑な執行に著しい支障が生じるおそれがある。
 したがって、被告が公文書の公開をしないとした部分は、本件条例六条一項八号に該当する情報に当たる。

   (原告選定当事者ら)
 納税通知の数は海津町世帯の相当部分を占めている上、他の事務の納付通知及び偉告等を考慮すると、海津町の口座番号はきわめて広範に周知されているものというべきである。
 海津町の口座番号は内部管理情報ではなく、これを公開しても事務に支障が生ずるおそれはない。
 したがって、被告が公文書の公開をしないとした部分は、本件条例六条一項八号に該当する情報に当たらない。

 4 争点4 (請求対象外情報及び合算情報の取扱い)について

   (被告)
 原告選定者らが公開を請求したのは、大垣・岐阜各土木事務所の県営渡船場越立業務等に関する公文書であり、それ以外の情報は、そもそも条例上公開の義務のないものである。
 また、公開請求の対象に係る海津町への出張に関する旅費とそれ以外の旅費とが合算されている情報は分離することが不可能であり、本件条例八条の趣旨に照らしても、これを公開しないことができるものというべきである。

   (原告選定当事者ら)
 公開請求の対象に係る支出とそれ以外の支出とが合算されている情報は、請求の対象そのものであるから、当然に公開されるべきである。
 公開請求の対象外の支出と混同されるおそれがある場合には公開をしないことができるとの規定はないから、合算情報も公開することが条例の趣旨である。本件条例六条一項所定の非公開事由以外の理由により、公文書の公開をしないことができることは到底許されない。
 また、これらの情報をすべて公開しても、公開請求対象外の支出が付随的に列記されているというにすぎず、本件条例八条にいう「請求の趣旨が損なわれる」こともあり得ないというべきである。

第三 当裁判所の判断
 一 本件各公文書の記載内容等について
  前記争いのない事実等に、証拠(甲一ないし四(枝番を含む。)、一一ないし二〇(枝番を含む。)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下のとおりの事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

 1 岐阜県は、日原渡船場(岐阜県海津郡海津町日原所在、県道路線名・県道津島海津線)及び森下渡船場(岐阜県海津郡海津町森下所在、県道路線名・県道津島立田海津線)の各越立業務(以下、両者を併せて「本件渡船場越立業務」という。)を岐阜県海津郡海津町(以下、単に「海津町」という。)に委託し、海津町に委託料を支払ってきたが、右委託料は、最終的に、日原渡船組合及び森下渡船組合(以下、両者を併せて「本件渡船組合」という。)に支払われている。

 2 原告選定者らは、前記二、一3記載のとおり、新条例に基づき、被告に対し、四回にわたり、本件渡船場越立業務等に関する公文書の公開を請求した。
 3 これを受けて、被告は、前記第二、一4記載のとおり、本件各請求に係る公文書の件名又は内容を別紙文書目録一ないし四記載の1の各公文書と特定した上、右各文書のうち、同目録一ないし四記載の各2の部分を公開しない旨決定し、原告選定者らに対し、その旨通知した。

 4 被告が公文書の一部を公開しない旨決定した理由ごとに、本件各公文書の記載内容等を整理すると、以下のとおりである。

 (一) 本件条例六条一項一号に該当するとしたもの
  (1) 被告が本件条例六条一項一号に該当するとして非公開とした部分で、かつ、本件訴訟において取消請求の対象となっているのは、別紙文書目録一記載の2(三)及び(四)、同目録二記載の2(一)及び(二)、同目録三記載の2(一)、(三)及び(五)、同目録四記載の2である。

  (2) 別紙文書目録一記載の2(三)の検査調書は、本件渡船場越立業務が適正に運行されているかどうかを確認するための検査の結果を記録したものであるが、このうち非公開の部分は立会人の氏名である(甲一一の4、5)。 同目録一記載の2(四)の渡船場業務日誌は、本件渡船場越立業務の日々の勤務状況を記録したものであるが、このうち、非公開の部分は勤務者名である(甲一の1、一一の6)。
 同目録二記載の2(一)の船舶検査手帳は、日本小型船舶検査機構が作成したものであり、渡船の船体及び機関の状況を検査した結果等が記録されているが、このうち、非公開の部分は検査員の氏名及び印影である(甲二の1(右上)、一五(一枚目))。
 同目録二記載の2(二)の振込依頼票(控)及び振込金受取書は、渡船の検査等手数料の支払いのために岐阜県の出納事務担当者が作成したものであるが、このうち、非公開の部分は出納印中の取扱銀行の担当者名である(甲一五(二枚目))。
 同目録三記載の2(一)の旅行命令(依頼)書、同目録三記載の2(三)の旅費請求(精算)・領収書、同目録三記載の2(五)の旅費(合算)請求書は、海津町への出張のために支出した旅費に関し岐阜県の出納事務担当者が作成したものであるが、このうち、非公開の部分は出張した職員の氏名及び印影である(甲三の1、2、一八の1)。
 同目録四記載の2の請求書送付文書は、平成九年度委託料支出金調書に添付されていたのを岐阜県岐阜土木事務所が岐阜市長から取得したものであるが、このうち、非公開の部分は岐阜市土木部土木総務課の担当者の氏名である(甲四の1、2、二〇)。

 (二) 本件条例六条一項四号に該当するとしたもの
  (1) 被告が本件条例六条一項四号に該当するとして非公開とした部分は、別紙文書目録一記載の2(五)ないし(七)、同目録二記載の2(三)及び(四)である。

  (2) 別紙文書目録一記載の2(五)の委託料精算書は、本件渡船組合の代表者が本件渡船場越立業務に関する収支を清算したものであるが、このうち、非公開の部分は本件渡船組合の代表者名である(甲一の2(左)、一二の1)。
 同目録一記載の2(六)及び(七)の領収証(書)は、本件渡船場越立業務に関して物品等を提供した納入業者が作成したものであるが、このうち、非公開の部分は納入業者の印影、住所、氏名等である(甲一の2(右)、一二の2)。
 同目録二記載の2(三)の振込依頼票(控)及び振込金受取書は、前記第三、一4(一)(2)で述べたとおりのものであり、手数料納付請求書は、検査手数料の支払いを受けるために日本小型船舶検査機構の出納事務担当者が作成したものであるが、これらのうち、非公開の部分は日本小型船舶検査機構の振込先銀行及び口座番号等である(甲一六(一、二枚目))。
 また、船舶検査手帳の表紙及び手数料納付請求書の上部にはそれぞれ日本小型船舶検査機構の印影が押捺されているが、このうち、非公開の部分は右印影である(甲二の1(左上、左下)、一六(二、四枚目))。
 同目録二記載の2(四)の物品登録調書は、本件渡船場越立業務に関する物品の登録に開し岐阜県の出納事務担当者が作成したものであるが、このうち、非公開の部分は物品の取得先である(甲一六(六枚目))。

 (三) 本件条例六条一項八号に該当するとしたもの
  (1) 被告が本件条例六条一項八号に該当するとして非公開とした部分は、別紙文書目録一記載の2(八)である。

  (2) 別紙文書目録一記載の2(八)の支出金調書は、本件涯船場越立業務に関する委託料の支払いために岐阜県の出納事務担当者が作成したものであるが、このうち、非公開の部分は海津町の口座番号である(甲一三の1、2)。

 (四) 請求対象外情報又は合算情報に該当するとしたもの
  (1) 被告が、請求対象外情報又は合算情報であり、公開すると、すべてが 公開請求された県営渡船越立業務に関するものであると混同されるおそれがあるとの理由で非公開とした部分は、別紙文書目録一記載の2(九)、同目録二記載の2(五)、同目録三記載の2(六)である。

  (2) 別紙文書目録一記載の2(九)の支出負担行為兼支出金銅書、旅行命令(依頼)書、旅費(合算)請求書及び支出内訳書は、出張した職員の旅費に関し岐阜県の出納事務担当者が作成したものであるが、このうち、非公開の部分は本件渡船場越立業務に関するもの以外の情報及び当該情報と本件渡船場越立業務に関するものが合算された情報である(甲一四の1ないし4)。
 同目録二記載の2(五)の物品品目別一覧表は、物品の管理のために岐阜県の出納事務担当者が作成したものであるが、このうち、非公開の部分は本件渡船場越立業務に関するもの以外の情報(甲二の2、一七の1、2)。
 同目録三記載の2(六)の支出負担行為兼支払金調書・旅費(合算)請求書・支出内訳書及び旅行命令(依頼)書/旅費請求(精算)・領収書は、海津町への出張のために支出した旅費に関し岐阜県の出納事務担当者が作成したものであるが、このうち、非公開の部分は海津町への出張に関するもの以外の情報及び当該情報と海津町への出張に関するものが合算された情報である(甲三の1、2、一九の1、2)。

二 争点1 (本件条例六条一項一号の該当性の有無)について
 1 本件条例六条一項一号は、個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得るものが記録されている公文書について、同号ただし書に掲げる情報を除き、当該公文書に係る公文書の公開をしないことができるとしたものであるが、同条例三条が、実施機関は、個人に関する情報がみだりに公にされることのないよう最大限の配慮をしながらも、公文書の公開を求める権利が十分に尊重されるようこの条例を解釈し、運用するものとする旨規定し、また、岐阜県作成の情報公開事務の手引(以下、単に「情報公開事務の手引」という。)が、「個人に関する情報」について、個人の内心に関する情報、個人の経歴や社会的活動に関する情報、個人の財産の状況に関する情報、個人の心身の状況に関する情報、個人の家族や生活状況に関する情報、個人の名誉に関する情報、個人の肖像等を例示していることなどにかんがみると、本号により保護が予定されているのは、個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、私生活上の事実に関する情報で、かつ、性質上公開になじまないものをいうと解するのが相当である。

 2 そこで、右解釈を前提に、まず、前記目録一2(三)の検査調書の立会人の氏名、同目録二2(一)の船舶検査手帳の検査員の氏名及び印影、同目録三2(一)の旅行命令(依頼)書等の出張した職員の氏名及び印影、同目録四2の請求書送付文書の送付担当者の氏名について検討するに、本件渡船場越立業務に関する検査の立会い、渡船の船体及び機関の状況に関する検査、本件渡船場越立業務に関する海津町への出張、岐阜市長から岐阜県岐阜土木事務所への文書の送付という職務について、その担当者は地方公共団体又は公的機関の職員であり、これらの職務が公務の一環としてなされたことは明らかである。 したがって、右に掲げた情報は、いずれも個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得るものではあるが、私生活上の事実に関する情報ではなく、性質上公開になじまないようなものでもないから、本号により保護が予定されている情報には当たらないというべきである。
 これに対して、被告は、公務員の氏名等は、公務員の私生活における個人識別のための基本情報としての性格も有しており、これを公開した場合には、公務員の私生活に影響を及ぼす可能性が大きいから、公務員の氏名等を公開すべき規定が条例上存しない限り、公開すべきではない旨主張する。
 しかし、公務員の職務の遂行に際して記録された情報に含まれる公務員の氏名及び印影は、当該公務員の私人としての行動又は生活に関する意味合いを含むものではないし、また、特に当該公務員の氏名及び印影が知られることにより、その私生活上の平穏を不当に侵害されることがある場合には、被告において、当該情報が私生活上の事実に関するものであり、かつ、性質上公開になじまないものであることの具体的な事情を主張立証すべきであるが、本件においては、このような具体的な主張立証はない。したがって、被告の右主張は採用できない。

 3 次に、前記目録一2(四)の渡船場業務日誌の勤務者名について検討するに、本件渡船場越立業務は、私的な団体である本件渡船組合の組合員が海津町に代わって右業務を遂行するものであり、公務そのものとはいえないが、本件渡船組合によって運営されている渡船場の路線は、道路交通法上は県道と認定され、かつ、本件渡船組合は、岐阜県から、海津町を通じて右業務に関する委託料の支払を受けているのであるから、本件渡船場越立業務は公務に準じるものというべきである。したがって、本件渡船組合の勤務者名は、特段の事情のない限り、私生活上の事実に関する情報ではなく、性質上公開になじまないようなものでもないから、本号により保護が予定されている情報には当たらないというべきである。そして、本件においては、右特段の事情は見当たらない。
 4 最後に、右目録二2(二)の振込依苓票(控)等の銀行の担当者名について検討するに、民間銀行の出納に関する業務は、銀行の社員が行う私的な事務であり、公務そのもの又は公務に準じたものということはできないが、右業務は社内の取決めに従って日々繰り返されるものであり、右銀行の出納事務の担当者名は、特段の事情のない限り、私生活上の事実に関する情報ではなく、性質上公開になじまないようなものでもないから、本号により保護が予定されている情報には当たらないというべきであり、しかも、本件においては、右特段の事情は見当たらない。

 5 以上によれば、被告が本件条例六条一項一号に該当するとして非公開とした前記の各情報は、本号所定の個人に関する情報には当たらない。

三 争点2 (本件条例六条一項四号の該当性の有無)について
 1 本件条例六条一項四号の「競争上の地位その他正当な利益が損なわれると認められるもの」について、情報公開事務の手引は、法人等又は事業を営む個人の保有する生産技術、営業、販売等に関する情報であって、公開することににより、法人等又は事業を営む個人の事業活動が損なわれおそれがのあるもの、経営方針、経理、金融、人事、労務管理等の事業活動を行う上での内部管理に関する情報であって、公開することにより、法人等又は事業を営む個人の事業活動が損なわれるおそれのあるもの、その他公開することにより、法人等又は事業を営む個人の社会的評価、信用が損なわれ、法人等又は事業を営む個人の事業活動が損なわれるおそれのあるものを例示している。

 2 そこで、右趣旨を前提に、前記目録一2(五)の委託料精算書の本件渡船組合の代表者名について検討するに、右情報は、情報公開事務の手引が例示するもののいずれにも当たらず、しかも、一般に公にされているたぐいの情報と考えられるから、これを公開することにより、当該法人等の事業活動、社会的評価、信用が揖なわれるおそれがあるとは解されない。

 3 次に、右目録一2(六)及び(七)の領収証(書)等の納入業者の氏名及び住所等、同目録二2(四)の物品登録調書の物品の取得先について検討するに、これらの債権者の特定に関する情報は、その性質上、不特定多数の者に開示される性質のものである上、債権者が内部情報として秘匿すべきものでもないから、それ自体として、公開することにより、当該法人等の事業活動、社会的評価、信用が損なわれるおそれがあるとはいえない。
 これについて、被告は、事業者が県に対して提供したサービスの内容、価格の設定に関する情報は、当該事業者の営業上のノウハウ、ひいては営業上の実態そのものを形成するものであり、いわゆる企業秘密とされる旨主張する。しかしながら、岐阜県は右事業者の取引先の一つであるにすぎず、かつ、ごく限られた期間の取引が問題とされているだけであるから、右の情報が事業者の営業実態を明らかにする程のものとはいえないし、また、原告選定当事者らが開示を求める文書には、事業者の営業上の秘密又はノウハウ等の同業者との対抗関係上特に秘匿を要する情報や、経営方針、経理又は人事等の事業活動を行う上での内部管理に属する情報が記録されているわけではないから、これらの文書を公開することによって、当該債権者の事業活動、社会的評価、信用が損なわれるおそれがあるとはいえない。
 したがって、被告の右主張はいずれも採用できない。

 4 前記領収証(書)等の納入業者の印影、右目録二2(三)の振込依頼票(控)等の日本小型船舶検査機構の振込先銀行、口座番号及び船舶検査手帳等の印影について検討するに、一般に、事業者の印影及び口座番号等に関する情報は、事業者等が自らの事業活動の中で使用するものであり、開示の可否及びその範囲は自らの選択するところによるものであって、自ら開示した者以外に対してはこれを内部情報として管理するのが原則であり、かかる取扱いは、一般的にも是認されているものと解される。
 そして、本件において、県に対して物品等を提供した納入業者の印影等が一般に公開されていることを示すべき資料は見当たらず、納入業者の印影が、偽造等によりその事業活動を損なうおそれも否定し難い。
 これについて、原告選定当事者らは、納入業者の印影等は、通常の取引において公になっているものであり、およそ競争上の地位その他正当な利益が損なわれるたぐいの情報ではあり得ない旨主張する。しかしながら、納入業者の印影が一般的に公開されているものであることについては、本件全証拠によっても、これを認めるに足りない。したがって、原告選定当事者らの右主張は採用できない。
 もっとも、日本小型船舶検査機構の振込先銀行、口座番号及び印影に関する情報は、右検査機構が公的機関であり、しかも、その振込先銀行、口座番号及び印影は一般に公にされているものと考えられ、内部情報として管理するものとはいい難いのであるから、それ自体として、公開することにより、当該法人等の事業活動、社会的評価、信用が損なわれるおそれがあるとはいえない。

 5 以上によれば、納入業者の印影は、法人等に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、公開することにより、当該法人等又は当該事業を営む個人の競争上の地位その他正当な利益が損なわれると認められ、本件条例六条一項四号に該当する情報に当たるが、本件渡船組合の代表者名、納入業者の氏名及び住所等、物品の取得先、日本小型船舶検査機構の振込先銀行、口座番号及び印影は、公開することにより、当該法人等又は当該事業を営む個人の競争上の地位その他の正当な利益が損なわれるとは認められず、結局、本件条例六条一項四号に該当する情報には当たらない。

四 争点3 (本件条例六条一項八号の該当性の有無)について
 1 本件条例六条一項八号の「当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の目的が損なわれ、又はこれらの事務事業の公正かつ円滑な執行に著しい支障が生ずるおそれのあるもの」の具体例について、情報公開事務の手引は、公開することにより、当該事務事業を実施しても、予想どおりの成果が得られず、実施する意味がなくなるおそれのある情報、公開することにより、請求者など特定の者に不当な利益又は不利益を与えるおそれのある情報、公開することにより、県又は国等と相手方との信頼関係を損ない、当該事務事業若しくは将来における同種の事務事業の遂行を著しく阻害するもの、公開することにより、当該事務事業の経費が著しく増大し、又は当該事務事業の実施の時期が大幅に遅れるなど行政が著しく混乱するおそれのある情報を例示している。

 2 そこで、右趣旨を前提に、前記目録一2(八)の支出金調書の海津町の口座番号について検討するに、海津町の口座番号は、納税等各種の通知により、海津町の世帯の相当部分に周知されているものと考えられ、一般に公にしても差し支えない性質の情報といえるから、これを公開することにより、海津町の事務事業若しくは将来の同種の事務事業の目的が損なわれ、又はこれらの事務事業の公正かつ円滑な執行に著しい支障が生ずるおそれがあるとはいえない。 これについて、被告は、海津町の口座番号は出納管理上重要な内部情報であり、これをみだりに公開すると、町の会計事務に支障を来し、事務事業の公正かつ円滑な執行に著しい支障が生じるおそれがある旨主張する。しかし、本件全証拠によっても、被告が主張するようなおそれがあると認めるに足りない。 したがって、被告の右主張は採用できない。
 以上によれば、海津町の口座番号は、本件条例六条一項八号に該当する情報に当たらない。

五 争点4 (請求対象外情報及び合算情報の取扱い)について
 1 前記目録一2(九)、同目録二2(五)、同目録三2(六)中の各請求対象外情報につき、被告が公文書の公開をしないとしたことは許されるか否かについて検討する。
 本件条例は、九条二号及び一〇条一項からも明らかなように、公文書の公開の請求方法において、請求書には請求しようとする公文書を特定するために必要な事項の記載を要求するとともに、公文書の公開の請求に対する決定において、公開をするかどうかの決定をしなければならない対象は右請求に係る公文書としていることにかんがみると、実施機関は、請求に係る公文書の件名又は内容を特定した上、右公文書の公開をするかどうかの決定をすべき義務を負うものであるが、それ以上に、請求に係る公文書以外の情報が記録されている公文書についてまで、公開をするかどうかの決定をすべき義務がないことは明らかである。
 そうすると、本件において、前記の請求対象外情報は、請求に係る公文書以外の情報が記録されている公文書であり、実施機関において、このような公文書についてまで、公開をするかどうかの決定をすべき義務はないから、被告が右情報の公開をしないとしたことに違法はない。

 2 次に、右目録一2(九)及び同目録三2(六)中の合算情報につき、被告が公文書の公開をしないとしたことは許されるか否かについて検討する。
 本件条例八条の規定は、公文書に六条各号のいずれかに該当する情報が記録されているなどのため、公開しないことができる情報とそれ以外の情報が併せて記録されている場合に関するものである外、その趣旨は、公開請求の対象となる情報とそれ以外の情報が併せて記録されている場合においても、同じく妥当するものと解すべきである。
 原告選定当事者らは、公開請求の対象に係る情報とそれ以外の情報とが合算されている情報は、請求の対象そのものであるから、当然に公開されるべきであると主張する。確かに、右情報は、請求の対象に係る情報を含んではいるものの、右情報とそれ以外の情報とが不可分一体となっているからこそ、これが公開されるべきであるか否かがまさに問題となるのであって、原告選定当事者らが主張するように当然に公開されるべきことにはならない。前示のとおり、実施機関において、請求の対象外の情報は公開をすべき義務を当然に負うものではないから、この場合には、公文書の部分公開の可否によって解決すべき問題である。したがって、合算情報は当然に公開されるべきであるとの原告選定当事者らの右主張は採用できない。
 そうすると、本件において、右目録一2(九)の公文書の本件渡船場越立業務に関する支出とそれ以外の支出とが合算された情報、同目録三2(六)の公文書の海津町への出張に関する旅費とそれ以外の旅費とが合算された情報は、いずれも、それ自体、一つの数字として現れていると推認されるものであり、請求に係る部分とそれ以外の部分とを容易に分離することができないことは明らかであるから、当該分離により請求の趣旨が揖なわれることがないかどうかを検討するまでもなく、これを公開すべき義務はないというべきである。
 したがって、被告が右情報の公開をしないとしたことに違法はない。

六 結論
 以上のとおりであるから、本件処分一のうち、別紙文書目録一記載の2(六)及び(九)の公開をしないとした部分、本件処分二のうち、同目録二記載の2(五)の公開をしないとした部分、本件処分三のうち、同目録三記載の2(六)の公開をしないとした部分はいずれも正当であるが、本件処分一のうち、同目録一記載の2(三)ないし(五)、(七)及び(八)の公開をしないとした部分、本件処分二のうち、同目録二記載の2(一)ないし(四)の公開をしないとした部分、本件処分三のうち、同目録三記載の2(一)、(三)及び(五)の公開をしないとした部分、本件処分四のうち、同日録四記載の2の公開をしないとした部分はいずれも違法である。
 よって、原告選定当事者らの請求は、右のとおり非公開決定処分が違法と認められる限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴計法七条、民訴法六一条、六四条本文を適用して、主文のとおり判決する。

 岐阜地方裁判所民事第一部

            裁判長裁判官 中村直文
 
               裁判官 倉澤千厳

               裁判官 中川博文

            選 定 者 目 録

 岐阜県山県郡高富町西深瀬二〇八番地の一    寺  町  知  正
 岐阜県揖斐郡各汲村岐礼一〇四八番地の一    山  本  好  行
 岐阜県山県郡高富町西深瀬二〇八番地の一    寺  町     緑
 岐阜県美濃市大矢円二四三四番地        後  藤  兆  平
 岐阜県養老郡上石津町上鍛冶屋九七番地の一   三  輪  唯  夫
 岐阜市黒野四七一番地の一           別  処  雅  樹
 岐阜県加茂郡八百津町伊岐津志一四〇五番地の一 白  木  康  憲
 岐阜県不破郡垂井町一二九二番地        白  木  茂  雄
 岐阜県可児郡御嵩町上恵土一二三〇番地の一   小  栗     均
 岐阜県加茂郡八百津町潮見四〇七番地      宮  澤  杉  郎


         文 書 目 録
一 本件処分一
 1 公開を請求された公文書の件名又は内容
   大垣土木事務所の県営渡船越立業務に関する以下の公文書(付属文書を   含む。)
  ・ 委託契約書 (平成七年度〜平成一一年度)
  ・ 業務報告書 (平成七年度〜平成一〇年度)
  ・ 委託料の支出金調書・証拠書類 (平成七年度〜平成一〇年度)
  ・ 旅行命令(依頼)書及び支出金調書・復命書 (平成一〇年度)

 2 公文書の公開をしない部分
  (一) 旅行命令(依頼)書中の職務の級欄に記載されている出張した職      員の級(行政職に読み替えた級を含む。)及び号給
  (二) 旅費に関する支出内訳書中の支払方法に記載されている口座名義  (三) 委託に関する検査調書中の立会人欄に記載されている氏名
  (四) 渡船場業務日誌に記載されている勤務者名
  (五) 委託料精算書に記載されている渡船組合の代表者名
  (六) 領収証(書)に記載されている納入業者の印影
  (七) 領収証(書)に記載されている納入業者の住所、氏名等
  (八) 委託に関する支出命令番号〇〇〇二〇〇一〇一、〇〇〇二〇〇一      〇二、〇〇〇三〇一〇二、〇〇〇二一〇一〇一、〇〇〇二一〇一      〇二、〇〇〇一八〇一〇二の支出金調書中の支払方法欄に記載さ      れている海津町の口座番号
  (九) 旅費に関する支出負担行為兼支出金調書、旅行命令(依頼)書、      旅費(合算)請求書及び支出内訳書中の、公開請求された県営渡      船越立業務に関するもの以外の情報及び当該情報と県営渡船越立      業務に関するものが合算され記録されている情報

二 本件処分二
 1 公開を請求された公文書の件名又は内容
   大垣土木農務所の県営渡船越立業務に関する以下の公文書(付属文書を   含む。)
  ・ 船の検査に係る事前決裁書及び支出金調書
  ・ 船舶検査手帳
  ・ 物品品目別一覧表

 2 公文書の公開をしない部分
  (一) 船舶検査手帳に記載されている検査員の氏名及び印影
  (二) 振込依頼票(控)及び振込金受取書の出納印に為る取扱銀行の
      担当者名
  (三) 振込依頼票(控)・手数料納付請求書・振込金受取書に記載され      ている日本小型船舶検査機構の振込先銀行、口座番号等及び手数      料納付請求書・船舶検査手帳に押印された印影
  (四) 物品登録調書に記載されている取得先
  (五) 物晶品目別一覧表中の、公開請求された県営渡船越立業務に関す      るもの以外の情報

三 本件処分三
 1 公開を請求された公文書の件名又は内容
   大垣土木事務所の管理課及び道路維持課に関する以下の公文書
  ・海津町への出張に関する旅行命令(依頼)書(平成八〜九年度分)
  ・海津町への出張に関する支出金調書(平成九年度分)

 2 公文書の公開をしない部分
  (一) 旅行命令(依頼)書中の職務の級柵に記載されている出張した職      員の職名(平成九年六月以前の出張に係るもの)・氏名及び印影  (二) 旅行命令(依頼)書中の職務の級欄に記載されている出張した職      員の級(行政職に読み替えた級を含む。)及び号給
  (三) 旅費請求(精算)・領収書中の出張した職員の氏名び印影
  (四) 支出内訳書中の支払方法に記載されている口座名義
  (五) 旅費(合算)請求書中の出張した職員の氏名
  (六) 支出負担行為兼支出金調書・旅費(合算)請求書・支出内訳書及      び旅行命令(依頼)書/旅費請求(精算)・領収書中の、公開請      求された海津町への出張に関するもの以外の情報及び当該情報と      海津町への出張に関するものが合算して記録されている情報

四 本件処分四
 1 公開を請求された公文書の件名又は内容
   岐阜土木事務所の県営渡船越立業務に関する以下の公文書(付属文書を   含む。)
  ・委託料の支出金調書・証拠書頚(平成九年度)

 2 公文書の公開をしない部分
   平成九年度委託料支出金調書に添付されている請求書送付文書に記載さ   れている担当者氏名
                           以 上

   右は正本である。

平成一二年九月二八日

  岐阜地方裁判所
             裁判所書記官    安井啓夫