訴      状


                  2001年3月8日
岐阜地方裁判所 民事部御中

   原告 寺町知正 外9名 (目録の通り)

被告 岐阜市薮田南2−1−1 
岐阜県職員互助会理事長大野慎一
被告 岐阜市薮田南2−1−1 
岐阜県知事梶原拓
被告 岐阜市御手洗390−20
梶原拓
  被告 岐阜市則武107
高橋新蔵
        被告 美濃加茂市加茂野町鷹之巣24
  高井正文

互助会設置自販機電気代返還請求事件

      訴訟物の価格 金950、000円
      貼用印紙額    金8、200円
     予納郵券    金14、350円
             1040×(5+5) 500×5 100×5
             80×5 50×5 40×5 10×10

         請 求 の 趣 旨
1 被告岐阜県知事梶原拓が被告互助会に対して行った2000年4月1日付け物件目録記載の行政財産使用許可処分のうち、飲料水自動販売機部分の許可が違法であることを確認し、これを取消す。

2 被告岐阜県知事梶原拓が被告互助会に対して2000年3月31日以前に行った物件目録の行政財産使用許可処分のうち、飲料水自動販売機部分の許可が違法であることを確認する。

3 被告岐阜県知事梶原拓が、被告互助会に対する行政財産使用許可処分のうち、飲料水自動販売機部分を転貸していることを容認しているのは違法であることを確認する。

4 被告岐阜県知事梶原拓が、被告互助会設置の自動販売機に係る電気使用代を徴収していない関係職員に対して、電気使用料相当額の損害賠償命令を発しないことは違法であることを確認する。

5 被告岐阜県職員互助会、同梶原拓、同高橋新蔵、同高井正文は、岐阜県に対し、連帯して、金1110万円及びそれに対する本訴訟送達の日から完済まで年5分の割合による金員を支払え。

6 訴訟費用は、被告らの負担とする。
  との判決、ならびに第5項につき仮執行宣言を求める。

         請 求 の 原 因
第1 当事者
1 原告は肩書地に居住する住民である。

2 被告岐阜県知事梶原拓(以下、被告知事という)は岐阜県の執行機関である。
3 被告梶原拓は89年施行の岐阜県知事選挙において当選し、再々々選され、現在もその職にある。

4 被告高橋新蔵は、97年度当初から99年度末まで岐阜県総務部長(99年度より経営管理部長と部の名称変更があった)であった。

5 被告高井正文は、96年度末まで岐阜県総務部長であった。

6 被告岐阜県職員互助会(以下、被告互助会という)は、慣例により県副知事が理事長を務める財団法人であり、現在は大野慎一副知事が理事長である。

第2 岐阜県職員互助会と岐阜県
1 (財)岐阜県職員互助会は、岐阜県職員の互助団体に関する条例(昭和37年3月26日条例第1号)第4条《事業》「互助団体は、家族療養費の給付その他職員の福利厚生に関する事業を行うものとする。」に位置付けられる団体である。被告知事は被告互助会に補助をしているが、この補助対象にならない食堂、喫茶、診療所、展示販売、自販機等に関する管理運営を特別会計の業務として行ってきた。
 全国の都道府県レベルにおいて、この種の特別会計業務を行う職員互助会は少数で、民間事業者が行う場合や全くこの種の業務を行わないことがあるように、職員福利とは関係のない純粋に任意の行為である。

2 被告互助会は、岐阜県本庁舎外11ケ所の庁舎における特別会計に係る業務に関して、本庁の食堂・喫茶は直営、他の食堂・喫茶は業者に委託し、展示販売は指定業者が行い、飲料水自動販売機の維持管理は民間業者に任せている。これらの業務のために岐阜県の庁舎を利用することは、行政財産の目的外使用に当たることから、被告互助会が庁舎毎に被告知事に許可申請し、被告知事はそれぞれの行政財産の使用を許可している(以下、本件許可という)。詳細は「行政財産使用許可書」に明示されている(甲第4号証)。
 一方、県の他の施設での飲食関係業務等は、個別に民間業者が許可申請し、県はそれぞれ許可している。
 この許可は原則一年で、継続の場合は、毎年更新許可申請する、とされている。
第3 使用料と管理費 
1 地方自治法(以下、法という)第238条の4《行政財産の管理及び区分》第4項「行政財産は、その用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することができる」とされ、法第225条《使用料》「普通地方公共団体は、法第238条の4第4項の規定による許可を受けてする行政財産の使用又は公の施設の利用につき使用料を徴収することができる。」とされている。
 この規定を受け被告知事は、使用料を徴収するために、行政財産の目的外使用にかかる使用料徴収条例(昭和39年3月24日条例第7号)(以下、使用料条例という)を定めた。同第2条《使用料の額等》において各種別の賦課額算定方式が定められ、ジュース、タバコ、電話等の機器類は「事務所、食堂、売店等」欄に含まれる。
 使用料条例第3条《使用料の減免》「公益上その他特別の理由があると認めるときは、前条の使用料を減免することができる」とされている。 

2 地方公共団体の行政財産を当該団体以外の者が特別に利用しようとする場合、電気代やガス・水道、清掃費等の維持管理費(以下、管理費という)は当然に当事者負担であって、当該自治体以外の団体や個人の庁舎施設の使用・利用に関して、これを減免してよいとする法令の根拠規定はない。
 実際に、「物件(庁舎)の維持保存に要する経費、電話、暖房、電気・ガス及び水道等の使用料金は管理者の負担である。これらは個別メーター等により実績に基づき、管理者が直接支払うのが原則であるが、設備の共用等でこれが困難なときは、別の方法により按分して負担させる。」(「公有財産事務の概要/第4節・行政財産の目的外使用許可/34頁」甲第3号証)とされているのである。 庁舎の管理費は、当該庁舎の燃料費、光熱水費、委託料の年間予算額を当該庁舎面積等で除して算出し、これが管理費賦課の際の算定根拠となる。
 この管理費には「飲料水自動販売機が飲料を温冷するために消費する特別な電力の代金」(以下、自販機電気代という)は含まれていないから、自販機電気代は自販機設置者が管理費と別に負担すべきことはいうまでもない。

第4 使用料や管理費の免除等
1 このように、使用料には減免規定があり、管理費には免除規定はない。
 本件のような飲料水自販機に関しては、被告知事は、民間業者の申請設置分については使用料及び管理費・自販機電気代を徴収してきた。
 一方、「互助会申請に係る分」についてだけは使用料を全額免除し、管理費と自販機電気代も徴収してこなかった。被告互助会申請に係る飲料水自販機は県庁舎全体で合計36台であり、これに対する所定の家屋使用料は約15万円、所定の管理費は約30万円、自販機固有の電気代は約222万円である(甲第5号証)。被告知事はこれを全額免除しているのである。

2 《本件電気代の算出(推定)根拠》
 民間事業者設置の飲料水自販機は、原則として、個別メーターを取り付けて電気使用量を算定し、毎月、被告知事の当該施設管理者が徴収している。
 しかし、被告互助会分の自販機はいずれも個別メーターを取り付けておらず電気使用量のデータが存在しないことから、過去の電気代は推定によるしかない。 よって、住民監査請求においては、 @ 県立病院が個別メーターを設置していない場合に適用した「定格消費電力を基に算定して賦課している3500円/月・台」と、 A 飲料水自販機メーカーが示した16本、20本、30本展示自販機のうちの「16本展示自販機の標準電力経費の計算式から導かれた6800円/月・台」とを基に、極めて控えめにして、 B 両者の平均(中間)である「5150円/月・台(年間61800円/年・台)」を一台当たりの基本とし、しかも C どの自販機も同様のタイプである、として電気代を積算した。 もっとも、実際の設置機器の多くが、これより大きいタイプである。

第5 違法性
1 転貸していることは許可条件の第8条違反
 被告互助会は、許可物件の一部を他の法人もしくは個人事業者に転貸している。しかも被告互助会は、「委託事業」、「指定業者による販売」等と称してはいるが、委託手数料や公益費等を徴収しているほか、自販機を管理している飲料業者からマージンを徴収している例すらある。その売上の一部を受取っているのである。この実態からして、本件許可書(甲第4号証)第8条《転貸の禁止》「使用者は、使用許可物件を他の者に転貸してはならない」(なお、「使用者」は同第6条において「使用を許可された者」とされている)に明らかに違反している。 行政実例(昭和40年1月21日、自治行第3号、福井県総務部長宛、行政課長回答)は、転貸禁止を明示していない場合の対応についてさえ、次のように明確である。
「《問》行政財産の目的外使用の許可を受けた者がその行政財産である施設を第三者に利用されている場合において、許可の条件を何も付していないときは、知事はこれを黙認することができるか。
 《答》行政財産の目的外使用の許可を受けた者が他の者に当該行政財産の全部又は一部を転貸することは、許可処分の性質上認められないので、知事はこれを黙認して放置すべきではない。」

2 管理費と自販機電気代の不徴収は許可条件第6条違反
 庁舎等の一部を第三者が具体的に占有・使用するときはどんな場合でも、目的外使用の許可が必要であるが、この際に、管理費及び自販機電気代を徴収しないこと(免除)は想定されていないし、実際に本件使用許可書(甲第4号証)第6条《経費の負担等》には「使用許可物件の維持保存のため通常必要とする経費は、使用を許可された者の負担とする」とされているとおりである。
 現実にも被告知事は、特別地方公共団体等への許可に際しても管理費を免除していない(第6号証)。他方、民間事業者は県の他の施設において、管理費及び自販機電気代を公正に納付しているのである。
 本件免除が互助会ゆえに特別に恣意的に行われたものであるのは明らかであり、被告互助会設置の自販機電気代の徴収を免除したことは法令の根拠を欠き、社会通念上も許されないことである。しかも自販機の電気代は極めて多額である。

3 使用許可及び使用実態は著しい裁量権の乱用で違法 
 行政処分における裁量権の乱用は取消事由であることは確定した見解であるところ、使用許可書は第6条(経費の負担等)「使用許可物件の維持保存のため通常必要とする経費並びに当該物件に付帯する電話、暖房、電気、ガス及び水道等の使用料金は、使用を許可された者の負担とする」(甲第4号証)としているが、この経費の負担等の明示(条件)が個々の許可案件によってバラバラであって著しい裁量権の乱用があるといわざるを得ない。しかも、その明示と徴収方法が一致していない。
 また、許可に係る機械占有面積と実際の自販機設置の占有面積が大幅に異なるなど、あまりに杜撰であって、結局は許可どおりに目的外使用されているとは言えない。
 このように、本件許可の条件として著しい裁量権の乱用があり、管理費や自販機電気代徴収の実態においても杜撰で、結局は違法と言わざるを得ない。

4 自販機に係る使用料、管理費の免除は著しい裁量権の乱用で違法
 本件にかかる庁舎等は行政財産であり、その用途又は目的を妨げない限度において、本来の事務事業への支障のない範囲で第三者に使用を許可することができるものであるから、目的外使用の許可は例外的に必要最小限度においてのみなし得るものである。
 使用許可処分における裁量は決して無制約なものではない。
 職員や県の庁舎・施設等を利用する住民等の利便をはかるために目的外使用の許可をすること自体は正当であるとしても、個別の許可に当たっては具体的にその利便が真に必要なものか、実際に利便が得られるのか、適正に業務がなされるのか、などは十分に検討されなければならない。
 また、免除の規定の運用は申請者の性格によって判断するのでなく、その業務よってもたらされる「公益」や「便益」等の具体的な特別理由の存在によって判断されるべきは当然である。そして、この免除に合理的理由がなければ、使用料を免除したことは違法なものとなる。
 実際に、被告知事は、特別地方公共団体等一部を除いては使用料を免除していない(第6号証)。他方、申請が民間事業者である場合は、どの事業者も使用料を免除されずに県の施設で業務を遂行し、利便を提供しているのであるから、これら事業者が県庁舎等に自販機を設置しても、同じ便益を提供することができる。 加えて、被告互助会分の飲料水販売価格は一般市価と何ら変わらず免除の波及効果の具体的な面は一つも現れていない。結局は、被告互助会に通常の一般社会以上に特別に収益を発生させ、反面として県の損害を発生させただけである。  よって、被告互助会の申請にかかる本件自販機についての使用料の免除規定の適用は、著しく裁量権を濫用した違法なものというべきである。
 管理費も全く同様である。

5 財産の管理・運用の原則違反(地方財政法第8条違反)
 地方財政法第8条《財産の管理及び運用》「地方公共団体の財産は、常に良好の状態においてこれを管理し、その所有の目的に応じて最も効率的に、これを運用しなければならない。」としている。
 これは、「地方財政の健全確保の見地から、地方公共団体の財産の管理、運用の原則を示したものである。『良好の状態においてこれを管理』するということは、善良なる管理者の注意力をもって管理すべきものであって、『その所有の目的に応じて最も効率的に』運用するということは、その財産の用途に適応し最も効果あるごとく運用すべきである、また本条の財産は、法第237条1項の財産と同義で公有財産、物品、債権及び基金を意味するものである。」(自治大臣官房総務課監修・自治体六法・ぎょうせい発行)とされている。
 本件自販機等に関しては、許可を受けこれを設置する者は、当然に自らの利益を目的としているのであるから、使用料や管理費を免除してまで実施してもらう事業でもなく、一方、設置者が使用料や管理費を賦課されるなら自販機は設置しない、という程度の需給バランスであれば、そもそも目的外使用の許可の必要性はないというべきである。
 被告知事が自販機から提供される便益がどうしても必要であるとするなら、被告互助会をとおさずに、一般の民間業者に目的外使用の許可をし、通常に管理費や使用料、自販機電気代を徴収していれば済むことである。
 高額の電気代を県費で負担してまで自販機を被告互助会に設置させる必要性はどこにもない。
 以上、本件自販機に係る庁舎の財産管理と運用は地方財政法第8条に違反する。
6 自治体の会計原則違反
 地方公共団体の事務を処理するに当たっては、最小の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならず(法第2条14項)、経費はその達成するために必要且つ最小の限度をこえて支出してはならない(地方財政法第4条1項)とされているが、本件のように放漫な財産管理の実情、そして必然的に発生した損害の放置は、前記両規定に違反する。

第6 監査請求前置
1 原告らは、2000年12月12日付けで法第242条1項に定める監査請求を行なった。その要点は、「岐阜県は互助会管轄の飲料水自動販売機についての転貸しを容認し、使用料、管理費、自販機電気代を免除しているが違法であり、被告互助会申請の36台の飲料水自動販売機の家屋使用料約15万円、管理費約30万円、自販機固有の電気代は約222万円(1年間)で5年間分の未徴収分の総額1340万円は県の損害であるから、必要な措置をとるよう勧告することを求める。」である。
 原告らは法第242条1項《住民監査請求》の定めに基づき、「転貸及び経費不徴収の違法確認と改善措置」と「損害賠償措置」の勧告を求めたものである。
2 これに対して、監査委員は2001年2月9日付けで、却下、棄却すると通知した(甲第1号証)。監査結果の要点は次のようである。
◆監査請求期間は、支出のあった日または終わった日から1年間とすべきであって、また(遅れたことに)正当な理由もないので、平成11年12月12日以前の電気代等の管理費の請求権の不行使に係る請求については却下する。
◆平成11年12月13日から平成12年12月12日までの互助会申請の飲料水自動販売機の使用料、管理費の請求権の不行使に係る請求人の主張については棄却する。
◆地方公共団体の職員の福利厚生事業の内容や実施方法等は任命権者の裁量で、(財)互助会と一体となって実施されている。特別会計事業は、県がその経営を互助会に委託し、経費は利用者及び県が負担している。この実施は、互助会設立(昭和59年4月)当初に締結した契約により、必要でかつ効率的なものについては、一部を外部事業者に委託している。従って互助会から委託された外部事業者が設置しているもので転貸を受けて事業を実施しているものではない。
◆使用料は県の便宜供与の一環として公益上その他特別の理由があり全額免除されている。管理費の一部(電気代等)を便宜供与として県が現物給付を行っているものと考える。
◆一部の機関では許可条件の内容が、契約と異なる表現がなされていたが、許可条件を逸脱したものとは認められない。
◆よって、県が互助会に対して飲料水自動販売機の使用料、管理費の一部について負担を求めていないことは違法となるものではない。

3 ところで、実際にこの種の問題として、東京都監査委員は99年9月、都の施設を職員組合が使用していた事案について、「電気代等を徴収していないので都の損害額の確定とその補填措置をとること」を知事に勧告した(甲第2号証)。
第7 請求期間
 原告らは、被告互助会申請にかかる行政財産使用許可において各種免除がなされていることを00年7月中旬に公開された約2000枚の公文書から順次読み取り、続いての公開請求に対して、11月から12月にかけて公開された公文書において県立高等学校、県立病院等における行政財産の目的外使用においては個々の民間事業者が自ら許可を得、使用料や管理費、自販機電気代を県が精緻に賦課徴収されていることを知ったものである。これらから、被告互助会申請にかかる行政財産の目的外使用のうち、少なくても飲料水自販機の使用料免除や電気代不徴収は違法であり、社会通念上も到底許されないと認識し、その後の速やかな期間内に監査請求するものである。
 ちなみに、許可の条件や賦課・免除の実態を通常、県民が知ることは到底困難なことである。
 よって、支出から一年以上前分に付いて請求期間が徒過したことには正当理由がある。

第8 行政処分(本件許可)の取消請求
1 普通地方公共団体の建物の管理は、「その本来の設置目的を達成するための見地からなされる行政上の管理」と「その財産的価値に着目して、その維持、保存、運用のためなされる財産上の管理」とに分かれる。行政財産使用許可処分は法令上も明らかなとおり、本来の目的を達成するためのものではなく、その目的を妨げない限度で、いわば財産の運用としてなされるものであるから、後者の性格を有する。この運用において適正を欠けば、普通地方公共団体において、自らこれを自由に運用することを妨げられる等損害を被るおそれもある等から、使用許可処分は住民訴訟の対象となる財務会計行為である。

2 本件行政財産使用許可は行政処分であるが、本件自販機の設置は明らかに許可において禁止された転貸であり(第6条)、第9条において「(1)知事は次の各号の一に該当するときは、使用許可の取消また変更をすることができる。1」 使用者がこの許可条件に違反したとき」と使用許可の取消が明示されているところ、転貸は許可取消事由にあたる。
 本件被告互助会設置の自販機は長年来、そして本日現在も転貸の状態で民間事業者によって維持管理され、収益は民間事業者と被告互助会が分配している。

3 使用許可書は第6条(経費の負担等)個々の許可書によってバラバラであって許可の条件としての意味をなしておらず、著しい裁量権の乱用があるから違法な処分と言わざるを得ない。

4 許可に係る機械占有面積と実態とが大幅に異なるなど、あまりに杜撰であって、許可どおりに使用されていない。

5 このように、本件許可において、少なくても飲料水自販機に関しては、転貸は許可条件に違反し、著しい裁量権の乱用があるから結局は許可が違法と言わざるを得ない。地方財政法第8条にも違反する。
 しかし、被告知事は本件許可処分を取消さず若しくは是正措置を講じていないので、原告は法第242条の2の第1項2号の定めにより、本件00年度の処分のうち、飲料水自販機に係る部分が無効であることを確認し、かつ、この取消を求めるものである。

6 同様の理由により、99年度以前の処分のうち、飲料水自販機に係る部分は無効であることを確認することを求めるものである。

第9 怠る事実の違法確認請求
1 法第242条の2の1項3号「財産の管理を怠る事実」の財産とは、法第237条1項の「財産」と同義とされ、財産とは「公有財産、物品、債権、基金」をいうと規定され、第238条1項が公有財産、第239条が物品、第240条が債権、第241条が基金の定義をそれぞれ規定している。債権とは、金銭の給付を目的とする権利であって、地方公共団体が第三者に対して有する不法行為に基づく損害賠償請求権、長・職員に対する雇用契約の債務不履行(職務違反などがある場合)に基づく損害賠償請求権、不当利得返還請求権などが含まれている。
2 法第243条の2《職員の賠償責任》「1項/出納長若しくは補助職員、資金前渡を受けた職員は故意又は重大な過失により生じた損害を賠償しなければならない。」によって関係者には返還責任があり、被告知事には賠償請求義務(「同2項/長は監査委員に対し、賠償責任の有無及び賠償額を決定することを求め、その決定に基づき期限を定めて賠償を命じなければならない。ただし、その事実を知った日から3年を経過した時は賠償を命ずることはできない」)がある。 住民訴訟の前置制度である監査請求における損害賠償請求は、法第243条の2第1項に基づく請求であり、同法第236条1項《金銭債権の消滅時効》「金銭の給付を目的とする普通地方公共団体の権利は、時効に関し他の法律に定めがあるものを除くほか、5年間これを行わないときは、時効により消滅する」との5年の消滅時効の規定が適用される。
 また、右賠償命令制度について最高裁は「職員の地方公共団体に対する賠償責任を、地方公共団体内部における自主的な手続きによって簡便にかつ迅速に実現しようとするものである」「同条3項が規定する賠償命令の3年の除斥期間経過後も住民訴訟は可能である」(最高裁昭和61年2月27日、判例タ592号32頁)としている。

3 本件において未だ時効(法第236条1項《金銭債権の消滅時効》)は成立しておらず、関係者には返還責任(法第243条の2)があり、被告知事には賠償請求義務(同2項)がある。

4 そこで、次の点が財産の管理を怠る事実に当たるので、違法であることの確認を求めるものである。
 第一に、本件は明らかに許可において禁止された転貸であり、転貸は許可取消事由にあたる。よって、被告知事は本件処分を取消し、本件許可部分の明渡を命じもしくは是正をさせなければならない義務があるところ、何の措置も講じていないことは、財産の管理を怠る事実に該当する。
 第二として、被告知事は、民間業者設置の自販機においては全て自販機電気代を徴収しているにもかかわらず、被告互助会設置に係る自販機についてだけは電気代を徴収していない。この損害に関して、被告知事には職員に返還を命ずる義務があるにもかかわらず損害の補填を実現する措置を講じていないことは、財産の管理を怠る事実に該当する。
 よって、原告は、被告知事が、@転貸を容認していること、A被告互助会設置自販機の電気代を徴収せず岐阜県の損害を発生させている職員に損害賠償を命令(法第243条の2)しないことの二点は法第242条の2の第1項3号に定める財産の管理を怠る事実であり、それは違法であることを確認することを求める。
第10 権限の所在と損害賠償
1 以上、杜撰な許可をなし、許可条件に違反することを容認し、電気代を徴収ないことは許されないことであって、その結果岐阜県に損害を生じさせたものである。被告梶原、同高橋、同高井及び被告互助会がその責任において、00年11月を起点として溯ること5年間分の本件未徴収額の全額、即ち、被告互助会申請に係る飲料水の自販機は36台、その電気代として推定される年間約222万円の5年間分の未徴収の総合計1110万円を速やかに返還する義務がある。
 なお、原告は、問題点を明瞭にするために、本件訴訟においては、使用料及び管理費の返還は求めず、自販機電気代の返還のみ求めるものである。
 原告は、地方自治法第242条の2の第1項4号に基づき、岐阜県に代位して、先に述べてきた違法な行為によって、岐阜県が負担する必要のない支出をせざるを得なくなった自販機電気代の5年間の総額、つまり岐阜県が損害を受けた全額1110万円に関して、各被告の責任に相応した額の損害賠償を請求するものである。
 本件自販機電気代としての支出は毎月行われているところ、前記述べたとおり請求が一年を経過したことにも正当な理由があるから、損害賠償に関しては、住民監査請求から過去5年間の支出の全額が対象となり、かつ本件提訴により時効は中断する。

2 被告梶原拓は、知事として岐阜県の支出の全てに責任があり、軽過失があれば不法行為責任が生ずる。本件は、知事による行政処分を前提にするものである。また、被告互助会の代表を歴代の副知事が就任する慣例となっていることからも、被告梶原拓が本件違法行為を防ぐことは当然にできた。
 しかも、被告梶原拓は許可処分の取消若しくは変更をせず、転貸を放置し続け、被告互助会に返還を求め、若しくは職員に対して賠償命令を発して岐阜県の損害を補填することを怠っているから、責任は重大である。
 加えて、99年度の東京都監査委員の勧告(甲第2号証)があったから、被告らは本件を十分に検証・承知し得たにもかかわらず、本日においても未だ、何の対応もしていないから、もはや故意、過失責任は免れようがない。
 よって、総額の計1110万円の返還責任がある。

3 被告高橋、同高井は、総務部長として岐阜県の行政財産管理に最たる権限を有し、行政財産の使用許可に付いても同様であって、直属の管財課長をして行政財産許可書の原案を作成し、出先機関の庁舎の目的外使用許可についても当該出先機関からの照会や報告を受け違法・瑕疵のなきように事務を処理する手続きを求めさせていたから、本件転貸はもちろん、具体的な許可条項の調整や確認を主務し、本件自販機電気代についてもこれを認識し得、かつ適正に賦課徴収する権限を有していたものである。
 被告高橋、同高井が職責を全うして本件違法行為を容認していなければ、あるいは職責を全う、本件自販機電気代を確保していれば岐阜県の損害は生じなかったのは明らかである。
 よって、総額の計1110万円の返還責任がある。

4 被告互助会は、みずから自販機の目的外使用を受けず民間業者が岐阜県と直接協議することを指示することは可能であったし、仮に使用許可を受けても自らこれを設置・維持管理することは可能であった。いずれにしても、自販機電気代を設置者が支払うのは当然のことである。加えて、電気を使用したにもかかわらずこの電気代を支払らわなかったことは、社会通念上も許されない。
 被告互助会が真っ当であれば岐阜県の損害は生じなかったのは明らかである。 よって、総額の計1110万円の返還責任がある。

第11  提訴の目的
 97年実施の岐阜県知事選のとき、県職員の0Bの方々からはK事務所は県職員OBへの割り当て等によって県職員0Bばかりいる、ゼネコン社員からはK事務所は県関係者とゼネコン社員ばかり、休暇をとらせる会社も、勤務中のまま来させる会社もある、との苦汁に満ちた声が寄せられていた。
 また、県職員退職者協議会に県から“業務”が迂回委託され食事・飲食したりしている、との声も県職員0Bから寄せられている。互助会についても告発する手紙がある。
 ところで、県の病院や学校など公共施設はそれぞれの業者が電気代等を払っている。通常の民間業務に関して、実質的に県職員団体である互助会だけを特別扱いすることは、県の各種の不正や後ろ向姿勢の容認と軌を一にしている、と言わざるを得ない。
 去る長野県知事選に絡んで県や市の職員が多数逮捕され(最近、有罪が確定した)、岡崎市においても同様である。そして、本年1月の県知事選と同日に実施された岐阜市長選挙において、市の幹部が投票日直後に逮捕され各界に衝撃をあたえたことは記憶に新しい。岐阜県知事選挙においても県職員による被告梶原拓の選挙運動の疑いが報道された。
 また、頻発する県職員の不正事件への対応姿勢も、県民の多くが「甘い」と感じている。
 以上、総合的に考えて、県民の利益の向上、県民参加の県政の実現という大きな目的を達成するために、小さな自販機の電気代の問題を整理することで県の執行機関や幹部個人と職員組織との不当に密な関係の是正を求め、両者の適正かつ公正な関係が確立されること期待して、提訴する。

岐阜地方裁判所 民事部 御中
原告 寺町知正 外9名
2001年3月8日


《請求の趣旨記載の物件目録》

県庁舎(含む付属棟)、シンクタンク庁舎、岐阜総合庁舎、西濃総合庁舎、
揖斐総合庁舎、中濃総合庁舎、郡上総合庁舎、加茂総合庁舎、東濃総合庁舎、
恵那総合庁舎、益田総合庁舎、飛騨総合庁舎
以 上

当事者目録(原告)
(略)