平成11年9月6日   
東京都監査

清掃事務所の電気料の徴収に係る住民監査請求監査結果

第1 請求の受付
1 請求人
   清瀬市中里三丁目949番地の2 105 高 橋  武 男
   世田谷区松原四丁目37番6号      後 藤  雄 一
   港区南青山三丁目1番28号       秋 元  幸 久
   渋谷区鶯谷町4番18号         水 原  利 朗
2 請求書の提出   平成11年7月9日
3 請求の内容
(1) 主張事実
 ア 都知事及び本件財務会計関係職員は、石神井清掃事務所の一部を都清掃局職員組合に組合事務所として長年にわたり貸している。しかし、石神井清掃事務所の建物は行政財産であり、行政目的以外の用途で利用する場合は、行政財産の目的外使用許可を与え、電気・ガス・水道・電話等の経費を徴収しなければならないにもかかわらず、行政財産の目的外使用許可を与えず、同経費を徴収していない。

イ 都清掃局の石神井清掃事務所の他各事務所等にも、上記同様の組合の事務所部屋があり、上記同様に行政財産の目的外使用許可を与えず、上記同様に経費を徴収していない。
ウ よって、石原知事及び本件財務会計関係職員は、都が本来徴収するべき金員を徴収せず、都清掃局職員組合に利益供与をし、都に損害を与えている。

エ 同行為は行政財産の管理を怠るものであり、賠償の義務が生じる。

(2) 措置要求
ア 過去一年にさかのぼり、上記損害を知事及び本件財務会計関係職員で賠償するか、又は、組合より上記損害を回収する(補てんさせる)よう求める。

イ 損害額の計算方法
 (ア)水道光熱費・廃棄物処理代等の損害額
  (職員組合が入っている建物の光熱水費等)×(職員組合が入っている建物の総床面積に対する組合に貸している部屋の面積の割合)

 (イ)電話代の損害額
  ダイヤルイン等の電話回線が集合のもの
   (職員組合の電話回線が入っている集合の電話代)×(電話機の本数に対する職員組合の電話本数の割合)
  電話回線が独立のもの職員組合が使用している電話回線の電話代

4 請求の要件審査
 本件請求のうち、石神井清掃事務所に関する請求については、地方自治法(昭和22年法律第67号。以下「法」という。)第242条所定の要件を備えているものと認められるので、監査を実施した。
 ところで、住民監査請求においては、違法・不当とする財務会計行為等を監査委員が行う監査の端緒を与える程度に特定すれば足りるというものではなく、当該行為等を他の事項から区別して特定認識できるよう個別的、具体的に摘示することを要し、また、当該行為等を包括して、これを具体的に特定することなく、監査委員に監査を求めるなどの権能までを認めたものではない。(平成2年6月5日最高裁判決)
 本件請求において、請求人は、清掃局の石神井清掃事務所以外の各事務所等においても、石神井清掃事務所と同様に組合事務室が存在し、その使用に関し、行政財産の目的外使用許可を与えておらず、また、電気料等の徴収を怠っているとして、その損害額の補てんを求めているものと認められる。
 しかしながら、石神井清掃事務所については、見取り図等により、組合事務室の使用状況が明らかにされているものの、その他については、組合事務室の存する事務所等の名称や組合事務室の使用状況が一切明らかにされておらず、違法・不当とする行為が個別的、具体的に摘示されているものとは認められない。
 したがって、上記最高裁判決に照らせば、石神井清掃事務所に関する請求以外の請求については、法第242条所定の要件を備えているとは認められないことから、同条第3項に規定する監査を実施しないこととした。

第2 監査の実施
1 監査対象事項
 東京都石神井清掃事務所(以下「本件事務所」という。)における組合事務室の使用に関する電気、ガス、水道、電話等の諸設備の使用に必要な経費(以下「光熱水費等」という。)及び廃棄物処理経費の徴収を監査対象とした。
2 監査対象局
 清掃局を監査対象とした。
 なお、本件事務所について現地調査を実施した。
3 請求人の証拠の提出及び陳述
 法第242条第5項の規定に基づき、請求人に対して、平成11年8月18日に新たな証拠の提出及び陳述の機会を与えた。
 請求人は、陳述において、本件事務所における組合事務室の使用に関し、電気料等の徴収を怠っていることを違法・不当とする請求の趣旨の補足を行った。また、新たな証拠の提出はなかった。

第3 監査の結果
 本件請求については、合議により次のように決定した。
 本件事務所における組合事務室の使用に関し、行政財産の目的外使用許可を与えず、電気料の徴収を違法・不当に怠っているとする請求については、理由があるものと認める。 したがって、法第242条第3項の規定に基づき、知事に対し別項のとおり勧告する。 また、清掃局に対し、別項のとおり要望を付す。
 以下、事実関係の確認、監査対象局の説明及び判断理由について述べる。

1 事実関係の確認
(1) 本件事務所の概要について
  本件事務所の概要は、次の表のとおりである。

    (表) 本件事務所の概要
 開設日    昭和50年9月10日
 所在地    東京都練馬区上石神井三丁目34番25号
 建築延床面積 2,457.44平方m
 構  造   鉄筋コンクリート造(地上4階・地下1階)
 職員数    183名(嘱託員24名含む。)
 主な業務内容 管轄区内から排出される廃棄物の収集・運搬に関すること
        動物死体の収容に関すること
  (注) 職員数は、平成11年4月1日現在のものである。

(2) 本件事務所における行政財産の目的外使用許可について
 本件事務所においては、平成11年6月22日付けで、東京清掃労働組合石神井支部(以下「本件支部」という。)から、東京都知事に対して、次の図の本件事務所3階の作業室(床面積:41.76平方m。以下「本件作業室」という。)について、組合事務室としての使用を目的とする行政財産の目的外使用許可及び使用料免除の申請があった。
 これを受けて、平成11年7月21日付けで、東京都知事が、同日から平成12年7月20日までを使用期間とし、本件支部に対し使用許可及び使用料免除の決定(以下「本件使用許可」という。)を行っている。
 なお、本件使用許可の申請日前については、組合事務室としての使用を目的とする行政財産の目的外使用許可の申請はなく、当該目的外使用許可は行われていなかった。

 2 監査対象局の説明
(1) 本件使用許可及びこれに伴う光熱水費等について
 本件事務所においては、平成5年度の庁舎改築後、業務に支障が生じない範囲で、 本件支部に対して、3階の作業室を事実上使用することを認めてきた。これ以降、本件作業室には本件支部所有の印刷機、ファクシミリ兼用電話、ワードプロセッサー等の機器が常置されるようになったところである。
 このような状況の中で、本件支部に対して、行政財産の目的外使用許可の申請を求めなかったのは、本件作業室を含め、最終退庁時の施錠確認等の庁舎管理権を所長が有していることから、本件支部が庁舎の一部を使用することについて、目的外使用許可によることなく、使用を容認できると判断してきたことによるものである。 しかしながら、改めて庁舎内における行政財産管理の適正を期すため、今回、本件支部に対して当該申請を求め、同申請を受けて、平成11年7月21日付けで、本件使用許可を行ったものである。
 また、本件作業室に存する本件支部所有の印刷機等の機器の使用に伴う電気料については、本件使用許可に伴い、「行政財産の使用許可に伴う光熱水費等の計算方法」(昭和44年7月31日付44財管一発第252号)に基づき、本件使用許可を行った平成11年7月分から、本件支部に対して負担させることとした。
 なお、本件作業室については、従来、目的外使用許可を行っていなかったことから、本件支部に対し、これに基づく電気料の負担はさせてこなかったものである。 ところで、本件作業室内の電話回線は本件事務所の回線から独立しているため、都の負担はなく、また、本件作業室内には水道及びガスの設備は存在しないものである。

(2) 組合事務室としての使用に関する廃棄物処理経費について
 本件事務所においては、従来、本件作業室も含め、所の建物総体として必要な管理を行うものであり、本件作業室から排出されるごみについても、所全体のごみと共に一括して収集、処理してきたものである。

3 判 断
 以上のような事実関係の確認及び監査対象局の説明に基づき、本件請求について次のように判断する。
 請求人は、本件事務所において、組合事務室が存在し、その使用に関し、行政財産の目的外使用許可を与えておらず、また、それに伴う光熱水費等及び廃棄物処理経費の徴収を違法・不当に怠っていると主張しているので、以下このことについて判断する。

(1) 目的外使用許可及び光熱水費等の徴収を行わなかったことの適否について
庁舎など都の行政財産については、公用又は公共用に供し、又は供することを決定した財産として、これを本来の用途以外に使用させることは、例外的な措置とされているものである。
 このような趣旨から、法も、第238条の4第4項で、行政財産は、その用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することができることとしているところである。
 また、東京都公有財産規則(昭和39年東京都規則第93号。以下「公有財産規則」という。)によれば、行政財産の目的外使用許可を与えるに当たり、その使用者に対して光熱水費等を負担させなければならないとしている。
 そこで、本件事務所において、平成11年8月17日に現地調査を行い、次のことを確認した。

1) 本件作業室については、事務机、耐火金庫、書庫、スケジュールボードなどの備品のほか、天井照明、印刷機、ファクシミリ兼用電話、ワードプロセッサー、シュレッダーといった電気器具が設置されており、このことから、組合事務室として専ら本件支部の活動に使用されていたものであること。
 また、本件作業室のこのような使用は、庁舎改築時以降なされてきたものであること。
2) 本件作業室内には、水道、ガスの設備はなく、電話回線については本件事務所の回線から独立しているものであること。

3) 目的外使用許可に伴い、電気料の負担の対象となる電気器具として、天井照明(6組)、印刷機(1台)、ファクシミリ兼用電話(1台)、ワードプロセッサー(2台)及びシュレッダー(1台)が、本件作業室内に存するが、これまで、本件支部に対し、当該経費の負担を求めてこなかったこと。

 以上のことから、本件作業室については、これに対する目的外使用許可がなされるべきものであり、また、同使用許可がなされた場合には、それに伴う電気料相当分について、本件支部が負担すべきものと認められる。
 したがって、当該電気料相当分は、都が被った損害として、その補てんが求められるところとなる。
 よって、目的外使用許可を与えず、また、それに伴う電気料の徴収を違法・不当に怠っているとして、過去1年にさかのぼり、その損害の補てんを求める請求人の主張には、理由があるものと認める。

(2) 本件支部に廃棄物処理経費を負担させるべきか否かについて
請求人が主張する廃棄物処理代は、公有財産規則にいう光熱水費等に該当するものではないが、目的外使用許可を受けるべき者が、ごみを排出した場合においては、自らの責任において適正に処理しなければならないものであり、当該処理に経費を要するときにはその経費を負担する必要がある。
 そこで、本件作業室から排出されたごみの処理についてみると、次のことが認められる。
1) 本件作業室から排出されたごみについては、本件事務所内の他のごみと共に一括処理されており、都によって収集、運搬、処分されているものであること。

2) 本件支部が排出するごみは、東京都廃棄物の処理及び再利用に関する条例 (平成4年東京都条例第140号)上の事業系一般廃棄物に該当し、これを都が収集する場合には有料となるが、本件支部はその負担をしていないこと。
 しかしながら、ごみ処理に要する経費を過去にさかのぼって負担させるべきか否かを判断するに当たっては、次の点を考慮する必要がある。

1) 本件支部が排出するごみについては、これまでその量を計ったことはなく、また、本件事務所のごみと一括処理されていることから、当該排出量を推定することも困難であり、具体的な処理経費の算定は行えないものであること。

2) 現地調査において、本件作業室内の状況をみたところ、本件作業室から排出されるごみは、印刷機、ワードプロセッサー等の使用に伴うビラ、資料等の紙ごみがほとんどであると想定される。そこで、本件作業室のごみの状況について、本件事務所に対し聴取したところ、本件支部のビラ、資料等については、その活動に伴い大半が配布され、残りについても本件支部の役員などが各自持ち帰るなど、できる限りごみとして排出しないよう努めているとの説明があり、 また、現実に、本件作業室内で視認したごみの量も極めて少ないものであったこと。

 以上のことを総合的に考慮すると、本件作業室から排出されるごみの処理及びその負担のあり方については、適切さを欠く点が見受けられるものの、本件支部が負担すべき処理経費に関して、過去にさかのぼって、その返還を求めるまでの違法性・不当性があるとはいえない。

  【知事に対する勧告】
 法第242条第3項に基づき、知事に対し、平成11年9月30日までに、都が被った次の損害額等を確定し、また、これを補てんするため必要な措置を講ずることを勧告する。(1) 損害額
 本件請求のあった日から過去1年をさかのぼった日以降について、都が負担した本件作業室における電気料相当額
(2) 上記 (1)の金額に関し、都が行った支出について、支出日の翌日から損害補てんの日までの年5分の割合による利子相当額

  (清掃局に対する要望)
(1) 本件作業室から排出されるごみについては、本件支部が自らの責任で適正に処理するよう必要な措置を検討し、実施されたい。

(2) 本件事務所以外の事務所等についても、光熱水費等及び廃棄物処理について、本件事務所に類する状況が認められる場合には、速やかに同様の措置を講じられたい。
資料(東京都職員措置請求書等)
   東京都職員措置請求書
石原都知事・石神井清掃事務所長、その他本件に関係する財務会計職員に関する措置請求書

 請求の要旨
1、都知事及び本件財務会計関係職員は、石神井清掃事務所の一部を都清掃局職員組合に組合事務所としてを長年にわたり貸している。しかし、石神井清掃事務所の建物は行政財産であり、行政目的以外の用途で利用する場合は、行政財産の目的外使用許可を与え、電気・ガス・水道・電話等の経費を徴収しなければならないにも係わらず、行政財産の目的外使用許可を与えず、右経費を徴収していない。

2、都清掃局の右石神井清掃事務所の他各事務所等にも、右記同様の組合の事務所部屋があり、右記同様に行政財産の目的外使用許可を与えず、右記同様に経費を徴収していない。
3、よって、石原知事及び本件財務会計関係職員は、都が本来徴収するべき金員を徴収せず都清掃局職員組合に利益供与をし、都に損害を与えている。

4、右行為は行政財産の管理を怠るものであり、賠償の義務が生じる。

5、よって、過去一年にさかのぼり、右記損害を知事及び本件財務会計関係職員で賠償するか、または、組合より右記損害を回収(補填させる)するよう求める。

6、損害額の計算方法
1) 水道光熱費・廃棄物処理代等の損害額。
 ・(職員組合が入っている建物の光熱水費等)*(職員組合が入っている建物の総床面積に対する組合に貸している部屋の面積の割合)

2) 電話代の損害額。
ダイヤルイン等の電話回線が集合のもの
 ・(職員組合の電話回線が入っている集合の電話代)*(電話機の本数に対する職員組合の電話本数の割合)

電話回線が独立のもの
 ・職員組合が使用している電話回線の電話代

 よって、上記地方自治法第242条第1項の規定により、別紙事実証明書を添えて必要な措置を請求する。

事実証明書
 1) 石神井清掃事務所の見取り図(組合事務所の位置を示したもの)
 2) 請求人が作成した陳述書
 3) 平成10年度組合事務所光熱水費等負担内訳書