岐阜地方裁判所民事部御中
                         2001年11月26日

 訴      状


     原  告 別 処 雅 樹
             外18名 (目録の通り)
被  告 岐阜市長浅野勇
        岐阜市今沢町18
被  告 浅 野 勇
        岐阜市........
被  告 大 熊 秀 行
        岐阜市........

市長選挙違反職員給与返還請求事件



  訴訟物の価格 金950、000円
 貼用印紙額    金8、200円
予納郵券代金   金9、000円

         請 求 の 趣 旨
1 2001年1月28日施行の岐阜市長選挙に関して、法令に反して支給した職員給与につき、被告岐阜市長浅野勇が関係職員に損害賠償命令を発しないことは違法であることを確認する。
2 被告浅野勇、同大熊秀行は、岐阜市に対して連帯して金4404万1024円及びそれに対する本訴訟送達の日から完済まで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、被告らの負担とする。
  との判決、ならびに第2項につき仮執行宣言を求める。

         請 求 の 原 因
第1 当事者
1 原告は、肩書地に居住する住民である。
2 被告浅野は、93年岐阜市長選挙において当選し、以降その職にある。
3 被告大熊は、かねてより岐阜市人事課長の職にある。

第2 本件住民訴訟の意義
 岐阜市職員らは、前回、前々回の市長選挙における問題点や県警からの警告などを承知し、加えて最近では長野県や岡崎市において、自治体職員の特定候補の選挙運動が摘発されていることを知っていたにもかかわらず、違法行為を継続したものである。
 このように、市長選挙において現職市長を当選させる目的で市職員が勤務時間中に違法行為を行ったこと、しかも構造的に選挙運動を行ったことは、著しく市民の信頼を失うことで、公務員として到底許されない。
 そこで、原告は、本件給与支出が違法であるとして、岐阜市長や関係者に対して支出給与相当額の損害賠償を求めて、提訴する。
 今回の問題化した岐阜市の実情は、もはや個人の責任では解決し得ない。地方公共団体としての改革がなされない限り解決はあり得ないから、市の責任と体質の解明(怠る事実の違法確認)は特に重要である。

第3 経過
 1 2001年1月28日投票の岐阜市長選挙に関して、2月13日に岐阜市環境部リサイクル推進課長が県警に逮捕された(3月6日/罰金刑20万円)ことで、岐阜市の自治体職員が「その地位を利用して現職市長を当選させる目的をもって各種の選挙(事前)運動を行っていた」ということが発覚した。
 続いて、幹部らが逮捕などされた。
 3月10日環境部次長逮捕(3月30日/罰金刑30万円)、3月13日市長室参与兼秘書課長逮捕(4月25日/罰金刑50万円)、4月3日には(当時の)市長室長が逮捕された(4月25日/起訴・刑確定)。他に、税務・土木・農林・水道の各部長を4月24日が書類送検(4月25日/起訴猶予処分)された。
 刑事処分の程度の違いは「部下に対する地位利用の状況、配布に対する積極性やカードの量」(岐阜地検)で分かれたものである。
 また、当時の助役二人のうち一人と収入役は、早々と、相次ぎ辞任した。

 2 本件市長選挙における事前運動は2000年途中より2001年1月20日まで、選挙運動は2001年1月21日以降である。
 行為の行われた主たる場所は、岐阜市役所内の各所である。
 職員らが行った主な行為の内容は、「紹介者カードを市役所内などで配布しその記入、提出を暗に求めた。もって選挙対策用の各種名簿の作成等につとめた」「市役所内の選挙体制についての調整や、職員らの選挙対策運動の調整」「後援会(選挙)事務所への職員の動員等」「電話掛けの依頼」「職員の家族への電話掛けや事務所への顔出し・当番要請」その他の選挙のための諸々の準備と調整などである、とされている(各種報道/甲第2〜28号証)。また、紹介者カードや各種文書等の印刷に市役所内の印刷機を用いた、とも指摘されている。
 なお、「市と関係する外部団体への職務関係を前提にする当選のための働きかけ」も、リサイクル推進課長、環境部次長らの逮捕理由とされている。
 前市長室長は、今回の現職市長の選挙対策の中心人物であり、役所の内部ではもっとも強い権限を有していたとされる。市長室長を筆頭に部長らが、勤務時間中に庁舎内で入会カードを職員らに配布したものである。職員は、昇進や配置等人事への悪影響を心配して、応じたものも多かった。
 このように、岐阜市としての組織的背景が歴然としている。 

 3 紹介者カード合計約1万枚のうち、約1000枚が市の職員の提出したもので、カードの性質からして当該職員の氏名が記入されていることから、県警は、このカードをもとに環境部(本庁)や税務部の職員のほとんどと、大半の市の幹部から事情聴取した。その人数はカードを出したとされる290人とみるのが合理的であり、同様の数字が報道されている。
 事情聴取は、一般職員の場合、通常、「初日に聴取され、2日目が供述調書の確認訂正等」である。しかも、多人数であったため聴取された場所は、岐阜中署だけでなく、岐阜市周辺の市町署まで用いられたから、一人当たり、簡単に済んだ者でも、結局は、合計すると概ね丸一日程度の時間を要した。逮捕されたものや、逮捕されていなくても幹部らがこれを上回るのは、当然である。

第4 公務員に関する法令
 1 地方公務員法に関して
 「全て公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない」(憲法第15条2項)とされ、「すべての職員は、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、且つ、職務の遂行に当たっては、全力を挙げてこれに専念しなければならない。」(地方公務員法第30条)のであり、「職員は、その職の信用を傷つけ、又は職員の職全体の不名誉となるような行為をしてはならない」(同第33条)、「職員は、その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用いなければならない」(同第35条)とされている。

 2 特に、職務専念義務に関して
 公務員の【職務専念義務違反】は厳格に解釈されている。
 地方公務員法35条は、「職員は、法律又は条例に特別の定がある場合を除く外、その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い、当該地方公共団体がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない」と定め、職員に対し、地方公共団体の本来の業務に従事すべきことを内容とする義務を課し、これを職員の基本的な行為規範とする趣旨を明記したものである。それと同時に、同条は、職員を使用する地方公共団体に対しても、職員に職務専念義務に違反するような行為をさせてはならないとの拘束を課し、行政の運営を制約する重要な原理としての公務秩序の保持義務を定めたものと解され、職員が地方公共団体の本来の職務以外の職務に従事するようなことに対しては、厳格な態度を規定したものである。
 「今日の職務専念義務は、もっぱら勤務時間中にのみ課せられる」(行政実例昭26・12・12地自公発第549号)とされている。
 勤務時間には、時間外勤務、週休日の勤務、休日勤務または宿日直を命じられてこれに服する時間も当然に含まれる。
 「職務上の注意力のすべて」とは、その者の持つ能力を最大限に発揮せよということであり、勤務時間中のリボン着用は、組合活動を意識しながら職務に従事していたものであり、精神的活動のすべてを職務に集中していたとはいえないので職務専念義務に違反した、とされている(最高裁昭57・4・13判決ほか)。
 3 公務員の政治的行為の制限に関して
 公務員は具体的に、選挙に関して規制され、【政治的行為の制限】(地方公務員法第36条)「職員は、政治的団体の結成に関与し、これらの団体の構成員となるように、勧誘運動をしてはならない」(同1項)、「勧誘運動をすること」(同2項1号)、「寄附金その他の金品の募集に関与すること」(同2項3号)、「地方公共団体の庁舎、施設、資材又は資金を利用し、又は利用させること」(同2項4号)、「何人も前2項に規定する政治的行為を行うよう職員に求め、職員をそそのかし、若しくはあおってはならず、又は職員が前2項に規定する政治的行為をなし、若しくはなさないことに対する代償若しくは報復として、任用、職務、給与、その他の職員の地位に関してなんらかの利益若しくは不利益を与え、与えようと企て、若しくは約束してはならない」(同1項)とされている。

 4 公職選挙法に関して
 (1) 公務員等の地位を利用しての【選挙運動は禁止】されており(公職選挙法第136条の2)、「公務員が地位を利用して選挙運動をすることができない」(同第1項)とし、具体的には、「候補者の推薦に関与し、若しくは関与することを援助し、又は他人をしてこれらの行為をさせること」(同第2項第1号)、「選挙運動の企画」(同第2号)、「後援団体の結成の準備」(同第3号)、「文書図画」(同第4号)、「その代償として」(同第5号)とされている。
 これらに該当する行為を行った場合、「2年以下の禁固又は30万円以下の罰金に処する」(同第239条の2第2項)とされている。

 (2) また、【事前運動】について、「選挙運動は、候補者の届け出のあった日から当該選挙の期日まででなければ、することができない」(同第129条)とされ、これらに該当する行為を行った場合、「1年以下の禁固又は30万円以下の罰金に処する」(同第239条)とされている。

 (3) 両罪は刑法第54条第1項の観念的競合の関係に立つとされている。
 5 岐阜市の給与等の規定
 (1) 給与、勤務時間その他の勤務条件の根本基準については、「職員の給与は、その職務と責任に応ずるものでなければならない」(地方公務員法第24条1項)とされている。
 【給与の減額】については、「休暇による場合その他の勤務しないことにつき特に承認があった場合を除き、その勤務しない1時間につき、第20条に規定する勤務1時間当りの給与額を減額して給与を支給する。」(「岐阜市職員の給与に関する条例」(以下、「本件給与条例」という)第16条)と規定している。 なお、市職員は一律に、調整手当という上乗せ制度「給料及び扶養手当の月額の合計に100分の4を乗じて得た月額の調整手当を支給する」(同第11条)がある。
 勤務1時間当たりの給与額の算出は、「給料の月額及びこれに対する調整手当の月額の合計額に12を乗じ、その額を1週間当たりの勤務時間に52を乗じたもので除した額とする。」(同条例第20条)とされている。

 (2) 給料の支給は、「その月の22日とする。」(「岐阜市職員の給与に関する条例施行規則」(以下、「本件給与規則」という)第9条)、調整手当の支給は、「給料の支給方法に準じて支給する。」(同第12条)とされている。
 【給与減額】については、同第54条において次のとおり規定されている。
 「1 条例第16条に規定するその勤務しないことにつき特に承認があった場合は、法令の規定により特に勤務しないことが認められている場合をいう。」
 「2 条例第16条の規定により減額すべき給与額は、その月の分の給料及び調整手当に対応すべき額を、その月又はその次の月以降の給料及び調整手当から差し引くものとする。」
 「3 職員が特に承認なくして勤務しなかった時間数は、その月の全時間数によって計算するものとし、その時間数に、30分未満の端数が生じたときはこれを切り捨て、30分以上1時間未満の端数が生じたときはこれを1時間に切り上げる。」

 (3) 1週間の勤務時間は、「勤務時間は、1週間当たり38時間45分」(「岐阜市職員の勤務時間、休暇等に関する条例」(以下、「本件勤務時間条例」という)第2条)、休暇の種類は、「職員の休暇は、年次有給休暇、病気休暇、特別休暇、組合休暇及び介護休暇とする。」(同第10条)とされている。

第5 本件給与支出の違法性
 1 選挙運動に関して
 (1) 岐阜市の職員らは、前記のとおり、憲法に反し、地方公務員法第36条で禁じられているところの特定候補者のための選挙運動を行い、公職選挙法第136条の2で禁じられているところの公務員の地位利用による選挙運動等をおこなった(同第129条も)が、これを勤務時間中に行ったことは、すくなくてもその部分に関しては、職務専念義務に違反し、自ら公務に集中しなかったのであるから、到底「勤務」したとは言えず、職員らの行為は地方公務員法第30、33、35、36条に違反している。

 (2) 逮捕・送検等された職員はもちろん、幹部の多くが、少なくても、1月中の市長選挙開始前の日々、そして選挙期間中の日々は、頭の中が選挙で一杯で、到底、「与えられた市職員としての公務」に専念していたとはいえない。この事情は、程度の差こそあれ、相当数の市職員に通じており、少なくても、紹介者カードを提出するようなことをした市職員にあっては、これを疑う余地はない。
 (3) よって、給与支出に権限を有する市長、収入役、人事課長、各所属長らは、どんなに遅くとも、逮捕者の出た以降は、この職務専念義務に違反していた部分を特定し、それに対応する分の給与は、給与条例第16条に従って減額支給すべきであった。それにもかかわらず、これを故意に見逃し、何ら減額せずに支給したことは、給与条例第16条に反した違法な財務会計行為である。

 2 事情聴取に関して
 (1) 本件は、事件の目撃者や情報提供としての聴取として行われたのではなく、紹介者カードを提出した職員を当局が特定してその背景を聴取したものであるから、公職選挙法に違反する行為の当事者として事情聴取されたものであり、事情聴取に応じたことが市の公務に当たらないのは明らかである。聴取に応ずるために要した時間は、市の公務を実行していないのは明らかである。

 (2) 県警の事情聴取に出頭すること及びその往復の行為は市の職員としての勤務ではない。市長や幹部、人事課長は、職員が事情聴取に出頭することは市の公務でないことは直ちに認識できる。市職員は事情聴取の時間は勤務しておらず、そのことについて正当に市長の承認を得てはいえない(事案の性質からして得ようがない)から、本件給与条例16条に反して、減額されなかった給料は、本来支給すべきものではなく、違法な支出である。
 よって、事情聴取に出頭した時間及びその往復に要する時間について給与支出に権限を有する市長、収入役、人事課長、各所属長らが、この勤務をしなかった時間に関して、その時間数を特定して給与条例第16条に従って減額支給すべきであったにもかかわらず、これを故意に見逃し、何ら減額せずに支給したことは、給与条例第16条に反した違法な財務会計行為である。

 3 事情聴取の前後に関して
 (1) 本件にかかる職員は、自らの行ったことや事情聴取の呼び出しが何時あるかと不安で、自分が逮捕されるか、周辺の同僚はどうか、どう処分等されるのか、また他の職員らとその話題に時間を費やしたり等は当然であるから、事情聴取以外の時間も、2、3、4月もかなりな部分、同じであったと考えるのが合理的である。職務専念義務に違反しているのは明白である。

 (2) よって、給与支出に権限を有する市長、収入役、人事課長、各所属長らは、どんなに遅くとも、逮捕者の出た以降は、この職務専念義務に違反していた部分を特定し、それに対応する分の給与は、給与条例第16条に従って減額支給すべきであった。それにもかかわらず、これを故意に見逃し、何ら減額せずに支給したことは、給与条例第16条に反した違法な財務会計行為である。

 4 期末勤勉手当の減額
 前記(1)(2)(3)の違法な支給分に対応して期末勤勉手当を減額すべきことは当然である。

 5 世論や社会通念上も許されない
 本件違反行為を看過することは、信義則に反し、社会通念上も許されない。

第6 岐阜市の損害
 本件職務専念義務に反し、あるいは明らかに市の職場についていない時間の給与を減額しなかったことは、給与条例主義に違反している。
 ノーワーク・ノーペイは当然であって、本件職員の事情聴取時間は、岐阜市の公務とは決して言えない個人的なものである以上、岐阜市の行政目的達成のために必要性があったとは到底認められない。
 以上、職員が勤務したとは言えないから、職務専念義務に反する時間に対する支出に根拠はなく、また明らかに勤務していない時間に給与を支出できないのは当然であって、その支出の都度、その金額の損害が岐阜市に発生し、現在も損害は継続している。
 なお、市長の減給でこれを償ったと考えること(損益相殺)はできない。

第7 被告市長の怠る事実の違法確認
 前記の違法行為に関して、減額せずに、漫然と給与の全額を支給したことは、給与支出に権限を有する市長、収入役、人事課長らの著しい過失あるいは故意によって、あるいは不当利得によって、岐阜市に損害を与えたことであるから、被告市長が前記支出権限を有する職員もしくは不当利得者に損害賠償請求すべきである。それにもかかわらず、これを行っていないのは、被告市長の財産の管理を怠る事実として違法である。
 以上、財産の管理を怠る事実の違法があるから、その怠る事実の違法確認を求める。なお、違法確認請求(地方自治法第242条の2第1項3号)においては、金額の特定は必要要件ではない。

第8 職員個人の責任と返還義務
 1 以上、給与支出に権限を有する市長、人事課長は、岐阜市に損害を与え続けているから、個人として賠償・返還義務がある。

 2 被告浅野に関して
 (1) 普通地方公共団体の長は、当該普通地方公共団体を代表する者であり(法第147条)、当該地方公共団体の条例、予算その他の議会の議決に基づく事務その他公共団体の事務を自らの判断と責任において誠実に管理し及び執行する義務を負い(法第138条の2)、予算の執行、地方税の賦課徴収、分担金、使用料、加入金又は手数料の徴収、財産の取得、管理及び処分等の広範な財務会計上の行為を行う権限を有し(法第149条)、予算を調整し議会に提出する権能がある(法第211条1項)。したがって、普通地方公共団体の長は、財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するものであるといえる。
 市長は、岐阜市から委任を受けた者として、岐阜市に対し、委任の本旨に従い、善良なる管理者の注意義務をもって、その職務を遂行しなければならないところ、市長は、普通公共団体の長として、当該地方公共団体の条例、予算その他の議会の議決に基づく事務その他地方公共団体の事務を自らの判断と責任において誠実に管理し執行する義務を負っている(法148条、149条)。
 また、普通地方公共団体の長は、補助機関たる職員に対して一般的な指揮監督権を有し(法第154条)、会計事務を監督する義務を負う(法149条5号)。 以上述べたところから、市長が、一定範囲の財務会計上の行為を委任した場合であっても、市長は、その財務会計上の行為の適否が問題とされている代位請求住民訴訟においては、「当該職員」に該当するというべきであり、当該長に民法上の不法行為責任があれば、当該長は地方公共団体に対し損害賠償義務がある。
 (2) 本件において、被告浅野は、市長として、職員をして適正かつ本人の能力を集中して与えられた職務を遂行させるべき義務があるにもかかわらず、自らの当選のために、市職員が地位を利用してあるいは公務中に選挙(事前)運動をしてくれることを積極的に「よし」とした、と考えるのが自然である。
 仮にそうでないとしても、黙認したことに疑いない。

 (3) 被告浅野は、最初の逮捕者が出た時点で他の職員らが順次、同様の事情聴取を受けていくことことは、十分かつ容易に予想できた。しかも、事情聴取を勤務中に受けていたこともすぐに知り得た。
 被告浅野は、職員には、職務専念義務があり、事情聴取を受けた場合は休暇届けを出すよう指示すべきであったにもかかわらず、これをなさず、あるいは、職場にいなければ、当然「欠勤」とすべきところ、これも行なわなかった。
 被告浅野は、職員の動揺を防ぎ、あるいは職員の反発を回避するためにも、人事課長である被告大熊が本件給与を減額せずに支出命令することを積極的に容認したことは疑いない。
 少なくとも黙示的にこれを指示(教唆)していたことは容易に推認しうるところであるから、市長は助役や収入役と共同して人事課長に違法な本件支出をなさしめたというべきであるし、指揮監督義務の観点からみても、人事課長が本件支出を命令することを認識していたにもかかわらず、これを容認することにより予防すべき義務を故意に怠った。
 そして、結局は、条例に反して給与の減額をしなかったのである。

 (4) 前記違法事由は、地方公務員の服務や給与の根本基準といった地方公務員法の根幹にかかわる重大なものである上、市の公務として勤務していない時間に対しても給与を支払うという点で、一般常識にも反する不自然なものであるから、通常人でもその違法性を容易に理解できるものである。
 岐阜市の支出に責任を負うべき市長としては、当然に本件給与支出の違法性を認識すべきであり、前記違法な支出をするに当たり重大な過失もしくは故意があったというべきである。

 (5) 市長は、「損害賠償命令を発しない」という「財産の管理を怠る事実」によって、岐阜市に損害を与えて続けているから、この相当分を岐阜市に損害賠償すべき職員個人としての責任がある。
 なお、自治体の長個人の損害賠償責任を問う場合に怠る事実を請求の原因とすることができるのは確定している(最高裁昭53年6月23日第3小法廷判決/昭52年(行ツ)第84号損害補償請求事件)(判例時報897号54頁)。

 2 人事課長
 (1) 地方自治法243条の2第1項によれば、収入役や支出負担行為をする権限を有する職員が故意又は重大な過失により法令の規定に違反して当該行為をしたことにより普通地方公共団体に損害を与えたとき、これによって生じた損害を賠償しなければならないと規定している。
 人事課長は、岐阜市職員の給与、報酬、手当等の支出権限を専決している(岐阜市事務決済規則/別表第2)。
 (2) しかも、職務に専念すべきことを職員に徹底すべき立場、職責であるにもかかわらず、自ら紹介者カードを積極的に多数の幹部に配布するなどし、さらに他の市幹部や職員の同様の行為を推奨・認容した行為は到底許される余地はない。
 本件違法な支出をするに当たり重大な過失もしくは故意があったとのは明白である。

 (3) 被告大熊が自ら職務専念義務に違反し与えられた職務に集中しなかったことは各種法令に違背し、事情聴取時間は、岐阜市の公務とは決して言えない個人的なものであるから、岐阜市の行政目的達成のために必要性があったとは到底認められない。
 この勤務に従事しなかった時間に対して給与を得たことは、地方公務員法24条1項、30条及び35条の趣旨に反すし、給与条例第16条に反する違法なもので、自ら給与を得ることを承知のうえで当然の申し出義務を怠ったものであるから、悪質であり、明らかに不当利得であって、その利得は金銭上の利得という性質からして現存している。
 もって岐阜市に損害を与えているから、被告大熊には相当額の返還義務がある。
第9 違法な給与支出額の特定
 1 違法な選挙関連行為の期間
 事前運動期間と選挙期間があるが、本件においては、敢えて、本年1月中の当該職員の給与(調整分含む)とする。なお、管理職手当も強く疑われる。
 以下の期間・時間は、職務専念義務に違反して職務に集中していなかったのは明らかである。

 2 選挙運動に関して
 (1) 前市長室長
 前市長室長は、本件選挙関与の全ての中心人物であり、後援会の事務も行っていたのであるから、1月中、市役所で勤務中も、その意識の内と実際の執務もほぼ全てが、「いかに当選させるか」であったことは疑い無く、「1月分給与の8割が勤務していないことによる減額すべき額」というべきである。

 (2) 前助役、前収入役
 同様に考えれば、前助役、収入役は、辞職したことに端的なように、1月中、市役所で勤務中も、その意識の内と実際の執務もほぼ全てが、「いかに当選させるか」であったことは疑い無く、「1月分給与の6割が勤務していないことによる減額すべき額」というべきである。 

 (3) 他の逮捕者ら
 同様に考えれば、リサイクル推進課長、環境部次長、秘書課長は、「1月分給与の6割が勤務していないことによる減額すべき額」というべきである。 

 (4) 書類送検・起訴猶予処分者ら
 同様に考えれば、書類送検・起訴猶予処分となった4人の部長は、「1月分給与の4割が勤務していないことによる減額すべき額」というべきである。 

 (5) カードを配った職員
 同様に考えれば、職員にカードを配った職員69人は、「1月分給与の2割が勤務していないことによる減額すべき額」というべきである。 

 (6) カードを提出した職員
 上記以外の自ら紹介者カードを提出した職員は、各種情報や報道から、この際211人であると考えるのが合理的で、1月中、市役所で勤務中も、その意識の内と実際の執務の多くの部分が、「いかに当選させるか」であったことは疑い無く、「1月分給与の0.5割が勤務していないことによる減額すべき額」というべきである。

 (7) 各人の給与の額は、請求人らにも、他の職員にも教示されないから、その額を知ることは、岐阜市長らにしかできない。
 よって、条例別表の職員の給与表を参考にして、(1)ないし(5)の者の平均給与を月額50万円とみ、(6)の者の平均給与を月額40万円とみる。

 (8) 以上、選挙運動に関しての減額すべき額の計算式は次のとおり。
 50万円×1人×0.8+50万円×2人×0.6+50万円×3人×0.6+50万円×4人×0.4+50万円×69人×0.2+40万円×211人×0.05
=40+60+90+80+690+422万円
=1382万円
 よって、選挙運動に関して減額すべき額は金1382万円である。

 2 事情聴取に関して
 (1) 本件給与条例第16条で定める減額すべき一時間当たり額は、
 ア 給料月額50万の場合は、50万×1.04×12/(38+3/4)×52=624/2015=0.3097で、一時間当たり3097円となる。

 イ 給料月額40万の場合は、40万×1.04×12/(38+3/4)×52=499.2/2015=0.2477で、一時間当たり2477円となる。

 (2) 事情聴取を受けた職員(290人)は、勤務時間中に警察に出頭しており、数日に及ぶ者もあり、平均して約1日の6時間として、給与の減額をすべきである。
 前記(4)の者は6時間を3日間、(5)及び(6)の者は6時間を1日間として給与の減額をすべきである。

 (3) 以上、事情聴取に関しての減額すべき額の計算式は次のとおり。
3097円×6×3日×4人+3097円×6×1日×69人+2477円×6×1日×211人
=222984+1282158+3135882万円
=4641024円
 よって、事情聴取に関して減額すべき額は金464万102円である。

 3 事情聴取の前後に関して
 (1) これら職員は、事情聴取の前後、職務専念義務に違反して職務に集中していなかったのは明らかであり、減額すべき「勤務しなかった場合」に当たる。 前記(1)の者は4割、(3)の者は3割、(4)の者は2割(5)の者は1割、(6)の者は0.025割として、給与の減額をすべきである。

 (2) 以上、事情聴取の前後に関しての減額すべき額の計算式は次のとおり。50万円×1人×2ケ月×0.4+50万円×3人×2ケ月×0.3+50万円×4人×3ケ月×0.2+50万円×69人×3ケ月×0.1+40万円×211人×3ケ月×0.025
=40+90+120+1035+633万円
=1918万円
 よって、事情聴取の前後に関して減額すべき額は金1918万円である。

 4 選挙時期と県警捜査後の返還すべき給与の額
   返還すべき額 (給与分)(円)
┌────┬─────┬──────────┬──────────┬──────────┐
│ 分類 │   人数 │  1 選挙運動 │   2 事情聴取 3 事情聴取前後 │
├────┼─────┼──────────┼──────────┼──────────┤
│ (1) │    1 │   400000 │  − │ 400000 │
├────┼─────┼──────────┼──────────┼──────────┤
│ (2) │    2 │   600000 │ − │ − │
├────┼─────┼──────────┼──────────┼──────────┤
│ (3) │   3 │   900000 │ − │ 900000 │
├────┼─────┼──────────┼──────────┼──────────┤
│ (4) │    4 │    800000 │  222984 │   1200000 │
├────┼─────┼──────────┼──────────┼──────────┤
│ (5) │   69 │  3450000│ 1282158 │ 10350000 │
├────┼─────┼──────────┼──────────┼──────────┤
│ (6) │  211 │   4220000│ 3135882 │   6330000 │
│ │ │ │ │ │
│ │ │ │ │ │
├────┼─────┼──────────┼──────────┼──────────┤
│ 合計 │ │ 13820000 │ 4641024│ 19180000 │
│ │ │ │ │ │
│ │ │ │ │ │
│ │ │ │ ├──────────┤
│ 37641024 │
└ ─────────┘
 ※「分類」とは、前記2で説明した職の分類のこと

 5 期末勤勉手当の減額
 給与を減額することは、当然に期末勤勉手当の減額を意味する。
 期末勤勉手当は、年間12ケ月の支給に対して期末勤勉手当は約5.1ケ月分である。本件は4ケ月間の給与の減額案件であるから、その減額すべき額の算出は、5.1×4ケ月÷12ケ月=1.7ケ月分の給与支給額に依存する。
 ところで、この間の給与総額は、
 (1)〜(5)の者 + (6)の者
=50万×73人×4ケ月+40万×211×4ケ月
=14600+33760万円=48360万円
 よって、この4ケ月間の期末勤勉手当の支給額は
   48360×1.7ケ月=8221万円とみれる。
 既支給の給与総額に対し、前記4でいう合計3764万円の返還すべき額を引いた額が本来の給与総額であるから、この「意図的に誤支給された給与額」の率に対応して期末勤勉手当も返還されるべきである。
 よって、前記返還すべき給与額に対応する返還すべき期末勤勉手当額は
 8221×3764÷48360
=8221×0.0778329
=640万円
 つまり、給与を減額しなかったによって生じたところの、過剰に支給した期末勤勉手当分として減額すべき額は金640万円である。

 6 減額されていない証拠
 (1) なお、本件においては、【年次有給休暇】(条例第11条)を用いておらず、【特別休暇】(同第13条)も適用されていない。なお、給与を支給していることは次の経緯・文書に明瞭である。

 (2) 「県警に事情を聞かれた職員の出勤簿」(本年4月19日公開請求)に対して「職員を特定できないので該当する文書が存在しない」(5月1日付け非公開決定通知)と明記されているとおり、容易にできるにもかかわらず特定作業を行わなかったのである。
 被告市長は5月に公式調査を行い(甲第31号証参照)、それに基づき処分(甲第32号証参照)及び異動を行ったのであるから、どんなに遅くとも6月には特定できていた。
 それにもかかわらず、4月19日と同様に請求した9月5日の公開請求に対しても、全く同様の非公開決定をした。秘密主義も甚だしい。は、

 (3) 「課長補佐相当職以上の職員(本庁に限る)及び総務部、税務部、環境部、市長室に関する職員について、01年1月1日以降の出勤簿」(4月24日請求)に対して5月1日付けで公開された同文書(休暇整理簿)からは、事情聴取の所要時間を休暇届けしたことは、窺われない。

 (4) 5月14日請求・5月28日付けで公開された次の文書も同様である。   ア 市内の出張は通常出張扱いとしないため「離席簿」に当該職員が庁舎を離れる場合に記録する台帳があるところ、「01年1月から4月の本庁各課の離席簿」からは、事情聴取の所要時間を離席届けたしたことは、窺われない。

  イ 「01年1月から4月の欠勤に伴う給与減額に関する書類」からは、本件給与減額の事実は、窺われない。

  ウ 「01年1月から4月の欠勤に伴って給与を減額した件数、時間、額(月別・課別)に関する書類」からは、本件給与減額の事実は窺われない。

 7 返還額のまとめ
 以上、給与分3764万1024円と期末手当分640万円の総合計である金4404万1024円が本件違法な財務会計行為にかかる返還額である。

 8 損害額の特定が困難な場合の認定
 仮に、本件において損害額の特定が困難であるとするなら、民事訴訟法第248条《損害額の認定》「損害が生じたことが認められる場合において、損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるとは、裁判所は・・・相当な損害額を認定できる」との規定があり、本件において職権による認定を求めるものである。

 9 事後の有給休暇取得では相殺にならない
 本件原告らの7月2日付け職員給与返還等の申し入れに対して(甲第33号証の1)、8月20日付け岐阜市市人第144号回答(甲第33号証の2)の1のAにおいて、「勤務時間中に事情聴取を受けた職員については、年次有給休暇を取得させ対応したところであり、給与の減額義務は発生しない」とされている。 しかし、有給休暇はその概念及び制度上、事後請求・認定はあり得ない。事情聴取時間にかかる給与の減額義務はその時点で発生しているから、金員としての返還措置がなされない限り、市の損害は補填されないのは明らかである。
 前記のような措置は、職務怠慢を奨励することにもなり、市の事務上も、社会通念上も到底許されない。

第10 監査請求前置
 1 原告らは、9月5日に岐阜市監査員に住民監査請求した。
 2 これに対して、監査委員は、却下・棄却した(甲第1号証)。
 3 原告の見解は次ぎのとおりである。
   @逮捕者以外の職員について
 監査結果(2)で「特定がなされていない」との認定がなされているが、個別職員本人の不当利得という観点からは、個人名と日時が特定されていないとの判断は一理ある。しかし、本件は「市長が職員への不当利得の返還請求を怠ること」という「財産の管理を怠る」事実の違法であることの確認・認定を求めたものである。怠る事実に関しては額の特定も必要ないことは判例で確定している。
 よって、監査委員は、市長の怠る事実についての観点での判断を行っていないから、「市長の怠る事実に関しての請求についてはそもそも監査をしなかった」という違法な監査である。

   A逮捕された職員について
 監査結果(1)で「配布・提出はほんの数分」というが、そうでないことは口頭陳述で提出した多数の新聞記事にも明らかである(本件訴訟の甲第2〜28号証に同じ)。監査結果(2)で「有給休暇で対応」というが、記録からして、そうでない職員がいる。監査結果(3)で「時間を計数的にとらえることは不可能」というが、「計数的にとらえる」ことが市長や監査委員の職務であり、それを放棄したというしかない。

   B 岐阜市幹部は詳細を認識・把握している。
 被告市長は、岐阜市訓令乙第6号「選挙違反事件に係る職員懲戒審査特別委員会規程」(甲第29号証)によって、当該委員会を設置し、ここに民間委員も要請した(甲第30号証)。明らかに事実関係認識している。
 助役ら幹部による聴き取り調査を実施し、その結果を市政記者クラブに記者発表資料として公表し(甲第31号証)、ここには紹介者カードが流れた部署として13部290人であることを報告している。さらに、非違行為の程度が重いと判断した職員を処分し、その処分概要(甲第32号証)を公表した。少なくても、処分対象者については、選挙違反行為及びこれへの関与を明確に認識していることは、疑いない。被告市長は、市職員の休暇整理簿(甲第34号証)や離籍簿(甲第35号証)、公用車運転の記録(甲第36号証)で確認することもできる。
 
  C 市は、約240人の職員からの事情調査記録を全面非公開としたが、監査委員は職権でこれを確認したり、そこに記された当事者職員から聴取することも可能であった。前記市の知る事実や事情を十二分に把握し得た。それにもかかわらず、何ら調査せずに住民監査請求を却下・棄却したことは、住民としては、到底納得がいかない。よって、本件提訴に及ぶ。

第11 公務員に関する法令の適示
 1 憲法第15条2項「全て公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない」

 2 地方公務員法
 (1) 地方公務員法第24条1項【給与、勤務時間その他の勤務条件の根本基準】「職員の給与は、その職務と責任に応ずるものでなければならない」

 (2) 同第30条【服務の根本基準】「すべての職員は、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、且つ、職務の遂行に当たっては、全力を挙げてこれに専念しなければならない。」

 (3) 同第33条【信用失墜行為の禁止】「職員は、その職の信用を傷つけ、又は職員の職全体の不名誉となるような行為をしてはならない」

 (4) 同第35条【職務に専念する義務】「職員は、・・・その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い、当該地方公共団体がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない」

 (5) 同第36条【政治的行為の制限】
 「1 職員は、政党その他の政治的団体の結成に関与し、若しくはこれらの団体の役員となってはならず、又はこれらの団体の構成員となるように、若しくはならないように勧誘運動をしてはならない。
  2 公の選挙又は投票において投票するように、又はしないように勧誘運動をすること。
二 署名運動を企画し、又は主宰する等これに積極的に関与すること。
三 寄附金その他の金品の募集に関与すること。
四 地方公共団体の庁舎、施設、資材又は資金を利用し、又は利用させること
  3 何人も前2項に規定する政治的行為を行うよう職員に求め、職員をそそのかし、若しくはあおってはならず、又は職員が前2項に規定する政治的行為をなし、若しくはなさないことに対する代償若しくは報復として、任用、職務、給与、その他の職員の地位に関してなんらかの利益若しくは不利益を与え、与えようと企て、若しくは約束してはならない。」

 3 公職選挙法第136条の2「公務員等の地位利用による選挙運動の禁止」 第1項「次の各号の一に該当する者は、その地位を利用して選挙運動をすることができない」第1号「国又は地方公共団体の公務員」を規定している。
 同第2項「・・推薦し、支持し、若しくはこれに反対する目的をもってする次の各号に掲げる行為・・・」
 第1号「その地位を利用して、公職の候補者の推薦に関与し、若しくは関与することを援助し、又は他人をしてこれらの行為をさせること」
 第2号「・・選挙運動の企画・・」 第3号「・・後援団体の結成の準備・・」 第4号「・・文書図画・・」 第5号「・・その代償として・・」とされている。 これらに該当する行為を行った場合、法第239条の2第2項において「第136条の2の規定に違反して選挙運動又は行為をした者は、2年以下の禁固又は30万円以下の罰金に処する」とされている。

 4(1) 公職選挙法第129条【選挙運動の期間】
 選挙運動は、候補者の届け出のあった日から当該選挙の期日まででなければ、することができない。
 これらに該当する行為を行った場合、法第239条において「第129条の規定に違反して選挙運動又は行為をした者は、1年以下の禁固又は30万円以下の罰金に処する」とされている。

 (2) 法第129条「選挙運動は、・・候補者の届出・・のあった日から当該選挙の期日の前日まででなければ、することができない」として、いわゆる事前運動も禁止されている。

 (3) 両罪は刑法第54条第1項は、観念的競合の関係に立つとされている。

 5 岐阜市職員の給与に関する条例(平成7年3月29日岐阜市条例第5号。「本件給与条例」という)
 (1) 第16条【給与の減額】
 第16条職員は勤務しない時間に対する給与支給の可否について、「職員が勤務しないときは、勤務時間条例第8条に規定する祝日法による休日又は勤務時間条例第8条に規定する年末年始の休日である場合、勤務時間条例第10条に規定する休暇による場合その他の勤務しないことにつき特に承認があった場合を除き、その勤務しない1時間につき、第20条に規定する勤務1時間当りの給与額を減額して給与を支給する。」と規定している。

 (2) 第11条【調整手当】
 「職員には、給料及び扶養手当の月額の合計に100分の4を乗じて得た月額の調整手当を支給する」

 (3) 第22条【管理職手当】
 「給料月額につき適正な管理職手当額表を定める」

 (4) 第20条【勤務1時間当たりの給与額の算出】
 「第16条から前条までに規定する勤務1時間当たりの給与額は、給料の月額及びこれに対する調整手当の月額の合計額に12を乗じ、その額を1週間当たりの勤務時間に52を乗じたもので除した額とする。」

 6 岐阜市職員の給与に関する条例施行規則(平成7年3月31日規則第12号。「本件給与規則」という)

 (1) 第9条【給料の支給】
 「条例第6条の規定により給料を支給する場合の給料の支給定日は、その月の22日とする。

 (2) 第12条【調整手当の支給】
 「調整手当は、給料の支給方法に準じて支給する。」

 (3) 第14条【管理職手当の支給】
 「1 管理職手当は、給料の支給方法に準じて支給する。」
 「2 職員が、月の1日から末日までの期間の全日数にわたって勤務しなかった場合は、管理職手当は給料の支給することができない。」

 (4) 第54条【給与減額】
 「1 条例第16条に規定するその勤務しないことにつき特に承認があった場合は、・・適法な交渉を勤務時間中に行う場合及び法令の規定により特に勤務しないことが認められている場合をいう。」
 「2 条例第16条の規定により減額すべき給与額は、その月の分の給料及び調整手当に対応すべき額を、その月又はその次の月以降の給料及び調整手当から差し引くものとする。」
 「3 職員が特に承認なくして勤務しなかった時間数は、その月の全時間数によって計算するものとし、その時間数に、30分未満の端数が生じたときはこれを切り捨て、30分以上1時間未満の端数が生じたときはこれを1時間に切り上げる。」
 「4 条例第16条に規定する勤務1時間を算定する場合において、その額に、50銭未満の端数を生じたときはこれを切り捨て、50銭以上1円未満の端数が生じたときはこれを1円に切り上げるものとする。」

 7 岐阜市職員の勤務時間、休暇等に関する条例(平成7年3月29日岐阜市条例第4号。「本件勤務時間条例」という)

(1)第2条【1週間の勤務時間】
 「職員の勤務時間は、休憩時間を除き、4週間を越えない期間につき1週間当たり38時間45分とする。」

(2)第10条【休暇の種類】
 「職員の休暇は、年次有給休暇、病気休暇、特別休暇、組合休暇及び介護休暇とする。」

(3)第11条【年次有給休暇】
 「1 年次有給休暇は、一の年ごとにおける休暇とし、その日数は、一の年において、次の各号に掲げる職員の区分に応じて、当該各号に掲げる日数とする。(1)次号及び第3号に掲げる職員以外の職員 20日」

 「3 任命権者は、年次有給休暇を職員の請求する時季に与えなければならない。」

(4)第13条【特別休暇】
 「特別休暇は、選挙権の行使、結婚、出産、交通機関の事故その他の特別の事由により職員が勤務しないことが相当である場合として規則で定める場合における休暇とする。この場合において、規則で定める特別休暇については、規則でその期間を定める。」

 8 岐阜市職員の勤務時間、休暇等に関する規則(平成7年3月31日規則第10号。「本件勤務時間規則」という)
 (1) 第10条【年次有給休暇の単位】
 「年次有給休暇の単位は、1日又は半日とする。ただし、特に必要があると認められるときは、1時間を単位とすることができる。」

 (2) 第12条【特別休暇】
 「条例第13条の規則で定める場合は、次の各号に掲げる場合とし、その期間は、当該各号に掲げる期間とする。
 職員が証人、鑑定人、参考人等として国会、裁判所、他の地方公共団体の議会その他官公署へ出頭する場合で、その勤務しないことがやむを得ないと認められるとき必要と認められる期間」

第12 公務員の選挙関係法令と判例
 1 国家公務員法(第102条)、地方公務員法(第36条)が公務員の政治活動を禁止した所以は、公務の中立、厳正を期し、服務の公正と完全性を保持する意図したものであり、さらに公職選挙法が専ら選挙の自由と公正を保障することを趣旨としたものであることを考えれば、公職選挙法第136条の2第1項第1号の含意するものは、単に公務員がその公務員としての社会的信頼自体を利用することを規制しようとしたものでなく、およそ対象者との間に職務上密接な関連があり、その職務の行使を通じて何らかの利益又は不利益な影響を及ぼし得る立場にある者が、その影響力を利用して効果的な選挙運動をなすことにより、選挙の公正と自由を阻害すると評価するに足りる限り、不当にその地位を利用するものといえるので、かかる選挙運動を排除しようとしたものである。
 右規定する公務員の地位を利用して選挙運動をする罪については、規定の明文上は公務員の範囲、その職務の内容並びに権限の程度の点で何ら限定しておらず、従って公務員の社会的信頼それ自体、すなわち公務員なるが故にその者のなす選挙運動を直ちに地位利用といえ、公務員がその職務を通じて対象者と何らかの関連があれば足りるのである。
 よって、固有の処分権限を有する特定あるいはいわゆる高級公務員の選挙運動にのみ限定する合理的根拠はない。

 2 公職選挙法違反被告事件/福岡高等裁判所/昭和41年(う)第853号/昭和42年5月23日判決は、公務員が地位を利用して選挙運動をする罪の意義について、「公職選挙法第136条の2第1項第1号違反の罪は、公務員がその管掌する職務を通じ選挙運動の対象者と密接な関連を有し、相手に対し利益又は不利益な影響を及ぼし得る状況にあることからして、これを利用して有利且つ効果的な選挙運動をすることを指称し、当該公務員は固有の職務権限として処分その他の意思決定をなし得る者に限定されず、その処分権限ある上司に対し関係業務について立案、計画に参与し、意見を具申するなどの方法によつて密接且つ重要な関係において補佐する立場にある者がその職務上の地位を利用してなす場合もこれに包含されるものと解すべきである。」と判示した。

 3 公職選挙法違反被告事件/名古屋高等裁判所/昭和39年(う)第7号/昭和39年5月11日判決は、三重県の県耕地課長の耕地事務所長に対する選挙運動と公務員の地位利用に関して、「三重県農林水産部耕地課長は、同県各耕地事務所長を指揮監督する権限を有しないけれども、その権限を有する農林水産部長の補助機関として各耕地事務所の所管事務、人事、予算等に影響力を有する地位であるから、耕地課長がその地位を基盤として各耕地事務所長に対し選挙運動をすれば、公務員が地位を利用して選挙運動をした場合にあたる。」と判示した。
 4 事前運動の禁止規定は、選挙運動期間中には適法になすことができる選挙運動行為のみに限定されるいわれはなく、期間中であると否とに拘らずそれ自体違法な選挙運動行為にも適用があるとするのが判例の確立した解釈であり(昭和11年5月2日及び同12年11月12日の大審院判決同30年7月22日、同35年4月28日、同36年11月21日の各最高裁判決等)、またこの違法な選挙運動を法定の期間前に行なえば、これらの違反の罪のほか事前運動禁止違反の罪も成立し、両罪は観念的競合の関係に立つとするのが判例の一貫した見解でもある(事前運動と買収につき昭和3年5月14日大審院判決、昭和29年9月30日最高裁判決等、事前運動と戸別訪問につき昭和3年1月24日大審院判決等、事前運動と買収、戸別訪問につき昭和36年5月26日最高裁判決等)。

 5 公職選挙法違反被告事件/東京高等裁判所/昭和41年(う)第993号/昭和41年7月28日判決は、法第136条の2第1項違反の罪と同法第129条違反の罪との関係に関して、「ある行為が、一面において法第136条の2に該当し、他面において同法第129条に該当する場合には、その両罪ともに成立し、その間には刑法第54条第2項前段の関係あるものと解すべきであって、法第136条の2の一罪のみが成立するものではない。
            以 上

                         2001年11月26日
岐阜地方裁判所 民事部御中
  原告 別処雅樹 外18名

 添付書証  証拠説明書(1)のとおり、甲第1〜36号証。
       その他、必要に応じて、弁論において提出する。

                                以 上

《原告目録》 

 (略)

以 上