岐阜地方裁判所民事部御中
                         2001年11月26日

 訴      状


                     原  告  別 処 雅 樹
                            外31名 (目録の通り)
                     被  告  岐阜市長浅野勇
                           岐阜市今沢町18

市職員調査票非公開処分取消請求事件


 訴訟物の価格 金950、000円
 貼用印紙額    金8、200円
予納郵券     金9、000円

         請 求 の 趣 旨

1 被告岐阜市長浅野勇の原告に対する2001年9月19日付け非公開処分(市人第265号−3)(別紙−1のとおり)を取り消す(人事記録を除く)。
2 被告岐阜市長浅野勇の原告に対する2001年9月19日付け非公開処分(市人第265号−4)(別紙−2のとおり)を取り消す。
3 訴訟費用は、被告の負担とする。
  との判決を求める。

         請 求 の 原 因
第1 当事者
1 原告らは肩書地に居住する住民であり、本件各文書の公開請求を行った。
2 被告岐阜市長浅野勇(以下、「被告市長」という)は、岐阜市情報公開条例(昭和60年条例第28号/昭和60年10月1日施行)(以下、「本件条例」という)第2条第3項の実施機関である。

第2 公開請求と非公開処分
1 原告らは、2001年9月5日付けで「市長選挙違反に関しての調査において作成取得した文書等」として公文書を公開請求した。

2 これに対して、被告市長は、01年9月19日付けで、人事記録4件と「公職選挙法違反事件等に関する聴き取り調査票」を非公開とする処分(市人第265号−3)をなした。
 公文書の公開をしない理由は、「個人に関する情報で、特定の個人が識別され、又は識別され得るもののうち、通常他人に知られたくないと認められるもの及び人事管理に係る事務に関し、公正な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあるものに該当するため」とされている。
 非公開事由に該当する条文の明示はないので、本件条例第6条第1項2号及び4号ロ(4)と推量するしかない。

3 また被告市長は、01年9月19日付けで、「市長選挙違反に関与した職員の懲戒及び任意処分の通知書類」を「一部公開する」との非公開処分(市人第265号−4)をなした。
 公文書の公開をしない理由は、「条例第6条第1項2号に該当するため」とされているだけである。
 非公開とした情報の説明がないが、「職及び氏名」と推認される。

第3 本件条例の関連規定
《目的》第1条 この条例は、基本的人権としての知る権利に基づく公文書の公開を求める権利を何人にも保障し、市がこれを公開する際の手続を定めるとともに、市の行政運営を市民に説明する責務が全うされるよう市の保有する情報の総合的な公開に関し必要な事項を定めることにより、市政に対する市民の理解と信頼を深め、地方自治の本旨である市民による一層公正で開かれた市政の実現に寄与することを目的とする。

《定義》第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
(1)公文書とは、実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画、写真及びフィルム、テープ及び電磁的記録であって、当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が保有しているものをいう。ただし(略)。
《実施機関の責務》第3条第1項 実施機関は、市民の知る権利が十分に尊重されるようにこの条例を運用するものとする。この場合においては、個人の秘密その他の通常他人に知られたくない個人に関する情報がみだりに公開されることがないよう最大限の配慮をしなければならない。

《公開請求》第5条第1項 何人も、この条例の定めるところにより、実施機関に対し、公文書の公開を請求することができる。

《公文書の開示義務》第5条の2 実施機関は、公開請求があつたときは、当該公開請求に係る公文書が次条の非公開とすることができる公文書に該当するときを除き、公開請求者に当該公文書を公開しなければならない。

《非公開とすることができる公文書》第6条第1項 実施機関は、次の各号のいずれかに該当する情報が記録されている公文書については、公開を拒むことができる。
(2)個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)で特定の個人が識別され、又は識別され得るもののうち通常他人に知られたくな いと認められるもの。ただし、次に掲げる情報を除く。
 イ 法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報
 ロ 人の生命、健康、生活、財産又は環境を保護するため、公開することが必要であると認められる情報
 ハ 当該個人が公務員(国家公務員法(昭和22年法律第120号)第2条第1項に規定する国家公務員及び地方公務員法(昭和25年法律第261号第2条に規定する地方公務員をいう。)である場合において、当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは、当該情報のうち、当該公務員の職、氏名及び当該職務内容に係る部分
(3)法人その他の団体(国及び地方公共団体を除く。以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報で、公開することに より当該法人等又は当該個人の事業上の正当な利益を著しく害することが明ら かであると認められるもの。ただし、次に掲げる情報を除く。
 イ 個人の生命、健康、生活、財産又は環境を、当該法人等又は当該事業を営む個人の行為によつて生ずる危害から保護するために、公開することが必要と認められる情報
 ロ 個人の生活を、当該法人等又は当該事業を営む個人の違法又は不当な行為によつて生ずる重大な支障から保護するために、公開することが必要と認められる情報
(4)市政執行に関する情報であつて、次に掲げるもののいずれかに該当するもの
 ロ 市の機関が行う事務又は事業に関する情報であつて、公開することにより、次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の公正又は適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあることが明らかなもの
  (1) 監査、検査、取締り又は試験に係る事務に関し、正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれ
  (2) 契約、交渉又は争訟に係る事務に関し、地方公共団体の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ
  (3) 調査研究に係る事務に関し、公正かつ効率的な遂行を不当に阻害するおそれ
  (4) 人事管理に係る事務に関し、公正な人事の確保に支障を及ぼすおそれ
  (5) 市が経営する企業に係る事業に関し、企業経営上の利益を不当に害するおそれ

《公益上の理由による裁量的公開》第6条の2 実施機関は、公開請求に係る公文書が前条において公開を拒むことができるとされている場合であつても、公開することが公益上必要であると認めるときは、公開することができる。

《会議の公開》第16条 実施機関に置く地方自治法(昭和22年法律第67号)第138条の4第3項に規定する附属機関その他これに類するものは、その会議を公開するものとする。ただし、第6条第1項第1号から第4号までに定める非公開情報に該当するおそれがあると認められる事項を取り扱うときは、この限りでない。

《出資法人等の情報公開》第17条 市が出資その他の財政上の援助等を行う法人等であつて市長が定めるもの(以下「出資法人等」という。)は、経営状況に関する情報その他その保有する文書の公開に努めるものとする。
2 市長は、出資法人等が保有する文書であつて、市が保有していないものについて、その閲覧又はその写しの交付の申出があつたときは、当該出資法人等に対して当該文書の提出を求めるものとする。
3 前項の規定により市長が出資法人等に提出を求める文書の範囲、文書の閲覧又はその写しの交付の手続、費用の負担その他必要な事項は、市長が定める。

第4 本件条例の趣旨、目的、構造等
1 知る権利と説明責任(第1条)
 本件条例第1条は、この条例の目的を明らかにし、岐阜市における情報公開制度の基本的な考え方を定めたものであり、「知る権利に基づく公文書の公開を求める権利を何人にも保障し、市の行政運営を市民に説明する責務が全うされるよう公開に関し必要な事項を定めることにより、市政に対する市民の理解と信頼を深め、地方自治の本旨である市民による一層公正で開かれた市政の実現に寄与することを目的とする。」と規定している。
 地方自治法第149条柱書「普通地方公共団体の長は、概ね左に掲げる事務を担任する」、同8号「証書及び公文書類を保管すること」とされているとおり、公文書の保管についての事務の普通地方公共団体の長の一般的な権限規定があり、岐阜市が保有管理する各種公文書において、そこに記録される様々な情報は市民生活と深くかかわるものであり、本来的には市民共有の財産と考えられることから、知る権利として市民が自ら公文書の公開を請求する権利を行使し、これに対して市が保有する情報を公開することは、市民が市政の運用を有効に監視することで市政に対する理解と信頼を深め、もって住民自治、住民参加を実現して行くことであり、市民が自分自身の情報を支配し、コントロールするここと同じであって、市民固有の権利といえる。岐阜市の情報公開制度は、この市民固有の権利を具体化し、市民の市政への参加を促し、開かれた市政を実現することを目的とするものである。
 本件条例は市の説明責任を明確にし、市政の実情などに対する市民の理解を深め、市政に対する市民の信頼を高めるために制定されたもので、実施機関が管理する情報について公開を原則とし、非公開は例外である。
しかも、「公開してはならない」としているのでなく、「公開しないことができる」としているだけである。
 よって、非公開処分が誤っているとして処分の取消を求める手続きは、本件条例第1条の目的を大前提として進められる必要がある。

2 公開を原則とし、非公開は例外である(第3条)
 本件条例は第3条で「知る権利が十分に尊重されるようにこの条例を運用するものとする。この場合、通常他人に知られたくない個人に関する情報がみだりに公開されることがないよう最大限の配慮をしなければならない」としている。  本件条例は、市政の実情などに対する市民の理解を深め、市政に対する市民の信頼を高めるために制定されたもので、実施機関が管理する情報について公開を原則とし、非公開は例外である。

3 非公開とすることができる(第5条の2、第6条)
 しかも、「公開してはならない」としているのでなく、「公開しないことができる」としているだけである。
 第6条第1項の非公開事由該当性(適用除外事由)を、専ら行政機関の側の利便等を基準・根拠に、その主観的判断に基づいて決するとすれば、その範囲が不当に拡大する危険性があり、情報公開制度の実質的意味が失われることにもなりかねないから、各号の非公開事由の条文構造をよく理解し、正確に適合性を判断し例外規定の解釈は厳格でなければならない。

4 非公開処分の取消手続は迅速に行なわれるべきである。
 情報公開条例をその制度趣旨(第1条)に従って利用しようとする者にとって、実施機関が保有する情報が公開される時期は何年先であってもとにかく見られればよいというものではない。公開されるべき情報は情報公開請求後速やかに公開されなければならない。なぜなら、情報公開制度を使う住民は何年後かに過去を振り返って政治を論じたいと考えているのではなく、いま行なわれている政治に主権者たる住民として責任ある適切な意見を言っていきたいと考えている。そして本件条例は情報公開請求権の位置づけについて、「市政に対する市民の理解と信頼を深め、地方自治の本旨である市民による一層公正で開かれた市政の実現に寄与することを目的とする。」(第1条)としており、そこでは実施機関と住民とが噛み合った議論をするために実施機関が保有する情報が住民に速やかに提供されることを予定している。情報を持たない住民の意見はその主観はともかく客観的には行政実務の現実を無視した自分勝手なものになりかねないが、行政と情報を共有する住民は「知らなかった」という弁解ができなくなるので自分勝手な意見を言わなくなるか、言いたくても言いにくくなる。そのような状況は行政にとっても誠実に自治体のことを考える住民にとっても好ましい効率的な関係である。
 従って、非公開処分が誤っているとして処分の取消を求める異議申立や裁判の場合、その処分が違法であることの発見と決定や判決は速やかに実現されなければならない。

5 被告市長(実施機関)の立証責任(立証責任の転換)
 ふつうの審判や裁判では、訴えを起こした側で自分の主張が正しいことを主張立証しなければならないとされている。
 ところが情報公開に関する異議申立や訴訟ではちがう。立証責任が転換している。つまり訴えた異議申立人や原告の側で当該処分が違法であることを主張立証しなければ勝てないのではなく、訴えられた処分の実施機関の側で当該処分が適法であることを主張立証できなければ異議申立人・原告側の勝(訴)となるのである。実質的に考えても、異議申立人・原告側に主張立証責任を負わせるとなると、異議申立人側は非公開文書の内容がわからないために的確な主張立証ができないという事態が十分に予想され、情報公開制度の公開原則が空洞化してしまうことは明らかである。
 このことは本件条例に基づく非公開処分にも当てはまる。本件条例第1条が知る権利と市の説明責任を、第3条が公開原則を明らかにし、第6条で例外的に非公開とすることができるという規定になっている仕組みからして、立証責任は実施機関側に転換されていると解すべきである。
 これまでの情報公開訴訟における原告勝訴の判決書の理由部分において、「被告が非公開事由に該当する事実を具体的に主張していないので」とか「被告が非公開事由に該当する事実を具体的に立証していないので」という書き方がされているのは、立証責任が転換されていることを端的に示している。

6 被告市長の負担
 立証責任の転換は実施機関である被告市長にとって特に負担になるものではない。本件非公開処分が本件条例の解釈運用として合理的なものであるならば、被告市長は主張立証について特に負担を感じることはないはずである。まして、被告市長は原告らから情報公開請求されたときに、本件公文書のどの部分をどのような理由で非公開とするかを十分に吟味検討したはずである。その検討の結果が本件処分であることからすると、被告市長は、非公開事由該当性を直ちに、そして容易に、さらに明確かつ具体的に立証することができるはずである。

第5 本件条例第6条第1項第2号(個人情報)について
1 第2号は、憲法第13条が保障する個人のプライバシーの権利、すなわち私生活をみだりに公開されない権利の保護を目的とするものであるから、特定の個人が識別され、又は識別され得る情報であっても、その公開によって、個人のプライバシーの権利の侵害が生じない場合は、公開義務は免除されない。本号について、原則公開を定めたのが本件条例の趣旨である。
 これは、2号本文において「通常他人に知られたくないと認められるもの」と限定していることからも明らかである。
 さらに、但し書きハでは、「当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは、当該情報のうち、当該公務員の職、氏名及び当該職務内容に係る部分」として、公務員の職務遂行にかかる情報については、「職、氏名及び当該職務内容」を非公開とできる場合の例外と規定している。

2 本号による原則公開の例外は、「個人に関する情報」(A)であって「特定の個人が識別され得るもの」(B)であることが要件とされている。「A又はB」ではなく、「A+B」でなければならない。
 さらに「通常他人に知られたくないと認められるもの」(C)という絞りをかけているから「(A+B)+C)」でなければならない。
 被告市長は「特定の個人が識別され得るもの」(A)である事だけでなく、同時に、右に示される「個人に関する情報」(B)であること、しかもさらに「通常他人に知られたくないと認められるもの」(C)に当たることを主張立証しなければならない。

3 (1) 本件条例第6条1項2号但し書きイは、「法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」、同但し書きロは「人の生命、健康、生活、財産又は環境を保護するため、公開することが必要であると認められる情報」、同但し書きハは「公務員の職務の遂行に係る情報に含まれる当該公務員の職、氏名及び当該職務内容に係る部分」とされている。
 これら但し書きに示される情報は、いずれも個人のプライバシーを侵害する可能性が存在しない情報であり、結局、本号の但し書きは個人のプライバシーを侵害する可能性が存在しない情報は全て公開すべきことを定めたものである、ということが明らかである。
 そうである以上、本件条例第6条第2号本文が「公開しないことができる」とする情報とは、個人のプライバシーが侵害される可能性のある情報、即ち個人に関する私的な情報をいい、しかも「通常他人に知られたくないと認められるもの」と限定しているから、個人に関する私的な情報であってもさらに限定的にした情報だけを「個人に関する情報」として保護する趣旨である。
 この「通常他人に知られたくないと認められるもの」と限定し、さらに第3条で「個人の秘密その他」と明確にしていることからも、非公開事由該当性の認定は、任意の気まぐれなことを想定しているのでなく、客観的に誰がみても見ても該当する、という場合を意味しているのであるから、結局、「他人に知られたくないとの意識が正当である」と認定できる場合に限定しているのである。

 (2) 2号柱書が「個人に関する情報」につき括弧書して事業を営む個人の当該事業に関する情報を除くと規定し、第3号において事業を営む個人の当該事業に係る情報に関して、通常の法人や団体と同様に規定している。
 これは、個人事業主は、その事業と私生活の区別がつき難いことも少なくないことから、前記括弧書は、その点についての判断を避けるため、個人事業主の事業に関する情報を一律に「個人に関する情報」に該当しないものとしたもの、というべきである。
 したがって、本号にいう「個人に関する情報」とは、専ら私事に関するものに限定されるのであって、個人の行動であっても、それが公務としてなされた場合はもちろん、法人等社会活動を行っている団体において職務上の行為としてされた場合には、「個人に関する情報」には該当しないから、当該行動については、たとえ行為者を識別する事項であっても、本号に該当しないのである。

 (3) そもそも、本条例第6条第1項2号が個人のプライバシーを保護する趣旨で規定されたものであるから、個人のプライバシー侵害のおそれがない情報は、「個人に関する情報」に該当しないというべきであり、この種の情報は公開されなければならない。もし規定の形式的な文言に拘泥し、実質的なプライバシー侵害がないにもかかわらず、非公開にするというのでは、プライバシー保護という規定の本来の趣旨を逸脱することになり、非公開範囲が広くなりすぎ、本条例が定める情報公開制度の精神を無に帰せしめることになるのである。
 現実的には、通常に考えて、個人が公開されることを望まず、かつ、それが正当であると判断される場合は、個人が識別されても公開する、という規定である。
 (4) 以上により、本号が「公開しないことができる」とする「個人に関する情報」とは、純粋に個人に関する私的な情報を意味するのであり、個人に関する私的な情報に全く関わりのない情報までも含むものではない。

 (5) さらに、本件条例が個人事業者の事業情報については、2号でなく3号の対象としている趣旨は、個人事業者はその活動が社会に少なからず影響を及ぼす立場にあり、その社会的責任に照らして公益を優先する必要があることから、個人事業者の事業情報は2号の「個人情報」としては保護の対象とすべきではないとしたものであり、そうである以上、事業を営む個人の当該事業について、その公益性に着目して敢えて個人に関する情報から除外した2号が、これよりさらに公益性を有する公務員の公務に関する情報、勤務中の行為についての情報を非公開とすることはできない。

4 利益衡量
 本件条例は「実施機関は、市民の知る権利が十分に尊重されるようこの条例を運用するものとする。この場合において、個人の秘密その他の情報がみだりに公にされることのないよう最大限の配慮をしなければならない」と規定して個人情報の開示に「みだりに」としぼりをかけていること(第3条)を前提に利益考量を行う必要がある。即ち、公開されることが「みだりに」という主観的ではなく客観的評価となるか否か、また手引に例示列挙されたものと同質またはそれに近い価値をもつものであるか否か、という基本的スタンスで当該情報につき具体的利益衡量をなすべきものである。
 本件の聴き取り調査は、市として非常に重要かつ必須な事務として行うもので、聴取職員も被聴取職員も双方とも市民全体の奉仕者としてをこれを行っているに過ぎないし、処分も地方公務員法によるものであるから、個人のプライバシーの侵害が生じる余地はない。
 本件事案に関係する情報が公表されることから得られる利益は公文書公開条例の立法目的そのものである行政の透明性の確保、行政の公正性の担保、市民の理解と信頼の確保等であり、公開されないことによって得られる被聴取職員・被処分職員のプライバシーの保護の利益は不適法に選挙運動に関与したことが知れるという程度のことであるから、その利益衡量は公開の利益を重しと結論されるのは、当然である。

第6 個人情報に関する高裁判例について
1 本件のような地方公共団体の職員の職務に係る情報のうち、非公開事由としての「個人情報」該当性について、最高裁の判例はいまだ示されていないので、本件処分が各地の高裁判例に違背することを述べる。
 なお、非公開処分取消訴訟において、被告となった実施機関は、「『個人識別型』条例(個人に関する情報で個人が識別され又は識別され得るものについては「公開しないことができる」と規定するもの)であるから、『プライバシー型』条例より公開すべき理由は少ない」、と主張をすることが多いが、以下は、「個人識別型」を採用した条例に関するものである。

2 東京高裁平成9年2月27日判決(平成8年(行コ)78号事件)は、「控訴人は、本件各文書に係る会議・懇談会等の出席者(都の出席者を除く。)に関する情報は本件条例9条2号の『個人に関する情報』に該当すると主張する。東京都情報連絡室作成の『情報公開事務の手引(再訂版)』によれば、『個人に関する情報』(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)とは、思想、心身の状況、病歴、学歴、職歴、成績、親族関係、所得、財産の状況その他一切の個人に関する情報をいうとされているが、本件条例9条2号は、私事に関する情報のうち性質上公開に親しまないような個人情報が記録されている文書を公開してはならないとしているものと解される。
 ところで、右事件においては、本件各文書に係る会議・懇談会等は、都の公務として開催され、これに出席した相手方は、国(関係省庁・国税当局)と地方公共団体(隣接県、大都市及び特別区)の担当職員であり、いずれも右会議・懇談会等には公務員の職務の遂行として出席したものである。
 したがって、国及び地方公共団体の担当職員の右会議・懇談会等出席に関する情報は、私事に関する情報ではなく、公務員の私人としてのプライバシー保護に対する配慮は必要でないから、同号の『個人に関する情報』には当たらない。」と判示している。

3 大阪高等裁判所/平成10年6月17日判決/平成9年(行コ)17号は、大阪市公文書公開条例に係る非公開情報に関しての控訴審判決であり、要点は次のようである。
 「控訴人は、2号の趣旨及び文理から、特定の個人が識別され又は識別され得る情報は、プライバシーに関係しないことが明らかであっても、公開の適用除外事項に該当すると解すべきであると主張する。しかしながら、2号の規定が前記のとおり『個人に関する情報』を適用除外事項の要件としていること、2号の規定の趣旨が右にみたとおりプライバシーの保護を目的とすることからすると、プライバシーに関係しないことが明らかな情報は第2号の適用除外事由に当たらないと解すべきであるから、控訴人の右主張は採用できない。」
 「市の職員が公務の遂行として出席(予定)し、財政課が食糧費を支出した会議等であれば、出席(予定)するものは、その出席したことを一般に知られたくないということは通常あり得ず、これを公開したことによって控訴人のいうように自己情報に関するコントロール権がプライバシーの権利の一内容として認められるとしても、これを侵害することはない。」
 「被控訴人は、公務又は所属団体の職務としてでなく、その者の専門的知識及び経験等に基づく意見交換等のため、個人的な立場から出席したものがあり、この場合はプライバシーに関わると主張する。しかし、意見交換のための会議に出席した場合であっても、公務又は所属団体の職務として出席した推認するのが相当である。」

4 東京高等裁判所/平成11年4月28日判決/平成10年(行コ)154号は、新潟県公文書公開条例に係る非公開情報に関しての控訴審判決であり、要点は次のようである。
 「本号の文言をみると、およそ個人に関する事項を含む情報については、特定の個人が識別される限りすべて非公開とする趣旨と読めなくもない。しかし、本件条例は、県の有する情報は原則公開とし、第10条所定の情報のみを例外的に非公開としているのであって、第3条も『みだりに公にされることのないよう』と規定していることからすると、本件条例にいう『個人に関する情報』とは、公開原則の例外とするにふさわしい、みだりに公にされることが相当でない情報に限定されているのであって、個人に関する事項のうち、専ら私事に関するものと通常理解される情報のみを指すと解するのが相当である。すなわち、個人の行動であっても、それが公務としてなされた場合はもちろん、法人等社会活動を行っている団体において職務上の行為としてされた場合も、もはや私事に関することとは言えないから、本件条例にいう『個人に関する情報』には該当しないというべきである。」
 「専ら私事に関することか否かは、常識的にみて容易に判断できる」
 「第一審被告は、本号が『個人に関する情報』につき括弧書して事業を営む個人の当該事業に関する情報を除くと規定していることをとらえて、限定的な解釈を採ると、このような括弧書は不要になるから、この括弧書の存在からしても、限定的に解釈することはできないと主張する。しかし、個人事業主は、その事業と私生活の区別がつき難いことも少なくないことから、右括弧書は、その点についての判断を避けるため、個人事業主の事業に関する情報を一律に『個人に関する情報』に該当しないものとしたと解することができる。」
 「したがって、本号にいう『個人に関する情報』とは、専ら私事に関するものに限定されるのであって、個人の行動であっても、それが公務としてなされた場合はもちろん、法人等社会活動を行っている団体において職務上の行為としてされた場合には、『個人に関する情報』には該当しないから、当該行動については、たとえ行為者を識別する事項であっても、本号に該当しない」
 「これら会合に出席した者及び贈答を受けた者(以下、相手方という)は、いずれもその所属する機関や、企業等の職務として会合に出席し贈答を受けたと認められるのであって、会合に出席し又は贈答を受けたこと自体は『個人に関する情報』には該当しない。したがって、当該行為につき、その行為者としての相手方を特定するのに必要な情報は、本号には該当しないのは明らかである。相手方の経歴については、所属・職名であることが認められ、相手方がこの経歴を有する者であることが当該会合に出席し又は贈答を受けたことの理由となっているのであるから、『個人に関する情報』には該当しない。」

5 福岡高等裁判所/平成11年4月30日判決/平成10年(行コ)30号は、熊本県公文書公開条例に係る非公開情報に関しての控訴審判決であり、要点は次のようである。
 判決は、「控訴人(熊本県知事)は、本号の『個人に関する情報』を私生活上の事実に関するものと限定して解釈することは、裁判所による新たな立法にほかならず、不当である旨主張する。しかしながら、本号は、公文書の開示により関係者のプライバシーが不当に侵害されることを回避するために設けられた情報公開の例外規定であり、その立法趣旨に照らすと、ここで開示が禁止されるのは、原則として当該公文書にプライバシーに関する情報が記録されている場合に限られ、特段の事情がない限り、『特定の個人が識別され、又は識別され得る』との一事をもって開示が禁止される趣旨ではないことは明らかであるといわなければならない。」として、相手方氏名等は「個人情報」に該当しない、とした。

6 福岡高等裁判所/平成11年6月4日判決/平成10年(行コ)22号は、佐賀県公文書公開条例に係る非公開情報に関しての控訴審判決であり、要点は次のようである。
 「一審被告(佐賀県知事)は、開示請求権は本件条例によって創設された権利であるから、その内容は本件条例の具体的文言によるべきであり、その運用は形式的に解釈して行うべきであると主張する。しかしながら、法令等の解釈は、規定の具体的文言を重視して行うべきものであることはいうまでもないが、そのほか、当該法令等の目的、解釈、運用の基準等を定めた総則規定、当該法令の制定の経緯等を総合的に勘案して行うべきものであり、単に規定の形式的文言の文理解釈にのみとどまるべきものではない。」
 「本号は、個人に関する情報で特定の個人が識別され得るものについては、原則非開示(いわゆる個人識別型)としている趣旨に読めなくはない。しかしながら、本件条例の県民本位の開かれた県政の発展を図り、県政のより一層公正な執行を確保するという目的及び原則公開の趣旨に照らし、また、手引きは、専ら個人の秘密に関する情報を記載した文書を例示しており、これに『個人の尊厳、基本的人権の尊重の立場から、個人のプライバシーを保護する』という趣旨を総合すると、本号により保護が予定されているのは、特定の個人が識別される情報のうち、右個人のプライバシーにかかる情報であると解される。したがって、本号を適用するに当たっては、特定の個人が識別される情報についても、当該情報がプライバシーに関係しないことが明らかな場合には、非開示とすることは許されないし、また、特定の個人が識別される情報が、右個人のプライバシーにかかる情報である場合にも、本件条例の前記目的及び原則公開の趣旨に、本件条例第3条後段が『みだりに公にされることがない』旨規定し、個人に関する情報を『正当な理由なく』開示してはならないとしている(手引き)ことをあわせて考慮すれば、当該情報を開示することにより、当該個人のプライバシー及びその他の利益が侵害される可能性が生じるか否かを検討して、開示するか否かを判断すべきである。(なお、他の地方公共団体の条例に、プライバシー情報型の条例があるが、本件条例はその規定を異にするので個人情報該当性を狭く解釈することは許されない旨主張するが、条例は、条例の文言及び趣旨に従って解釈されるべきであり、本件条例について右のように解釈することができる以上、右主張は採用できない。)」

7 広島高等裁判所/平成11年10月16日判決/平成10年(行コ)14号は、広島県公文書公開条例に係る非公開情報に関しての控訴審判決であり、要点は次のようである。
 「右認定の本件条例の基本原則、本件条例の9条2号の趣旨、本件手引が同号で保護される情報の例として、思想・・・財産の状況等もっぱら個人の私的な事項と称し得る『個人に関する情報』を列挙していることを総合すれば、同号で保護が予定されているのは、個人が識別される情報のうち、性質上公開に親しまない私生活上の情報であると解するのが相当であり、特定の個人が識別され得る情報であっても、当該情報がプライバシーに関係しないことが明らかな場合には、同号による保護が予定された情報には該当しないものと解すべきである。」
 「相手方は、県の行政事務、事業の執行として行われる懇談会に出席する以上、県職員の公務遂行過程に関与していることを当然認識していたはずであり、食糧費の執行としての懇談会への出席は、県の行政事務、事業そのものへの関与であるということができる。もっとも、懇談会が内密の協議を目的として行われた場合にはそのような懇談会に出席したという情報自体が、性質上公開に親しまない私生活上の情報に該当する場合もありうると解されるが、本件懇談会の目的及び性質に照らすと、本件懇談会が内密の協議を目的として行われたものと認めることはできない。なお、被控訴人(広島県知事)は、相手方氏名等が公開されると、相手方の私生活上の平穏が害されるおそれがあると主張するが、公務に関する情報の公開の必要性に照らすと、仮に被控訴人のおそれがあるとしても、右情報を非公開とすることは許されない。」

8 高松高等裁判所/平成12年3月13日判決/平成11年(行コ)12号は、香川県公文書公開条例に係る非公開情報に関しての控訴審判決であり、要点は次のようである。
 判決は、「当裁判所も、相手方出席者の氏名等は、本件条例第6条1号本文、同5条に該当しないと判断するが、その理由は次のとおり補正する。」とした。 よって、前記判示に基づき地裁判決に「補正」を加えると、「会合は、県が公金を用いて開催した公務であり、公務員が公務として会合に出席することは、個人のプライバシーとは関係のない事項である。」「相手方出席者の職名及び所属は、他の情報と結びつけることにより特定の個人が識別され得る情報であるが、本件においては直接的な個人識別情報である氏名さえ同号本文に該当しないと解されるから、これに該当しないことは明らかである。」となる。

9 名古屋高等裁判所/平成13年3月29日判決/平成12年(行コ)第31号、同第49号は、岐阜県情報公開条例に係る非公開情報に関しての控訴審判決であり、要点は次のようである。
 「本件条例6条1号が、個人に関する情報であって、特定の個人を識別され得る情報を、原則として非公開とする趣旨は、個人のプライバシーを最大限保護する必要があるが、一方では、プライバシーの概念及び範囲が未だ明確となっていないことから、個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得る情報については、原則として非公開としたものと解される。そして、本件条例では、県民の公文書の公開を請求する権利を明らかにするとともに、情報公開の総合的な推進に関し必要な事項を定めることにより、開かれた県政を実現することを目的とし(1条)、実施機関は、公文書の公開を求める権利が十分に尊重されるようこの条例を解釈し、運用するものとする一方、個人に関する情報がみだりに公にされることのないよう最大限の配慮をしなければならない(3条)と定めている。そうすると、本件条例6条1号の『個人に関する情報』とは、およそ特定の個人が識別され得る全ての個人情報を意味するものではなく、その情報内容が、以下のような情報などとの関連において、当該特定個人の権利を侵害するおそれがあるものを指す相関関係概念であると解するのが相当であり、それ以外のものは、同号によって保護される『個人に関する情報』には含まれないと解するのが相当である。 @思想・信条・信仰等の個人の内心に関する情報、 A学歴・犯罪歴等の個人の経歴に関する情報、 B所得・財産等の個人の財産状況に関する情報、 C健康状態・病歴等の個人の心身の状況に関する情報、 D家族関係等の個人の家族状況に関する情報」
 「本件において、取扱従業員の印影は、特定の個人が識別され得るものであるが、請求書及び領収書に押印された取扱印であるから、それによって、当該個人がある時点においてある諸新聞の従業員であったという情報が明らかになるおそれがあるにすぎず、それ以上の情報は何ら明らかになるおそれがない。」

10 名古屋高等裁判所/平成13年5月29日判決/平成11年(行コ)34号は、愛知県公文書公開条例に係る非公開情報に関しての控訴審判決である。 懇談会の参加者に関する情報等についての判例であるが、前記(7)と全く同旨である。

11 名古屋高等裁判所/平成13年8月9日判決/平成12年(行コ)39号、平成13年(行コ)3号/は、岐阜県情報公開条例に係る非公開情報に関しての控訴審判決であり、前記(7)(8)判例と同様に、「本件条例6条1号が、・・・・D家族関係等の個人の家族状況に関する情報」という説示をして、「懇親会等は、いずれも岐阜県の公的行事として開催されたものであり、公務員の場合は公務員の公務の遂行として、公務員以外の者である場合には、その者の所属する地位、団体の立場で、それぞれ懇親会等に出席して情報交換し、懇談したという情報が明らかになるものであるが、それ以上の情報が明らかになるものではない。したがって、このように明らかになる情報の公開により、当該出席者個人の権利、利益を侵害するおそれがあるとは、通常は認められないから、『個人に関する情報』には該当しないというべきである。」「本件条例の定める公文書公開請求権は本件条例によって具体的権利性を認められたものであるから、その解釈に当たっては、本件条例の目的(1条)並びに解釈及び運用の基本(3条)を前提として、その規定の意味するところを合理的に解釈すべきであり、単に文理解釈をもって足りるものではない。」とした。

第7 本件処分の違法性/第1号(個人情報)に該当しないことについて
1 以上、述べたように、本件条例の構造や高裁判例に照らしても、被告市長は本号への当てはめ以前に本号の解釈を誤っている。被告市長は個人が識別できる情報はすべて本号によって非公開にできると考えているようであるが、本号の規定の趣旨が個人のプライバシー保護にあるから、個人が公開されることを望まないことが通常であるか、仮に望まないとしてもそれが正当であるかを検討し、公開・非公開の判断をしなければならない。
 本件非公開とされた情報は、いずれも市民のための職務中の行為の情報、その非違行為に対する法にもとずく処分もしくは同旨の任命権者の処分に関する情報(甲第1号証)である。公務員はそもそも全体の奉仕者であり(憲法第15条)、職・氏名やその聴取内容の公開に何らの問題がないことは議論するまでもないことである。
 実質的に考えても、犯罪捜査などごく例外的な場合を除けば、住民に対して「個人識別」「個人情報」を口実に公務がコソコソと行なわれることはかなり異常なことである。本件事案に特定職員が関与したこと、もって聴取を受けたこと、処分を受けたこと自体を隠そうとするのは許されないことである。
 以上のように、本件情報は本件条例第6条1項2号の公開しないことができるという事由に該当しないから、本件情報を非公開とした本件処分は違法であり、取消を免れない。

2 仮に2号本文に該当しないとしても、本件情報は、市職員の職務中の行為について市の幹部が聴き取りした調査記録及び処分文書中の職氏名であるから、但し書きハに該当するのは、明々白々である。よって、本件情報を非公開とした本件処分は違法であり、取消を免れない。

第8 本件条例第6条第1項第4号ロ(4)(行政運営・人事情報)について  本4号ロ(4)による公開の例外は、まず「市の機関が行う事務又は事業に関する情報」(A)であって、「公開することにより、人事管理に係る事務に関し、公正な人事の確保に著しい支障を及ぼすおそれがあることが明らかなもの(『著しい支障』はロの柱書に明示)」(B)であることが要件とされている。これも第2号と同じく、「A又はB」ではなく、「A+B」でなければならない。 まず(A)の前段の「市の機関が行う事務又は事業に関する情報」の特定には疑問が生ずる余地はあまりない。
 次に(B)は@「人事管理に係る事務」であって、A「公正な人事の確保に著しい支障を及ぼすおそれ」というものがB「明らかなもの」を規定している。即ち、Bは、@+A+Bの場合に成立する。 
 よって、岐阜市長は「A+B(@+A+B)であること」を主張立証しなければならない。

第9 公務の記録は公開されるべき
1 地方公務員法第29条1項は「処分」を、同2項は「条例で定め」とし、同第49条は説明書の交付等を、同第49条の2、3、同第50条、51条、51条の2は不服申立を規定している。
 そして、地方公務員法第27条は分限及び懲戒の基準を定め、同第28条は降任、免職、休職等を定め、同第30条は服務の根本基準を、同第32条は法令等に従う義務を、同第33条は信用失墜行為の禁止を、同第35条は職務専念義務を規定している。
 地方公務員法第31条に関して「職員の服務の宣誓に関する条例(昭和26年条例5号)を定めている。
 本件文書は、このように法令で位置付けられた公務員の公務に係る懲戒処分の必要性判断等のための調査記録、あるいはその結果である。
 即ち、単に、純粋な公務に関する情報である。

2 非違行為に関する情報公開の判例等
 (1) 名古屋地裁は、公費不正受給で懲戒処分を受け、同返還した校長名・校名等について「公務遂行情報である」「プライバシー侵害はない」として公開すべき、とした。同事件の控訴審で、名古屋高裁が本年8月22日、氏名公開とした地裁判決を支持した。
 これに関して、愛知県教育委員会は上告を断念した。

 (2) 自治体職員の不正経理を内部調査した報告について、一部を非公開とした処分に関して、全て公開すべき、と判示された(福島地裁/00年9月26日判決/平成10年(行ウ)第3号文書開示拒否処分取消請求事件)がありその判示の要点は、次のようである。
 個人情報に関しては、条例の目的を考えたとき(判決文51頁8行目)、@公費の支出という公務そのものであって、仮にそのことで一定の社会的非難をされることがあっても、やむを得ない(判決文53頁)、A民間人について、私的な懇談ではあり得ず、公開されることを受容して行動している(判決文57頁7、8行目)。B参加していない者の氏名が冒用してなされた虚偽の記載については、被冒用者の名誉が毀損される可能性がないわけではないが(判決文59)、それが予測される場合は、県が何らかの対策を講じれば防止できないことはない(判決文60頁)、というものである。
 事業者情報に関しては、開示すると@業者の信用、名誉、社会的評価等の正当な利益を害するというが、それは具体的に示されておらず、それが予測される場合は、県が何らかの対策を講じれば防止できないことはない(判決文63、64頁)、A取引先や取引内容は企業上の秘密であるというが、具体的主張立証はない(判決文65頁)、というものである。

3 公務員の出勤簿(休暇整理簿)の公開について
 (1) 公務員の勤務状況を記録した文書として「出勤簿」がどこの自治体でも作成されている(文書の名称が異なることはあり得る)。これは、人事管理のため、また、給与や期末手当等の支給基準ともなるもので、職員の勤務状況を把握する目的で作成されるものであり、「当該職員の勤務実態」が如実に記録されている。
 この出勤簿等の公開を争った宮崎地裁平成10年(行ウ)第2号公文書非公開処分取消請求事件において、同地裁は平成12年9月4日判決で、「出勤簿の当該職員の職名、氏名及び出勤時に押印した印影、出勤簿押印欄の出張、研修、職務専念義務の免除、停職及び欠勤の各記載、勤務すべき日数、並びに勤務した日数(出勤、出張及び研修の各日数も含む。)」の公開を命じ、「出勤押印欄の年次休暇、公務災害休暇、結核療養休暇、介護休暇、特別休暇、休職及び代休日の各記載」については、非公開処分を認容した。
 このように、就業していなかった月日及びその理由が推定される記録であるところの「休暇の記録」は私的な情報であるとしても、公務に関するあるいは公務に付随する情報は当該公務員個人の私生活上に関する情報ではないから、非公開事由には該当性しない。

 (2) 岐阜市は、前記の職員の出勤簿である「休暇整理簿」における職、氏名、勤務していない日、その他の情報を公開している(甲第34号証)。
 また、市の職員が所属部署の自席を離れるときかつ出張手当等のつかない市内近郊の場合の記録をすると定められている帳簿である離籍簿があるり、そこには押印、職氏名、用務内容や行先、車の公私種別、時間等や5分単位の離籍時間等が記録されているが、これを全面公開している(甲第35号証)。
 市の公用車運行の記録も全面公開している(甲第36号証)。

第10 本件処分の違法性/第4号(行政運営・人事情報)に該当しない
1 本件は、社会的な批判が大きく、連日報道された。事件の関係者らの人事や経歴も詳細に公表、報道された。本件聴き取り調査や処分についても、調査開始以前から報道され、途中も同様であった。
 本件調査票は前記(A)である。また、(B)の@にあたると云う余地はある。しかし、公開しても著しい支障を及ぼすおそれはないから(B)のAに該当せず、「おそれ」は客観的・明白ではないから(B)のBに該当しない。
 よって、本件4号ロ(4)には該当しないから、本件情報を非公開とした本件処分は違法であり、取消を免れない。

2 しかも、岐阜市は、前記の職員の出勤簿である「休暇整理簿」「離籍簿」「運転記録」等を公開しているのであるから、ある人事記録は公開し、一方で本件調査票や処分記録を非公開とするのは、著しい裁量権の乱用として違法であり、取消を免れない。

第11 公益上の理由による裁量的公開  
 @本件条例の第1条が「知る権利に基づく公文書公開請求権を何人にも保障」し、かつ「市の行政運営を市民に説明する責務が全うされる」ために、「市政に対する市民の理解と信頼を深め、地方自治の本旨である市民による一層公正で開かれた市政の実現に寄与する」ことを目的とすることに加え、A同第16条「《会議の公開》実施機関の附属機関その他これに類するものは、その会議を公開する」として市の公開の基本的姿勢を市の機関に強く反映させ、B同第17条「《出資法人等の情報公開》市が出資その他の財政上の援助等を行う法人等であって市長が定めるもの(以下「出資法人等」という。)は、経営状況に関する情報その他その保有する文書の公開に努めるものとする。2 市長は、出資法人等が保有する文書であって、市が保有していないものについて、その閲覧又はその写しの交付の申出があったときは、当該出資法人等に対して当該文書の提出を求めるものとする。」との明確な規定をして、市が公的に関与する団体に関する情報を市がその権限を用いてできるだけ市民に提供する姿勢を明確にしているから、本件条例が市の説明責任とともに公開のために努力すべき義務を課した趣旨であることは明らかである。
 そして、C本件不祥事は、多くの市民や県民に県庁所在地としての岐阜市の本件不祥事について、失望と事実解明の声が極めて強いのである。 
 一方で、本件条例は、同第6条の2「《公益上の理由による裁量的公開》実施機関は、公開請求に係る公文書が前条において公開を拒むことができるとされている場合であっても、公開することが公益上必要であると認めるときは、公開することができる。」と定めている。
 よって、被告市長は、仮に、1号、4号に該当すると判断しても、本件条例の趣旨目的に鑑み、本件文書は公益上の公開をすべき理由が高いものとして、その裁量によって、公開すべき場合に当たる。

第12 結び
 被告市長が本件文書を非公開にしようとすることは、身内意識の現れでしかない。今回の市長選挙における市職員の不祥事は、正に身内意識の発現としての行為であったということを、市及び市長他市職員が十分に認識し反省している。
 このように反省し、市政運営において公正、公平に事務事業を執行しようと努力していることが市民に認知されるためには、少なくても、本件のような公文書こそが公開されることが必要である。このような身内意識としての非公開処分が放置されるなら、最早、市民の市政への理解と信頼の回復は困難となる。
 本件事件に関連する市の対応の文書は各種公開されているのである。
 本件に係る不祥事の事案は、2月に最初の逮捕者が出て以来、連日のように報道され、本件文書に係る助役らによる正式の聴取調査の経過や状況も逐一報道されている(甲第2〜28号証)。
 被告は、本件に係る職員懲戒のための委員会設置のための訓令を出し(甲第29号証)、内部だけの審査では市民の信頼を得られないと判断して外部委員を選び(甲第30号証)、本件調査票の要約判というべき文書(甲第31号証)と関係者の処分の概要(甲第32号証)は、記者クラブに配布し、本件請求でも公開された。
 本件についての市民の申し入れ(甲第33号証の1)に対し、市は「市政発展のために、なにとぞご協力とご理解を」と回答している(甲第33号証の1)。 市が市民の信頼を回復するために、本件文書が公開されることは、本件条例の解釈、運用として正当なものであるばかりか、条例の制定趣旨に合致しこれを実現するものである。
以 上

                         2001年11月26日
岐阜地方裁判所 民事部御中
                        原告 別処雅樹 外31名

 添付書証  証拠説明書(1)のとおり、甲第1〜36号証。
       その他、必要に応じて、弁論において提出する。

                               以 上

《原告目録》

  (略)
                                 以上