′             監委第139号 
                          平成14年1月7日
寺町知正 様
                 
 岐阜県監査委員 丹 羽 正 治  印
  岐阜県監査委員 伊佐地 金 嗣  印
  岐阜県監査委員 加 藤 一 夫  印
  岐阜県監査委員 河 合 洌    印
 
     住民監査請求に基づく監査結果について(通知)

 平成13年11月28日付けで提出のあった住民監査請求について、地方自治法(昭和22年法律第67号)第242条第3項の規定に基づき、別紙のとおり監査結果を通知します。

(別紙)
1 請求の受理
 別記請求人から提出された請求は、所要の法定要件を具備しているものと認め、平成13年11月28日付けで受理した。

2 請求人の証拠の提出及び陳述
 請求人に対して地方自治法第242条第5項の規定に基づき、平成13年12月3日に証拠の提出及び陳述の機会を与えた。

3 請求の内容
 請求書に記載されている事項及び事実証明書並びに陳述の内容から監査請求の要旨を次のように解した。なお、以下において「北ブロック」とは、従前北方住宅建替事業(以下「建替事業」という。)における「中北ブロック」と呼ばれていた範囲を指すものとする。

 (1)主張事実
 ア 県営住宅は公営住宅法・県条例に拘束され、居住性及び経済性が優先する。
 イ 県はこ県営北方住宅建替計画を立案するため「北方住宅中ブロック再生・活用調査業務」(以下「調査業務」という。)を法令に違反して、随意契約により受託者との間に委託契約を締結し、これにかかる委託料500万円を平成13年4月2日に支出した。

 ウ 調査業務は、北ブロックの基本計画を策定するためのものであり、その委託要領では『入居者の高齢化、建替からストックの活用方針変化等により、再度検査検討』、『住まいや建替に対する意向の変化』、『調査結果を分析し、具体的計画への意向の必須要件抽出』、『高齢化への対応方策を最重点項目』等となっている。
 しかし、南ブロックに関わった設計者が最終までの全体チーフが既定、として計画策定された。調査業務の報告書では、『設計の舞台を提供』、『建集家は敷地の制約からはなれて、空中の一領域をデザイン』、『住戸提案を3次元的に積み上げ1つの統合体にするときに生じる構造・設備などの技術的問題を総合調整』するなどとしている。

 エ 南ブロックでは、変形の建築の接合や建造に困難を来して経費が一層高額になり、かつ居住者の大不評をかったことを無視し、計画の斬新さに着眼しただけ。

 オ 住民アンケートでの希望は、『低家家賃』、『住み易い聞取り』、『日当たり良』、『風通し良』、『外観、内装共にシンプル』、『南向き』、『ベランダ広く』、『既設類似の間取り』等だが、調査業務の報告書には全く反映されず、契約違反である。                   l

 カ ある県の県営住宅『は‥賛否両論であった。・・私がクライアントである岐阜県知事に(県営北方住宅について)提案したのは・・梶原拓知事は、私の提案を即時に了承した。1994年であった。』(建築ジャーナル99年12月号)これが示すように、建替事業は、知事と受託者との個人的な趣味の実現であり、県費を使うことは許されない。

 キ 受託者の代表者はあるインタビューにおいて「人間が入らなきゃいいんです。人間が入ってさえいなければ建築の型は変えることができる」などと発言している。また、他県における県立施設では、消防本部と保健所の立ち入り検査で使用中止となった。このような建築家に調査業務を随意契約により委託したことは誤っている。

 ク 調査業務の委託要領の中に北ブロックの一部を建替でなく、ストック活用としてリフォームすることになっているが、報告書においては、ストック活用放棄が記載されているのみで、その積算根拠も示されていない。

 (2)措置要求
 本件は違法で無効かつ委託の目的を逸脱した契約に対する根拠を欠く県費を支出することは許されないから、知事と住宅課長に500万円を返還する措置を勧告をすることを求める。

4 監査の実施
 請求があった事務を分掌する基盤整備部住宅課(以下、「住宅課」という。)を対象として、関係者顆の調査及び関係者からの事情聴取による監査を行った。

5 監査の結果
 本件請求についての監査の結果は、次のとおりである。
 調査業務の委託に係る500万円の支出行為は違法又は不当な公金の支出とは認められない。
 したがって、本請求にかかる請求人の主張は、理由はないものとして棄却する。 以下、その理由について述べる。

 (1)現行の公営住宅法は、平成8年の改正において、それまで住宅難の解消を第一の目的としてきたものを、高齢者や障害者などの住宅需要に対する対応、地域の良好なコミュニティーの形成、借り手の多様なニーズに対応するための地方公共団体の政策手段の拡大といったような抜本的な見直しが行われた。
 また、公営住宅等整備基準(平成10年4月21日建設省令第8号)においても、公営住宅はその周辺の地域を含めた健全な地域社会の形成に資するように考慮して整備することとなっているほか、安全、衛生、環境等を考慮し、かつ入居者等にとって便利で快適なものとなるように整備することになっている。
 建替事業は、平成2年度に学識経験者や地元代表者等による「県営北方住宅夢づくり委員会」で、町の将来計画と連携した整備方針か検討されたのを始め、平成4年度には外部委託により実施した「北方住宅再生計画」作成業務の結果報告書により、その基本となるコンセプトが提示されている。
 それによれば、県民の住宅に対するニーズが多様化している中、施設のバリアフリー化を図り、高齢者が積極的に社会参加ができ、また若年層にとっても魅力あるまちにすることで、あらゆる世代階層が交流(ソーシャルミックス)できる住宅の供給を目標として整備をしていく必要があること、また、生活様式や成長段階による将来の要求にも対応できる可変性の高い住宅を供給するとともに、特に県営北方住宅は北方町の中心部に位置し、同町の人口の約2割に相当する大規模団地であることから、単なる共同住宅の建設というより、北方町の中心として周辺の環境をリードするような質の高い住宅地づくりを行うなど同町のまちづくり構想と一体的なものとして整備する必要性などを示している。
 調査業務は、このコンセプトのもとでその後の周辺環境の変化やストック活用重視の考え方から、北ブロックの再生・活用調査をするものであり、それは公営住宅法の目的・趣旨に沿ったものであると考えられる。

 (2)平成5年に南ブロックの基本設計を行うにあたっては、このような基本コンセプトの実現に向けて、また21世紀に向けた居住様式の提案を得るため、複数の設計者の中から、設計者の住宅設計に対する考え方と同コンセプト等を総合的に検討し設計者を選定したものである。

 (3)調査業務は、建替事業が全体として一つのまちづくりであるというコンセプトのもと、南ブロック建設に引き続いて、北ブロックの基本計画を作成するものである。したがって、このコンセプトのさらなる実現を図っていくため、南ブロックの設計を行った者を相手として、調査業務の委託契約を締結することには合理的な理由があると考えられる。

 (4)また、請求人は、住民アンケートでの希望が報告書には全く反映されておらず、契約違反であると主張するが、そもそも調査業務は、北ブロックの基本設計を行うための諸条件を抽出するものであり、その結果としても、アンケートの調査内容を取り入れた調査報告書が作成されており、委託の目的は果たされている。
 なお、居住者から出されたアンケートによる希望等については、これを北ブロックの基本設計に反映することとしており、また、基本設計を進めていく段階においても入居予定者に対して、その設計内容を説明することとなっている。

 (5)調査業務は、当初、その委託要領の中で、一部についてストックの有効活用も定めていたものであるが、別途実施した、現北方住宅における耐震診断の結果を受け、住宅課において建替の場合とリフォームを行った場合について、県費負担の早期解消等費用対効果の比較検討を行い、今後全てを建替により整備することとし、その方針を本件調査業務の受託者に対し、変更指示している。
 このことから、調査業務においては、ストック活用放棄の積算根拠が示されていないものである。また、この変更指示に伴い、全体を建替えていく計画となったが、その作業量(直接人件費)は、変更前と同等と認められるものであった。