′             監委第138号                           平成14年1月7日寺町知正 様
                
  岐阜県監査委員 丹 羽 正 治  印
  岐阜県監査委員 伊佐地 金 嗣  印
  岐阜県監査委員 加 藤 一 夫  印
  岐阜県監査委員 河 合 洌    印
 
     住民監査請求に基づく監査結果について(通知)

 平成13年11月9日付けで提出のあった住民監査請求について、地方自治法(昭和22年法律第67号)第242条第3項の規定に基づき、別紙のとおり監査結果を通知します。

(別紙)
1 請求の受理
 別記請求人から提出された請求は、所要の法定要件を具備しているものと認め、平成13年11月9日付けで受理した。

2 請求人の証拠の提出及び陳述
 請求人に対して地方自治法第242条第5項の規定に基づき、平成13年12月3日に証拠の提出及び陳述の機会を与えた。

3 請求の内容
 請求に記載されている事項及び事実証明書並びに陳述の内容から監査請求の要旨を次のように解した。なお、以下において「北ブロック」とは、従前北方住宅捷替事業における中北ブロック」と呼ばれていた範囲を指すものとする。

 (1)主張事実
 ア 県は、平成8年から12年にかけて、県営北方住宅南ブロック(430戸)を建設し、続いて、北ブロックの建替(620戸)に着手した。

 イ 県は、「新しい居住様式のあり方について、『ハイタウン北方』の成果や最新住宅事情を交えて討議する」ことを企画し、平成13年3月22日に「ハイタウン北方国際シンポジウム」を開催した。当該企画は民間業者に委託されたが、業務仕様書、委託事業費積算内訳、見積書にも「居住者アンケート」に関する記載はなく、見積書における雑費は5万円であった。

 ウ 県は、平成13年1月、北ブロックの建替計画及びシンポジウム活用のため、南ブロックの住民を対象に居住者アンケートを実施した。アンケートはごく簡単な調査項目であり、4頁ずつで、棟ごとに質問が少しずつ異なっている。

 エ 上記委託業務内容に一部変更があり、変更契約がなされた。その際の見積書及びその後の請求書において「雑費 アンケート作成・集計アルバイト費他10万円」とされていることから、アンケート経費は5万円である。そもそも当該事業者にアンケートを立案・集計する能力はない。

 オ 平成13年6月、請求人らが集計結果を公文書公開請求したところ、集計結果はたった4枚であり、それはメモ程度のものである。専門家に見てもらったが、これは集計したものとはいえない。つまり、当該委託業務としてアンケート及びその集計は行われていないというしかない。

 カ 上記集計結果は、結局、シンポジウム当日開会前に司会者にメモとして渡されただけということから、アンケートの回答が極めて不評だったから放置したと考えるのが合理的である。

 キ 今年度北ブロックの基本設計業務委託契約が8月28日に随意契約により締結され、その仕様書の中で、居住者アンケート集計分析が明示されている。この事情につき、県は、「アンケート結果を反映するように指摘されたので委託に入れた。」といっており、シンポジウム委託業務の中でアンケートが集計されなかったのは明らかである。

 (2)措置要求
 以上、「シンポジウム委託業務の中では居住者アンケートの作成・集計がなされておらず、事実行為のないことに対して県費を支出することは許されないから、住宅課長もしくは不当利得者に5万円を返還」する措置を勧告することを求める。
4 監査の実施
 請求があった事務を分掌する基盤整備部住宅課を対象として、関係書類の調査及び関係職員からの事情聴取等による監査を行った。

5 監査の結果
 本件請求についての監査の結果は、次のとおりである。
 県営北方住宅南ブロックの住民を対象とした「居住者アンケート」については、県が平成12年11月1日に締結(平成13年2月21日変更)した「ハイタウン北方国際シンポジウム開催事業」の委託業務契約に基づき、同業務の中で作成・集計されたものと認められる。なお、同アンケートの集計は、同シンポジウムでの活用を目的として行われたものである。
 したがって、本請求に係る請求人の主張は、理由がないものとして棄却する。
 以下、その理由について述べる。

 (1)県は「ハイタウン北方」の成果を踏まえ、21世紀の集合住宅のあり方を考え、提案する「ハイタウン北方国際シンポジウム(以下「シンポジウム」という。)」を開催することとし、これを委託により実施するため、平成12年11月1日、委託業務契約を締結した。なお、南ブロック居住者を対象としたアンケート調査(以下「アンケート調査」という。)業務は、この委託業務契約書(以下「契約書」という。)や同委託に係る仕様書(以下「仕様書」という。)及び見積書に含まれていないと認められる。これは当初、このシンポジウムの中で、アンケート調査の活用を考えていなかったことによるものである。
 しかしながら、受託者がシンポジウムの企画・構成を検討していく中で、南
ブロック入居者の声を聴くことが必要となり、また、県としても、北ブロックの県営住宅建替計画を進めるためには南ブロック入居者の意見を聴取する必要があると考えていたことから、同委託業務の中でアンケート調査を実施することとしたものである。
 そこで、このアンケート調査業務と契約書、仕様書に定められた委託業務との関係についてであるが、

 ア 仕様書の第5項において、「詳細については、業務の過程でそのつど協議しながら進めることとする。」とされていること。

 イ 契約書第1条第2項において、「前記の仕様書に明記されていない事項については、甲乙協議をして定める。」とされていることから、この契約書、仕様書によりアンケート調査を実施することは可能であると考えられる。また、これに係る経費の支出についても、契約書第1条第1項で委託料の金額について、「実支出額が委託料の額に満たないときは当該実支出額をもって委託料の額とする。」とされていること及びこの実施に多密の経費を要することとはならなかったことから、その他の業務の変更・見直しに伴う精算手続きの中でアンケート調査に係る経費を執行することも可能であったと嘗められる。
 また、シンポジウムの企画・構成・演出及び舞台制作等は、その業務の性格上、当該業務を進めていく中で、一般的にはその内容の変更が見込まれるものであり、仕様書にもこれを可能とする第5項が入っているものである。
 以上により、当初契約の中でアンケート調杢を実施することは許されるものである。なお、その後変更契約のために徴収した見積書において「アンケート作成・集計」に係る経費が明記されたのは請求人の主張事実のとおりである。

 (2)アンケート調査は次のように実施されたと認められる。
 ア アンケート調査票の立案にあたっては、南ブロックに閑する資料を参照しながら、県との打合せを経て受託者が案を作成し、平成12年12月21日ファクシミリにて同案を県へ送付した。その後受託者と県とは協議を重ね、平成13年1月に最終的なアンケート調査内容を決定した。

 イ 決定した調査内容により受託者が調査票を印刷、平成13年1月16日各棟の集合郵便受けに配付(締め切り1月31日)した。

ウ 記入済の調査書は居住者から県あて郵送され、県が受託者へ送付(2月2日午前までの到着分は同日、それ以降到着分はまとまり次第送付)した。
送付された調査書を受託者は集計し、シンポジウム開催1週間前の打合せ時に県へその集計結果を提出した。
 以上のように、アンケート調査業務は受託者が中心となり、県がそれをサポートする形で実施されたものである。

 (3)アンケート調査の集計及びその活用については次のとおりである。
 アンケート調査の集計結果は、シンポジウム構成上の必要からアンケート項目のうち主に「住戸の個別部分に係る項目」、「各棟に係る項目」、「その他自由回答の項目」について定性的な集計(結果を数値で表現することなく、その性質についてまとめたもの)を行い、各様ごとにまとめたものである。これは南ブロック居住者の声を紹介するために、居住者の率直な意見を把握する目的で行われたもので、シンポジウム当日パネルディスカッションの中で、入居者インタビューの状況と併せて活用されていたものである。

 (4)また、平成13年8月28日に締結された中北ブロック(仮称)基本設計委託業契約における「居住者アンケート集計分析」業務は、南ブロック居住者の声を北ブロックの基本設計に活かすために、上記(2)で実務したアンケート調査書の内容を当該基本設計受託者に定量的な集計(結果を数値で表現したもの)の上、分析させることとしたものである。
 請求者は、この委託業務の中で「アンケート集計分析」を実施することを、シンポジウム委託業務の中で「アンケート集計」が行われていない理由として主張しているが、上記のとおり、2つのアンケート集計は各々その利用目的が異なるものである。