平成14年1月17日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成12年(行ウ)第4号 実行委員会文書非公開処分取消請求事件
口頭弁論終結日 平成13年9月6日

  判 決
岐阜県山県郡高富町西深瀬208番地の1
    原 告 選 定 当 事 者  寺  町  知  正
            (選定者は別紙選定者目録のとおり)
岐阜市薮田南2丁目1番地の1
    被告 岐阜県知事 梶原拓
    同訴訟代理人弁護士      渡  邊  一 

  主 文

1原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。

  事実及び理由
第1 請求
 1 被告の原告らに対する平成9年10月31日付け非企開処分(工振第538号の2)を取り消す。

 2 被告の原告らに対する平成9年11月7日付け非公開処分(地振第494号)を取り消す。

 3 被告の原告らに対する平成9年11月7日付け非企開処分(地自第216号)を取り消す。

 4 被告の原告らに対する平成9年11月7日付け非公開処分(国文第59号)を取り消す。

 5 被告の原告らに対する平成9年11月7日付け非公開処分(総文第168号の2)を取り消す。

 6 被告の原告らに対する平成9年11月7日付け非公開処分(総文第168号)を取り消す。

 7 訴訟費用は被告の負担とする。

2 事案の概要
 本件は,岐阜県民である原告らが,岐阜県情報公開条例(本件条例)の実施機関である被告に対し,岐阜県が関与する宇宙技術及び科学の国際シンポジウム岐阜県事業実行委員会等6つの実行委員会及び協議会が作成又は取得した文書の公開をそれぞれ請求したところ,被告が,これら委員会等は岐阜県とは別個の独立した団体であって,岐阜県は当該文書を作成し,また取得していないとしてこれら文書を公開しない旨の処分をしたので,原告らが被告に対し,これらの各非公開処分の取消しを求めた事案である。

 1 争いのない事実
 (1)当事者
ア 原告らは,いずれも肩書住居地に居住する岐阜県民である.

イ 被告は,本件条例2条1項の実施機関である。

 (2)本件条例の規定
 本件条例には,以下の規定が置かれている。
 2条1項「この条例において「実施機関」とは,知事,教育委員会,選挙管理委員会,人事委員会,監査委員,地方労働委員会,収用委員会及び内水面漁場管理委員会をいう。」2条2項「この条例において「公文書」とは,実施機関の職員が職務上作成し,又は取得した文書,図面及び写真であって,実施機関が管理しているものをいう。」

 (3)非公開処分の存在@
ア 原告らは,平成9年10月20日付けで,「宇宙技術及び科学の国際シンポジウム岐阜県事業実行委員会」(委員会@)に関する公文書についての公開請求を行った。

イ この請求に対し,被告は,平成9年10月31日付けで,工業振興課の主管した1996(平成8)年度における委員会@について支出した負担金等の支出に関して,収支予算書及び決算書の明細を表す文書(積算根拠などや請求書,領収書なども含む),実行委員会の名簿(以下,これらの文書を合わせて「本件文書@」という。)は存在しないとの理由で非公開処分(工振第538号の2,本件処分@)を行った。

 (4)非公開処分の存在A
ア 原告らは,平成9年10月27日付けで,「飛騨・美濃地域おこしフェア実行委員会」(委員会A)に関する公文書についての公開請求を行った。

イ この請求に対し,被告は,同年11月7日付けで,地域振興課の主管した1996(平成8)年度における委員会Aについて支出した負担金等の支出に関して,収支予算書及び決算書の明細を表す文書(積算根拠などや請求書,領収書なども含む)(以下,これらの文書を合わせて「本件文書A」という。)は存在しないとの理由で非公開処分(地振第494号,本件処分A)を行った。

 (5)非公開処分の存在 
ア 原告らは,平成9年10月27日付けで,「全国地域づくり先進事例会議inぎふ実行委員会」(委員会B)に関する公文書についての企閑請求を行った。

イ この請求に対し,被告は,同年11月7日付けで,自治大学枚の主管した1996(平成8)年度における,委員会 について支出した角担金等の支出に関して・収支予算書及び決算書の明細を表す文書(積算根拠などや請求書,領収書なども含む),実行委員会の組織票(名簿)(以下,これらの文書を合わせて「本件文書B」という。)は存在しないとの理由で非公開処分(地自第216号,本件処分B)を行った。

 (6)非公開処分の存在 
ア 原告らは,平成9年10月27日付けで,「第14回国民文化集岐阜県実行委員会」(委員会C)に関する公文書についての公開請求を行った。

イ この請求に対し,被告は,同年11月7日付けで,総合文化振興課の主管した1996(平成8)年度における,委員会Cについて支出した負担金等の支出に関して,収支予算書及び決算書の明細を表す文書(積算根拠などや請求書・領収書なども含む)(以下,これらの文書を合わせて「本件文書C」という。)は存在しないとの理由で非公開処分(国文第59号,本件処分C)を行った。

 (7)非公開処分の存在 
ア 原告らは,平成9年10月27日付けで,「文化庁芸術祭岐阜講演実行委員会」(委員会D)に関する公文書についての公開請求を行った。

イ この請求に対し,被告は,同年11月7日付けで,総合文化振興課の主管した1996(平成8)年度における委員会Dについて支出した負担金等の支出に関して,収支予算書及び決算書の明細を表す文書(以下,これらの文書を合わせて「本件文書D」という。)は存在しないとの理由で非公開処分(総文第168号の2,本件処分Dを行った。

 (8)非公開処分の存在
ア 原告らは,平成9年10月27日付けで,「岐阜県民文化祭運営協議会」(協議会E)に関する公文書についての公開請求を行った。

イ この請求に対し,被告は,同年11月7日付けで,総合文化振興課の主管した1996(平成8)年度における協議会Eについて支出した負担金等の支出に関して,収支予算書及び決算書の明細を表す文書く以下,これらの文書を合わせて「本件文書E」という。)は存在しないとの理由で非公開処分(総文第168号,本件処分E)を行った。

ウ これに対する異義申立・諮問・答申・決定の月日及び内容は,前記(2)ウ及びエと同じである。

 (9)本件処分@ないしEに関する異議申立とこれに対する棄却決定
ア 原告らは,平成9年11月17日付けで被告に対して本件処分@ないしについて異議申立を行い,被告は,本件条例に従い,同年12月8日,岐阜県公文書公開審査会に諮問し,同審査会は,審議の結果,平成11年10月18日付けで被告に「公文書非公開決定は妥当である」との答申を行った。

イ 被告,平成12年2月23日付けで,上記異議申立を棄却するとの決定をした。

2 争点
 本件文書@ないしE(以下,これらを合わせて「本件各文書」という。)が,本件条例により情報公開の対象となる「公文書」,すなわち,「実施機関の職
員が職務上作成,取得した文書」であって,「実施機関が管理しているもの」にあたるか否か。

(原告の主張)
 (1)本件各文書は,いずれも実施機関の職員が職務上作成,取得した文書であって,実施機関が管理しているものにあたる。

 (2)被告は,地方自治法172条,153条1項に基づいて,委員会@ないしD及び協議会E(以下,これらを合わせて「本件各委員会」という。)の事務局担当課の職員をして当該担当課の職務の一環として当家各委員会についての諸事業や付随する事務を行うことを委任し,同時に,地方自治法154条によれば,本件各委員会の事務局担当課の職員が行う文書の作成は,いずれも被告の職員が職務上行う事務に他ならないから,本件各文書はいずれも被告の職員が職務上の権限により作成する文書であり,これに伴って取得する文書も被告の職員が職務上の権限により取得する文書である。

 (3)また,本件各委員会は事務局が県庁内の所管課等(委員会@は工業振興課,同Aは地域振興課,同Bは地方自治大学校,同C,D,協議会Eはいずれも総合文化振興課)に置かれていることから,本件各文書は同委員会存続中は事務局所管課に存在し,本件各委員会のうち解散したものについての文書は各所管課が保管しているものであるから,本件各文書は実施機関が管理しているものというべきである。
 被告は,本件各文書は,県の執務室等に事実上置かれているものにすぎず,公文書規捏等による保管もしていないことから,公的に支配しているとはいえず,上記公文書には該当しないと主張するが,公開の対象となる公文書を実施機関において管理しているものに限定しているのは,実施機関が当該公文書を支配下においている場合でなければ,当該公文書を開示することができないからであることからすれば,「実施機関が管理しているもの」とは「現実に実施機関において管理しているもの」をいうと解すべきであり,この場合の「管理」は管理権限の所在とは必ずしも一致するわけではない。また,被告が発した平成9年5月20日付け「実行委員会方式事業の経理事務に関する留意点について」によれば,実行委員会の文書は事務局所管課において岐阜県公文書規程の規定に準じて処理することとされ,解散した実行委員会には事務局が存在することはあり得ないから,解散後は,事務局であった所管課において岐阜県公文書規程の規定で処理すべきものと自転的に読み替えられるものであるから,本来,本件各文書はいずれも公文書管理規程に従って管理されるべきものである。

 (4)さらに,委員会@は知事が名誉会長,同AないしD及び協議会Eは知事や副知事,部長が代表を担い,県がいずれも負担金の全てまたは相当部分を角担しており,県が自ら事務局を担っていること,本件各委員会の余剰金は,委員会Bを除いて全額県に返還され,返還の剰余金確定と県への戻入金調書の期日がいずれも同日であるという経費の動きは,通常の県の「課」における事業費の動きと何ら変わるところはないこと,本件各委員会は,県の施設を利用する際に目的外使用許可申請をしていないこと,被告の職員が,職務専念義務免除もなく,給与の減額措置を行わないままに本件各委員会の業務,事務に従事していること,これらの諸事情によれば,本件各委員会は,岐阜県とは別個の団体とは認められず,いずれも岐阜県の一部というべきであり,この点からも,本件各委員会の職員が作成,取得し,委員会が管理している文書は,被告の職員が職務上作成,取得し,被告が管理しているものであるといえる。

 (5)仮に,本件各文書が,実行委員会の存続中,実行委員会として作成・取得・管理した文書であって,県の職員が作成・取得したとはいえないとしても,少なくとも当該委員会が解散した時点からは,被告が剰余金同様に文書を受け取り,しかるべく保管しているものである。そうすると,本件文書@(委員会@は平成9年3月28日解散),本件文書B(委員会Bは平成8年12月26日解散),本件文書D(委員会Dは平成9年5月21日解散)については,本件処分@BD以前より被告が保管しているのだから,非公開処分としたことは違法である。また,本件処分の取消しを求める訴えは,平成12年2月23日付けの異議申立棄却決定の取り消しをも包含する趣旨であるところ,被告は,異議申立棄却決定時において本件文書を保管していた(委員会Aは平成10年2月20日解散)のであるから,本件文書Aの非公開処分を改め公開すべきであったのに,再度非公開処分としたことは違法である。

(被告の主張)
 (1)そもそも,本件条例は岐阜県の公文書に適用されるものであり,実施機関の職員が職務上作成,取得していないもの,あるいは実施機関が管理していないものは,本件条例の適用外であるところ,本件各文書は,県とは別個独立した実行委員会の職務として作成,取得し,当家委員会が管理しているものである。
 
(2)実行委員会は,県と県以外の団体により設立され,当該団体の職員が構成員たる委員となっており,代表者も定まっていること,実行委員会は,委員が出席した会議で多数決により合意,決定された要項により運営されていること,実施計画の策定,収支予算及び決算その他財産関係等重要事項については,実行委員会の議決事項となっており,事実,収支予算及び実施計画は,実行委員会において議決決定され,それに従って執行されていること,実行委員会の予算の執行は,県の会計とは独立して行われており,物品調達等の契約行為,支払は全て実行委員会名で行われていることなどからすれば,実行委員会は,県とは別個独立した権利能力なき社団であり,県は実行委員会の一構成員にすぎず,本件各文書は,県とは別個独立した実行委員会の職務として作成,取得し,実行委員会が管理しているものである。

 (3)また,本件各文書は,県の執務室等に事実上置かれているものにすぎず,公文書規程等による保管もしていないことから,公的に支配しているとはいえず,公文書には該当しない。
 実行委員会解散後における文書の扱いについては,破産の場合の商業帳簿の取扱いに準じて,清算人たる実行委員会の会長または実行委員長がその職務において保管すべきものである。そうすれば,清算人たる会長または実行委員長はあくまで権利能力なき社団である本件各委員会の機関であり,県とは独立しており,県が保管管理している文書とはいい難い。

 (4)行政不服申立については,異議申立が,行政準分に対する事後審査制度の一環として位置づけられていることから,決定の違法判断の基準時は原処分時とすべきである。
 従って,本件処分@ないしEの違法判断は,平成9年10月31日及び同年11月7日の処分時を基準とすべきであり,処分後の事情の変更は考慮する必要はない。

第3 争点に対する判断
1 証拠(各事実の認定に供した証拠は,各事実ごとにかっこ内に示す。)及び弁論の全趣旨によれば,本件各委員会について以下の事実が認められる。

 (1)本件委員会@(乙2,3)
岐阜県は,「第20回宇宙技術及び科学の国際シンポジウム岐阜県事業」を円滑に開催するために,県内の企業の協賛のもとに,通産省,科学技術庁(いずれも当時),宇宙開発事業団などで構成される(甲6)本件委員会@を組織した(本件委員会@要綱(甲8の1)1条,2条)。
 本件委員会@には,役員として名誉委員長(岐阜県知事が就任),顧問,実行委員長,副実行委員長,監事が置かれ(3条),名誉委員長,顧問は,委員会の円滑な運営を図るため,国際的な視野に立った指導,助言を行い,実行委員長は,実行委員会を代表し会務を総理し,副実行委員長は,実行委員長を補佐し委員長に事故があるときにその職務を代行し,監事は,実行委員会の会計状況を監査し,その結果を実行委員会に報告するものとされている(4条)。
 委員会は,合計29人(乙3中の「岐阜県事業開催概要」と題する書面)の役員及び委員で,構成され(6条),委員長が必要と認めたときに招集され(7条),事業計画及び収支予算,事業報告及び収支決算,要綱の改正その他,事業の目的達成のために必要な事項を議決するものとされている(8条)。
 委員会は,委員会構成員の過半数の出席により成立し,議事は,出席者の過半数で決し,可否同数の場合は委員長が決定することとされている(9条)。
 委員会の事務局は,岐阜県商工労働部企業立地技術課(後に工業振興課と改名)内に置くものとされている(12条)。
 委員会に必要な経費は,負担金をもって充てることとされ(13条),収入の多くが岐阜県の負担金によって占められている(収入総額4871万2651円中4181万1000円,約85.8%,乙2中の「平成8年度ISTS岐阜県事業実行委員会収支決算書」)ものの,委員会の予算の執行は,岐阜県の会計とは独立して行われ,負担金が振り込まれる預金口座を持ち,平成8年4月1日に実行委員長名で岐阜県知事に対して負担金が請求され(甲8の2),委員会の解散に伴って生じた剰余金(223万8833円)は委員会の態決に基づき,平成9年3月28日ころ,全額が岐阜県へ返還されている(甲8の3)。
 同委員会は,目的を達して,平成9年3月28日ころ解散した(14条,弁論の全趣旨)。

 (2)本件委員会A(乙4,5)
 岐阜県は,「飛騨・美濃地域おこしフェア」の開催に当たって,その円滑な運営を図ることを目的に,平成8年9月27日,岐阜県と同フェアの関係蒲団体で本件委員会Aを組織した(本件委員会A規約(甲17の1)1条,2条)。
 委員会は委員をもって組織し,会長1名(岐阜県企画部長の職にある者が就任),副会長3名及び監事2名が置かれ(4条),会長は委員会を代表し,会務を統括し,副会長は,会長を補佐し,会長に事故あるとき,又は欠けたときは,その職務を代行し,委員は,委員会の運営等を審議し,監事は会計を監査するものとされている(5条)。
 委員会の会議は,会長が必要に応じ招集し,会長が議長となり,原則として委員の過半数の出席により成立し,議事は,出席者の過半数で決し,可否同数の場合は議長が決することとされている(6条)。
 委員会の事務局は,岐阜県企画部地域振興課内に置くものとされている(8条)。委員会の経費は,負担金その他の収入をもって充てることとされ(7条),収入の多くが岐阜県の負担金によって占められている(収入総額1601万2717円中1470万円,約91・8%,乙4中の「飛騨・美濃地域おこしフェア実行委員会収支決算書」)ものの,委員会の予算の執行は,岐阜県の会計とは独立して行われ,委員会会長名義の預金口座を持ち,平成8年9月30日に実行委員会会長名で岐阜県知事に対して負担金が語求されている(甲17の2)。
 同委員会は,目的を達して,平成10年2月20日ころ解散した(9条,弁論の全趣旨)。

 (3)本件委員会B(乙6,7)
 岐阜県は,平成8年度に岐阜県において開催される「全国地域づくり先進事例会議inぎふ」の企画及び実施に関する業務を行うことを目的に,岐阜県と岐阜県以外の関係諸団体の職員で本件委員会Bを組織した(本件委員会B規約(甲18の1)1条,2条)。
 委員会は委員をもって組織し,会長1名(岐阜県知事の職にある者が就任),副会長1名及び監事2名が置かれ(4条),会長は委員会を代表し,会準を総括し,副会長は,会長を補佐し,会長に事故あるときは,その職務を代行し,監事は委員会の事業及び会計を監査するものとされている(5条)。
 委員会は,会長が必要に応じ招集し(6条),規約の制定及び改廃,実施計画の策定,収支予算及び決算その他重要な事項を議決するものとされている(7条)(議事は多数決によって決められるものと堆認される。)。
 委員会の事務局は,岐阜県地方自治大学校に置くものとされている(9条)。 委員会の経費は,負担金,補助金その他の収入をもって充てることとされ(10条),収入の多くが岐阜県の負担金によって占められている(収入総額1961万5108円中1713万円,約87.3%,乙7中の「『全国地域づくり先進事例会議in岐阜』収支決算書」)ものの,委員会の予算の執行は,岐阜県の会計とは独立して行われ,委員会会長名義の預金口座を持ち,平成8年4月15日に実行委員会会長名で岐阜県地方自治大学校長に対して負担金が請求されている(甲18の2)。
 同委員会は,目的を達して,平成8年12月26日ころ解散した(11条,弁論の全趣旨)。

 (4)本件委員会C(乙8,9)
 岐阜県は,第14回国民文化祭の開催を通じて,広く国民の文化活勤への参加意欲を喚起し,新しい文化の創造を促し,地方文化の交流,発展に寄与することを目的に,平成8年8月19日,本件委員会Cを組織した(本件委員会C会則(甲19の1)11条,3条)。
 委員会は,役員及び委員をもって組織され,会長1名,副会長10名以内(実際には8名),監事2名の役員が置かれるものとされている(5条)。会長は,岐阜県知事をもって充て,実行委員会を代表し,会務を総理するものとされ(6条,7条),副会長,監事,委員は,関係機関及び団体の役職員,学識経験を有する者,会長が必要と認める者のうちから会長が委嘱し(6条),副会長は,会長を補佐し,会長に事故あるときは,会長があらかじめ指定した者がその職務を代理し,監事は,事業の執行状況及び会計について監査し,必要があるときは,会長に意見を述べることができるものとされている(7条)。これとは別に,委員会には会長が委嘱した顧問(14名,いずれも名誉県民ないし国会議員)及び参与(71名,いずれも県議会議員ないし報道機関関係者)が置かれている(8条)。
 委員会の会議は,岐阜県,社会福祉,学校関係者などの役員(11名)及び委員(53名)をもって構成し(10条),国民文化集の準備,運営及び実施の基本計画,会則,事業計画及び事業報告,予算及び決算その他重要な事項について審議し決定するものとされ(11条),会長が招集する(12条)。議長は,会長または会長が指名する者がこれにあたり(13条),議事は,出席者の過半数の同意をもって決し,可否同数のときは,議長の決するところによることとされる(14条)。ただし,会長は,会議を招集するいとまがないと認めるときは,その議決すべき事項について,専決処分することができる(15条)。
 委員会の事務所は,岐阜県企画部総合文化振興課内に置くものとされている(2条)。
 委員会の経費は,角担金その他の収入をもって充てることとされ(18条),収入のほとんど全てが岐阜県の負担金によって占められている(平成8年度において,収入総額1700万6127円中1700万円,ほぼ100%,乙8中の「平成8年度収支決算書」)ものの,委員会の予算の執行は,岐阜県の会計とは独立して行われ,委員会会長名義の預金口座を持ち,平成8年度については,平成8年8月22日に実行委員会会長名義で岐阜県知事に対して1700万円の負担金が請求され(甲19の2),同年度の剰余金(4万9933円)は委員会の会議の承認を受けた上で,平成9年5月21日ころ,全額が負担金拠出者である岐阜県へ返還されている(乙8中の「平成8年度決算剰余金の処分について」と題する書面)。
 同委員会は,目的を達して,平成12年3月27日ころ解散した(20条,弁論の全趣旨)。

 (5)本件委員会D(乙10,11)
 岐阜県は,文化庁芸術祭岐阜講演を実施するため,本件委員会Dを組織した(本件委員会 規約(甲20の1)1条)。
 委員会は,岐阜県,県内の市町村長,社会福祉関係者などの役員(11名)及び委員(36名)をもって組織され,会長1名,会長代理1名,副会長7名,監事2名の役員が置かれるものとされている(3条)。会長は,岐阜県知事をもって充て,委員会を代表し,会務を総理し,会長代理は,岐阜県副知事をもって充て,会長の職務を代理し,副会長,監事及び委員は,会長が委嘱し・副会長は,会長及び会長代理を補佐し,会長及び会長代理に事故あるときは,その職務を代理し,監事は,会計を監査するものとされている(4条)。
委員会の会議は,会長,会長代理,副会長及び委員をもって構成し,会長が招集し,会長又は会長があらかじめ指名した者が議長となり,議事は,出席者の過半数をもって決することとされる(6条)。
 委員会の事務局は,岐阜県企画部総合文化振興課内に置くものとされている(9条)。
 委員会の経費は,負担金,協賛金その他の収入をもって充てることとされ(8条),収入の半分以上が岐阜県の負担金によって占められている(収入総額1億2003万4941円中7365万円,約61.4%,乙10中の「文化庁芸術祭岐阜公演収支決算(案)」)ものの,委員会の予算の執行は,岐阜県の会計とは独立して行われ,委員会会長名義の預金口座を持ち,平成8年7月22日に実行委員会会長名で岐阜県知事に対して7365万円の負担金が請求され(甲20の2),剰余金(1717万2040円)は委員会の会議の承認を受けた上で,平成9年5月21日ころ,全額が負担金拠出者である岐阜県へ返還されている(甲20の3)。
 同委員会は,目的を達して,平成9年5月21日ころ解散した(10条,弁論の全趣旨)。

 (6)本件協譲会E(乙12,13)
 岐阜県は,岐阜県民文化祭の開催のため必要な企画を行い,これを総合的,かつ効果的に運営するため,本件協議会Eを組織した(本件協議会E設置要綱(甲21の1)1条)。
 協議会は,県,県教育委員会,市町札報道機関,県域芸術文化団体,関係団体の役職員及び学識経験者のうちから,会長が委嘱する役員(41名)及び企画委員(48名)をもって組織され(3条),会長1各,会長代理1名,副会長10名以内(実際には7名),理事40名以内(実際には37名,副会長を含む。),地区理事,監事3名以内(実際には2名)の役員が置かれるものとされている(4条)。会長は,岐阜県知事をもって充て,協議会を代表し,会務を総理し,会長代理は,岐阜県副知事をもって充て,会長の職務を代行し,副会長は会長が委嘱する者とし,会長を補佐し,会長及び会長代理に事故あるときは,会長があらかじめ指定した者が,その職務を代理し,監事は会計その他の事務を監査するものとされている(4条)。これとは別に,協議会には会長が委嘱した名誉顧問(3名,いずれも名誉県民)及び参与(10名,いずれも報道機関関係者)が置かれている(5条)。
 協議会には役員会,企画委員会が設置され,役員会は,会長,副会長及び理事をもって構成され,岐阜県民文化奈の基本方針及び必要な企画その他必要な事項に関する業務を決定し(6条),企画委員会は,企画委員及び開催地の市町村教育委員会教育長をもって充てる地区委員により組織され,岐阜県民文化集の基本方針及び必要な企画について企画立案するものとされている(7条)。
 協議会の事務局は,岐阜県企画部総合文化振興課に置くものとされている(10条)。
 協議会の経費は,岐阜県の負担金,協賛金,広告料収入などの収入で充てられ,収入のほとんど全てが岐阜県の負担金によって占められている(平成8年度において,収入総額2602万5610円中2699万4000円,約99.9%,乙12中の「平成8年度収支決算書」)ものの,委員会の予算の執行は,岐阜県の会計とは独立して行われ,協哉会会長名義の預金口座を持ち,平成8年度については,平成8年5月15日に協議会会長名で岐阜県知事に対して4225万円の負担金が請求され(甲21の2,後に1624万6000円を減額する補正がされている,前記収支決算書),剰余金(203万9850円)は協議会の役員会及び企画委員会の承認を受けた上で,平成9年5月21日ころ,全額が負担金拠出者である岐阜県へ返還されている(甲21の3)。
 同委員会は,現在も存続している(弁論の全趣旨)。

2(1)本件各文書は,実行委員会の職員が職務上作成又は取得したものと認められるところ,本件条例の規定上,実行委員会は実施機関に含まれていないので,本件条例に基づいて本件各文書を公開するためには,各実行委員会が,実施機関である知事の職務上の指揮監督権限に服する職員にあたる実態が存在することが前提として必要である。
 しかしながら,本件各委員会は,前記認定のとおり,いずれも,岐阜県それ以外の団体ないし個人とが共同して組織したものであって,岐阜県関係者以外の者も構成員に入っていること,それぞれの規約に基づいて代表の方法を定め,意思決定機関を置き,多数決による意思決定の方法が定められていること,それぞれの活動目的を達するため岐阜県とは独立した資産を有し,その名をもって会計管理をしていたこと,そして,本件各委員会は,それぞれが以上のとおりの人的及び物的組織として活動してきた実態があること等の諸事情に照らすと,これらは,いずれも岐阜県を中核的な構成員としつつも,それとは独立した任意団体として組織されているものであって,権利能力なき社団の実態を有するものと認められる。

 (2)ア 本件各委員会は,いずれも上述したとおり,会長,名誉委員長など主要 な役職を知事,副知事など岐阜県の役職者が占め,負担金の多くを岐阜県が支出し,事務局を岐阜県庁の各所管課においていることなど,その事業推進の中核を岐阜県が担っていることは明らかであるが,それらの事情をもって直ちに本件各委員会が独立した団体としての法的性質を有しないということはできず,一定の事業目的をどのような組織体を構成して遂行するのが合理的かつ相当であるかは,それぞれの行政目的に照らして判断,決定されることであるから,上記の諸事情は,本件各委員会について上述したとおりに認められる法的独立性を左右すべきものとは解されない。

イ また,原告らは,本件各委員会には,県職員が,職務専念義務免除もなく,給与の減額措置を行わないままで,それらの業務に従事していること,本件各委員会は,事務局を県庁内の所管課等に置き,その施設利用についても目的外使用許可申請をしていないことを指摘して,本件各委員会には岐阜県とは別個の団体としての性格を認めることができないと主張する。
 地方公共団体の職員は,原則としてその勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用いなければらならず,当該地方公共団体がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない(地方公務員法35条)が,岐阜県は,県知事の提案により本件各委員会が主催する行事について予算を計上し,これらについて県議会の承認を受け(甲42,乙14),各委員会を構成する他の団体とともに当該行事の実施に協力することを適法に決定したものと認められ,そのような場合には,本件各委員会に関する事務は岐阜県がなすべき責を有する職務に当たり,県の職員は職務専念義務の免除を受けることなく本件各委員会に関する事務に従事することができるものと解されるから,原告らの上記主張は採用できず,また,事務局が県庁内の所管課等に置かれたことも,そのことの適否は別途考慮されるべき性質のものであって,この主張も岐阜県と本件各委員会が実質的に同一であることを基礎づけるものではない。

 (3)以上に認定,説示したとおり,本件各委員会はいずれも岐阜県とは独立した別個の権利能力なき社団であって,各実行委員会の事務に従事する職員は,本件条例が定める実施機関の職員とは認められないから,本件各委員会が作成し,又は取得した文書は,本件条例が公開の対象としている公文書には当たらない。 また,本件委員会@ないしDは,上記のとおり既に解散したものと認められ,弁論の全趣旨によれば,これらの委員会が作成し,又は取得した文書は,現在,各委員会の事務局を所管していた県庁の所管課などに事実上存在するものと認められるが,実施機関とは別個の団体であった各委員会から,知事など本件条例所定の実施機関が,これらの文書を受け入れてその支配下に置き,公文書管理規定によって管理をしている事実は,本件全証拠によってもこれを認めることができないから,これら既に解散した委員会が作成し,又は取得した文書も,本件条例が公開の対象としている公文書には当たらない。

第4 結論
 よって,本件処分@ないしEはいずれも正当であって,原告らの請求はいずれも理由がないから棄却し,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。

岐阜地方裁判所民事第1部

裁判長裁判官 中 村 直 文

   裁判官 末 流 雄 之

   裁判官 加 藤  靖