岐阜地方裁判所民事部御中
                          2002年2月4日
 訴      状
   原  告  寺 町 知 正
     外10名 (目録の通り) 
  TEL・FAX 0581−22−2281
   被  告 岐阜県知事 梶原 拓
岐阜市薮田南2−1−1

補助金等情報非公開処分取消請求事件
 訴訟物の価格 金950、000円
 貼用印紙額    金8、200円
予納郵券     金9、000円

         請 求 の 趣 旨
1 被告岐阜県知事梶原拓の原告に対する2001年12月14日付非公開処分(住第414号)を取り消す。
2 被告岐阜県知事梶原拓の原告に対する2001年12月14日付非公開処分(住第416号)を取り消す。
3 訴訟費用は、被告の負担とする。
  との判決を求める。

         請 求 の 原 因
第1 当事者
1 原告らは肩書地に居住する住民であり、本件各文書の公開請求を行った。
2 被告岐阜県知事梶原拓(以下、単に被告という)は、岐阜県情報公開条例(平成6年岐阜県条例第22号を全面改正した平成12年岐阜県条例第52号)(以下、「本件条例」という)第2条第1項の実施機関である。

第2 公開請求と非公開処分
1 原告らは、2001年12月3日付けで
 ◎北方住宅中ブロック再生・活用調査業務委託要領の「5 その他」記載の(4)中間報告書
 ◎平成13年度北方住宅建設に関する国庫補助申請書及び同交付決定通知
として、被告に公文書の公開を請求した。

2 (1) 前記公開請求に対して、被告は、01年12月14日付非公開処分を行った(住第414号)(請求に係る別紙−1)。要点は以下のとおりである。 公文書の公開をしない部分は、「生涯学習センターに関する情報」である。
 公文書の公開をしない理由は、「北方町が行う事業に関する情報であって、現在策定中のものであり、これを公開することにより、未成熟な情報が確定的な情報であると県民に誤解を与え、無用の混乱を生じさせるおそれがあるため(岐阜県情報公開条例第6条5号に該当)」とだけされている。
 北方住宅の基本構想策定委託事業の中で、磯崎アトリエと県との00年9月14日付打合せ資料に下記の文書がある。
 県営北方住宅団地内の県有地に新築するある建物を、県と北方町で区分所有する予定である。この建物のうち、県の施工責任に係る「建築情報センター」(2000u)に関する概略のデータ(前記打合せ資料の一部/甲第1号証)は公開されたが、北方町の施工責任に係る「生涯学習センター」に関する概略のデータ(甲第1号証の次のベージ/甲第2号証)が非公開とされたものである。
 なお「生涯学習センター」は他の部分の記録(団地の建物の基本計画図面中)で、合計面積が3000uであることは明らかにされている。

 (2) 前記公開請求に対して、被告は、01年12月14日付け非公開処分を行った(住第416号)(請求に係る別紙−2)。要点は以下のとおりである。 公文書の公開をしない部分は、補助金の申請額、工事費、事業費、料率、数量、単価、金額根拠、補助金額等である。
 公文書の公開をしない理由は、「県独自の算定根拠により積算された設計金額に基づくものであり、これらを公開することにより、当該事業及び今後県で行う同種の事業に著しい支障を及ぼすおそれがあるため(岐阜県情報公開条例第6条6号に該当)」とだけされている。
 非公開文書の経緯は、県から国への補助金申請書の一部(甲第3〜6号証)であり、補助申請と同日で国の補助決定(甲第7号証)されたものである。

第3 本件条例の趣旨、目的
1 知る権利と説明責任・説明義務(第1条)
 本件条例第1条は、この条例の目的を明らかにし、岐阜県における情報公開制度の基本的な考え方を定めたものであり、「この条例は、県政を推進する上において、県民の知る権利を尊重し、県の諸活動を県民に説明する義務を全うすることが重要であることにかんがみ、公文書の公開を請求する権利を明らかにするとともに、情報公開の総合的な推進に関し必要な事項を定めることにより、県民の県政への参加を促進し、県政に対する理解の信頼を深め、もって開かれた県政を実現することを目的とする。」と規定している。これは、従前の条例を改正し、知る権利や説明義務・説明責任をより明確にしたものである。
 地方自治法第149条柱書「普通地方公共団体の長は、概ね左に掲げる事務を担任する」、同8号「証書及び公文書類を保管すること」とされているとおり、公文書の保管についての事務の普通地方公共団体の長の一般的な権限規定があり、岐阜県が保有管理する各種公文書において、そこに記録される様々な情報は県民の生活と深くかかわるものであり、本来的には県民共有の財産と考えられることから、知る権利として県民が自ら公文書の公開を請求する権利を行使し、これに対して県が保有する情報を公開することは、県民が県政の運用を有効に監視することで県政に対する理解と信頼を深め、もって住民自治、住民参加を実現して行くことであり、県民が自分自身の情報を支配し、コントロールするここと同じであって、県民固有の権利といえる。岐阜県の情報公開制度は、この県民固有の権利を具体化し、県民の県政への参加を促し、開かれた県政を実現することを目的とするものである。
 よって、非公開処分が誤っているとして処分の取消を求める手続きは、本件条例第1条の目的を大前提として進められる必要がある。

2  解釈及び運用の基本(第3条)
 第3条で「実施機関は、公文書の公開を請求する権利が十分に尊重されるようこの条例を解釈し、運用する」としているとおり、請求権尊重が重視されている。 岐阜県作成の『情報公開事務の手引き(平成13年3月版)』(以下、『手引き』という。)では「この条例の基本理念である『原則公開』の精神に基づき、公文書公開制度が運用されなければならない」(手引き9頁/解釈・運用の1)と明確にしている。このように本件条例は、実施機関が管理する情報について公開を原則とし、非公開は例外である。

3 第6条「公文書の公開義務」=非公開事由
 第6条は《公文書の公開義務》と明示されて、「公開してはならない」としているのでなく、「公開しないことができる」としている。
 第6条各号への非公開事由該当性(適用除外事由)を、専ら行政機関の側の利便等を基準・根拠に、その主観的判断に基づいて決するとすれば、その範囲が不当に拡大する危険性があり、情報公開制度の実質的意味が失われることにもなりかねないから、各号の非公開事由の条文構造をよく理解し、正確に適合性を判断しなければならない。

4 非公開処分の取消手続は迅速に行なわれるべきである。
 情報公開条例をその制度趣旨(第1条)に従って利用しようとする者にとって、実施機関が保有する情報が公開される時期は何年先であってもとにかく見られればよいというものではない。公開されるべき情報は情報公開請求後速やかに公開されなければならない。なぜなら、情報公開制度を使う住民は何年後かに過去を振り返って政治を論じたいと考えているのではなく、いま行なわれている政治に主権者たる住民として責任ある適切な意見を言っていきたいと考えている。そして本件条例は情報公開請求権の位置づけについて、「県民の県政への参加を促進し、県政に対する理解の信頼を深め、もって開かれた県政を実現することを目的とする。」(第1条)としているとおり、そこでは実施機関と住民とが噛み合った議論をするために実施機関が保有する情報が住民に速やかに提供されることを予定している。情報を持たない住民の意見はその主観はともかく客観的には行政実務の現実を無視した自分勝手なものになりかねないが、行政と情報を共有する住民は「知らなかった」という弁解ができなくなるので自分勝手な意見を言わなくなるか、言いたくても言いにくくなる。そのような状況は行政にとっても誠実に自治体のことを考える住民にとっても好ましい効率的な関係である。
 従って、非公開処分が誤っているとして処分の取消を求める異議申立や裁判の場合、その処分が違法であることの発見と決定や判決は速やかに実現されなければならない。

5 被告(実施機関)の立証責任(立証責任の転換)
 ふつうの審判や裁判では、訴えを起こした側で自分の主張が正しいことを主張立証しなければならないとされている。
 ところが情報公開に関する異議申立や訴訟ではちがう。立証責任が転換している。つまり訴えた異議申立人や原告の側で当該処分が違法であることを主張立証しなければ勝てないのではなく、訴えられた処分の実施機関の側で当該処分が適法であることを主張立証できなければ異議申立人・原告側の勝(訴)となるのである。実質的に考えても、異議申立人・原告側に主張立証責任を負わせるとなると、異議申立人側は非公開文書の内容がわからないために的確な主張立証ができないという事態が十分に予想され、情報公開制度の公開原則が空洞化してしまうことは明らかである。
 このことは本件条例に基づく非公開処分にも当てはまる。本件条例第1条で知る権利と県の説明義務を、第3条で公開原則を明らかにし、第6条で例外的に非公開とすることができるという規定になっている仕組みからして、立証責任は実施機関側に転換されていると解すべきである。
 これまでの情報公開訴訟における原告勝訴の判決書の理由部分において、「被告が非公開事由に該当する事実を具体的に主張していないので」とか「被告が非公開事由に該当する事実を具体的に立証していないので」という書き方がされているのは、立証責任が転換されていることを端的に示している。

6 被告の負担
 立証責任の転換は実施機関である被告にとって特に負担になるものではない。本件非公開処分が本件条例の解釈運用として合理的なものであるならば、被告は主張立証について特に負担を感じることはないはずである。まして、被告は原告らから情報公開請求されたときに、本件公文書のどの部分をどのような理由で非公開とするかを十分に吟味検討したはずである。その検討の結果が本件処分であることからすると、被告は、非公開事由該当性を直ちに、明確かつ具体的に立証することができるはずである。

第4 「公文書の公開義務」(第6条)=本件条例の非公開事由
1 本件条例第6条は「実施機関は、前条の規定による公開の請求があったときは、公開請求に係る公文書に次の各号に掲げる情報のいずれかが記録されている場合を除き、公開請求をしたものに対し、当該公文書を公開しなければならない」と規定している。

2 第6条第5号(審議・検討等情報)
 改正された規定の5号は、「県の機関並びに国及び他の地方公共団体その他公共団体(以下「国等」という。)の内部又は相互間における審議、検討又は協議に関する情報であって、公開することにより、率直な意見の交換若しくは意志決定の中立性が不当に損なわれるおそれ、不当に県民の間に混乱を生じさせるおそれまたは特定のものに不当に利益を与え若しくは不利益を及ぼすおそれがあるもの」とされている。

3 第6条第6号(事務事業情報)
 改正された規定の6号は、「県の機関または国等が行う事務又は事業に関する情報であって、公開することにより、次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあるもの」とされ、以下の例示がある。

 イ 監査、検査、取り締まり又は試験に係る事務に関し、正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれ

 ロ 契約、交渉又は争訟に係る事務に関し、県又は国等の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ

 ハ 調査研究に係る事務に関し、その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ
 
ニ 人事管理に係る事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ
 
ホ 県又は国等が経営する企業に係る事業に関し、その企業経営上の正当な利益が損なわれるおそれ

4 第14条(第3者からの意見の聴取等)
 第14条は「実施機関は、第3者に関する情報が記録されている公文書について公開決定等をする場合には、第6条の規定により、当該情報が記録されている部分を公開しなければならないことが明らかなとき、及び当該部分を公開しないことができることが明らかなときを除き、あらかじめ当該第3者の意見を聴かなければならない。」としている。

第5 本件処分の違法性
1 本件条例第6条第5号(審議・検討等情報)該当性   (請求の別紙−1) (1) 規定の5号について、手引きの趣旨の解説(24頁)は、「『不当に』と限定することにより、県民参加により開かれた県政を実現するというこの条例の趣旨、目的から、最終的な意思形成に至る過程において、できる限り県民の意見を県政に反映させることが必要であるため、公開のもたらす支障が『不当』であると認められる場合に限って、非公開とする」とされている。
 本件情報を公開しても支障がないのは明白であり、まして「不当」な支障など考えられない。混乱が生じるおそれは皆無である。
 むしろ、県有地内に、県が特定市町村と共同して建物を造ることの情報が公開されれば、県民の県政への参加が促進されるのは明らかである。被告には、県民の財産を他と共同利用することの情報を積極的に県民に知らせるべき義務がある。

 (2) さらに、手引きの解釈・運用の解説の6(25頁)で、不当とは「説明責任の観点から公開することによる利益と、公開により適正な意志決定にもたらされる支障とを比較衡量し、公開することの利益を斟酌しても、なお、公開のもたらす支障が重大であり、非公開とすることに合理性が認められる場合に限定される」とし、加えて「本号に、本条第1号、第3号等に存在する公益上の義務的公開に相当する規定がないのは、『不当』の要件の判断に際して、公益上の公開の必要性も考慮されるからである」とされている。
 本件非公開処分においては、前記比較衡量もされず、公益上の公開の必要性が考慮されていない。

 (3) ところで、北方町は町民に北方町の条例に基づき情報公開しているが、岐阜県と同旨の規定である。
 すると、岐阜県の「岐阜県の施設に関する情報は公開しても支障等がない」との論理が正しいなら、北方町は、住民の公開請求に対して、岐阜県と同じ論理で、北方町部分に関する情報についてはこれを公開すると考えるのが正当である。
 結局、県が北方町施工に関する部分の情報を非公開としても、北方町が北方町部分に関する情報を公開するわけだから、当該情報の公開自体には固有の要因としての5号規定の支障やおそれはない、ということになる。
 また、真に、北方町の施設に関しては支障やおそれがある、というなら、実は県の施設部分に関しても公開すると支障やおそれがある、として非公開としなければ論理的整合性に欠ける。

2 本件条例第6条第6号(事務事業情報)該当性     (請求の別紙−2) (1) 規定の6号について、手引きの趣旨の解説の2(26頁)は、「県民参加により開かれた県政を実現するという条例の趣旨、目的からすると、行政運営に係る情報は本来公開されなければならず、本条第5号と同じく、本号の適用については、慎重に判断する必要がある。そのため、本号は、『著しい』と限定することにより、請求された公文書を公開しても、それに係る事務事業の適正な遂行に及ぼす影響が軽微なときは、当該公文書は公開されるべきであることを明らかにしたものである」とされている。
 本件非公開部分はいずれも数文字程度の数字であるが、その項目から推測しても、当該補助金額等の数字が公開されても、支障が生じるとは考えられない。
 しかも、著しい支障が生ずるおそれがないことは明らかである。

 (2) さらに、手引きの解釈・運用の解説の3(26頁)は、「『支障』の程度については、名目的なものでは足りず、実質的なものであることが必要であり、『おそれ』の程度も、単なる抽象的な可能性ではなく法的保護に値する程度の蓋然性が要求される」とされている。 
 本件情報を公開しても、実質的支障や蓋然性あるおそれがないのは明白である。

 (3) さらに、手引きの解釈・運用の解説の2(26頁)は、「『適正』という要件を判断するに際しては、公開のもたらす支障と公開のもたらす利益を比較衡量しなければならない。」とし、加えて「本号に、本条第1号、第3号等に存在する公益上の義務的公開に相当する規定がないのは、『適正』の要件の判断に際して、公益上の公開の必要性も考慮されるからである」とされている。
 本件非公開処分は、前記比較衡量や公益上の公開の必要性が考慮されていない。

3 第14条(第3者からの意見の聴取等)
 第14条は「実施機関は、第3者に関する情報が記録されている公文書について公開決定等をする場合には、第6条の規定により、当該部分を公開しないことができることが明らかなときを除き、あらかじめ当該第3者の意見を聴かなければならない。」としている。
 本件処分の判断に際して、本件非公開部分程度の情報であれば、国や北方町に公開をすることについての意見の聴取等を行えば、公開してよいとの結論になったと考えることが自然である。にもかかわらず、被告は意見の聴取を怠った。

4 以上、本件非公開処分は、条例解釈を誤った違法なものであるから、取消しを免れない。
以 上
                         2002年2月4日
岐阜地方裁判所 民事部御中
原告 寺町知正 外10名
 添付書証  甲第1〜7号証。
       その他、必要に応じて、弁論において提出する。     以上
当事者目録(原告)

(略)