平成14年9月25日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成12年(行ウ)第24号 首都機能移転情報非公開処分取消請求事件
口頭弁論終結日 平成13年12月25日
           判           決
   岐阜県山県郡高富町西深瀬208番地の1
       原告(選定当事者)   寺   町   知   正
   岐阜県揖斐郡谷汲村岐礼1048番地の1
       原告(選定当事者)   山   本   好   行
       脱退原告(選定者)   別紙選定者目録記載のとおり
   岐阜市薮田南2丁目1番1号
       被      告    岐  阜  県  知  事
                   梶   原       拓
       同訴訟代理人弁護士   毛   利   哲   朗

            主            文
1 被告が選定者らに対して平成12年11月16日付けでした別紙処分目録記載の文書に係る公文書部分公開決定のうち,次の部分を公開しないとした処分を取り消す。
 (1)別紙非公開情報目録記載11(3)及び12(2)の各文書中の「個人の住所」

 (2)別紙非公開情報目録記載14(2)ないし(5)の各文書中の「入札代理人の氏    名」「役職」「印影」

 (3)別紙非公開情報目録記載1(1)ないし(3),2(1)ないし(3),3(1)ないし(3),4(1),(2),(4),5(1),(2),(4),6(1)ないし(3),7(1)ないし(4),8(1)ないし(5),9(1)ないし(3),10(1)ないし(5),(7),(9),11(1)ないし(3),12(1),(2),13(1),(2),14(1),(2),(5),15(1)ないし(3),16(1)ないし(3),17(1),(2),(4),(6)の各文書における「債権者名」「債権者住所」「債権者印影」「債権者推認情報」「プロポーザル参加業者名」「プロポーザル参加業者住所」「プロポーザル参加業者印影」「プロポーザル指名業者名」「プロポーザル指名業者住所」「入札者印影」「見積り合せ業者名」「見積り合せ業者住所」「見積り合せ業者印影」「プロポーザル参加指名業者名」「プロポーザル参加指名業者住所」「プロポーザル参加指名業者推認情報」

 (4)別紙非公開情報目録記載1(3),2(3),3(3),4(4),5(4),6(3),7(4),8(5),10(7),13(4)及び14(6),(7)の各文書における「債権者調査実績」「プロポーザル指名業者の調査実績」「入札指名業者調査実績」及び「入札指名業者等の調査実績等に関する質疑」

 (5)別紙非公開情報目録記載4(3),13(3)及び14(6)の各文書における「債権者の評価に関する質疑,応答」「入札指名業者の評価に関する質疑,応答」

 (6)別紙非公開情報目録記載14(7)の文書における「入札指名業者の従業員数」

2 原告らのその余の請求を棄却する。

3 訴訟費用はこれを10分し,その1を原告らの負担とし,その余を被告の負担とする。
             事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告が選定者らに対して平成12年11月16日付けでした別紙処分目録記載の公文書に係る公文書部分公開決定のうち,公文書を公開しないとした部分を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

第2 事案の概要
 本件は,選定者ら(以下「原告ら」という。)が被告に対し,岐阜県情報公開条例(平成6年岐阜県条例第22号。平成12年12月27日改正前のもの。以下「本件条例」という。)に基づき,岐阜県(以下「県」という。)地域計画政策課において,首都機能移転誘致事業に関連して,平成7年度から同12年11月8日までに計画立案等のために外部委託した契約仕様書,見積書,契約書並びに上記に関連する物品購入等契約審査会調書及び伺書の公開を請求(以下「本件請求」という。)したところ,被告が本件請求に係る公文書について別紙処分目録記載のとおり,一部を公開し,一部を公開しないとする処分をしたので,原告らが被告に対し,同処分中公文書を非公開とする部分の取消しを求めた事案である。

1 争いのない事実等(乙14の5及び弁論の全趣旨から容易に認められる事実も含む。) (1) 当事者
 原告らは,いずれも岐阜県内に住所を有する者であり(弁論の全趣旨),被告は,岐阜県知事として,本件条例2条1項の実施機関に当たる者である。

 (2)本件処分の存在
 原告らは被告に対し,平成12年11月8日付けで本件請求をしたところ,被告は同月16日付けで本件請求に係る公文書のうち,別紙非公開情報目録(以下「目録」という。)記載の情報について,本件条例6条1項1号又は同項4号に該当するとの理由で公開せず,それ以外の部分を公開するとの決定(以下「本件処分」という。)をし,その旨を原告らに通知した(なお,別紙処分目録記載の非公開部分を個別に一覧表にしたものが目録である。)。

2 争点
 目録の非公開とした情報欄に記載された各情報は,本件条例6条1項1号又は同項4号の非公開情報に該当するか。

3 原告らの主張
 (1)本件条例1条は,この条例の目的を明らかにし,県における情報公開制度の基本的な考え方を定めたものである。ところで,県が保有する情報は本来的には県民共有の財産であり,県が県民の情報公開請求に基づき保有する情報の公開をすることは,県民が有効に県政を監視することにつながり,県政に対する理解と信頼を深め,もって,住民自治や住民参加を実現していくことである。それは県民が自分自身の情報を支配し,コントロールすることと同じであるから,情報公開請求権は県民固有の権利である。県情報公開制度は,この県民固有の権利を具体化し,県民の県政への参加を促し,開かれた県政を実現することを目的としたものである。
 また,本件条例3条は,この条例の基本理念である原則全開の精神に基づいて,公文書公開制度が運用されなければならないことを明らかにしたものであって,実施機関が管理する情報について非公開は例外である。しかも,同6条は「公開してはならない」としているのでなく「公開をしないことができる」としているだけである。
 しかして,本件条例の非公開事由該当性が,専ら行政機関側の利便等を基準に,その主観的判断に基づいて決せられるとすれば,非公開の範囲が不当に拡大する危険性があり,情報公開制度の実質的意味が失われることにもなりかねないから,各号の非公開事由についての解釈は厳格でなければならない。
 なお,本件公文書の大部分は随意契約に関するものであるが,競争原理が働いて手続的に適正,公正である入札と比べて,随意契約は地方自治体の長や担当者の内部的判断によって契約の相手方が決定されるものであるから,随意契約では入札以上の格別の透明性,公正性が求められ,それに関する文書の公開の必要性は高いというべきである。

 (2)本件条例6条1項1号の非公開情報(個人氏名,個人氏名推認情報,委員の住所,委員の会議出席旅費額,入札代理人の役職,入札代理人の氏名,入札代理人の印影)

  ア 本件条例6条1項1号は,憲法13条が保障する個人のプライバシー権,すなわち私生活をみだりに公開されない権利の保護を目的とするものであるから,規定の形式的な文言に拘泥し,実質的なプライバシー権侵害がないにもかかわらず,非公開にするというのでは,プライバシー権の保護という本来の趣旨を逸脱することになり,非公開部分が広くなりすぎ,本件条例が定める情報公開制度の精神を無に帰せしめることになる。
 したがって,特定の個人が識別される情報であっても,その公開によって,個人のプライバシーの権利の侵害が生じない場合は,「個人に関する情報」に該当せず,公開義務は免除されないと解すべきである。

  イ 本件で非公開とされた情報は,いずれも県民の税金の使途である事務事業に直接関係する情報である。県の職員は県民全体の奉仕者として職務を行っているものであるから,個人のプライバシー権の侵害が生じる余地はないのは当然であるが,委託契約の相手方である民間事業者の関係者も,税金の使途である事務事業に関与する者として公務に準じて判断すべきである。
 随意契約に関する文書の場合,県が当該事業者が随意契約をするに適切であるとする根拠の重要な要素がそこに記録,記述されているのであるから,到底個人に関する情報であるとはいえない。特に本件首都機能移転計画立案の委託契約は,県として非常に重要な事務として行うものである。
 また,事業関係者の当該業務に関する情報について,それが民間個人の職業情報という意味で一般的なプライバシー保護の領域に入るとしても,公開されないことから得られる個人的な利益は,特段存在しない。これに対し,本件事案に関係する情報が公表されることから得られる利益は,公文書公開条例の立法目的そのものである行政の透明性の確保,行政の公正性の担保,県民の理解と信頼の確保等であり,公開されないことによって得られるプライバシーの保護の利益より,利益衡量において重いと結論されるのは当然である。
  ウ 個別の情報について
   @ 契約審査会調書中の個人に関する情報(個人の氏名及び氏名が推認される情報)は個人識別情報といえるが,記録されている内容は,被告が当該事業者と特別の理由をもって(随意)契約する場合に,その理由を明確にして,県の取引の公正さ,適正さを確保するための記録,記述であるから,県の公務の適正の証明に他ならず,事業者の関係者等の「個人に関する情報」ではない。

   A 見積書中の会議出席委員の住所,旅費に関する情報のうち,住所については,個人に関する情報であるとしても,通常他人に知られたくない情報ではなく,また,単に地方自治体名の表示にすぎず個人識別情報とはいえない。
 次に,旅費についても,個人の交通費や日当等に関する情報であるが,単に県の経費の積算等に付随する情報であって,個人の財産の状況に関する情報,すなわち個人に関する情報とまではいえず,旅費等は誰でも計算あるいは認識し得るし,他人に知られても当該個人に対して回復し難い損害を与えることはあり得ないから,個人識別情報ではない。
 また,日当や旅費が個人の財産に関する側面を有しているとしても,県の公費での委託調査を依頼されて行う委員会活動は県の会務に準じるものであるから,知られたくないということが正当であるということは困難である。

   B 入札書中の事業者の代理人の役職,氏名,印影に関する情報については,事業者の代理であることの明示であるから,当該代理人が事業者の従業員であっても,また,仮に特定個人に委任したものであるとしても,本件条例6条1項4号の事業者情報として判断すべきである。

 (3)本件条例6条1項4号の非公開情報(事業者名,事業者名推認情報,事業者住所,事業者印影,事業者調査実績,事業者従業員数,事業者の評価に関する情報)

  ア 本件条例6条1項4号では,公文書公開請求権が人権上及び民主主義原理上極めて重要な権利であることと,事業者の財産権が濫りに損なわれないことを調整し,利益衡量をするために設けられたものである。
 そして,同号が事業者に「不利益が生じる」等という表現ではなく,「競争上の地位その他正当な利益が損なわれる」という文言を採用したことが明確に意識されるべきであり,事業者について公開義務が免除される情報は極めて限定的であると解すべきである。
 すなわち,事業者の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるためには,情報公開により社会的評価が低下するなどの業者の被る不利益が抽象的でなく,具体的に証明されねばならず,客観的かつ明白である場合に限定されるものである。
 そして,同号は,不正競争防止法と密接な関係を有しており,同号による例外は,秘密として管理され,有用性があり,非公知である情報に限られるというべきである。

  イ 個別の情報について
   @ 債権者等の名称,同住所,同印影等に関する情報は,事業者に関する情報であるが,県の取引の状況等の一部についての事実の記録であり,事業者が通常,第三者に明らかにしている情報であって,内部管理に関する情報とまではいえないし,公開しても,債権者等の営業の実態,取引の状況が明らかとなるものではなく,事業者の競争上の地位その他正当な利益が損なわれるおそれはない。
 仮に,そうでないとしても,上記情報は公開される公益上の必要があるから,本件条例6条1項4号ハに該当する。

   A 契約審査会長所及び契約審査会議事録中の議事内容,指名業者に係る事業内容,従業員数,調査実態に関する情報は,いずれも事業者に関する情報であるが,特別の技術,独自のノウハウや営業に関する情報ではなく,県が持っている通常一般の範囲の情報であって,しかもその内容は事業者の業務等のごく一部にすぎず,公開しても債権者等の社会的評価や信用が失われたり,事業活動が損なわれるものとはいえない。

   B 印影についても,事業者の競争上の地位その他正当な利益が損なわれると認められる現実が存在するならば,事業者が印影を日常的に公にするはずがない。印影は,取引業務において振込で支払うとの顧客に対してはすべて公開され,秘密にしておくことはあり得ない情報である。仮に,何らかの不利益があったとしても,それを上回る利益,便宜があるからこそ公にしているのであり,総体として利益が大きいということである。
 さらに,自治体と契約する企業の社会的責任を考慮すれば,秘匿すべき情報とはいえず,公開することにより,当該法人の競争上若しくは,事業運営上の地位が損なわれる具体的根拠もないから,本号を根拠とする,本件非公開処分に理由はない。

   C 審査会調書に記録された債権者調査実績は,県や他の自治体などで行った過去の調査実績であり,事業者としては,調査実績を重ねていることが新たな業務を委託することにつながるのであって,他社に知られて不利益や競争上の地位を損ねるという性質の情報ではない。
 本件に係る調査は極秘とすべき事項についての調査の場合でないのは明白であるから,本件でいう調査実績は事業,業務の単なる見出しであり,外形的な情報である。
 また,ホームページ等で事業者が調査実績を公開している場合,調査業務等を公共団体から受託していることを公開しても支障がないことを事業者自らが明らかにしているのである。

   D 事業者の評価に関する情報は,当該事業者について客観的に対応能力が具備されているかどうかという評価が記録されているのではなく,単に発注者としての被告が,当該発注目的にかかる業務を遂行する上でどの事業者が適当であるかについての意見,すなわち個々の事業に係る担当者の意見にすぎず,それが公開されても当該事業者に不利益や支障が生じるようなものではない。
 また,地域計画局契約審査会調書記載の企画案選考調書は,応募した事業者の部門別の評価が表示されているが,これは当該事業者の事業者としての適格性を判断したものではなく,県が調査委託の相手方として,当該事業に関して明示した評価基準にどの程度合致しているかを判断しただけであるから,公開されても事業者の不利益とはならない。
 仮に,そうでないとしても,随意契約の業者選定が恣意的であってはならないから,選考調書は他社の評価にさらされることが必要なものであって,公開すべき公益性は高いから,上記情報は公開される公益上の必要があり,本件条例6条1項4号ハに該当する。

4 被告の主張
 (1) 情報公開請求権は,憲法21条の表現の自由の反面である知る権利に基づくものであるが,憲法上の自由権の規定から直接発生する権利ではなく,本件条例に直接の存立根拠を有するものであり,本件条例の成立により初めて法的に認知された権利である。したがって,県が保有している情報のうち,いかなる範囲限度において情報公開するかは,地方自治権に基づく立法政策の問題であって,本件条例の制定趣旨に自ずと拘束される。

 (2) 本件条例6条1項1号の非公開情報
  ア そして,本件条例6条1項1号は,個人のプライバシー保護を主要な制定趣旨とするものであるが,プライバシーの概念が法的にも社会通念においても未成熟で確立された概念ではなく,その範囲も個々人の主観によって相違していることから,プライバシーに関する情報をすべて類型的に規定することは困難であり,また,プライバシー侵害のおそれの存否という不明確な判断基準では,一義的明確性にかけ,行政対応上複雑困難な判断を強いることになり,画一的かつ迅速な処理に馴染まないことから,同号は,特定の個人が識別され,又は識別され得るような情報については,原則として非公開としたのである。
 このような制定趣旨に鑑みると,同号の「個人に関する情報」は限定的に解されるべきではなく,広く個人情報を含み,それが特定の個人を識別できるものであれば,同条1項1号イからニまでに該当する場合を除き,すべて非公開とすべきである。
 本件条例3条が,個人に関する情報を正当な理由なく公開しないように「最大限の配慮をしなければならない。」と規定しているのは,一旦公開された情報は元に戻すことができないこと,個人の識別情報は本人が公開するとき,場所,相手方を選択し,管理する権利を有していることに鑑み,個人のプライバシーを侵害するおそれがある情報は,公開することによる侵害のおそれが抽象的危険性を備えているときは当然に,さらに,特定の個人が識別され得る情報であって周知性のないものは,プライバシー侵害のおそれがある情報か否かを問わず,一義的に非公開とすべきことを指摘しているのである。

  イ 個別の情報について
  目録記載11(3)及び12(2)の見積書のうち,会議出席委員の旅費,住所に関する情報を非公開としたのは,「東濃地域地震活動調査委員会名簿」により委員名を公開しているため,区間,交通費,日当を公開すると,各委員の住所地と出席交通費,日当の個人財産に係る情報が明らかになるからである。
 そして,それ以外の情報は個人情報であり,かつ,個人識別情報に当たることが明白である。

 (3)本件条例6条1項4号の非公開情報
  ア 本件条例6条1項4号は,法人等又は事業を営む個人(以下「事業者等」という。)の事業活動の自由を保障したものであり,事業者等の競争上の地位その他正当な権利利益を保護し,公開することによりそれらが侵害されることを防止している。
 一般に,事業者等に関する周知性のない誰もが容易に知ることができない情報については,客観的に判断して不特定の無関係な者に知られたくない情報であって,開示対象者について誰に開示するか否かの可否判断を当該事業者等に選択決定する権限があるというべきであるから,事業活動情報は,本件条例6条1項4号イないしニに該当しない限り,原則非公開である。
 そして,本件条例6条1項4号ニは,公費支出の透明化を図る観点から,県との契約又は当該契約に関する支出に係る公文書に記録されている情報のうち,実施機関があらかじめ岐阜県公文書公開審査会の意見を聴いて公示した一定範囲のものについては,例外的に公開することを規定したものであるが,本件公文書中の事業者等に関する非公開情報については,同ニに該当するものではない。

  イ 個別の情報について
   @ 事業者名,事業者の住所及び事業者名推認情報
 首都機能移転に関連する情報については,県が本件請求に対し,既に部分的に情報公開をしているため,県との随意契約の受託者,プロポーザル参加業者等の事業者の調査事項の内容,受託又は見積金額,その金額の積算根拠やそれぞれの単価,事業上,技術上求められた事業者のノウハウ及びそれに対応する事業者の能力の有無についての判断等の重要な事業活動に関する情報が既に明らかにされている。
 その上で,更に事業者名を公開すると,その事業者の事業上,技術上のノウハウ,経営理念,積算方法,営業上の得手不得手その他の同業他社に対して隠しておきたい種々の事業活動情報も自ずと分かり,その事業者の競争上の地位が阻害されることは明らかである。 すなわち,他社が公開された情報から特定事業者の営業方針を知り得ることになり,その事業者が今後営業活動をするに当たり,営業方針を知り得た他社に,単価設定等において,いわゆる手の内を読まれる可能性があり,事業上大きな障害を背負うことになる。また,単価設定等は,当該事業者の県以外との将来の同種契約において,参考資料ともなるのである。
 随意契約のうち,特に委託事項を履行するために,高度なノウハウ,技術,思考,アイデアを要求されている契約については,契約金額の高低が受託者決定の唯一の要素ではないため,第三者から受託金額の高低のみを根拠とした正鵠を射ていない批判が起これば,自ずと高度な技術,ノウハウを備えた優秀な事業者は県との契約を敬遠するに至り,事業者にとって県その他顧客との契約が将来的に困難となる。
 加えて,結果的に県との契約締結に至らなかった事業者については,その事業者名が公開されると,契約に至らなかったにもかかわらず,当該事業者の営業方針が明らかにされてしまうとともに,プロポーザルにおいては,当該事業者が提出した企画の中に含まれているアイデア,ノウハウが県に評価されなかったことが明らかにされてしまうことになる。これは,契約に至った事業者が受ける不利益を遥かにしのぐものである。
 また事業者の住所に関する情報,事業者名を推認することができる情報を公開すると,それだけで,あるいは既に公開している種々の情報と組み合わせることにより,当該事業者自体が判明し,事業者名を公開したのと同義である。
 よって,目録記載の情報のうち,事業者名及び事業者の住所に関する情報,事業者名を推認させる情報を公開することはできない。

   A 事業者の印影に関する情報
 これらの情報は,事業者が事業活動を営む上で必要な金銭の出納又は事業資金の管理等に関する重要な内部情報であり,相手方によっては秘密に属すべき情報であって,その公開,非公開はもっぱら当該法人や事業を営む個人の自由な選択に任されるべきである。
 よって,これらを公開することにより,事業者等の他に公表されない権利を侵害することになる上,それ自体,当該事業者等の金銭管理に混乱ないし支障を生じさせ,事業活動に大きな支障をきたすおそれがある。
 また,これらの情報は,事業者がその事業活動を営む上で必要な金銭の出納又は事業資金の管理に使用されるという性質に鑑みると,悪用されるおそれが多分にある情報である。県内外において私印及び公印の不正使用事件が起きており,不正使用の危険性は相当程度に高い。

   B 事業者の調査実績に関する情報
 これらの情報が記載された文書には,債権者等が過去にどのような団体等からどのような調査を受託したかが記載されている。現在,コンサルタント業者は自社のホームページにおいて,過去の受託調査実績等を公にしているところが多いため,これらの情報は,事業者が自ら公にしている情報及び公にしていない情報に分けられる。
 ホームページ等により公にされている調査実績の場合は,県に対する情報公開請求があった場合に,過去の債権者調査実績を公開すると,ホームページ等で公にされている情報と組み合わせることにより,事業者名が明らかになり,事業者の事業活動に大きな支障を来すおそれがある。
 ホームページ等により公にされていない調査実績については,情報公開請求に応じてこれを公表することにより,事業者名が自ずと明らかになり,事業者の社会的活動の自由に支障を来したり,同業他社の比較広告に利用されたりするなどして,事業者が有する正当な利益を害する可能性が生じる。また,このような調査実績は,事業者の判断により実績を秘密にしているのであり,その公開,非公開はもっぱら当該事業者の自由な選択に任されるべきである。
 よって,これらを情報公開請求に応じて公開することにより,事業者の選択権を侵害することになり,当該事業者の事業活動に大きな支障を来すおそれがある。

   C 入札指名業者の従業員数
 この情報は,事業者の労務管理情報であり,事業活動を行う上での内部管理に関する情報であって,その公開,非公開はもっぱら当該事業者の自由な選択に任されるべきである。 よって,情報公開請求に応じてこれらを公開することにより,事業者の選択権を侵害することになり,当該事業者の事業活動に大きな支障を来すおそれがある。

   D 事業者の評価に関する情報(目録4の(3),13の(3),14の(6))
 非公開の部分には,各審査件名にかかる各調査について,債権者等の調査対応能力等に関する企画部契約審査会委員の質問及びそれに対する担当県職員の回答が記載されており,これらを公開すれば,債権者等の能力に対して,県がどのような疑問を抱いたか,またどの程度の評価をしたかが明らかになるため,債権者等の事業活動に支障をきたすおそれがある。
 なお,随意契約の方式で契約を締結した理由について,他の情報と区別して,特別扱いをする本件条例上の根拠はなく,かつ,一般的に随意契約の締結理由の中には,事業活動情報の中でも評価にわたる特殊情報が包含されることが多い。したがって,これらの情報を公開すれば,事業者の事業活動に支障が生じる危険性も高くなることは否めない。

第3 判断
1 本件公文書の記載内容等
 証拠(乙1ないし17〔いずれも枝番を含む。〕)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
 (1)本件公文書は,首都機能移転誘致事業についての委託業務契約に関する文書(契約仕様書,見積書,契約書,物品購入等契約審査会調書等)であり,委託業務の内容は下記のとおりである(以下,番号を付して各業務を「本件委託業務@ないしP」という。)。               記
@バックアップ・シティ構想策定調査を目的とする委託業務
A首都機能移転候補地第1次抽出条件調査を目的とする委託業務
B東濃地域における都市整備構想調査・計画策定を目的とする委託業務
C東濃地域における都市整備構想調査・計画策定を目的とする委託業務
D自然環境共生型都市づくり調査を目的とする委託業務
E新首都の都市システム(サスティナブル・キャピタル)に関する調査を目的とする委託業務
F新首都の都市システム(メディア・キャピタル)に関する調査を目的とする委託業務
G「中央都」構想の策定調査を目的とする委託業務
H新首都における「情場」システムに関する調査を目的とする委託業務
I岐阜東濃地域環境保護対策調査を目的とする委託業務
J岐阜東濃地域の地震災害に対する安全性調査を目的とする委託業務
K岐阜東濃地域の地震時安全性に関する調査を目的とする委託業務
L岐阜東濃新首都の都市システム(サステーナブル・キャピタル)具体化検討調査を目的とする委託業務
M岐阜東濃新首都の都市システム(サステーナブル・キャピタル)検討調査を目的とする委託業務
N東濃首都機能移転候補地土地傾斜区分図等作成を目的とする委託業務
O岐阜東濃地域環境現況図作成業務を目的とする委託業務
P豊かな生活を送ることのできる新都市づくりのための調査を目的とする委託業務

 (2)上記委託業務の契約締結方法は,本件委託業務Mのみが指名競争入札であり,その余はいずれも随意契約である。さらに,随意契約は,(A)確定した仕様に基づいてその見積書を提出させて最も安価な業者と契約する場合,(B)プロポーザルによる企画案を提出させて見積金額も考慮し,ノウハウ,アイデアを含む企画の最も優れた業者と契約する場合,(C)高度なノウハウ,アイデアが求められ,性格上特定の1社しか実施することができない業務についてその1社を選定して県の予定価格以下で契約する場合に分類される。本件委託業務N及びOは上記(A)類型,同I及びPは上記(B)類型,同@からHまで及びJからLまでは上記(C)類型である。

 (3)乙1から乙17まで(各枝番を含む。)によれば,それぞれの非公開部分に記載されている内容は,別紙非公開情報目録の「非公開とした情報」欄記載のとおりであると推認される。

2 本件条例6条1項1号による非公開情報について
 (1)同号の趣旨
 原告らは,実質的なプライバシー権侵害がないにもかかわらず,本件条例6条1項1号により非公開にするというのでは,プライバシー権の保護という同号本来の制定趣旨を逸脱することになるため,個人のプライバシー権の侵害が生じない場合は,個人に関する情報に該当しないと主張している。
 そこで検討するに,本件条例6条1項1号は,本件条例3条と相まって個人のプライバシーを保護することを主要な制定趣旨とするものであるが,個人の「プライバシー」の内容は,一義的に明確ではなく,個人の価値観によってその範囲につき見解が分かれることが少なくない。そのため,プライバシーの概念によって公開・非公開の限界を画すると基準が不明確となり,公開請求に対する判断が困難となるおそれがある。そこで,「プライバシー」を基準とするのではなく,個人に関する情報で,特定の個人が識別され得るものについては,原則非公開とした上で,イないしニに該当する情報については,例外的に公開する情報としてただし書きに列挙したものと解される。
 したがって,プライバシーの実質的な侵害の有無によって公開・非公開を判断すべきであるとする原告らの上記主張は採用することができない。

 (2)個人氏名及び個人氏名推認情報について
  ア 乙6の3及び乙8の5によれば,目録記載6(3)及び8(5)の各企画部物品購入等契約審査会調書には,随意契約における選定業者の参与の職にある者の氏名及び同人が出席した会議名等が記載されていることが認められるところ,これらの情報は,個人に関する情報であって,特定の個人が識別され得るものである。
 原告らは,上記情報は,被告が当該事業者と特別の理由をもって(随意)契約する場合に,その理由を明確にして,県の取引の公正さ,適正さを確保するための記録,記述であるから,県の公務の適正の証明に他ならず,事業者の関係者等の「個人に関する情報」ではないと主張するが,県の公務の適正の証明に関する情報であることから,直ちに「個人に関する情報」への該当性が阻却されることにはならない。
 ところで,原告らの前記主張は,これらの情報が本件条例6条1項1号ニに該当する旨の主張であるとも解されるが,随意契約における選定業者の参与の職にある者の氏名及び同人が出席した会議名等の情報が県の公務の適正の証明と関連性を有するとは認められないから,これらの情報が同号ニの「公開することが公益上必要である」情報に該当するとの原告らの主張は採用することができない。
 したがって,これらの情報は,本件条例6条1項1号の非公開情報に該当する。

  イ 乙9の3によれば,目録記載9(3)の企画部物品購入等契約審査会調書には,慶應義塾大学教授の氏名が記載されていることが認められるところ,この情報は,個人に関する情報であって,特定の個人が識別され得るものである。
 しかも,乙9の3には,この個人が代表者を務める研究組織は,県からの委託対象(随意契約の相手方)とはなり得ないと記載されており,この個人の氏名は,わが国における「情場」に関する研究組織を一般的に紹介するために記載されたものであるから,県の公務の適正の証明との関連性がない情報であって,仮に原告らの主張を採用したとしても,「個人に関する情報」への該当性が阻却されることにはならないし,同号ニの「公開することが公益上必要である」情報でもない。
 したがって,この情報は,本件条例6条1項1号の非公開情報に該当する。

  ウ 上記のとおり,目録記載6(3),8(5)及び9(3)の文書中の「個人氏名」及び「個人氏名推認情報」を非公開とした処分は適法である。

 (3)委員の住所及び委員の会議出席旅費額について
 乙11の3及び乙12の2によれば,目録記載11(3)及び12(2)の各見積書には,会議に出席する委員の旅費を算定するため,起点となる地として個人の居住する地方公共団体名が記載され,これに対応する交通費(運賃,特急・航空賃,バス貸),日当及び宿泊料の見積りが記載されていることが認められる。
 これらの情報のうち,委員の住所については,委員の居住する地方公共団体名までの記載であり,個人に関する情報ではあっても,個人識別情報とまではいえない。
 しかし,各委員に支給される会議出席旅費額及びその内訳としての交通費,日当については,個人の収入に関する情報であり,委員の氏名が公表されていることから,本件条例6条1項1号の非公開情報に該当するものと認めるのが相当である。
 なお,原告らは,上記会議出席旅費額は,単に県の経費の積算等に付随する情報であって,誰でも計算あるいは認識し得るから個人識別情報ではない,また,県の公費での委託調査を依頼されて行う委員会活動は県の公務に準じるものであるから,知られたくないということが正当であるということは困難である旨主張するが,上記会議出席旅費額は,県から委託を受けた事業者の見積書の中に記載されているものであり,同事業者が委託契約を履行するために開催する会議への出席旅費額と推認されるから,原告らの上記主張はその前提において理由がない。
 また,委員個々人の交通費,日当は非公開とされているが,委員全体での交通費,日当は公開されているから,本件条例6条1項1号ニの公開することが企益上必要な情報にも該当しないというべきである。
 したがって,本件処分のうち,目録記載11(3)及び12(2)の文書中の個人の住所を非公開とした部分は違法であり取消しを免れないが,委員の会議出席旅費額等を非公開とした部分は適法である。

 (4) 入札代理人の氏名,役職及び印影について
 乙14の2ないし5によれば,目録記載14の(2)ないし(5)の各入札書には,入札業者名(法人名),代表者の役職及び氏名並びに入札代理人の氏名,役職及び印影が記載されていることが認められるところ,本件処分においては,入札代理人の氏名,役職及び印影のみが非公開とされ,入札業者名(法人名),代表者の役職及び氏名は公開されている。
 上記の入札代理人の氏名,役職及び印影は,当該代理人個人に関する情報であって,特定の個人が識別され得るものであるところ,原告らは,事業者の代理人であることから,これらの情報は事業者情報として判断すべきであると主張するが,入札の代理事務を行ったことのみをもって個人情報の主体であることが失われることにはならないから,原告らの主張は採用できない。
 しかし,入札代理人の氏名,役職及び印影は,法令等の規定に基づく入札手続に関して実施機関が取得した情報であるところ,本件においては入札業者の名称,代表者の氏名は公開されているものの,入札に関する事務が適正であることの説明責任を果たすためには,現実に入札手続を行った者の氏名,役職及び印影を公開することが適切であることはいうまでもないところ,これらの情報が公開されることによって入札代理人が被るプライバシー侵害の程度と比較すると,入札代理人の氏名,役職及び印影については公益上公開することが必要であると認めるのが相当である。
 したがって,目録記載14の(2)ないし(5)の各文書中の「入札代理人の氏名」,「役職」及び「印影」は,本件条例6条1項1号ニの情報に該当するから,これを非公開とした部分は違法であり取消しを免れない。

3 本件条例6条1項4号の非公開情報への該当性について
 (1)本件条例6条1項4号は,事業者等に関する情報について,公開することにより事業者等の「競争上の地位その他正当な理由が損なわれると認められるもの」を公開しないことができると規定しているところ,県が作成した情報公開条例解釈運用基準(甲36,乙22)は,同号は事業者等の事業活動の自由を保障しようとする趣旨であり,上記非公開事由に該当するものとしては,@事業者等の保有する生産技術,営業,販売等に関する情報であって,公開することにより,事業者等の事業活動が損なわれるおそれのあるもの,A経営方針,経理,金融,人事,労務管理等の事業活動を行う上での内部管理に関する情報であって,公開することにより,事業者等の事業運営が損なわれるおそれのあるもの,Bその他公開することにより,事業者等の社会的評価,信用が損なわれ,事業者等の事業活動が損なわれるおそれのあるもの(以下「運用基準@ないしB」という。)をいうとしている。
 ところで,被告は,「一般に,事業者等に関する周知性のない誰もが容易に知ることができない情報については,客観的に判断して不特定の無関係な者に知られたくない情報であって,開示対象者について誰に開示するか否かの可否判断を当該事業者等に選択決定する権限があるというべきであるから,事業活動情報は本件条例6条1項4号イないしニに該当しない限り,原則非公開である。」と主張する。
 しかし,本件条例は,3項前段において,実施機関は,公文書の公開を求める権利が十分に尊重されるようこの条例を解釈し,運用すべき旨を規定した上で,同条後段において,個人に関する情報についてのみ,みだりに公にされることのないよう最大限の配慮をしなければならない旨を規定しているのであり,この規定の趣旨に照らせば,本件条例6条1項4号にいう,事業者等に関する情報であって公開することにより「競争上の地位その他正当な利益が損なわれると認められるもの」とは,単に「周知性のない誰もが容易に知ることができない情報」であるとか,「不特定の無関係の者に知られたくない情報」というだけでは足りず,当該情報が開示されることにより,競争上の地位その他正当な利益が損なわれる必要があり,かつ,その可能性は具体的,客観的かつ現実的なものでなければならないと解するのが相当である(したがって,運用基準@ないしBの「おそれ」も,単にその可能性があるというだけでは足りず,具体的,客観的かつ現実的なものである必要がある。)。
 したがって,被告の上記主張は採用できない。

 (2)事業者(債権者,プロポーザル参加業者,プロポーザル指名業者,見積り合せ業者)の名称及び住所並びに事業者推認情報について

  ア 乙1から17(枝番を含む。)まで(ただし,乙4の3,5の3,10の6,8,11の1ないし4,12の1ないし4,13の1ないし4,14の1ないし7,17の3,5,7,8を除く。)によれば,目録記載1から17(枝番を含む。)まで(ただし,4(3),5(3),10(6),(8),11(1)ないし(4),12(1)ないし(4),13(1)ないし(4),14(1)ないし(7),17(3),(5),(7),(8)を除く。)の各文書には,事業者(債権者,プロポーザル参加業者,プロポーザル指名業者,見積り合せ業者)の名称及び住所並びに事業者推認情報が記載されていることが認められる。

  イ また,本件委託業務@ないしI及びNないしPの各委託業務に関する見積書(乙1の2,2の2,3の2,4の2,5の2,6の2,7の3,8の3,4,9の2,10の2ないし5,15の2,3,16の2,3,17の2)によれば,上記各委託契約においては,見積書を作成した事業者の名称及び住所並びに当該事業者の推認情報は非公開とされているが,県と実際に契約を締結した事業者(債権者),見積り合せ業者(前記(A)類型の場合),プロポーザル参加業者(前記(B)類型の場合)の見積書が公開されていることが認められる。
 そして,各見積書には,作業項目とそれにかかる諸経費が記載されているところ,直接人件費については,事業者が設定した技師長,主任技師,技師及び技術員が当該作業に関与する日数及びそれらの者の1人1日当たりの人件費の額が明らかにされていること,直接経費については,費目の内訳,各費目ごとの設定額及び費目によってはその根拠が明らかにされていること,間接費のうちの諸経費については,各事業者が設定した直接人件費に対する割合値,同技術経費については,各事業者が設定した直接人件費及び諸経費を合わせた額に対する割合値がそれぞれ明らかにされていることが認められる。

  ウ(ア) ところで,被告は,上記各見積書が既に公開されているため,さらに上記各見積書を作成した事業者の名称等が公開されると,他社が上記各見積書の記載内容から当該事業者の営業方針を知り得ることになり,当該事業者が今後営業活動を行うに当たり,同社の営業方針を知り得た他社に,単価設定等において,いわゆる手の内を読まれる可能性があるから,事業活動上大きな障害を背負うことになると主張する。
 しかし,自由競争の原理に立つ社会においては,上記のようなことは公正な競争秩序にほかならず,それを避けないことが事業者の競争上の地位その他正当な利益を損なうことにならないことは明らかである。

   (イ)被告は,上記各見積書に記載された単価等は,当該事業者が将来において県以外の者との間で同種契約を締結する場合に参考資料となる旨主張する。
 しかし,そうであるからといって,そのことが事業者の競争上の地位その他正当な利益を損なうものでないことは明らかである。

   (ウ)被告は,随意契約のうち,高度なノウハウ,技術,思考,アイデアを要求されている契約については,契約金額の高低が受託者決定の唯一の要素でないため,第三者から受託金額の高低のみを根拠とした正鵠を射ていない批判が起これば,自ずと高度な技術,ノウハウを備えた優秀な事業者は県との契約を敬遠するに至り,事業者にとって県その他顧客との契約が将来的にも困難となると主張する。
 しかし,上記の事態が生じる可能性は極めて低いものと考えられる。また,誤った批判であれば,その誤解を解くようにするのが本筋であり,そのために原則公開の情報を非公開とすることは本末転倒というべきである。
 したがって,被告が主張する上記事由は,本件条例6条1項4号の非公開事由に該当するとはいえない。

   (エ)また,被告は,上記各見積書から当該事業者の事業上,技術上のノウハウ,営業上の得手不得手等の事業活動情報が自ずと分かり,その競争上の地位が阻害されると主張する。
 確かに,上記各見積書に記載されている前記内容は,当該事業者が有している営業上,技術上の秘密やノウハウを適用した結果算定されているものであり,同業者その他の当該事業者の事業に通じている者がこれらの情報を入手すると,当該事業者が有する営業上,技術上の秘密やノウハウ,営業上の得手不得手を推知する端緒となる可能性があり得る。
 しかし,被告は,上記各見積書に記載されているどの情報から,どのような営業上,技術上の秘密等やノウハウ,得手不得手が判明するのか具体的に主張立証していない。それは被告にとっても不明であるため,抽象的にしか主張し得ないものと解される。したがって,上記各見積書に記載されている情報から当該事業者の事業活動が具体的にどの程度損われるかは不分明であるといわざるを得ない。
 ところで,本件条例10条5項は,実施機関は,県以外の者に関する情報が記載されている公文書について,当該情報が記録されている部分を公開しなければならないことが明らかなときや,当該処分を公開しないことができることが明らかなときを除き,あらかじめ当該県以外の者の意見を聴かなければならない旨を定めているから,上記のように公開
すべきか非公開にすべきか不分明の場合においては,被告としては公開,非公開の決定をする前に,上記各見積書を提出した各事業者の意見を聴取すべきであった(なお,被告としては,当該情報は非公開とすべきことが明らかであると判断したものであろうが,その判断は誤っており,正しくは各事業者の意見を聴取すべきものであった。)。
 しかして,被告は,上記意見聴取の手続を行った上で,当該事業者の競争上の地位その他正当な利益が具体的,客観的かつ現実的に損なわれると判断したのであれば,そのことを非公開の理由として主張立証すべきであるのに,被告はこのような手続を経ていないのであるから,いまだ非公開事由を主張したことにはならないといわざるを得ない(なお,
被告は,上記手続を控訴審の審理期間中に行うことも可能である。)。
 そうすると,結局,被告の冒頭の主張は採用することができない。

  エ 乙17の4によると,本件委託業務Pについての地域計画局契約審査会調書添付の企画案選考調書には,同委託業務について県が企画書の提出を依頼したプロポーザル参加業者7社のうち,実際に企画書を提出した4社について,企画案評価委員会を構成する委員6名のそれぞれの採点順位が記載されていることが認められる。
 被告は,上記情報が公開されると,契約締結に至らなかった事業者が提出した企画の中に含まれているアイデア,ノウハウが県に評価されなかったことが明らかにされてしまうことになるから,当該事業者の競争上の地位が損なわれると主張する。
 しかし,上記評価は当該企画に関しての評価にすぎず,当該事業者の法人事業者としての優劣を判断したものではないし,仮に,当該企画に関連する分野について,他の顧客がこの評価を参考にすることがあったとしても,それはもともと当該分野における当該事業者の能力格差に由来するものであるから,当該事業者としては甘受すべきものであり,そのことをもって事業者の競争上の地位その他正当な利益が損なわれる場合に該当するものとはいえない。

  オ 乙17の6によれば,地域計画局契約審査会議事録には,本件委託業務Kについて県が企画書の提出を依頼したプロポーザル参加・指名業者7社の事業者名,住所が一覧表の形式で記載されているとともに,同7社を選定する過程で使用した情報の掲載先が記載されていることが認められる。
 しかし,上記情報を公開しても,上記7社の競争上の地位その他正当な利益が損なわれるものでないことは明らかである。

  カ したがって,目録記載1から17(枝番を含む。)まで(ただし,4(3),5(3),10(6),(8),11(1)ないし(4),12(1)ないし(4),13(1)ないし(4),14(1)ないし(7),17(3),(5),(7),(8)を除く。)の各文書に記載された事業者(債権者,プロポーザル参加業者,プロポーザル指名業者,見積り合せ業者)の名称及び住所並びに事業者推認情報は,本件条例6条1項4号の「公開することにより,当該法人等または当該事業を営む個人の競争上の地位その他正当な利益が境なわれると認められるもの」に該当しないから,これらを非公開とした本件処分は違法であり取消しを免れない。

 (3)債権者,プロポーザル参加業者,入札者及び見積り合せ業者の各印影について
 乙1の1,2,2の1,2,3の1,2,4の1,2,5の1,2,6の1ないし3,7の1ないし3,8の1ないし4,9の1,2,10の1ないし5,11の1ないし3,12の1,2,13の1,2,14の1,2,5,15の1ないし3,16の1ないし3,17の1,2によれば,目録記載1(1),(2),2(1),(2),3(1),(2),4(1),(2),5(1),(2),6(1)ないし(3),7(1)ないし(3),8(1)ないし(4),9(1),(2),10(1)ないし(5),11(1)ないし(3),12(1),(2),13(1),(2),14(1),(2),(5),15(1)ないし(3),16(1)ないし(3),17(1),(2)の各文書に,債権者,プロポーザル参加業者,入札者及び見積り合せ業者の各印影が記載されていることが認められる。
 被告は,印影が重要な内部情報であり,公開する相手方は事業者の自由な選択に委ねられるべきであるから,これを公開すると,事業者が選択した以外に印影を公表されない利益を侵害することになる上,それ自体,当該事業者の金銭管理に混乱ないし支障を生じさせ,事業活動に大きな支障を来すおそれがあること,また,これらの情報が金銭の出納又は事業資金の管理に関わるという性質に鑑みると悪用されるおそれが多分にあり,県内外において印章の不正使用事件が起きており,不正使用の危険性が相当程度高いと主張する。 しかし,前記説示のとおり,単に事業者の内部情報であることや,事業者が選択した者以外に印影を公表されない利益の侵害は,本件条例6条1項4号の非公開事由に該当しない。
 また,印影の公開が当該事業者の金銭管理に混乱ないし支障を生じさせる事態は具体的に想定し難い。
 さらに,印影情報が悪用されるおそれについては,その危険性が公開の有無にかかわらず存在しているものであるうえ,その可能性は極めて低い。
 そして,上記各印影は,事業者が自らの事業活動の中において継続的又は反復的に使用することが予定されているものであって,その事業規模や事業形態によっては相当広範囲な取引関係者が知り得る性質のものである。
 そうすると,上記各印影については,公開することにより,事業者の競争上の地位その他正当な利益が損なわれるとは認められないから,本件処分のうち,上記各印影を非公開とした処分は違法であり取消しを免れない。

 (4)事業者(債権者,プロポーザル指名業者,入札指名業者)の調査実績及び入札指名業者等の調査実績等に関する質疑について

  ア 乙1の3,乙2の3)乙3の3,乙4の4,乙5の4,乙6の3,,乙7の4,乙8の5,乙10の7,乙13の4,乙14の6,7によれば,目録記載1(3),2(3),3(3),4(4),5(4),6(3),7(4),8(5),10(7),13(4)及び14(6),(7)の各文書には,事業者(債権者,プロポーザル指名業者,入札指名業者)の調査実績及び入札指名業者等の調査実績等に関する質疑が記載されていることが認められる。

  イ 事業者がホームページ等で自ら公開している調査実績が,本件条例6条1項4号の非公開情報に該当しないことは明らかである。

  ウ 被告は,事業者が他で公表していない調査実績について,それを公表することで当該事業者の社会的評価の低下を招いたり,大衆の賛同を得られないマイナスイメージが露見し,社会的活動の自由に支障を来すなどの不利,不都合が生じると判断されているため公表していないものであるから,それを公開すると,同業他社の比較広告に利用されるなど広く伝播することによって,事業者が有する正当な利益が損なわれるおそれがあると主張する。
 しかし,事業者がホームページ等で公開していないことから,直ちに当該調査実績が当該事業者の社会的評価の低下を招くものであると即断することはできない。
 そうすると,被告は,上記調査実績及び調査実績等に関する質疑のうち,どれが競争上の地位その他正当な利益が損なわれるほどに社会的評価の低下を招くものであるのかを具体的に主張,立証すべきであるのにこれをしていない。 
 したがって,被告において「競争上の地位その他正当な利益が損なわれる」ことの立証がない以上,目録記載1(3),2(3),3(3),4(4),5(4),6(3),7(4),8(5),10(7),13(4)及び14(6),(7)の各文書における事業者(債権者,プロポーザル指名業者,入札指名業者)の調査実績及び入札指名業者等の調査実績等に関する質疑を非公開とした本件処分は違法である。

 (5) 債権者又は入札指名業者の評価に関する質疑,応答について
   ア 乙4の3,13の3,14の6によれば,目録記載4(3),13(3)及び14(6)の各文書には,債権者又は入札指名業者の評価に関する質疑,応答が記載されていることが認められる。
 そして,弁論の全趣旨によれば,乙4の3には,都市整備構想調査について,債権者の社員の調査対応能力に関する企画部契約審査会委員の質問及びそれに対する県担当職員の回答が記載され,乙13の3には,環境と共生した都市システムについての調査について,県が過去に別調査において委託したコンサルタント業者の調査対応能力についての企画部契約審査会委員の質問及びそれに対する県担当職員の回答が記載され,乙14の6には,環境と共生した都市システムの具体的検討調査について,入札指名業者の調査対応能力に関する企画部契約審査会委員の質問及びそれに対する県担当職員の回答が記載されていることが認められる。

   イ 被告は,これらの事業者の評価に関する情報は,特定の調査についての評価にすぎず,また,その評価の内容も短い質疑応答に含まれる断片的なものにすぎないけれども,そのことが一般の住民には理解されず,県の当該事棄者に対する一般的な評価として誤解される可能性を否定できないというべきであり,当夜事業者が他の顧客から受注しようとするに際して弊害の生じるおそれがあると主張する。
 しかし,被告が主張するような事態が発生する可能性は低いと考えられるから,これをもって「競争上の地位その他正当な利益が損なわれる」場合に該当するとは認められない。 したがって,これらの情報は,本件条例6条1項4号の非公開事由に該当しないから,目録記載4(3),13(3)及び14(6)の各文書における「債権者又は入札指名業者の評価に関する質疑,応答」を非公開とした処分は違法であり取消しを免れない。  

 (6)入札指名業者の従業員数について
 乙14の7によれば,目録記載14(7)の文書には,「入札指名業者の従業員数」が記載されていることが認められる。
 被告は,上記情報は事業者の内部管理情報であるから,これを公開することは当該事業者の選択権を侵害することになると主張する。
 しかし,被告の上記主張が採用できないことは前記説示のとおりである。
 そして,上記情報を公開しても,当該事業者の競争上の地位その他正当な利益を損なうものでないことは明らかであるから,本件処分のうち上記情報を非公開とした部分は違法であり取消しを免れない。

4 よって,原告らの請求は,主文掲記の限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,64条本文を適用して,主文のとおり判決する。

 岐阜地方裁判所民事第2部

         裁判長裁判官   林        道   春
            裁判官   古    閑   裕   二
裁判官細野高広は,転補のため署名押印することができない。
         裁判長裁判官   林        道   春