次回第2回期日 2001年3月7日(水)午前10時〜

平成12年(行ウ)24号 首都機能移転情報非公開処分取消請求事件

                     原告 寺町知正  他10名 
                     被告 岐阜県知事 梶原拓

   準備書面(1)
     2001年3月2日
岐阜地方裁判所 民事2部 御中

原告選定当事者  寺 町 知 正
               原告選定当事者    山 本 好 行
    記
 
 本件文書はいずれも自治体の契約についてのものであるところ、契約においては一般競争入札を本来とし、次善策として指名競争入札が現実的に多用され、なおかつその特例として随意契約がある。訴状について被告から具体的反論がないので、入札による契約及び随意契約についての情報の意味について述べ、契約における事業者の情報は、当該事業者の地位を損なうったり不利益を与え得るのではないことを主張する。

第1 岐阜県の契約制度について
 岐阜県は、事業を委託発注等する場合の契約について定め(岐阜県会計規則第125条)、まず一般競争入札を規定している(岐阜県会計規則第109条)。 指名競争入札の場合(同会計規則第137条)、発注する事業毎に入札参加資格者名簿の中から選定基準に基づいて指名した5人以上により競争入札を行う方式(同規則137条3項)を採用している。実際に、指名競争入札を行うに当たって、多くの自治体では入札参加資格を有する業者を予め登録させ、その入札参加資格登録業者を一定の基準で格付けし(格付等級制)、個々の工事に見合った業者の中から指名業者を選定しており、岐阜県でも、発注する工事の種類ごとに業者登録をし、業者の多い工種については格付等級制を採用して、工事に応じて適切な業者を指名しているのである。
 しかし、全国的に業者による談合が発生している中で、岐阜県においては、これを防止するため、様々な工夫をこらし、談合に関する情報があった場合には調査を開始するマニュアルもつくり、実行してきた。
 また、特別な事情により随意契約する場合、複数者から見積もりを徴する、としている(同規則141条)。

第2 我が国の公共事業における予定価格の取扱いの変遷
 入札予定価格には入札に関する情報が総合されているので述べる。
1 我が国においては、明治以来、公共事業が重要な機能を果たしてきたが、その契約制度の運用については、従来から適正な競争確保の観点から社会的な批判や要請が行われてきた。国の中央建設業審議会は、1983年3月、このような批判等に対応するため「建設工事の入札制度の合理化対策等について」と題する建議を公表したが、その中で、適正な競争確保のためには予定価格が的確に設定されるとともに、受注者が的確な見積を行うことが基本であり、このために積算の基本的な考え方や標準歩掛等の積算基準をできる限り公表し、積算基準そのものの妥当性を世に問うとともに、受注者による的確な見積に資し、あわせて、開かれた行政への要請に応えることが必要であるとしたが、予定価格の事前公表については、建設業者の真剣な見積の努力を失わせ、業者間の価格調整を誘発するおそれが大きいので実施すべきではないとし、その事後公表についても、以後の同種工事の予定価格を類推させることとなり、事前公表と同様の問題を招くことから好ましくないとしていた。

2 93年、地方公共団体の首長と大手建設会社の幹部が公共工事をめぐる贈収賄容疑で相次いで逮捕・起訴されたことにより、公共工事に対する国民の信頼が著しく損なわれた。そこで、中央建設業審議会は、公共工事の入札・契約制度全般にわたる思い切った改革に着手することとし、同年末、「公共工事に関する入札・契約制度の改革について」と題する建議を行った。その中で、予定価格をめぐる措置については、予定価格の漏洩と談合によって落札価格が予定価格の直下になっているとの疑念が生じているとの認識を示した上、予定価格の事前公表を行うことにより、これを探ろうとする不正な動きを防止し、不自然な入札を行いにくくすべきであるとの意見、及び予定価格を公表しても競争的な環境の下では必ずしも談合を助長しないとの意見を紹介する一方、83年の建議と同様の理由から、事前公表には問題が多く、事後公表についても、同様の弊害を誘発するおそれがあることから、その適否については慎重に検討する必要があるとするにとどまり、予定価格の事前又は事後の公表については新たな改革案を提示するには至らず、予定価格の漏洩をめぐり国民からいささかも疑念を持たれることのないよう、より効果的な漏洩防止対策などについて幅広く検討を進める必要があるよ指摘するにとどまった。

3 94年10月、当時の連立与党は、公共工事の入札制度に関する改革原案を公表した。同案は、まず、我が国の公共事業の工事単価は国際的にみて割高と言われ、効率的な社会資本整備が行われているとは言いにくく、これらは、硬直的な積算や自由競争原理が十分に働かない発注・人札システムによるところが大きいとの問題意識を示した上、抜本的な入札制度の改革を断行することが必要であるとし、その一つとして、予定価格の公表を取り上げ、汚職の多くは予定価格の漏洩に関するものであり、予定価格を公表することで不公正な競争をなくし、明示された制限価格内での公正な競争の実現をはかるべきであるとした。

4 97年12月、国の行政改革委員会は、その最終意見を発表した。その中で、予定価格制度について、ヒアリングによると、地方公共団体では予定価格に関する情報が入札以前に漏洩し、予定価格直下で落札されるケースが多いとの指摘があったとした上、「積算基準の公表等により、予定価格はかなりの精度で類推可能であり、事後的にも予定価格を秘密にしておくことのメリットは小さい。漏洩に対する取り締まり体制の脆弱性を理由として、逆に談合その他の不正行為の頻発が放置されている面さえある。こうしたことから、落札の実態を公にして第三者による監視を容易にし、不自然な入札を行いにくくするという考え方は十分考慮に値する。また、予定価格の事後公表には、発注者がコスト縮減努力をしているか、コスト縮減に反することをしていないかについて、納税者等が関心を持ち、監視することを可能とする条件を整えるというメリットがある。公共工事の発注においては、事業の効率的執行の要請の一方、例えば地元業者の優遇というような効率性とは別の要請が強く働くことがしばしばである。公共工事の発注者がこのような立場に置かれていることを考えると、競争原理の確保には透明性の一層の向上が不可欠であり、予定価格の事後公表はそのための有力な手段である。」と指摘した。内閣は、これを受けて、同月20日、この最終意見を最大限尊重し、規制緩和、公的部門と民間部門の活動領域の見直しの積極的推進など所要の施策を実施に移すとの閣議決定を行った。中央建設業審議会も、98年2月4日、「建設市場の構造変化に対応した今後の建設業の目指すべき方向について」と題する建議を行い、その中で、予定価格の事後公表が、不正な入札の抑止力となり得ることや積算の妥当性の向上に資することから、これに踏み切り、その具体的な方法等について検討を開始すべきであるとした。

5 これらを受けて、建設省は、同日、同省直轄工事につき、平成98年度から予定価格の事後公表を行う予定と発表し、これを予定どおり実施し、同年10月1日以降に入札を執行した工事からは、随意契約を除く全工事につき、予定価格の積算の内訳についても予定価格と併せて公表することとした。また、同年4月1日には、建設省建設経済局長及び自治省行政局長が、全国の都道府県知事に対し、右建議等の趣旨を十分理解し、公共工事に係る入札・契約手続及びその運用の改善に取り組み、そのことを管内の市町村に周知徹底するよう要請し、これに応じて、多くの自治体が予定価格の事後公表を行うようになり、東京都、岐阜県など一部の自治体では試行的にその事前公表を行うようになった。

6 公正取引委員会は、95年、下水道事業団が全国各地で行う本件工事と同種の電気設備工事の入札に関し電気メーカー9社が多数回にわたって談合を繰り返したとして、右各社とその受注事務担当者及び下水道事業団の発注事務担当者を検事総長に告発し、東京高等検察庁は、同年6月、東京高等裁判所にこれらの者を独占禁止法違反の罪で公判請求し(同庁平成7年(の)第1号事件)、公正取引委員会は、同年7月、右9社に対し、総額10億円を超える課徴金の納付を命じた(同委員会平成7年(納)第541号ないし第549号事件、公正取引委員会審決集42号300頁参照)。東京高等裁判所は、平成8年5月31日、右独占禁止法違反被告事件について、右各社の受注担当者らが、90年以降、下水道事業団の発注担当者から同事業団が発注する電気設備工事の件名及び予算金額等の教示を受けた上、各社間における受注調整を行って不当な取引制限をしたとの事実を認定し、93年度に行われた行為について有罪判決をし、同判決は確定した(高等裁判所刑事判例集49巻2号320頁参照)。
 会計検査院は、下水道事業団の発注する電気設備工事について独占禁止法違反行為が発生した事態を踏まえ、下水道事業団発注工事の一層の適正化を図るという観点から92事業年度から94事業年度までに発注された電気設備工事について重点的に検査を実施した。その結果、機器費の約50パーセントを占める機器について見積による積算を行っていることにつき、今後は、積算価格の客観性及び妥当性の観点から、できる限り各機器の実勢価格を調査検討することにより、見積による積算を少なくすること、及び、機器の据付労務費が作業の多くを工場派遣作業員が行うものとして積算されていることにつき、近年、一部の機器は現場での作業が簡易化しているため、現地雇用の電工等工場派遣作業員以外の者でも対応できるものが見受けられたとし、今後は、据付作業が簡易化した機器については、その作業実態に即した据付費の積算を行うよう調査検討して、必要に応じて積算基準の見直しをすることなどを指摘した。

第3 予定価格には入札情報が総合されている
 入札において予定価格を定める意義は、予め適正価格の上限を設定し、最低入札価格がこれを上回る場合には落札を許さないことにより、落札価格が適正価格を上回ることを防止することにあり、税金で賄われる公共工事においては、限られた予算の効率的な使用という観点から重要な機能を果たしている。
 他方、入札に参加する業者としては、営利企業としての性質上、最大の利潤を挙げることを目標とし、できるだけ予定価格に近接した価格で落札することを目論むのが当然であるが、他の入札者との間で談合が行われていない場合には、他の者との競争上、独自に積算努力をし経営判断等を加味した入札価格を設定するほかなく、すべての参加者がこのような努力をして入札している場合には、競争入札制度は本来の機能を有効に働かせることができるのである。
 このような状態は、業者の側からすれば、入札の都度、多大の効力をしたとしても落札できるとは限らないから、そのような努力をする代わりに一定程度の受注が確保できれば満足しようという、いわば易きにつく傾向が生じやすいことは予想に難くないことであり、ここに談合が生ずる契機がある。このような談合が生じたとしても、それに参加しないアウトサイダーの存在を無視し得ず、予定価格が適切に設定されている場合には、談合の存在が直ちに公共工事の効率的な執行を妨げるものではない。しかし、談合組織はアウトサイダーを排除するためにさまざまの手段を用いるのが常である上、予定価格が公表されない制度の下で、談合組織のみが予定価格に関する情報を不正に入手し、これを基に談合を行うことが恒常的に行われるようになると、談合組織は労せずして最も効率的な落札価格を設定し得るのに対し、アウトサイダーは多大の労力をかけても落札できるとは限らない地位に置かれたままであるから、次第に入札の意欲を失って駆逐され、又は自らも談合組織に加わって一定の受注を受けることに満足することになる可能が大きい。その結果、談合組織が落札を占し得る状態となり、しかも、予定価格が公表されないことから、そのような実態にあることが一般人には明らかとならず、談合組織としては内部の結束を堅めさえすれば外部からの発覚を恐れることなく談合を継続し得ることとなり、談合組織はますます強固となり、その不正の摘発はますます困難となる。また、発注者に適切な予定価格を設定する能力がなく、業者の見積等に不当に影響されて適正値格を上回る予定価格を設定するおそれがあるときには、このことが談合の存在と相まって、落札価格を不当に高額化させることとなり、しかも、予定価格が公表されない場合には、そのような状態が外部から批判される可能性もないまま放置されることとなって、当該入札事務は、制度の根幹にかかわるほど不適正な状態に陥ることとなりかねない。
 したがって、談合組織が存在し、これに予定価格に関する情報が漏洩されていると疑われる客観的な根拠があり、しかも自己の査定能力に無視し得ない疑問が呈されている場合には、発注者としては、事業の適正な執行に責任を負うべき者として、予定価格を遅くとも事務的に公表することによって、予定価格自体につき広く一般の批判にさらして以後の査定を適切なものとすることを目指し、併せて談合組織が予定値格直下での落札を繰り返すといった極端な行動を取ることを牽制することこそが、入札斜度の健全化に資するものと考えられるのであって、その公表を怠ることは、談合の存在及び予定価格自体の問題点を一般の目から隠し、問題の解決を困難にするものであって、その職責に反するものというほかない。

第4 入札情報は公開すべき
1 入札においける情報については、一般的に入札や(随意)契約においては当該事業者の独特の意匠やノウハウ、積算根拠などは提示されない。

2 公文書非公開決定処分取消請求控訴事件は/平成9年(行コ)第114号/東京高裁平成11年3月31日判決は、非公開を容認した横浜地裁判決を取り消したものであるが、入札関係情報の公開に関して、そもそも事業者情報該当性は争点でなく、行政運営情報該当性を争ったものであるが、結局は入札情報を公開しても事業者に不利益や損害を生じないことをも判示しているものである。その内容は次のようである。
 「本件文書中の設計単価並びに工場派遣作業員の労務単価及び歩掛の公開の可否 被控訴人は、本件工事の機器単価は、その特殊性から個別に見積等を徴して決定せざるを得ないことから、これを公表することは以後の見積の公正を担保し難くなると主張し、派遣作業員の労務単価や歩掛についても、同種の問題があるか、これについては労働市場が形成されていないことから、これを公表することにより賃金誘導を招き雇用関係に悪影響を及ぼすと主張している。
 しかし、前記認定の会計検査院の検査結果に照らすと、これらの機器のすべてについて見積を徴して単価を査定することが必要か否か、また派遣作業員を使用することを前提としてその労務単価及び歩掛を非開示としたすべての作業に派遣作業員を使用することが必要か否かについては疑問があるといわざるを得ないし、これを具体的に認めるに足りる証拠もない。また、特注品である機器の単価を公表することによって、その後の見積もりが公正ではなくなるおそれがあるという点は、単価を決定するという単純な方法の妥当性が再検討されるべきであるし、特注品とはいっても特定の業者しか作れない機器というわけではないから、疑問がある場合には他の業者から相見積もりをとることもできるのであり、公表を否定する理由としては薄弱である。さらに、被控訴人が指摘する賃金誘導による雇用関係への影響については、そこで問題とされている雇用関係は、本件工事に使用する機器を製造する業者における内部問題にすぎず、仮に右雇用関係に影響が生じたとしても、横浜市の行う契約締結事務自体に直接的に支障を生じさせるものとはいい難い上、単価等が適正なものであるならば、実際の賃金がこれに接近する現象が生ずることは特に弊害とは評価し難いものであるし、単価はあくまで平均的な者についてのものであって、現実の労働者の個別的な事情を考慮したものではないのであるから、単価と現実の賃金との間に差異が生ずるのは当然のことであり、通常人ならば、このことは容易に理解し得るところである。
 また、被控訴人は、これらの単価や歩掛を公表することにより予定価格の事前公表と同様の結果を招くと主張する。しかし、予定価格を事前に予測されるおそれによる弊害は、前記の入札制度の現状からすると、それほど重視し得ないものであるし、既に一般の公共工事については積算基準のほとんどすべてが公表されることにより、かなりの精度で予定価格を予測し得る状態が生じているのであり、本件工事についてことさらこの点を重視すべき事情も見当たらないから、このことは右単価等を非公開とすべき理由とは認め難い。
 したがって、被控訴人の主張はいずれも採用できず、本件文書中の設計単価並びに工場派遣作業員の労務単価及び歩掛についても、その公開によって横浜市の契約締結事務の公正又は円滑な執行に著しい支障が生ずるとは認め難い。
 よって、控訴人の本訴請求は理由があり、これを棄却した原判決は相当でないから、これを取り消す。」

3 このように、行政運営に支障が生じうるとはいえない、ということがいえるためには、入札に関して事業者が示した各種の情報は、公開されても事業者にとって不利益や損害になると見る必要はないからこそである。

第5 随意契約について
1 随意契約は、契約の相手方を競争によらなず自治体が任意に決定することから、不適正になったり、不公正になったりするおそれが常に指摘されており、その透明性が特段に要求されている。
 地方自治法234条1項は「売買、貸借、請負その他の契約は、一般競争入札、指名競争入札、随意契約又はせり売りの方法により締結するものとする。」とし、同条2項は「前項の指名競争入札、随意契約又はせり売りは、政令で定める場合に該当するときに限り、これによることができる。」としているが、これは、地方自治法が、普通地方公共団体の締結する契約については、機会均等の理念に最も適合して公正であり、かつ、価格の有利性を確保し得るという観点から、一般競争入札の方法によるべきことを原則とし、それ以外の方法を例外的なものとして位置づけたうえで、随意契約の形式は、手続が簡略で経費の負担が少なくてすみ、しかも、契約の目的、内容に照らしそれに相応する資力、信用、技術、経験等を有する相手方を選定できるという長所がある反面、契約の相手方が固定化し、契約の締結が情実に左右されるなど公正を妨げる事態を生じるおそれがあるという短所も有することから、同法施行令167条の2第1項は一定の場合に限定して随意契約の方法による契約の締結を許容することとしたものである。
 そして、同項1号にいう「その性質又は目的が競争入札に適しない」とは、「当該契約の性質又は目的に照らして競争入札の方法による契約の締結が不可能又は著しく困難というべき場合や不特定多数の者の参加を求め競争原理に基づいて契約の相手方を決定することが必ずしも適当ではなく、当該契約自体では多少とも価格の有利性を犠牲にする結果になるとしても、普通地方公共団体において当該契約の目的、内容に照らしそれに相応する資力、信用、技術、経験等を有する相手方を選定しその者との間で契約の締結をするという方法をとるのが当該契約の性質に照らし又はその目的を究極的に達成する上でより妥当であり、ひいては当該普通地方公共団体の利益の増進につながると合理的に判断される場合をいうものと解されるところ、右の場合に該当するか否かは、契約の公正及び価格の有利性を図ることを目的として普通地方公共団体の契約締結の方法に制限を加えている同法及び同法施行令の前記趣旨を勘案して、個々具体的な契約ごとに、当該契約の種類、内容、性質、目的等諸般の事情を考慮して当該普通地方公共団体の契約担当者の合理的な裁量判断により決定されるべきものと解するのが相当である(最高裁判所/昭和57(行ツ)第74号/昭和62年3月20日/第2小法廷判決/民集41巻2号189頁)。」とされている。

2 随意契約の場合、住民に理解されにくいことから、住民訴訟が多々あり、違法性が認定されることもある。

(1)損害賠償請求事件/広島地方裁判所/平成元年(行ウ)第9号/平成10年3月31日判決は、市が民間会社と汚土の収集について随意契約にしたことは違法である。として住民訴訟による損害賠償請求を認容した。その要点は次のようである。
 「本件各契約及びそれ以前の汚土収集運搬業務委託契約の締結に際してとられた手続が、次のような不公正、不透明なものであったことからも窺われる。すなわち、本件規則が予定価格は契約の目的となる物件又は役務について、取引の実例価格、需給の状況、履行の難易、数量の多寡、履行期間の長短等を考慮して適正に決めなければならず(30条、41条及び42条)、そのために、なるべく2名以上の者から見積書を徴しなければならない(43条)と規定して、随意契約の方法により契約締結する場合であっても(あるいは官商結託の弊害の生じる恐れの高い随意契約の方法によるからこそ)、見積書を複数徴することにより、契約の公正、価格の経済性を確保し、契約担当者の技術的判断の補充することとしているにもかかわらず、起案における単価の算出のための計算方法や基礎となる資料が明らかでないこと、被告が右起案に基づきその金額を予定価格と決定したこと、被告備掃社と本件各契約を締結する過程で、被告備掃社からしか見積書を徴しなかったこと、右予定価格は、被告備掃社からは被告牧本が決定した予定価格とほぼ同額の見積金額が提示されたという事情が認められるから、本件各契約を随意契約の方法により締結したことは、その裁量権の逸脱、濫用したものであるといわざるを得ない。
 したがって、本件各契約は、随意契約の方法によることができないにもかかわらず、随意契約の方法により締結されたものであり、随意契約の方法を制限する法令(地方自治法234条1項、2項、同法施行令167条の2)に反するものであるから違法であり、本件各契約の効力は、その余の点(本件各契約内容の公序良俗違反の有無)につき判断するまでもなく、地方自治法2条15項、16項により無効というべきである。」としている。

 (2)呉羽丘陵健康とゆとりの森整備事業差止等請求事件/富山地方裁判所/平成5年(行ウ)第3号/平成5年(行ウ)第4号/平成8年10月16日判決は、「森林整備事業の基本計画、基本設計の委託契約を随意契約の方法によって締結したことを違法とする」として住民訴訟による損害賠償請求を認容した。

以 上

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
             次回第3回期日01年5月9日(水)午前10時〜
平成12年(行ウ)24号 首都機能移転情報非公開処分取消請求事件
                     原告 寺町知正  他10名 
                     被告 岐阜県知事 梶原拓
   準備書面(2)
     2001年4月30日岐阜地方裁判所 民事2部 御中
原告選定当事者  寺 町 知 正
               原告選定当事者    山 本 好 行
     記
第1  非公開部分の分類と主張の整理
 非公開部分の分類と主張の整理を以下のようにする。
 太字は 訴状で既に述べた非公開部分、非公開理由の要点を訴状第二の四 から抜粋し、訴状第四から原告の訴状主張を抜粋する。
 また、処分通知(訴状別紙)では詳しく表示されていなかった「情報の分類」に関して、被告準備書面(1)の添付表中で新たに示された「情報の分類」の主たるものを、楷書字で 《被告整理分》 として整理する。

 1 1号(個人情報)該当に関して
(1)非公開部分D 「契約審査会調書中の個人に関する情報」
   《被告整理分》 個人氏名推認情報(乙8の5)

   非公開理由D 個人の氏名及び当該氏名が推認されうる情報が記載されて          いる

【訴状主張】「個人識別情報」といえるが、記録されている内容は被告が当該事業者と特別の理由をもって(随意)契約する場合のその理由を明確にして、県の取引の公正さ、適正さを確保するための記録・記述であるから、県の公務の適正の証明に他ならず、事業者の関係者等の「個人に関する情報」ではない。

(2)非公開部分E 「見積書中の会議出席委員の旅費、住所に関する情報」
   《被告整理分》 旅費額(乙11の3。乙12の2)

   非公開理由E 公開すると、個人の財産の状況に関する情報が明らかとな          り当該個人に対して回復し難い損害を与えるおそれがある

【訴状主張】住所は単に「東京」「瑞浪」など自治体名の表示であり「個人識別情報」とはいえない。旅費は個人の交通費や日当等に関する情報であるが、単に県の経費の積算等に付随する情報であって、個人の財産の状況に関する情報、即ち「個人に関する情報」とまではいえず、旅費等は誰でも計算あるいは認識し得るし、他人に知られても、当該個人に対して回復し難い損害を与えることはあり得ないし、「個人識別情報」ではない。

(3)非公開部分F 「入札書中の代理人の役職、氏名、印影に関する情報」

   非公開理由F 個人に関する情報であって特定の個人が識別されうる

【訴状主張】事業者の代理としての明示であるから事業者の従業員(支店長等)であるなら、本件条例に規定する事業者情報(四号)として判断すべきことであり、また、仮に特定個人に委任したとしても事業者情報(四号)として判断すべきことである。なお、事業者情報の場合、非公開事由に該当しないのは次項で述べるとおりである。
 2 4号該当(事業活動情報)該当に関して
(1)非公開部分@ 「見積書及び契約書(一部は請書)中の債権者者(一部は          指名業者)及び債権者に係る所在地、名称、印影等に関す          る情報」
   《被告整理分》 プロポーザル参加業者名(乙10の3、同4、同5)
           同指名業者名(乙10の7、同9。乙17の4、同6)           見積もり合わせ業者名(乙15の3。乙16の3)

   非公開理由@ 債権者(一部は指名業者)やその内部管理に関する情報で          あり、公開すると債権者の営業の実態、取引の状況が明ら          かとなり、競争上の地位その他正当な利益が損なわれる

【訴状主張】県の取引の状況等の一部についての事実の記録であり、事業者が通常に第三者に明らかにしている情報であって、内部管理に関する情報とまでいうものではないし、公開しても債権者の営業の実態、取引の状況が明らかとなるものではなく、競争上の地位その他正当な利益が損なわれるおそれはないから「事業者の地位や利益が損なわれるもの」とはいえない。

(2)非公開部分A 「契約審査会調書(一部は「業者選定について」)中の債          権者や指名業者に関する情報」
   《被告整理分》 債権者調査実績(各所)
           債権者推認情報(乙3の3、乙7の4、乙9の3)
           プロポーザル指名業者調査実績(乙10の7)
           プロポーザル指名業者推認情報(乙17の6)

   非公開理由A 債権者(一部は指名業者)名及び当該債権者(指名業者)          名が推認されうる住所、事業内容等の情報または指名業者          が表示されており、公開すると債権者(指名業者)の営業          の実態、取引の状況が明らかとなり、競争上の地位その他          正当な利益が損なわれる

【訴状主張】前記に同じ

(3)非公開部分B 「契約審査会調書(議事録)中の債権者や議事内容に関す          る情報」
   《被告整理分》 債権者の評価に関する質疑応答(乙4の3、乙13の3)           入札指名業者の評価に関する質疑・応答(乙14の6)
           入札指名業者等の調査実績等に関する質疑(乙14の6)
   非公開理由B 公開すると債権者の社会的評価、信用が失われ事業活動が          損なわれるおそれがある

【訴状主張】「事業者に関する情報」であるが、債権者の特別の技術、営業に関する情報ではなく県が持っている通常一般の範囲の情報であって、しかもそこにある情報は事業者の業務等のごく一部であって、公開しても債権者の社会的評価、信用が失われ事業活動が損なわれないから、「事業者の地位や利益が損なわれるもの」とはいえない。

(4)非公開部分C 「契約審査会調書中の指名業者に係る事業内容、従業員、          調査実績に関する情報」
   《被告整理分》 入札指名業者の調査実績、従業員数(乙14の7)

   非公開理由C 債権者の保有する技術、営業に関する情報であって、競争          上の地位その他正当な利益が損なわれる

【訴状主張】前記に同じ
第2 本件文書の特性と公開の必要性について
1 (1)原告準備書面(1)の第1で述べたように、岐阜県は、(岐阜県会計規則/甲第2号証の1、2/第125条)、一般競争入札(同第109条)、指名競争入札(同第137条)、随意契約(同規則141条)の場合を規定している。
 しかし、全国的に業者による談合が発生し、岐阜県においては特にこれが著しいこと(甲第3号証)から、岐阜県はこれを防止し、もしくは対応するため、様々な工夫をこらし、談合に関する情報があった場合には調査を開始するマニュアルもつくり、実行して、県庁記者クラブに情報提供し(甲第4号証の1)、県民にも詳細な情報を公開している(甲第4号証の2)。しかし、それでも談合が絶えないことから、談合についての情報は原則公開することを確認し(甲第5号証の1)、被告知事は定例会見でこれを発表し(甲第5号証の2)、大きく報道された(甲第5号証の3)。入札の予定価格の事後公表を検討しかけたが事前公表を試行し(甲第6号証の1)、関係部署に周知した(甲第6号証の2、3)。実際に、自由に閲覧できる「入札執行一覧」でも確認できる(甲第7号証)。そして、3ケ月の試行期間後の99年4月1日以降は本格実施している。
 また、被告は「情報公開は現在の大きな時代の流れであり、行政の透明性、公正性を確保するためにも公表すべきである」(甲第5号証の1の2枚目の会議内容の欄の4、5行目)、「第三者による監視を容易にすることにより」(甲第6号証の1の3枚目の5 その他 (1)メリット の欄の2番目)、「納税者が関心を持ち、監視することを可能とする条件を整える」(同3番目)と認識しているのである。

2 (1)貴重な県民の税金を原資とするから、契約における公正確保は特に重要とされているのであり、各種通達を行い、周知をはかってきた(甲第8ないし12号証)。もちろん、会計規則付表(甲第2号証の2)でも明確にされている。
(2)「随意契約に係る事務について」(甲第10号証の1)の3の(4)のアのとおり予定価格は想定事項であり、同イにおいて見積もり合わせの場合は「最低の契約希望金額に係る予定先を契約の相手方とし」とあるとおり、入札に準じた手続きが決められている。

(3)随契に関しての説明書添付を求めた通知(甲第10号証の2)の冒頭では「随契をすることができるかどうかの判断を慎重に行うとともに、その判断の根拠を明確にするために」としているとおり(ただし本件公開請求においては、経費支出伺いや添付書類は公開請求していない)、随契にかかる手続きの公正を確保し記録する審査会調書やその議事録は極めて意義深いものである。
 物品の購入について諸通知がされ(甲第11号証の1、2)、審査会も設置すべきとされている(甲第11号証の3)。県の各部局は、この1976年の通知(甲第11号証の3)にならって物品購入審査会を自主的に設置し、物品だけでなく各種契約について、適宜審査会を通していた。
 そして「契約審査会の設置について」(甲第12号証の1)の冒頭には「その果たす役割は一層重要なものになってきている。・・契約事務の適正化に務めていただくよう」とし、第5条6項では「議事録を作成しなければならない」として、記載要件も明示している。また、様式も示されている(甲第12号証の3)。
(4)手続き的には競争原理が働いて適正・公正である、としてなされる入札と比べて、随契は、長や担当者の内部的判断によって契約の相手方が決定されるものであるから、随意契約には入札以上にもまして格別の透明性や公正さが求められているのである。よって、文書公開の必要性もまた、格別に高いのである。

3 岐阜県会計規則第74条「証拠書類」以降では、支出文書における証拠書類について規定している(甲第2号証)が、自治体会計において、支出の証拠書類やこれに関連する支出金調書等会計文書(本件文書もこれに添付されて保存される)にある債権者情報や印影等は重要な記録である。

4 本件文書は、岐阜県公文書規定(甲第2号証の3)第7条1項の六のうちの「契約書等」に位置付けられ、保存期間は同第35条1項の三の「イ 出納に関するもの」もしくは「ロ 調査及び計画に関するもの」に原則的に該当するものの、首都機能移転計画立案に係るものであるという特殊性を考慮すると、特別にそれ以上に保存される可能性も高い、といえる。

5 このように、1号、4号への該当性において、本件文書の特殊性は格別に評価されなければならない。

第3 個人情報・1号該当性について
1 本件条例の第6条1項1号の構造は、個人に関する情報かつ個人識別情報である場合に非公開とすることができ、この際に、個人に関する情報かつ個人識別情報であることは厳密に判断されなければならない。
 特に前段の個人に関する情報であると言える場合は厳密に判断されねばならず、それがプライバシーなど個人の権利を侵害したり、他人に知られたくないと言えるのが通常あるいは正当である場合にこれを非公開とすることができる、だけである。

2 個人が識別でき、個人に関する情報であると思われる情報も各種公表されている。通常に考えて、特にプライバシー保護として問題が無いと考えられるからである。

(1)個人が識別できても、例えば公務員の異動などに関して、新旧の勤務先や所属、氏名は特に秘密にすべきことでもないから、県は従来よりこれを公表し、「転出」「へき地校」「寮母」「新規採用」「特殊教育」「栄養職員」「退職」という属性も公表され、市町村の自治体でも同様に公表している。一部には顔写真も公表されているし、年齢や詳しい職歴や活動歴も報道されている(以上、甲第13号証)。

(2)看護婦看護士、保健婦保健士、助産婦の合格者も公表され、報道されている。個人の賞罰の一種である叙位叙勲も同様である。(以上、甲第14号証)

(3)民間の一般個人の「おくやみ」情報も特に当事者家族に確認せずに新聞で報道されている。自治体の広報でも公表されている。(以上、甲第15号証)

(4)県は議会の損害賠償についての議案書においては個人名・住所、事業者名・住所・車種・車両番号等の事業者情報を公開している(甲第16号証)。

3 名古屋地裁は、公費不正受給で懲戒処分を受け、同返還した校長名・校名等について「公務遂行情報である」「プライバシー侵害はない」として公開すべき、とした(甲第17号証)。

4 岐阜地裁・平成10年(行ウ)8号/情報誌紙名等非公開取消訴訟/12年5月判決は、法人事業者情報(本件条例第6条4号)である「債権者の名称、店名、出版物名、住所、電話番号、代表者名、印影、金融機関名や口座番号等」について、「事業者に不利益や支障を生ずるおそれはないし、事業者は県が県の購入の実態に限ってこれを公開することは忍受すべきこと。」とし、請求の支出とそれ以外の支出とが合算された情報についても、「請求された情報である」として公開を命じ、個人情報(本件条例第6条1号)に関して、債権者の従業員の印影については、「職業は個人に関する情報であり、個人を識別し得るため」として非公開を是認した。この控訴審の平成13年3月29日判決/名古屋高裁/平成12年(行コ)31号、49号は、岐阜県の敗訴部分について、全面的に地裁判決を維持した。加えて原告の附帯控訴に関して、取扱従業員の印影も公開すべきことを命じた。その要点は以下のようである。
 「取扱従業員の印影は、その印影によって表示されている名字に、従業員名簿などの適当な資料を参照することによって、特定の個人を識別することが可能であり、特に雇用している事業者の従業員の人数が少ない場合には、個人を識別することが比較的容易であるといえる。
 ところで、本件条例6条1号が、個人に関する情報であって、特定の個人を識別され得る情報を、原則として非公開とする趣旨は、個人のプライバシーを最大限保護する必要があるが、一方では、プライバシーの概念及び範囲が未だ明確となっていないことから、個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得る情報については、原則として非公開としたものと解される。そして、本件条例では、県民の公文書の公開を請求する権利を明らかにするとともに、情報公開の総合的な推進に関し必要な事項を定めることにより、開かれた県政を実現することを目的とし(1条)、実施機関は、公文書の公開を求める権利が十分に尊重されるようこの条例を解釈し、運用するものとする一方、個人に関する情報がみだりに公にされることのないよう最大限の配慮をしなければならない(3条)と定めている。そうすると、本件条例6条1号の『個人に関する情報』とは、およそ特定の個人が識別され得る全ての個人情報を意味するものではなく、その情報内容が、以下のような情報(略)などとの関連において、当該特定個人の権利を侵害するおそれがあるものを指す相関関係概念であると解するのが相当であり、それ以外のものは、同号によって保護される『個人に関する情報』には含まれないと解するのが相当である。
 本件において、取扱従業員の印影は、当該個人がある時点においてある諸新聞の従業員であったという情報が明らかになるおそれがあるにすぎず、それ以上の情報は何ら明らかになるおそれがなく、公開されたとしても、当該個人の権利を侵害するおそれがあるとは認められない。
 したがって、取扱従業員の印影は、本件条例6条1号の個人に関する情報に該当するとは認められない。」

5 指名競争入札における代理人については、【岐阜県入札事務処理基準】(甲第9号証)において、「1 一般競争入札 (2)入札 ◇要領128A 代理人が・・・」とされていることを受けて「2 指名競争入札 (3)入札 ◇一般競争入札に準じる。」とされているとおりであるから、そもそも、事業者の情報として4号で該当性を判断すべきである。そうでなければ、代理人がと認定した意味がない。
 仮に、4号における判断になじまないとしても、前記のとおり、通常に考えて公開を望まない情報である、とは到底考えられないから、1号に該当しない。

第5 法人事業活動情報・4号について
1 事業活動・法人情報が公開されたとき、業者の社会的評価が低下するなどの不利益を被るとか、当該業者の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるかは、抽象的でなく、具体的に非公開事由該当性が証明されねばならない。
 最高裁判決(文書非公開決定処分取消請求事件[大阪府水道部懇談会議費情報公開請求訴訟]最高裁判所第3小法廷判決/平成2年(行ツ)第149号、判決平成6年2月8日)は大阪府が懇談会に関する文書を非公開とした処分の取消訴訟上告審において、府の上告を棄却した。その要点は、次のようである。
 「本件条例8条には、同条各号所定の情報が記録されている公文書は公開しないことができる旨が規定され、右情報として、法人等に関する情報や事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、公にすることにより、当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの(1号)等が規定されている。・・・本件文書は、府水道部が事務ないし事業の遂行のため外部の飲食店を利用して行った懇談会等についての債権者請求書と経費支出伺とが添付された支出伝票であるが、これらから知ることのできる懇談会等の内容としては、開催日、会合の概括的な開催目的、その出席者数及び府側と相手方との人数内訳、懇談会等が行われた飲食店の名称等、飲食費用の金額及びその明細並びに右費用の請求及び支払の年月日であり、ときには右開催目的の欄に出席者の氏名が記録される場合がある。・・・本件文書に記録されている情報が本件条例8条1号に該当するか否かを検討すると、原審は、前記の事実関係の下において、本件文書には飲食店を経営する業者の営業上の秘密、ノウハウなど同業者との対抗関係上特に秘匿を要する情報が記録されているわけではなく、また、府水道部による利用の事実が公開されたとしても、特に右業者の社会的評価が低下するなどの不利益を被るとは認め難いので、本件文書の公開により当該業者の競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められないとしてこれを否定しており、この原審の判断は、正当として是認することができる。」
というものである。

2 営業秘密ではない(不正競争防止法)
 本件情報は、不正競争防止法からみても本件情報を公開することが事業者に不利益となるとは言えない。
 法人情報等が問題となった情報公開に関する判例等から、本件条例4号の規定は、不正競争防止法と密接な関係を有していることが明らかである。
 不正競争防止法(平成5年5月19日改正、法律第47号)第2条第4項から判断すれば、「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」に該当する情報であって、それらが損なわれる場合、即ちそれらに実質的な被害が客観的に生じる場合に限られる。
 不正競争防止法のこの「営業秘密」に関しては、「秘密としての管理」「有用性」「非公知性」の三つが掲げられている。「秘密としての管理」の要件として、秘密を維持するために合理的な努力を払っていることが必要であり、文書である場合には『極秘』『マル秘』等の表示などにより第三者の取得後も営業秘密であると認識できるような措置が必要、と指摘されている。「有用性」が要件とされたのは、当該情報を保護することに一定の社会的な意識と必要性が認められる情報に限って保護するためである。「非公知性」が要件とされたのは、「非公知であり、不特定の者がその情報を共有していないことにより、独自の価値を有するもの」などである。

3 この点の情報公開についての通説、学説は次のようである。
 「各裁判例をみても明らかなように、非公開にできる法人等情報の内容は、不正競争防止法と密接な関係を有している。天野淑子『法人等に関する情報』(法学教室No,201)では、非公開とされる・・・・」(甲第18号証)とされているのである。

4 昨今、全国各地で自治体職員ら公務員による公金不正使用が発覚し重大な問題とされているが、これらは関係書類の偽造や改ざんによるのが通常であり(甲第19号証)、それは、枚挙にいとまがない。
 そして、県民の税金を原資とする県費の使い途に関して、岐阜県においても事情は同様であって、不正行為は稀ではない。
 県立衛生専門学校における不正経理については個人口座が無断開設されたことが事件の要素であり(甲第20号証)、これには当然に印鑑(印影)も不可欠である。
 貸付金詐取も同様である(甲第21号証)。旅費不正受給については口座使用は報告書からは不明であるが(甲第22号証)、旅費の受領書等に印鑑が用いられていることは当然である。口座操作による不正経理もある(甲第23号証)。
 岐阜県では、最近も、極めて広範囲にわたって、長年行われてきた不正会計処理の事実が発覚した。これは、中山間農業技術研究所の県職員らが会計法規に違反したトリック・操作を行ってなしたものである(甲第24号証)。

5 このように、自治体職員による不正経理こそ県が憂れうべき重大問題であって、この検証は、上司や出納関係者、監査委員らしかるべき職責のものが行うのは当然であるが、公費の使途に関する不正の防止や検証のためには、公文書の一部である領収書・請求書・契約書等の支出証拠書類に記録された口座や印影等を含めて、県民らの検証に因るのが本位であることを本件条例(第1条等)がそもそも予定している、というべきである。
 複写印影から印鑑を偽造するという到底実行困難なことを理由として非公開とするのでなく、広く県民の検証にも委ねるために、口座・印影等を含めて公開することが条例の本旨というべきである。特に、前記の例の如く、現実に県職員の自浄作用が働かない現状を考慮し、しかも、不正に関係者した者や上司が懲戒処分に付されるなど公式に認定された不正行為であることを考えれば、公文書に記録された印影や金融機関名、口座情報は公開されるものであって、いつ何時、県民の検証にさらされるかもしれない、ということを当然のこととしておくことで、自治体と取引する民間事業者を含めて、公務員自ら不正を抑止する効果が極めて高くなると思料されるから、結局、本件情報の公開こそが本件条例の目的を達することである、というべきである。

6 県は、県が各種許認可や指導等の関係で取得した県内の大規模小売店に関して、店舗面積、年間休業日数、主要販売品等についての情報を情報公開室において県民の自由な閲覧に供している(担当課・商工業課)(甲第25号証)。これは、法令の定めに因るのでなく、被告知事の独自の判断である。

7 県は、県が各種許認可や指導等の関係で取得した県内の中小企業団体に関して、名称、住所、電話番号等はもちろん、組合員数、出資総額、資格事業等についての情報を情報公開室において県民の自由な閲覧に供している(担当課・経営指導課)(甲第26号証)。これは、法令の定めに因るのでなく、被告知事の独自の判断である。

8 岐阜県は条例改正し、98年4月より、食糧費執行等にかかる債権者についての法人事業者情報を公開するようになったが、その後も債権者からのクレームもなく、具体的に支障は生じていない。そして、このことは、食糧費執行等にかかる場合だけでなく、(特殊な事案の場合はともかく)県との通常の契約全般にかかる債権者についていえる、と考えても何ら不合理はない。

9 岐阜市は県庁所在地として岐阜県と納入業者や取引先業者が重複することも少なくないところ、岐阜県が非公開としている情報(甲第27号証)について、岐阜市は岐阜県と同じ民間の取引業者の事業者名や住所(甲第28号証の1)、金融機関名や口座番号(甲第28号証の2)を公開している。
 しかし、当該事業者の活動に支障が生じたとか、業者から岐阜市にクレームがついたとか、抗議があったとかの事態は何もない。

第6 特に口座番号や印影について
1 口座番号や印影は取引実務においては、振込で支払うという顧客に対してはすべて開示される、秘密にしておくことなどあり得ない情報である。そうしなければ取引した代金の回収事務に支障を来たすからである。
 一般社会においては、従業員氏名や印影・サイン等と同様に、口座番号や金融機関名、法人印影を相手の氏名や素性が不明な場合でも不特定の債権者(こういう場合は「上様」とするのが社会習慣、商習慣である)にも明らかにすることはごく普通のことであり(甲第29号証の1の左上)、相手方無記名で法人印影を明らかにする場合もある(甲第29号証の3の左上)。この種の例をあげれば際限がない。

2 岐阜県は不正経理事件(甲第24号証)においては金融機関から口座データを取得して(甲第30号証)調査し、これを公開している。
 口座データの中の県と民間業者の取引記録であるが、同時に、「県と金融機関との取引」において、この取引の相手方である金融機関名、本支部名を明らかにし、その取引の詳細な中身を公開していること、にほかならない。
 被告においては、基本的に、取引の詳細を明らかにしても支障はない、との判断が成立しているのである。

3 非公開処分取消訴訟において、印影の公開に関しては情報公開請求によって社会に出された公文書が(民間人によって)「偽造等不正行為に使われるおそれ」が被告の非公開理由として強調される。しかし、押印した公文書の「写し」に記録される複写印影がかすれて精緻を欠くのは経験的に明らかであるから、このように公文書公開によって写しが交付される場合の「極めて不鮮明な印影を原稿」として複製することが困難であるのは明らかである。よって、偽印を造ろうとする者が情報公開による不鮮明な公開文書の印影を用いるはずはないから、結局、公文書による印鑑・印影の偽造のおそれは到底あり得ない、というべきである。

4 口座番号や金融機関名などの口座情報や印影を非公開にすることは実は実施機関にとっても債権者にとっても重要な問題ではない。「裁判例で非公開を認めたものがあるから、ついでに主張して置こう」という程度の論点に過ぎない。だから現にこの問題点について取引業者に意見照会を求めたと裁判で主張した地方自治体は一つもない。地方自治体はとにかくどんな理由でもよいからいくらかでも広範囲に非公開にできればよいという、法を適正に執行すべき立場にはあるまじき考えから非公開処分をしてしまっているために、債権者の振込先銀行名と口座番号についてもついでに非公開にしているに過ぎない。
 それどころか、これを非公開にしてよいと判決で認められてしまった地方自治体はかえって苦労を抱え込むことになってしまった。それは情報公開の事務処理を担当する職員の作業負担(残業や土日出勤)としてのしかかってきた。すなわち、他に特に非公開にしなければならない情報が含まれていない情報公開であっても、印影や口座情報が記載されているならば(決済のともなう文書には通常含まれている)、これを非公開としなければならなくなったことによって、実施機関の職員は、まず、@対象文書を探し出し、A印影や口座情報の有無の確認をし、それらが存在した場合は、B原本のコピーをとって、Cコピーをとったものについて墨塗り箇所を一つの漏れもなくすべて探し出し(見落としをしないようにすることは神経の疲れる作業である)、Dそのコピーに非公開部分の墨塗りをして、Eこれが乾いたところで更に交付用文書としてコピーをとる(墨塗りしたものは墨塗り部分が黒くなるが、文字部分はトナーで盛り上がっているので事実上読めてしまう。)という作業をしなければならない。この部分が非公開になっていなければ@の作業だけで済むのに、非公開とするために更にABCDEまでしなければならない。特に大量の該当文書がある場合、職員の作業量及び作業時間に雲泥の差が出てくることは容易に想像できよう。このような作業を公務として職員に強いる価値があるのか、よく考える必要がある。

5 事業者にかかる情報が、前項に述べた口座・印影も含めて、仮に「一般的には、いわゆる内部管理情報として秘密にしておくことが是認されるものである」としても、情報公開条例を制定した自治体と取引等行う場合は、事業者の選択権によるのでなく、自治体の条例の規定に委ねられる、という筋合いである。
 そして、岐阜県が本件条例を制定したことで、県と関係する他団体あるいは民間団体は、民間社会における慣例以上に公開性、透明性が高まる事態におかれることは仕方ないのである。

第7 公開することの公益性は高い
1 先に述べたように法令や県の会計規則にも明示された契約に関する諸々の手続きを行い、その過程で作成取得される文書を正確かつ適正に保持することは、必要不可欠である。
 これらを情報公開することによって広く県民の検証に係ることを可能とするためにも、また、公文書はいずれ公開される、ということをもって県職員自ら不正を行わないとの自覚を促すためにも、事業者に関する住所や名称はもちろん金融機関等を含めた債権者情報の全面的な公開は極めて有意義である。しかも、この事情は岐阜県に格別である、という事情がある。

2 仮に、事業者名等や印影、金融機関等についての情報が4号柱書に該当するとしても、以上に述べたように、証拠書類の重要性、しかも岐阜県において不正経理が頻発していることを考えれば、事業者に関する事業者名はもちろん、印影、金融機関等についての情報は、本件条例第6条1項4号の但し書のハに該当する、というべきである。
 県民にとって県の取引・契約としての本件情報を公開することの公益性は極めて高いのである。
 さらに、但し書ハにいう「公益上公開することが必要である」の際の「必要性」について、これが狭義に解釈されるなら、但し書を規定した意味が失われるから、但し書ハにいう「必要性」はゆるやかに解釈されるべきものである。

第8 県は、事業者にかかる具体的な情報を公開している。
 被告知事は、特に公開の必要性が高いので、以下の類いの文書を公開している。1 廃棄物処理関係文書
 不適正あるいは違法な廃棄物処理が住民や環境に著しい悪影響を与えるおそれが指摘されている。一方、廃棄物処理業の許可権限は国から知事に委任され、指導監督権限も知事にある。問題がある、あるいは行政処分にかかる廃棄物処理事業者に関する情報を公開すべきとの法令の定めはないが、岐阜県は、業者への命令などの過程において作成、取得した文書を公開している(甲第31号証)。記録されている主な情報は次のようである。
 事業者の立入調査報告書において、現状、指示事項、算定根拠、現場の詳細な図面、他所における法人の業務、法人代表と従業員との続柄、第三者氏名を明示した貸金の状況、債務状況、「改善命令を発してよいか」との伺書や文案、命令名宛人以外の者や第三者である事業者名、連絡先電話番号、従業員名、他の従業員の続柄、現況やその後の対応等、口頭指示の記録、現場のその時点の状況、現場での従業員の言い分、詳細な測量結果、体積計算書、現場写真などである。

2 社会福祉法人関係文書
(1) お年寄りのケア等を行う社会福祉法人の設立認可権限は国から知事に委任され、指導監督権限も知事にある。これら団体あるいは申請関係の情報を公開すべきとの法令の定めはないが、岐阜県は各種情報を公開している。下記の3法人についての公開決定通知(甲第32号証)にかかる文書を次項に示す。
 これらの申請文書に関して、代表(通常は理事長)以外の理事に関しての各種情報や、法人への土地寄付あるいは売買などに関しても種々の情報を公開している。個人情報としての非公開部分は極めて限定的である。
 また、不特定多数にかかわる事業であることなどから、資産状況、予算や決算、資金、将来の償還計画など様々な経理情報を公開している。

(2) 社会福祉法人「はしま」は、00年6月認可であり、00年9月に着工が計画され、約1年後に開所予定であった(本日01年4月30日も工事中である)。まだ、認可の間もなく、工事業者の入札も済んでいない着工前の時点(甲第32号証の公開請求は7月5日で、決定処分は8月3日付けである)で、その施設の内部状況や人員配置、備品などの状況は当然に法人の内部だけの情報であるが、これらに関する情報も公開してきた(甲第33号証)。記録されている主な情報は次のようである。
 設立申請における建設予定地の地番に関する地番、地目、面積、所有者名、所有者の住所、抵当権の存在等、抵当権抹消登記確約書及び当事者の住所氏名等、資産や役員予定者の情報、設立当初の財産目録、申請者側の設立準備委員会の会議に提出された「事業『資金』計画書(事業団借入協議案)」、出損(えん)年次計画表、事業計画書等書類における採用予定の法人職員の氏名、運営スケジュールや人員、設立後の初年度から3年間分の貸借対照表・収支予算書、資金収支予算内訳表には利用収入・運営収入・人件費・福利費・借入金・積立預金等様々の収支見込み、施設建設関係書類、用地提供予定の地権者の自宅位置がわかる図面、諸表における経費の詳細な割り振り、施設ごとの面積の割り振り等、積算書の物品の見積もりの総額等、別紙明細の物品の配置場所や数量、個別の定価等、製品名とその品番、貸付金申込に対する「確約書」の金額・利息免除・担保免除等、借入金償還計画は確約者・利息予定等である。

(3) 社会福祉法人「美徳会」は、98年認可である。これらに関する各種情報は公開されている(甲第34号証)。社会福祉法人「はじま」と同様である。記録されている主な情報は次のようである。
 職員の採用計画等、資金計画等の経理情報、建設計画書、贈与契約書・助成確約書、備品目録等と物製品名とその品番、個別の定価等、請負事業者の各種工事見積の見積額のほか値引率・値引後金額・経費の按分比率等、、各室面積表の施設内の諸構造の面積配分等である。

(4) 社会福祉法人「千寿会」は、98年認可である。これらに関する各種情報は公開されている(甲第35号証)。社会福祉法人「はじま」「美徳会」と同様である。記録されている主な情報は次のようである。
 建設予定地の各人の譲渡確約書、地番、地目、面積、価格、条件等の外抵当権、住所・氏名等、収支予算等書類、建設予定地の特性等や備品等の明細、物品・設備明細や価格、数量、貸付計画及び内定変更通知、償還計画、自治体の経費負担の確約書、事業面積や経費の詳細な配分、請負関係明細書等である。

第9 まとめ
 結局、他の案件については公開しているが、本件事案においては、本件条例の該当性の判断のときになって突然にプライバシー保護の上で問題がある、事業者への支障のおそれがある、との主張に基づく本件非公開処分は条例の解釈を誤ったもので、恣意的なものといわざるを得ない。
 1号に関して、被告は、通常に考えて公開されることを望まず、仮に公開して欲しくないと考えたとして、それが正当なことであるかを、何ら示していない。
 そもそも、被告は、先に引用した平成13年3月29日名古屋高裁判決のいう「相関関係概念である」との理解をしていないから、1号の前段と後段との関係において非公開とすべき情報であるかを検討していない、といわれている。
 また、被告は、「競争上の地位その他正当な利益が損なわれるおそれ」(非公開理由@AC)「社会的評価、信用が失われ事業活動が損なわれるおそれ」(非公開理由Bを非公開処分の理由として主張するけれど、単に条例の文言を引用した程度に過ぎず、それ以上に個別具体的な主張立証はないから、結局、本件文書の内容や議事録等における前後の文脈から判断しても、非公開事由該当性はない、といわざるを得ない。
 長ら行政関係者が、重要と位置付ける特定事業の推進を先走り、後に問題が発覚することは珍しくない。本件文書が、岐阜県が全国で最も熱心に岐阜県に誘致しようとしている首都機能についての県の公務の情報であることに鑑みれば、行政機関や経済界はもちろん、全ての県民にとって最重要のテーマであるから、これらに関する情報が県民につまびらかにされることは、一層重要なことである。

第10 求釈明
 本件の争点かつ被告の主張の根幹に関わる次の点について明らかにされたい。
1 被告は、本件非公開情報に関して、当該事業者や個人に公開することについての意見を求めたか。
 求めたのなら、どの範囲にどのように求め、その意見あるいは結果はどのようであったのか。
 なお、本件条例は、第10条5項において「実施機関は、・・・あらかじめ県以外のものの意見を聞かなければならない」と規定している。

2 被告は、「正当な利益が損なわれる」「事業活動が損なわれる」と主張するが、いわゆる法人事業活動情報を公開している自治体は多い。
 被告はそれら自治体に、実際に事業者に不利益が生じたか、生じたのならどのような不利益か、地位が損なわれたか、損なわれたのならどのようにか、等を確認したのか。
 確認した結果はどのようか。

3 本件文書のうち、特に96年度契約に係る文書は相当の保存期間に入っているし、文書規定(甲第2号証の3)第42条において「文書の廃棄」の原則が定められているところである。そこで、以下、明らかにされたい。
 @本件文書、A本件契約にかかる支出金文書、B本件委託契約にかかる成果物としての報告書等、に関して、それぞれの文書管理において、保存年限はどのように位置付けているのか。また、現在の文書の管理者はどのようか。
  以 上