次回第6回期日01年10月24日(水)11時10分〜

平成12年(行ウ)24号 首都機能移転情報非公開処分取消請求事件
                     原告 寺町知正  他10名 
                     被告 岐阜県知事 梶原拓
   準備書面(5)
     2001年10月23日岐阜地方裁判所 民事2部 御中
原告選定当事者  寺 町 知 正
               原告選定当事者    山 本 好 行

   記

第1 「調査実績」の名称は、単に外形的な情報である
1 審査会調書及び議事録に記録された債権者調査実績は、県や他の自治体などで行った過去の調査実績であり、事業者としては、調査実績を重ねていることが次の受託業務の誘因になるものであって、これを他社(者)に知られて不利益や競争上の地位を損ねる、という性質の情報ではない。
 また、一般的にも、調査報告書が要約版などとして広く周知されることも通常である。
 これらから、県も、他の自治体の実績を知り得るものであった。
 本件に係る調査は極秘とすべき事項についての調査の場合でないのは明白であるから、本件でいう「調査実績」は、「事業・業務」の単なる見出しである。

2 よって、調査実績は債権者名とともに、単なる固有名詞的なものであって、外形的な情報である。これらは、第6条(1項)4号の情報に該当しないのは明かである。

第2 調査実績について
1 一般に調査実績は、各事業者のホームページで公開されることが少なくない。 首都機能移転関連の調査も同様であり、岐阜県関連の発注のものも、公開されている。(甲第59ないし66号証参照)
 なお、研究員名は通常に明示され、事業者の取引銀行を明示した場合もある。

2 乙第3号証の3の文章中に詳しく引用されている「関西文化学術研究都市」関連では、「都市基盤整備公団」のHPのうちの「関西文化学術研究都市」のページ(甲第67号証)がある。

3 乙第17号証の6の2ページ目の中に、「総合研究開発機構(NIRA)のホーム・ページの国内シンクタンク」等の記述がある。これに関して、甲第69号証で誰でもアクセスできる。

4 被告は、準備書面(4)第2の4において、@ホームページにおいて調査実績が公開されていると、それらと組み合わせると事業活動に大きな支障が生ずる、A公開されていない場合、公開、非公開は事業者の自由な選択に任されるべきである、と主張する。
 本件条例は、公開、非公開の判断にあたって事業者に委ねるのでなく、条例の実施機関が「公開した場合に当該事業者の活動等に不利益、支障が生ずるか否か」を判断の根拠とすることを定めている。非公開とした場合は、実施機関が「公開した場合に当該事業者の活動等に不利益、支障が生ずることを立証しなければならない」のであるが、被告の主張はあくまでも、事業者の判断である、というもので、これが条例解釈を誤るのは明白である。
 ホームページ等での事業者による公開は、本件の類の調査業務等を公共(的)団体から受託していることを公開しても、支障がないことを事業者自ら証明しているのである。これら事業者は、ホームページに掲載することが新たな業務開拓になる等と考えているのであって、仮に業務開拓の意図がないとしてしも、不利益にはならないから、である。

第3 事業者の評価について
 被告は、準備書面(4)第2の1及びAに事業者の不利益をいう。
 そのうち、本件情報のうち「企画案選考調書」(乙第17号証の4の5ページ目)について述べる。
 事業者には出要領(乙第17号証の8)の一環として、「評価項目」(乙第17号証の8の3頁目)が相手方に伝達されているのである。
 応募した業者の部門別の評価が表示されているが、これは当該事業者の法人事業者としての「適格」を判断したものではない。
 県が調査委託の相手方としての、当該事業に関して明示された「評価基準」(乙第17号証の7の3頁目)にどの程度合致しいるかを判定しただけである。
 仮に、受託できなかった当該事業者が将来岐阜県の業務を受託したいと、考えれば、評価で示された点を改めればよいことである。
 また、随意契約の相手方の業者選定が恣意的であってはならないから、選考調書は、他者の評価にさらされることが必要なものであって、公開すべき公益性は高いのである。

第4 行政処分の裁量権の濫用は違法
1 被告は、従来より、例えば、 @入札の場合は、「入札執行一覧」を公表していることなどから情報公開においても入札参加業者名を公開し、本件においても同様である、 A事業報告書等の発行物で当該事業に参加・関与した事業者を明示した場合は情報公開においても当該業者名等を公開し、 B各種パンフレットなどでも参加・関与した事業者を明示した場合は情報公開においても当該業者名等を公開し、 C記者発表等の場合に事業者を明かして事業の説明した場合は情報公開においても当該業者名等を公開している。
 これは、既に公開した情報、公開されている情報は、仮に非公開事由に該当するとしても公開することを原則としているからである。

2 行政処分の比例原則
 行政上の不文法源である比例原則が適用されることは当然である。「比例原則は、ドイツ行政法において,市民的法治国家思想を背景に展開されたものが明治憲法時代にわが国に導入され、それが現在にまで引き継がれているものである。平等取扱いの原則は、日本国憲法14条から導き出される。」(塩野宏「行政法T第二版」52〜53頁)。
 従って、その場その場の気まぐれが行政裁量の名において合法化されるわけではない。比例原則を踏まえたものでなければならない。
 比例原則によれば、同じ文書について請求者Aには部分公開をし、請求者Bには全部公開するということは許されない。同じような内容の報告書abがあって,報告書aについては部分公開、報告書bについては全部非公開とすることは許されない。部分公開を日常的に行っていて、当該文書についても日常的に行っているのと同じ部分公開ができるのにそれをしないことは許されない。

3 本件においては、原告準備書面(3)第4の2で述べたとおり、被告は首都機能移転のパンフレットで乙第6号証の調査の委託先を(株)三菱総合研究所としたことを明示している(甲第45号証/42頁の解説)。
 また、原告準備書面(3)第4の7で述べたとおり、乙第9号証の調査について、(財)ソフトピアジャパンについても県は公開しているのである(甲第52号証/末頁)。

4 同じ情報について、ある公開請求に対しては公開し、他の公開請求に対しては非公開とすることは、裁量権の濫用で違法であり取消を免れない。

以 上

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          次回第7回期日01年11月21日(水)10時00分〜
平成12年(行ウ)24号 首都機能移転情報非公開処分取消請求事件
                     原告 寺町知正  他10名 
                     被告 岐阜県知事 梶原拓
   準備書面(6)
    2001年11月18日岐阜地方裁判所 民事2部 御中
原告選定当事者  寺 町 知 正
               原告選定当事者    山 本 好 行
   記
第1 4号の非公開事由該当性は客観的かつ明白でなければならない
 1号が事業を営む個人の当該事業に関する情報を除くと規定し、4号において事業を営む個人の当該事業に係る情報に関して、通常の法人や団体と同様に規定している。
 したがって、1号にいう「個人に関する情報」とは、専ら私事に関するものに限定されるのであって、個人の行動であっても、それが公務に係るものとしてなされた場合はもちろん、法人等社会活動を行っている団体において職務上の行為としてされた場合には、「個人に関する情報」には該当しないから、当該行動については、たとえ行為者を識別する事項であっても、1号に該当しないというべきである。
 このように、本件条例が個人事業者の事業情報については、1号の「個人情報」として保護の対象とすべきではなく4号の対象としている趣旨は、 @個人事業者はその活動が社会に少なからず影響を及ぼす立場にあり、その社会的責任に照らして公益を優先する必要があることから、個人事業者の事業情報は4号としたものであり、 A個人事業主は、その事業と私生活の区別がつき難いことも少なくないことから、その点についての判断を避けるため、個人事業主の事業に関する情報を一律に「個人に関する情報」に該当しないものとしたものである。
 このことからも、本件条例が4号の規定においては、個人か団体・法人かを問わず「事業者」であるが故に、その活動の公益性が前提とされ、事情の明確さを要求していることが明らかである。
 よって、4号の非公開事由に該当すると判断できる場合とは、事業者の不利益あるいは支障が客観的かつ明白である場合に限定されるのである。

第2 事業者の評価について
 原告準備書面(5)第3で事業者の評価について述べたが、被告が進める県営北方住宅の設計事業者との随意契約相手方決定に関して、被告は事業者の評価など各種情報を公開している。
 事業者の選定基準を示し(甲第70号証の1)、個別の評価・方針・経緯などの詳細を明らかにし(甲第70号証の2)、最終の相手方特定方法(甲第70号証の3)も示している。
 これらは、被告がこれら情報を公開しても支障がないと判断し、仮に4号本文に該当しないとしても、随意契約における公開の公益上の必要性の高いこと(4号但し書きハ該当性)を認識しているからなのである。
 これに対して、本件においては、過剰で不整合なまでの非公開理由を主張することは裁量権の濫用であって、非公開処分は取り消されなければならない。
 
第3 公益上の公開の必要性の具体的事情
1 最近、岐阜県国際課の職員が県の公金の詐欺で逮捕された。係る中川高宏氏は、1983年に県庁に採用され、各所を経て、98年3月末までは企画部企画調整課(甲第71号証の1/01年9月26日岐阜新聞)に在籍し、同4月1日より国際課に異動して、当該事件を起こした。
 同氏の前任の企画調整課は、岐阜県の首都機能の誘致運動の開始の初期より「首都機能移転事業」を担当する部署として、本件文書を作成・所持・保管しているのである。
 同氏は、「その気になれば、だれでも簡単に着服できるということか」の問いに、「どれだけ県の会計の仕組みを理解しているかによる。私は長く会計事務に携わっていたため、仕組みが分かっていた」と答えている。少なくても、企画部企画調整課在籍当時から、県の会計の仕組みを熟知したいたことを認めているのである(甲第71号証の2/01年9月26日朝日新聞)。 
 副知事は、「県職員が扱う現金はすべて税金であるとの認識が、これまでは甘かった。その反省に立って職員の意識改革を進め、県民の信頼を回復するしかない」と述べている(甲第71号証の3/01年10月2日読売新聞)。
 さらに副知事は、「透明性は情報公開条例で確保されます」(甲第71号証の4/01年9月30日中日新聞)と述べ、まさ本件条例に基づく県民への情報公開と県民のチェックを前提としていることを明らかにしている。

2 同氏が起案した「首都機能移転パンフレット」の随意契約による購入は、年度末ぎりぎりに「3万部」も突然必要になるなど通常は考えようがなく、単に余った予算の消化目的での購入か、もしくは極めて不自然な行為と考えるしかない(甲第72号証の右上に同氏の署名押印がある)。
 岐阜県の首都機能移転候補地をPRする目的で発注された「岐阜東濃地域PRビデオ製作」事業は、2月1日の支出負担行為整理日とされながら、次年度に入ってしまった4月30日に「3月31日(付け)製作費」と記入した請求書を受理し、5月29日に支払った、という(甲第73号証)。民間事業者がこのような悠長な請求し、支払いを受けることは経営上の不利益を生ずるから通常は想定しがたく、極めて不自然である。

第4 見積書等の情報は公開すべき公益上の必要性が高い
 見積書等の情報は4号の非公開事由に該当せず、仮に該当しても但し書きハの公開すべき公益上の必要性が高いことについて述べる。
1 本件「東濃首都機能移転候補地土地傾斜区分図等作成」事業の各種文書(乙第15号証)に関して述べる。
 当該事業は、前記の中川高宏氏によって96年5月8日付けで起案された(甲第74号証の1/1頁目)。発注する行政側としては随意契約の予定金額を積算し(同3頁目)、契約書に相当する「請書」(案)(同5頁目)を添付して決済する。
 事業者は、5月10日付けで見積書を県に提出した(乙第15号証の2、3)。 県は、上記積算による予定価格の範囲内であり(予定価格を超えたものは規則上、自動的に不適格となる)かつ低価格(本件の場合は他に競争者がいない)の事業者と「請書」のとおり契約したものである(乙第15号証の1)。なお、この請書は、県の支出負担行為書(甲第74号証の2)の添付文書として保存されているものである。
 なお、支出金調書に添付の検査調書は中川高宏氏によって検査されているが(甲第74号証の3)、契約審査会の記録がないので、実際に2者から見積書を徴収したのか、本当に一者は予定価格を上回ったのか、契約審査会の記録がないのだから、疑問は尽きないのである。

2 首都機能移転誘致のための資料として「ランドサット写真パネル作成」業務委託事業は、前記の中川高宏氏によって4月25日付けで(甲第75号証の1/1頁目/右上)起案された。発注する行政側としては随意契約の予定金額を積算し(同4頁目/下段)、契約書(案)(同5頁目)には、簡易の業務明細がある。 県は見積書を一者だけからしか徴収していないのだが、事業者は、4月30日付けで見積書を県に提出した(甲第75号証の2)。
 県は、上記積算による予定価格の範囲内であるとして当該事業者と契約した。
3 「岐阜東濃新首都構想(案)」中間報告書印刷業務について述べる。当該事業の前提である、岐阜東濃新首都構想(案)とは乙第8号証の事業のことであり、その中間報告書を増刷しよう、という事業である。
 当該事業は、97年度の事業であり、同6月27日付けで起案された(甲第76号証の1/1頁目)。発注する行政側としては随意契約の予定金額を積算し(同3頁目、5頁目)、「予定価格」との表示もあり(同5頁目/下段)、契約書案には委託業務仕様書も添付されている(甲第76号証の2)。
 前記一者との契約を了解した契約審査会調書は6月27日付けで審査されたことになっている(甲第76号証の3)。起案と同時に審査を了解するなど、著しく形式的である。
 事業者は、6月30日付けで見積書を県に提出した(甲第76号証の4)。
 県は、上記積算による予定価格の範囲内である事業者と契約した。以上の書類は支出金調書に事業者請求書と供に添付文書として保存されているものである(甲第76号証の5)。

4 (1) 以上、発注する行政側は、通常に想定される要素と経費等から必要経費を試算するものであり、これがいわゆる「予定価格」である。
 予定価格は、入札の場合にしろ随意契約の場合にしろ、行政職員が通常に積算できる程度のものであり、この程度の範囲での当該事業者の積算を示した書類に記録される情報は、他の事業者との競争上の地位を脅かすとか、不利益を与えるおそれがある、というものではない。よって、4号本文にはあたらない。

 (2) ところで、この予定価格を前提に規則上、複数者から徴収した見積書との比較のもとに、適格な最低予定価格者と随意契約するのだから、予定価格が相手方に事前に漏れていないか、特定一者だけに漏れていないか、などは極めて重要な事項である。これらの適正が保たれ上で初めて、見積書の内部や額等が審査・検証されるのである。
 行政の積算との対比が重要な観点として存在するのだから、事業者の示した見積書の額・明細等は、首都機能移転誘致事業の本来的目的である新しい都市造りという性格に鑑みれば、公開すべき公益上の必要性は極めて高い。
 よって、本件情報が、仮に4号本文に該当しなくても、但し書きハに該当する。
 (3) しかも、不祥事を起こした職員のかつての起案や検査に係る事業である場合、あるいは当該所属課が行った事業に関しては、その後もより厳しく検証されざるを得ない事情があることは疑いない。また前記副知事の弁になる「情報公開条例での透明性確保」の一環としても、公益上の公開の必要性は極めて高い。
第5 被告準備書面(6)への反論
1 同書面第1の1の「対応能力が具備されているか」について、客観的に具備されているかの評価が記録されているのでなく、単に発注者としての被告が、当該発注目的に係る業務を遂行する上でよりどこが適当かの意見、つまり個別の事業にかかる担当者らの意見であって、それが公開されても、客観的に見て、当該事業者に不利益や支障が生ずるものではない。また、公益上、首都機能移転誘致に関連する事業が適正公正になされる必要性は極めて高いから、この点でも被告主張は失当である。

2 同書面第3の1に関して、当該事業者が自らインターネット上で公開していないからといって、公表することが不利、不都合が生ずると判断している、との主張は単なる被告推測であって、実質は、インターネットを業務の一環に位置付けているかいなか、の違いである。
 少なくても、本件訴訟との関連においては、インターネット上で公開されている情報は、一般的にみて、それら情報を公表しても、当該企業等に不利、不都合が生ずると言えないと考えまちがいない、ということをとらえるべきものであるから、被告主張は的外れである。
以 上

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