訴 状


   岐阜県山県郡高富町西深瀬二〇八番地の一
         原  告  寺  町  知  正
                 他一〇名  (目録の通り)

   岐阜市薮田南二丁目一番地の一
         被  告  岐阜県知事
                梶  原   拓
        被  告  岐阜県教育委員会教育長
                 日  比  治  男

県寄付土地買戻金支出一部差止請求事件


      訴訟物の価格   金九五〇、〇〇〇円
      貼用印紙額      金八、二〇〇円
      予納郵券      金一一、二三〇円
               一〇四〇×(五+二)  
               五〇〇×五 一〇〇×五  八〇×五 
               五〇×五  四〇×五  一〇×一〇

二〇〇〇年二月一〇日
岐阜地方裁判所民事部御中

   請求の趣旨


一、被告岐阜県知事梶原拓、被告岐阜県教育委員会教育長日比治男は、岐阜大学医療技術短期大学の跡地(岐阜市北野町七〇番一)を県立盲学校用地として取得するために、一五億一七六五万九〇〇〇円を超えた支出をしてはならない。

二、訴訟費用は、被告の負担とする。
 との判決を求める。

    請求の原因


第一当事者


一 原告は肩書地に居住する住民である。
二 被告は、岐阜県の執行機関又は職員である。

第二監査請求


一 原告らは、九九年一二月六日付けで監査請求を行い、監査委員は二月三日付けで「棄却する」と決定通知した(甲第一号証)。

二 請求に対する監査結果
・三一億七三一九万五〇〇〇円は用地取得及び損失補償の債務負担行為の限度額であり、算定は九八年度の当該地の路線価を基にした。

・七〇年一月一日に、県立医科大及び付属病院の経営状態、施設の充実度が低く、国立移管で県財政負担軽減、医療水準向上を目指して行ったことの一環であって、単なる寄附行為ではない。

・国は、岐阜大学医学部関係移転で多額の支出をしていること等から時価売買の方針であって、法的な譲与もしくは減額措置は困難である。

・盲学校の速やかな移転改築が迫られているが、当該地が最適の移転先である。

・当該地の既存施設は建設後二〇年以上たち、構造的にも盲学校としての改修は困難である。

・現在、県は少しでも安い価格で取得できるよう国と折衝にあたっている。

等によって、請求に理由はないので棄却する、というものである。

三 監査委員の除斥


1 四名の監査委員のうち三名は、左記の理由により、最近の自らの職務を否定するようなことは困難であるから、中立・公正な監査、判断を期待することはできないから、地方自治法(以下、法という)第一九九条の二に規定される直接の(しかも自らの)利害関係事件として当然に除斥の対象である。

(一)代表監査委員白木昇は三月五日付け譲渡要望書(第二号証)に明記されている通り、本件土地 の先行取得者である岐阜県土地開発公社(以下、公社という)の理事長として、本件土地取得に関する手続きや債務負担行為に関する試算、県との委託契約の実質的な事前合意に関する協議に当たっての意志決定者である。そして九九年四月に県代表監査委員となった。その後の公社の作業は後任者が実務的に進めてきただけである。

(二)本件は債務負担行為の議決(甲第三号証)がなされなければ支出が確実になることはなかった。
県議会選出の二名の監査委員は、右債務負担行為の議決の当事者で、しかも賛成した立場である。 

2 右三名が除斥になれば残るは丹羽委員一人であるが、丹羽委員は公社による本件先行取得などについても通常の業務監査において説明を受け、本年の予定事業としても承知していたはずであるか ら、これを白紙でみるような公正・中立な視点は期待し難い。

3 本件監査は、右1の通り、法第一九九条の二「除斥」に違反してなされた。

四 監査委員の監査に代えて個別外部監査契約に基づく監査によるべきである。
1 原告らは「支出予定額が極めて高額で、特別な経緯を有していることなどを考慮すれば、従来の住民監査請求制度における欠点を補完するために九九年四月から新しく制度化された個別外部監査契約に基づく監査は意義が大きい」と個別外部監査を求めたが、監査委員は、法第二五二条の二八第一項各号で規定する外部監査人による監査に付すべき特段の理由が認められない、とした。

2 しかし、本件は、土地に特別な経緯があること、用地費が極めて多額であること、監査委員の除斥に該当することなど、個別外部監査に付すべき特段の理由があるから法第二五二条の四三第一項に基づいて外部監査人による監査とすべきである。

第三差止めを求める財務会計行為


岐阜県は県立盲学校の移転用地として岐阜市北野町七〇番一の土地一万六六七四uを、九八年度の当該地の路線価を基に算出した(甲第一号証・6の(1))三一億七三一九万五〇〇〇円(利息を除く)を上限として文部省より購入する目的で、公社に先行取得の委託契約に必要な債務負担行為及び本年度の損失補償額一五億一七六五万九〇〇〇円の債務負担行為の議決を九九年三月県議会で行った(第三号証)。

第四当該行為がなされる蓋然性及び回復困難な損害の発生のおそれ



1 東海財務局も国有財産東海地方審議会の答申を得て岐阜県への売払を了承(第四号証)している。

2 県と公社は九九年一〇月二一日、「先行取得に関する契約」を締結した。県と国との価格交渉が成立したら、県と公社は「用地先行取得貸付金」に関する契約を締結し、県が公社に資金の一部を貸し付け、公社が当該用地を国から先行取得し、県は二〇〇〇年度から四年間で再取得する予定となっている(甲第一号証・6の(3))。

3 実際の当初の計画では、二〇〇〇年一月初旬には売買協議を成立させ、県は速やかに土地開発公社と取得委託契約を締結、公社は三月までに登記等完了し、一方、県は三月議会に取得費の一部を「一一年度補正予算」として提案、可決されれば直ちに公社に支払い、残金は後の三年以内に完了する(甲第四号証・用途指定欄)予定であった。

4 右の諸経緯から、このまま放置すれば予定通り支出行為がなされることは確実である。

二 法第二四二条の二の第一項一号は住民訴訟の類型として「当該行為の全部又は一部の差止め」の請求を認め、この場合第一項本文において「ただし、第一号の請求は、当該行為により回復の困難な損害を生ずるおそれがある場合に限る」としているところ、本件は支出の予定されている額が極めて高額であって、後日、違法な支出と認定されても県幹部らが右損害を賠償することは到底不可能で、事前に差止めなければ、岐阜県の損害は回復不能なものとなる。

第五本件支出の違法性


一 本件土地はもともとは岐阜県所有で、一九七〇年に国に譲与したものである(第五号証)。
この寄附は、国が、我が国の医療水準向上のために、全国各県に一以上の国立大学医学部(医科大学)を設置する政策を進めていたことが前提であって、監査委員の認定(甲第一号証・6−(4))のように、何も岐阜県の窮状打開を目的としたものではない。本件取得予定地の発生は国立大学の諸学部諸施設統合という事業に因るものであるから、行政的協力はともかく、三割自治といわれるように国が国民・県民の税金を随意に地方に交付、補助など配分する現状を考えれば、この経費を県が一部担う必要はない。
国と県が売買価格を設定するといっても、所詮、国民・県民の税金を右から左に動かすだけであって意味のないことであり、端的に言えば、うわべの金の流れを作っているだけであるから、価格協議はそもそも建設的なものではない。
県関係者らが廉価を要求する(第六号証)努力は評価されるとはいえ、このような土地をそっくり、県が国の回答の通り(第七号証)に、素直に「時価での取得を前提とする」(第八号証)というようなことは、財政が逼迫し県民のための諸事業が縮減され、起債残高は九五〇〇億円(本年度)にのぼり、これは二一〇万県民一人当たり四五万円もの借金に相当し、さらにその元利償還金だけでも県民 一人当たり年間三万円をかかえる現在、率直な県民感情、納税者感覚としては、決して容認できない。

二 一般の土地取引において「その取引価格は本来取引当事者の自由な意志の合致によって定められるべき事柄であり、地方公共団体が公共の利益となる事業に必要な土地を売買契約に基づいて取得する場合も同様である」とされている。これに対して、減額を求めたことへの国の回答は「跡地等の処分は原則として時価での売払い」(第七号証)と一般的な国の方針を述べているだけであるから、本件土地の特別な経緯を考慮すれば、国の「時価での売買」原則を本件に適用すべき必然性はない。

三 本件については、盲学校用地として国有財産特別措置法第三条第一項一号ハで減額する制度(第六号証)もある。

四 地方財政再建促進特別措置法(以下、地財再建法という)第二四条二項本文は「国等に対する地方自治体の寄附金の支出等を禁止」し「但書で特例」を定めている。禁止した目的は、国等が地位を背景に経費を寄附の名目で地方その負担を転嫁したり、地方が国等の機関を誘致するために国等の経費を進んで拠出するという事態が生じ、ひいては、国等と地方との間の経費負担区分を乱し、地方財政秩序の混乱を防止するものであるところ、当時の寄付行為が自治省の承認を得ていた(甲第一号証・6−(4))としても、国と地方との間の経費負担区分を乱すことを禁止した地財再建法の右主旨を考えれば、同法の特例としてなされた寄附による土地を原所有者である地方公共団体が再取得する場合は地方財政再建に特段の配慮をすべきことは当然である。そうでなければ、「但書で特例」として承認した意味がなくなる。

五 本件土地は一万六六七四uに及ぶ広大な土地であり、それまで学校用地として利用されてきた土地であって、その面積、地域性からいって買い手がつくことは極めて困難な性質の土地である。民間私人ないし私企業がこれを取得しても採算可能な投資とはいえず、地方公共団体や公法人等にでもこれを売却しなければ売買が成立する可能性のない土地である。このように極めて買手優位の売買である。

六 昨年一一月二六日に県固定資産評価審議会が公表した路線価、評価額では、岐阜市内は三年前比で四二%下落している(甲第九号証)。右の取得経費の上限試算は、九八年度のものであるから、現在は、かなり下落しているのは当然である。

七 地方公共団体の事務を処理するに当たっては、最小の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならず(法第二条一三項)、経費はその達成するために必要且つ最小の限度をこえて支出してはならない(地方財政法第四条一項)とされている。
《平成七年(行ウ)第五一号損害賠償請求事件・平成九年四月二五日・東京地裁判決》は、「普通地方公共団体は、その事務を処理するめたに必要な経費を支弁するものであるから(地方自治法第二三二条一項)、具体的な支出を普通地方公共団体の事務処理のための経費と解することができない場合、当該支出は違法というべきである。また、普通地方公共団体の事務を処理するに当たっては、最小の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならず(同法第二条一三項)、経費はその達成するために必要且つ最小の限度をこえて支出してはならない(地方財政法第四条一項)から、普通地方公共団体の事務処理経費に該当する場合であっても、右規定に抵触する各個の支出は違法と評価され得るものというべきである。・・・したがって、具体的な支出が当該事務の目的、効果との均衡を欠いているときは不当の評価に止まるものであるとしても、具体的な支出が当該事務の目的、効果と関連せず、又は社会的通念に照らして目的、効果との均衡を著しく欠き、予算の執行権限を有する財務会計職員に与えられた裁量を逸脱してされたものと認められるときは、違法というべきである。」と判示した。

地方財政法第四条一項は個々の経費の支出目的達成のための必要かつ最小の限度をこえて支出してはならないとするもので、このことは執行機関に課された当然の義務であり、法第二条一三項の「最小経費による最大効果」の原則を、予算執行の立場から表現したものである(石原信雄・地方財政法逐条解説)。従って、「必要かつ最小の限度」をこえてされた支出は、地方財政法第四条一項に違反することになり、このような違法な支出をした執行機関は地方公共団体に対する損害賠償義務を負うことになる。そして、その違法性の判断基準となる「必要かつ最小の限度」については、個々の経費について個別具体的に判定されるべきであって、その判定は、広く社会的、政策的ないし経済的見地から総合的になすべきである(石原・前掲)。
《平成一年(行コ)第二四号・損害賠償請求控訴事件・名古屋高等裁判所判決》は、「地方財政法四条一項は、予算執行機関に法的義務を課したものと解するのが相当である」と判示している。
《昭和五六年(行ウ)第八号・名古屋地方裁判所判決》も同旨である。

八 以上の点から、地財再建法の趣旨を無視し、本件土地を「国のいうままに、時価で取得すること」は、社会通念上決して許されるものではなく、公序良俗や信義則にも反し、当該用地取得への支出は違法もしくは著しく不当である。また、法第二条一三項、地方財政法第四条一項にも違反する。

第六まとめ


以上のことから、被告岐阜県知事梶原拓、被告岐阜県教育委員会教育長日比治男は、岐阜大学医療技術短期大学の跡地を県立盲学校用地として取得するために、訴外岐阜県土地開発公社に対して上限を三一億七三一九万五〇〇〇円とする土地代金の支出を予定しているところ、一五億一七六五万九〇〇〇円を超えた支出をしてはならない。

 

     以 上

 

《証 拠 方 法》 
     口頭弁論において、随時、追加提出する。
     右  原  告  寺町知正 外一〇名

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

岐阜地方裁判所民事部御中

《添付書類》

甲第一号証   九九年一二月六日付け住民監査請求に対する二月三日付け監査結果通知書

甲第二号証の一 九九年三月五日付けの県から国への譲渡要望書 

甲第二号証の二 本件用地及び盲学校の周辺図


甲第三号証   九九年度三月県議会当初予算明細書の県土地開発公社に関する債務負担行為部分及び債務負担行為にかかる事業等の内訳

甲第四号証   第九〇回国有財産東海地方審議会・九九年五月一九日議事次第及び諮問事項第二号書

甲第五号証   一九七〇年に岐阜県が文部省に譲与したことを示す閉鎖登記簿の一部


甲第六号証   九九年三月五日付けで県から国へ提出した減額要望書

甲第七号証   右減額要望書に対する三月二五日付け国の回答書

甲第八号証   右回答に対する県の決済文書 

甲第九号証   九九年一一月二六日付けで県固定資産評価審議会が公表した路線価、評価額

以 上

当事者目録《原告》
岐阜県山県郡高富町西深瀬二〇八の一
     原  告     寺  町  知  正  
岐阜県美濃市大矢田一四三四
      原  告     後  藤  兆  平
岐阜県揖斐郡谷汲村岐礼一〇四八の一
原  告 山  本  好  行
岐阜県加茂郡八百津町伊岐津志一四〇五の一
     原  告     白  木  康  憲
岐阜県山県郡高富町西深瀬二〇八の一
     原  告     寺  町    緑  
岐阜県養老郡上石津町上鍛冶屋九七の一
原  告 三  輪  唯  夫
岐阜市御望九五六番地の十四
     原  告     別  処  雅  樹 
岐阜県養老郡上石津町三ツ里一二三
原  告 藤  原    進  
岐阜県不破郡垂井町一二九二
     原  告 白  木  茂  雄
岐阜県可児郡御嵩町上恵土一二三〇の一
原  告 小  栗    均
岐阜県加茂郡八百津町潮見四〇七
     原  告     宮  澤  杉  郎


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