訴   状


   原  告  寺  町  知  正
         他一〇名  (目録の通り)

        被  告  岐阜県知事梶原拓
                 岐阜市薮田二の一の一
        被  告  梶原拓
                岐阜市御手洗三九〇の二〇
        被  告  藤田幸也
               岐阜市神田町四の二
        被  告  長崎章
               関市桜ヶ丘三の二の六

架空出張旅費返還請求事件


       訴訟物の価格   金九五〇、〇〇〇円
       貼用印紙額      金八、二〇〇円
        予納郵券 金一三、三一〇円
 
二〇〇〇年一〇月一九日
岐阜地方裁判所民事部御中

   請 求 の 趣 旨

一、被告岐阜県知事が衛生専門学校において架空の出張により違法に旅費を取得した関係職員に対して、その総額を返還せよと請求することを怠ることは違法であることを確認する。

二、被告梶原拓、同藤田幸也、同長崎章は、岐阜県に対し、連帯して、金八九五万六八七〇円及びそれに対する本訴訟送達の日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

三、訴訟費用は、被告の負担とする。
  との判決、ならびに第二項につき仮執行宣言を求める。

  請 求 の 原 因

第一 当事者

一 原告は肩書地に居住する住民である。

二 被告岐阜県知事は、岐阜県の執行機関である。

三 被告梶原拓は八九年施行の岐阜県知事選挙において当選し、九三年、九七年と再選され、以降もその職にあるものである。

四 被告藤田幸也は、九五年度より岐阜県出納長である。

五 被告長崎章は、本件事案の九五ないし九八年度、岐阜県衛生専門学校次長兼総務課長であった。

第二 本件支出の経緯と違法性

一 岐阜県立衛生専門学校(岐阜市野一色)は組織ぐるみで、教職員らに「架空の出張行為」の経費を請求させ、これに旅費を支給(一旦は個人口座へ振込む)、その後の随意な時期にこれを教職員らから徴収し、それを年度に関係なく預金あるいは現金等でプールし、組織的に保管・蓄積し、任意・随意に運用し続けた。

二 九九年三月頃、匿名の投書によってカラ出張によるウラ金作りの指摘があり、県が九九年四月頃に調査、事案の概要を認定したものである。
 県(現・健康福祉環境部医療整備課)は、九四年以前は不問にし、九五〜九八年度の旅費に関して六一八件・五九一万二六九八円、同賃金に関して二八件・二三八万六九一〇円、合計六四六件・八二九万九六〇八円と認定した(甲第二号証)。
 そして、同年一〇月、知事は自らは何ら処分せず、関係者一五人を懲戒や口頭注意等の処分に付した(甲第三号証)が、関係者に対し賠償措置を命じなかった。

三 ところで、県の臨時雇用者賃金等に充当したと認識したという説明は、当事者の申告分を鵜呑みにしただけであって、その確たる証拠もなく、確認作業も何ら行われていない。現金での残余分は戻入た、と説明しているが、その確たる証拠もない(甲第二号証)。
 右金員を人件費や資材費用等のために支出されたとの証拠は何もないから、私的な費消、流用の可能性がある。実際、不正金管理の記録等はないとされている(甲第四号証)。

四 もし仮に、本件が人件費や資材費用等に支出されたとしても、そもそもそれが当該部局の事務事業の遂行に真に必要なものであるなら、県の財政当局は、その雇用労力や物品・資材購入等を認めて、それぞれ予算措置しているはずのもである。普通地方公共団体は、その事務を処理するめたに必要な経費を支弁する(地方自治法(以下、「法」という)第二三二条一項)ものであり、種々の会計法規も定められ、事務を処理するに当たっては、最小の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならず(同法第二条一三項)、経費はその達成するために必要且つ最小の限度をこえて支出してはならない(地方財政法第四条一項違反)から、普通地方公共団体の事務処理経費に該当する場合であっても、右規定に抵触する各個の支出は違法と評価され、予算の執行権限を有する財務会計職員に与えられた裁量を逸脱してされたものと認められるときは、違法というべきである。
 よって、どの地方公共団体も限られた歳入の中で予算計上し効率的な運営に努めている。
 しかし右人件費や資材費用等は、岐阜県会計の年度毎の現状からすれば事務事業の遂行のためにその時点において不可欠な経費とは判断できないことから予算要求もせず、あるいは財政当局も予算措置していないのである。
 実際、土木・建設関係等の出先機関を除いて、岐阜県の大部分の部局における臨時雇用職員(一種)は一人だけである(甲第五号証)。

五 いずれにしても結局は、本件金員は職員らの独自の判断で、自らのために岐阜県庫から法令に違反して金員を奪取し、これを任意に使用し、もしくは使用しようと蓄えたもの、という事実に何ら変わりはない。

六 これらの行為は、法第二〇八条《会計年度及びその独立の原則》、法第二一〇条《総計予算主義の原則》、法第二一六条《歳入歳出予算の区分》・法施行令第一四七条、法第二二〇条《予算の執行》・同施行令第一五〇条/岐阜県会計規則第三八条《支出命令》、同規則第四四条の二《資金前渡》(法施行令第一六一条一項一四号「前各号に定めるもののほか、経費の性質上現金支払いをさせなければ事務の取扱に支障を及ぼすような経費で普通地方公共団体の規則で定めるもの」の規定による経費として資金前渡をすることができる。「三、運賃 一四、賃金」)/地方公務員法第三〇条《服務の根本基準》、地方公務員法第二九条一項《懲戒》、地方公務員法第三二条《法令等に従う義務》、地方公務員法第三三条《信用失墜行為の禁止》/刑法第一五六条《虚偽公文書作成等》、刑法第一五八条《虚偽公文書行使等》などの法令に違反する。
 被告らが、架空出張で公金を不正に使用したことは、社会通念上も決して許されるものではなく、公序良俗や信義則にも反している。

第三 監査請求前置

一 原告らは、二〇〇〇年七月二八日付けで法第二四二条一項に定める監査請求を行い、監査委員は九月二六日付けで、「流用金額は金八九五万六八七〇円」と認定した上で、「棄却する」と決定通知した(甲第一号証)。

二 請求に対する監査結果
 監査結果の要点は次のようである。

 『請求は当該支出のあった日から一年を経過して行われたことは明らかであるが、同項ただし書きに定める「正当な理由」があると認め受理した。
 岐阜県衛生専門学校が、必要経責の予算措置及びその執行をするにあたり、岐阜県予算編成執行規則で定められた正規の手続きを怠り、必要な資金を確保するために、安易に、旅費や賃金の不適正な支出を行ったことは極めて遺憾である。しかしながら、不適正な支出額の実際の使途が、私的な着服や費消ではなく、結果において、岐阜県にとって有益な支出であったと判断されることから、岐阜県に損害が発生しているとは認められない。したがって、本件請求に係る請求人の主張は、棄却する。
 岐阜県は、地方公務員法第三二条に違反するとし、関係職員を処分した。
 監査委員として、@あってはならない不適正な事務が行われていたことは、その経緯の如何にかかわらず極めて遺憾である。A執行機関への指導の徹底を図るとともに、適切な科目による予算措置並びに適正な執行に鋭意努めることで、県民の信頼を回復し、その負託に応えるよう強く要望する。』

第四 知事の損害賠償請求義務及び怠る事実の違法確認請求

一 本件において未だ時効(法第二三六条一項《金銭債権の消滅時効》)は成立しておらず、関係者には返還責任(法第二四三条の二《職員の賠償責任》「一項/出納長若しくは補助職員、資金前渡を受けた職員は故意又は重大な過失により生じた損害を賠償しなければならない。」)があり、岐阜県知事には賠償請求義務(「同・二項/長は監査委員に対し、賠償責任の有無及び賠償額を決定することを求め、その決定に基づき期限を定めて賠償を命じなければならない。ただし、その事実を知った日から三年を経過した時は賠償を命ずることはできない」)がある。
 法第二四二条の二の一項三号「財産の管理を怠る事実」の財産とは、法第二三七条一項の「財産」と同義とされ、同条は財産とは「公有財産、物品、債権、基金」をいうと規定され、第二三八条一項が公有財産、第二三九条が物品、第二四〇条が債権、第二四一条が基金の定義をそれぞれ規定している。債権とは、金銭の給付を目的とする権利であって、地方公共団体が第三者に対して有する不法行為に基づく損害賠償請求権、長・職員に対する雇用契約の債務不履行(職務違反などがある場合)に基づく損害賠償請求権、不当利得返還請求権などが含まれている。

二 右違法若しくは著しく不当な行為によって生じた岐阜県の損害(金八九五万六八七〇円)に関して、被告岐阜県知事には職員に返還を命ずる義務(法第二四三条の二)があるところ、損害の補填を実現する措置を何ら講じていないことは、右「怠る事実」に該当する。よって、原告は本件訴訟において、被告岐阜県知事が関係職員に賠償請求しないことが違法であるとの確認を求める。

第五 職員の損害賠償責任

一 本件違法な財務会計行為に関する被告らの故意あるいは過失責任は極めて重大である。よって、原告は、地方自治法第二四二条の二の一項四号に基づき、岐阜県に代位して、本件違法支出によって岐阜県が損害を受けた全額の金八九五万六八七〇円に関して、各被告に相応した額の損害賠償を請求する。

二 被告梶原拓は知事として県の支出のすべてに責任を有しているにもかかわらず、本件行為を防止、阻止しようとしなかったから、本件架空出張による県の損害に関して被告梶原拓には過失責任があり、本件訴訟において損害の賠償を求める額は、本件金八九五万六八七〇円の全額である。

三 出納長も県の支出に関しては知事同様であって、本件訴訟において損害の賠償を求める額は、本件金八九五万六八七〇円の全額である。

四 被告長崎章は、岐阜県会計規則等において衛生専門学校の支出の権限を委任されている。法令に則り正確かつ忠実に会計処理すべきところ、架空の出張を作り上げ、職員らにもこれに協力させ、公金を奪取したものである。よって、極めて悪質な故意により岐阜県に重大な損害を与えたもので、その責任は看過しがたい。本件訴訟において損害の賠償を求める額は、金八九五万六八七〇円の全額である。

                    以 上

 《証 拠 方 法》 


甲第一号証 住民監査請求の監査結果

甲第二号証 調査結果報告(九九年四月頃の岐阜県担当課作成文書より)

甲第三号証 処分説明書の一部(経緯や責任が明示されている)

第四号証 「通帳などは取得していない」という公文書不存在通知(二〇〇〇年九月)

甲第五号証 岐阜県日日雇用職員(第一種)の雇用状況(九八年度)

  その他口頭弁論において、随時、追加提出する。

                   右  原  告  寺町知正 外一〇名

二〇〇〇年一〇月一九日

岐阜地方裁判所民事部御中

当事者目録

   岐阜県山県郡高富町西深瀬二〇八番地の一
    原  告     寺  町  知  正  
   岐阜県美濃市大矢田一四三四番地
     原  告     後  藤  兆  平
   岐阜県揖斐郡谷汲村岐礼一〇四八の一
    原  告 山  本  好  行    
   岐阜県山県郡高富町西深瀬二〇八番地の一
    原  告     寺  町    緑  
   岐阜市殿町四の八
    原  告     堀    安   男
   岐阜県不破郡垂井町一二九二番地
    原  告     白  木  茂  雄
   岐阜県加茂郡八百津町伊岐志津一四〇五番地の一
    原  告 白  木  康  憲
   岐阜県加茂郡八百津町潮見四〇七
    原  告     宮  澤  杉  郎
   岐阜県養老郡上石津町上鍛冶屋九七の一
    原  告 三  輪  唯  夫
   岐阜市黒野四七一番地の一
    原  告     別  処  雅  樹 
   岐阜県可児郡御嵩町上恵土一二三〇の一
    原  告 小  栗    均
                      以上