訴 状


        原告 寺町知正
            他一〇九名 (目録の通り)

       被告 岐阜県知事 梶原拓
            岐阜市薮田南二の一の一

不正経理情報非公開処分取消請求事件


          訴訟物の価格  金九五〇、〇〇〇円
          貼用印紙額      金八、二〇〇円
          予納郵券        金九、一五〇円
                一〇四〇×五 五〇〇×五
                 一〇〇×五   八〇×五
                  五〇×五  四〇×五
                  一〇×一〇
 二〇〇〇年一〇月一九日

岐阜地方裁判所民事部御中

 請 求 の 趣 旨

一 被告岐阜県知事の原告に対する二〇〇〇年九月一一日付け非公開処分(衛専第二四四号)(別紙−1の通り)を取り消す。

二 被告岐阜県知事の原告に対する二〇〇〇年九月四日付け非公開処分(医整第五四一号)(別紙−2の通り)を取り消す。

三 被告岐阜県知事の原告に対する二〇〇〇年九月四日付け非公開処分(人第四四〇号)(別紙−3の通り)を取り消す。

四 被告岐阜県知事の原告に対する二〇〇〇年九月一一日付け非公開(不存在)処分(衛専第二四五号)(別紙−4の通り)を取り消す。

五 訴訟費用は、被告の負担とする。
  との判決を求める。

 請 求 の 原 因

第一 当事者

一 原告らは肩書地に居住する岐阜県民であり、本件各文書の公開請求を行った。
二 被告岐阜県知事梶原拓(以下、被告知事という)は、本件条例(以下、本件条例という)第二条第一項の実施機関である。

第二 非公開(部分公開もしくは文書不存在)処分の存在

一1 原告らは、二〇〇〇年八月三一日付けで「衛生専門学校に関して(95年度〜99年度まで) 
  @旅費(実習を除く)にかかる出張命令、支出金調書及びその復命書 A日々雇用職員(一種、二種、三種)にかかる支出負担行為兼支出金調書、支出内訳書、賃金支出内訳書、出役票 B工事請負契約にかかる契約書及び支出金調書」と記載して公開請求を行った。
 
 2 右請求に対し、被告知事(担当課/衛生専門学校管理課)は、九月一一日付けで、「別紙1のとおり」(請求の趣旨・別紙−1)(以下、本件文書@という)を部分公開とする処分(衛専第二四四号)(以下、本件処分@という)を行った。
 
 3 公文書の公開をしない部分及び理由は以下のとおりである。
 (一)「個人の情報であって、特定の個人が識別され得るため」本件条例(ただし、平成九年本件条例第二二号による改正前のもの)第六条第一号又は本件条例第六条第一項第一号に該当するとして非公開とされた部分は、職員の「住所、氏名、印影、口座番号等、職・級・号給、職名」、公務員でない個人の「職名及び氏名等、事業者の担当者氏名等」などである。
 (二)「事業者の営業に関する情報又は内部管理に関する情報であって、公開すると当該事業者の競争上の地位、その他正当な利益が揖なわれるため」本件条例第六条第一項第四号に該当するとして非公開とされた部分は、旅費に関して「事業者の名称、住所、電話番号、口座番号等、印影、団体の総会関係資料及び理事会資料等」、工事請負に関して「事業者の住所、名称、代表者名、電話番号、印影、口座番号等」などである。
 (三)「当該情報は、公開請求対象外の情報又は公開請求対象外のものが合算された情報であり、公開すると、すべてが公開請求された旅費(実習を除く)に関するものであると混同されるおそれがあるため」として非公開とされた部分は、「公開請求されていない実習にかかる旅費に関する情報及び当該情報と公開請求された実習以外の用務にかかる旅費に関する情報が合算されている情報」である。

二1 原告らは、二〇〇〇年八月三一日付けで「調査結果のとりまとめ(衛生専門学校分)及び添付の書類」と記載して公開請求を行った。
 
 2 右請求に対し、被告知事(担当課/健康福祉環境部医療整備課)は、九月四日付けで、右請求のとおりの文書(請求の趣旨・別紙−2)(以下、本件文書Aという)を部分公開とする処分(医整第五四一号)(以下、本件処分Aという)を行った。
 
 3 公文書の公開をしない部分及び理由は以下のとおりである。
 (一)「個人の情報であって、特定の個人が識別され得るため」本件条例(ただし、平成九年本件条例第二二号による改正前のもの)第六条第一号又は本件条例第六条第一項第一号に該当するとして非公開とされた部分は、調査結果の取りまとめ文書のうちの「補職名、関係年度、氏名、現在の所属等」、添付書類のうち「住所、口座番号等、職名、本人の署名、通帳を預けた時期・返納された時期及び受取人」などである。
 (二)「事業者名を公開すると債権者の営業の実態、取り引きの実態が明らかになり、当該債権者の競争上の地位その他正当な利益が揖なわれるため」本件条例第六条第一項第四号に該当に該当するとして非公開とされた部分は、調査結果の取りまとめ文書のうちの「事業者名」である。

三1 原告らは、二〇〇〇年八月三一日付けで「1999年度中の衛生専門学校関係職員の処分に係る辞令(訓告等の文書を含む)の写し及びその処分説明書」と記載して公開請求を行った。
 
 2 右請求に対し、被告知事(担当課/経営管理部人事課)は、九月四日付けで、右請求のとおりの文書(請求の趣旨・別紙−3)(以下、本件文書Bという)を部分公開とする処分(人第四四〇号)(以下、本件処分Bという)を行った。
 
 3 「個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得るため」本件条例第六条第一項第一号に該当するとして非公開とされた部分は、辞令及び処分説明書のうちの「職名、氏名等個人が特定される記述部分」である。

四1 原告らは、二〇〇〇年八月三一日付けで「衛生専門学校に関して(95年度〜99年度まで) 
  @旅費のうちの不適正分にかかって関係職員が作成、取得した出張の記録、回収金の管理記録、預金通帳等の一切 A不正規の日々雇用職員にかかる就労記録、賃金支払い記録等の一切 B不適正な物品取得、工事請負契約にかかる業務記録、支出記録、債権者から取得した書類等の一切」の公開請求を行った。
 
 2 右請求に対し、被告知事(担当課/衛生専門学校管理課)は、九月一一日付けで、右請求のとおりの文書(請求の趣旨/別紙−4)(以下、本件文書Cという)を非公開(不存在)とする処分(衛専第二四五号)(以下、本件処分Cという)を行った。
 
 3 不存在であるから非公開とするとして示された理由は、「作成していないため。取得していないため。保存期間の経過により、廃棄したため。」のいずれでもなく、「その他。公文書規程に基づき管理されているものではなく、引継ぎも受けていないため」というものである。

第三 本件条例の主旨、目的、適用除外等と実施機関の立証責任

一 本件条例は第三条で「実施機関は、公文書の公開を求める権利が十分に尊重されるようこの条例を解釈し、運用する」と規定し、岐阜県作成の『情報公開事務の手引き(改訂版)』(以下『手引き』という。)では「この条例の基本理念である『原則公開』の精神に基づき、公文書公開制度が運用されなければならない」(手引き九頁)と明確にしている。本件条例は情報の公開を原則とし、非公開を例外とし、第六条各号に該当する場合でも、「公開してはならない」としているのでなく、「公開しないことができる」としているだけである。
  また、各号の非公開事由の条文構造をよく理解し、正確に適合性を判断しなければならない。
  本件条例は、県政の実情などに対する県民の理解を深め、県政に対する県民の信頼を高めるために制定されたもので、実施機関が管理する情報について公開を原則とし、非公開は例外である。条例の非公開事由該当性(適用除外事由)を、専ら行政機関の側の利便等を基準・根拠に、その主観的判断に基づいて決するとすれば、その範囲が不当に拡大する危険性があり、情報公開制度の実質的意味が失われることにもなりかねず、例外規定の解釈は厳格でなければならない。

二 情報公開訴訟は迅速に
  非公開処分取消訴訟(以下「情報公開訴訟」という。)の手続は迅速に行なわれるべきである。
  情報公開条例をその制度趣旨(第一条)に従って利用しようとする者にとって、実施機関が保有する情報が公開される時期は何年先であってもとにかく見られればよいというものではない。公開されるべき情報は情報公開請求後速やかに公開されなければならない。なぜなら、情報公開制度を使う住民は何年後かに過去を振り返って政治を論じたいと考えているのではなく、いま行なわれている政治に主権者たる住民として責任ある適切な意見を言っていきたいと考えている。そして本件条例は情報公開請求権の位置づけについて、「県民の県政への参加を促し、県政に対する理解と信頼を深め、もって開かれた県政を実現すること」(第一条)としており、そこでは実施機関と住民とが噛み合った議論をするために実施機関が保有する情報が住民に速やかに提供されることを予定している。情報を持たない住民の意見はその主観はともかく客観的には行政実務の現実を無視した自分勝手なものになりかねないが、行政と情報を共有する住民は「知らなかった」という弁解ができなくなるので自分勝手な意見を言わなくなるか、言いたくても言いにくくなる。そのような状況は行政にとっても誠実に自治体のことを考える住民にとっても好ましい効率的な関係である。
  したがって、非公開処分が誤っているとして処分の取消を求める裁判の場合、その処分が違法であることの発見と判決は速やかに実現されなければならない。

三 立証責任の転換
  ふつうの裁判では、訴えを起こした原告の側で自分の主張が正しいことを主張立証しなければならないとされている。これは誰が誰を訴えることも訴訟手続としては自由であるだけに(濫訴として不法行為責任を問えるかどうかという問題は置くとして)、身に覚えのないことで訴えられた側 (被告)の主張立証の負担を軽くする必要があるということが一般的に言える。
  ところが情報公開訴訟ではちがう。立証責任が転換している。つまり訴えた原告の側で当該処分が違法であることを主張立証しなければ勝てないのではなく、訴えられた被告の側で当該処分が適法であることを主張立証できなければ原告側の勝訴となるのである。実質的に考えても、原告側に主張立証責任を負わせるとなると、原告側は非公開文書の内容がわからないために的確な主張立証ができないという事態が十分に予想され、情報公開制度の公開原則が空洞化してしまうことは明らかである。
 このことは本件条例に基づく非公開処分にも当てはまる。本件条例第一条が公開原則を認め第六条で例外的に非公開とすることができるという規定になっている仕組みからして、立証責任は被告側に転換されていると解すべきである。
  これまでの情報公開訴訟における原告勝訴の判決書の理由部分において、「被告が非公開事由に該当する事実を具体的に主張していないので」とか「被告が非公開事由に該当する事実を具体的に立証していないので」という書き方をしているのは、立証責任が転換されていることを端的に示している。

四 被告の負担
  立証責任の転換は実施機関である被告にとって特に負担になるものではない。本件非公開処分が本件条例の解釈運用として合理的なものであるならば、被告は主張立証について特に負担を感じることはないはずである。まして、被告は原告から情報公開請求されたときに、本件公文書のどの部分がどのような理由で非公開とするかを十分に吟味検討したはずである。その検討の結果が本件処分であることからすると、被告は、非公開事由該当性を直ちにそして容易に、さらに明確かつ具体的に立証することができるはずであり、その責任もある。

五 本件条例第六条第一項第一号(個人情報)について
 1 第一号は、憲法第一三条が保障する個人のプライバシーの権利、すなわち私生活をみだりに公開されない権利の保護を目的とするものであるから、特定の個人が識別され、又は識別され得る情報であっても、その公開によって、個人のプライバシーの権利の侵害が生じない場合は、公開義務は免除されない。本号について、原則公開を定めた本件条例の趣旨に鑑みると、個人識別型かプライバシー型かという議論は生産的でない。本号がどのような規定の仕方になっているかが端的に検討されれば足りる。
   本号による例外は、「個人に関する情報」(A)であって「特定の個人が識別され得るもの」(B)であることが要件とされている。「A又はB」ではなく、「A+B」でなければならない。
   まず(A)に当たる「個人に関する情報」とは、手引きによれば(一六頁)、「 (1)思想、信条、信仰、意識等個人の内心に関する情報 (2)職業、資格、犯罪歴、学歴、所属団体等個人の経歴、社会的活動に関する情報 (3)所得、資産、住居の間取り等個人の財産の状況に関する情報 (4)体力、健康状態、病歴等個人の心身の状況に関する情報 (5)家族関係、生活記録等個人の家族・生活状況に関する情報 (6)個人の名誉に関する情報 (7)個人の肖像 (8)その他個人に関する情報」とされている。
   「(8)その他個人に関する情報」という説明がどこまでの広がりを持っているか限界は明確ではないが、(1)から(7)に類するものと考えるのが常識的であろう。
  手引きの〔趣旨〕欄で「本号は、個人のプライバシー保護を主要な制定趣旨とする」とし、〔解釈・運用〕欄で「個人に関する情報は、一度公開されると、当該個人に対して回復し難い損害を与えることがある。したがって、個人のプライバシー・名誉毀損等の人格権的利益を最大限に保護する」としていることからすると、本号の目的が「基本的人権」であるところの「個人のプライバシー」の保護にあることは明らかである。ただその限界を明確に画することが運用上困難だろうと考えて本号のような規定の仕方になっているのである。そうである以上、「(8)その他個人に関する情報」は前記のような解釈こそが本号の解釈として正しいと言える。
   次に(B)に当たる「特定の個人が識別され得るもの」とは、手引きによれば(一六頁)、「特定の個人が直接識別される情報(住所、氏名等)はもとより、公文書に記載されている情報からは直接特定の個人が識別されなくとも、容易に取得できる他の情報を組み合わせることにより、特定の個人が識別され得る情報を含む」とされている。
   被告は「特定の個人が識別され得るもの」である事だけでなく、同時に、右に示される「個人に関する情報」であることを主張立証しなければならない。
 2 そもそも、本条例第六条第一項一号が個人のプライバシーを保護する趣旨で規定されたものであるあるならば、個人のプライバシー侵害のおそれがない情報は、「個人に関する情報」に該当しないというべきであり、この種の情報は公開されなければならない。もし規定の形式的な文言に拘泥し、実質的なプライバシー侵害がないにもかかわらず、非公開にするというのでは、プライバシー保護という規定の本来の趣旨を逸脱することになり、非公開範囲が広くなりすぎ、本条例が定める情報公開制度の精神を無に帰せしめることになるのである。
   この点について、東京高裁平成九年二月二七日判決(平成八年(行コ)七八号事件)は、「控訴人は、本件各文書に係る会議・懇談会等の出席者(都の出席者を除く。)に関する情報は本件条例九条二号の「個人に関する情報」に該当すると主張する。東京都情報連絡室作成の「情報公開事務の手引(再訂版)」(以下「情報公開事務の手引」という)によれば、「個人に関する情報」(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)とは、思想、心身の状況、病歴、学歴、職歴、成績、親族関係、所得、財産の状況その他一切の個人に関する情報をいうとされているが、本件条例九条二号は、私事に関する情報のうち性質上公開に親しまないような個人情報が記録されている文書を公開してはならないとしているものと解される。
   ところで、右事件においては、本件各文書に係る会議・懇談会等は、都の公務として開催され、これに出席した相手方は、国(関係省庁・国税当局)と地方公共団体(隣接県、大都市及び特別区)の担当職員であり、いずれも右会議・懇談会等には公務員の職務の遂行として出席したものである。
  したがって、国及び地方公共団体の担当職員の右会議・懇談会等出席に関する情報は、私事に関する情報ではなく、公務員の私人としてのプライバシー保護に対する配慮は必要でないから、同号の「個人に関する情報」には当たらない。」
  と判示している。さらに、大阪高裁平成一〇年六月一七日判決(平成九年(行コ)第一七号事件)も、「控訴人は、二号の趣旨及び文理から、特定の個人が識別され又は識別され得る情報は、プライバシーに関係しないことが明らかであっても、公開の適用除外事項に該当すると解すべきであると主張する。しかしながら、二号の規定が前記のとおり『個人に関する情報』を適用除外事項の要件としていること、二号の規定の趣旨が右にみたとおりプライバシーの保護を目的とすることからすると、プライバシーに関係しないことが明らかな情報は第二号の適用除外事由に当たらないと解すべきであるから、控訴人の右主張は採用できない。」
  と判示している。このように、東京・大阪両高裁判例は、いずれも、個人のプライバシー侵害のおそれがない情報を非公開とすることは許されないという判断を下しているのである。
 3 利益衡量
  本件条例は「実施機関は、公文書の公開を求める権利が十分に尊重されるようこの条例を解釈し、運用するものとする。この場合において、個人に関する情報がみだりに公にされることのないよう最大限の配慮をしなければならない」と規定して個人情報の開示に「みだりに」としぼりをかけていること(第三条)や公文書公開事務の手引が、具体的に説明していることを前提に利益考量を行う必要がある。即ち、公開されることが「みだりに」という主観的ではなく客観的評価となるか否か、また手引に例示列挙されたものと同質またはそれに近い価値をもつものであるか否か、という基本的スタンスで当該情報につき具体的利益衡量をなすべきものである。
   本件の不正調査及び関係者処分は、県として非常に重要な事務として行うものであるから、関係者は公務の遂行にほかならず、当該職員は県民全体の奉仕者としてを行っているに過ぎないから、個人のプライバシーの侵害が生じる余地はない。
   債権者従業員の当該業務に関する収支関係書類における記名について、それが民間個人の職業情報という意味で一般的なプライバシー保護の領域に入るとしても、公開されないことから得られる個人的な利益は、特段に存在しない。
   本件事案に関係する情報が公表されることから得られる利益は、公文書公開条例の立法目的そのものである行政の透明性の確保、行政の公正性の担保、県民の理解と信頼の確保等であり、公開されないことによって得られるプライバシーの保護の利益は既述のとおりであるから、その利益衡量は公開の利益を重しと結論されるのは、当然である。

六 本件条例第六条第一項第四号(事業活動情報)について
  本号による例外は「法人等に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報」(A)であって「公開することにより、当該法人等又は当該事業を営む個人の競争上の地位その他正当な利益が損なわれると認められるもの」(B)であることが要件とされている。これも第一号と同じく、「A又はB」ではなく、「A+B」でなければならない。
  まず(A)の前段の「法人等に関する情報」ついて見ると、何が「法人等に関する情報」なのかという点について、手引きには何ら説明していない。とりあえず広く解釈しておくしかないのかもしれない。後段「当該事業に関する情報」とは、「事業活動に関する一切の情報をいう」とされている。
  次に(B)に当たる「競争上の地位その他正当な利益が損なわれると認められるもの」とは、手引きによれば(二一頁)、「(1)生産技術、営業、販売等に関する情報であって、公開によって事業活動が損なわれるおそれのあるもの、(2)経営方針、経理、金融、人事、労務管理等の内部管理に関する情報であって、公開によって事業活動が損なわれるおそれのあるもの、(3)公開によって社会的評価、信用が損なわれるおそれのあるもの」とされている。そもそも(B)の規定は、本件条例第一条第一項第五号・犯罪捜査情報のように「生ずるおそれのある」と規定しないで、あえて「損なわれると認められる」と規定していることが明確に意識されるべきであり、被告は「損なわれると認められる」事実の存在を主張立証しなければならない。

第四 本件処分@の違法性

一 本件の場合は第一号(個人情報)に該当しないことについて
 1 本件非公開部分のうち公務員の職・氏名等に関する条例の解釈としては、被告知事は別異に解釈しているが、本件条例第六条第一号(改正前)も、本件条例第六条第一項第一号(改正後)も同じに解釈すべきである。
 
 2 被告が本号に該当するとしたのは、職員の「住所、氏名、印影、口座番号等、職・級・号給、職名」、公務員でない個人の「職名及び氏名等、事業者の担当者氏名等」などである。
   被告は本号への当てはめ以前に本号の解釈を誤っている。被告は個人が識別できる情報はすべて本号によって非公開にできると考えているようであるが、右記のとおり、本号の規定の趣旨が個人のプライバシー保護にあることは手引きの説明から明らかであり、「個人に関する情報」(A)による絞り込みが必要なのである。
   被告は、氏名等が、「個人に関する情報であって、特定の個人が識別され(る)」と説明しているだけで、手引きが「個人に関する情報」とはどのようなものであるかという説明をしていることを全く無視している。
   職員の印影は通常も公開されている。口座番号は本件不正支出に用いられたものである。
   本件非公開とされた情報は、いずれも岐阜県民の税金の使途である事務事業に直接関係する情報あるいはその不正使用に職員として関与したことの情報である。公務員はそもそも全体の奉仕者であり(憲法第一五条)、臨時雇用者も同様その氏名等の公開に何らの問題がないことは議論するまでもないことである。債権者である民間事業者の従業員も税金の使途である事務事業の対象として公務に準ずる者というべきである。
   実質的に考えても、犯罪捜査などごく例外的な場合を除けば、住民に対して「個人識別」を口実に公務がコソコソと行なわれることはかなり異常なことである。公務は基本的に堂々と行なわれるべきである。本件事案に特定職員が関与したこと、もしくはもって処分を受けたこと自体を隠そうとするのは許されないことである。
 
 3 第一号の公務員の職・氏名等に関して、被告知事の判断のとおり改正前、改正後として別異の解釈があると仮定して、本件文書はいずれも九九年四月頃の調査の結果報告として同時期に作成したものであるから、全ての作成文書に改正後の規程が適用されるのは当然であるところ、九七年以前の出来事に関する部分の記述に関しては改正前条例を適用して公務員の職氏名等を非公開としたことは、作成ということの理解として明らかに条例解釈を誤っている。
   しかも処分Bにおいて、被告知事が処分者名や理由の本号該当性の判断において行為の年月日による差異をつけていないことと明らかに矛盾している。

二 本件の場合は第四号(事業活動情報)に該当しないことについて
  被告が本号に該当するとしたのは、旅費に関して「事業者の名称、住所、電話番号、口座番号等、印影、団体の総会関係資料及び理事会資料等」であり、工事請負に関して「事業者の住所、名称、代表者名、電話番号、印影、口座番号等」などである。
  旅費に関して、「事業者の名称、住所、電話番号、口座番号等、印影」は、通常不特定多数に公開している。また、「団体の総会関係資料及び理事会資料等」について、これらは任意の民間団体でなく、公共的な学会など極めて公開性の高い団体のしかも公開性の高い会議の資料である。
  工事請負に関して、自治体との委託契約に関する情報であって、工事に関する特別・独自なノウハウ等を示す文書ではなく、印影、口座番号等も不特定の顧客に公にしている事柄であるから公開されても何ら不利益等生ずるおそれはない。
  「正当な利益を害すると認められる」現実が存在するならば、債権者らが右情報を日常的に公にするはずがない。仮に何らかの不利益があったとしてもそれを上回る利益・便宜があるからこそ公にしているのであり、総体として利益が大きいということである。このように「競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる」ような状況は到底考えられない。
  往々にして、他の自治体において、右情報を非公開とすることが頻繁に行われるのは、例外なく、情報公開を受けた者が各債権者らに対して「実際にこの請求書に書いてあるような支出が行なわれたのか」と問い合わせをすることへの懸念である。公文書に記載されたとおりの支出が実際に行なわれていたのなら、債権者はそのまま答えればよいだけのことである。
  また、本件は職員による不正経理によることから、勝手に名称などを使ったという場合は、被告知事がその旨説明し、必要であれば当事者に謝罪することによって解決すべきことである。

三 合算情報、請求外情報を非公開とすることは条例に反することについて
  本件条例は公開することを大原則としているから、第六条に定める非公開理由に該当する場合にのみ「非公開とすることができる」というものである。そして、非公開部分が存在してもできるだけ公開すべき、との立場から第八条に部分公開を規定しているが、手引きにも、「合算情報及び他の目的の支出」などの概念は無く、何ら想定、規定されていない。
  本件条例は公開の請求の方法として、第九条(1)で「住所、氏名」を求め、(2)で「請求しようとする公文書を特定するための必要事項」の記入を定めているのみで、請求の目的や趣旨を明らかにすることは規定していない。
  また、第三条「実施機関は、公文書の公開を求める権利が十分に尊重されるようにこの条例を解釈し、運用する」と定められていることが忘れられている。
  さらに第八条において、公文書の部分公開とは、同条後段で「公文書に記載されている情報のうち公開しないことができる情報に係る部分を除いて、公文書の公開をすることをいう」とされており、「公開しないことができる情報」以外は全て公開することを定めている。

四 以上のように、本件情報は本件条例第六条一項各号の公開しないことができるという事由に該当しないから、本件情報を非公開とした本件処分は違法であり、取消を免れない。

第五 本件処分Aの違法性

一 被告が第一号に該当するとしたのは、調査結果の取りまとめ文書のうちの「補職名、関係年度、氏名、現在の所属等」、添付書類のうち「住所、口座番号等、職名、本人の署名、通帳を預けた時期・返納された時期及び受取人」などである。
 これらは、いずれも県の職員としての、県の公金の取り扱い等に係る情報である。しかも、不正な経理、資金操作そのものあるいはそれに関連したものについての情報である。よって、第一号の非公開事由に該当しない。
 その他の点は、処分@と同旨である。

二 被告が第四号に該当するとしたのは、調査結果の取りまとめ文書のうちの「事業者名」である。流用資金の使途に関してであっても、県の公金の使途に変わりなく、その他の点は処分@と同旨である。

三 以上のように、本件情報は本件条例第六条一項各号の公開しないことができるという事由に該当しないから、本件情報を非公開とした本件処分は違法であり、取消を免れない。

第六 本件処分Bの違法性

一 被告が第一号に該当するとしたのは、辞令及び処分説明書のうちの「職名、氏名等個人が特定される記述部分」である。
 辞令は地方公務員法による処分によるものであり、訓告等もこれに準じて被告知事がなしたものである。処分説明書の記述は職氏名や処分理由の核心部分であると思料されるが、これらは県職員としての公金の不正使用にかかるものであるから、プライバシーではなく文字通り公務に関することである。
 被告知事は、産業廃棄物の不適正処理や福祉団体の補助金不正受給に関しての行政処分や調査の対象となった者について、事業者名だけでなく、その理由や個人名等を公開している。
 被告知事は、ゴルフ場等で農薬の使用に関して県の指導に適っていない事業者名や関係者名、事実等を公表する、との規程も施行している。
 また、処分@Aにおいて、被告知事が関係者の職氏名等の本号該当性の判断において行為の年月日による差異をつけていることと明らかに矛盾する。

二 以上のように、本件情報は本件条例第六条一項各号の公開しないことができるという事由に該当しないから、本件情報を非公開とした本件処分は違法であり、取消を免れない。

第七 本件処分Cの違法性

一 被告が不存在として非公開としたのは、不適正分(旅費)に関して「職員が作成、取得した出張の記録、回収金の管理記録、預金通帳等の一切」、不正規の日々雇用職員に関して「就労記録、賃金支払い記録等の一切」、不適正な物品取得や工事請負契約に関しての「業務記録、支出記録、債権者から取得した書類等の一切」である。不存在の理由は、「作成していないため。取得していないため。
 保存期間の経過により、廃棄したため。」のいずれでもなく、「公文書規程に基づき管理されているものではなく、引継ぎも受けていないため」というものである。
  右の文書は不適正資金の管理記録やその預金通帳などであり、本件文書A、すなわち調査報告書及び添付文書を作成するに当たって不可欠なものであり、次項に述べるように本件条例で公開の対象となる「公文書」である。「引継ぎも受けていない」というのは、単に職務怠慢でしかない。担当者は前任者からそれを引き継ぐ責任があるし、前任者は他の部署に移動していても、あるいは右文書がどこに置いてあっても、それが衛生専門学校の職務として取得・作成したことに変わりはないから、本件条例の公文書に当たるものである。

二 本件条例第二条二項の意味
  同条項は、「公文書」の定義規定であるが、本件処分Cに関係あるのは、「職務上作成し、又は取得した」と「実施機関が管理しているもの」の意味である。
  これについて、手引き(六、七頁)は次のように解説している。
 
 「2 『職務上作成し、又は取得した』とは、実施機関の職員が自己の職務の範囲内において事実上作成し、又は取得した場合をいい、文書等に関して法律上の作成権限又は取得権限を有するか否かを問わない。
  
 3 『職務上』というためには、次の時点以降の公文書をいう。
   ア 作成したものについては、職務上の内部検討に付された時点以降のもの
   
   イ 取得したものについては、受領した時点以降のもの
     『受領した時点』とは、収受印の押印の有無を問うものではないので、例えば、会議で配布される資料などについては、職員が文書の配布を受けた時点から公文書となる。
  
 8 『実施機関が管理しているもの』とは、各実施機関において定めている公文書管理規定等の定めるところにより保管し、又は保存することにより、公的に支配している公文書をいう。
    したがって、備忘的メモ、参考資料など職員が職務を執行する過程において作成した事務処理上の補助的文書は、対象公文書に含まれない。ただし、起案文書等に添付された場合は、当該起案文書等の一部となっていることから、対象公文書に含まれることになる。
  
 9 保存期間が過ぎた公文書であっても、廃棄されずに保管又は保存されている場合には、「管理しているもの」に当たり、対象公文書に含まれる。」

三 以上のように、本件情報は本件条例第六条一項各号の公開しないことができるという事由に該当しないから、本件情報を非公開とした本件処分は違法であり、取消を免れない。

第六 結び

 岐阜県行政が公正、公平に事務事業を執行していることが公知されるためには、これら公文書が公開されることが必要で、公開によって県民の県政への理解と信頼が高まることは明らかである。
 しかも本件情報は、職員による公金の不正使用に関する事実や報告等であるから、県が県民の信頼を回復するためにも、これら文書が公開されることは、本件条例の解釈、運用として正当なものであるばかりか、条例の制定趣旨に合致しこれを実現するものである。
 
             以 上

     証 拠 方 法

  口頭弁論において、随時、提出する。

 岐阜県山県郡高富町西深瀬二〇八番地の一 
        原告 寺町知正 外一〇名

岐阜地方裁判所民事部御中

二〇〇〇年一〇月一九日
  以 上

当事者目録

  岐阜県山県郡高富町西深瀬二〇八番地の一
    原  告     寺  町  知  正  
  岐阜県美濃市大矢田一四三四番地
    原  告     後  藤  兆  平
  岐阜県揖斐郡谷汲村岐礼一〇四八の一
   原  告 山  本  好  行    
  岐阜県山県郡高富町西深瀬二〇八番地の一
   原  告     寺  町    緑  
  岐阜市殿町四の八
   原  告     堀    安   男
  岐阜県不破郡垂井町一二九二番地
   原  告     白  木  茂  雄
  岐阜県加茂郡八百津町伊岐志津一四〇五番地の一
   原  告  告 白  木  康  憲
  岐阜県加茂郡八百津町潮見四〇七
   原  告     宮  澤  杉  郎
  岐阜県養老郡上石津町上鍛冶屋九七の一
   原  告 三  輪  唯  夫
  岐阜市黒野四七一番地の一
   原  告     別  処  雅  樹 
  岐阜県可児郡御嵩町上恵土一二三〇の一
   原  告 小  栗    均
  
             以 上