監委第133号
                             平成12年9月26日

       ・・・・・ 様

′                  岐阜県監査委員  平  野  恭  弘

                   岐阜県監査委員  中  村     慈

                   岐早県監査委員  白  木     昇

                   岐阜県監査委員  丹  羽  正  治


住民監査請求に基づく監査結果について(通知)


 平成12年7月28日付けで提出のあった住民監査請求について、地方自治法(昭和22年法律第67号)第242条第3項の規定に基づき、別紙のとおり監査結果を通知します。

1 請求の受理

 別記請求人から提出された請求は、当該支出のあった日から地方自治法(以下、「法」という。)第242条第2項に定める1年を経過して行われたことは明らかであるが、同項ただし書きに定める「正当な理由」があると認め、平成12年7月28日付けで受理した。

2 請求人の証拠の提出及び陳述

 請求人に対して法第242条第5項の規定に基づき、平成12年8月30日に証拠の提出及び陳述の機会を与えた。

3 請求の内容

 請求書に記載されている事項及び事実証明書並びに陳述の内容から監査請求の要旨を次のように解した。

(1)主張事実

 ア 岐阜県衛生専門学校では組織ぐるみで、教員らに架空の出張行為を請求させ、旅費を支給(個人口座へ振込む)、その後に徴収し、それを臨時職員の賃金等として支出あるいは、現金等で保管し、任意・随意に運用し続けた。これらは、長年続いてきた行為であると考えるのが合理的であるが、県が認定したのは、平成7〜10年度の旅費に関して618件・591万2,698円、同貸金に関して28件・238万6,910円、合計646件・829万9,608円とされている。

 イ しかし、県の臨時雇用者賃金等に充当したとの認識は、当事者の申告分を鵜呑みにしただけであって、その確たる証拠もなく、確認作業も何ら行われていない。
 さらに、現金での残余分は戻入した、と説明しているが、その確たる証拠もない。

 ウ 右金員を人件費や資材費用等の支出が真になされたとの証拠は全くないから、私的な費消、流用の可能性がある。その指摘もある。

 エ もし、本件支出が当該部局に真に必要なものであるなら、当然に予算要求し、財政当局も予算措置していたはずである。実際、大部分の部局が臨時雇用(一種)は一人である。

 オ 結局、本件金員は職員らの独自の判断で、自らのために岐阜県庫から違法に略取し、これを任意に使用し若しくは、使用しようと蓄えたもの、という事実に何ら変わりはない。

 カ これらの行為は、地方自治法(以下、「法」という。)、同施行令、県会計規則、地方公務員法、刑法の各規定に違反する。

 キ しかし、知事は関係者15人を懲戒や口頭注意等の処分に付しただけである。

 ク 本件において未だ時効は成立しておらず(法第236条第1項)、職員には賠償責任があり(法第243条の2第1項)、知事には賠償請求義務がある(法第243条の2第3項)。

 ケ 右違法若しくは著しく不当な行為によって生じた岐阜県の損害(金829万9,608円)に関して、知事は損害の補填を実現する措置を何ら講じていないことは、「怠る事実」(法第242条第1項)に該当する。

 コ 同時に、知事・出納長には重大な過失責任があり、本件支出に権限を有する衛生専門学枚総務課長には故意責任がある。

 サ なお、一連の行為や対応は完璧に秘密裏になされた。請求人は、事実と適法性の認識後速やかに請求するから、期間徒過には正当な理由がある。

(2)措置要求

 本件違法若しくは不当な行為による県の右損害は今日現在まで批続しているから、@怠る事実の存在とその違法を確認し、かつ、知事に怠る事実を改める措置を講ずることの勧告、及びA損害回復のために知事・出納長・衛生専門学校総務課長ら関係者が相当額を返還すべきことの勧告を求める。

4 監査の実施

(1)監査の対象

 住民監査請求書及びこれに添付きれた事実を証する書面から、財務会計上の行為を具体的に特定できる甲第1号証の1の「調査結果のとりまとめ」の2の不適切な支出額(流用資金)及び4の流用資金の使途(流用金額)を監査の対象とした。

(2)監査対象機関

 岐阜県衛生専門学校及び健康福祉環境部健康局医療整備課を対象として、関係書類の調査及び関係職員からの事情聴取等による監査を行った。

5 監査の結果

 本件請求についての監査の結果は、次のとおりである。
 岐阜県衛生専門学校が、必要経責の予算措置及びその執行をするにあたり、岐阜県予算編成執行規則で定められた正規の手続きを怠り、必要な資金を確保するために、安易に、旅費や賃金の不適正な支出を行ったことは極めて遺憾である。しかしながら、不適正な支出額の実際の使途が、私的な着服や費消ではなく、結果において、岐阜県にとって有益な支出であったと判断されることから、岐阜県に損害が発生しているとは認められない。 
したがって、本件請求に係る請求人の主張は、棄却する。

 以下、その理由について述べる。
(1)岐阜県が、本件不適正支出額(流用資金)の調査にあたり、その額を積算し認定した根拠は次のとおりである。

 ア 平成7年度の旅費、138万7,971円、平成8年度の旅黄、226万6,019円については、復命書等の関係書類が公文書保存期間経過により不存在のため、出張の事実に疑いのあるもの、すべてについて不適正支出額としたものである。

 イ 平成9年度の旅費、198万6,864円、平成10年度の旅費、31万1,844円については、旅行命令書等の関係書類に基づき、関係職員が各自に確認をし、実際に出張していない旅費のすべてを不適正支出額としたものである。

 ウ 平成7〜10年度の貸金、238万6,910円については、関係職員の申し立てにより、第三種日日雇用職員の雇用を理由に支出した全額を不適正支出額としたものである。

(2)岐阜県が、本件流用資金の使途(流用金額)の調査にあたり、その使途及び額を積算し認定した根拠は次のとおりである。

 ア 賃金、596万1,760円への使途については、関係職員の記憶に基づく勤務実績(勤務期間、勤務形態)を確認し、賃金の受払いに使用していた3通の預金通帳の人出金記録により、関係職員が申し立てた額を流用額としたものである。

 イ 報償費、8万円への使途については、関係職員の記憶に基づく額を流用額としたものである。

 ウ 工事請負費、100万円への使途については、関係職員の記憶に基づき、現物及びカタログにより確認した額を流用額としたものである。

 エ 備品購入費、224万7,500円への使途については、関係職員の記憶に基づき、現物及びカタログにより確認した額を流用額としたものである。

 オ 不適正支出による流用資金のうち、平成10年度の旅費から流用のあった額の一部18万7,586円は、平成11年4月19日に平成10年度分の一般会計に戻入され、さらにその他の残金350万9,703円は、平成12年2月28日に県の一般会計に通年度戻入されていた。

(3) (1)、(2)の岐阜県の調査は、不適正支出額(流用資金)及び流用資金の使途等を証明する出張の復命書、物品の領収書等の関係証拠書類が既に廃棄されて残存していないことなどから、関係職員の記憶による申し立てに頼るざるを得なかった部分があると説明している。

(4)本件事実について、岐阜県は、流用資金の使途とされる衛生専門学校の業務を補助させるための日日雇用職員の雇用や、授業及び研究、研修用パソコンの購入、学生の通学用自転車置場の整備等が、学校運営を円滑に行うためとはいえ、これに必要な経費を予算化するにあたり、予算編成執行規則で定められた正規の手続きを怠り、安易に必要な資金を確保するために、旅費や賃金を不適正に執行したことは重大な責任があるとして、地方公務員法第32条に違反するとし、関係職員を処分した。

(5)また、岐阜県は、衛生専門学校における旅費、賃金の執行については、極めて不適正ではあるが、流用資金の使途が私的な着服や費消等ではなく、同校の業務運営上やむを得ず行ったものであり、岐阜県に損害を与えたとは認めがたいので、岐阜県に損害賠償請求義務はなく、したがって、「財産の管理を怠る事実」はないとしている。

(6)ところで、普通地方公共団体の職員に対する損害賠償請求については、当該職員に財務会計上の義務に違反する違法行為があるか否か、故意、過失があるか否か、損害が発生しているか否か等が問題となり、この要件のいずれかが欠ければ損害賠償請求権は存在しない。又、法第243条の2第1項後段には、故意又は重大な過失により法令の規定に違反して当該行為をしたこと又は怠ったことにより普通地方公共団体に損害を与えたときは、これによって生じた損害を賠償しなければならない旨規定されている。
 これらの場合において、現に普通地方公共拭体に損害が生じているか否かについては、不適正な財務会計手続きの内容のほか、実際の支出行為によってなされた支出目的が、当該普通公共団体の業務の遂行上有益なものであるか否か、その支出額は相当なものであるか否か、普通地方公共団体が利益を得ている状況であるか否かについて個別、実質的に検討すべきものと解し、これらの観点から、本件事実について、岐阜県に損害が発生しているか否かについて判断する。

(7)本件不適正支出額(流用資金)について、本案監査における監査の結果は、次のとおりである。
 ア 平成7、8年度の旅費に係る不適正な支出額については、当時の職員のすべての出張について、その事実の有無を確認し、他の関連書類との突合を行うなどしたが、旅行の復命書等の関係書類が不存在であり、職員の記憶に頼らざるを得ないため、不適正な旅費の支出に係る全ての金額については、判明し得なかった。
 しかし、上記の方法により、平成7年度89万7,372円、平成8年度118万7,747円を不適正支出額であると認定することができたが、その他の出張については、当時の出張の有無について職員の記憶のないものがあり、適正であるか否かについて認定できないものがあった。

 イ 平成9年度、10年度の旅費については、県の調査額と同額である平成9年度、198万6,864円、平成10年度、31万1,844円を不適正支出額であると認定することができた。

 ウ 平成7〜10年度の賃金については、第三種日日雇用職員を雇用したものとした支出について、県の調査額と同額の238万6,910円の不適正支出であると認定することができた。

 以上ア〜ウにより、不適正な支出額として認定できた額は、677万737円であるが、平成7年度、平成8年度の旅費に係る不適正支出額について、認定できなかった額が存在する。

(8)本件流用資金の使途(流用額)について、その目的、学校業務遂行上の有益性などの観点から調査した結果は次のとおりである。

 ア 賃金への使途については、支給明細書等の記録が残存していないことから、岐阜県の調査額を認定することは困難であったが、実際に雇用された者、支出に関係した職員の申し立てにより、勤務実績や支給額を調査したところ、日日雇用職員の雇用の目的は、主に総務課業務の補助や学生募集、入試関係事務等、短期的に集中して処理しなければならない重要な事務事業の補助をさせるもので、岐阜県にとって必要な労務の提供があったと認められ、一部関係職員の記憶違いがあったものの、当該雇用者に対する支出額について、実雇用者4名から合計額で少なくとも504万4,770円を受け取ったとする確認書の提出があった。

 イ 報償費への使途については、支給明細書等の記録が残存していないことから、岐阜県は、関係職員の申し立てに基づき調査額としたが、確認調査の結果、報償費を受けとったする者3名の「その額を受け取った記憶がない」とする確認書の提出があり、双方の記憶に食い違いがあり認定することはできなかった。

 ウ 工事請負費への使途については、学生の通学用自転車置場が不足していたため、2カ所に設置したものと認められた。
 備品購入費への使途のうち、シュレッダーについては、大量に発生する試験問題等や学生の個人情報に関係した資料の処分のために購入したものであり、輪転機については、県の備品である印刷機が年数の経過により性能が悪くなっていたため購入したものであった。
また、パソコンについては、予算措置により13台の購入が認められ、既存7台のものと併せて授業に使用することになっていたが、購入分のパソコンの基本ソフトが既存分と異なっていたため、50人の学生に対する授業で同時に使用することは困難であるとの強い要望があったため、岐阜県の調査では5台を購入したとあったが、7台購入したものと認められ、現在、授業等学校業務運営上有益に使用されている。
 これらについては、関係業者からその納品等の事実の確認調査を行った結果、自転車置場への支出額、79万9,050円、シュレッダーヘの支出額、22万6,600円、輪転機への支出額、90万7,200円、パソコン7台への支出額、197万9,250円は対価として相当な額であると認められ、流用資金の使途(流用金額)は少なくとも、895万6,870円を確認することができる。

 エ したがって、平成7年度〜平成10年度の不適正な支出額(流用資金)は、戻入額を差し引き658万3,151円であり、平成7年度〜平成10年度の流用資金の使途(流用金額)は、895万6,870円であって、一部、認定できない額が存在することを勘案しても、岐阜県に損害が発生しているとは認められない。

 監査の結果は上記のとおりであるが、地方自治法第199条第10項に基づき監査委員としての意見を次のとおり付記する。

    記

1 岐阜県衛生専門学枚において、あってはならない不適正な事務が行われていたことは、その経緯の如何にかかわらず極めて遺憾である。

2 岐阜県においては、再びこのような事態が発生することのないよう、執行機関への指導の徹底を図るとともに、適切な科目による予算措置並びに適正な執行に鋭意努めることで、県民の信頼を回復し、その負託に応えるよう強く要望する。

(別記)
 美濃市大矢田1434             後藤 兆平
 揖斐郡谷汲村岐礼1048−1        山本 好行
 加茂郡八百津町伊岐津志1405−    白木 康徳
 岐阜市黒野471−1             別処 雅樹
 可児郡御嵩町上恵土1230−1      小栗  均
 加茂郡八百津町潮見407          宮澤 杉郎
 不破那垂井町1292             白木 茂雄
 養老郡上石津町上鍛治屋97−1      三輪 唯夫
 岐阜市殿町4−8               堀  安男
 山県郡高富町西深瀬208−1       寺町 知正
 山県郡高富町西深瀬208−1       寺町  緑