訴      

  
              原告 寺町知正
                     他一〇名 (目録の通り)
              被告 岐阜県知事 梶原拓
                    岐阜市薮田南二丁目一番地の一

首都機能移転情報非公開処分取消請求事件


          訴訟物の価格  金九五〇、〇〇〇円
          貼用印紙額      金八、二〇〇円
          予納郵券        金九、一五〇円
            一〇四〇×五 五〇〇×五 一〇〇×五   
                 八〇×五  五〇×五 
                 四〇×五 一〇×一〇
 
 二〇〇〇年一一月二七日
岐阜地方裁判所民事部 御中

   請 求 の 趣 旨

一 被告岐阜県知事が原告に対して、二〇〇〇年一一月一六日付けでなした地域計画政策課の文書の一部を公開しないとの部分公開決定処分(地政第七三五号)(別紙−1のとおり)を取り消す。

二 訴訟費用は、被告の負担とする。
  との判決を求める。

   請 求 の 原 因

第一 当事者

一 原告らは肩書地に居住する岐阜県民であり、本件各文書の公開請求を行い本件処分を受けた。

二 被告岐阜県知事梶原拓(以下、単に被告という)は、岐阜県情報公開条例(以下、「本件条例」という)第二条第一項の実施機関である。

第二 公開請求と処分の存在

一 原告は、二〇〇〇年一一月八日付けで、被告知事に対して公文書の公開を請求した。

二 これに対して被告知事は、一一月一六日付けで「地域計画政策課において、首都機能移転誘致事業に関連して、九五年度から二〇〇〇年一一月八日までに、計画立案等のために外部委託した契約仕様書、見積書、契約書。上記に関連する物品購入等契約審査会調書及び伺書。」を部分公開とする決定(地政第七三五号)を行った。
 部分公開処分された文書は、一七件であり、次のとおりの七群に分けられている(別紙−1の1〜5)。(文書を別紙記載の群順に第一群から第七群とし、個別契約毎に@ないしPの通し番号を付ける)

 1 本件文書第一群
     @バックアップ・シティ構想策定調査
     A首都機能移転候補地第一次抽出条件調査
     B東濃地域における都市整備構想調査・計画策定
     C東濃地域における都市整備構想の調査・計画策定
     D自然環境共生型都市づくり調査
     E新首都の都市システム(サステイナブル・キャピタル)に関する調査
     F新首都の都市システム(メディア・キャピタル)に関する調査
     G「中央都」構想の策定調査
     H新首都における”情場”システムに関する調査
 2 本件文書第二群
     I岐阜東濃地域環境保護対策調査
 3 本件文書第三群
     J岐阜東濃地域の地震災害に対する安全性調査
     K岐阜東濃地域の地震時安全性に関する調査
 4 本件文書第四群
     L岐阜東濃新首都の都市システム具体化検討調査(サステーナブル・キャピタル)
 5 本件文書第五群
     M岐阜東濃新首都の都市システム(サステーナブル・キャピタル)検討調査
 6 本件文書第六群
     N東濃首都機能移転候補地土地傾斜区分図作成
     O岐阜東濃地域環境現況図作成業務
 7 本件文書第七群
     P豊かな生活を送ることのできる新都市づくりのための調査業務委託

三 なお、本件文書第三群に分類されるJ岐阜東濃地域の地震災害に対する安全性調査及びK岐阜東濃地域の地震時安全性に関する調査に関する「物品購入等契約審査会調書及び伺書」については、全面公開された(地政第七三四号)。
 また、(物品購入等)契約審査会とは、県が外部と契約する際の当該契約の適正、公正をチエックし、時には随意契約を行うことの適否の審査等をするために、県の通達によって設置されている機関である。

四 被告は、右各文書を本件条例第六条第一項一号及び四号に該当するとして一部を非公開した。
その非公開部分の概略及び非公開理由は次のように類型化できる。

1 「見積書及び契約書(一部は請書)中の債権者(一部は指名業者)及び債権者に係る所在地、名称、印影等に関する情報(本件文書第一、二、三、四、五、六、七群の文書中にある)」(以下、非公開部分@という)は、債権者(一部は指名業者)やその内部管理に関する情報であり、公開すると債権者の営業の実態、取引の状況が明らかとなり、競争上の地位その他正当な利益が損なわれるため四号に該当する、というものである(以下、非公開理由@という)。

2 「契約審査会調書(一部は「業者選定について」)中の債権者や指名業者に関する情報(本件文書第一、二、七群の文書中にある)」(以下、非公開部分Aという)は、債権者(一部は指名業者)名及び当該債権者(指名業者)名が推認されうる住所、事業内容等の情報または指名業者が表示されており、公開すると債権者(指名業者)の営業の実態、取引の状況が明らかとなり、競争上の地位その他正当な利益が損なわれるため四号に該当する、というものである(以下、非公開理由Aという)。

3 「契約審査会調書(議事録)中の債権者や議事内容に関する情報(本件文書第一、四、五群の文書中にある)」(以下、非公開部分Bという)は、公開すると債権者の社会的評価、信用が失われ事業活動が損なわれるおそれがあるため四号に該当する、というものである(以下、非公開理由Bという)。

4 「契約審査会調書中の指名業者に係る事業内容、従業員、調査実績に関する情報(本件文書第四、五群の文書中にある)」(以下、非公開部分Cという)は、債権者の保有する技術、営業に関する情報であって、競争上の地位その他正当な利益が損なわれるため四号に該当する、というものである(以下、非公開理由Cという)。

5 「契約審査会調書中の個人に関する情報(本件文書第一群の文書中にある)」(以下、非公開部分Dという)は、個人の氏名及び当該氏名が推認されうる情報が記載されているから一号に該当する、というものである(以下、非公開理由Dという)。

6 「見積書中の会議出席委員の旅費、住所に関する情報(本件文書第三群の文書中にある)」(以下、非公開部分Eという)は、公開すると、個人の財産の状況に関する情報が明らかとなり、当該個人に対して回復し難い損害を与えるおそれがあるため一号に該当する、というものである(以下、非公開理由Eという)。

7 「入札書中の代理人の役職、氏名、印影に関する情報(本件文書第五群の文書中にある)」(以下、非公開部分Fという)は、個人に関する情報であって特定の個人が識別されうるため一号に該当する、というものである(以下、非公開理由Fという)。

第三 本件条例の趣旨、目的、適用除外等と実施機関の立証責任等

一 本件条例の趣旨、目的(第一条)

 本件条例第一条は、この条例の目的を明らかにし、岐阜県における情報公開制度の基本的な考え方を定めたものであり、「この条例は、県民の公文書の公開を請求する権利を明らかにするとともに、情報公開の総合的な推進に関し必要な事項を定めることにより、県民の県政への参加を促し、県政に対する理解と信頼を深め、もって開かれた県政を実現することを目的とする」と規定している。
 県が保有する情報は県民生活と深くかかわるものであり、本来的には県民共有の財産と考えられることから、県民が自ら公文書の公開を請求する権利を行
使し、これに対して県が保有する情報を公開することは、県民が県政の運用を有効に監視することで県政に対する理解と信頼を深め、もって住民自治、住民参加を実現して行くことであり、県民が自分自身の情報を支配し、コントロールするここと同じであって、県民固有の権利といえる。岐阜県の情報公開制度は、この県民固有の権利を具体化し、県民の県政への参加を促し、開かれた県政を実現することを目的とするものである。
 そして、情報公開条例をその制度趣旨(第一条)に従って利用しようとする者にとって、実施機関が保有する情報が公開される時期は何年先であってもとにかく見られればよいというものではない。公開されるべき情報は情報公開請求後速やかに公開されなければならない。なぜなら、情報公開制度を使う住民は何年後かに過去を振り返って政治を論じたいと考えているのではなく、いま行なわれている政治に主権者たる住民として責任ある適切な意見を言っていきたいと考えているからである。
 そして本件条例は情報公開請求権を位置づけているのであるから、実施機関と住民とが噛み合った議論をするために実施機関が保有する情報が住民に速やかに提供されることを予定している、といえる。情報を持たない住民の意見はその主観はともかく客観的には行政実務の現実を無視した自分勝手なものになりかねないが、行政と情報を共有する住民は「知らなかった」という弁解ができなくなるので自分勝手な意見を言わなくなるか、言いたくても言いにくくなる。そのような状況は行政にとっても誠実に自治体のことを考える住民にとっても好ましい効率的な関係である。
 よって、非公開処分が誤っているとして処分の取消を求める裁判は、本件条例第一条の目的を大前提として進められる必要がある。

二 公開を原則とし、非公開は例外である(第三条)

 本件条例は第三条で「実施機関は、公文書の公開を求める権利が十分に尊重されるようこの条例を解釈し、運用する」と規定し、岐阜県作成の『情報公開事務の手引き(改訂版)』(以下『手引き』という。)では「この条例の基本理念である『原則公開』の精神に基づき、公文書公開制度が運用されなければならない」(手引き九頁)と明確にしている。このように本件条例は、県政の実情などに対する県民の理解を深め、県政に対する県民の信頼を高めるために制定されたもので、実施機関が管理する情報について公開を原則とし、非公開は例外である。しかも、「公開してはならない」としているのでなく、「公開しないことができる」としているだけである。
 そして、条例の非公開事由該当性(適用除外事由)を、専ら行政機関の側の利便等を基準・根拠に、その主観的判断に基づいて決するとすれば、その範囲が不当に拡大する危険性があり、情報公開制度の実質的意味が失われることにもなりかねないから、各号の非公開事由の条文構造をよく理解し、正確に適合性を判断し例外規定の解釈は厳格でなければならない。

三 本件条例第六条第一項第一号(個人情報)について
1 第一号は、憲法第一三条が保障する個人のプライバシーの権利、すなわち私生活をみだりに公開されない権利の保護を目的とするものであるから、特定の個人が識別され、又は識別され得る情報であっても、その公開によって、個人のプライバシーの権利の侵害が生じない場合は、公開義務は免除されない。
本号について、原則公開を定めた本件条例の趣旨に鑑みると、個人識別型かプライバシー型かという議論は生産的でない。本号がどのような規定の仕方になっているかが端的に検討されれば足りる。 本号による例外は、「個人に関する情報」(A)であって「特定の個人が識別され得るもの」 (B)であることが要件とされている。「A又はB」ではなく、「A+B」でなければならない。 まず(A)に当たる「個人に関する情報」とは、手引きによれば(一六頁)、「 (1)思想、信条、信仰、意識等個人の内心に関する情報 (2)職業、資格、犯罪歴、学歴、所属団体等個人の経歴、社会的活動に関する情報 (3)所得、資産、住居の間取り等個人の財産の状況に関する情報 (4)体力、健康状態、病歴等個人の心身の状況に関する情報 (5)家族関係、生活記録等個人の家族・生活状況に関する情報 (6)個人の名誉に関する情報 (7)個人の肖像 (8)その他個人に関する情報」とされている。 「(8)その他個人に関する情報」という説明がどこまでの広がりを持っているか限界は明確ではないが、(1)から(7)に類するものと考えるのが常識的であろう。
 手引きの〔趣旨〕欄で「本号は、個人のプライバシー保護を主要な制定趣旨とする」とし、〔解釈・運用〕欄で「個人に関する情報は、一度公開されると、当該個人に対して回復し難い損害を与えることがある。したがって、個人のプライバシー・名誉毀損等の人格権的利益を最大限に保護する」としていることからすると、本号の目的が「基本的人権」であるところの「個人のプライバシー」の保護にあることは明らかである。ただその限界を明確に画することが運用上困難だろうと考えて本号のような規定の仕方になっているのである。そうである以上、「(8)その他個人に関する情報」は前記のような解釈こそが本号の解釈として正しいと言える。
 次に(B)に当たる「特定の個人が識別され得るもの」とは、手引きによれば(一六頁)、「特定の個人が直接識別される情報(住所、氏名等)はもとより、公文書に記載されている情報からは直接特定の個人が識別されなくとも、容易に取得できる他の情報を組み合わせることにより、特定の個人が識別され得る情報を含む」とされている。
 被告は「特定の個人が識別され得るもの」である事だけでなく、同時に、右に示される「個人に関する情報」であることを主張立証しなければならない。

2 そもそも、本条例第六条第一項一号が個人のプライバシーを保護する趣旨で規定されたものであるあるならば、個人のプライバシー侵害のおそれがない情報は、「個人に関する情報」に該当しないというべきであり、この種の情報は公開されなければならない。もし規定の形式的な文言に拘泥し、実質的なプライバシー侵害がないにもかかわらず、非公開にするというのでは、プライバシー保護という規定の本来の趣旨を逸脱することになり、非公開範囲が広くなりすぎ、本条例が定める情報公開制度の精神を無に帰せしめることになるのである。
 この点について、東京高裁平成九年二月二七日判決(平成八年(行コ)七八号事件)は、『国及び地方公共団体の担当職員の右会議・懇談会等出席に関する情報は、私事に関する情報ではなく、公務員の私人としてのプライバシー保護に対する配慮は必要でないから、同号の「個人に関する情報」には当たらない。』と判示している。
 さらに、大阪高裁平成一〇年六月一七日判決(平成九年(行コ)第一七号事件)も、『控訴人は、二号の趣旨及び文理から、特定の個人が識別され又は識別され得る情報は、プライバシーに関係しないことが明らかであっても、公開の適用除外事項に該当すると解すべきであると主張する。しかしながら、二号の規定が前記のとおり『個人に関する情報』を適用除外事項の要件としていること、二号の規定の趣旨が右にみたとおりプライバシーの保護を目的とすることからすると、プライバシーに関係しないことが明らかな情報は第二号の適用除外事由に当たらないと解すべきであるから、控訴人の右主張は採用できない。』と判示している。
 東京高裁平成一一年四月二八日判決(平成一〇年(行コ)第一五四号事件)では、『個人に関する情報とは、専ら私事に関するものに限定されるのであって、個人の行動であっても、それが公務としてされた場合はもちろんのこと、法人等社会活動を行っている団体において職務上の行為としてされた場合には、個人に関する情報には該当しない。・・たとえ行為者を識別可能とする事項であっても本号には該当しない」として、債権者の従業員の氏名、印影、サインについて、「債権者が県に対して提出した請求書等に記載されたものであるが、当該従業員の私事に関する行為ではないから、個人に関する情報とはいえない」と判示し、さらに、県職員の個人の口座番号も、公務に関連して記載されたものは個人に関する情報とはいえないとして第一審原告敗訴部分を取り消した。
 このように、東京・大阪両高裁判例は、いずれも、個人のプライバシー侵害のおそれがない情報を非公開とすることは許されないという判断を下しているのである。

3 利益衡量
本件条例は「実施機関は、公文書の公開を求める権利が十分に尊重されるようこの条例を解釈し、運用するものとする。この場合において、個人に関する情報がみだりに公にされることのないよう最大限の配慮をしなければならない」と規定して個人情報の開示に「みだりに」としぼりをかけていること(第三条)や公文書公開事務の手引が、具体的に説明していることを前提に利益考量を行う必要がある。即ち、公開されることが「みだりに」という主観的ではなく客観的評価となるか否か、また手引に例示列挙されたものと同質またはそれに近価値をもつものであるか否か、という基本的スタンスで当該情報につき具体的利益衡量をなすべきものである。

四 本件条例第六条第一項第四号(事業活動情報)について

 第六条第一項第四号は、公文書公開請求権が人権上及び民主主義原理上極めて重要な権利であることと公開情報関連事業者の財産権上の権利・利益が濫りに損なわれることがないように調整し、利益衡量するために設けられたものである。また、本件条例が、単に「当該法人等または当該事業を営む個人に不利益が生じる」等という表現ではなく、「競争上の地位その他正当な利益が損われる」という文言を採用したことを考慮すると、公開義務が免除される情報は極めて限定的である。
 本号による例外は「法人等に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報」(A)であって「公開することにより、当該法人等又は当該事業を営む個人の競争上の地位その他正当な利益が損なわれると認められるもの」(B)であることが要件とされている。これも第一号と同じく、「A又はB」ではなく、「A+B」でなければならない。
 まず(A)の前段の「法人等に関する情報」ついて見ると、何が「法人等に関する情報」なのかという点について、手引きには何ら説明していない。とりあえず広く解釈しておくしかないのかもしれない。後段「当該事業に関する情報」とは、「事業活動に関する一切の情報をいう」とされている。 
 次に(B)に当たる「競争上の地位その他正当な利益が損なわれると認められるもの」とは、手引きによれば(二一頁)、「(1)生産技術、営業、販売等に関する情報であって、公開によって事業活動が損なわれるおそれのあるもの、(2)経営方針、経理、金融、人事、労務管理等の内部管理に関する情報であって、公開によって事業活動が損なわれるおそれのあるもの、(3)公開によって社会的評価、信用が損なわれるおそれのあるもの」とされている。そもそも(B)の規定は、本件条例第一条第一項第五号・犯罪捜査情報のように「生ずるおそれのある」と規定しないで、あえて「損なわれると認められる」と規定していることが明確に意識されるべきであり、被告は「損なわれると認められる」事実が存在すること具体的かつ明確に主張立証しなければならない。
 実際、千葉地裁平成一一年三月三日判決(平成九年(行ウ)第一六号事件)は、タクシー会社の口座情報や印影に関して「悪用される危険性は公文書公開請求により公開されるか否かに関わらず、当初から存在している」として、事業活動情報には当たらないと判示している。
 また、大阪高等裁判所平成一〇年一一月一一日判決(平成一〇年(行コ)第五号事件)は、奈良県の文書学事課のコピー機契約関係文書中、料金記載部分及び法人の代表者の印影部分を非開示とした決定処分を取り消した。その要点は、「本件条例は法人等に関する情報が当該法人等の内部管理情報に該当する場合にはすべてこれをその意志に反して公表すること自体が当該法人の正当な利益が損なわれるとしているものとまでは解し難い」「本件個別契約の開示により明らかになるものは、過去の一時期の業務分析の結果に基づくコピー機設置提案の、しかもそのうちの一部に過ぎない」のであるから、控訴人の右主張は採用し難い。」「本件契約において契約内容の開示をすベき根拠は、地方公共団体と契約を締結する法人等に民間と契約する場合と異なる制約を課さざるをえないというところにある」「本件印影部分の開示について法人等の印影部分が内部管理情報であることから原則として同条三号本文に該当するとする主張が採用できないことは前示のとおりである」というものである。

五 立証責任の転換

 ふつうの裁判では、訴えを起こした原告の側で自分の主張が正しいことを主張立証しなければならないとされている。これは誰が誰を訴えることも訴訟手続としては自由であるだけに(濫訴として不法行為責任を問えるかどうかという問題は置くとして)、身に覚えのないことで訴えられた側(被告)の主張立証の負担を軽くする必要があるということが一般的に言える。
 ところが情報公開訴訟ではちがう。立証責任が転換している。つまり訴えた原告の側で当該処分が違法であることを主張立証しなければ勝てないのではなく、訴えられた被告の側で当該処分が適法であることを主張立証できなければ原告側の勝訴となるのである。実質的に考えても、原告側に主張立証責任を負わせるとなると、原告側は非公開文書の内容がわからないために的確な主張立証ができないという事態が十分に予想され、情報公開制度の公開原則が空洞化してしまうことは明らかである。
 このことは本件条例に基づく非公開処分にも当てはまる。本件条例第一条が公開原則を認め第六条で例外的に非公開とすることができるという規定になっている仕組みからして、立証責任は被告側に転換されていると解すべきである。
 これまでの情報公開訴訟における原告勝訴の判決書の理由部分において、「被告が非公開事由に該当する事実を具体的に主張していないので」とか「被告が非公開事由に該当する事実を具体的に立証していないので」という書き方をしているのは、立証責任が転換されていることを端的に示している。

六 被告の負担

 立証責任の転換は実施機関である被告にとって特に負担になるものではない。本件非公開処分が本件条例の解釈運用として合理的なものであるならば、被告は主張立証について特に負担を感じることはないはずである。
 まして、被告は原告から情報公開請求されたときに、本件公文書のどの部分をどのような理由で非公開とするかを十分に吟味検討したはずである。その検討の結果が本件処分であることからすると、被告は、非公開事由該当性を直ちにそして容易に、さらに明確かつ具体的に立証することができるはずであり、その責任もある。

第四 本件処分の違法性

一 本件条例第六条第一項第一号への非該当性
 被告が本号に該当するとした情報は、以下のとおり非公開事由に該当しない。

1 「契約審査会調書中の個人の氏名及び当該氏名が推認されうる情報」(非公開部分D)は「個人識別情報」といえるが、記録されている内容は被告が当該事業者と特別の理由をもって(随意)契約する場合のその理由を明確にして、県の取引の公正さ、適正さを確保するための記録・記述であるから、県の公務の適正の証明に他ならず、事業者の関係者等の「個人に関する情報」とではない。

2 「見積書中の会議出席委員の旅費、住所に関する情報」(非公開部分E)のうち、住所は単に 「東京」「瑞浪」など自治体名の表示であり「個人識別情報」とはいえない。
旅費は個人の交通費や日当等に関する情報であるが、単に県の経費の積算等に付随する情報であって、個人の財産の状況に関する情報、即ち「個人に関する情報」とまではいえず、旅費等は誰でも計算あるいは認識し得るし、他人に知られても、当該個人に対して回復し難い損害を与えることはあり得ないし、「個人識別情報」ではない。

3 「入札書中の代理人の役職、氏名、印影に関する情報」(非公開部分F)は、事業者の代理としての明示であるから事業者の従業員(支店長等)であるなら、本件条例に規定する事業者情報(四号)として判断すべきことであり、また、仮に特定個人に委任したとしても事業者情報(四号)として判断すべきことである。なお、事業者情報の場合、非公開事由に該当しないのは次項で述べるとおりである。 4 以上、被告は、氏名等が「個人に関する情報であって、特定の個人が識別され(る)」と説明しているだけで、手引きが「個人に関する情報」とはどのようなものであるかという説明をしていることを全く無視している。
 本件非公開とされた情報は、いずれも岐阜県民の税金の使途である事務事業に直接関係する情報である。県の職員は県民全体の奉仕者として職務を行っているに過ぎないから、個人のプライバシーの侵害が生じる余地はないのは当然であるが、委託契約の相手方である民間事業者の関係者も税金の使途である事務事業の対象として公務に準じて判断すべきである。
 実質的に考えても、犯罪捜査などごく例外的な場合を除けば、住民に対して「個人識別」を口実に契約がコソコソと行なわれているしたら、かなり異常なことである。
 しかも、本件の大部分が随意契約に関するものであり、県が当該事業者が随意契約をするに適切であるとする根拠をなす重要な要素としてそこに記録・記述されているのであるから、到底個人に関する情報とはいえないのである。特に本件首都機能移転計画立案の委託契約は、県として非常に重要な事務として行うものである。
 また、事業者関係者の当該業務に関する情報について、それが民間個人の職業情報という意味で一般的なプライバシー保護の領域に入るとしても、公開されないことから得られる個人的な利益は、特段に存在しない。
 さらに、本件事案に関係する情報が公表されることから得られる利益は、公文書公開条例の立法目的そのものである行政の透明性の確保、行政の公正性の担保、県民の理解と信頼の確保等であり、公開されないことによって得られるプライバシーの保護の利益は既述のとおりであるから、その利益衡量は公開の利益を重しと結論されるのは、当然である。

二 本件条例第六条第一項第四号への非該当性
 被告が本号に該当するとした次の情報は、非公開事由に該当しない。

1 「債権者名(指名業者)、所在地、名称、印影等に関する情報」(非公開部分@、A)は「事業者に関する情報」であるが、県の取引の状況等の一部についての事実の記録であり、事業者が通常に第三者に明らかにしている情報であって、内部管理に関する情報とまでいうものではないし、公開しても債権者の営業の実態、取引の状況が明らかとなるものではなく、競争上の地位その他正当な利益が損なわれるおそれはないから「事業者の地位や利益が損なわれるもの」とはいえない。

2 「契約審査会調書(議事録)中の債権者や議事内容(非公開部分B)」「指名業者に係る事業内容、従業員、調査実績に関する情報(非公開部分C)」は「事業者に関する情報」であるが、債権者の特別の技術、営業に関する情報ではなく県が持っている通常一般の範囲の情報であって、しかもそこにある情報は事業者の業務等のごく一部であって、公開しても債権者の社会的評価、信用が失われ事業活動が損なわれないから、「事業者の地位や利益が損なわれるもの」とはいえない。

3 以上、被告が本号に該当するとしたのは、委託契約に関連する文書のうちの、県との委託契約に関する情報であって、業務に関する特別・独自なノウハウ等を示す文書ではない。
 印影等について「正当な利益を害すると認められる」現実が存在するならば、債権者らが右情報を日常的に公にするはずがない。仮に何らかの不利益があったとしてもそれを上回る利益・便宜があるからこそ公にしているのであり、総体として利益が大きいということである。このように「競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる」ような状況は到底考えられない。
 さらに、自治体と契約する企業の社会的責任を考慮すれば秘匿すべき情報とはいえず、開示することにより当該法人の競争上若しくは、事業運営上の地位が損なわれる具体的根拠もないから、四号を根拠とする本件非公開処分に理由はない。

三 以上のように、本件情報は本件条例第六条一項各号の公開しないことができるという事由に該当しないから、本件情報を非公開とした本件処分は違法であり、取消を免れない。

第五 結び

 岐阜県は首都機能移転という国の将来に決定的な影響を与える計画に関して積極的に手を挙げながら、これらの情報を非公開としている姿勢は、岐阜県民としてはもちろん、国民としても大きな不信と疑問をもたざるを得ない。また、自治体が様々な新規事業を計画立案するに当たっては、コンサルタント等に委託することは珍しくないが、そのうちの企画事業は、自治体の将来の方向を示す意味でも重要でその「自治体の横顔」といわれる。この企画関係の委託の際に、岐阜県は、ほとんどの場合、入札によらず随意契約によって業者委託している。本件首都機能移転の計画策定業務も大部分が随契である。
  よって、この随契の業者の選定理由や見積書などの検証も重要である。
 岐阜県行政が公正、公平に事務事業を執行していることが公知されるためには、これら公文書が公開されることが必要で、公開によって県民の県政への理解と信頼が高まることは明らかである。
 自治体の契約における公正性や適正さが問われている中で、入札に関する情報、あるいは特例として入札に付さず随意契約とする場合についての本件情報は、県が県民の信頼を回復するためにも、これら文書が公開されることは、本件条例の解釈、運用として正当なものであるばかりか、条例の制定趣旨に合致しこれを実現するものである。
                                   
          以 上

    証 拠 方 法

甲第一号証 @バックアップ・シティ構想策定調査
          枝番−1 契約仕様書 
          枝番−2 見積書 
          枝番−3 契約書 
          枝番−4 契約審査会調書

  その他、口頭弁論において、随時、提出する。

           岐阜県山県郡高富町西深瀬二〇八番地の一
           原告 寺町知正 外一〇名

岐阜地方裁判所民事部御中
二〇〇〇年一一月二七日

                         以 上

当事者目録

岐阜県山県郡高富町西深瀬二〇八番地の一
  原  告     寺  町  知  正  
岐阜県揖斐郡谷汲村岐礼一〇四八の一
  原  告 山  本  好  行
岐阜県美濃市大矢田一四三四番地
  原  告     後  藤  兆  平
岐阜県山県郡高富町西深瀬二〇八番地の一
  原  告     寺  町    緑  
岐阜市殿町四の八
  原  告     堀    安   男
岐阜県不破郡垂井町一二九二番地
  原  告     白  木  茂  雄
岐阜県加茂郡八百津町伊岐志津一四〇五番地の一
  原  告 白  木  康  憲
岐阜県加茂郡八百津町潮見四〇七
  原  告     宮  澤  杉  郎
岐阜県養老郡上石津町上鍛冶屋九七の一
  原  告 三  輪  唯  夫
岐阜市黒野四七一番地の一
  原  告     別  処  雅  樹 
岐阜県可児郡御嵩町上恵土一二三〇の一
  原  告 小  栗    均

        以 上