平成一二年一一月一六日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
平成一一年(行ウ)第一五号 事故報告書非公開処分取消請求事件
(口頭弁論の終結の日 平成一二年一〇月一二日)
     判 決

岐阜県山県郡高富町西深瀬二〇八番地の一
原告選定当事者 寺町知正
(選定者は別紙選定者目録のとおり)

岐阜市薮田南二丁目一番一号
被告 岐阜県教育委員会教育長 日比治男
右訴訟代理人弁護士 渡邊一

     主 文
一 被告が原告選定者らに対して平成一一年六月二五日付けでした別紙文書目録一記載の1の公文書に係る非公開決定処分のうち、同目録一記載の2の各欄の公開をしないとした部分を取り消す。

二 被告が原告選定者らに対して平成一一年六月二五日付けでした別紙文書目録二記載の1の公文書に係る非公開決定処分のうち、同目録二記載の2の各欄の公開をしないとした部分を取り消す。

三 原告選定当事者のその余の請求を棄却する。

四 訴訟費用はこれを二分し、それぞれを各自の負担とする。

事実及び理由
第一 請求
一 被告が原告選定者らに対して平成一一年六月二五日付けでした別紙文書目録一記載の1の公文書に係る非公開決定処分をすべて取り消す。

二 被告が原告選定者らに対して同日付けでした別紙文書目録二記載の1の公文書に係る非公開決定処分をすべて取り消す。

三 訴訟費用は被告の負担とする。

第二 事実の概要
 本件は、原告選定者らが岐阜県情報公開条例(平成一一年岐阜県条例第三〇号による改正前のもの。以下「本件条例」という。)に基づき、被告に対し、公立学校及び公立養護学校の各児童・生徒に係る事故報告書の公開を請求(以下、公立学校の児童・生徒に係る事故報告書の公開請求を「本件請求一」、公立養護学校の児童・生徒に係る事故報告書の公開請求を「本件請求二」とそれぞれいい、本件請求一と本件請求二を併せて「本件各請求」という。)したところ、被告が、原告選定者らに対し、別紙文書目録一及び二記載の各1の公文書に係る非公開決定処分(以下、同目録一記載の1の公文書に係る非公開決定処分を「本件処分一」、同目録二記載の1の公文書に係る非公開決定処分を「本件処分二」とそれぞれいい、本件処分一と本件処分二を併せて「本件各処分」という。)をしたので、原告選定当事者が、被告に対し、本件各処分の取消しを求めた事案である。

一 争いのない事実等
1 当事者
 原告選定当事者及び原告選定者らは、いずれも岐阜県内に住所を有する者であり、本件条例五条一号による公文書の公開を請求することができるものである。
 被告は、本件条例二条一項の実施機関である。

2 本件条例
 本件条例には、次のとおり規定がある。
(解釈及び運用の基本)
第三条 実施機関は、公文書の公開を求める権利が十分に尊重されるようこの条例を解釈し、運用するものとする。この場合において、個人に関する情報がみだりに公にされることのないよう最大限の配慮をしなければならない。
(公開しないことができる公文書)
第六条 実施機関は、次の各号のいずれかに該当する情報が記録されている公文書については、当該公文書に係る公文書の公開をしないことができる。

一 個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、特定の個人が識別され得るもの。ただし、次に掲げる情報を除く。

イ 法令及び条例(以下「法令等」という。)の定めるところにより、何人でも閲覧することができるとされている情報
ロ 公表を目的として実施機関が作成し、又は取得した情報

ハ 公務員(国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)第二条第一項に規定する国家公務員及び地方公務員法(昭和二十五年法律第二百六十一号)第二条に規定する地方公務員をいう。)の職務の遂行に係る情報に含まれる当該公務員の職名及び氏名に関する情報(公開することにより、当該公務員の権利利益が著しく侵害される恐れがあるものをものを除く。)

ニ 法令等の規定に基づく許可、免許、届け出等に際して実施機関が作成し、又は取得した情報であって、公開することが利益上必要であると認められるもの
二 実施機関は、前項第一号の規定の解釈に当たっては、岐阜県個人情報保護条例(平成十年岐阜県条例第二十一号)第七条が規定する個人情報に係る提供の制限の趣旨に反することのないようにしなければならない。
(公文書の部分公開)
第八条 実施機関は、公文書に第六条及び前条第一項ただし書の規定により公開しないことができる情報とそれ以外の情報が併せて記録されている場合において、公開しないことができる情報に係る部分とそれ以外の部分とを容易に分離することができ、かつ、当該分離により請求の趣旨が損なわれることがないと認めるときは、公文書の部分公開(公文書に記録されている情報のうち公開しないことができる情報に係る部分を除いて、公文書の公開をすることをいう。以下同じ。)をしなければならない。

3 本件各請求
(一) 本件請求一
 原告選定者らは、平成一一年六月一六日付けで、被告に対し、公立学校の児童・生徒に係る事故報告書の公開を請求した。
(二) 本件請求二
 原告選定者らは、右同日付けで、被告に対し、公立養護学校の児童・生徒に係る事故報告書の公開を請求した。

4 本件各処分
(一) 本件処分一
 被告は、平成一一年六月二五日付けで、本件請求一に係る公文書の件名又は内容を別紙文書目録一記載の1の公文書(以下「本件公文書一」という。)と特定した上、右文書は本件条例六条一項一号に該当するとの理由で、これを全部公開しない旨決定し、原告選定者らに対し、その旨通知した。

(二) 本件処分二
 被告は、右同日付けで、本件請求二に係る公文書の件名又は内容を別紙文書目録二記載の1の公文書(以下「本件公文書二」といい、本件公文書一と本件公文書二を併せて「本件各公文書」という。)と特定した上、右文書も本件条例六条一項一号に該当するとの理由で、これを全部公開しない旨決定し、原告選定者らに対し、その旨通知した。

二 争点
1 本件各公文書は、本件条例六条一項一号に該当する情報が記録されている公文書に当たるか。
2 部分公開の可否

三 争点に関する当事者の主張
1 争点1(本件条例六条一項一号の該当性の有無)について(被告)本件条例六条一項一号は、同条例三条と相まって、個人のプライバシーの保護を主要な趣旨とするものであるが、明確にプライバシーと認められるものに限らず、プライバシーであるか否かが不明確なものも含めて、個人に関する情報が記録されている公文書は、原則として公開しないことを定めたものである。
 本件各公文書は、学校管理の内外を問わず、児童・生徒の問題行為の概要、及び指導経過等に関する報告書であり、その記載内容は、問題行為を引き起こした児童・生徒の氏名、性別及び生年月日、学校名、関係児童・生徒の氏名、問題行動の詳細な概要、関係諸機関の対応及びに指導経過等にわたり、具体的には、児童・生徒の病歴、健康状態、犯罪歴及び家族・生活状況等に及ぶなど、まさに児童・生徒個人に関する情報の集合体である。そして、本件各公文書中の特定の個人が直接識別される氏名及び住所等の情報を伏せたとしても、他の情報を組み合わせることにより特定の個人が識別され得るものである。
 また、児童・生徒に係る情報の多くは、児童・生徒、保護者と教師との対話等の中で信頼関係に基づいて入手されたものであり、これが公開されると、右信頼関係が損なわれるばかりか、今後、適切な指導に必要な情報の収集が困難となり、公正かつ適切に教育指導に支障を来すことになる。
 さらに、非行行為等の問題行動は、心身の未成熟な少年、情緒の不安定な児童・生徒、心身の未発達な児童・生徒によって引き起こされたものであり、少年の健全な育成を期するという少年保護の観点からすれば、当該児童・生徒の将来性等を考慮し、特にプライバシーであるか否かが不明確なものも含めて、個人に関する情報として、原則非公開とすべきである。 原告選定当事者は、本件各公文書の公益的意味を強調するが、その記載内容は、大半が個人のプライバシーに関する情報であり、人の生命、身体、財産の保護、その他公共の安全の確保のため、公にすることが公益上必要とは認められず、個人情報の保護よりも公益性を優先させるだけの理由はないから失当である。
 以上によれば、本件各公文書は、本件条例六条一項一号に該当する情報が記録されている公文書に当たるというべきである。

(原告選定当事者)
 本件条例六条一項一号は、憲法一三条が保障する個人のプライバシーの権利、すなわち私生活をみだりに公開されない権利を保護することを目的とするものであるから、個人に関する情報で、特定の個人が識別され、又は識別され得るものであっても、公開することにより、個人のプライバシーの権利が侵害されない場合には、公開の義務は免除されないというべである。
 本件各公文書は、学校、施設という公的ないし集団的な関わりの中での事案の報告書である上、だれでも事故の当事者になり得るのであり、しかも、一般市民の誰もが関心を有するものであるから、純粋な意味での個人に関する情報には当たらない。
 本件各請求は教育の現状を知ることが目的であり、事故の経過、関係者らの言い分や対応はすべて公にされた上、多数の者の検証を経ることが地域と一体となった教育の推進にも有効であり、このような情報公開の公益性とプライバシー保護の必要性が比較考量されるべきである。
 以上によれば、本件各公文書は、本件条例六条一項一号に該当する情報が記録されている公文書に当たらないというべきである。

2 争点2(部分公開の可否)について
(被告)
 本件各公文書は、児童・生徒の氏名、生年月日等を削除したとしても、他の情報と結び付けることにより特定の個人が識別され得るものであり、その意味では、文書の内容全体が特定の個人が識別され得るものといえるから、公開しないことができる部分とそれ以外の部分とを容易に分離することはできない。
 仮に特定の個人が識別されないように部分公開する場合には、事故の名称、日時、概要、学校の対応及び指導事項等の大半の部分を削除せざるを得ず、本件各公文書の様式と件数だけでは、原告選定者らの請求の趣旨が達成されないと解し、当該分離により請求の趣旨が損なわれると認めたものである。
 したがって、本件各公文書の部分公開は不可能というべきである。

(原告選定者当事者)
 被告が本件条例六条一項一号に該当するとして非公開としたのは、本件各公文書のすべてである。
 本件各公文書に児童・生徒の氏名、住所、生年月日の記載があり、これらを公開することによって特定の個人が識別され得る場合には、部分公開をすれば足りることである。
 仮に本件各公文書の大半の部分が公開しないことができる情報であったとしても、部分公開することにより、少なくとも請求に係る公文書の件数は判明するのであるから、これをもって請求の趣旨の第一は達成されるものである。
 したがって、本件各公文書の部分公開は可能というべである。

第三 当裁判所の判断
一 争点1(本件条例六条一項一号の該当性の有無)について
1 前記争いのない事実等に、証拠(甲四の1、2、3、4の1、4の2、一〇ないし二九、三一、三二、三七、乙三)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下のとおりの事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
(一) 岐阜県においては、公立学校及び公立養護学校の児童・生徒に係る非行又は事故等(以下、単に「事故等」という。)が発生すると、各学校長から市町村教育委員会教育長あてに事故報告書が提出され、市町村教育委員会が県教育委員会に報告の必要があると判断した場合には、各市町村教育委員会から県教育事務所長あてに報告書が提出されるので、その際の添付資料として、各学校長から県教育委員会教育長あてに一定の書式にのっとった事故報告書を提出するものとされている。

(二) 原告選定当事者が被告に対して公開を請求している本件各公文書は、公立学校については平成一一年四月一日から同年六月一五日までにかけて、公立養護学校については平成八年四月一日から平成一一年六月一五日までにかけて、それぞれの学校の児童・生徒の事故等に関し、各学校長から県教育委員会教育長あてに提出された事故報告書であり、公立小、中学校に係るもの三件、公立高等学校に係るもの七件、公立養護学校に係るもの六件が存在する。
 そして、公立小、中学校に係るものには「児童生徒の問題行動の報告書」又は「児童生徒指導上の事故報告」、公立高等学校及び公立養護学校に係るものには「児童生徒の非行・事故に関する報告書」の題名がつけられ、各事故報告書は、大要、@ 非行・事故の名称、A 発生日時、B 発生場所、C 生徒の所属、氏名、性別、生年月日等、D 管理面、E 非行・事故の概要、F 事後措置等の各項目に分かれ、Dの項目には、学校管理又は学校管理外の区別が記載され、Eの項目には、非行・事故の内容が時系列で記載され、Fの項目には、学校の対応を含め、関係諸機関との連携や協力等の内容が記載される。

(三) 原告選定者らは、平成一一年六月三日付けで、被告に対し、児童養護施設及び児童自立支援施設に関する事故報告書の公開を請求したところ、被告は、同月一四日付で、原告選定者らに対し、児童の個人名、施設名及び生年月日、住所等特定の個人が識別され得る情報、児童記録票、岐阜県職員の職、氏名、印影等(平成一〇年三月三一日以前に作成、取得したものに限る。)を除いて部分公開する旨決定し、原告選定者らに対し、その旨通知しているものであり(甲四の1)、例えば、平成一一年三月二五日付けで児童家庭課長及び子ども相談センター所長あてに提出された「入所児童の事故報告」と題する書面(甲四の2)については、児童の氏名、生年月日、入所日、施設名等の記載を黒塗りにした上で、事故の概要、学園の取った対応、今後の対策等の記載をすべて公開し、また、平成九年に児童相談所長等あてに提出された「入所児童の無断外出報告書」と題する書面二通(甲四の3、4の1、4の2)についても、児童の氏名、生年月日、入所日、施設名、措置理由等の記載を黒塗りにした上で、今までの生活状況、無断外出の理由、無断外出時の対応、無断外出後保護されるまでの経過等の記載をすべて公開している。
 そして、岐阜市は、従前から、公立学校に関する事故報告書の公開請求に対しては、児童・生徒の氏名、生年月日、住所、学年、性別、学校名等を除いて部分公開をする取扱いとしているものであり、例えば、各学校長から市教育委員会教育長あてに提出された児童・生徒に係る事故報告書のうち、平成一〇年度のもの八四通(甲一〇ないし二二、三一)、平成一一年度のもの五六通(甲二三ないし二八、三二、三七)、平成一二年度のもの二通(甲三七)については、原告選定者らからの公開請求に対し、児童・生徒の氏名、生年月日、住所、学年組、性別、学校名等の記載を黒塗りにした上で、事故の概要、学校の対応及び指導事項等の記載をすべて公開している。

2 そこで、本件各公文書が、本件条例六条一項一号に該当する情報が記録されている公文書に当たるか否かについて検討する。
(一) 本件条例は、三条後段において、個人に関する情報がみだりに公にされることのないよう最大限の配慮をしなければならないと定め、六条一項一号において、個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得るものが記録されている公文書は、同号ただし書に該当する場合を除き、公開をしないことができると規定しているが、他方で、三条前段において、実施機関は、公文書の公開を求める権利が十分に尊重されるようこの条例を解釈し、運用するものと定めるとともに、個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得るものであっても、六条一項一号ただし書イ、ロのように、およそ個人のプライバシーの保護が問題にならないものについては公開の対象としている。
 このような規定の趣旨に照らすと、本件条例六条一項一号は、明確にプライバシーと認められるものに限らず、プライバシーであるか否かが不明確なものも含めて、個人のプライバシーを十分に保護するために設けられたものであるが、個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得るものでも、個人のプライバシーの保護が問題とならないことが明白な場合には、その限度で公開が許されるものと解するのが相当である。

(二) 右のような見地に立って、まず、本件各公文書に個人に関する情報が記載されているか否かについてみるに、前記一1(一)及び(二)認定の事実によれば、本件各公文書は、公立学校及び公立養護学校の各児童・生徒の事故等について、各学校長から県教育委員会教育長あてに提出された事故報告書であるところ、その記載内容は、事故等を引き起こした児童・生徒の氏名、性別、生年月日、学校名、問題行動の概要、関係諸機関の対応及び指導経過等にわたるものであって、当該児童・生徒個人に係る生活歴や非行歴の問題行動の記録が中枢をなしているものと推測され、その本人や保護者は、通常これを他に公表されることを望まない性質の事柄であると解される。
 そして、これらの情報は、いまだ人格形成が未熟で、その形成の途上にある児童・生徒の健全な育成を期すべき見地にも照らし、その公開については慎重な配慮が求められるところであり、ことに、当該児童・生徒及び事故等と直接関係のない第三者ら一般に対する公開は、右の観点による配慮やプライバシーの保護が問題とならないことが明白な場合を除いて、相当ではないと解されるのであり、これらの情報が本件条例六条一項一号にいう個人に関する情報に該当することは明らかであるというべきである。
 この点について、原告選定当事者は、本件各公文書が学校、施設という公的ないし集団的な関わりの中での事案の報告書であって、誰でも事故の当事者になり得るのであり、しかも、一般市民の誰もが関心を有するものであることから、本件各公文書は純粋な意味での個人に関する情報に当たらない旨主張するが、それだからといって、本件各公文書に記載されている情報が当該児童・生徒固有のものでなくなったり、また、個人のプライバシーの保護の対象外になったりする性質のものではないことも明らかである。したがって、原告選定当事
者の右主張は採用できない。

(三) 次に、本件各公文書に記載された児童・生徒の個人に関する情報が、特定の個人が識別され得るものに該当するか否かについて検討する。
本件各公文書は、前期のとおり、児童・生徒の個人情報の記載を中枢とするものであり、当該児童・生徒が識別特定され得る記載部分が非公開とされるべきであることはいうまでもないが、他方、これに抵触しない範囲で児童・生徒の事故情報を公開し、それによって、地域社会による、児童・生徒の事故防止活動等の取り組み等に資する必要があることも看過し得ないことであるから、これらを考慮しつつ、本件各公文書の記載事項を検討するに、まず、B 発生場所の項目において記載されることがある学校名、C 生徒の所属、氏名、性別、生年月日等が当該児童・生徒の識別特定を直接可能ならしめる部分であることはいうまでもなく、これに対して、@ 非行・事故の名称、A 発生日時、D 管理面の各項目は、これら自体により、当該児童・生徒の識別特定を直接可能ならしめるものではないと解される。次に、E 非行・事故の概要の項目については、その記載のうち当該児童・生徒の氏名等それ自体により、当該児童・生徒の識別特定を直接可能ならしめる部分を非公開とすべきことは明らかであるが、それ以外の記載内容についても、この項目には、各校長が当該児童・生徒その他の者の供述等から判断した非行・事故等の具体的な内容、経過等が記録されているものと考えられるので、これらの記載内容と新聞、テレビによる事故等の報道や、地域の風聞等、他の情報を合わせることにより特定の個人が識別され得る場合があることを否定し難いから、結局、非行・事故の概要の項目については、全体を非公開とするのが相当である。さらに、F 事後措置等の項目についても、右Eと同様の事情により、これを非公開とすることが相当である。


(四) 以上のとおり、本件各公文書中、B 発生場所の項目において記載されることがある学校名、C 生徒の所属、氏名、性別、生年月日等、E 非公開・事故の概要、及びF 事後措置等の項目については、特定の個人が識別され得る個人情報として非公開とするべきであるが、その余の部分については、公開すべきものと解される。

3(一) 原告選定当事者は、前記一1(三)認定のとおり、被告が、児童養護施設及び児童自立支援施設に関する事故報告書について、原告選定者らの公開請求に対し、児童の氏名、生年月日、入所日、施設名等の記載を黒塗りにした上で、事故の概要、学園の取った対応、今後の対策等の記載をすべて公開していることや、また、岐阜市も、従前から、公立学校に関する事故報告書の公開請求に対しては、児童・生徒の氏名、生年月日、住所、学年、性別、学校名等を除いて部分公開する取り扱いをしているものであり、各学校長から市教育委員会教育長あてに提出された児童・生徒に係る事故報告書について、原告選定者らからの公開請求に対し、児童・生徒の氏名、生年月日、住所、学年組、性別、学校名等の記載を黒塗りにした上で、事故の概要、学校の対応及び指導事項等の記載をすべて公開していることから、本件各公文書についても、右と同程度に部分公開をすべきである旨主張する。
 しかしながら、公文書の公開の可否及びその範囲は、条例の趣旨や当該公文書の具体的な記載内容等により個別に判断すべきもので、一概に比較することは相当ではないから、原告選定当事者の右主張は採用できない。


(二) また、原告選定当事者は、本件各請求が、地域と一体となった教育の推進など、公益的意味の強い旨を主張するが、既に説示したとおり、本件各公文書に記載された情報は、児童・生徒個人に係る生活歴や問題行動等の記録が中枢をなす個人情報であり、みだりにその内容を公開しないことによって、当該児童・生徒のプライバシーを保護し、また、その健全な育成を期する必要性は大きいものといえるのに対し、右情報について、児童・生徒の識別特定を可能ならしめる部分に至るまで、これを公開する公益上の必要性があるとは認められない。
 したがって、原告選定当事者の右主張は採用できない。

二 争点2(部分公開の可否)について
1 前記一で認定説示したとおり、本件各公文書には、本件条例六条一項一号の規定により公開しないことができる情報とそれ以外の情報が併せて記録されているところ、本件条例八条は、右の場合において、実施機関は、公開しないことができる情報に係る部分とそれ以外の部分とを容易に分離することができ、かつ、当該分離による請求の趣旨が損なわれることがない認めるときは、公文書の部分公開をしなければならない旨定めているので、以下、部分公開の可否について検討する。

2 既に判示したとおり、本件各公文書の記載内容は、@ 非行・事故の名称、A 発生日時、B 発生場所、C 生徒の所属、氏名、性別、生年月日等、D 管理面、E 非行・事故の概要、F 事後措置等の各項目ごとに区別して記載されているところ、前記一2に述べたように、公開しないことができる情報に係る部分とそれ以外の部分とを項目によって分離することが相当であり、したがって、それは容易であると考えられる。
 また、右のとおり公開される情報により、原告選定当事者は、いつ、どこで、どのような類型の事故等が何件あったのかを知ることができ、教育の現状を知るという原告選定当事者の公開請求の趣旨目的も、相当程度満たされるわけであるから、右のように公開しないことができる情報に係る部分を分離しても、本件各公文書の公開請求の趣旨が損なわれることはないというべきである。

3 そうすると、被告は、本件条例八条の規定により、本件各公文書の部分公開をすべきであったところ、本件処分一のうち、別紙文書目録一記載の2の各欄を除く部分の公開をしないとした部分、及び、本件処分二のうち、同目録二記載の2の各欄を除く部分の公開をしないとした部分はいずれも正当であるが、本件各処分のうち、同目録一及び二記載の各2の公開をしないとした部分はいずれも違法であり、取消しを免れない。

三 結論
 よって、原告選定当事者の請求は、右のとおり非公開決定部分が違法と認められる限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法六一条、六四条本文を適用して、主文のとおり判決する。

岐阜地方裁判所民事第一部
裁判長裁判官 中村直文
 裁判官    倉澤千巌
 裁判官    中村博文

選定者目録
岐阜県山県郡高富町西深瀬二〇八番地の一  寺町知正
岐阜市福光西三丁目一三番三号       原美智子
岐阜市可児市久々利三八八番地の六     加藤匡子
岐阜県可児郡御嵩町中一六六九番地の一〇一 美濃島愛子
岐阜県山県郡高富町西深瀬二〇八番地の一  寺町緑
岐阜市加納大黒町一丁目一四番三号     新田幸子
岐阜県山県郡高富町西深瀬一四三三番地の二 川田登志子

                              以上

文書目録
一 本件処分一
1 公開を請求された公文書の件名又は内容
平成一一年四月一日から平成一一年六月一五日までの岐阜県教育委員会に報告された公立小・中・高校に関する以下の文書
一、児童・生徒に係る事故報告書
2 公文書の公開をすべき部分
(一) 非行・事故の名称欄
(二) 発生日時欄
(三) 発生場所欄(学校名を除く。)
(四) 管理面欄

二 本件処分二
1 公開を請求された公文書の件名又は内容
平成八年四月一日から平成一一年六月一五日までの岐阜県教育委員会に報告された公立養護学校に関する以下の文書
一、児童・生徒に係る事故報告書
2 公文書の公開をすべき部分
(一) 非行・事故の名称欄
(二) 発生日時欄
(三) 発生場所欄(学校名を除く。)
(四) 管理面欄

右は正本である。
平成一二年一一月一六日
岐阜地方裁判所
裁判官書記官 安井哲夫