住民監査請求書 補充書         

                 2000年12月12日


第一 岐阜県職員互助会と岐阜県

一 (財)岐阜県職員互助会(岐阜市薮田南2−1−1。理事長大野慎一・副知事)(以下、互助会という)は、岐阜県職員の互助団体に関する条例(昭和37年3月26日条例第1号)第4条《事業》「互助団体は、家族療養費の給付その他職員の福利厚生に関する事業を行うものとする。」とされる団体である(岐阜県職員の互助団体に関する規則/昭和37年11月30日規則第123号もある)。
 また、地方公務員法第41条《福祉及び利益の根本基準》で「職員の福祉及び利益の保護は、適切であり、かつ公正でなければならない」とされている。
 職員の福祉及び利益の保護は、同法第5条1項《職員に関する条例の制定》及び本条の規定により条例で定めることができる、とされている。同法第42条《厚生制度》「地方公共団体は、職員の保健、元気回復その他厚生に関する事項について計画を樹立し、これを実施しなければならない。」とされている。
 これらから、県は、互助会の本来業務である一般会計の事業に対して毎年、1億6000万円前後もの補助をしてきた。また、互助会の事務や業務を補助するために県職員37名(99年度)に所属課の職務との兼務の辞令(職務専念義務免除)も発している。一方、特別会計事業である食堂、喫茶、診療所、展示販売、自販機等に関する管理運営は特別会計の業務であり、補助対象外である。

二 互助会は、岐阜県本庁舎及びシンクタンク庁舎、その他10ケ所の県総合庁舎における特別会計に係る業務に関して、本庁の食堂・喫茶は直営、他の食堂・喫茶は業者に委託し、展示販売は指定業者が行い、自動販売機の維持管理の殆どは業者に任せている。これらの業務のために岐阜県の各庁舎を利用することは、行政財産の目的外使用に当たることから、互助会が庁舎ごとに一括して知事に許可申請し、県はそれぞれ許可している。
 一方、県の他の施設での飲食関係業務等は、個別に業者が知事等に許可申請し、県はそれぞれ許可している。この許可は原則一年であって、継続の場合は、毎年更新許可申請する。

第二 管理費及び自販機電気代

 「物件(庁舎)の維持保存に要する経費、電話、暖房、電気・ガス及び水道等の使用料金は管理者の負担である。これらは個別メーター等により実績に基づき、管理者が直接支払うのが原則であるが、設備の共用等でこれが困難なときは、別の方法により按分して負担させる。」(「公有財産事務の概要/第4節・行政財産の目的外使用許可/34頁」)とされているとおり、管理費というものは当然に当事者負担であって、これを減免してよいとする法令の根拠規定はない。
 庁舎の管理費は、当該庁舎の燃料費、光熱水費、委託料の年間予算額を当該庁舎面積で除して算出(※−1)し、これが管理費賦課の際の算定根拠となる。
 この管理費(以下、管理費という)には自動販売機が温冷のために消費する電力の代金(以下、自販機電気代という)は含まれておらず、管理者(自販機設置者)が負担すべきことはいうまでもない。
 なお、目的外使用許可書第4条において管理費を示している場合があるが、これは占有に対して当然に納入すべき管理費を明示しただけのものである。

第三 使用料 

 地方自治法(以下、法という)第238条の4《行政財産の管理及び区分》第4項「行政財産は、その用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することができる」とされ、法第225条《使用料》「普通地方公共団体は、法第238条の4第4項の規定による許可を受けてする行政財産の使用又は公の施設の利用につき使用料を徴収することができる。」とされている。
 この規定を受け県は、使用料を徴収するために、行政財産の目的外使用にかかる使用料徴収条例(昭和39年3月24日条例第7号)を定めた。同第2条《使用料の額等》において種別の賦課額算定方式が定められ、ジュース、タバコ、電話等の機器類は「事務所、食堂、売店等」欄に含まれ(※−2)、同第3条《使用料の減免》「公益上その他特別の理由があると認めるときは、前条の使用料を減免することができる」とされている。 

第四 使用料や管理費の免除等

 本件のような飲料水自販機に関しては、知事は、その管理が互助会直営であるか、業者委託であるかにかかわらず「互助会申請に係る分」についてだけは使用料を全額免除してきた。加えて、管理費と自販機電気代も徴収してこなかった。
 互助会申請に係る飲料水自販機は県庁舎全体で合計36台であり、これに対する所定の家屋使用料は約15万円、所定の管理費は約30万円、自販機固有の電気代は約222万円である。よってその合計は約268万円(年間)である(第1号証)が、知事はこれを全額免除している。

第五 違法性

一 違法性−1管理費と自販機電気代

(一) 庁舎等の一部を第三者が具体的に占有・使用するときはどんな場合でも、目的外使用の許可が必要であるが、この際に、管理費及び自販機電気代を徴収しないこと(免除)は法令の根拠を欠き当然に違法であり、社会通念上も到底許されない。
 現実にも、特別地方公共団体等ですら管理費を免除していない(第2号証)。
他方、民間事業者は他の県の施設において、管理費及び自販機電気代を公正に納付しているのである。
 本件免除が互助会ゆえに特別に恣意的に行われたものであるのは明らかであり、互助会の免除分は岐阜県の損害である。特に自販機の電気代は極めて多額な損害である。

(二) なお、目的外使用許可書は第6条(経費の負担等)「使用許可物件の維持保存のため通常必要とする経費並びに当該物件に付帯する電話、暖房、電気、ガス及び水道等の使用料金は、使用を許可された者の負担とする」とされているが、この   部分の明示あるいは削除が個々の許可書によってバラバラである。ところが、この明示に対応しているはずの徴収の実態は「占有がある場合は電気・水道・ガス等は概ね徴収する(互助会等を除く)。自販機やキャッシュ機などは電気代も徴収する(互助会を除く)」というように、許可書の明示と徴収方法が極めて不統一であって、許可の条件としての意味をなしていない。よって、仮に管理費の賦課徴収は裁量行為であるという余地があるとしても、管理費賦課の実態において右のように著しい裁量権の乱用があるから、結局は違法となる。

二 違法性の−2 使用料

 本件にかかる庁舎等は行政財産であり、その用途又は目的を妨げない限度において、本来の事務事業への支障のない範囲で第三者に使用を許可することができるものであるから、目的外使用の許可は例外的に必要最小限度においてのみなし得るものである。
 目的外使用許可処分における裁量は決して無制約なものではない。
 職員や県の庁舎・施設等を利用する住民等の利便をはかるために目的外使用の許可をすること自体は正当であるとしても、個別の許可に当たっては具体的にその利便が真に必要なものか、実際に利便が得られるのか、適正に業務がなされるのか、などは十分に検討されなければならない。
 また、免除の規定の運用は申請者の性格によって判断するのでなく、その業務よってもたらされる「公益」や「便益」等の具体的な特別理由の存在によって判断されるべきは当然である。そして、この免除に合理的理由がなければ、使用料を免除したことは違法なものとなる。
 現実にも、特別地方公共団体等一部を除いては使用料を免除していない(第2号証)。他方、申請が民間事業者である場合は、どの事業者も使用料を免除されずに県の施設で業務を遂行し、利便を提供しているのであるから、これら事業者が県庁舎等に自販機を設置しても、便益を提供することは当然に可能である。
 加えて、互助会分の飲料水販売価格は市価と何ら変わらず免除の効果の具体的な面は一つも現れていない。結局は、互助会関係者に通常の一般社会以上に特別に収益を発生させ、反面として岐阜県の損害を発生させただけである。
 よって、互助会の申請にかかる本件自販機についての使用料の免除規定の適用は、互助会ゆえに特別に恣意的に行われたものであって、本件許可において使用料を免除したことは著しく裁量権を濫用した違法なものである。

三 違法性の−3 転貸していること

 互助会は、許可物件の一部を他の法人もしくは個人事業者に転貸している。
 しかも互助会は、「委託事業」、「指定業者による販売」等と称してはいるが、委託手数料や公益費等を徴収しているほか、自販機を管理している飲料業者からマージンを徴収している例すらある。その売上の一部を受取っているのである。この実態からして、行政財産使用許可書第8条《転貸の禁止》「使用者は、使用許可物件を他の者に転貸してはならない」(なお、「使用者」は同第6条において「使用を許可された者」とされている)に明らかに違反している。知事ら職員はこれを承知のままに、許可し続けてきたから、関係者の故意、過失責任は極めて重い。
 行政実例は、転貸禁止を明示していない場合の対応についてさえ、次のように明確である。

 (昭和40年1月21日、自治行第3号、福井県総務部長宛、行政課長回答)「《問》行政財産の目的外使用の許可を受けた者がその行政財産である施設を第三者に利用されている場合において、許可の条件を何も付していないときは、知事はこれを黙認することができるか。

 《答》行政財産の目的外使用の許可を受けた者が他の者に当該行政財産の全部又は一部を転貸することは、許可処分の性質上認められないので、知事はこれを黙認して放置すべきではない。」

四 違法性の−4 財産の管理・運用の原則

 地方財政法第8条《財産の管理及び運用》「地方公共団体の財産は、常に良好の状態においてこれを管理し、その所有の目的に応じて最も効率的に、これを運用しなければならない。」としている。
 これは、「地方財政の健全確保の見地から、地方公共団体の財産の管理、運用の原則を示したものである。『良好の状態においてこれを管理』するということは、善良なる管理者の注意力をもって管理すべきものであって、『その所有の目的に応じて最も効率的に』運用するということは、その財産の用途に適応し最も効果あるごとく運用すべきである、また本条の財産は、法第237条1項の財産と同義で公有財産、物品、債権及び基金を意味するものである。」(自治大臣官房総務課監修・自治体六法・ぎょうせい発行)とされている。
 本件自販機等に関しては、許可を受けこれを設置する者は、当然に自らの利益を目的としているのであるから、使用料や管理費を免除してまで実施してもらう事業でもなく、一方、設置者が使用料や管理費を賦課されるなら自販機は設置しない、という程度の需給バランスであれば、そもそも目的外使用の許可の必要性はないというべきである。
 結局、県は互助会傘下以外の業者に目的外使用の許可をし、通常に管理費や使用料を賦課徴収していれば済むことである。

五 違法性の−5 自治体の会計原則違反

 地方公共団体の事務を処理するに当たっては、最小の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならず(法第2条13項)、経費はその達成するために必要且つ最小の限度をこえて支出してはならない(地方財政法第4条1項)とされているが、本件のように放漫な財産管理の実情、そして必然的に発生した損害の放置は、右規定に違反する。

第六 請求期間について

 請求人らは、互助会申請にかかる行政財産の目的外使用において各種免除がなされていることを本年7月中旬に公開された約2000枚の公文書から順次読み取り、続いての請求に対して、11月から12月にかけて公開された公文書において県立高等学校、県立病院等における行政財産の目的外使用においては個々の法人や事業者が自ら許可を得、使用料や管理費、自販機電気代を県が賦課徴収していることを知ったものである。これらから、互助会申請にかかる行政財産の目的外使用のうち、少なくても飲料水自販機に関しては、どう考えても社会通念上も許されず違法と判断せざるを得ないと認識し、その後の速やかな期間内に監査請求するものである。
 ちなみに、賦課・免除が不規則であることなど、通常、県民が知ることは到底困難なことである。

第七 損害賠償責任と期間

 法第243条の2《職員の賠償責任》「1項/出納長若しくは補助職員、資金前渡を受けた職員は故意又は重大な過失により生じた損害を賠償しなければならない。」によって関係者には返還責任があり、知事には賠償請求義務(「同・2項/長は監査委員に対し、賠償責任の有無及び賠償額を決定することを求め、その決定に基づき期限を定めて賠償を命じなければならない。ただし、その事実を知った日から3年を経過した時は賠償を命ずることはできない」)がある。
 住民訴訟の前置制度である監査請求における損害賠償請求は、法第243条の2第1項に基づく請求であり、同法第236条1項《金銭債権の消滅時効》「金銭の給付を目的とする普通地方公共団体の権利は、時効に関し他の法律に定めがあるものを除くほか、5年間これを行わないときは、時効により消滅する」との5年の消滅時効の規定が適用される。
 また、右賠償命令制度について最高裁は「職員の地方公共団体に対する賠償責任を、地方公共団体内部における自主的な手続きによって簡便にかつ迅速に実現しようとするものである」「同条3項が規定する賠償命令の3年の除斥期間経過後も住民訴訟は可能である」(最高裁昭和61年2月27日、判例タ592号32頁)としている。
 よって、請求人は、法第242条1項《住民監査請求》「・・・違法若しくは不当に公金の賦課若しくは徴収若しくは財産の管理を怠る事実があると認めるときは・・・当該怠る事実を改め、又は当該行為若しくは怠る事実によって当該普通地方公共団体のこうむった損害を補填するため必要な措置を講ずべきことを請求することができる」によって、第8、9の点を監査委員に求めるものである。
 なお、「財産の管理」の財産とは、法第237条1項の「財産」と同義とされ、同条は財産とは「公有財産、物品、債権、基金」をいうと規定され、第238条1項が公有財産、第239条が物品、第240条が債権、第241条が基金の定義をそれぞれ規定している。債権とは、金銭の給付を目的とする権利であって、地方公共団体が第三者に対して有する不法行為に基づく損害賠償請求権、長・職員に対する雇用契約の債務不履行(職務違反などがある場合)に基づく損害賠償請求権、不当利得返還請求権などが含まれている。

第八 財産の管理を怠る事実の違法確認と是正措置 

 普通地方公共団体の建物の管理は、「その本来の設置目的を達成するための見地からなされる行政上の管理」と「その財産的価値に着目して、その維持、保存、運用のためなされる財産上の管理」とに分かれる。行政財産の目的外使用許可処分は法令上も明らかなとおり、本来の目的を達成するためのものではなく、その目的を妨げない限度で、いわば財産の運用としてなされるものであるから、後者の性格を有する。この運用において適正を欠けば、普通地方公共団体において、自らこれを自由に運用することを妨げられる等損害を被るおそれもある等から、目的外使用許可処分は住民訴訟の対象となる財務会計行為である。
 本件は明らかに許可において禁止された転貸であり、転貸は許可取消事由にあたるから、@知事は本件処分を取消し、本件許可部分の明渡を命じもしくは是正をさせなければならない義務があるところ、何の措置も講じていないことは、財産の管理を怠る事実に該当する。さらに、知事が、自販機設置のために目的外使用を許可した行政財産(庁舎等)に関して、A互助会申請に係る分についてだけ使用料、管理費、自販機の電気代を徴収しておらず、この損害に関して、知事には職員に返還を命ずる義務があるにもかかわらず損害の補填を実現する措置を講じていないことは、財産の管理を怠る事実に該当する。
 以上、本件違法若しくは著しく不当な行為による岐阜県の右損害は今日現在まで継続しているから、右@転貸黙認 A経費不徴収 の二点は財産の管理を怠る事実であり、それは違法であることを確認し、かつ、知事に右二点の怠る事実を改める措置を講ずることの勧告をすることを監査委員に求める。

第九 損害賠償

 また、請求人は、知事及び本庁舎及び総合庁舎の目的外使用許可を決済した者ら並びに(財)互助会がその責任において、月割りにして本年11月を起点として溯ること5年間分の本件未徴収額の全額、即ち、互助会申請に係る飲料水の自販機は36台、その県庁舎の占有面積は合計約27u、これに対する所定の家屋使用料は約15万円、所定の管理費は約30万円、自販機電気代(※−3)は約222万円で諸経費合計は年間約268万円であるから、5年間分(60ケ月)の未徴収の総合計1340万円を速やかに返還するよう勧告することを監査委員に求める。

第一〇  まとめ

 97年実施の知事選のとき、県職員の0Bの方々からはK事務所は県職員OBへの割り当て等によって県職員0Bばかりいる、ゼネコン社員からはK事務所は県関係者とゼネコン社員ばかり、休暇をとらせる会社も、勤務中のまま来させる会社もある、との苦汁に満ちた声が寄せられていた。
 また、県職員退職者協議会(本件経費は免除)に県から“業務”が回され食事をしたりしている、との声も0Bから寄せられている。互助会についても告発する手紙がある。
 去る長野県知事選に絡んで県や市の職員が多数逮捕され、岡崎市においても同様であって、各界に衝撃をあたえたことは記憶に新しい。
 知事と職員組織との不当に密な関係の是正を求め、県民の利益の向上、県民参加の県政の実現のためにも、両者の適正かつ公正な関係が確立されること期待して、本件請求をする。


※−1 庁舎別の管理費 (円/u・年) 庁舎の燃料費、光熱水費、(清掃等)委託料から算出する

※−2 庁舎別の家屋使用料(円/u・年) 建物台帳価格、庁舎床面積から算出する

※−3 互助会分の自販機はいずれも個別メーターを取り付けておらず電気使用量のデータが存在しないことから、本請求では、@ 県立病院が個別メーターを設置していない場合に適用した「定格消費電力を基に算定して賦課している3500円/月・台」と、A 飲料水自販機メーカーが示した16本、20本、30本自販機のうちの「16本自販機の標準電力経費の計算式から導かれた6800円/月・台」との平均(中間)である5150円/月・台(年間61800円/年・台)を用いた。
 
                    以 上