『む・しの音通信』No.20
(2002年10月12日発行)
『市民派議員になるための本』が出た
−「産婆」役の立場から−
上野 千鶴子(寄稿)
昨年11月に寺町みどりさんの家を訪れてからおよそ1年。十月十日月満ちておぎゃあと本が生まれた。書いたのはみどりさん。この人は書ける、書くべきメッセージを持っている、とわたしは確信し、「産婆」役を買って出た。「産婆」というと差別語だ−なにしろ「ばばあ」っていうからね−と思う人もいるようだが、プロデューサーなんていうより、ほんとは「産婆」のほうがわたしにはしっくりくる。孕んで産んだのはみどりさん。わたしはそれを手助けしただけ。
「無党派の風」なんて言うが、どちらを向いて吹いているのか、皆目わからない。長野県の田中康夫と東京都の石原慎太郎がいっしょに扱われるのも、なんだかおかしい。千葉県の堂本暁子に吹いた風と、大阪府の太田房江を押し出した風が同じとも思えない。「無党派って、なあに? わたしにわかるように説明してください」から、本の企画は始まった。
無党派・市民派はどの議会でも少数派で孤立している。議会のなかには味方がいないが、議会のそとには仲間がいる。政党は新人議員でも守ってくれるが、無党派には市民以外に、だれもうしろだてがいない。そろそろ無党派・市民派の議員たちの経験とノウハウが蓄積され、伝達されていい頃だ。そう思ったら、む・しネットのなかには、おどろくべきノウハウが宝の山となって蓄積されていた。これを岐阜の田舎にだけ(失礼!)とどめておくのは、もったいない。
出版社は学陽書房。信頼する編集者に組んでもらいたいと、星野智恵子さんにおねがいしたが、本書で何度もみどりさんが言及する『議員必携』本の版元だったとあとでわかったのはご愛嬌。出版社としては、本書と同時に関連図書も売れるという波及効果が期待できることだろう。
2400円とねだんはちと高いが、読んでみればもとがとれる。ここまで周到に目配りよく、議員になるまでと議員になってから遭遇するさまざまな課題に、こんせつていねいに応えている本はあるだろうか? 既成政党の議員さんたちが読んでも役に立ちそうなのが、こわいくらいだ。出たいひとにも、出したいひとにも、続けたいひとにも、選びたいひとにも、それぞれに役にたつ、かつてない本だ。プロデューサーのわたしが言うのだからまちがいない。書いたご本人も「よい出来です」と言う自信作。
この本をゲラの段階で読んだ市民派議員のひとり、ごとう尚子さんが「本
が売れた数だけ、議会が変わると思います」と感想をくれた。そのフレーズをいただいて、こんなキャッチコピーをつくりたい。
「この本が売れた数だけ、日本の政治は変わるでしょう。」
そうなると、ほんとにうれしい。
本が刊行されて、みどりさんは身ふたつになった。泣いてもわめいても、生まれた本は著者の手を離れて、海原に泳ぎ出す。
行ってらっしゃい、まだ見ぬ読者のもとへと。
Bon voyage!