《NO.34・掲載記事》
『ファム・ポリティク』NO.42より転載

女性のための政治スクール
「女性を議会に 無党派・市民派ネットワーク」

        甘利てる代(フリーランスライター)


 市民派女性議員を増やすことを目的にできた「女性を議会に 無党派・市民派ネットワーク」(事務局・岐阜県内他2カ所)は、通称「む・しネット」という。女性の政治参加をすすめようとする多くの女性たちに、この名は広く知られている。同時に、会員であるためには政党との関係が一切ないことが条件となっていることでも知られている。
 2000年6月、13人の女性が立ち上げた「む・しネット」の規約には「ジェンダーの視点を基本に、権威主義を排し、性にとらわれないでその人がその人らしく能力が発揮でき、個人として尊重される、公平・公正、平等で平和な社会をめざし」「個人の主体性を第一とし、既存政党とは一線を画する無党派・市民派の女性を政策決定の場に送る」とある。この主旨に賛同する政党に属しない個人はだれでも会員になれる。
 会は代表を置かずメンバーが平場でつながり、運営スタッフもやりたい人がやるという、これまでのピラミッド型グループとは一線を画するスタイルで運営されている。課題が出てくれば「運営スタッフ会」の場で、その都度話し合って解決していく。スタッフ会では毎月のニュース「む・しの音通信」の発行、講座の企画や開催を行う。「む・しネット」が行う年4回の合宿は、単にノウハウを学ぶためのものではなく、参加者(議員や市民)が「議会」や「生活の場」で立ち向かう相手に「理論」で挑む力をつける場として定評がある。
 最近では、事務局を担当する寺町みどりさんが『市民派議員になるための本』(学陽書房)を出したことで、さらに注目度がアップ。
 そこで「む・しネット」のメンバーやオルタナティブな「市民の政治」への問題意識を共有する個人が集まって開催した「市民派議員アクションフォーラム」に参加してみた。
 11月15日、ウィルあいち(名古屋市)で行われた午前10時から午後7時までのフォーラムでは、上野千鶴子さん(東京大学教授)がパネラー兼コーディネーター&コメンテーターをつとめた。テーマは「政治を変えるのは私たち」。三つのテーマに添って議論を進めていくと、市民と政治の関係が判明するという仕掛けになっている。参加者は約100人。北海道や九州、四国からの参加者もいた。 資料の中に「KJ法」なるものを発見。これはフォーラムに先立って、5人の呼びかけ人がテーマに基づいてワークショップを行い、キーワードとしてカード化(全体で500枚)。カードを並べて矢印をつける。これを市民政治のビジョンとして文章で表現したものだ。フォーラムはKJ法を下敷きにして始まった。
 まずパネラーの現職議員から自治体政治の現状が述べられた。「議員が根回し、口利き、ポスト争い、情報の横流しに余念がない。議運も機能していない。」「一般質問の発言時間や回数に制限がある」「議案が委員会に付託されても十分な議論がされない。市民が委員会傍聴を断られる」「市民派議員は会派に属さないので代表者会議に出られない」「本会議ではなく代表者会議で決まっている「「議会事務局には慣例が多く、それが引き継がれてきた。議員が議会事務局をチェックできるのだろうか」などなど。
 それまで沈黙していた上野さんが一気に言葉をはく。「民主主義がない。一体ここはどこ? 日本じゃないの?」
 上野さんは「市民派議員が議会で制限を受ける。それは権限とルールの両方において議会が自らの手を縛っているからだ。なぜそうなったかといえば、仕事をしたくない人が議員になっているから。質の悪い議員をなくすためには仕組みを変えなさい。まずは議員特権をなくすこと。例えばパート議員を増やしていき、報酬が下がったところで議員に割にあわない仕事だと思わせる。これで去っていく議員は多いが、市民派議員のなり手はいる。制度としての議会を変える時期に来ていると思ってほしい」と続けた。
 寺町みどりさんは「議会を改革しようとすれば、すべての議員を敵に回すことになり、たった一人でたたかうことになる。しかし、条件闘争で折り合いをつけようとすれば相手の土俵に入り勝ち目はない。とすれば、議員は制度の中にいるのであるから、制度をつかい倒しながら闘うことだ」と市民派議員のあり方を示し、市民に情報を公開していくことが議会改革をすすめていくと語った。
 政策実現をするのが議員の仕事であり、「良い政策はいつか必ず実現する」と言ったみどりさんの言葉が印象的だった。
 自治体を市民が望む姿に変えることができるのは、やはり「市民」だ。この力強いメッセージを発し続ける「む・しネット」の活動から目が離せない。