『む・しの音通信』35号
2004年3月8日発行

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
                    
待望の「11.15フォーラム」本。刊行!
 『市民派政治を実現するための本
   −わたしのことはわたしが決める』
共編著:上野千鶴子・寺町みどり・ごとう尚子
発行:コモンズ(A5版・定価未定)


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

新年度「む・しネット」スタッフ募集
〜やりたいことをやってみませんか。
 市民も、議員も〜
        岐阜市・高瀬芳


1.数字で見る「議員の勉強会」型への傾斜

 下の表を見てください。上から順に、今年度「む・しネット」が開催した《市民公開講座》と《議員と市民の勉強会》の実施実績です。

 《市民公開講座》
    5/3「市民派議員大集合」
  10/19「女(あなた)が動けばまちは変わる」
《議員と市民の勉強会》
  5/17〜5/18
    「議会の基本」
  8/2〜8/3
    「おいしい魚を釣って食べよう−決算編」
  11/16
    「おいしい魚を釣って食べよう−番外編」
  1/31〜2/1
    「おいしい魚を釣って食べよう−予算編」


2.スタッフ会で共有された原点回帰の方針

 それぞれの事業実施回数と参加者数内訳に端的に表れているのは、「む・しネット」の事業が今年度は市民よりも議員の関心を呼んでいたということです。昨年の統一地方選挙の後、これまでの市民スタッフが議員になったり、新たに議員になった方が会員になったりしたことが影響していると考えられます。議員の会員が増えたことは歓迎すべきことでしょう。しかし、一方で「む・しネット」が発足以来続けてきた、市民の政治参加を進めるための活動が弱くなってきているのではないかという危機感が、2月17日のスタッフ会での一致した意見でした。そして、来年度はもう一度「む・しネット」の原点に戻ろうという活動方針が出されました。

3.「む・しネット」の原点とは?

 「む・しネット」は、「個人の主体性を第一とし、既成政党とは一線を画する無党派・市民派の女性を政策決定の場におくることを目的とする」(む・しの音通信No.1より)集まりです。発足の翌年には、規約に「活動を既定せず(やりたい人がやりたいことをやる)」という改正を加え、より会員の主体性を尊重する方向を取っています。

4.「む・しネット」の活動と運営スタッフ
 「む・しネット」の活動は、やりたいと思った人が企画し、運営します。逆を言えば、何かをやりたいと思う人がいなければ、何も起こりません。運営スタッフとは、この「何かをやりたくて手を挙げた人」のことです。

5.市民スタッフに名乗りを上げて感じたこと

 初めてスタッフ会に参加して一番印象的だったのは、「む・しネット」とは何かについて語るスタッフの方々の熱っぽさでした。その思いの源を求めて、以前の「む・しの音通信」を広げてみると、講座で市民会員が講師を務めたり、「入門編」「実践編」に分かれた「政治にチャレンジ」という連続講座が開かれたり、請願を実施した市民会員の声があったりで、確かに市民の政治参加力を強める活動が多かったのだなと感じました。しかし、会員やスタッフに占める議員の割合が増えたことにより、活動内容が変わるのは、「やりたい人がやりたいことをやる」「む・しネット」であれば当然のこととも言えます。市民講座のプロジェクトスタッフとして、より多くの市民の方に関わってみたいと思ってもらえるような企画を考えたいと、いま思案中です。

6.2004年度運営スタッフ募集

 2004年度の運営スタッフのうち、事務局、会計、会計監査はすでに決まったものの、市民講座、議員と市民の勉強会、『む・しの音通信』発行の各事業をさらに充実させていくには、まだスタッフが足りません。以下の募集要項を読んで、「これなら私にもできそう。」「やってみたい。」と感じたら、ぜひ事務局までご連絡ください。

《市民講座スタッフ》
・仕事:市民講座の企画、会場・講師の手配、参加者への連絡・問い合わせ対応、会費徴収など。
・こんな方、ぜひ:特に企画が好きな市民の方、歓迎。
・メリット:企画力・プロジェクト管理能力が鍛えられる。

《議員と市民の勉強会スタッフ》
・仕事:講師との連絡調整(参加者把握、当日の段取り、資料等打合わせ)、参加者への連絡・問い合わせ対応、会費徴収など。(講座の内容は、講師が開催時期に合わせて提案する。)
・こんな方、ぜひ:こまめに連絡をとっていただける方。
・メリット:企画力・プロジェクト管理能力が鍛えられる。

《『む・しの音通信』編集スタッフ》
・仕事:む・しの音通信の原稿募集・回収、校正、割り付け、印刷、発送。作業場所は主に自宅だが、編集会議は主に岐阜市近辺で開催。
・こんな方、ぜひ:パソコンでの文章編集作業とメールのやり取りができる方。編集経験者や文章を書くことが好きな方は、特に歓迎。
・メリット:遠隔地在住でも、参加できる。文章力・編集能力が鍛えられる。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
いっしょにやろうよ!スタッフを!
    講座担当スタッフ 今大地はるみ


03年の選挙後、「む・しネット」はあらたな道へと進みだした。一番の収穫は、「議員と市民の勉強会」の充実である。
 北は北海道、南は九州と全国から市民派議員が、「む・しネット」の勉強会へと足を運ぶ。議員会員が増えれば、財政的にもホッとする。反面、この1年間は、「市民向け講座」の開催は2回のみ。しかも参加者が極端にすくなかった。「む・しネット」のもうひとつの運動は、わたしたちが培ってきた、経験とノウハウを次の人につなげていくことだ。市民と平場でつながり、市民といっしょに学び、わたしたちのまちにあたらしい風を吹かせるための、ネットワークだからこそである。
 次年度の運営スタッフに名乗りを上げた今大地は、次世代の「む・し」市民を育てるための「市民向け講座」を担当することになった。まずは、会員のみなさんのニーズを探り、「楽しくおいしい、プラスためになる、欲張り講座」を企画したいと張り切っている。名古屋周辺にとどまらず、全国の会員のみなさんが「こんな講座を企画したい!」と手を上げ、かつスタッフにもなってくれると、うれしい。いっしょにやろうよ!スタッフを!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「議員と市民の勉強会」スタッフより
              安立さとみ
              小池みつ子


 「議員と市民の勉強会」は無党派、市民派議員として、力をつけ活動するために、99年から行なっている「自主勉強会」です。毎回、寺町ともまささんとみどりさんを講師として、黙って聞くだけの講座ではなく参加型で、すすめられています。
 03年度は、特に全国各地からも新しく議員となった方がこの勉強会に参加され、会員外の議員の参加申込みも多くなってきました。 そこで2月に行なわれた「む・しネット」スタッフ会では、この勉強会の位置付けを再確認し、04年度スケジュールのほか、参加に関する取り決めを話し合いました。

1)04年度は、一期目議員にむけた内容を基本とし、5月、8月、11月、1月の4回の勉強会を予定。5月は15、16日に名古屋「ウイルあいち」で、内容は「直接民主主義の制度」など。8月以降は、日程等未定。今後名古屋以外での開催も検討。
2)参加は、原則会員による自主勉強会。ただし会員になる前の「お試し参加」は2回まであり。(現時点ですでに2回参加の人のみ、もう1回お試し可能)
3)参加費は会員以外の人は、事前振り込みが必要。またキャンセルは1週間前までの場合のみ返金。
4)講座の内容については講師にゆだね、勉強会担当スタッフは、当日万全の体制で進められるよう、参加者との事前の意思疎通をはかり、連絡調整をし、当日のしきり役をする。  
5)参加者は「お客」ではなく、当日は全員協力し合ってスムーズな進行に努める。

 議員だけでなく、市民の方の参加も毎回あります。有意義な勉強会をこれからも積み重ねていきたいと思っています。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
会計より
         小川まみ


今年度、私は事務局兼会計でしたが、事務局の仕事が何もできず、その分みどりさんや運営スタッフのみなさんに大変迷惑をかけてしまいました。来年度は事務局からは外れて会計に専念します。よろしくお願いします。
 「む・しネット」は2003年の統一自治体選挙以後、大きく変化しました。2002年4月の議員会員は4人でした。秋にみどりさんの『市民派議員になるための本』が出版され、その本を手にして立候補を決意し、当選した人が新たに会員になり、現在、議員会員は10人になりました。議員会員の分布は、福井県2名、三重県2名、埼玉県・東京・愛知県・京都府・兵庫県・福岡県の各1名とエリアも拡大しましたが、市民会員は依然として東海地方に集中しています。
 今はまだ珍しがられる「無党派・市民派女性議員」。近い将来、日本全国津々浦々、どこにでもいる当たり前の存在になると、日本の政治はきっと変わると思います。
 「む・しネット」の活動は、殺風景な議会に?一輪の花″を届ける花キューピットではありません。議論もなく、法律より慣習や利権が幅をきかせて砂漠と化した議会にオアシスを建設するためのノウハウを伝える運動だと思います。海外協力隊のように。
 「む・しネット」の活動は会員のみなさんの会費で運営されています。そんな活動を支えてください。
 いっしょにまちを、日本を変えましょ
う!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 「近ごろ思うこと」        
     青森県弘前市・野田千恵


 「えーっ!どうして? なにがあったの?そんな馬鹿な!」
昨年4月の統一地方選挙で私たちが擁立した市議選候補者は、32名中最下位ながら見事当選した。仲間で喜び合ったのもつかの間、当選後50日足らずのこと、誰も予想だにしなかった出来事が起きた。なんと晴れて市議会議員となった彼女の裏切りだ。「政治スタンス」替えをし、私たちの元を去ったのだ。ちなみに彼女の得票数は1688票だ。
 突然の変貌ぶりに呆気にとられ、怒りより驚きが先に立ち、なにかの間違いじゃないのとにわかに信じられない衝撃が仲間を襲った。 「ひろさき市民ネットワーク21」は、議会に女性を送る会として2000年に発足。初めての選挙に臨んだ結果が、上記の出来事だった。彼女を当会の勉強会に誘ったのは他でもない会長の私だ。PTA活動で知り合い、利発で弁のたつ、明るく物おじしない態度に好感が持てた。かつてのスキー選手で、活発な生き生きとした物腰に議員活動もさぞかしフットワークよく活躍してくれるだろうと皆が期待した。
 農村地域住民のうわさも、すべて妬みひがみだと雑音に耳を貸すことなく、仲間はむしろかばいあったことが裏目に出た。「火のないところに煙りは立たず」、もっと地域の人たちの意見も聞くべきだったと反省しきりである。人選を誤った。
 今まで女性議員は共産党がひとりいただけ。それが社民党からも初当選となり、一気に3人に。40年来の複数女性議
員の誕生は新聞にも大きく取り上げられた。しかも既存政党に属さない「無党派・市民派議員」の誕生である。「地盤・看板・カバン」もなにもないゼロからの出発。あるのは今の政治に対する危機感とこうしてはいられない!という女たちの熱い想い。彼女に、「私たちの代弁者になって市民のために頑張ってほしい」ということと、「女性議員をまた誕生させるための会であり彼女のあとに続く女性の足を引っぱることになる行為は困る」という2つの約束をお願いした。
 彼女のための応援ではないよ、私たちのために彼女に犠牲を払ってもらうんだから、と仲間はボランティア精神を遺憾なく発揮。フリーマーケットで選挙資金を貯め、みんな純粋にそれぞれの能力を発揮し、マイク係も仲間で手弁当ですべてやれた。
 お金をかけない選挙の実現。ちなみに選挙費用は30万円弱。選挙カーのスピーカー代とその看板が費用の2/3を占めた。「津軽選挙」と俗に言われるほど金品飛び交うこの地で、まったくのドシロウト主婦の仲間は一冊の本を頼りに闘えたのだ。
 その本とは寺町みどりさんの書かれた『市民派議員になるための本』である。何度か他県まで足を運びセミナーなどに出席したが意外に役立つ情報を得ることは出来なかった。そんな折、新聞でこの本を知り、早速購入した。私たちがなんの不安もなく楽しい選挙が出来たのはお世辞でもなんでもない、この本のお陰である。
 「政治スタンス」替えをした彼女はみずから「次はない」と話していると人伝えに聞いた。民主党の応援にマイクを握ったり、自民党寄りの行動をとったりしている彼女の政治理念・信念のなさに世間も気づきはじめた。私たちがなんにも言わずとも・・・。
 一票を投じてくれた市民の信頼回復のために、今はまだ意気消沈している仲間も、次回の選挙には人選を考慮して再び「無党派・市民派議員」の誕生に頑張ろうと話し合っています。今回の経験をバネにして!! 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 ある日のできごと
    岐阜市・新田幸子


 映画を観に行った。ある女性団体が主催する女性だけが対象の催しである。選択される映画の内容がとてもよく、かねてから行きたいと思っていたところ、一緒に行く仲間ができ、この映画会は私の楽しみの一つになっている。今回はフランスのドキュメンタリー「ぼくの好きな先生」。映画館に入りサービスのコーヒーを飲みながら友人と話をしていると年かさの男性が入ってきた。狭いロビーなので話していることが時々耳に入る。「どうしてもこの映画を観たくて来た。主催者に頼んでみせてもらう」というような内容だった。私は「えっ、みられるのは女性だけじゃなかったの?」と思ったが開演時間になった
のでその場を離れた。
 映画の舞台はフランス中部、オーベルニュ地方の小さな小学校。ロペス先生と3歳から11歳までの13人の子どもたちの複式学級のようすが描かれている。彼はこどもたちに勉強のこと毎日の生活のことを丹念に教え、話し合う。彼は決して声をあらげない。一方的な話し方はしない。一人ひとりの子を大切にし、納得するまで丁寧に語りかける。その中でお互いに深い信頼関係が培われる。子どもたちは自分が大切にされていることを実感し、きっと他人も大切にできる子に育つだろう。教育の原点を見たような、心の中があたたかくなる映画だった。
 さて、上映前に見かけた男性はどうなったか? やはり映画を観たそうだ。主催者は、ある団体から「観たい人がいるからよろしく」とあらかじめ頼まれていて、その人は女性だとばかり思っていた。当日男性が来たので困惑したとのこと。コミュニケーション不足だったようだ。このことをある男性に話してみた。「どうしても見たかったんじゃないの?別に女性に限ることはないと思うけど。」わかっちゃねーな。「でもぼくだったら女性に限ると断ってあるのだから諦めるな。」ホッ!
 「『男性性』を支配的な存在として」認識していない男性の多いことにはやりきれなさを感じる。が、おいしいお昼を食べ友人と思いっきりおしゃべりをして別れた。楽しいひとときだった。ちなみに、友人とは何を隠そうみどりさんのことです。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 「近況報告」です
    尾張旭市・楠木ちよ子


 昨年の統一地方選から1年が過ぎようとしている。「落選」も立候補しなければ、味わうこともないだろうに。元気そうに見えても、やはり人さまの視線に「落選したのね・・・かわいそうに・・・・」が見え隠れ。なんとなく外にでるのが嫌になるわたしに仲間は「つわ者どもが夢のあと、そんなこと昔のはなしやで!」 おもいがけず、たっぷり与えられた時間。どうしょうかな。とりあえず四年間の「議員生活」のアカ?を落とさなくては・・・・。悲しいかな、我が家にはタオルもボディイシャンプーもあるのに、使い方を知らない。だからなのか「む・しネット」から、「足が洗えない」。そのうち、みどりさんから「首を洗ってまってなさい」メールか?
機械がにがてといつもの食わず嫌いは返上、パソコン教室にはじまり、いまはデジカメ講座。食べてみたら結構おいしく、スパイスはわたしの腕しだいね。
 11月15日におこなわれた「市民派議員アクションフォーラム」に参加した。あい変わらずのテンションの高さに「む・しネットビーム炸裂!」は健在なり。いままで勉強してきた内容なので、ごぶさたのわたしも講義についていけたわ。ほっ。
大きな声ではいえませんが、「上野さんに会いたかった」の。落選したあと、上野さんからいただいた本を読み返し、あぁこれってわたしに言ってる? だから送ってきたの?ドーンと落ち込むくすの木でしたよ。
 「む・しネット」ウイルスが全国に感染していくさまを、あえてわたしは「増殖」と呼びたい。しかし「持ち時間、ひとり1分!」はよかった。わたしも最後にひとこと言いたかった。「落選しました」と。あは。
なんとか元気になりました。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 「こぐまくんの反乱」
    三品 信(新聞記者・寄稿)


 
知人からこんな話を聞いた。子どものこぐまくん(仮名)のことだ。

 ある日、知人が仕事を終えて、学童クラブにこぐまくんを迎えに行った。すると先生(指導員さん)がこぐまくんをひどく叱りつけている。驚く知人に先生は「こぐまくんは言うことをまるできかない」と怒り始めた。
 その先
生は、いわゆる体育会系のひとで、子どもにものを頼んだりするときでも、「本を持ってこい」とか「あの部屋に行け」というふうに、命令形で言う。こぐまくんはそれがいやで、「ぼくは、めいれいはきかない」と拒絶したところ、先生がキレたのだ。
 知人は、先生に「そうでしたか」とか何とか言いつつ、さすがにちょっと涙目になっていたこぐまくんをその場で「よく言った」と抱きしめたかった、と話してくれた。
 それを聞いて、いいな、と思った。

 ぼくは妻と相談して、子どもをつくらないことにきめている。こんな時代に産み落とされても迷惑だろうと勝手に思っているし、もし子どもを持ったら、心が狭いぼくはきっと、よその子とあれこれ比べたり「競争に勝て!」と願ったりしてしまうからだ。でも、こんな子がいたらいいな、と感じたのだ。
 しかしのんきに「いいな」と思っているだけではすまされない。この国の教育はずっと、軍隊をひとつのモデルとしてきた。起立、礼! キリツ、レー! そして規律、命令! こぐまくんの先生は、その一つの現れだ。自分が受けた教育の、まじめな実践者なのだ。
 そうした教育の「成果」は、多くのこぐまくんたちを泣かせ、そしてもっと困ったことをたくさんひき起こしている。もちろん、教育だけが悪いのではない。それはこの国の文化に深く根ざしている。この通信の読者には、そうした実情をぼくより深く知っている人も、また現に直面している人もいるだろう。
 話はかわる。こぐまくんのことを聞いて、ひとりの少女を思い出した。十年ほど前、ある県の支局にいたときに出会った。
 当時、その県の一部の中学校にはまだ「男子は丸刈り、女子はおかっぱ」という戦前のような校則があり、教師がこわい顔をして守らせていた。でもその少女は、中学校の入学を前に「憲法をぜんぶ読んだけど、私の髪は私のもの」といって、断髪をこばんだ。
 彼女の記事を書いたぼくは、この小さな女の子のつよさに驚いた。それ以上に驚いたのは、異質な彼女を排除しようとする学校や地域からの、風当たりの強さだった。家族は少女の判断を大切にしたが、学校側は、第三者のぼくらからみるといやがらせでしかない「指導」をしつづけた。髪を切れ、と。
 事態を重くみたその県の弁護士たちが、学校側に人権救済の勧告をしたが、少女はついに転校した。新しい町で新しい生活を始めた彼女に配慮して、その後は連絡しなくなったが、いまも彼女と家族を尊敬している。

 ぼくは、父も祖父も曾祖父も、教師をしていたことがある家に生まれた。自分も教師になるものと思って育ったが、大学の教育実習で学校の内側をちょっとだけみて「とても勤まらない」と思った。そんな落第生だが、もし子どもを育てる立場にあったなら、なにかあったとき「ぼくは、めいれいはきかない」「憲法をぜんぶ読んだけど、私の髪は私のもの」と言える子を育てたかったなと思う。もちろんその主張に疑問や異論はあるだろうけれど、自分の考えをしっかり持ち、ほかのひとと違うことを恐れない、そんな子を。
 そして、そういう子どもたちが大人になり、学校や会社や、議会やまちを変えていったら、とひとりで空想する。どうもいま、世の中は、逆の方向に向かっているようだけれど。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「2015年の高齢者介護」について
    東京都八王子市・甘利てる代


 2月20日、都内で、「高齢社会をよくする女性の会」の代表・樋口恵子さんが「2015年の高齢者介護を読む」と題した講演を行った。
 「2015年の高齢者介護〜高齢者の尊厳を支えるケアの確立〜」(以下「2015」と略)は、厚生労働省老健局長の私的研究会「高齢者介護研究会」(座長・堀田力氏)が昨年6月にまとめた報告書だ。団塊の世代が65歳以上になる2015年に向けて、これからの介護保険のありようや高齢者像を示している。
 樋口さんは介護保険施行で、「介護が憲法25条(生存権・国の社会的使命)から憲法13条(個人の尊重・幸福追求権・公共の福祉)に変わった」といい、介護保険の成果と問題点を明らかにしていった。
 介護保険の本来の目的は社会的入院の解消と、在宅重視であったはず。だが、現実には施設偏重が顕著になった。特別養護老人ホームで「入居者200人」「300人待ち」という話はよく耳にする。樋口さんはこの原因を「間違った価格設定をしたからではないか。施設に入って利用料の一割負担のみで生活丸抱えでは、在宅介護と比較してお得感は否めない。それならば施設と思うのは当たり前」と言いながらも、「団塊の世代の多くは親は施設で、自分は在宅と考えている。団塊の世代を通過すれば在宅重視に落ち着くのではないか」と推測した。では、在宅を進めるためにはどうすればいいか。「2015」ではこう書かれている。「365日・24時間の介護の安心を届けることのできる新しい在宅介護の仕組みが必要である。(略)このためには、切れ目のないサービスを一体的・複合的に供給できる拠点(小規模・多機能サービス拠点)が必要となる」。この拠点を地域の中に多く作ることで、施設でも自宅でもない第3の住まい方ができるというのだ。
 「まち全体で介護に取り組めば在宅がすすむ」と語った樋口さんのことばにうなずいた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
東京発の"しめつけ"に懸念
    さいたま市・谷瀬綾子


 300万票以上を獲得して再選された石原都知事だが、都政下では社会保障、福祉、教育の現場などからしめつけに対する悲鳴が聞こえてくる。
 中でもショッキングだったのが昨年、日野市七生養護学校で行なわれていた性教育へのバッシングと学校関係者116名の処分問題だ。ことの始まりは、7月2日の都議会で、一人の都議が「七生養護学校で異常な性教育が行なわれている」と質問したことだった。4日にはこの都議らが産経新聞の記者と共に同校を「視察」し、性教育の教材など145点を持ち去った。
 攻撃の対象になった教材や性教育の中身とは、・性器つきの人形を使った性交説明、・子宮体験袋(クッションなどをいれた袋の中を通り、生徒が生まれたときのことを追体験するための教材)、・「ペニス」や「ワギナ」を歌詞にいれた「からだうた」などだ。  
 これらの性教育は、性的嫌がらせにあいやすい、知的に障害がある子ども達に正確な知識を伝えるために考案されたものであり、保護者からの賛同も得ていた。
 しかし産経新聞は「過激性教育」と書き立て、都議会で石原都知事も「異常な信念を持って、異常な指示をする先生というのは、どこかで大きな勘違いをしているんじゃないか」と答弁した。 その結果、同養護学校校長は停職1ヶ月の上、一般教諭へ降格され、その他都立の盲・ろう・養護学校の教職員、教育庁職員らも処分された。
 あまりに一方的なこの措置に対して、教育関係者から「性教育バッシングの中止と処分の撤回を求める人権救済申し立て」の呼びかけがなされ、全国から7000人を超える申立人が集まった。また、日野市民の会によって教材の返却や関係者の名誉回復を求める署名運動も起こっている。
 東京都の障害児学校の組合はこのバッシングを、「『特別支援教育』の導入を前に、性教育を突破口にした盲・ろう・養護学校の管理強化だ」と推測している。特別支援教育とは、通常の学級に通う「学習障害」や「注意欠陥/多動性障害」、「高機能自閉症」という「障害」を持つ児童を対象にしており、必要に応じて、小・中学校に設置した「特別支援教室」で学習させるという教育システムのことだ。
 このシステムでは結局、勉強を妨害する子どもや「邪魔な」子どもを通常学級から排除することになる。都には早い段階から子どもを振り分け、できる子にだけエリート教育を行なう意向があるのではないだろうか。
 ただでさえ、日本の社会で一度挫折してしまうと再起が難しいといわれている。そんな中で小学生のうちから「落ちこぼれ」の烙印を押されることが、その子の人生にとってどういうことになるか。考えると非常に辛い。
 この動きが今後どう全国に影響していくのかも心配だ。しかしもっと不安なのは、このようなしめつけを行なう石原都知事に、依然として高い支持を示し続けているこの世相だ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(2004.2.21 
 「沖縄タイムス」朝刊・掲載記事より)

《弱者の論理で議員に》
  てぃるる 地域リーダー養成講座

 政策決定の場への参画や地域・団体リーダーを目指す女性をバックアップ−。県女性総合センター「てぃるる」主催の2003年度地域リーダー養成講座が13日、同所で開かれた。女性団体や市町村から推薦のあった約30人が参加した。
 講座では「女性を議会に無党派・市民派ネットワーク(む・しネット)事務局の寺町みどりさんによる講演やスピーチトレーニング講座、金武町並里区杣山での入会権訴訟を闘う「人権を考えるウナイの会」メンバーによる報告などがあった。

 「まちを変えるのは女たち〜わたしのことはわたしが決める」を演題に講演した寺町さんは冒頭、「今日の話は『後ろから背中を押すこと』とした上で、「無党派・市民派とは何か」「自治とは何か」「市民・市民の政治とは何か」といった基本的な事柄の説明や議員としての心構えなどを解説した。
 「自治とは何か」に関して寺町さんは「『自ら治める』、つまり『私のことは私が決める』ということ。自治体はそういう人が住んでいるところであり、役所はその事務所にすぎない」と強調した。地方議会に女性が立候補した場合の当選率は高いものの、「自治会選挙で女性は抑圧を受け、立候補できない」とした。
 市民派として活動する議員について寺町さんは「女性が多い」としながらも「だからといって女ならだれでもいいわけではない」とバッサリ。「政党や組織に所属せず『私』の視点と弱者の論理で政治をするのが無党派・市民派議員。と定義付けた上で、「組織の論理を優先するような女性議員では、現状は変わらない」と指摘した。
 町議経験を通して、党利党略で動く議員の姿を見てきたという寺町さん。「議員とは全体の奉仕者。自分の応援をしなかった人にも奉仕するもの」と利益誘導の議員活動を批判。 「自分のまちを変えたいと思ったら、一歩前に出てほしい。前に出る人の勇気を支えてほしい」と参加者に呼びかけた。