『む・しの音通信』No.43
2004年12月20日発行


特集《目の前のかべを乗りこえるために》
11月13〜14日「議員と市民の勉強会」参加者の報告


11月「議員と市民の勉強会」報告
 勉強会担当スタッフ・小池みつ子


 今回の勉強会全体のテーマは、「目の前のかべを乗りこえるために」。論理的な議論ができる力を身につけることを共通の獲得目標に、5つのセッションに取り組んだ。
 セッション@は「KJ法」。セッションAからDは、寺町ともまささん、みどりさんに講師をお願いした。11月13日(土)14日(日)の2日間、参加者15人。会場は『あいち健康プラザ』だった。
 セッション@の「KJ法」については、オプション企画として、担当の安立さんから別(P4〜5)に報告する。
 セッションAの課題は、「わたしが取り組んでみたい一般質問」。今回は個別問題の解決策ではなく、政策を実現させるため、障害をどうクリアしていくか、道すじを考えることを学んだ。
 セッションBのテーマは、「議論の手法を身につける」。議論とは何かを学び、論理的に話す基本をワークショップの形で実践した。出されたテーマについて、説得力のある話し方を意識して議論をすすめていった。
 セッションCのは、「論理の組み立て〜主張と反論の実践」。「立論:反論 40日大バトル」として事前に3つの設問が示され、参加者は講師とメールで議論のバトルを繰り返した。当日は、自分が選ばなかった課題について、主張と反論をとつぜん指名されておこなった。参加者はその場で『議員必携』や「自治法」「公選法」を確認したり、知る限りの知識をもとに、懸命に相手に反論を試みるという貴重な経験ができた。
 セッションDの課題は、「わたしが取り組んでいる議会改革」。議会改革を達成するために、障害を乗り越えるにはどうしたらよいかを学んだ。事前に提出した各自の「議会改革」の取り組みについて説明した後、参加者が意見を出し合い、さらに講師のコメントを得た。
 今回はどのセッションも、各自が積極的に発言することによりすすめられる「参加型」の講座であった。 
          
 


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《セッションA》
「わたしが取り組んでみたい一般質問」
       京都府木津町・呉羽まゆみ


      

 11月の参加型勉強会は、10月半ばの講師のメールからスタートです。「取り組んでみたい一般質問」について事前に《テーマ》《要点》《動機づけ》《獲得目標》《立論》《達成するための障害》の6項目について、A4のレジュメ1枚に簡潔にまとめて提出というものです。第1回の提出後、何度か講師とすり合わせ、勉強会一週間前に確定、本番を迎えるのです。
 《立論》って何? 具体的に文章を組み立てるってこと? 《達成するための障害》って何? どこが難しいかを分析するってこと? 今までにない項目に、はたまた戸惑います。どうやら「政策を設計する」ことのようです。講座の目的はわかりました。しかし、実践となると、自分の立てたテーマにもかかわらず、獲得目標がかけ離れていたり、とうてい届きそうもない目標を掲げていたりと、設計図がバラバラです。「立論がしっかりできていれば、おのずと達成するための障害も見えてきます」の言葉にまた頭を抱えます。
 当日は、参加者15人の質問が6つのグループに分けられていました。1グループ15分。自分のレジュメを初めて聞く人にもわかるように、1人2分で簡潔に発表。その後、参加者同士で自由に気づいた点をディスカッション、講師からコメントをもらうという形で進められました。
 事前にメールで他の参加者のレジュメをもらっていたのに自分のことで精一杯、十分に見ておく時間をとらなかったのが悔やまれます。「もっと具体的な数値のデータを指し示すべき」「障害が立てられていない、見えていない」「獲得目標に挙げられているが、二つ別の目標が一つになっている」「政策を取りあげること自体に意味がある」など。参加者同士の意見交換により、一つの課題が全体のものになります。続いて、待ってました、講師のコメント。
 なかなか手をつけがたい一般質問を取りあげることと言われた今回。最後にようやく、設計図が描けそうな、そんな気持ちになった「セッション2」でした。



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《セッションB》ワークショップ
「議論の手法を身につける」
      東京都八王子市・甘利てる代


 議論する時に「ルール」があるということを、果たしてどれほどの人が認識しているか。ましてや、議員たるもの「声が大きい方が勝ち」「難しいことばを使えばいい」と錯覚している人も少なくない。もちろん市民だって同じだ。では、議論とは何か。効果的な手法はあるか。そもそも人はなぜ議論するのか。こんな「基本」の「き」の確認から始まったのがセッション3。講師はみどりさんだ。
 講師はボードに一文を書いた。「私はあなたが好きです」。こんな分かりやすい例文で「論理的に話す」基本のルールの解説から始めた。このことばを向かい合った相手に言い、その後に「なぜなら」とどこが好きなのかの根拠を伝えるという実にシンプルな手法だ。「理由を言うことで相手は納得し、コミュニケーションが成立する」と講師。
 議論とは相手の意見を私がどうとらえているかを表明することから始まる。あなたの意見に「賛成」または「反対」していることを明らかにしてから、その理由を述べなければならない。これができていない人が案外多い。評論してしまうからだ。評論は「私」がどう展開したいかが欠落している。故に議論は構築されず、ただのおしゃべりとなってしまう。 的確に相手に主張が伝わるためには、話すことばにも注意が必要だ。長々としゃべっていると、いつの間にか主語が替わっていたりするから要注意。相手に理解してもらうためにはそれだけを一つ言う。ことばは簡潔に、抽象的な表現をしないなど、次々に講師が説明。ルールを踏まえての議論のワークが始まった。テーマは「市民派議員に求められる資質とは何か?」。議論が深まる場面があり、沈黙が漂う瞬間があり、講師が軌道修正する場面ありと波瀾万丈。
 分かったこと。威圧的に言われたことばに対しては拒絶感が強くなること。ちゃんと議論をしようと思ったら相手を尊重するということだ。議論の場面では時に、相手は自分を写す鏡なのだ。



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《セッションC》
「40日バトルを終わって」    
   埼玉県越生町・田島公子


 今回の勉強会は新趣向が採り入れられた。議会内で絶対的少数派である市民派議員がじっさいに遭遇した問題を元に、いかに対処するかの反論の仕方を想定問題でおこなった。
 具体的には講師から10月初めに設問が出され、そのうちの1問を選択して主張する。それに対し講師が反論する。さらにその反論を送り、とメールで3往復のやり取りをした。勉強会が始まる40日前から議論のキャッチボールが開始されたわけである。
 しかし、日頃からディベートなどしたことがないし、何かを無理して言いくるめるようなことをしたことがない。敵の弱点を突くのは苦手というより、弱点が見つけられない。自分の考えを正しいと確信して行う攻撃はできるが、自信がないときの守りは不得手。正攻法しかしたくない。いつも仲良し友達とつき合っているだけでは、「社会的訓練が不足」といわれても仕方がない。ともあれ反論すべく、あちこち本を出して調べ、考える。そして、事前のやり取りに苦労した。
 勉強会当日はもっとおどろいた。苦労して作成した自分の反論をどう深めるのかと見ていたら、その課題では傍聴側にまわり、聞いているだけだった。選択しなかった別の二つの課題につき、参加者は市民側と市側に分かれてみな即興で、互いに対峙したのである。自分の取り組んだ問題では余裕を持って聞いていられたが、他の課題はまったく調べておかなかったので、けっきょく一言も討論に加われなかった。しかし、もしそれが私の身に降りかかってきたことなら、火の粉は自分で払うしかないのだ。法的にはよくわからないことでも、とっさに対処しなくてはならない。皆さんはなかなか堂にいった応酬をしているように見えた。日頃苦しめられている姿を彷彿とさせるやりとりで、感嘆しているうちに終ってしまった。
事前のバトルには時間をかけられたが本番は臨機応変、スピードが必要だった。



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《セッションD》
わたしが取り組んでいる議会改革
       長野県穂高町・小林純子



 参加者14人の「わたしが取り組んでいる」議会改革はさまざま。外の世界から見れば、議会ではそんなこともできていないの、とあきれられるような現実が改革の対象といえなくもない。
 市民の目線で見ている市民派議員としては、前もって提出するレジメも「すぐ書ける」はずだったのだが、「なんでこんなことがまかり通っているのか」と嘆くだけだった私にはなかなか難しく、講師の助言を得て、やっと書き上げたというのが実態。議会改革に臨む自分の姿勢の甘さが否応なしによく分かり、これが逆に勉強会本番への意欲となった。
 参加者の議会改革の内容は、@個別の問題、A議会から市民への情報発信、B委員会のあり方・もち方、C会派の問題、D議会のルールと申し合わせ、に分類。グループ別に一人ずつ各自の取り組みを説明した後は、参加者でディスカッション、講師からコメント。
 この進め方で参加者それぞれの改革の課題に迫るのは時間的に苦しかったが、互いに第三者の目で問題を指摘しあうことで、自分では見えなかった解決の糸口や、核心にふれるヒントを得ることができた。また、1分で伝えたいことを過不足なく話す訓練もでき、これはうれしい副産物となった。
 市民派議員の置かれている立場を考えると、怒りや不信感、個人的な好悪の感情へのこだわりも理解できるが、そこは取っ払って冷静な思考からスタートすること。適正・適法か、議員の権利が侵されていないか、一部の者を排除しようとしていないかなど、「法に基づいて判断し、慣例や違法なルールには従わない」という信念を持つことが何よりも重要と再確認。
 私の課題でいえば、違法だと主張したからには「取引」には応じず、違法状態を解消することのみ肝に銘じ、決意も新たに、めげずに議会改革を進めていきたい。



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「KJ法」講座報告
勉強会スタッフ・安立さとみ



 「KJ法」は、抱えている課題について問題解決の道筋を見つけ出すための有効な手法。7月の勉強会で、参加者から「KJ法を体験したい」と強い要望があり、11月の勉強会では、セッション@として「KJ法のワークショップ」を行った。
 「KJ法」はテーマ選びが重要である。参加者全員がまず取り組みたいテーマを提出、その中から「A:市民派議員と市民の関係」、「B:一般質問を使ってどう政策実現をするか」、「C:書き言葉で、他者にメッセージをどのように伝えるか」の3テーマを決めた。参加者は希望のテーマを選び、1グループに4人ずつとなった。当初みどりさんに講師をお願いしたが、「KJ法」講座のほかにも4セッションあり、講師の負担が大きすぎることなどから、急きょ「KJ法」の経験がある運営スタッフの小川まみさん、小池みつ子さん、今大地はるみさんの3人がそれぞれA,B,Cを受け持つこととなった。
 まずプレ企画として、事前に「KJ法インストラクター養成講座」を開いた。参加者は「む・しネット」スタッフ、講師にみどりさんをお願いし、4時間の日程で実施した。
 勉強会当日は、初めに今大地はるみさんから、「KJ法の基本と手法」が説明された。その後3グループにわかれ、それぞれ担当の講師のアドバイスを受けながら、カードづくりから始めた。「KJ法」は文章化まで行わなければ、終了したとはいえないと「KJ法プレ講座」で聞いていた。そこでメタカードを使っての文章化をおこなうため、各自持ち帰り文章化して講師に提出、指導してもらうことで「セッション1」は終了した。

11月勉強会の「KJ法」3テーマの
 文章化については、『む・しの音通信』
 44号に掲載する予定です



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「KJ法講師養成プレ講座」に参加して         
    桑名市・小川まみ


 10月28日に岐阜市のハートフルスクエアGにおいて、「KJ法講師養成プレ講座」を実施した。講師はみどりさん、受講生は本番の講師3人と運営スタッフの計6人。
 今回の講座は、勉強会で「KJ法ワークショップ」をおこなう上で、講師として何をしなければならないのか、説明する時に落としてはいけないこと、レジュメの作り方に主眼をおいて行われた。
 まず、「KJ法」を成功させるために、注意しなければならない点について説明があった。「カード」と「メタカード(表札)」をつくるコツとして、『土の香がするやわらかい言葉』で書くというのであるが、幼稚園の時のいも掘り体験しかない私にはイメージできず、「羽毛のようなやわらかさ」と言い換えてはいけないのだろうかと考えてしまった。 また、「カードの配置」の説明では、『理屈を捨てて情念で考える』というが、情念ではものを考えないぞ、とすぐに理屈が先行しそうになるのを押さえながら聞いていた。直感で勝負の「KJ法」である。

 全体を通じてインストラクターとして大切なことは、次の4点。
1.出てきたカードを一枚も落とさない。
2.恣意的にある方向へ導かない。
3.参加者の動きとカードをよく見る。
4.間違ったやり方の時は止めに入る。

 次に、「KJ法の講座を成功させるためには」をテーマとして、「ミニKJ法」を体験した。事前に『発想法』『続発想法』を読み、説明まで聞いているので、頭では十分理解していたつもりでも、じっさいにやってみると、「本当に大丈夫かな?」と思うことがいくつかあった。グループ編成の時に、いきなり「はぐれ猿」のカードがまん中に置かれてしまうことはないのか。リーダーシップを発揮する人に対して、「そのやり方は間違ってますよ」とみどりさんのように言えるのか。心配の種は尽きないが、とにかく「やるだけのことはやった!」という気分で「KJ法プレ講座」を終了した。


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ワークショップ「KJ法」を体験して
   京都府亀岡市・しのはら咲子



 私は「市民派議員と市民の関係は」というテーマで「KJ法」に挑んだ。メンバーは4人、わたしたちのグループは「順番ブレインストーミング」という、各自がカードに記入するのではなく、一人ひとりが順番に思いついた短文を言い、前の人が次の人の文言をカードに順次書く方式でおこなった。今回は講師の小川まみさんがカードに書くのを引き受けてくれ、考えることに集中できた。
 そこで出たカードをすべて一枚ずつ読み上げながら配置するとき、どの位置にカードを置くかで意見の違いが起きたが、話し合って皆が同意した上で決めていった。民主的な方法だという面がここにもあった。そして、集まったカード群の表札となるメタカードを書く時の発想が重要であることが、あとになってよく分かった。作業中は、あとでメタカードをすべて使った文章を組み立てることなど頭になく、「・・・・な市民派議員」「市民派議員は・・・・」といった表現に終始した感がある。
 次に、メタカードのグループ分けをして、後で小見出しとなるカードの言葉を記入した。島と島及びメタカードとメタカードの関係を矢印や記号で結ぶことで、このテーマの入り口や出口、関係性が図式化されて大変分かりやすく、これこそ実践して面白いと感じたことだ。
 最後に文章化するにあたって、新しい表札のカードを段落ごとのタイトルにすることが分かっていなかったので、島から島へ移りながら、すべてのメタカードをどのようにつなげて一つの文章に仕上げるか頭をひねった。27枚のメタカードに順に番号をつけて組み立ての目安とし、パズルのように文章を組むのをそれなりに楽しんだ。しかし、もう一度、小見出しのカードで段落分けをした文章の作成を試みることにする。
 試行錯誤しつつ「KJ法」を学んでいるが、いま私が行っているアンケート調査を質問に
生かす上で、「KJ法」が応用できるかも知れない。


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0(ゼロ)から始める勉強会
   1月勉強会スタッフ・高澤栄子


 議会のなかで「無党派・市民派議員」は少数です。しかし、数の力に負けることなく、ひとりでもたたかっていくチカラをつけるために勉強会に参加する。こんな思いを抱いての、勉強会参加でしたが、これまでは「む・しネット」の運営スタッフのみなさんが準備してくださった勉強会に、当日参加するのみの会員でした。
 11月の勉強会の1日目の夜のこと。事務局から、「前例・慣例に従って勉強会を企画するのではなく、今度は今までの勉強会とは違う方法で、白紙の状態から勉強会を考えてみては?」との提案がありました。その時は、「白紙の状態って何?」「どこがどう違う勉強会になるの?」と他人事みたいに聞いていて、私自身は白紙の状態というのが飲み込めずにいました。もしかしたら、誰もがそんな思いだったのかも。その夜は、次の勉強会について、これといった話もなく終わり、翌日の勉強会終了後も同じでした。
 次回の勉強会の担当スタッフも決まらず、「じゃあ、また」といって帰りかけた時、これではいけない、ということになって、バタバタと名乗りをあげたのが4人。そんなわけで、1月の勉強会のプロジェクトスタッフとなったけれど、学びたいという気持ちは強いものの、どこからどうとりかかっていいのか。そこで、やってしまったのが前例の踏襲でした。白紙の状態ということが理解できていませんでした。「む・しネット」のスタンスは、「やりたい人がやる」。思い入れの深さや動機がスタートとなって、物事ははじまる。そうだ、わたしは何を学びたいのか。そこからスタートすればいいんだ。やっと、白紙の状態、ゼロから、ということが飲み込めました。 もしかしたら、学びたい!ということがどんどんエスカレートしていって、勉強会自体、ちょっと欲張った難しいものになっていたかもしれません。次回は、議会での悩みを話し、お互いに意見のやり取りができるセッションも設けました。取り組むプロセスが勉強です。



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自衛隊イラク派兵差し止め訴訟
「原告陳述書」 
  名古屋市・坂東弘美


2004年11月5日、名古屋地裁で
「自衛隊イラク派兵差し止め訴訟」の、
第3回口頭弁論がありました。 以下は、
原告として意見陳述された坂東弘美さん
の「意見陳述書」の要約です。



 アナウンサーとして放送局で仕事をしていた頃の私のモットーは「政治的には中立。標準語で、明るく優しく」でした。しかし、自分の話している言葉が、誰の心に、どのように届いているのかと考えるようになり、88年に「がま口塾」というフリートーキングの会を始めました。そこで話し合しあうなかで、私は「言葉はどんな時にどんなふうに使うべきか」ということを学びました。私にそう教えてくれた出来事をお話しして、私がなぜ原告になったかという説明にしたいと思います。

1.チェルノブイリ原発被災地の救援活動

 
1990年の夏、「チェルノブイリ救援中部」という市民団体の代表として、10日間ほどウクライナのチェルノブイリ原発事故の被災地を回りました。事故から4年、現地では驚くことばかりでした。280万人もの人々が移住しなければならないのに、そのまま居住禁止の村にも住み続けている人たちがいました。私たちが日本人だと知ると誰もがぜひ助けてくれと言うのでした。それだけ被爆による病気で人々が苦しんでいたのです。放射能には色も臭いも音もありません。情報や保証がない限り、一般の人々はそこで暮らし続けることになります。
 アメリカ軍はイラクで大量の劣化ウラン弾を兵器として使用しました。汚染された大地で暮らす人々が、年を追って悲惨な運命を引き受けねばならないことを、容易に想像することが出来ます。その恐ろしさを「静かなる虐殺」「静かなる民族浄化」と呼ぶ学者もいます。その土地へ自衛隊が行っています。
 チェルノブイリ原発から50キロのナロジチで、「チェルノブイリ資料館」を見学した時のことです。一人の母親が詩の朗読をしました。「神様どうぞ助けて下さい。こんな恐ろしい未来になるなら、子どもなんか生まれないほうがいい・・・」。そういう詩でした。帰国後もたくさんの手紙を受け取りました。「病に関してはもう手遅れです。私たちは物がほしくて手紙を書いているのではありません。慰めの言葉や私たちのことを考えてくれている人がいると思うことで生きていけるのです」という文章にふれた時、私は「ああ、言葉というものは、計り知れない底力を持っている」と実感しました。恐怖や不安に打ち勝つために、武器は要りません。私たちは武器がなくても「言葉」の力で生きています。

2.留学生射殺事件と銃規制請願運動

 1992年、アメリカのバトンルージュで、名古屋からの留学生・服部剛丈君が、銃で射殺されました。母親の美恵子さんは私の幼なじみです。彼女は、銃を撃った人もアメリカの銃信仰の犠牲者だとして、彼を恨むことをせず「米国の家庭から銃の撤去を」請願する運動を始めました。「YOSHIの会」が結成され私はその事務局を務めました。1年後、多くの方々の協力で、170万人分の署名をホワイトハウスに直接、届けることができました。私たちは1995年に名古屋弁護士会から、「銃のない社会をめざす運動を精力的に展開している」と「人権賞」を受賞しました。私と美恵子さんは、運動をまとめた『海をこえて、銃をこえて』という本を出版しました。
 両親は息子の死に関わる裁判を二つ闘っています。刑事裁判では無罪評決が出て、正当防衛として片づけられました。被告弁護士は「玄関のベルが鳴ったら、誰に対しても、銃を手にドアを開けることが出来る法的権利がある」と語りました。2年後の民事裁判では、分別のある人間であれば「どうして銃が必要なのか、何が見えたのか」聞くはずだとして正当防衛は認められず、勝訴しました。私たちはアメリカから留学生を招いたり、アメリカでの銃暴力をなくす、草の根の活動をしている団体に賞を毎年送り続けて運動をサポートしています。これらが認められて両親は、2002年度「Galatti賞」を受賞しました。世界中の多くの人たちが、平和な世界を願って異文化交流に努力しています。私たちは安全・安心な子どもたちの未来のために、武器を安易に持ってはいけないと訴え続けています。 おととし美恵子さんは米国各地を訪問しました。ホストファミリーだった家に、顔なじみの若者たちが集まった時、「来日した学生たちに感化された人たちがきっと米国を変えていく核になる」と信じることができたそうです。彼女も「YOSHIの会」も、世界の紛争を解決していくには、地道な草の根の異文化交流こそ最良の道だ、けっして憎しみを連鎖させてはいけないと考えています。

3.中国での教師と国際放送局勤務の体験

 私は1986年から2年間、中国で中学・高校の日本語教師をしました。1200人の生徒全員を引率して南京虐殺記念館に参観に行き、子どもたちがどんな歴史教育を受けているか、目の当たりにしました。
 私の父は、軍人として7年間、中国に駐屯していました。父の青春の姿が、いま国際協力、復興支援という名で、イラクに行っている自衛隊員に重なります。息子が小学校の6年生の時、父に「戦争はどうしておきるの?」と尋ねました。父は、なぜ戦争に行くことになったか、戦地で何があったのか、便箋343枚に手紙を書き送りました。私は今年8月15日に父の手記を、『私は戦争から生きて帰った』と題して出版しました。ごく普通の人間が、国家によって、鬼にされていく過程を、多くの若者に読んでほしいと思っています。
 長男は、高校卒業後、中国に留学し、現地の家庭で温かいもてなしをうけるうち、張君という親友ができました。彼は我が家にホームステイしながら大学に通うことになりました。彼が来日して4ヵ月目に父が亡くなりました。長男は留学先からすぐに帰国できず、葬儀には張君が孫の代表を務めました。棺を先頭で担いだのは中国の青年だったのです。彼は日本で就職し結婚し、一児をもうけて、家族として、私の身辺で暮らしています。
 なぜ父は中国の人たちを殺したのでしょうか。私の体が中国の人たちの血と涙でできていると思う時、耐え難い辛さにおそわれます。「戦争だったから仕方がない」と私は言えません。仕方がなかった「戦争」を始めたのはいったい誰だったのでしょうか。いま日本はじわじわと戦争をしてもいい国になりつつあると私は感じています。「テロリストをやっつけて世界の安全を守った」「国際貢献のために立派に死んだ」などと、過去形で語られることになるかもしれない人々を日本から送り出しては、戦争の反省の中から生まれた私が生きている意味がありません。私が私として、人々の心の中に届くために使う言葉は、私が長い歴史の一瞬間、生きた意味があるように使わなければなりません。
 99年から4年間、私は中国国際放送局に勤務しました。そこで私は「紫金草合唱団」という南京虐殺事件犠牲者の鎮魂と贖罪をテーマにした合唱組曲を歌う、日本のボランティア合唱団にめぐり合いました。現在、日本各地に千人の団員がいて、南京や北京で公演を成功させ、中国の多くの人たちと交流し、中国のメディアで大きく報道されました。上辺だけの公式的な友好ではなく、歴史の事実を率直に詫び、共に平和を語り合うのに、じつに65年の歳月がかかったのを私は見届けました。人間の体や心を壊すのは一瞬でこと足ります。それを修復するには気の遠くなるような年月が必要
です。

4.最後に

 憎むことより愛することを私たちは選び取るべきだと思っています。服部剛丈君は16年の生涯をかけて、そのことを教えてくれました。私の父は83年の生涯でそれが出来なかったので、私が私の生涯をかけて、愛することを選んでいこうと思っているのです。
 首相が何と説明しようとも、メディアがどう報道しようとも、人を殺す武器を持った自衛隊という名前の兵士が日本から外国へ派遣されることは、私のこの決意にまさしく反し、私の平和に暮らす権利を侵しています。
 一刻も早いイラクからの撤兵を望みます。

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インフォメーション


1月「議員と市民の勉強会」ご案内

一日の勉強会ですが、予算審議を控え、すぐに役立つノウハウを盛り込みました。
 私たちが知りたいことを私たちがつくる、そんな勉強会に、是非ご参加ください。


日時:2005年1月29日(土)13:00〜20:00
会場:ウィルあいち セミナールーム4
 テーマ『0(ゼロ)からはじめる勉強会』
 《内容及び講師》
 ◆セッション@ 13:10〜15:10
  「予算の基本」 講師:今大地はるみ
  ・予算とは何か ・予算審議とは何か
  ・予算の持つ意味について
 ◆セッションA 15:20〜17:50
  「予算審議の着眼点」 講師:寺町知正
  ・ヒヤリングの方法や目のつけどころな
   ど、予算審議の実践的手法について
◆セッションB 18:00〜20:00
「予算に関する悩み」話しませんか?
コーディネーター:今大地はるみ
  コメンテーター:寺町知正
 ・予算に関する悩み・課題について意見
  交換し、解決策をみつけましょう


対 象:原則として会員(お試し参加あり)
参加費:会員 1万円(+αの可能性あり)
参加条件:全セッション参加が原則
申込〆切り:12月25日(土・必着)
参加申し込み&お問合せ(担当スタッフ)
呉羽真弓 TEL/FAX 0774-72-9172
高澤栄子 TEL/FAX 0795-32-1577
※翌30日は「むし・ネット」会員の「勉強会プ ロジェクト会議」を予定しています。


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−新刊書紹介−
 『子育て大崩落〜
  子どもは母親から引きはがせ』
 田中喜美子著/毎日新聞社/1333円


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上野千鶴子講演会
当事者主権〜わたしのことはわたしが決める

日時:2005年3月26日(土)
13:00〜15:00
会場:ハートフルスクエアG(JR岐阜駅東)
   大研修室(定員100名)
講師:上野千鶴子(東京大学大学院教授)
参加費:1500円(要申し込み・事前振込)
《申し込み&お問い合わせ》
寺町みどり(Tel/Fax 0581-22-4989)
《参加費・郵便振替口座》
郵便振替番号 00830−0−80951 米加入者名 「米ネットワーク」
主催「女あそびの会」・協賛「む・しネット」


−編集後記−


 疲れが取れず体調いまいち。12月議会の
一般質問の準備も満足できるものになって
い なかったが「今度ふたりで傍聴に行きま
す」とみどりさんから電話。 思わず「エッ ど
うしよー」、ちょっと緊張。でも外から 見た貴
重な感想をいただけました。(小池)

春には本を出し、夏には体調をくずし、
いつも原稿に追われてた(笑)。あっとい
う間の一年だった。来年はなにかいいこと
あるかなぁ。こりずにおつき合いくださっ
たみなさま、よいお年を!! (みどり)