『む・しの音通信』52号

市民に開かれた議会へ大きく近づく
    長野県安曇野市・小林純子


 昨年10月1日、近隣の5町村が合併して安曇野市が誕生した。84人いた町村議員は合併により失職。10月23日の市議会議員選挙では46人が立候補し28人が当選した。
わたしは選挙公約のひとつに「議会に関わる条例や規則の見直しをすすめ、密室政治になりがちな議会の透明性を高め、住民に開かれた議会に変えていきます」と掲げて当選した。だから、安曇野市の初議会には、“最初が肝心、いまこそ議会を変えるチャンス”と、張り詰めた気持ちで臨んだ。
 市長のあいさつには「自治能力の向上」ということばがあった。議長就任のあいさつには「民主的で透明度の高い議会に」、そして副議長のあいさつには「議会の情報公開の重要性」が、それぞれ述べられていた。
 正副議長が決まり、いよいよ議案審議。まっさきに議員提出議案1〜4号が一括提案された。これらは会議規則や委員会条例、傍聴規則など、議会について規定するもので、安曇野市議会の運営の基本となるものである。
 初議会に先立って開催された議員懇談会では、かなりつっこんだ議論があり、前例・先例を踏襲するだけでなく、新しい安曇野市議会独自の内容になっていった。しかし、それでもまだわたしとしては不満足な点が残されていた。このうえは、あえて本会議で反対討論をして問題点を指摘し、否決の態度をとるしかないかと考えていた。ところが、幸いなことに提出された議案のなかに未修正の箇所が見つかり、全員協議会で再度検討することとなったのである。
 そこでわたしは、委員会条例の第19条「委員会は議員のほか、委員長の許可を得たものが傍聴することができる」を「原則公開とする」に改めるべきだと再度主張した。冒頭にあげた市長、正副議長の言葉を引用し、「自治能力の向上は、議員や職員だけの問題ではない。ここには市民の存在が欠かせない。議会の透明度を高くし、きちんと情報公開していくことなくして、市民が市政に参画することはできない。より実質的な審議をしている委員会を傍聴するのに、いちいち委員長の許可が必要ということであれば問題である。条例には原則公開と明記すべき」と強調した。
 すると、「傍聴席が限られているから、傍聴者がたくさん来た場合は委員長が許可するようにしないと混乱するのでは」、「議会はもともと公開が原則だから、委員会も傍聴したい人があるなら許可しないはずがない」、「最近の世相から考えると、誰が入ってくるかも分からないようでは議員も傍聴者も不安。傍聴は許可制にして、しっかりチェックすべき」といった意見も出て、思いがけず活発な議論が展開されることとなった。
 そしてついに、わたしだけでなく少なからぬ議員から「原則公開」に賛意を示す発言が続き、最終的には「委員会は原則公開とする」ことで決着したのである。市民に開かれた議会へと大きく近づいた記念すべき初議会、わたしにとっても大きな収穫であった。
 ところで、この全員協議会は公開され報道関係者も含め傍聴者が10人ほどあったが、そのことが原則公開を後押ししたように思えてならない。議論を公開することでいやおうなく民主的にせざるを得なかったわけである。

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おんななら誰でもいいのか
東京都八王子市・甘利てる代


 「本当に、これで良かったのでしょうか」
 昨年の9月の衆議院の総選挙以降、これまで女性議員を増やそうとさまざまな活動をしてきた方々から、心中複雑な思いであるとの声を聞くことが増えた。
 この選挙で当選した女性は43人。1946年の戦後初の総選挙で誕生した39人の女性議員の数を「いともたやすく」上回った。確かに史上最多である。
 小泉首相の「電話」一本で、「出馬」を決意した学者やキャリア組の女性たち。刺客だのマドンナだのと騒がれた女性たち。そもそも彼女たちが女性の中の「勝ち組」であることを忘れてはならない。「勝ち組女性」が「勝ち馬」に乗っただけのことであり、小泉流「自民党クオーター制」の勝利などとは思いたくもない。
 ましてや、おんなが増えたからと言って政治が変わるとは誰も思っていないのだ。それが冒頭のことばにも端的に表れている。
 私は女性議員が増えればいいと思っている。理由は数が少なすぎるからだ。だが、誰でもいいとは考えていない。私の判断基準は明瞭である。「正義感」を持っているかどうかだ。いかに弱いものの命を守れるかだ。それ以上にどうしても適切なことばが浮かばない。
 女なら誰でもいいと思っているのは、公言こそしないでいるが「男」ではないか。そのことに気がついたのはある取材をしたからだ。
 今から5年前、私は沖縄県那覇市の市長選挙を取材した。この選挙では革新市長が辞意を表明し、後継者として行政から女性部長を引っ張り出していた。那覇市はそれまで30年以上の革新市政が続いていた。一方、この選挙で市政奪還を目指したい保守は、用意周到に候補者を選んでいた。
 かつぎ出された女性は確かに37年間の行政経験者であり実力は十分だ。しかし、知名度はまったくない。なぜ彼女だったか。その説明を聞いてあきれ果てた。
 1年も前から辞意表明をしていたはずの革新市長を直前まで出馬するように説得していたことと、革新の与党3党がそれぞれ誰を出しても足を引っ張る形で結束できなかったためだ。困ったときの帳尻合わせに、彼女を使
ったというわけである。
 もし彼女が男だったら、革新市長は辞意を表明する前に彼女を助役に抜擢していただろう。その上での立候補であれば、勝算は十分にあったはず。女性を後継者にするつもりなどもともとなかったのだ。本音は権力のトップには男しか考えられなかったのだろう。
 「男は勝ち目がない選挙には出ない。負けてもともとの選挙にしか女にお鉢が回ってこない」、こういった女性がいた。その通りだ。誰かを牽制するために女性を使う。ではなぜ女は出るか。こういう時にしか力を試す機会がめぐってこないからだ。それは先頃の総選挙でも同様だった。だが、結果はまぎれもなく「民意」であり、政治の転換期であることは疑いようもない。
 国政レベルの女性候補者に、会員から寄せられた資金を援助する団体として知られる、「WINWIN」(代表は元文部大臣の赤松良子さん)のニュースレターでも、大きな政党がその気になれば女性議員を増やせることが証明されたとして、「・・・さらに超党派で、すぐれた女性をという目標自体も疑問を感じる時代になったということがあります。
・・・現在の会を休止するほかはないかと考えております」(2006年1月号)といい、赤松さん自身が辞意を表明している。
 では、史上最多の女性議員誕生は、これまで女性議員数にこだわってきた「WINWIN」をはじめ、多くの活動団体に何をもたらしたのか。皮肉なことであるが、私は「おんななら誰でもいい」の時代を、超えようとしていると考えたい。性別ではなく、政策を見極める心眼を持とうとしているのだ。
 私たちもまた、分岐点にいる。

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「行政の多重債務者対策の充実を!」
       三重県桑名市・小川まみ


 12月3日(土)、名古屋市の東別院会館で開催された「自治ネット」主催の公開講座に参加した。講師は、中日新聞生活部記者の白井康彦さん。
 白井さんは、取材を通して多重債務者の苦悩の深さを肌で感じており、問題の深刻さが世間に伝わっていないことを本当に残念がっていた。また、多重債務問題は、「失踪、離婚や自殺の原因になるなど深刻ではあるが、きちんと相談さえすれば、逆に解決率は高い。しかし、周囲に分からないように内緒で借りているため相談に行かず、一人で抱え込んで問題を深刻化させているケースが多い」そうだ。「行政やマスコミが問題をもっと顕在化すべきである」と訴えていた。
 講師は、「多重債務の問題点」と「行政が今すぐ取り組むこと」を次のように指摘した。
●借りやすいシステムに問題
 初めは、長く借りることを考えていないので金利よりも便利さで借りてしまう。サラ金もカードで機械からお金が出てくるので心理的な抵抗感がなくいつも限度額いっぱい借りてしまう。まるで自分の銀行口座から預金を引き出すような錯覚に陥る。サラ金だけでなく銀行系カードローンも同じように借金地獄に陥る。
●CM量と儲けは比例する?
 CMをたくさん流している大手から順番に借りていく。取引年数が長いと借りた金額より返済金が多くなるため、先に貸した会社は貸し倒れリスクが低い。結局、CMを流すから儲かる。儲かるからCMが流せる。というふうに大手ほど儲かる仕組みになっている。
●問題解決への処方箋
@相談へ呼び込む方法として「相談すれば助かりますよ!」と解決方法や相談場所を啓発。
A法的に多重債務を処理するだけでなく、借金依存症克服のための家計管理指導。
B「カードローンの危険性」や利息の計算方法を解説する金銭教育。
C「多重債務者ホットライン」の創設。

 私も今まで、多重債務者問題は、税の延滞金の約2倍もする高金利の借金をする人が悪いわけで、社会問題というよりは個人の問題であると思っていた。しかし、この講座に参加して、些細なきっかけでごく普通の人が多重債務者に陥ってしまうことがよくわかった。過去に多重債務者だった人も参加しており貴重な体験談を聞くことができた。  
 その人は、「悪徳商法にひっかかり、お金がないからと断ろうとしたけれど、50万円借りさせられ、以後返済のために借金を重ねた」そうだ。浪費癖が原因ではなかった。
 多くの多重債務者が世間でよく言われているように「借りまくって返さない人」とは違い、真面目に毎月返済しているが、徐々に残高が増えていくという悪循環に陥っていることも分かった。
 元旦の日本経済新聞には、06年3月期に経常利益が1000億円を超える企業が74社になるという記事があった。そんな高収益企業74社の中に消費者金融会社が3社も含まれていた。『CMをたくさん流しているところほど儲かる仕組みになっている』という講座での話を思い出し納得した。この記事からも、最初に貸すであろう大手3社の貸し倒れリスクが低いことは容易に推測できる。多重債務問題は貸す側の社会的責任が問われるべきであると痛感した。
 サラ金の利用者は約1300万人。人口の2%弱(50人に1人)が多重債務予備軍であると推定されているとのこと。リストラや残業代カットから生活費が不足し、大量のCMが高利の借金の怖いイメージを和らげ、便利なカードローンでつい借金をしてしまう。生活困窮から税の滞納や生活保護受給へと。 多重債務者問題は行政にも関係しており、積極的に取り組むべき問題である。

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インフォメーション

おススメの新刊2冊
『私も入りたい「老人ホーム」』
甘利てる代著/NHK出版/740円+税
「宅老所」と呼ばれる高齢者の居場所が、全国に広がっている。民家と同じような環境で、
年齢や障害の程度も問わず、「いつでも・誰でも・どこでも」受け入れる。徹底的に利用者の思いを尊重する。「通って・泊って・住む」こともできる。老いてもぼけても、自分の住む地域で安心して過ごしていける。そんな温かい「宅老所」を、あなたのまちにも!
『高齢者ケアの達人たち』
甘利てる代著/CLC/1900円+税。
この本には、奇跡がぎっしり詰まっています。


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(2006年1月10日毎日新聞夕刊より)
上野千鶴子さんの講演
都「女性学の権威」と拒否 見解合わないを理由に

 東京都国分寺市が、都の委託で計画していた人権学習の講座で、上野千鶴子・東大大学院教授(社会学)を講師に招こうとしたところ、都教育庁が「ジェンダー・フリーに対する都の見解に合わない」と委託を拒否していたことが分かった。都は一昨年8月、「ジェンダー・フリー」の用語や概念を使わない方針を打ち出したが、上野教授は「私はむしろジェンダー・フリーの用語を使うことは避けている。都の委託拒否は見識不足だ」と批判している。
 講座は文部科学省が昨年度から始めた「人権教育推進のための調査研究事業」の一環。同省の委託を受けた都道府県教委が、区市町村教委に再委託している。
 国分寺市は昨年3月、都に概要の内諾を得たうえで、市民を交えた準備会をつくり、高齢者福祉や子育てなどを題材に計12回の連続講座を企画した。上野教授には、人権意識をテーマに初回の基調講演を依頼しようと同7月、市が都に講師料の相談をした。しかし都が難色を示し、事実上、講師の変更を迫られたという。
 このため同市は同8月、委託の申請を取り下げ、講座そのものも中止となった。
 都教育庁生涯学習スポーツ部は「上野さんは女性学の権威。講演で『ジェンダー・フリー』の言葉や概念に触れる可能性があり、都の委託事業に認められない」と説明する。また、一昨年8月、都教委は「(ジェンダー・フリーは)男らしさや女らしさをすべて否定する意味で用いられていることがある」として、「男女平等教育を推進する上で使用しないこと」との見解をまとめていた。
 一方、女性学とは社会や学問のあり方を女性の視点でとらえ直す研究分野だ。上野教授は「学問的な見地から、私は『ジェンダー・フリー』という言葉の使用は避けている。また『女性学の権威だから』という理由だとすれば、女性学を『偏った学問』と判定したことになり許せない」と憤る。
 同市や開催準備に加わってきた市民らは「講演のテーマはジェンダー・フリーではなく、人権問題だった。人権を学ぶ機会なのに都の意に沿う内容しか認められないのはおかしい」と反発している。   【五味香織】



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《編集後記》

通信を編集中に、国分寺市が市民公募で企画した「人権講座」の講師に選んだ上野千鶴子さんを東京都が拒否したというニュースを知った。上野さんは13日に都と国分寺市に「公開質問状」を送られた。この事件はとてもひとごとと思えない。東京都のやり方に強く憤りを感じる。この問題を広く知らせたいと、きょうきょ「M&T企画/自主講座」の予告を毎日新聞の差し替えた。現在、抗議行動を起こそうと準備中。詳細はわたしのブログ「みどりの一期一会」をご覧ください。
抗議行動に加わりたい方もぜひご連絡を。(みどり)