『む・しの音通信』53号p10
(2006.3.3発行)


市民と議員/公募型の視察研修
〜杉並区・文京区・我孫子市〜を企画して
          無党派・市民派 自治体議員と市民のネットワーク・海住恒幸


 わたしの所属する松阪市議会の過去の視察先を調べたら、なぜか北海道、九州が多かった。施策や事業、施設の「先進事例」を調査するのが視察目的となることが多いが、なぜ北海道、九州にばかり集中するのだろう。議員になって間もなく3年。この間、何度か、常任委員会の視察を経験し、本当に必要な視察とは何かを模索していたところへ、みずから企画するチャンスが巡ってきた(主催は、「無党派・市民派 自治体議員と市民のネットワーク(自治ネット)」)。
 インターネット環境が充実した今日、知りたいと思う全国の自治体の政策的資料は自宅にいながらあらかた入手できる。しかし、逆を言えば、それだけ多くの外的刺激に接しているので、なおさら他を知りたくなるのも事実。気になる自治体の政策決定のプロセスやそれに関わる組織や人、首長のリーダーシップ。直接、首長に会って話を聴いてみたい。
 1泊2日という日程で依頼をかけたのが、千葉県の我孫子市(市長・担当課)と、東京の杉並区(区長・担当課)、文京区(担当課)の3自治体だった。自治体選びで基準にしたのは、「分権時代の自治体経営」をテーマに、▼首長の強いリーダーシップが見られる▼独自色のある改革に取り組んでいる▼政策自治体として改革プランを示している−−などの点だ。
 首長が申し出に応じてくれるだろうか、また、応じてもらったとしても日程の調整がつくか心配したが、ラッキーだった。我孫子市の福嶋浩彦市長、杉並区の山田宏区長からは1〜3日以内に「お受けします」という返事が届き、財政健全化計画と条例についての聴き取りを担当部局にお願いした文京区からも職員の即断即決でオーケーが出た。
 その時点では自治ネットの会員向けの移動式勉強会のつもりだったが、メンバーに限定するより広く公開した方が良いと判断し、いくつかのメーリングリストやブログなどを使
って参加者を公募することにした。夜の意見
交換も活発にしたいという意図もあった。
 結果、三重、愛知、岐阜、埼玉、東京から男女14人がそろい、女性は5人を占めた。内訳は議員8人(女性3人)、市民4人(女性2人)、それに2人の男性の自治体職員。いわゆる、議員の"視察"とはまったく異なる構成で、実のある意見交換ができる条件が出来上がった。
 行政改革などに成果を上げている杉並区の山田区長は、横浜市の中田宏市長と同様、新しい保守主義に類型され、中央政府に対する自治体政府の立場を主張している。区長就任5年で500人の職員を削減(10年で1000人を目標)し、民間委託を大幅に増やすことで「小さな政府」を目指す一方、住民にはスピーディーな苦情処理を図るなどして行政サービスの品質向上を図る。
 「あらゆる決定に市民感覚を」という我孫子市の福嶋市長は、質疑を含め、市長自身が2時間以上ほとばしる思いを語った。福嶋市長は自治体経営の中で徹底して市民自治の可能性を追求し、市民自治の担い手となる人づくり、市民参加の量質の向上、透明性、条例づくり、市民債(市民から借金)の発行による資金調達などの制度面の斬新さなど、きわめて多くの点に特徴を見ることができる。
 さらに、市民の自治能力を高めるために「市民同士が合意をつくっていく能力」が必要と語り、「市民参加の先」を展望した。
 「我孫子市はハコ物を造らないのでほとんど借金がありません。皆さんをお迎えしている市役所(の会議室)もこのようにプレハブですから」。市長の話を聴いている間も、「ドンドン」と人の歩く音や椅子を動かす音が聞こえた。
 3自治体とも、「小さな政府(役所)」を目指している点で共通している。が、その手法においてそれぞれの自治体と首長のカラーがあった。それ自体、「分権時代の自治体経営」をテーマにしたことの意義である。しかし印象に残ったのは、福嶋市長の「大きな公共と小さな政府」という言葉だ。