『む・しの音通信』No.54/P10〜11
【エッセイ】
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千葉県の男女共同参画センター設置条例案否決で何ができるか。
−「地方自治法」の再議請求も−
岐阜県山県市・寺町ともまさ
千葉県の堂本知事が議会に提出していた「男女共同参画センター設置条例案」が3月24日に否決されました。現行の「県女性センター」(柏市)の事業を発展させる予定だったところ「否決」。これまで行われてきた事業も含めて継続できなくなるといいます。 同条例案が否決される一方で、事業に伴う予算案は可決されており、予算があるのに執行できない、いびつな状態になったとか。
ここで出くる議論が、「再議(さいぎ)」といって知事や市町村長が議会に「否決した議案をもう一度審議するよう求める手続」をなぜとらないのか、ということです。
「再議」は、そもそもいろんな議案や議会手続に関しても利用できるので知っておくべきです。私は、堂本さんには、自分の選挙で推薦を受けたり推薦文をもらったりしていて、他人事とは思えません。それに、バッシングが他の自治体や議会に波及するかもしれません。そこで、今回、どうすることができるかなど整理してみました。
● 事案の経過
◇「千葉:自民『財政難、要望低い』『男女参画センター』条例案否決」
県が2月議会に提出していた「男女共同参画センター設置条例案」は20日、県議会常任委員会で否決された。県民生活に大きな影響が出そうだ。条例案は、相談事業を強化するため、千葉市にセンターを柏、館山両市に分館を置くもの。人件費や研修費など約5900万円を予算計上している。これまで行われてきた事業も含めて継続できなくなった。年間4000件以上の電話相談、300件以上の定期的なカウンセリング相談は打ち切りとなる。(毎日新聞千葉版3月21日)
◇「県の条例案を否決 知事対自民、鮮明に」
新年度予算案には、条例成立を前提に、これまで女性センターの運営を担ってきた財団
法人への補助金を盛り込んでいない。このため、本会議で条例案が否決された場合、女性センターはなくなり、県は男女共同参画事業の拠点を失うことになる。堂本知事は「残念だ。(同様の)センターをなくした県は聞いたことがない。日本で初めての後退」と話した。(朝日新聞千葉版3月21日)
● 地方自治法の定め
(1)地方自治法第176条1項では、当該普通地方公共団体の長は、「条例の制定若しくは改廃又は予算に関する議決について異議があるときは、・・・10日以内に理由を示してこれを再議に付することができる。」
3項は、「議決については、出席議員の3分の2以上の者の同意がなければならない。」としており、長の「一般的拒否権」といわれます。議会が前と同じ結論をだす(否決する)ことにあえて高いハードルを課すわけです。今回、再議請求することは可能「でした」。
(2)これに対して、期間制限もなく過半数でよいものとして、4項の規定があります。
第176条4項では、「議会の議決その権限を超え又は法令若しくは会議規則に違反すると認めるときは、長は、理由を示してこれを再議に付(さ)なければならない。」として期限を定めず義務付けています。こちらは、「特別的拒否権」といわれます。通常の過半数の多数決で可決します。
さらに、5項では、それでも議決がおかしい場合について、「なおその権限を超え又は法令若しくは会議規則に違反すると認めるとき」は知事は大臣に、市町村長は知事に、当該議決があった日から21日以内に、審査を申し立てることができます。
6項は、大臣や知事は、当該議決を取り消す裁定をすることができるとしています。
7項は、裁定に不服があるときは、議会又は長は、60日以内に、裁判所に出訴することができるとしています。さらに、なんと第177条では、ある場合の再議について、も
っと強権を首長に与えています。
● 再議の具体例
(1)長野県知事は、2005年3月、「予算案減額は(自身の)政策意思に反し、ひいては県民生活に支障をきたす」として、「再議」を請求しました。
(2)私のまちでは過去に2回、第176条4項に基づく再議請求がありました。
旧高富町では、1999年3月、議会の法令違反の手続に関して、住民から町長に「再議請求書」がだされました。この書面自体は事実を指摘した催告書とでもいうものです。会期中なのですぐに、町長が議会にはかり、手続きを是正しました。なお同日、議会に、「法令遵守を求める請願」も提出されました(私が紹介議員)。請願は全会一致で採択。
自治体合併した現・山県市で、私は、2004年1月、議会の違法な議決に関して市長に「再議請求書」を出しました。市長は臨時議会を召集、再議を求めました。
●今回議員や市民は何がフォローできるか?
(1)1項の再議について
今回、千葉県知事は、第176条1項の再議は求めませんでした。10日の期限も過ぎました。長野県知事のようにできなかったのは忸怩(じくじ)たる思いでしょう。だから今さら、1項の再議請求の議論はやめます。
堂本知事は政治的には少数の側です。少数でもいいから議員の強力な支援や市民の働きかけ、世論づくりが必要です。
(2)4項の再議請求はできないのか?
今回の否決に対する社会の批判もあるし、自民党内でも批判や反省もあるようです。現実に女性センターの機能や役割に支障が出るのですから、知事は何かする必要があります。
4項の定めは「議会の議決その権限を超え又は法令若しくは会議規則に違反すると認めるとき」ですから、知事がこれは再議すべき違法な状態だと認識すればよいことです。
(3)今回の事態を生じさせた議会の「議決の違法」をみつけましょう。
A. 千葉県は、4月から、男女共同参画社会基本法の第9条「地方公共団体は・・施策を策定し、実施する責務を有する」などに、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(通称・DV防止法)の第3条「都道府県は・・配偶者暴力相談支援センターとしての機能を果たすようにする」「相談に応ずること」第27条「都道府県は・・婦人相談所の運営に要する費用を支弁すること」などに反した状態になりました。
B. 市町との連携も切れることになり、市町の損害も甚だしいものです。
C. センターという千葉県の財産の管理として、県に違法状態はないのか。
違法又は不当な財産(土地、建物、物品など)の管理や、財産の管理を怠る事実があるときは、住民は一人でも住民監査請求ができます。住民訴訟になれば堂本知事が「被告」になるけれど、こういう場合は、知事を後押しするように作用すると考えてよい場合です。
D. 行政手続法(条例)の違法状態とか行政不作為としての違法状態の発生とかも充分に考えられます。
(5)4項の定めは、知事がこれら違法な状態になっていると認識した時、違法状態を生じさせた条例改正案(の否決)を知事が再議に付すことができる制度としても利用できます。否決した自民党も反省しているし。
●まとめ
少数側の堂本知事がすっと自己決断するのはむずかしい状況。だから、議員や住民が後押しすることが必要だし、それができる場合だと思います。
住民監査請求にしても住民訴訟にしてもそんなにむずかしくはないですよ。私は、弁護士を頼まずに、本人訴訟で30数件の行政訴訟をやってきました。
抗議行動や抗議電話もできます。請願や陳情もできます。「再議請求」発動を促すことはいくらでもできます。時にはもっとインパクトのある方法もいいものです。
「市民運動」は遠慮しないこと。自分たちの自治体は自分たちで守りたい。
議会の議決に対する再議の制度は、いつでも使えるよう、知っておきたいものです。