『む・しの音通信』No.55(2006.5.25発行)より

福井発〜現代版焚書坑儒
   福井県敦賀市・今大地はるみ


 4月28日付の世界日報の記事で、福井県生活学習館から、上野千鶴子さんらの著書、150冊が排除されたと報じられた。
 昨年の11月に一県民の苦情を受け、一度は担当課長が「情報の提供は学習するうえで必要」と回答を出しながら、今年の3月には、150冊の図書が一般の人の目に触れないように倉庫にしまわれたというのだ。
 さっそく生活学習館に問い合わせの電話を入れたが連休明けにして欲しいとの回答。
福井県民の1人としても、またジェンダーの視点を基本に活動する「む・しネット」の会員としても、この問題を見過ごすことができないと思い、みどりさんと相談し、抗議のアクションをおこすことにした。
 5月2日、市民派フォーラムのMLに抗議のアクションの賛同者を募る一報を入れるとともに、生活学習館に再度問い合わせた。担当課長は、福井県の考えは11月の回答のとおり、本は排除したのではない、検討するために手元に置いたのだと言う。
 150冊は誰が、どういう基準で選んだのか、150冊の書籍リストは出してもらえるのかという質問に対しては、行政情報だから出せない、教えられないの一点張り。行政情報なら情報公開すれば出ますねの一言には、「えっ!」と言ったまま絶句する有様だ。
 同日午後、ともまささんに協力をお願いし、あげてもらった9項目についての情報公開請求を出してきた。
 みどりさん、ともまささんも請求してくださることになり、連名で請求したいと申し出たら、福井県では連名での請求はできない、委任状を出せと言う。岐阜県や鹿児島県ではOKですよと言っても取り合ってくれず、情報公開に対する福井県の意識の低さにまたもや情けない思いをかみしめた。
 その後1週間で、賛同者の数は40人近くになり、まずは抗議文を出し、住民監査請求で150冊分の書籍の代金の返還、書籍を元に戻すことなどを請求することにした。
 5月11日、朝一番で抗議文と監査請求書を知事と監査委員事務局にFAX、賛同者のリストを整理し本文を郵送、午後から記者会見を行った。翌日の新聞で大きく取り上げられ、福井県は対応にあたふたしているとの情報も寄せられた。
 抗議文だけならこれほどまでに大きなニュースにはならなかったと思う。「住民監査請求」なればこそのニュースだった。わたしひとりでここまでこぎつけたわけではなく、ノウハウを教えてくれたみどりさんやともまささんの協力があっての抗議のアクションにつながった。
 わたしたちの抗議に対して、福井県生活学習館館長は、検討が終わり次第早急に書籍を戻すとコメントしていたが、一体誰が、いつ、何を検討するのだろうか。本の内容について検討すること自体が検閲だとは思わなかったのだろうか。2日の時点では、決して内容を検討するのではないと、わざわざ電話までかけてきたと言うのに!
 17日には、「ジェンダー書籍戻る」などの見出しで新聞報道があった。市民オンブズマン福井も館長に対し公開質問状を郵送。書籍撤去は誰がどのような理由で判断したかや、書籍の内容についてどのように検討したのかを問いただしている。わたしたちの抗議の第一の目的は、書籍がもとの書架に戻されることだが、戻ればOKでは決してない。
 福井県は経緯を明らかにするとともに、150冊の書籍リストの公開もしなければならない。現時点で情報公開請求した公文書は開示が1ヶ月延長との回答が来ている。そして思わず突っ込みたくなる矛盾だらけの回答が、18日付知事名で今日届いた。
 今後は開示された文書をもとに、公開質問状などで福井県の事なかれ主義や隠蔽体質に厳しく迫りたいと考えている。
 ジェンダーバッシングに対する対応もさることながら、県職員の住民や市民団体に対する官僚然とした態度、情報公開や男女共同参画に対する意識の低さなど福井県の問題は根が深い。県内の動きだけでなく全国各地からの抗議のアクションが、福井県の体質を変える大きな力になっていくに違いない。


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「検討中」お役人に一筆啓上
敦賀市議  今大地晴美さん

 福井県の職員の方々は、よほど「検討する」のがお好きなようだ。
今日(17日)、図書排除問題で世論をにぎわしているくだんの福井県生活学習館へ行った。
 む・しネット(「女性を議会に 無党派・市民派ネットワーク」の略称です)主催の7月のシンポジウム「政治を市民の手に」のチラシを置いてもらうためだ。
 シンポは1部が前宮城県知事の浅野史郎さんの講演、2部が浅野さんや市民、市民派議員によるパネルディスカッションで構成されていて、わたしもパネラーとして参加することになっている。
対応してくれた職員はチラシを見ながら「政治はちょっと・・」と言いかけ、主催団体に目を移すと「女性議員を増やす活動をされているのですね。一応チラシを預からせてもらいます。」とのお返事。わたしは生活学習館ではチラシやパンフレットを持ち込んだ場合、これはOKだけど今回はダメと言う判断の基準になる規約があるのなら見せて欲しいとお願いした。
 とここで上司が登場。規約はないが内規があるというので、その内規を見せてと再度、お願いしたらなんと、内規は県民に見せるものではない、示してはいけないことになっているそうな!
 内規は県民に見せてはいけないという条例なり要綱があるのか、はたまた知事がそういったのかとしつこく食い下がる今大地。
しかし「主催団体や内容について検討するので預からせてもらう」の一点張りだ。結局、検討結果の返事は主催の「む・しネット」事務局宛にしてもらうことにして帰ってきたところだ。
 アーア、ホントに疲れる!ゴミ問題のときとまるっきり同じだ。市民団体が何を聞いても、のらりくらりと「検討中なので答えられません。言えません。」を貫き通すお役人のど根性に、何度もこちらの血管がぶちきれそうになった。
 きっと【福井県職員の県民向け対応心得帖】なる内規には「県民は無視」「事なかれ主義」「隠蔽体質」を貫き通そうと書かれているのかもネ。
 最後に今大地から職員の皆さんへのアンケートです。
1・自治とはなんですか
2・あなたにとって住民とはなんですか
3・あなたが仕事をする上で最も気にかけている人は誰ですか
4・市民団体にどのような感情を持っていますか
5・県が保有している情報は誰のものですか
 手紙・FAX・メールでの回答、お待ちしています。
回答者の皆さんにはもれなく、今大地がついてきたらいやだろうな・・・。
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(朝日新聞 2006.5.23)


「検討後」のお役人
 結論として、シンポチラシは、「む・しネット」規約と活動を検討した結果「女性の政治参加をすすめる活動」と判断され、晴れて翌日から、福井県生活学習館に置いてあります。
 今大地さんから話を引きついだわたしは、広部企画管理課長から、チラシが置いてある公的施設のリストを求められるなど、きわめて不愉快な対応で憤慨しました。そのことに強く抗議した結果、副館長から謝罪がありました。

 その後、当事者である広部課長にも「非を認めて謝罪すること」を要求し、う余曲折はありましたが、広部氏はわたしと今大地さんに対して謝罪しました。広部氏は、独断と偏見に満ちた対応をしたこと、女性センターの役割すら知らなかったことも含め、公務員にあるまじき数々の行為のすべてを認めています。
 今後、福井県生活学習館がどのように出直すのか見届けたいですね。 (事務局・みどり)