『む・しの音通信』No.55(2005.5.25)より
誤解しないで「多重債務」
中日新聞生活部・白井康彦
ようやく多重債務問題が多くの人の意識に上るようになった。金融庁が4月14日、アイフルに対する全店業務停止の行政処分を発表。続いて4月21日、金融庁の貸金業制度等に関する懇談会が中間整理を発表。貸金業者の貸出上限金利の大幅引き下げをはじめとする総合的な多重債務対策を示したからだ。
ただ、事態が完全に好ましい方向に進んでいるとは思えない。国民のほとんどがサラ金業者や多重債務者について誤解している現状をどうしても早急に変えたい。行政、議員、マスコミにも誤解が広がっている。この誤解のせいで、これまでは多重債務問題の対策を作ろうという機運が盛り上がらなかった。
サラ金業界では、多くの企業が株式市場に上場。ソフトなテレビCMを氾濫させ、昔の悪玉イメージはすっかり薄れた。むしろ、善玉に近づいていた。しかし、サラ金大手・準大手のビジネスモデルそのものが多重債務者製造マシーンのようになっているのが現実で、悪玉であることは少しも変わらない。
貸付、返済はローンカードを自動機に入れて行う。契約も無人の自動契約機で行われることがほとんど。借金の自動販売機ともいえる仕組みで高利の借金に対する抵抗感を薄れさせることに成功した。多くのケースでは、利用限度額を50万円、毎月の最低返済額を2万円に設定。多重債務者になる人たちは、めいっぱい50万円借りるようにしむけられ、2万円返済して利用限度額までに少しの空きができるとまた限度額いっぱいまで借りることを繰り返している。多重債務者らは自動機で追加借り入れするとき「金をおろす」という言葉を使う。高利借金の利用限度額を預金残高のように錯覚する心理状態だ。「自分の預金口座のように思えていた」とも話す。
過剰融資も目に余る。5社に対する借金残高が合計250万円あるような人にも6社目の会社が簡単に融資する。この状態なら、破産できる場合も多いし、任意整理や特定調停といった手続きならほとんどの人が利用できる。これで、
毎月の返済負担はなくなるか大きく減る。こうした方法があることを伏せてさらに貸すのは、「無知につけ込む」行為だ。
さらに、大手サラ金は客から頼まれもしないのに、利用限度額を50万円から80万円とか100万円に引き上げることを日常的にやっている。また、サラ金は最初の契約時に、申し込んできた人が家族に内緒で申し込んできたことを把握しながら平然と貸す。内緒の借金なのでだれにも打ち明けられず、返済のための借り入れを繰り返して多重債務者になり、ひとりで悶々とするのがお決まりのパターン。多重債務者であることが配偶者にばれて離婚につながることも嫌というほど見てきた。良心のかけらもない営業と言える。
一方、多重債務者に対する悪玉イメージは強い。確かに多重債務を抱えることはよくない。しかし、誤解によって必要以上に悪玉イメージが強くなっていることに注意する必要がある。誤解の最たるものは「借りまくって返さない悪い奴」というイメージだ。サラ金は毎月一定額を返済させるシステム。債務者は返済が滞るとブラックリストに載ってそれ以上の借金ができなくなるので、毎月の返済は怠らない。この毎月の返済が苦しくて追加借り入れを繰り返し多重債務者になる。「まじめに返すために追加借り入れを繰り返してしまった人」と、イメージを変えよう。
多重債務者の取引履歴の分析を続けてきた感触から言うと、10人に7、8人は金利がゼロなら完済ずみだ。金利が年20数%だから、元金返済があまり進まず、借金残高が膨らんでいる構図だ。通算の総借入額が600万円で通算の総返済額が600万円の多重債務者がものすごく悪い人なのだろうか。
議員の世界でも誤解を解いて多重債務者を救済する輪に加わってくれる人が増えればと願う。6月24日に勉強になる大集会が名古屋である。多くの人に参加してもらいたい。