岐阜県の裏金事件と県民
  
 「くらし・しぜん・いのち岐阜県民ネットワーク」
    事務局・寺町知正

 岐阜県庁ぐるみの裏金事件で、2006年9月29日、県監査委員に県民3763人で住民監査請求した。全国的にもきわめて珍しい数と内容。その夜、7時12分過ぎのゴールデンタイム、NHKの全国放送ニュースで流された。民放も続いた。監査請求を呼びかけたのは「くらし・しぜん・いのち岐阜県民ネットワーク」と「市民オンブズマンぎふ」。請求人は「県民ネット」が集約した。

1.裏金作りと裏金隠しの発覚
 2006年7月5日、新聞のスクープ報道を受け、古田岐阜県知事が県議会において、県庁において裏金が作られ、職員組合に保管されていたことを認めた。
 8月3日、県のプール資金調査チームが自主調査で現職・OBの6900人に聞き取りや書面調査して裏金の事実や経過、額を公表、「1994年度は4億6600万円の裏金が1年間に作られた」ことを明らかにした。
 9月1日、知事任命の弁護士3人による検討委員会の報告では「遅くとも昭和40年代の初めの頃には、既に不正な経理による資金が作られていた」とされ、裏金は当該年度中に相当額が消化され、飲食やせん別、一部は備品に使われたという。委員会は1992年以降の約19億円(含む利息)の返還を求めた。知事もその線に沿った。公金に関する公務員の損害賠償責任は「5年で時効」とされているが、知事は14年さかのぼったわけである。

2. 隠ぺいの事実
 梶原拓・前岐阜県知事は、知事時代は「岐阜県には裏金はない」と表明しつづけていたが、8月8日の記者会見で、「(89年の)知事就任当時は、裏金づくりは半ば公然の秘密となっていた。十分承知していた」と認めた。当時の森元副知事も、知事の考えによる隠ぺいを認めた。
 岐阜県は、1995年4月に情報公開条例を施行、第1条には「県民の県政への参加を促し、県政に対する理解と信頼を深め、もって開かれた県政を実現することを目的とする」と明記されている。しかし、県の情報公開の実態は裏金の「足跡」隠しに徹していた。
 全国的に裏金が社会問題になったときに実施された「全国市民オンブズマン連絡会議」の全国調査(97年12月)に、岐阜県は「自主調査を行わない」旨を回答した。
 さらに、岐阜県ではこの10年の間に3回の組織的裏金づくりが発覚し、県庁全体の裏金を認識し得る機会が存在した。しかし、これら発覚時に、全庁調査を実施しなかった。
裏金隠しは、前知事ら幹部の悪意に起因することは明らかである。

3.現知事の対応
 現古田知事は、先の調査結果、検討委員会の結論を受けて、反省として、次のように、県の公文書情報をインターネットで公開し、全国最先端の情報公開を進める覚悟を決めた。
●旅費や会議費など公金支出に関する年間約140万件に上る情報
●部署名や支出日などから支出額を検索可に
●旅費は支出額のほか、出張職員の名前も
●外部との会議費の支出額、支払相手や期日
●すべての部署と職員が対象
●今年11月から実施する

 さらに、情報公開窓口では、「旅費の出張先や目的を掲載した会計文書」や会議での相手方の出席者名や会場などを自由閲覧とする。
 文書管理として、会計書類の保存年限を今の5年から15年に延長する、等々。
 これらの情報公開の姿勢は、今後各地の自治体に広がってほしい。情報公開の判断は、トップ次第で変わる。是非、あなたの自治体でも実現を目指してほしい。

4.住民監査請求で求めたこと
 いろいろな直接民主主義の手法があるが、その一つが「住民監査請求」である。ただし原則、「支出から1年」という制限がある。ところが、「不法行為による損害」に関しては期間の制限がない。だから、私たち県民は次の5項目を監査請求した。
 
(1)かつて、全国の自治体の裏金発覚の時、多くは、数年分を職員らに返還させた。が、不法に奪い取られた県民・国民の税金は可能な限り返還されねばならない。だから、私たちは、民法で認められた最長である過去20年分の裏金、つまり「1986年から現在までの裏金全額の調査・確定とその返還措置」を求めた。知事は、今回、現職の職員とOBに対して、17億円の返還を求めた。私たちは、その推定手法を用いて、返還請求額を45億円と推定した。これに民法所定の年5%の利息を適用して算出すべきであると主張。
 ほかに、(2)20年間の監査委員全員は支給された給与・報酬等の全額を返還すること、(3)梶原前知事は16年間の知事としての退職金全額を返還すること、(4)以上につき知事等権限ある者の違法な怠る事実を是正すること、(5)個別外部監査で審査すること。

 岐阜県民3763人で請求した、この異色の住民監査請求に、いま注目が集まっている。

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9月16〜17日「全国市民オンブズマン福岡大会」に参加して
      岐阜県池田町・倉地幸子


 「全国市民オンブズマン福岡大会」には、岐阜県から5名が参加しました。
 今や全国に悪名高き岐阜県。97年当時、「裏金はない」として情報公開と真相究明を行なわず、組織ぐるみで裏金づくりをしていた衝撃的かつ、あきれた実態に当然のことながら、寺町知正さんから「裏金問題」の近況報告がありました。
 これまでに、全国大会の話が耳元を素通りしていましたが、議員になってから自分が議会で果たす役割を考えるにつけて彼らの存在が気になり始めました。ここ数年間の行政がらみの問題の解決は、ほとんどが彼らの活躍によるものです。「警察の裏金問題」「議員(議会)の政務調査費」「外交機密情報開示」など枚挙にいとまなく、総じて議員は共闘する仲間というより、政務調査費、情報公開のあり方でオンブズの調査対象にされる存在ですから、オンブズは監視役として議会以上に必要な存在となっています。
 私の住む町でも「オンブズマンがおらな、あかんわ」という声がでます。
 行政を監視するはずの議会がありながら、オンブズへの期待が強いことは、今日の議会の監視機能の低下に対する住民の失望の裏返しでもあります。議会はもっと住民の期待に応えるべく、役割を果たさねばならないのに、現実はどうでしょう。
 行政の姿が見えないところに腐敗・不正が発生しやすいことは彼らの活動報告が物語っています。
 不正に対する怒りは、人間として最も基本的な感覚であり、理不尽なことに対する抗議の声を上げる勇気が人を動かしていることに感動しました。弁護士や若い人たちも加わり、不正を問い正す努力を続けておられる姿に強い感銘を受けました。
 オンブズがある限り、日本の社会はまだ健全さを取り戻す可能性と希望があると思わずにはいられません。