『む・し音通信』58号(2006.11.25)
特集・福井発「焚書坑儒」事件〜福井でいま何が起きているのか
公的な手続きと手法を駆使して
「福井発・焚書坑儒事件」でたたかう
寺町みどり
5月1日「ジェンダー関連の図書約150冊が『福井県生活学習館』の書架から排除された」という情報が飛びこんできた。「ひとごとではない」と強いいきどおりを感じた。
著書10数冊が排除本に入っているとされた上野千鶴子さんからもメールが届き、福井県敦賀市議の今大地はるみさんと、行政手続きに詳しいつれあいの知正さんと対応を相談した。療養中の今大地さんは「問題をみすごすことはできない」と抗議行動を起こす決意をしていた。わたしは、彼女と行動をともにすると心に決めた。
5月2日、まずは事実関係をおさえようと、「図書排除に関連するすべての文書」を情報公開請求した。同時に、当面の目標を「図書を書架に戻させる」と定めた。そうとなれば話しは早い。「住民監査請求と抗議文」提出のダブルアクションを起こすため賛同者を呼びかけた。
5月11日、今大地さんが福井県に対して「住民監査請求」と「抗議文」(2団体44名)を提出した。「図書代金の全額返還もしくは書架への復帰」を求めた監査請求は職員にはかなりのショックのはず。これで図書は戻るだろうと思っていたら「本は元に戻す方針」と翌日の新聞に載った。わたしたちが行動を起こさなければ、図書はひそかに処分されていただろう。5月16日、図書はぶじ書架に戻った。
5月18日、わたしたちの抗議文に対し、
福井県知事から「個人に対する誹謗中傷や他人の人権の侵害等公益を著しく阻害するような内容がないかなど再確認を行いましたが、著者の思想的、宗教的、政治的活動について確認したわけではありません。・・・現在は、当該図書の確認作業を終了し、全ての書籍を元の書架に戻しております。・・・」と図書の排除を正当化する回答が文書で届いた。一連の「公権力の検査=本の内容を確認する行為」自体が、憲法で禁止されている「検閲」にあたる。図書の排除は、思想・表現の自由の侵害である。
公文書の公開決定は1カ月延期され、6月16日、404枚の公文書が届いた。内訳は「書籍リスト」は「非公開」。意思決定文書や検討文書などはすべて「不存在」。「不存在は納得できない」と抗議すると、「文書はある」という。書籍リストの「非公開」も取り消され、「一部公開決定通知書」と経過が分かる公文書10枚、「黒塗りリスト」5枚が届いた。当事者の上野さんにも150冊の図書リストの非公開を伝え、訴訟を前提に4人の連名で呼びかけて、6月26日、著者や編集者、議員など21人で「約150冊の書籍リスト」を情報公開請求した。
7月7日、「書籍リスト」は「黒塗り」で公開された。(公開しない理由)は、「公にすることにより、個人の権利利益を害するおそれがあるため」「公にすることにより、事業を営む個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるため」。非公開は著者の権利を侵害する。決定を不服とするわたしたちは訴訟の準備をはじめた。
7月27日、図書リストの公開を求めて「情報非公開処分取消訴訟」を、1カ月後の8月6日に提起することを公表した。原告は上野千鶴子さんを代表とする20人。
8月11日、福井県からとつぜん電話があり「153冊の図書リストを公開する」という。リストは、当事者の請求人に公開する前に公表する予定というので強く抗議。福井県の唐突でイレギュラーな処分変更に対し、即日「抗議文」と「公開質問状」を送付した。「153冊の図書リスト」が公開された時点で、勝てると確信していた提訴は「まぼろしの訴訟」となった。処分の違法性を、司法の場で争えなかったのは残念だが「所期の目的は達成できた」。変更理由は、本来なら「県の条例解釈に間違いがあったから非公開処分を取り消す」となるはずだが、理由はうやむや。訴訟を回避したいというのが本音だったのだろう。
集会前日の8月25日午後、福井県から、公開質問状の回答と、37冊のあらたな排除リストと「図書選定基準」がFAXで届いた。リストは4月に推進員が排除せよと持ち込んだもので、要求したら任意提供された。このリストが任意公開できるなら、そもそも153冊の「非公開」もなかったはずだ。
8月26日、「提訴集会」を変更して、福井市内で「ジェンダー図書排除問題を問う」と題して抗議集会を開催した。今大地はるみさん、知正さん、わたしの3人が事件の経過と問題点を報告し、原告団代表の上野千鶴子さんが「わたしたちの勝利」と宣言。福井県内外から参加した180人のあつい思いが結集した3時間。ほんとうにやってよかった。
8月29日、福井県知事に対し、集会で提案した「福井県男女共同推進条例」20条2項に基づく「苦情申出書」を「『ジェンダー図書排除』究明原告団および有志」80名(42人は福井県民)で提出した。
公開された公文書を精査すると、以下の事実が浮かぶ。
「昨年11月1日、男女共同参画推進員からの『生活学習館のすべての図書について内容を確認し、不適切なものは排除するように』との苦情申出に、県は28日『情報の提供は学習する上で必要である』と文書回答し、申出を却下。その後、推進員は190冊の書籍リストを作成。今年1月に153冊分のリストを持参し、その後何度も排除の申し入れをくり返した。県は3月下旬になって、153冊の図書を書架から撤去した。4月にはさらに37冊の排除も求められたが拒否。5月に図書排除への抗議を受けると、一153冊の内容を『個人への誹謗や中傷や人権侵害、暴力的表現などの公益を著しく阻害するものがないか』検閲し、5月15日、問題がないとしてすべての本を書架に戻した」。
* * *
法律は、どのような理由であれ、蔵書を公的施設から撤去することを認めていない。この事件が起きて以来、わたしは情報公開請求の当事者として、県職員と話し合いを続けてきたが、場あたり的な対応と無責任さにあきれている。図書排除は、一推進員の圧力に屈したというよりは、むしろその場のがれの行政の事なかれ主義と隠蔽体質が引き起こしたというべきだろう。国と自治体は、法的には対等な関係で、福井県の政策は「条例」が根拠であり、図書の選定に国の権限は及ばない。「国の方針変更に従った」というのは、福井県の失態である。そもそも、現場の職員が、法令を遵守して、勇気を持って毅然とした対応をしていれば事件は起きなかった。
わたしたちは今回の事件に「福井発・焚書坑儒事件」となづけ、迷走する福井県に対して、有効な手法を選択しながらたたかってきた。勝因は、メンバーの役割分担とチームワークのよさ、合意形成がはやかったこと、制度を熟知してタイムリーに動けたことだと思う。MLやブロクを駆使しての情報発信も役だった。現行制度は、表現の自由や基本的人権を守り、「男女共同参画」政策を推進するものだ。数はあるに越したことはないけど、バックラッシュ派のやり口は法に抵触している場合が多いので、制度を味方につければ、少数の市民でもできることは多い。
国や地方の権力に抵抗するには、まず「わたしがノーということ」。情報公開制度を使
って、なにが起きたか事実関係を精査し、問題を特定することによって、有効な解決方法を選択することが可能になる。
図書排除事件は福井県だけの問題ではない。図書や講師の選定に対する圧力は、全国どこでも起こりうることだ。事件はいつも、わたしたちの足元で起きる。バックラッシュに対抗するには、わたしたち市民が「行政監視の手法」を身につけて、公的な手続きを駆使して、自治体(行政や議会)にはたらきかけることが不可欠だと思う。
わたしは行政のカベにぶつかり続け、いま「政治を変える」運動にかかわっている。市民運動は、あらゆる政策において、権力に対峙し「バックラッシュ」や声高に叫ぶものに対し、着実に「正攻法」の異議申し立ての運動と経験を積み重ねてきた。現行の法や制度には限界もある。けれど、力を持たない市民として、制度を熟知し有効な手法を選択しながら一つひとつの出来事にていねいに対応していきたいと思っている。
「わたしの(まちの)ことはわたしが決める」。直接民主主義の法や制度をつかった個人のネットワークが、上意下達の中央集権的な動きに対抗できることを女たちに伝えたい。
わたしは未来に対して楽観も悲観もしていない。仲間とともに「いまここで」わたしにできることを実践していくだけだ。いままでも、そして、これからも。
(『インパクション』154号・特集《反撃するフェミニズム》より転載)
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福井「焚書坑儒」事件のその後
寺町みどり
11月2日午前、わたしたち「福井『ジェンダー図書排除』究明原告団および有志」(以下、「原告団」という)80人が、8月29日に「福井県男女共同参画条例」第21条2項に基づいて提出した「男女共同参画にかかる県施策への申し出」を諮問する「福井県男女共同参画審議会」が開催された。
前半は「男女共同参画基本計画の改訂について」。後半は、わたしたち「原告団」と図書の排除を求めた近藤氏側がそれぞれ提出した「苦情申出」が議題となった。
審議会では、まず委員長が県に対してきびしい意見を述べ、他の委員からも図書撤去への批判や疑問が続出した。杉本総務部長は一時撤去は「適切ではなかった」と認め、「反省している」と何度も繰り返したそうだ。
その後、「審議会」の諮問を受けて、「苦情申出書」に対する西川一誠福井県知事からの回答書が、今大地さんの元に届いた。回答には、「一括して図書を移動し作業を行ったことについては誤解を与える結果となり、十分な配慮に欠けていたものと反省しているところです」とある。
11月21日、「福井県知事の回答」と、「原告団」代表として上野千鶴子さんが書いた「『ジェンダー図書排除』苦情申出への福井県知事回答に対する声明」を公表した。
●審議会記録「非公開」に対する異議申立
11月21日の午前中に「声明文と知事回答」を県政記者クラブに送って、ホッとしたのもつかの間、お昼になって福井県知事から「公文書非公開決定通知書」が届いた。
この情報公開請求は、11月2日に開催された「男女共同参画審議会の会議の記録(電磁的データ・テープなど)」について、11月6日に、「原告団」13人で情報公開請求していたもの。
わたしは、請求時の11月6日と処分時の11月20日に、電磁的データ・テープが審議会の記録として担当課に存在していることを確認しているが、この情報は「公文書ではない」との判断で、非公開(不存在)とされた。つまり、担当職員がそれらの情報を持っているが、情報公開条例の対象ではないから、存在するにもかかわらず「(情報公開条例上は)不存在」というわけだ。
非公開処分が決定したと20日の電話での男女参画・県民活動課の石原氏の言い分は、「紙になって決済を取ったものが公文書。紙になる前のものは、担当者個人が公文書を作成する過程のもので、テープ、データは単なる覚えというか、記録・・・」とか。「電話を記録してますけどいいんですね」と念押しすると、「できあがったものをHPに議事録としてあげる。それが公文書。過程のものは推敲を重ねるので公文書ではない」。
審議会の議事録は、HPにアップされるので電磁的データではないのかと指摘すると、「議事録としてできあがった時点で公文書。たとえ同じ文章のデータでもアップする前は公文書ではない」んだって! もうお話にならん、という感じで・・・あきれた。
福井県は、情報公開条例で「電磁的データ・テープ」を「公文書」と定義しており、このような違法な条例解釈はとうてい納得できない。このケースは、前に図書リストを「非公開」にした「個別問題」とちがって、きわめて悪質だ。非公開処分は、福井県が各種会議の記録に関して、このような扱いをしているということを意味する。審議会の電磁的データが公開されなければ、県が「会議の記録」を恣意的に文章化しても検証すらできない。
担当の石原氏は当初、「テープは私物である」と主張し、処分決定時には「審議会議事録ができあがったらテープはすぐ廃棄処分する。議事録は今日明日にもアップする」ということだった。請求文書の廃棄は、重大な権利侵害となる。
わたしたちは、電磁的データ・テープの「廃棄」を阻止するため、緊急に福井県知事に「異議申立」をすることにした。知正さんが2時間で「異議申立書」を作成し、21日付「配達証明付の速達」で知事に郵送した。「異議申立書」PDF
翌22日午前、「異議申立書」が福井県に届いていることの確認の電話を入れ、情報公開担当の行政情報センターに「もし処分時に存在した請求文書を廃棄してたら大変なこと。情報公開訴訟だけですみませんよ。同時に損害賠償請求もすることになります」とプレッシャーをかけた。ほどなく、行政情報センターから「異議申立書を受理」「テープは破棄されていないと確認」との返事があった。
●北海道に飛び火したジェンダー図書問題
ところで、全国の女性センターの図書選定基準を福井の関連で調べていたら、6月と9月の北海道議会・予算特別委員会でも「道立女性プラザ」のジェンダー関連図書と図書選定基準をめぐって、自民党の小野寺秀議員からバックラッシュ発言があったことを知った。
北海道の場合は、県直轄の福井と違い「道立女性プラザ」は指定管理者(出資法人)。6月と9月の議会発言と関連文書を情報公開請求したら、発言の電磁的データ(フロッピー)、全国の女性センターの調査結果などが公開されたが、かんじんの現場で図書の選定をする「女性プラザ運営協議会」関連の文書はすべて「非公開(不存在)」。
こちらは、もともと道と争うつもりはなく、「情報公開条例」「女性プラザ条例例」「指定管理者の指定の手続等に関する条例」など女性プラザ関連のルールを読みこみ、これならまちがいなく公開されるという文書を特定したので非公開は納得できない。強く抗議すると指定管理者の情報公開手続きを知らなかったと非を認めたので、仕方なく日付をさかのぼって再請求しているところである。
委員会質疑で策定を迫られた「図書選定基準」については、北海道の人たちに呼びかけて、なんとか「要望書」提出にこぎつけた。
●指定管理者制度の問題点が浮きぼりに!
「指定管理者制度」とは、ほんらい自治体が直営する「公(おおやけ)の施設」の管理運営を委託するものなので、支出や意思決定という、行政直轄なら出てくる重要な情報が出てこないのは制度上の欠陥である。
北海道のケースでは、指定管理者「(財)北海道女性協会」の内部組織である「女性プラザ運営協議会」で実質的に女性プラザの図書を選定し支出も決めるのに、委員の選任にも道の権限はおよばない。ということは、図書選定の直接の現場がブラックボックスになるということ。指定管理者と情報公開の問題は、情報公開請求する前から予想していたが「やっぱり」という思いだ。
「公の施設」の指定管理者の公正性・透明性を確保し法的な網をかけるために、「情報公開条例」を適用している自治体は多く、北海道は出資法人等を指定管理者と「読み替え」準用している。
また、出資法人等の情報公開の手続きの「定め」はあるにはあったが、今回、担当課は「道は文書を保有していない」というだけで、「出資法人(指定管理者)に当該文書があるかの確認もしていない」から、要請義務も果たしていない。「道が保有していないから不存在」と単純に条例解釈されては、そもそも条文を規定している意味がない。他の自治体では不備な条文が多いうえに、条文があるから万全かといえば、解釈と運用をまちがえば、今回のような「非公開(不存在)」という処分もありうる。
指定管理者と情報公開の問題は、次のように整理できるだろう。
@女性センターの管理運営が自治体直轄の場合−選定基準の図書の策定も、図書の選定・管理・運営も自治体がおこなうので、とうぜん自治体の「情報公開条例」が適用される。
A女性センターの管理運営が指定管理者の場合−指定管理者制度は、地方自治法第242条の2「公の施設の設置、管理および廃止」3項〜11項が根拠法で、その管理運営の詳細は自治体の条例で定めることになっている。「公の施設」だからこそ、公正・透明な管理運営の確保が不可欠だが、情報公開については考えてもいないという自治体が多いのが実情ではないかと思う。
今回のことで、今年9月を期限としてスタートした「指定管理者制度」は「欠陥だらけで見切り発車」ということが浮きぼりになった。現場の自治体は、問題があることすら気づいていない。今後、法務行政にうとい自治体の実態が表面化してくるだろう。
基本的に、指定管理者の情報の問題は、指定管理者に関する条例や個別の協定や契約ではなく、自治体として「情報公開条例」「個人情報保護条例」で規定して担保しないと解決しない。この問題は女性センターだけでなく、全国のすべての指定管理者に関係する、大きな問題である。
●女性センター共通の課題
女性センターの図書に圧力や介入が加わらないようにするには、「表現の自由を制限する内外からのいかなる干渉も排除する」ことが必要である。そのためには、「収集の基本的態度」を盛りこんだ収集規定(選定基準)が不可欠だが、もうひとつ重要なのは、「現場での適正な運用の確保」と、「図書の選定に問題がないか市民の監視(住民統制)が届くのか」ということ。
指定管理者の女性センターの問題は、図書選定基準だけの問題ではなく、選定委員会、個別の図書の取り扱い・貸し出し、特に個人情報保護との関係などでも、解決しなければならない多くの問題を抱えている。
「図書選定基準」については、福井県も北海道も、いちおう「基本的態度」を盛りこんだ規定ができた。とはいえ、どちらの規定にも問題はあるので、今後は、それぞれの地域の女性たちと連携しながら、よりよいものに変えていくことが必要だ。
この春から、女性センターの図書の問題にふかくかかわって、この図書選定基準と指定管理者の問題は、全国の女性センターの共通の問題だと思った。それだけでなく「思想・表現・言論の自由」と「知る権利」をめぐる、図書館の抱える問題とも共通であり、大きく出資法人等の問題だということもわかった。
福井や北海道で起きたことは、全国どこでも起こり得ることだ。問題は起きてからでは解決するのがめんどうになる。全国の女性センターの問題にかかわる人たちが、先手必勝で、よりよい図書選定基準をつくり、公正で透明な運営をはたらきかけることができれば、かくじつに、女性センターに対するバッシングや介入はしにくくなるだろう。まだまだ先が長くなりそうだけど、頼もしい仲間も多い。福井や北海道の経験を生かし、楽しみながら、しつこく取り組んでいきたい。
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自治体や職員の質&情報公開に対する姿勢
岐阜県山県市・寺町知正
今年5月から福井県の図書排除事件にかかわって、(すべての職員がそうとは言わないが)県職員の公務に対する責任や情報公開に対する認識がきわめて乏しいと感じている。その「自治体や職員の質」が、今回の図書排除問題を大きなものにした原因の根本にある。
今回、福井県への6月26日付けの「排除した書籍リスト」の公開請求に対し、知事は7月7日付で「一部非公開」処分をしてきた。とはいえ、実質は、「ワクの罫線」を除いて、ほぼすべて真っ黒の書籍リスト5枚だ。
そもそも、特定書籍の「排除をする」ことは検閲に当たる違法行為である。思想・良心の自由、表現の自由、著作者人格権等を侵害する行為である。図書館業務に関しては「閲覧に供されている図書について,独断的な評価や個人的な好みによってこれを廃棄することは,図書館職員としての基本的な職務上の義務に反する」(最高裁第一小法廷平成17年7月14日判決)とされているし、「図書館の自由に関する宣言」もある。
今回、公開しない部分として列記された情報は、「表題部、NO、書籍名、副題、著者・編者、出版社、備考各欄記載事項」。これらは公開しても情報公開条例上なにも支障がないのに、あえて「非公開とする」という権利侵害がなされた。かりに、リスト提出者が純粋な民間人であって、しかもその文書に氏名の記載があれば、「個人名」部分だけを非公開にすれば条例に適合する。
そこで、私たちは、「知事の非公開処分は福井県情報公開条例に照らして違法であるから非公開処分を取り消せ」との行政訴訟を、8月26日に福井地方裁判所に起すことを公表し、福井県にも通告した。
すると、福井県は8月11日になって突然リストを公開してきた。その理由は、「リスト作成者が公開してもよいといっている」というもの。では、今回同様のリストを他の者が作成して、「公開するな」といったら公開しないというのだろうか。
答えは、ノー。情報公開条例はそのように気まぐれでルーズなものではない。福井県が公開した理由が「裁判にされたら負けるから」ということにあるのは、明白だ。
では、なぜ、当初、公開しなかったのか。 県職員が、「関係者から要求されたジェンダー図書を排除の意図をもって片付けたから」と考えることで説明がつく。簡単に言えば、「やってはいけないことをやったから、内緒にしたい、騒がれたくない」という心理。
そこが見えていたから、私たちは、「上野千鶴子・原告団代表」として、提訴する作戦に出た。全国の同様の動きに対しての警鐘にもしたいとの期待も込めて。
ところで、この排除本リストの作成者は、福井県の男女共同参画条例に基づいて知事の委嘱を受け、かつ、県から手当ての支給を受けている「推進員」である。推進員に「反推進」の中核人物を入れたことで、今回、福井県の男女共同参画推進施策の問題だけでなく、行政や職員の質の問題まで露呈した。
こんな話もあった。5月に3名が連名で情報公開請求したとき、福井県はなんと、「同一文書の公開請求でも一人ずつ公開請求書を提出すべき」と要求してきた。条例に定めのないそんな誤った要求は許されないので、知事に申し入れをした。すぐに県職員からの要求は撤回された。もし、他県でもこのようなところがあったら、ぜひ改めさせてほしい。
これまで非公開だった男女共同参画審議会の会議は、突然、公開された。が、職員が審議会を録音したテープを情報公開請求したら、職員が持っているにもかかわらず「県の公文書(記録)」ではない、「不存在」だと処分決定された。
これらどれを見ても、「先どり行政」でなく、無責任な行政の姿だ。住民にとって、クリアしなければならないハードルが多い自治体ほど、ハードルを課す職員がいるほど、自治体の質が悪いのが常。福井県は、これらの他にも、マズイことを続けている。
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「インペイドワークに蝕まれた福井県行政」
福井県敦賀市・今大地はるみ
「福井『ジェンダー図書排除』究明原告団および有志」が80名の賛同者とともに、福井県に対し、福井県男女共同参画推進条例に基づく苦情申出を提出したのが8月29日。この事件の発端となった近藤氏も同じく苦情申出を行い、男女共同参画審議会で審議されることになった。
わたしたち原告団は、審議会の公開での開催も合わせて申し入れしていた。審議会の開催日や公開での開催について、事務局のみどりさんが問い合わせをしたが、福井県の回答は、お粗末もいいところ。「日程は決まっていない、審議会は公開で行っている」というばかりである。福井県のいう「公開」とは、審議会にマスコミを入れている、マスコミの報道がすなわち公開であるということらしい。
一般の傍聴はいままで、一度もなくするつもりもないという。いまどき、一般の県民や市民の傍聴を認めないことが平然と行われているのが福井県だとあらためて痛感。
電話で問い合わせても、開催日時は決定していないを繰り返す担当課へ、直接乗り込んで直談判したが、いままでどおり「検討します」の回答のみ。
「図書選定基準」についても、福井県はいつ策定するのか、策定に当たって委員会は立ち上がるのかをあわせて聞いた。なんと、7月にすでに出来あがっているというではないか。その選定基準を出してほしいとお願いしたら、またしても生活学習館の所管なので、本庁では出せないの一点張り。
生活学習館館長に了解を取ってほしいといえば、あとでお返事しますと先延ばし作戦に
出る始末。今すぐ対応してほしいと粘った末に、しぶしぶ館長に電話、やっと「関係図書等整備方針」が出てきた。8月の集会前にあわただしく公開してきた文書の中にあったのは、平成7年度版の選定基準なのに、その2
ヶ月前には策定されており、しかも問い合わせるまで知らんぷり。本庁と出先機関との軋轢がまたしても顔を出した一幕となった。
11月はじめに開催するらしいという審議会の日程が、10月の終わりになっても公表されないことに業を煮やし、わたしたちは再び福井県に対し、「審議会を公開で開催すること、一般の傍聴を認めること」などを申し入れすることにした。たった2日間で92名1団体(「む・しネット」)の賛同者を募り、10月30日の朝、担当課に午後1時30分に申し入れ書の提出をすることを告知、福井県庁へ向かった。
1時直前、わたしの携帯に担当課課長から電話が入り、審議会は公開で行うことになったから、申し入れ書を提出する必要はないという。とりあえず、申し入れ書は予告どおり提出するので、話はその場で聞くということを伝えた。担当課長は、「今大地さんのいうことはすべて、することに決定したのでもういいでしょう」といわんばかりの態度がありあり。11月2日に開催される審議会の傍聴の申し込み締め切りが前日の午後3時、10名限定でオーバーした場合は抽選という。
申し入れ書に対して、文書での回答を求めたとたん、課長は泣きそうな顔で、「言われたとおりしているのに、今大地さんはいつもバシッバシッって厳しいことばかり要求するんだから・・・」。
これのどこがわたしたちの要求どおりなんだ! 今朝の電話のときには、日時が決定したことも、公開で開催されることも何一つ言わなかったじゃないか! 2ヶ月もの間、何一つ進まなかった審議会の話が、申し入れをすると聞いたとたん、たった3時間足らずで決定するんだから、怠慢としか言いようがないではないか!とあらたに怒りがフツフツ。仏の顔も三度までだよ!
図書排除事件発覚から半年、出さない・見せない・知らせないの三無主義が徹底している隠蔽体質も、仕事先延ばしの怠慢体制もいまだ変わることのない福井県の病巣は、かなり進んでいると見て間違いはなさそうだ。