『む・しの音通信』No.64(2007.11.25発行)


特集《市民として議員として、直接民主主義の制度を使いたおす》

「ねてもさめてもKJ法」
     福井県敦賀市・今大地はるみ

 11月11日、「議員と市民の勉強会」の「オプション講座A」は「KJ法をつかいこなす」。   
 12月2日の講演会フォーラムのプレ企画で、課題を整理する目的のテーマは
「さまざまなマイノリティが生きやすい市民社会をどのようにつくるのか」。講師は寺町みどりさん。参加者は、初参加の新倉真理代さん、高瀬芳さん、小川まみさん、メール参加の後藤尚子さんと私の5人。11日の7時間では終わらず、16日、19日と続けて完成にこぎつけた。13時間にも及ぶ「KJ法」は、最終的に120枚のメタカード(表札)が図形化された。そこからみえてきた課題を、文章化までの軌跡をたどりつつ整理してみたい。

 
1.「日本社会の現状」は、参加者が関わってきた運動の中から問題提起されたもの。日本の男性中心社会は、髪振り乱すけなげな女を好み、多様性を認めない。日本で働く外国人労働者の現実なども浮き彫りになった。

 
2.「つくられるマイノリティ」〜マイノリティの定義はテーマ決めの段階から議論になり、マイノリティって誰?は、この日もっとも盛り上がった。同じシングルマザーにも離別と死別で差別があるし、マイノリティになる可能性は誰にもある。見えてきたのは、マジョリティがマイノリティをつくっている。

 3.「わたしはわたし」〜周りの状況で運命が変わるシンデレラはそのままでよかったんじゃない? という発想は、目からウロコ。かけがいのないわたしこそがマイノリティであり、わたしのニーズは、わたしがつくる。
変えていくには「わたしはわたし」であるこ
とを大切にすることから始まるのだろう。

 
4.「当事者になる」〜DVの問題提起の中ででてきた「当事者」。当事者性の自覚と経験とスキルを伝え合うことで問題解決への道筋が見えてくる。「む・しネット」は、すでに女から女へ知恵と経験を手渡す活動で実証ずみ。

 
5.「市民セクターの可能性」〜高齢者が生きやすい社会は誰にとっても生きやすい。
 2回目の「カード作り」で生まれたキーワードが多く並ぶ。官でも民でもなく「協(市民)セクター」である「市民事業体」をつくるには、NPOでもただ働きをしない、行政のパシリになるな、市民ファンドをつくる、などなどが必要と、やっと先が見えてきた。

 
6.「システムを変える」〜ここでは信用できない行政の現状を指摘し、当事者のニーズに合わせた相談窓口のあり方を示している。

 
7.「マイノリティが生きやすい市民社会」〜「生き延びるために必要なもの」には、現状の議論から方向転換してきたセーフティネット関連のメタカードが並ぶ。さらに図形化するなかで「ジェンダーの視点」と「愛と友情」のカードが追加された。マイノリティが生きやすい市民社会をつくるためには、コミュニケーションとネットワーク、情報発信/情報公開などで社会の認識を変えること、人と人のつながりが大切だとわかる。地域や自治体、国を超えて人と人がつながる社会をつくり、変えていけるのは当事者自身だということ。 
 わたしたちの願う社会は・・・最終章はやさしい言葉で締めくくられている。「バラ色よりはニジ色がいい」。さまざまな運動をつくりだし、当事者として、サポーターとしてすでに動き始めているわたしたち。わたしたち自身がマイノリティであり当事者だからこそ社会を変られることを、あらためて実感した。
 わたしはニジ色のなかで輝きたい! 
    

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決算を予算に生かす
      愛知県日進市・島村紀代美

 はじめて決算書と格闘した9月議会。今回の講座の課題@「決算審査で、うまくいったテーマ、うまくいかなかったテーマ」のそれぞれについて事前にレジメを作成することを通して、ようやく自分の決算審査をふりかえることができた。
 そして臨んだ勉強会のテーマは《問題解決・政策実現の手法》。《セッション1》は「政策的観点から決算を事後評価する」。まず参加者がテーマに沿って自分の決算審査の評価と今後の課題について話し、講師の寺町知正さんとみどりさんがこれに対してコメントした。自分では事前にレジメをまとめることで理解していたつもりでも、話すとなるとポイントが整理されてないのがすぐにわかる。
 わたしは「税金の前納報奨金制度は廃止すべき」と考え、調査をもとに本会議で質疑。しかし、「このまま継続したい」とのことで、よい答弁を引き出せなかった。知正さんから「口座引き落としの人と現金納付している人の数や率を調べれば、口座利用が多く、報奨金の意味がないという裏付けができるだろう。市の『行政改革集中プラン』で廃止の予定なのに担当者が反論している点は追及すること」とのコメントがあり、よい答弁を得るには深い調査、いろんな角度からの分析が必要だったと反省。決算審査も大切な政策実現の手法なのだと気づいた。その後みどりさんから「決算審査は政策の事後評価であり、自治体としてどうであったかを問う。決算審査で質疑・討論したことが予算に反映されるよう、客観的なデータをそろえることが大切」とのレクチャーがあった。
 議員の仕事は思いつきではなく、決算で、予算で、一般質問で、どう政策実現するか常に考えなければならないのだ。「前納報奨金」については現状分析、他自治体の調査をさらに進めるとともに、「行政改革集中プラン」を変更するほどの理由は何かを追及して、来年度の廃止につなげていきたい。

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オプション講座で私が手に入れたもの
     愛知県日進市・釜賀美鈴


 市民として今後できることは何か、またその手法を身につけたいと思い、今回の「オプション講座B」に参加した。そして今、議員に頼ることなく、まちを変えられる気がしている。なぜなら、講座で、「直接民主主義の制度を使いたおすための手法」を教えてもらったからだ。
 なかでも、「情報公開は行政を開かれた姿に鍛えることだ」という知正さんの言葉が印象的だった。「情報公開」は市民の知る権利を保障するだけのものではないことに気づかされた。「住民監査請求」は、知正さん曰く、「勝つにこしたことはないが、負けても効果がある。新聞に出ることの意義・効果は大」。やらなきゃ損。ただし、きちんとした根拠を持って。
 「直接請求」は、知正さんがじっさいに請求を出された書類を資料としていただけたので、これに沿う形で書類は作れそうだ。また、「有権者の50分の1以上の連署」が必要で、日進市の場合、約1200人だが、以前、選管に「選挙公営制度の透明性を高めるための書類の整備に関する要望書」を市民1400人以上の署名と共に提出したことがあるから、これもクリアできそうだ。
ならば「直接請求」もやれそうな気がしてきた。やらなければいけないと思った。
 市民の税金の使われ方をチェックする議員になろうとしている人が、自分の選挙のために税金が使われる「選挙公営制度」をきちんと理解し、適正に利用していないことに、私は怒りを感じている。さらに、昨年の12月議会において「選挙公営についての条例改正案」を否決し、みずから襟を正そうとしない議員の態度にあきれている。 
 今回、この思いを法律にのっとって解決する手法を手に入れた。私たち市民みずからが行動を起こすことで、選挙が変わり、議員が変わり、議会が変わり、そしてまちが変わるということを、私も実践で示していきたいと思っている。
 

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うるさい市民へ一歩を踏み出す
       熊本県熊本市・早咲京子

 私は市民の立場でも、行政に思いを届ける方法を学びたいと思い、7月から「議員と市民の勉強会」に参加している。
 【セッション3】のテーマは、《手法を駆使して、直接民主主義の制度を使いたおす!〜議会活動・市民活動のスキルアップのために》。   
 最初は、「入門編/市民的手法・パーツを知る」。講師の寺町みどりさんが「議員になる前より仕事ができると思ったか、それとも、思ったより仕事ができないと思ったか」と質問。議員の挙手は、できるとできないが半々位。「発言ができない」「質問ができない」「市民の立場が良かった」「議員だからこそ良いことがある」と理由は様々。みどりさんは「議会は制約が多いので、議員は手法の選択肢や技術がわからなくては働けない。そのためにはつかえる手法(道具)をまず知ること」と説かれた。
 私はここで説明された一つひとつの手法(道具)を使って、市民活動にやる気になって取り組めば、市民と議員はあまり変わらない力を発揮できるという事実に勇気づけられた。市民でも、権利を行使して最大限の仕事(活動)をするために、手法を理解し実行できれば、議員でなくても、行政へ思いを伝えることができる市民活動となる。そんな素晴しい手法があることを知り心強い。これらの手法(道具)を駆使するために、地方自治法などを理解して、取り組むことが大切と学んだ。
 次に、「市民としての応用編/情報公開制度・住民監査請求などを知る」。講師のともまささんは、「どの自治体でも、情報公開条例は法に添った書類を提出すれば、一定期間を経て公開される。非公開・非開示の理由は明示されるので、不服があれば異議申立や非公開処分取消訴訟ができる」と、講師自身の異議申し立て書を使って、具体的な書類の作り方とコツを教えてもらった。
 法やルールを味方にして、「作りたい・変えたい・とめたい」政策の根拠を十分に用意する。集めたデータの資料をすべて使うわけではないが、一般質問(市民なら行政への要望書)の時、行政の答弁がそれたり、逃げたりしないためにも手法を駆使することが必要なのだと理解した。集めたデータの中から欲しい方向に沿ったデータを選りすぐって使い、事前の政策評価をして、一般質問(行政への要望書)を的確で端的に伝わるものに作る。ともまささんが、お客様の注文に応じて自分の理念を持って、メニューを練り道具や素材を吟味して料理をするシェフのように思えた。
 最後は、「議員としての実用編/請願等への対応・情報公開で事業や政策の実態を調査する住民監査請求で議論を発展させる」。
「日本の監査請求の半分以上は議員がやっている」「情報公開や監査請求は、やればやっただけ力がつく、転んでも、負けてもやった経験で力がつく、前に進むことになる」と実践している講師の言葉は重く伝わってきた。「監査請求は、認められることが少ない。しかし認められなくても、やって無駄にはならない。必ず行政の仕事に対して効果がある。うるさい議員(市民)がいるから、やろうということになる」と聞き、どの立場でも、決してあきらめないことが重要なのだと受け取った。ともまささんは「情報公開請求は、使いやすい制度なので、ぜひ一度挑戦してみてほしい」と勧める。
 私は今回知った手法を使って、行政へ思いを伝えられるようになりたい。だが、やり方を学んだに過ぎず、法律に関与することは、自分とは遠いものに感じて怖さがある。そのハードルを越えるために、闘うのは自分自身。身近なテーマに取り組み、なぜそれが問題なのかを自分が納得する。ここから始めて、行政に思いを届けたい。
 政治は、生活そのもの。責任のない感想を言い、どうせ無駄だとあきらめてしまわずに、うるさい市民になる覚悟を決めて、一歩踏み出そうと思った。
  

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有効な議員活動のポジションを
   自分で獲得するために
      長野県安曇野市・小林純子

 「自分は安全な場所にいて、リスクをおかさず、何かを変えることは難しい。ノーと言えば、波紋も起きるし、対立も生ずる。それをこわがっていては何も変わらない・・・」みどりさんの言葉が、この3ヶ月というものわたしのなかでグルグルと巡っていた。
 安曇野市が出資する「第三セクター・三郷ベジタブル」の経営不振問題にかかわって、住民監査請求するか否か決断を迫られていたからだ。予算審議で問題を追及し、一般質問で三度も取り上げ、情報公開しては市民に現状を訴えるなど、議員としてできることはやりつくしたが、市は何ら手を打とうとしない。このうえは住民監査請求しかないと声をあげたが、「そんなことをすれば、従業員の士気が落ちて逆効果だ」「再建案を提案するとか前向きなことをするのが議員だ」といった批判も聞こえてきて、なかなか踏み切れないでいた。
 しかし「議員と市民の勉強会」に参加を重ねるうちに、住民監査請求という手段を知っている議員こそ積極的に動くべきだと思い至り、8月31日に「且O郷ベジタブルにトマト栽培施設使用料の支払いを求める住民監査請求」を起こしたのである。「たとえ住民が負けても、訴えは改善されることが多く、反省を促す効果は十二分にある」。ともまささんの言葉がわたしをあと押ししてくれた。
 さて、ここからが【オプション講座B】の中身になるが、講師はその寺町ともまささん。テーマは《情報公開、住民監査請求など制度を活用して役所をひらく〜市民としての効果的な活動のポジション、有効な議員活動のポジションを自分で獲得するために》ということで、情報公開や住民監査請求、異議申立、不服申立、行政訴訟などの基本を学んだ。
 行政の事務には、膨大な「公権力の行使」「処分」が存在するのであって、議会の監視対象というべきその「処分」が納得できないときの救済のための法律・制度を知ることは議員活動に不可欠だということ。まずこれを肝に銘じるところからスタート。
 時代を開くのは情報公開。その自治体の住民がわがまちの身近な政治に関心を持ち、どんどん公開請求することで、行政が開かれ、風通しがよくなり、市民に近くなる。
 議員もヒアリングだけでよしとせず、情報公開により事業の経過や意思形成過程、異論や課題なども掘り起こし、議員としての仕事に深み・厚みを増していくことが重要。「非公開処分」に対し異議申立をしたり、「情報非公開処分取消訴訟」を起こすなど、その制度を知る議員が率先して行なうことで、情報公開制度を市民の道具として鍛えていくことにもなる。
 公開された情報を読み解くなかで、違法あるいは不当な行為(税金のムダ遣いといえばわかりやすい)が見えてきたとき、次なる手段は「住民監査請求」。住民は「監査請求」を通して、主権者として行政の予算の執行、仕事ぶりを監視・監督できるようになっているのだ。だから「住民監査請求」はその自治体の住民であれば、誰でも、一人からできるし、もちろん費用もかからない。監査結果が納得できなければ、「住民訴訟」を起こすという手もある。
 ここでまた、わたしの事例にもどるが、三郷ベジタブルに関する住民監査請求は一部認められたものの、主な2点は棄却となったので、住民訴訟に持ち込むことになった。訴訟といえば裁判、となるととたんに「裁判に訴えて事を大きくするのは得策でない」といった考えが根強い地域性にあって、ここでも力となったのは「議員と市民の勉強会」で身に付けたノウハウ。そして、なにより「波紋や対立をおそれず、一人からでも始めるのだ」という気概を叩き込んでもらったからこそ。
 情報公開や住民監査請求などが、市民の道具として有効活用されるよう環境を整えるのも、議員の重要な仕事だと再認識した勉強会でもあった。
(追伸:11月21日に長野地裁に住民訴訟を提起。
市民からは提訴を歓迎する声が寄せられている)