『む・しの音通信』66号(2008.7.25発行)


《市民運動のページ》

選挙公営に関する住民監査請求
      愛知県日進市・ごとう尚子

選挙公営に関する住民監査請求
■結果は「棄却」だが画期的な「付記」が!
 5月16日「日進市の議会議員及び長の選挙の公営費用の過払金の返還に関する住民監査請求書」を提出し、結果が出た。結論は「棄却」だが、画期的意見が「付記」された。
 @選挙公営費は、公平性・透明性を図り、説明責任を果たすことが重要である。よって、選挙公営の説明をする際には、条例及び規程に従って確実に行うことを周知徹底し、手続きにおいて、まちがいがおきないようにされたい。A公費負担額の上限額については、各市において議論されていることから本市においても検討されたい。
 この意見は、今回の監査請求を通じて願ったことそのものであり、監査委員の見識と英断を高く評価するものである。
 もうひとつ、監査請求の効果があった。監査請求後、2候補者から、私たちが指摘した金額が返還された。指摘内容の正しさが証明され、不適正な支出を是正することができた。


 ■住民監査請求までのこと
 06年秋、「選挙公営制度は上限額が高すぎて、不正の温床になる」と考え、市民派議員の仲間に条例改正や一般質問などを呼びかけた。私は9月議会で改正を求める一般質問、12月議会で条例改正案の上程(結果は否決)をした。その後、市民からも、07年の選挙で正しい運用がなされるよう選挙管理委員会へ要望書が提出された。
 選挙後には、「ポスターの品定め」と題して、最大9倍の金額差があるポスターの現物に当たり、ほとんど差がないことを確かめた


 ■ポスター代と選挙用自動車レンタル料
 私たちが、監査請求で過払いと規定し、返還を求めたのは、以下のとおりである。
@ ポスター代の実勢価格調査などを行い、
24万7180円を上限額と割り出し、それ以上の請求額のもの。A24万7180円以下であっても、室内用ポスターなど私費分を公費で請求したもの。B契約書と請求書の単価が違っており、過払いとなったもの。C軽自動車をレンタルしながら、上限額または、それに近い金額を請求したもの


 ■資料収集に力を入れた
 これまでの他自治体での監査請求の結果を見ると、上限額に関して「撮影、デザイン、印刷など様々で、必ずしも高すぎるとはいえない」という理由で棄却されている。そこで、今回は上限額の議論のみならず、明らかに不正と認められる「私費分も公費負担させているケース」を指摘し、請求理由に加えた。
 調査したのは、ポスターの「契約書」「請求書」に加え、「選挙運動資金収支報告書(以下「収支報告書」)」である。収支報告書に公費分、私費分の両方が計上されているかどうかを調べた。契約書等と同額(公費分)のみの計上であれば、室内用ポスターなど、自分で負担すべき費用を公費に入れ込んだことがわかる。その金額は一人当たり数万円〜12万円位となる。28候補者中14人に問題ありと判断した。
 私費については、06年12月議会の一般質問で選挙管理委員会の見解をただしておいたので、その答弁も証拠として提出した。


 ■驚きの実態が明らかになった
 選挙用自動車については、軽自動車を利用した候補者のみを対象とした。請求額と実勢価格の差が大きいので、問題性がわかりやすいからである。警察署で情報公開請求をし、車検証などを取り寄せ、調査をすすめた。
 その結果、こんな実態が明らかになった。A候補者は、B社と軽自動車の賃貸契約を結んだ。車検証を見ると持ち主は大手レンタカーC社日進支店である。C社で7日間借りると3万7800円だが、A候補者とB社は上限額10万7100円で契約をしていた

2.8倍を上回る金額である。

 ■今後は制度改正を求める
 今回の「付記」は、2年間の私たちの活動の末に得た貴重な成果である。監査委員が「上限額を見直すべき」という意見を明らかにしたのだから、市長及び選挙管理委員会は、これを真摯に受けとめるべきである。
 私たちは今後、選挙公営制度の変更を求めるための行動を起こそうと考えてい
る。

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選挙公営問題の最前線/岐阜から
         岐阜県山県市・寺町知正

 私の住む山県市の議員たちが、2004年の市議会議員選挙の際にポスター代を水増し請求した事実を県警の捜査で認め、昨年、市議5人が辞職した。その衝撃的な話題を受けて、全国で選挙公営における不正請求が大きな問題になっている。マスコミにスクープされる前に自主的に返還した候補者もいる。実は、この返還には重要な意味がある。なぜなら、みずから不法行為の存在を白状したのだから。

 ●県議選での不正を裁判所に問う
 私たちは、岐阜県議選でのポスター代の水増し問題に取り組み、現在、2007年6月18日の住民監査請求を経て、岐阜地裁で住民訴訟を続け、口頭弁論は5回になった。さらに、選挙カーの燃料費・運転手日当・車借上料の水増しも許されない。そこで今年5月30日、住民監査請求した。

 ●選挙カーの燃料費は
 2007年県議選の選挙カーの燃料費は、K候補1日で92?、I候補90?、H候補88?・・・Y候補は普通貨物車で毎日61?、N候補は小型乗用貨物車で毎日55?給油など報告されている。
燃料1日60?を消費するには休憩なしで平均時速50kmで走行、毎日約450〜600km以上を走り続けたことになる。岐阜・東京間は約380km、通常車両の燃料タンク容量からしても給油量は、虚偽か後続車の燃料を含めている。

 ●選挙カーの借上料/運転手日当は
 「選挙カーの借上料」は、貸出業者の「標準価格」を超える部分や選挙カー用看板枠や音響設備を含んだ場合は水増し請求である。
 「運転手日当」については、契約する運転手はほとんどの候補が一人か二人である。それに対して、真実の運転者でない場合や交付全額が契約運転手に収められていない場合は虚偽請求である。

 ●県の損害は

 これら選挙公営支出のうち、水増しあるいは虚偽請求という不法行為に基づいて交付された部分は県の損害だから、候補者、自動車提供者、運転手らには返還義務がある。

 ●返還請求を怠る事実は1年の期間制限なし
 ところで、私たちが岐阜地裁で8年続けた住民訴訟「県営渡船委託料損害賠償請求事件」で2007年5月31日に判決が言い渡された。判決は、毎年継続して支出していた委託料について、渡船事業はほとんどなされていなかったから、委託料支出は虚偽の実績報告などの不法行為に因る損害であり、その返還請求を「知事が怠っている事実」については住民監査請求の「支出から1年以内」という制限は適用されないと判示し、「請求どおり過去5年分」について返還が命じられた。
 この基本骨格は、今年3月14日の名古屋高裁判決でも維持され、確定した。
 ●政治を志す人の当然の倫理を
 この渡船委託料事件の立論をそのまま引き継いで、2007年だけでなく以前の2003年の県議選の選挙公営費(ポスター代・燃料費・車代・運転手日当)水増し問題でも、返還命令を勝ち取りたいと思って岐阜地裁の法廷に立っている。
 すでに勝訴した渡船委託料事件は一つの事業の問題だったが、選挙公営制度は全国で行われており、しかも国政選挙でも利用される制度。政治を志す人の当然の倫理を求める意義は高い。

● 限度額の引き下げの流れ
 岐阜県内では、山県市の制度廃止に続き、羽島市や恵那市など、基準額を引き下げる自治体が続いている。恵那市はポスター限度額を49・5%減、選挙カー借上料や燃料費、運転手日当の限度額も大幅に減。市長は「減額して、実勢価格に近づければ問題となる過大請求などは起きにくくなるはず」としている。

 ●検察審査会は不起訴不当を議決した

 告発を受けて警察が捜査した山県市の選挙、水増し詐欺を認めた7人のうちの2人の議員は、辞職していない。岐阜地方検察庁の起訴猶予処分に対して、検察審査会に不服申し立てしていたが、6月13日、検察審査会は不起訴不当と議決した。審査会の決定書には「自治体の代表として公金をだまし取る行為は悪質。議員を辞職しておらず、反省も不十分だ」と明記されている。裁判員制度の開始を前に画期的な結論。
 検察庁は仕切りなおし、再捜査を始めている。


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金沢・控訴審は結審。判決日は9月22日
 〜福井・音声記録非公開処分取消訴訟?
     「原告団」事務局・寺町みどり

■福井地裁の一審は「まさかの敗訴」
 1月30日午後、福井地裁で、「ジェンダー図書」排除事件の男女共同参画審議会を記録した音声テープの「審議会音声記録情報非公開処分取消訴訟」の判決があった。
 「主文、原告の請求をいずれも棄却する」 。   
 まさかの原告敗訴。裁判長から異例の理由説明があったけれど、負けは負け。電磁的記録が「福井県情報公開条例」に、「公文書」と定義されている以上、「文書管理規程」に音声記録の保管期間や廃棄などの方法を規定するのは当然のこと。それがなされていない福井県のずさんな公文書の管理・運用の現状を、司法が追認しただけの不当判決だ。
 判決後、記者会見と判決後集会を開いた。まず今大地さんが経過説明、選定当事者の寺町知正さんが判決を解説した。「判決は、『備忘として、録音し保管していたものに過ぎず、県が管理していたものと言えない。議事録を作るためだけであって、県の文書の位置づけにはない』というが、香川県土庄町議会録音テープについてのH16年最高裁判決や実施機関による保存の実態を考慮すべき。今日の判決は、管理を狭くとらえている。今回の音声記録は職員が議事録作成中に公開請求をしたので、職員が管理していたもの。福井県の情報公開条例は決済・供覧を外しているので、当然、最高裁判決に照らしても公開すべき」。
 原告代表の上野千鶴子さんは、「勝訴を確信しておりました」との第一声。続けて判決の問題点を指摘した。「@情報公開の流れ、IT化に伴う記録の電子情報化の流れの両方の時代の流れに逆行する保守的な判決。A電子情報化の流れは急速。福井地裁は時代をリードする判決の絶好の機会を逃した。B福井県の判断が「適法」であったことを法廷が認めたのだから、メンツが立ったでしょ。福井県はこの際「非公開処分」を「変更」したら?過去に何度も「処分変更」したんだから。C福井県が今後対処する可能性は「情報公開請求されるような電磁記録」はこれからとらない。D指定管理者制度の導入に伴い、事業者の選定や査定評価、再契約などの過程が不透明になることが懸念されている折から、自治体行政の透明性・公開性を拡大する必要がある時期に、この後ろ向きの判決はきわめて残念だ」。最後に、「承服することはできない。原告団は控訴します。」と結んだ。
 控訴審の舞台は、名古屋高裁金沢支部。知正さんは本人訴訟を続け、上野さん他11人は、情報公開に詳しい東京の清水勉弁護士に代理人をお願いすることにした。 
 4月に控訴理由書を提出。控訴審の第一回口頭弁論は5月19日、名古屋高裁金沢支部で開かれた。その前日は原告団6人が清水さんからレクチャーを受けて交流。当日午前の傍聴者は、控訴人側が13人。控訴人、被控訴人の双方が提出した書面を確認した。裁判所は「反論したい」という福井県の求めと、控訴人の「証人申請したい」との求めを受け、次回の弁論期日を指定した。閉廷後、清水弁護士がマスコミと傍聴者に、控訴理由書の趣旨をていねいに説明。

■控訴審は結審。勝訴を確信しているが・・・

 第二回弁論は、7月23日午後1時半から開廷。控訴人と被控訴人双方が準備書面と書証(証拠)を陳述して、あっけなく終わった。
 わたしたちは、福井県職員と情報公開に詳しい人の2人を証人申請していて、県も同じ職員を証人申請したいと言ったが、裁判長は「証人は採用しない」「弁論を終結します。判決言渡は9月22日午後1時20分から」。
清水弁護士からの「意見書を提出したい」という表明には、「出していただいてもよい」。
 ということで、判決言渡は9月22日に決定。思いがけなく、はやい展開となった。
 控訴審の論点は、「情報公開条例」と「文書管理規程」をどう位置づけるか。そもそも、職員が作っただけの「規程」が、議会の議決を経た「条例」の上位にはこない、というのが控訴人の主張だけど、福井県はルールを無視した運用をしていて、それを一審は認めた。
 裁判長は早い段階で心証を形成していたようで、法律解釈の問題なので証人は必要なし、ということなのだと思う。はたして控訴審の判決は、どちらの主張を採用するのだろう。