『む・しの音通信』No.67(2008.9.28発行)


第1回「M&T企画/市民派議員としてのスキルアップ連続講座」報告

 8月22〜23日(金・土)、「ウィルあいち」(名古屋市)にて、「市民派議員としてのスキルアップの連続講座」を開催した。講師は寺町知正さんとみどりさん。「M&T企画」と「む・しネット」の共催で、第1回のテーマは《議会で働くために、まず各種の基本を身につける&決算審査対策》。全国から参加者15名が集まり、会場内は緊張感と熱気に包まれた。
 【セッション1】「議会の基本を知らないと議員活動は安易に流れる」は、「議会」と「議員」の違い、本会議と委員会の関係、議会運営の原則など、基本的な議会のルールと流れを再確認した。
 続く【セッション2】のテーマは、「原則に基づく的確な発言・議論が効果を生む」。なんといっても政策実現が議員の仕事。ここではそのために効果的な質疑や一般質問の組み立て方の具体的なレクチャーがあった。これまで自分がしてきた質疑や質問の構成の欠点がはっきり見えてくる。
 【セッション3】は「公的手続きを使うことで影響と効果は倍増」。議会で質問するだけでは行政側に求める政策を実現させることは難しい。市民と組み、直接民主主義の制度をうまく使うことで影響と効果が倍増する手法を学んだ。
請願、陳情の意義やその取りあつかい方、直接請求や情報公開の活用方法、住民監
査の請求方法など、公的手続きを使いこ
なすスキルを学び、参加者から「さっそくやります!」という発言も飛び出して初日は終了。夜も交流会で盛り上がった。
 翌日は【セッション4】として「9月議会にむけて=決算審査のために」。決算審査は、実現したい政策を次の予算へ反映させるための重要な仕事。講師は決算審査に関するあらゆる要素を解きほぐして書かれた資料をもとに、手順や着眼点を明確に示していく。あいまいだった決算審査の具体的な取り組み方が明らかになり、決算審査への意欲と自信がふくらむ。
 最後の【セッション5】は「議会や行政との関係での具体的問題の解決」。事前に参加者が提出した個別課題について講師がアドバイスをする。それぞれが抱える問題の状況および背景説明、改善すべき理由、獲得したいことを考えて紙に書き込むことで、だんだん問題が整理され答えに近づいていく。その過程を参加者全員で共有することで、解決の手法がわかってきた。
 2日間を終えた参加者は、獲得したスキルを実際に現場で使い、メールで情報交換しながら講座の内容を深めている。
 連続講座は課題もふくめ、段階的なスキルアップを目標に構成されているのが特徴。この講座に参加者としてだけでなく、スタッフとして主体的に関わることで市民派議員として必要なスキルを確実に獲得していきたい。
(スキルアップ講座スタッフ・島村紀代美)

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  効果をもたらす「情報公開制度」
        熊本県熊本市・早咲京子


 2年前、県の教育委員会の姿勢に憤って、署名・請願したことから始まった私の政治参加。市民活動の力もつけたいと、「M&T企画/議員としてのスキルアップの連続講座」に参加した。
 《セッション3》のテーマは「公的手続きを使うことで影響と効果は倍増」。昨年の講座でも扱われたテーマである。それだけ大切で重要なのだと思った。
 まず、講師の寺町みどりさんが、「市民と議員の活動の違いは、議会の発言(質疑・質問)と表決(意思決定権)だけ」と話し、直接民主主義の制度は、議員でなくても、市民(国民)が直接的に主権を発動できる制度であることを、詳しく説明された。
 みどりさん自身が、市民派議員として、足場を議会の外に置き、市民としての感性を忘れずに議員の仕事をしていた経験を話されたことで、無党派・市民派の議員は、市民の立場に立って活動することこそが、行政により深く影響を与える力になるのだと思った。
 そして、「請願・陳情の出し方/出してもらい方/受け方」で、憲法第16条、地方自治法第109条4により、請願と陳情は等しく審査される権利があるという事実に驚いた。陳情や請願は、紹介議員の必要があるなし等で、入り口で締め出され、区別や差別され、取り上げられる陳情や、資料配布だけと決められる陳情に分けられる現状がある。私は、請願だけでなく、要望や陳情でも、行政や議会を訪れた経験があるが、その扱われ方には、歴然とした差があった。それが当たり前だと思っていたので、私の認識は誤りであることを知った。
 今は法に沿い、請願や陳情を差別や区別をせず、手続きの公平さと簡略化により、議会は市民の願いを受け止め、市民の利益にかなう政策実現、本来の「住民のための自治」へと方向が変わってきているという。紹介された鎌倉市議会の例では、「請願・陳情という用語の問題点は、市民を低く見る意識の現れ。差別・区別をなくすために要請、提案、意見などに改める」となっていた。これを、自分の自治体へも是非、働きかけていきたい。
 続いて、寺町知正さんが、議員の働き方について、「無党派・市民派議員の議会活動は、数や会派に頼らず発言力を高め実力をつけること。そのために、公的手続きを使うことで力がつく」「法律や制度を利用することで、議員も市民も活動に大きな効果をもたらす。公的な手続きは、議員と市民と立場がちがっても使え、中でも情報公開制度は、情報をきちんと入手できる手法だ」と話された。硬直化した問題を解決するために、どの公的な制度をどう利用するか等、公的手続きのつかい方を学んだ。
 「情報公開制度」を利用することにより、行政を開かれた姿に変えていけること。職員へのヒアリングだけでは見えない姿が見えてくること。自治体ごとに「情報公開条例」が決められており、その自治体の住民はもちろん、「何人(なんびと)も」と定義されていれば、誰でも請求することができ、費用はコピー代程度であり、原則2週間以内に開示されると聞き、制度との距離が縮まったと感じた。
 情報の開示は、自治体の裁量により違いがあり、開示・非開示・一部開示と処分が分かれるが、情報公開制度では「非公開は違法、公開が大原則」。一部開示・非開示処分(黒塗り)に不服の時は、異議申立や非公開処分取消訴訟ができる。知正さんの豊富な経験による「情報公開請求の勘所・コツ」を幾つかのエピソードを交えて教えてもらったが、「やってみると楽しい」と言われた境地に、私はまだほど遠い。
 今回、私が何より重く受けとめたことは、「問いを立てる」ことの難しさであった。「自分の思いの強さは? 解決したいことは何か、本当に解決したい問題なのか」と常に自分に問いかける。問いを立てることは、どう実現したいかという答えを決めること。問いを立て、当事者となり、戦略を練る。この難しさに挑んでいく道は、平坦ではない。しかし、問いを立て、答えを得るには、戦略の手段として公的手続きを使えるようになることが必要である。私は、次回の課題である「情報公開制度」への初挑戦を始めた。

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議会の基本を知らない議員
    長野県安曇野市 小林純子


 「議会軽視」という言葉に象徴される「議員の特権意識」は厄介なものだ。おまけに議員の権限と特権を取り違え、口利きが大事な仕事だと勘違いしている議員もまだまだ多い。
 わたし自身は、権限と特権は違うと理解しているつもりだが、自分の意識や行動がどうかといえば自信はない。そんなわたしに《セッション1》「議会の基本を知らないと議員活動は安易に流れる」は、これまでに学んだことの総ざらいとなり、議員としてその権限を適切に行使するとはどういうことなのか、再確認するよい機会となった。
 そもそも「議会の権限」とはなにか。代表(間接)民主制における議会は、市民の代表である議員によって構成され、「その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する」(憲法前文)とある。この権力の及ぶ範囲が権限である。議会には議決権、監査の請求権、自律権、調査権等いくつかの権限が与えられている。よく「議員には調査権がある」といわれるが、これはあくまでも議会の権限。個々の議員に与えられているのは、発言権、表決権、議案提出権等である。
 こうしてみると、議員の口利きなどその特権意識の表われであって、権限の行使とは別次元ということがわかる。議会・議員の権限は法を根拠とする限定的なもの。だからこそ議員は議会の正規のルールである自治法、会議規則、委員会条例を守る義務があり、これら法令に反する前例、慣例に従ったり、申し合わせなど作ったりはできないはずなのだ。
 しかし、権限を特権とカンチガイしている議員は、自分たちに都合のいい申し合わせを取り決め、結果として市民に背を向けることになっても気付かない。
こうした議員と一線を画し、数の論理に流されないためには、議会の基本を常に念頭におき自分の議員活動と照し合せること。そして、なにより市民のためにこそ議会・議員の権限を適切かつ最大限に行使することだ。