『む・しの音通信』No.68(2008.12.5発行)


特集:「ジェンダー図書排除事件」
   〜堺市立図書館&福井県情報公開訴訟

堺市立図書館で「特定図書排除」事件はなぜ起きたのか?
  「ジェンダー図書排除」究明原告団
          事務局・寺町みどり


 今年8月、堺市の全市の図書館の書架から5499冊のBL(ボーイズラブ)図書が、いっせいに書庫(閉架)に移されるという、衝撃的な事件が起きた。ここにいたる経過のなかでは市議会議員の関与などもあった。経緯は福井県の生活学習館での「ジェンダー図書排除」事件と酷似している。これまで女性センターで類似の事件はあったが、今回はじめて公立図書館で事件が起きたことにショックを受け、この問題について調べはじめた。

◆堺市「特定図書排除」事件の経過

 事件の発端は、7月下旬に匿名の市民A(男性)が「BL本が大量に図書館にある」と市内の図書館に苦情の電話をかけたこと。わたしは、福井事件以来、バックラッシュ派のインターネット「掲示板」を監視していて、この匿名市民の投稿に気づいた。どこかのまちの図書館で図書排除の動きが起きていると心配だったが、具体的にどこかが分からなかった。
 9月になり、市民Aが「掲示板」に堺市HP「市民の声Q&A」をアップしたので、堺市立図書館を舞台に起きた事件と分かった。 
 事実関係を特定するために堺市に対し、原告団14人で、図書リストと会議記録等、「関連する公文書のすべて」を情報公開請求した。数日後に図書リストは資料提供され、公開された公文書や職員への聴き取りなどにより事件の全容が明らかになってきた。
 堺市HP「市民の声Q&A」(市の考え方)には、「(BL図書は)すみやかに書庫入れにいたしました。今後は、収集および保存、青少年への提供を行わないことといたします」と書かれているが、このような重大な決定をしたというのに、かんじんの意思決定に至る議論や経過は記録に残っていない。
 市民Aから堺市に届いた複数のメールや電話により、BL図書は7月下旬から8月上旬の間に異例の全館調査によって、開架から一斉に撤去されたようだ。このようなクレームだけで公立図書館が大量の図書を右から左へ動かし、処分まで考えるなんて、とても信じられない。
 公文書には議員の関与が記されており、「掲示板」でも、市民Aが「政治家の介入の効果」や「図書館から処分することの回答を得た」ことを明言している。図書館の対応も議員が介入してから明らかに変化している。福井「ジェンダー図書排除」事件で、図書排除を迫ったK氏が「政治家の力で図書が撤去できた」といっているのと同じ構図だ。このころは9月議会を控えている時期だったので、議会で追及されることを恐れて、あわてて対応したということはじゅうぶん考えられる。 

 
◆「住民監査請求書」提出へ

 調査をすすめていたわたしたちは、事実関係を踏まえ、「図書の種類・内容いかんに関わらず、図書の処分・廃棄をさせてはいけない」という観点から「住民監査請求」をすることにした。請求者は堺市の「住民」しかなれないが、原告団の有志が代理人となって、寺町知正さんが監査請求書の原案を作り、知り合いを通じて呼びかけるなど準備を始めた。
 10月19日、堺市の皆さんと住民監査請求の打ち合わせをするために堺市へ行き、翌日、堺市中央図書館を訪問して今回の事件の経過などを聞き、地下の書架に保管されている図書をじっさいに見せてもらった。
 堺市立図書館には、「図書館の自由に関する宣言」(日本図書館協会/1979年改定)を基にしたすぐれた「資料収集方針」「資料除籍基準」等がある。特定図書を排除する行為は、これら規定に違反するのはもちろん、表現の自由、知る権利、基本的人権を侵害し、かつ禁止された検閲であって「日本国憲法」に違反している。同時に、「青少年に提供しない」は、「図書館法」「子どもの権利条約」「堺市男女平等社会の形成の推進に関する条例」にも反している。
 堺市民28人と代理人12人(代表・上野千鶴子)は11月4日、堺市監査委員に「特定図書排除に関する住民監査請求書」を提出した。この「監査請求」の提起が、同時に、堺市でおきている「図書排除」事件の公表となるので、記者会見では、代理人代表の上野千鶴子さんのコメント(資料1)も発表した。「住民監査請求」については「12月9日に監査委員に対し陳述をする」と決定している。


◆「申し入れ書」を提出

 続いて、原告団のメンバーが呼びかけ人になり、11月7日、堺市長および教育長あての「堺市立図書館における特定図書排除に関する申し入れ書」(資料2)を提出した。申し入れは、呉羽真弓さんはじめ市民派議員41名(元・前職を含む)と「む・しネット」と「原告団」の連名。提出後、佃芳治教育次長、河野俊英中央図書館長などと面談し、市の考え方を文書で回答するとの了解を得た。
 堺市側の説明は、「5499冊は有害図書ではない」「図書館は収集基準にかなった本を入れており過激なものは購入しない方針」「現時点で除籍基準に該当するものはない」「議員から圧力があったと思っていない。議員の介入があろうとも、基準に従って粛々と仕事を進めるという図書館の姿勢は変わらない」など。 
 第一次申し入れは、緊急に市民派議員で提出したが、さらに広い範囲のひとたちに、「第二次申し入れ」を呼びかけることにした。
 11月14日、上野千鶴子さんを筆頭とする「市民97名/議員5名/5団体」で、「(第二次)特定図書排除に関する申し入れ書」を提出。申し入れ人の合計は、「市民97名/議員46名/7団体」になった。
 11月14日、堺市教育長から申し入れに対する回答が届いた。回答は「本件における、他者からの個人的主張による不当な介入や働きかけなどは一切ありません。・・・収集図書のうち、表紙、挿し絵、イラスト等で特に過激な性的描写等のある図書については、青少年に配慮する観点から、開架せず書庫に収蔵し、請求があった場合には、閲覧・貸出しに対応しています。」 これでは答えにもなっておらず、納得できないわたしたちは、「堺市回答に対するコメント」(資料3)を公表した。


◆ボーイズラブはなぜ排除されたのか?

 当初、「(BL図書は)青少年に提供しない」とされていたが、回答の直前に、意思統一のための館長会議が開催され、申し入れにより、この決定は見直されたようだ。
 とはいえ、「BL図書は収集・保存しない」という措置は見直されていないし、堺市はなぜ不当な要求に従ってBL図書を特定し排除したのか、の疑問は残る。
 図書館側は、「BL図書をカウントするために動かしただけ」と言っているが、「一般書として混配」していた館もあるのだから、「一般図書として開架しているのでカウントできない」と答えれば済むはなしだ。
 堺市立図書館は、以前から「やおい小説の取扱い基準」を作っている。その基準により「指摘されたので閉架に統一した」ということだが、図書館のすべての図書は、「資料収集方針」によって購入・配架されており、除籍・保存基準により廃棄・保存される。「有害図書」や「過激な図書」は、入り口でチェックされて入りようがない。これらの規定が図書館の唯一の正規ルールなら、あえて「ボーイズラブ」と「区別」しての制限はなぜ必要なのか。
 「表紙、挿し絵等で特に過激な性的描写等のある図書」というが、どの図書館も探せば「セックスと暴力」にあふれている。「BL小説」は異性愛の小説とどこがどう違うのか、 そもそも、「BL図書」ってなんなのか。「BL」は誰にとって有害なのか、「BL」を女こどもに読ませたくないのは誰なのか。「BL」=「過激な性的描写のある本」なのか、「過激」の線引きをどこでしたのか、5499冊をどのような基準で選んだのか、など次々に疑問がわいてきた。
 「BL(ボーイズラブ)」と特定された図書リストは、約1000枚の紙版と電磁的データ(FD)として、9月中旬にわたしの手元に届いていた。今回の問題は、特定された図書が「BL」であることと、その冊数の多さゆえに、その後、マスコミやネットで議論され、話題が大きくなった。
 わたしたちは、この2か月ほど、「図書の廃棄をくいとめる」活動をしてきたが、平行して図書リストを詳しい人たちに見てもらっていた。先日、著者別、出版社別に「分類したデータ」が届いたが、この分析をみれば、いかに図書が、ランダム、無節操、不統一な方向で選別されたかがうかがえる。
 図書データの分析を進めている研究者によると、「司書の目についたもので、『BL』に見えたものをリストにあげるといった作業だったのではないか。統一した作業ではなく、個々の作業した司書が、それぞれ違う個人的な基準で本を選んだということなのかもしれないという気もしてきた」ということだ。
 この推測は当たっていると思う。今まで図書館の資料は、各図書館の独自の判断で排列されていたものを、今回はじめて全館調査をおこない統一した。その基準は何かといえば、じつは何もなかったのだ。意思統一や特定図書を排除するための会議をした気配すらない。「表紙と挿絵」というのも、あとづけの理由に過ぎず、「BLらしきもの」をとりあえず排除したのではないか、とわたしも公文書を精査・分析しながら、同じことを考えていた。
 

◆「特定図書排除」事件はなぜ起きたのか?

 堺市に届いたメールから分かったことは、特定図書を排除したい人たちは、「同性愛」自体を嫌悪している。同性愛への差別と偏見から「BLをこどもに見せるな」といい、「BL本を処分せよ」と迫った。その要求にしたがった図書館にも、「ボーイズラブは青少年に見せてはいけない」という予断と、セクシュアルマイノリティへの偏見があったのだろう。 だからこそ、堺市立図書館で起きたことは、「ジェンダー図書排除」事件にほかならない。
 この問題で行動することを呼びかけたら、「デリケートな問題だから触れないほうがよい」とか、BLを擁護することをタブー視する声があった。「寝た子を起こすな」と。
 巷にあふれる「BL本」の悪いイメージをことさらに振りまいて、自己規制を迫るのは、差別する側の常套手段だ。どんな本も読者に読まれるために書かれている。わたしは、図書を選別し、区別し、隠すことこそが「焚書」であり、「差別」につながると言いたい。
 特定図書は現在、7図書館で「保2」というところに移動・保管され、引き続き「調査中」。報道によると「専門司書70名が本の内容を一冊一冊丁寧に確認し、選定を行っている」。特定された図書は「文字情報」の小説である。問題になっているのは「表紙、挿絵、イラスト等」とされたようだが、特定図書をさらに選別する行為は、図書館の裁量を超えていると思う。「BL図書」は、「間違って排除された」のではなく、図書館の自己規制によって、区別され、市民の目から排除されている。「どのような理由であろうと蔵書を排除しない」を基本原則としない限り、第二第三の「図書排除」事件は、起きるだろう。
 「図書館の自由に関する宣言」は、「図書館は、基本的人権のひとつとして知る自由をもつ国民に、資料と施設を提供することを、もっとも重要な任務とする」とし、「第1 図書館は資料収集の自由を有する。 第2 図書館は資料提供の自由を有する。 第3 図書館は利用者の秘密を守る。 第4 図書館はすべての検閲に反対する。図書館の自由が侵されるとき、われわれは団結して、あくまでも自由を守る。」と掲げている。  
現場の図書館は、「図書館の自由」を守るために毅然としてたたかってほしい。
 堺市に対しては、現在、第三次情報公開請求中。公開期日は12月5日。新たな公文書が出てくれば、なぜこのようなことが起きたのかなどについて、さらに解明が進むはずだ。
 今回の図書排除事件は、わたしたち自身の「戸惑い」と「偏見」に対し、大きな問いを突きつける。あなたはどこに立つのか、と。
 わたしもまた、「ジェンダー図書排除」事件にかかわる当事者として、この問題から目をそらさずに、考え、行動していきたい。


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(資料1)
堺市住民監査請求・代理人代表のコメント


 どんな理由があれ、公共の図書館における図書の排除や検閲はゆるされない。
 情報公開と表現の自由は民主主義の基本だ。
 たとえ反対意見であってもそれを発表する自由を守るというのが、「表現の自由」だ。
 わたしたちは福井県の図書排除事件以来、情報公開と表現の自由のために闘ってきた。
 日本中、どこで同じようなことがあっても、闘うだろう。
 図書排除の要求をした関係者の図書館行政への不当な介入と、その要求を受けいれた堺市の不見識とに猛省を促したい。                         
          2008年11月4日
    上野千鶴子  東京大学大学院教授
 「ジェンダー図書排除」究明原告団・代表
 
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(資料2)堺市立図書館における特定図書排除に関する申し入れ書
                                            
 本年7月から8月頃、堺市立図書館において、一匿名市民から電話やメールで特定図書に対し執拗な撤去要求がなされ、依頼を受けた市議会議員も介入したことにより、所蔵図書5,499冊が「BL(ボーイズラブ)本」として、市立図書館から一律に利用者の目に触れない閉架に移されています。
 堺市公式ホームページ「市民の声Q&A」では、(市民の声)「中央図書館とお話し、書庫のBLも処分するとのことです」「すみやかにBLを換金し、他の有益な図書の購入費に当てるよう、強く強く要望いたします」に対し、(市の考え方)として「今後は、収集および保存、青少年への提供を行わない」と回答しています。
堺市立図書館は、堺市の「公の施設」(図書館法2条2項、地方自治法244条)であり、「堺市立図書館条例」によって設置され、図書は「堺市立図書館資料収集方針」に基づいて市民の税金で収集・管理され、「資料除籍基準」「資料保存基準」にしたがって除籍・保存されています。
 「資料収集方針」にしたがって購入した図書を、一匿名市民、議員の不当な圧力に起因する思いつきの閉架扱いにしたことは、著しく恣意的で、管理者に許された裁量を著しく逸脱した違法な行為です。「堺市立図書館 資料収集方針」は、「図書館の自由に関する宣言」「図書館員の倫理綱領」に則って基本方針を定めており、今回の一連の行為は、「図書館法」および「図書館の自由に関する宣言」「図書館員の倫理綱領」にも違反します。図書の違法な排除および除籍は、知る権利、知る自由の侵害で、けっして許されることではありません。
 特定図書を排除する行為は、思想の自由、表現の自由、憲法に定められた基本的人権を侵害し、かつ、禁止された検閲であって「日本国憲法」に明らかに違反しています。
 公立図書館は、地方自治法第244条「普通地方公共団体は、住民の福祉を増進する目的をもつてその利用に供するための施設(これを公の施設という)を設ける。」によって設置されており、「2 普通地方公共団体は、正当な理由がない限り、住民が公の施設を利用することを拒んではならない。」「3 普通地方公共団体は、住民が公の施設を利用することについて、不当な差別的取扱いをしてはならない。」と規定しています。特定意図による図書の排除や処分は、住民の権利を侵害しもしくは住民を差別するものであり、「地方自治法第244条」第2項及び3項に違反します。
 これらの図書は「大阪府条例の有害図書にあたるものは一切ない」(11/5朝日新聞)にもかかわらず、「青少年への提供を行わない」とされています。この決定は、「児童の権利に関する条約」(子どもの権利条約) の、「意見を表明する権利(第12条) 」「表現の自由についての権利 (第13条)」「思想、良心及び宗教の自由についての権利 (第14条)」「干渉又は攻撃に対する保護(第16条)」に反しています。同時に、BL図書の排除は、直接的であると間接的であるとを問わず、性別による権利侵害および差別的取り扱いを禁止した、「堺市男女平等社会の形成の推進に関する条例」にも違反しています。
 以上のように、わたしたちは、公立図書館からの特定図書の排除をとうてい容認することはできません。すみやかに当該排除、廃棄行為を中止しもしくは現状復帰されるように求めます。
 また、今回の特定図書排除に関して、公文書やウエブサイトから、市議会議員の関与が明らかになっています。このような、「公の施設」に対する市議会議員の介入を看過することはできず強く抗議するものです。
 以上、申し入れるとともに下記の2点について、11月14日(金)までに、文書で誠意ある回答を求めます。

1.「中央図書館とお話し、書庫のBLも処分するとのことです」に対する、「今後は、収集および保存、青少年への提供を行わない」との市の回答は、特定図書の処分(廃棄)を前提にしたものなのか。説明を求める。
2.今回、一部の市議会議員の個人的主張に市の基本姿勢が揺らいだことは間違った市政政運営ではないか。       
以上

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(資料3)堺市回答に対するコメント

 私たちが11月7日および11月13日に提出した、「堺市立図書館におけるBL図書排除に関する申し入れ」の「問い1」の趣旨は、堺市HP「市民の声Q&A」の「今後は、収集および保存、青少年への提供を行わない」との市の回答は、「特定図書の処分(廃棄)を前提にしたものなのか。説明を求める。」である。  
 堺市の回答は「廃棄を前提にしたものでなく」であるから、市のHPにおける市民への回答との齟齬が明白になった。堺市HPと私たちに対する回答の比較から、結果として、今回の図書問題に関する堺市の混乱、不統一の方針や対応などが鮮明になった。
 問い2」は、「今回、一部の市議会議員の個人的主張に市の基本姿勢が揺らいだことは間違った市政運営ではないか。」である。
 堺市の回答は、「本件における、他者からの個人的主張による不当な介入や働きかけなどは一切ありません。」とすべての働きかけを否定しているが、これは、インターネットにおける各種情報や新聞等の報道からも、また、事案の経過からも事実に反する。
 今回の図書館運営に対する一連の「外圧」の存在をあえて否定することは、重大な問題をはらむ。私たちも行政も、人権問題に関して差別的扱いや排除行為等の存在を認識しない限り問題の解決が進まないことを歴史的に学んでいる。DV(ドメスティックバイオレンス)への対応に関しては暴力を我慢するのでなく暴力や加害の事実を直視して対策しなければならない。その観点からすれば、今回の「一切ない」との堺市の回答あるいは認識は、問題の解決に進むのでなく、悪しき事態を温存・継続するだけだ。
 なお、回答には「青少年に配慮する観点から、開架せず書庫に収蔵し、請求があった場合には、閲覧・貸出しに対応」と抽象的な付言がなされている。これについては、本件回答の直前にきゅうきょ館長会議が開催され、本年8月に決定し運用されていた「青少年への提供は行なわない」との方針・合意を撤回し、「請求があれば18歳未満にも貸し出す方針を決めた。同日から運用を始めた。」と新聞報道されている。
 このような重大な決定変更があるにもかかわらず、私たちへの回答においては先の抽象的表現しか記さない姿勢には、わずかの誠意すら感じられない。
 以上、堺市の今後に強い懸念と不安をいだくものである。
 (申し入れ人筆頭者)
 上野千鶴子 東京大学大学院教授
 「ジェンダー図書排除」究明原告団・代表
 呉羽真弓  京都府木津川市議会議員
 (連絡先) 寺町みどり 

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★堺市「特定図書排除」事件の詳細は、
「みどりの一期一会」http://blog.goo.ne.jp/midorinet002/
(カテゴリー:「ジェンダー図書排除」事件)
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堺市立図書館「特定図書」排除事件
「やめとき」ではなく「やめとかない」精神で
フェミニストカウンセリング堺・加藤伊都子


 職住ともに堺市民の加藤です。9月21日、「堺市図書館の書架から5499冊の図書が消えた!」という寺町みどりさんのML投稿で今回のできごとを知りました。その投稿には「わたしたちといっしょに行動したいという堺市在住の方は、ご連絡ください。」とありました。とりあえず、「本の名前だけでも教えてもらおう」とみどりさんに連絡を取り電話で話をしました。それが9月27日。そのときの話で、まずは監査請求をする堺市在住の市民が必要だということで、結局は自分がなるのですが、監査請求人として名前を出してくれる人を探し始めました。
 なぜ、名前を出してくれる人を探したかと言うと、この件について相談した中の数人から「やめとき」と言われたからです。「監査請求人になってもいいけど、名前を出すのはやめとき」と。理由は、仕事にさわる、仕事仲間に迷惑がかかると。(仕事はバックラッシュの人々が大嫌いなフェミニストカウンセラー。彼らの言によると、国家転覆、家族破壊を企んでいるということになるのですが、DV被害者、セクハラ被害者の支援もしています。) 
忠告を受け、「誰かいないかな」と探し始めたのですが、誰も引き受けてくれない。今にして思えば「私はしないけど、あなたがやって」ということなど誰も引き受けないのは当然のことでした。そのうちに、説明をしたり、頼んだりするのが面倒くさくなってきました。まず図書館への攻撃の意味が言葉を尽くさなくてもわかり、できれば福井や松山で起こったことを知っていて、BL(ボーイスラブ)、少なくとも「やおい」くらいはわかる人、となると、そうはいない上に、同じ堺市民になぜ私が頼まなければならず、しかも断られなければならないのか、自分がやったほうがよっぽど簡単だと思い始めたのです。
 そこで改めて、「やめとき」という言葉について考えました。最初に思いついたのは、私たちが大事にしたい人は図書館攻撃をしている人々と意見を同じくする人たちではないということでした(何て当たり前のことを、と書きながら思います)。私たちを支えてくれているのも、仕事をくれているのも、その人たちではない。そして私たちとつながっている人は、図書館への攻撃を放置してもいいとは思わないだろうということでした。でも自分がやるとなると話はまた別で、「誰かがやるならお手伝いはします」と。この辺が正直なところなのだろうと思います。実際に、私たちが「やります」となってからは、短い期間、仕事をしながらにもかかわらず、賛同人等はそれほど苦労せずに集められました。
 そしてもう一つ考えたのが「仕事にさわる」というほどに彼らは厄介な存在なのか、ということです。確かに図書館にとっては厄介な存在になっていますが、さきほども書いたように、彼らは私たちの顧客ではない。「フェミニストの陰謀」などという言葉には「ンな大げさな」と思いますし、ネット上での執拗さには辟易しますが、それと力があるということは別です。「やめとき」という忠告を受け入れて、彼らの主張を放置すれば、あたかも彼らに力があるかのように見えてしまいます。たとえばネット上には「抗議のビラを図書館前で手分けしてまいた」とありますが、実際にはビラはまかれていません。声をあげ、話し合い、情報交換をしなければ、ネット上に書かれたビラまきは事実になってしまいます。そしてそんなに人数がいるのか、そんなに行動力があるのかと、ますます「やめとき」と言う人がふえることになります。この「やめとき」につながる心性、トラブルを避ける心性が今回の事態を招いたひとつの要因ではなかったかと思います。
 こういうやり方に対抗できるのは、「やめとき」ではなく、みどりさんたちのやり方、「やめとかない」(変な日本語ですが)精神と「すべてを明るみに」精神で行くしかないと、改めて思います。現在、私たちは「『ジェンダー図書排除』究明原告団」の方々のもと、「やめとかない」精神と「すべてを明るみに」精神とを学習中です。

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  特定図書排除問題に対し、
    私が行動する理由
        木津川市・呉羽まゆみ

 
 「『ジェンダー図書排除』究明原告団」の1人である私が、堺市の出来事を最初に聞いたのは、9月5日だった。その内容は、「BL(ボーイズラブ)関連書籍が開架を中止し書架に移され、処分される予定」というもので、「冊数5499冊、購入金額366万8883円」(市のホームページ「市民の声」)ということであった。一報を聞いて、最初に私が感じたことは、「福井県、北海道に続いて今度は堺か、今回は女性センターではなく図書館が狙われたか、しかも青少年にとって悪影響を与えるのでともっともらしい理由がつけやすい本を指定しているのはなんとも巧妙な」、そんなところだった。私は、今回話題になっているBL本の存在を知らなかったし、今も読んでいない。それゆえ、今回の事件(あえて事件と呼びたい)の本質がかえって鮮明にわかるように思う。
 そもそも図書館とは、国民の知る自由を守り、広げていくことを責務として、あらゆる資料の要求に答えるべく、みずからの責任において作成した収集方針に基づいて資料を収集し、提供する自由を有する。その際、個人・組織・団体からの圧力や干渉に屈してはならないと「図書館の自由に関する宣言」(日本図書館協会・1954採択)にうたわれている。堺市図書館に対して私が直感的に感じた疑問は、「BL本がなぜそんなに多くあったのか」ではなく「なぜそんなに急に処分が決まったのか」であり、個人もしくは団体の圧力に屈し、混乱したと思われる図書館の姿勢に対するものであった。
 後日、バックラッシュ側の掲示板で知ったのであるが、匿名市民本人が書き込んだと思われる書き込みに、「市議会議員さんに、このBLの一件を伝えた」「その議員さんが動いてくれ」「市会議員さんからも、結果について連絡があり〜BLを書庫へ収納するとのこと」などの記述を見るにつけ、私の中での疑問はゆるぎないものとなった。つまり、議員の圧力・介入の存在を確信したと同時に、Webを通して煽動するこのような手法を私の感覚は受け入れられないと、自分の疑問点の整理ができたのである。
 議員が、執行機関である行政に議会以外で意見を言ったり質問したりすることはある。その際、受け取る側が「堺市立図書館資料収集方針」に基づき対応したなら、問題は拡大しなかったはずである。しかしながら、今回は、最初は匿名市民(市民かどうかは不明)からの電話で始まったものの、議員への働きかけ、議員の行動に対して、堺市の対応が個人や議員の圧力に混乱したといえる。その後、Web上でこれらの経過や報告が一種煽動的に扱われ、組織的な図書排除運動が展開されていることが明らかとなるにつれ、図書館本来のあり方が問われる問題に発展しているにもかかわらず、堺市の意識は希薄とさえ感じた。もし、我がまちで起こったらと考えると、これはほってはおけないとの思い、他市のことであっても問題が明らかになった以上、議員という立場でできることをしたいとの思いでいた。
 この件に関して、不当な公金の処分の差し止めを求めた「住民監査請求」の提起とは別に、何かできることをということで、「原告団」事務局のみどりさんたちと相談をして、堺市長・教育長に「堺市立図書館における特定図書排除に関する申し入れ」をすることになった。第1次申し入れ人は、41人の議員(元・前職含む)と2団体。自分の自治体でもいつ起こるかわからない問題について、図書館の責務を整理し、考えた人たちによる一致した行動であった。議員による、個人や議員の外圧にうろたえ今まさに市民の知る権利が押しやられようとしていることに対する抗議、福井事件も今回の事件も、相手側の目的はジェンダーバッシングであると感じるから、反動勢力の好き放題にはさせない、そんな思いでの行動であった。
 その後第2次を追加し、第1次と合わせた申し入れ人の合計は、市民97名・議員46名・7団体に。代表の上野千鶴子さん(東京大学大学院教授)に届いた堺市教育長の回答は、「廃棄が前提の処置ではない」と明記されており、ひとまず安心?かな。

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福井「焚書坑儒」事件、その後の経過
                 原告・菅井純子


◆「控訴審」敗訴〜上告へ
 「音声記録情報非公開処分取消訴訟」の控訴審判決が、9月22日、名古屋高裁金沢支部で申し渡された。結果は一審に続く敗訴。  
 判決理由は「会議録作成のため職員が備忘として録音、所持していたもので公文書ではない」というものだった。原告団は記者会見を行い、代理人の清水勉弁護士が判決についての解説と問題点を指摘。事務局の寺町みどりさんが、原告代表の上野千鶴子さんのコメント「…市民の知る権利という核心を避けた判決は、まことに遺憾である。よって、最高裁に上告して、争うほかない」を読み上げた。

◆10月7日【東大ジェンダーコロキアム】
 次は最高裁ということで、上野さんの呼びかけにより、支援者の多い東京で「バックラッシュとジェンダー〜福井『焚書坑儒』事件と情報公開訴訟」をテーマに集会が開かれた。
 まず清水弁護士が今回の裁判の性格や判決の問題点を、非常にわかりやすく解説してくださった。この裁判は「公文書とは何か」が争点なのに、一、二審ともに裁判所は「管理のしかたによって公文書かどうかを判断する」という立場をとってしまった、と分析した。清水さんによると福井県の文書管理規程は全国的に見ても出来の悪いものらしい。その出来の悪い規程さえ守られていない、いい加減な管理の実態を追認する形で「公文書にあたらない」という判断を裁判所が下した。福井県民としては寂しい気分になってきたが、清水さんの「裁判官は時代の流れが読めない。また最高裁判例に盲従し行政の言うことを受け入れがちだが、最高裁は政治的判断をする。寺町知正さんが提起する問題は最高裁の琴線に触れるものがある」との言葉に元気が出る。話題は裁判官の人事異動にまで及び、ギョーカイの事情がちょっとだけ見えたような興味深いお話だった。最後は「裁判員制度が始まろうとしているが、こうした行政訴訟から市民参加が進められるべきだ」とかっこよく締めくくった。
 次に寺町みどりさんが福井「焚書坑儒」事件の概要と裁判に至る経過を説明した。北海道やつくばみらい市の事件、堺市のBL本排除問題にも触れ、「行政に対する圧力という点で手法は似通っている。市民的手法を使ってどう対抗していくかノウハウを共有していきたい」と述べた。
 上野さんが補足された後、寺町知正さんが「市民として直接民主主義の公的制度を使う」という観点から、情報公開請求や住民監査請求の持つ効力について具体的に解説した。岐阜県で監査請求によって公共事業の費用が大幅に下がった例が紹介され、制度を使うことで「ひとりから」でも出来ることがあると実感させられた。知正さんから「最高裁で勝てる」との言葉が出ると、すかさず上野さんが「シナリオ通りだったのね」。
 続いて上野さんは、国分寺事件に始まる一連のジェンダーバッシングとその背後にあるものについて明快に語り、現在の政治状況に触れて「私たちが“モグラたたき”をするということにおいてすら、政権がどう変わるかということに一喜一憂しなければいけない。直接に末端に影響するようなところで闘っている」と話した。
 その後、「原告からのメッセージ」。まず今大地晴美さんが「福井県職員が情報公開について無知なことに驚きあきれた。裁判の結果を聞いて『司法の情報公開制度に対するバックラッシュだ』と思った。なんとしても最高裁で勝ちたい」とピタリ1分で述べられると会場から思わず拍手。次に私が一県民として裁判に関わっての感想を述べた。編集者の立場から、星野智恵子さんが「福井の事件が起きた時、私が編集した上野さんの本が入っていなかったらどうしようかと思った(笑)」、藤本由香里さんは「一番最初に止めなければ次々と波及してしまうと危機感を持った。堺市の事件も波及が懸念される」と、それぞれ思いを語った。
 会場からの質問は、情報公開請求などの手法をいかに使うかという点に関するものが多かった。初めて聴いた人には、超特急かつ盛り沢山の内容だったと思うが、50名以上の参加者が熱心に耳を傾け、カンパもたくさん集まって、大変心強く感じた。最高裁からの御招待が来たら、ぜひ皆さんもご一緒に!