ゴルフ場のための土地利用の制限(規制)に関する請願

         請 願 趣 旨
一、新規及び建設中のゴルフ場の計画を凍結すること。

一、既設のゴルフ場は、自然環境保全、農薬汚染、安全な水源・水量の確保、有効な排水処理施設の設置などの問題点の解決が図れるように改造し、運営を改善すること。

         請 願 理 由

 岐阜県では、現在、五十三のゴルフ場が営業しています。そして、造成、計画中のものが四十四、さらに開発会社から市町村や県へ事前協議申請の出ていないゴルフ場計画も加えると、百をはるかに越え、ゴルフ場の総面積は県土の一l以上となります。
 十五年程前にも、ゴルフ場造成ブームがありましたが、ここ数年来のゴルフ場ラッシュの理由は次のように思われます。つまり、市町村は、地域活性化の手段と考え、社会的には投機的な金余り現象があって、民間活力導入のかけ声と絡んで進められていることです。
 ところで、市町村における「地域活性化」の意図、趣旨は何でしょうか。それは、自治体の本旨であるところの、住民に利益や便宜を提供し住民の福祉に貢献するために、地域のイメージを明らかにし、地域の個性化を図り、地域らしさを発揮するということでしょう。それによって、人と人とのふれ合い、ものとものとの交流を促進し、地域を活き活きとしたものにしようということです。
 そこで、多くの市町村は、地域資源としての「山林」「土地」をゴルフ場に利用しようと考えるのでしょう。
 しかし、ゴルフ場建設が本当の意味で、住民福祉の向上に役立つのでしょうか。次のように指摘できます。

@地元からの雇用労力は、幾分ありますが、ゴルフ場から地元に入る税金などの収入は、交付税などが減るためそれほど多くありません。
A自由に出入りの出来た公共性のある山林がゴルフ場に占拠されるため、林業、農業、漁業など一次産業の活力が失われます。
Bゴルフ場ができると、道路建設が進み、車が増え、騒音、大気汚染、交通事故などが増加します。また、公共施設、出水による河川の補修、周辺道路の整備など自治体の持ち出しも出てきます。
C広大な面積の急激な土木工事によって、河川水が汚濁し、重機や発破の騒音は周辺住民を長期間苦しめます。
D数十から数百haの広大な森林が開発されてしまうことは、自然環境の絶対的な損失です。そこに棲む野鳥や虫や動物は、死ぬかどこかへ追い出されます。
Eゴルフ場は、自然林地に比べて保水力が1/4から1/7程度に大幅低下し、大雨が降れば下流は一時に大増水し、逆に乾けば、飲料・農業用水の減少や渇水をもたらします。長期的には、地下水位の低下をもたらします。
F山を削り、谷を埋める、無茶な造成によって、土砂崩れが起きています。特に、可児、土岐、瑞浪周辺は、地盤がもろい地域にもかかわらず、全国一のゴルフ場密集地帯で、洪水や土砂崩れが現実の問題になっています。
Gゴルフ場の排水路には、赤いヘドロ状のものが溜り、水源や農地に流入していきます。赤い着色の原因は鉄やマンガンで、飲水の味を悪くし時には洗濯物を赤く染めます。ヘドロ状のものは異常に多量なフミン質であり、水源から汲み上げられて、消毒用の塩素処理をされると、発ガン物質として知られるトリハロメタンをつくるといわれています。
Hゴルフ場に大量に散布された農薬は、飛散、揮散して周辺の大地や大気を汚染します。横浜国大・環境科学研究センターの調査では、農薬の空中散布と同じパターンで汚染されていることが明らかになっています。大気を介して肺から侵入する農薬は、直接血液に移行するので、食物を介して胃から吸収する農薬以上に危険なことが指摘されています。
I農薬はまた、降水によってゴルフ場外へ流出し、水源に流入していることが奈良県・山添村の調査で裏付けられています。例えば、毒物指定の殺虫剤EPN(商品名に同じ)などです。また、地下に浸透して飲み水や河川を汚染します。散布農薬には、殺菌剤TPN(商品名、ダコニール)など魚毒性の極めて強い(C類)ものがあり、魚がいなくなったりします。TPNは、残留性が強く、アメリカ科学アカデミーは発ガン性の危険の高い農薬として挙げています。前記以外にも、農薬には、発ガン性、催奇形性、変異原性などの特殊毒性、神経障害や内臓障害などの慢性毒性を有するものが多くあり(三省堂「農薬毒性の事典」参照)、さらに、複合的な作用については殆どが未解明です。農薬は、土壌に長期間蓄積されつづけ、やがては地下水系を汚染します。
J八八年、農水省が「ゴルフ場に撒く農薬は、登録農薬に限り、使用基準を守る」よう指導しましたが、EPNは勿論、除草剤CNP(商品名、MO・サターンM)、殺菌剤IBP(商品名、キタジンP)などゴルフ場で使用されている農薬は「芝」を散布対象としては認可されていません。
Kゴルフ場には大量の化学肥料が散布され、過剰なチッソやリン酸分のため、下流の河川、池、ダム、貯水池などは、富栄養化が進み、藻が繁殖したり、赤潮が発生しやすくなります。
Lゴルフ場問題について、社会的関心が高まっています。例えば、中部弁護士会連合会の公害対策環境保全委員会は、今年のテーマとして岐阜・三重・石川県のゴルフ場問題を取り上げることを決めました。
Mリゾート開発は、地域や行政から熱い期待を浴びていますが、リゾートクラブの実態が明らかになるにつれ(例えば「リゾートクラブ その実状と問題点」東京弁護士会)、その開発の将来に不安を露呈してきました。

 以上のように、ゴルフ場が周辺の環境や住民、社会に与えるマイナスの影響は極めて大きなものがあります。
 そこで、私たちは、次のように考えます。

 ア、自然環境を保全し、保水力を回復するために、ゴルフ場内の樹木を大幅に増やし、芝面積を縮小することが必要です。また、土砂崩れの恐れのあるような傾斜地や地域には、ゴルフ場を造るべきではありません。

 イ、現在、ゴルフ場の建設の許可に当たっては、個別のゴルフ場計画について個別の法律のチェックがされるだけですが、複数のゴルフ場による環境破壊・汚染、防災などへの相乗的な影響の検討がされるべきです。

 ウ、水、土、空気の農薬汚染によって、ゴルフ場関係者やプレーヤーはもとより、住民の長期的な健康被害が心配されます。化学物質に対する感受性は、個人差、年令差が大きいことが最近明らかになってきました。たいていの人に農薬害の症状が出ないから問題ない、という大雑把な論理は誤っています。小さな子供、妊婦、老人などは影響を受けやすく、症状が出た人がいるということは、その人にとっては重大なことであり、同時に、人類や生物にとって重大な予告をしていると考えるべきです。

 エ、一般農地では、農薬を散布したらその後は、農地に入らないのが普通です。また、農薬散布後の農産物は、それぞれ出荷停止期間が定められています。しかし、ゴルフ場では利用者がプレーしているすぐ横で、日常的に農薬が散布されています。農薬散布後は、相当期間の入場・利用規制されるべきです。

 オ、かつて高度経済成長期の日本は、大気や水が汚染され、公害列島といわれていました。しかし、私たちの社会はこれを反省し、企業に対して法的な規制をしました。そして、企業努力の結果、汚染は改善の方向にあります。ところで今、ゴルフ場は農薬は使い放題、汚水は調整池から垂れ流しです。大気や水源を汚染する農薬は使用を中止すべきです。ゴルフ場は、水源の上流に作られます。ゴルフ場の調整池から出る水は、そのまま飲める水にまで浄化されるべきです。 カ、地域が「活性化」しないのは、農林漁業や地場産業に明るい未来がないからです。農林漁業を守り、自然を守ることは、地元の人にはもちろん、下流に住み街に暮らすものとっても、将来の健康で安心した暮らしを約束する事です。「活性化」は、県全体のビジョンのなかで、山林や農地や水の持つ「公共性」を高く位置付け、県民や、下流県が、社会的合意を持ち、相応の経済的負担をすることによって第一歩とすることが出来ます。

 また、中京、京阪神などの大消費地に近く、森林資源をはじめ広大な空間を持つ岐阜県は、この地理的特性を生かして、「山」の資源や環境を十二分に生かした産業や生活のありようを模索し、提供することが出来るのではないでしょうか。これからの未来の生活スタイルは、自然回帰や自然がもつ本物らしさを強調したものになるでしょう。自然環境に直接接近できる質の高いサービス、良質な生活環境を立地要因とする活動、自然を生かした高付加価値の産業などが求められています。
 自然環境を破壊し、農薬漬けで健康を害し、生活を脅かすようなゴルフ場を作っても、未来はひらけてきません。

 以上の理由により、私たちは、主義・主張・信仰や団体・政党にかかわらず、健康で安心できる暮らしのために、そして子供たちに豊かな自然や未来を約束するために表記のことを請願します。

  一九八九年三月  日
             請願者  ゴルフ場問題岐阜県ネットワーク
            山県郡高富町西深瀬 208 寺町知正  ほか  名

           紹介議員

阜県議会議長 船戸行雄 様