◆2月23日(水)午後1時 判決言渡
 住基ネット行政訴訟の経過と争点など

2005年2月17日
くらし・しぜん・いのち 岐阜県民ネットワーク
                              寺町知正
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ケイタイ 090−1827−0949

【状況】 2002年8月5日、住民基本台帳に記載された日本「国民」に11桁の住民票コードが付番された。行政機関等をオンラインで結ぶ住基ネットで住所・氏名・生年月日・性別・住民票コード・変更履歴の本人確認情報が流されている。 今後、住民票コードをマスターキーとして国民の個人情報のデーターベースが作成・利用され、国民生活のあらゆる個人情報が国等の行政機関によって管理されることになると懸念されている。
 このところの各種事件で明らかなように、公務員の個人情報保護・プライバシー保護に関する認識と責任感の欠如ははなはだしい。
 02年度には、全国最大の市である横浜市が住基ネット参加について市民の個人選択性を導入、岩代町での全町民に関する15情報のデータの盗難事件、日弁連の離脱を認める意見書を提出、同12月26日には国立市の住基ネットから正式離脱(切断)した。その後、個人情報保護法が成立したものの同法の問題も強く指摘されている。 03年度には、長野県の審査会においてネットワークからの離脱の中間報告がだされ、同年8月25日からのICカードの配布開始をもって住基ネットが本格稼働する年と位置付けられていたが導入自治体は少数である。

【県民ネットの行動】 県民ネットは、02年10月16日に知事に「岐阜県個人情報保護条例(以下、本件条例)に基づいて本人の住基ネット情報の削除請求」を行った。これについて県は、同11月8日付けで「当該訂正の請求は条例に基づく請求とは認められません」とした。しかしこれは、条例解釈を誤ったものである。県民の個人情報保護の根幹である本件条例の解釈運用は極めて重要なことであり、看過できない。私たちは、当初の削除請求を審査し、しかるべくしなかったことは納得できないので本件条例第24条及び行政不服審査法第6条、7条に基づき不服申立書を03年1月8日に県に提出した(提出者は3市2町1村15人)。
 これに対して、県は同3月5日付けで、「却下する」との決定(通知)をした。

【提訴】到底納得できないので、03年6月5日に岐阜地裁に提訴した。 岐阜地裁平成15年(行ウ)10号 住基ネット削除申請却下処分取消請求事件
 地裁民事2部 (林裁判長) 原告:寺町知正   被告:岐阜県知事
 弁論5回、03年12月10日結審。
 原告は訴状と準備書面(1)〜(4)、被告は答弁書と準備書面(1)。

【再開】 04年2月25日判決言渡として結審したが、同4月28日に延期された。その後、裁判所の指示で再開され、5月26日、7月14日、9月8日、10月20日と裁判所の質問に主として県が答えるという形で協議がされた。05年1月26日判決言渡として結審したが、延期され、来る2月23日(水)午後1時から言渡で、原告準備書面(5)、被告準備書面(2)〜(5)。
 再開審では、裁判官が、原告主張に重なる古い判決や学説を示して、「被告は、これらに的確に反論するよう」と指示、以後もその視点での整理でした。原告は、「そんなことして、県を勝たせようというのか?」との懸念と、全く反論できない被告に「いや、裁判所進行であるなら、明らかに原告に分がある」との思いが交錯した。

◎ 本件は、「個人の申請」に関する訴訟であるから、内容は同じでも訴訟は個々人で行なわなければならないので、訴訟としては寺町知正が代表して一人で行った。

【本件訴訟の意義】
 これからの時代に、ITも個人情報保護も重要課題、かつ、密接である。梶原前知事が、この数年、全国知事会の中でIT政策の一環として住基ネットをリードしてきた。住基ネットについての個人情報保護条例に基づく請求に対して、「個人情報保護条例を適用する場合に該当しない」という行政の回答は、全国でもそういう例は聞きかない。
 このような住基ネットの手続きに関連しての岐阜県知事の判断を問うものである。 また、従来は司法試験において行政訴訟法は対象範囲ではなかったが、ロースクール制度が始まり、新司法試験からは行政訴訟法も加えられるという。それだけ、行政訴訟の位置付けが高まっているといえる。そんな中での、「行政処分の定義」を問うもので、行政訴訟の原点ではないかと考える。
 全国に例のない今回の岐阜県の行政対応を原因とする訴訟について、裁判所がどう判断するか、いっそう意義が深い。

【本件の経過】
1, 原告の岐阜県個人情報保護条例に基づいて、個人情報の訂正の請求をした。
 これに対し、被告は、02年11月8日付で「当該訂正の請求は条例に基づく請求とは認められません」とした。これは、【A,訂正請求に対する却下処分】もしくは【B,不作為の表明】である。

2, 原告は訂正請求を審査し、しかるべくなさなかったことは納得できないので、03年1月8日に、【上記Aの処分(決定)を取り消すこと】及び【上記Bの不作為に係る請求に対する決定もしくは措置等を行う】よう不服(異議)申立をした。

3, これに対し、被告は、3月5日付けで、個人情報の訂正請求に対する岐阜県知事の不作為の違法確認又は異議申立を却下すると通知した。よって、提訴した。


◆  請求の趣旨の1及び2について

《行政処分取消請求》=(請求の趣旨の1及び2)=被告の2002年11月8日付処分(決定)及び2003年3月5日付処分(決定)を取り消す。

◎【原告の主張】
 本件条例の主旨、目的は、「第1条(目的) この条例は、個人情報の適正な取扱いの確保に関する基本的な事項を定めるとともに、県の実施機関が保有する個人情報の開示及び訂正を求める個人の権利を明らかにすることにより、個人の権利利益を保護することを目的とする」である。
 本件条例は、県民の個人に関する情報を保護するために制定されたもので、条例の解釈を、専ら行政機関の側の利便等を基準・根拠に、その主観的判断に基づいて決するとすれば、個人情報保護制度の実質的意味が失われることにもなりかねず、条例の解釈は厳格でなければならない。
 本件条例の根幹は、開示、訂正、不服申立てをもって「個人の権利利益を保護する」ことである。権利保護の制度であるから狭く解釈することは許されない。
 住民基本台帳法の第30条の40(自己の本人確認情報の訂正)は、本件条例第27条5項で規定する手続きではないから、法第30条の40を根拠に訂正(削除)請求に応じなかったことは許されず、条例解釈を誤った違法な処分(決定)である。
 被告は、原告の請求を審査すべきである。

●【被告の主張】
1, 本件条例第27条(他の法令との調整等)は、「この章の規定は、次に掲げる個人情報については、適用しない。」と規定し、同条5項は法令又は他の条例の規定により「訂正の手続が定められている場合は本件条例第20条から第24条の規定は適用しないこと」を定めている。住民基本台帳法30条の40には、「訂正の手続の定め」が規定されているから、住基ネットについては、本件条例は適用されず、住民基本台帳法の手続きですべきである。

2, よって、個人情報保護条例は適用されないから、被告が原告に通知した行為は、「却下」という決定や処分ではなく、削除請求を拒否する意味の行為である。単に任意の行政サービスとして通知しただけであるから、権利義務を新たに形成しない。

◎【原告の反論】
1, 行政不服審査法は内容の適否の判断の前に、受理し、形式審査をして、その後に内容審査をする手続きを規定している。本件異議申立は、行服法第9条(不服申立ての方式)、同第45条(異議申立期間)、同第48条で準用する同第15条1項及び4項(審査請求書の記載事項)の要件を満たしている。
 形式審査の段階で、補正可能な不備については、「審査庁は、相当の期間を定めて、その補正を命じなければならない」(同第48条で準用する同第21条(補正))、「その他不適法であるときは、審査庁は、決定で、当該異議申立を却下する」(同第47条第1項)としている。

2, しかし、被告は、補正を命じていないし、本件不服申立の請求に関して、修正できないほどの著しい不備があるから受理しない、ともしていない。
 よって、本件不服申立の請求は成立し、これに対する被告の本件行為が行政処分としての「決定」(同第47条第1項)に当たるのは明白である。

3, 行服法第48条で準用する同第41条第1項(裁決の方式)「裁決は、書面で行い、かつ、理由を附し、審査庁がこれに記名押印しなければならない」としているところ、被告は本件は単なる拒否回答であるというが、本件通知書が所定の裁決の方式に適合しているのは明らかである。
 よって、本件通知は、公権力の行使としての処分である。


◆   請求の趣旨の3について

《不作為の違法確認》=請求の趣旨の3=原告が02年10月16日付でした住基ネットに関する個人情報の削除請求に対する被告の不作為は違法であることを確認する。

◎【原告の主張】
1, 被告の原告の各請求への対応は「不作為」という面も有している。
 被告の主張のように「不応答」であると評価して請求の趣旨の1及び2に係る行為が処分ではない、とするなら、その時、不応答は行政不服審査法7条にいう不作為としての違法であって、是正される必要がある。
 なお、本件条例には、一定期間を経過したときには、申請が認容または却下もしくは棄却されたものとみなす旨の規定はないから、(現時点でも)未だに違法状態が継続しているとの評価になる。

2, もし、本件に関して被告の通知が「応答」であるなら、本件応答は「却下」の決定であって、請求の趣旨の1及び2に係る行為は処分であることになり、請求の趣旨の1及び2についての判断がなされるから、違法確認は不要である。

●【被告の主張】
 原告には趣旨の1及び2にかかる行為についての行政不服審査法に基づく不服申立権がない。よって、3月5日付けの通知は、原告の不服申立書に対する公権力の行使ではなく、単に「事実行為」としての拒否回答である。

◎【原告の反論】
 請求の趣旨の1及び2で述べたとおり、本件不作為に係る不服申立の請求は成立し、これに対する被告の本件行為が行政処分としての「決定」(同第50条第1項)に当たるのは明白である。しかるに、被告は単なる拒否回答であって、処分ではない、という。そうである以上、原告は、被告の単なる拒否の通知だとの主張に対応して、不作為の違法確認を請求せざるを得ない。                 以上