岐阜地方裁判所民事部 御中
                          2003年6月5日

  訴           状

  訴訟物の価格 金950、000円
  貼用印紙額    金8、200円
  予納郵券代金   金9、000円
              原告 寺町知正
                岐阜県山県市西深瀬208-1
                 TEL・FAX 0581−22−4989
              被告 岐阜県知事梶原拓
                     岐阜市薮田南2−1−1 


住基ネット情報削除申請却下処分取消請求事件

         請 求 の 趣 旨
1,被告が、原告に対してした2002年11月8日付処分(市町村第981号の2の決定)(請求の趣旨に係る別紙−1)を取り消す。
2,被告が、原告に対してした2003年3月5日付処分(市町村第1427の2号の決定)(請求の趣旨に係る別紙−2)を取り消す。
3,原告が、岐阜県個人情報保護条例に基づいて、平成2002年10月16日付でした住民基本台帳ネットワークに関する個人情報の削除請求に対する被告の不作為は違法であることを確認する。
4,訴訟費用は、被告の負担とする。
 との判決を求める。

     請 求 の 原 因
第1 当事者
1, 原告は肩書地に居住する岐阜県民である。

2, 被告岐阜県知事梶原拓(以下、被告という)は、岐阜県個人情報保護条例(平成10年7月1日 条例第21号)(以下、本件条例という)(甲第1号証)第2条第2項の実施機関である。

第2 本件処分の存在
1, 原告は、2002年10月16日付けで、本件条例第20条及び21条に基づいて、個人情報の訂正の請求をした(甲第2号証)。

2, 上記請求に対し、被告は、2002年11月8日付けで、「当該訂正の請求は条例に基づく請求とは認められません」(請求の趣旨別紙−1)とした。

3, これは、訂正請求に対する却下処分及び不作為の表明である。
 原告は被告が本件条例に基づいて当初の訂正請求を審査し、しかるべくなさなかったことは納得できないので、2003年1月8日付けで、被告に対して、本件条例第24条及び行政不服審査法第6条及び第7条に基づき次の点について不服申立をした(甲第3号証)。

 ◎ 不服申立に係る処分(決定)
     平成14年11月8日付市町村第981号の2の決定
 ◎ 不服申立に係る不作為
     平成14年11月8日付市町村第981号の2で示された不作為
 ◎ 不服申立の趣旨
     @上記処分(決定)を取り消す
     A上記の不作為に係る請求に対する決定もしくは措置等

4, 被告は、2003年3月5日付けで、原告に対して、個人情報の訂正請求に対する岐阜県知事の不作為又は異議申立を却下すると決定し(市町村第1427の2号)(請求の趣旨別紙−2)、郵送で原告らに通知した(原告は3月7日に受領した)。

第3 本件条例の主旨、目的
1, (目的)第1条 この条例は、個人情報の適正な取扱いの確保に関する基本的な事項を定めるとともに、県の実施機関が保有する個人情報の開示及び訂正を求める個人の権利を明らかにすることにより、個人の権利利益を保護することを目的とする。
   (定義)第2条
 一 個人情報 個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得るもの
 二 実施機関 知事、議会、教育委員会・・・・・をいう
 四 本人   個人情報から識別され得る個人をいう
 五 公文書  実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画、写真、フィルム及び電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られた記録をいう)であって、当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が保有しているもの

  (実施機関の責務)第3条 実施機関は、この条例の目的を達成するため、個人情報の保護に関して必要な措置を講じなければならない。

2, このように、本件条例は、県民の個人に関する情報を保護するために制定されたもので、条例の解釈を、専ら行政機関の側の利便等を基準・根拠に、その主観的判断に基づいて決するとすれば、個人情報保護制度の実質的意味が失われることにもなりかねず、条例の解釈は厳格でなければならない。

第4 本件条例と住民基本台帳法の構成の比較
1, 他の法令との調整等
 本件条例第27条(他の法令との調整等)は、「この章の規定は、次に掲げる個人情報については、適用しない。」と規定し、同条4項は前3項の本件規定を適用しない場合であっても当該法令又は他の条例に「訂正の手続の定めがないときはこの章の規定を適用する」こと、同条5項は法令又は他の条例の規定により「訂正の手続が定められている場合は本件条例第20条から第24条の規定は適用しないこと」を定めている。
 したがって、被告のした「本件条例第27条5項により、条例に基づく請求とは認められない」旨の決定又は不作為の違法性は住民基本台帳法(以下、法という)の趣旨目的や具体的な規定を比較すること、とりわけ「訂正の手続の定め」とは何かを整理することにより条例解釈の誤りが明らかとなる。

2, 法令の構成
 (1)本件条例は、次のような構成である。
   第1章 総則(第1条〜第5条)
   第2章 実施機関が取り扱う個人情報の保護(第6条〜第27条)
     第1節 個人情報の取扱い(第6条〜第11条)
     第2節 個人情報取扱事務の登録及び閲覧(第12条)
     第3節 個人情報の開示及び訂正(第13条〜第24条)
     第4節 是正の申出等(第25条・第26条)
     第5節 他の法令との調整等(第27条)
   第3章 岐阜県個人情報保護審査会(第28条〜第28条の3)
   第4章 雑則(第29条〜第30条)
   附則

 (2)法の本件関連部分は、次のような構成である。
   第4章 届出(第21条〜第30条)
   第4章の2 本人確認情報の処理及び利用等(30条の2〜30条の44)
     第1節 住民票コード(第30条の2〜)
     第2節 都道府県の事務等(第30条の7〜)
     第3節 指定情報処理機関(第30条の10〜)
     第4節 本人確認情報の保護(第30条の29〜)
     第5節 住民基本台帳カード(第30条の44)
   第5章 雑則(第31条〜41条)
         行政手続法の適用除外(第31条の2)
         不服申立て(第31条の3)
         不服申立てと訴訟との関係(第32条)

3, 訂正手続きと不服申立
 (1)本件条例
   ア, 本件条例のうち関連が深い部分は、第2章のうちの「第3節 個人情報の開示及び訂正」と「第4節 是正の申出等」であり、第4節の内訳は是正の申出等(第25条)と苦情の処理(第26条)である。

   イ, 同第24条(不服申立てがあった場合の手続)は、「開示決定等又は訂正決定等について行政不服審査法による不服申立てがあったときは、当該不服申立てに対する裁決又は決定をすべき実施機関は、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、遅滞なく、岐阜県個人情報保護審査会に諮問しなければならない。」と不服申立てを規定している。

   ウ, このように、本件条例の「第3節 個人情報の開示及び訂正(第13条〜第24条)」には不服申立て手続きがあり、他方「第4節 是正の申出等(第25条・第26条)」には不服申立て手続きはない。

   エ, また、同第24条は、開示及び訂正についての第3節に含まれている。よって本件条例で用いられる「訂正の手続き」という用語は、第3節で規定するところの「訂正請求に始まって不服申立ができること」を一連の手続きとして構成している概念である。

 (2)法
   ア, 法の個人情報保護関連部分は、「第4節 本人確認情報の保護」のうち、自己の本人確認情報の訂正(第30条の40)と苦情処理(第30条の41)である。

   イ, 法第31条の2(行政手続法の適用除外)「この法律の規定により市町村長がする処分については行政手続法は適用しない」とし、第31条の3(不服申立て)で「この法律の規定により市町村長がした処分に不服があるものは都道府県知事に審査請求することができる。異議申立をすることもできる」としているのみである。
 そして、第31条の3について、第32条(不服申立てと訴訟との関係)で「前条に規定する処分の取消しの訴えは、審査請求の裁決を経た後でなければ、提起することができない。」としている。
 即ち、法第30条の40には不服申立が規定されてない。

 (3)訂正手続きの比較
 以上、本件条例と法の異なる点は、本件条例は訂正決定に対する不服申立を認め(第24条)、法は市町村長の処分についてのみ不服申立を認めていることである。

 (4)不服申立の比較
 逆に本件条例と法に共通の点は、本件条例第25条(是正の申出)の規定と法第30条の40(自己の本人確認情報の訂正)の規定には不服申立が規定されていないことである。

4, 法の(自己の本人確認情報の訂正)は本件条例の(是正申出)と同じ
 (1)単に是正の申出に関する規定である
   ア, 本件条例第25条(是正の申出)は、「何人も、実施機関が行う自己の個人情報の取扱いがこの条例の規定に違反していると認めるときは、当該実施機関に対し、当該個人情報の取扱いの是正の申出をすることができる。」「3 実施機関は、是正申出書の提出があったときは、遅滞なく、必要な調査を行った上で当該是正の申出に対する処理を行い、速やかに、その結果を是正申出書を提出した者に書面により通知しなければならない。」としている。

   イ, 法第30条の40(自己の本人確認情報の訂正)は、「都道府県知事又は指定情報処理機関は、第30条の37第2項の規定により開示を受けた者から、書面により、開示に係る本人確認情報についてその内容の全部又は一部の訂正、追加又は削除の申出があったときは、遅滞なく調査を行い、その結果を当該申出をした者に対し、書面で通知するものとする。」としている。

   ウ, 行政機関側の義務
 このように、行政機関側の義務に関して本件条例と法に共通の点は、請求もしくは申出があった場合には、「遅滞なく調査を行った上で、その結果を申出者に書面により通知する」という定めであることは明瞭である。

   エ, どちらの通知も「処分」ではない
 ところで、本件条例第25条(是正の申出)における通知も、法第30条の40(自己の本人確認情報の訂正)における通知も、どちらも処分ではないとされている。
 処分ではないから、不服申立制度が適用されないのは当然である。

 (2)苦情の処理に関する規定である
   ア, 本件条例第26条(苦情の処理)は、「実施機関は、当該実施機関が行う個人情報の取扱いに関する苦情の申出があったときは、迅速かつ適切な処理に努めなければならない。」としている。

   イ, 法第30条の41(苦情処理)は、「都道府県知事又は指定情報処理機関は、この法律の規定により都道府県が処理する事務又は指定情報処理機関が行う本人確認情報処理事務等の実施に関する苦情の適切かつ迅速な処理に努めなければならない。」としている。

   ウ, 両規定を比較すれば、法第30条の41(苦情処理)の規定は本件条例第26条(苦情の処理)規定と同旨の規定であるのは明瞭である。

 (3)対応関係にある
 以上で明らかなように、「法の第30条の40(自己の本人確認情報の訂正)と本件条例第25条(是正の申出)」、「法第30条の41(苦情処理)と本件条例第26条(苦情の処理)」とは、対応関係にある同旨の規定として立法されているのである。

5, 本件条例第2章の第3節と第4節は趣旨が異なる
 本件条例において、是正の申出の規定の第25条は第4節に位置付けられている。よって、本件条例第25条は広義の個人情報の保護(第2章)であるけれども、第3節に位置付けられる開示及び訂正とは制度の趣旨目的に相違を画したという立法意思は明らかである。
 この観点からすれば、法第30条の40、第30条の41の規定は本件条例第3節でなく、本件条例第4節と同様の趣旨目的で規定されている、というしかない。

第5 被告の条例解釈の誤り
1, 拡大解釈は許されない
 本件条例の根幹は、開示、訂正、不服申立てをもって「個人の権利利益を保護する」(第1条)ことである。
 個人情報保護の観点において、法は、本件条例の単に付け足し部分である「是正の申出」や「苦情の処理」を規定したに過ぎないから、拡大解釈は許されない。 前項で明らかなように、法の第30条の40(自己の本人確認情報の訂正)は、本件条例第27条5項で規定する手続きではないから、法第30条の40を根拠に訂正(削除)請求に応じなかったことは許されない。

2, 他の規定
 住基ネット情報に関して、本件条例6条(収集の制限)において、収集の制限の例外としての「五 個人情報保護審査会の意見」も含めて、禁止解除の要件のいずれも満たしていない。本件条例7条(利用及び提供の制限)においても、利用及び提供の制限の例外としての「五 個人情報保護審査会の意見」も含めて、禁止解除の要件のいずれも満たしていない。
 本件条例が他の法令に「訂正の手続きの定め」がある場合に本件条例を適用しないとした趣旨は、当該他の法令の手続きで県民の権利が保証される、ということにあるのは明白であるから、このような点も審査するこができる手続きでなければならない。
 しかし、このような点は、法第30条の40の規定では審理され得ないのであるから、本件条例の「訂正の手続きの定め」とはいえない。

3, 法第30条の40は本件条例の「訂正の手続きの定め」に当らない
 (1) 本件条例第20条(訂正請求)「第18条第1項の規定により開示を受けた自己の個人情報について事実に誤りがあると認める者は、実施機関に対し、その訂正(追加及び削除を含む。以下同じ。)の請求(以下「訂正請求」という。)をすることができる。」としているところ、本件条例第1条(目的)は「この条例は、個人情報の開示及び訂正を求める個人の権利を明らかにすることにより、個人の権利利益を保護することを目的とする。」ものである。
 よって本件条例の個人情報保護制度の根幹は完結・整備された「訂正の手続き」にあるのは疑いない。
 他方、本件条例第25条(是正の申出)、第26条(苦情の処理)は、単に本件条例の本来の目的を補完するための規定に過ぎない。
 そして、本件条例第25条と法第30条の40が同旨の目的といえるから、法第30条の40の規定は本件条例が規定する「訂正の手続き」に該当しないのは明らかである。
 法第30条の40の通知は「処分」ではないから、本人が争う権利を保証しておらず、訂正の手続きとはいえないのは明らかである。

 (2) 第27条5項「第20条から第24条までの規定は、法令又は他の条例の規定により、個人情報の訂正の手続が定められている場合における当該個人情報の訂正については、適用しない。」とは、「法令又は他の条例の規定により個人情報の訂正の手続が定められていることについて、本件条例の第20条から第24条までと同様の規定、つまり《訂正を請求し、認められない場合は不服申し立てできる》という一連の規定がある場合に、重複した制度を規定することは重複審理等の不合理をもたらすことになるから、本件条例の第2章の適用はしない」というのが立法趣旨である。
 このように「訂正の手続きの定め」とは、一連の規定を指す。

 (3) 本件条例第27条4項5項が「訂正請求ができる場合」と規定せず、あえて「訂正の手続きが定められている場合」としている立法趣旨に忠実でなければ、本件条例が各規定することで県民の個人情報を保護しようとする本旨を達成することはできない。
 法第30条の40の規定は、一般的には「訂正請求」の一類型であるとしても、不服申立が規定されていない定めであるから、本件条例のように一連の手続きを規定するものではない。
 よって、法第30条の40の規定は、本件条例がいう「訂正の手続きの定め」には該当しないのである。

第6 2002年11月8日付け処分の取消請求(請求の趣旨−1)
 上記のとおり、法第30条の40の規定があることをもって、当初の訂正請求を本件条例に基づく請求ではないと決定したことは条例解釈を誤った違法な処分である。
 よって、原告は、2003年1月8日付けの行政不服審査法第6条に基づく異議申立が認められなかったことから、行政事件訴訟法第3条2項に基づき、請求の趣旨−1のとおり、2002年11月8日付けの本件処分(市町村第981号の2)の取消を求めるものである。

第7 2003年3月5日付け処分決定の取消請求(請求の趣旨−2)
1, 却下決定書の第3項について
 (1) 第3項の前段(6行目まで)
   ア, 被告は、原告の請求に対して、「法第30条の40の規定は、本人確認情報の訂正等の申出があった場合は、調査を行って、書面で通知するという『自己の本人確認情報の訂正』に関する手続きを規定しており、条例第27条5項に規定する『個人情報の訂正の手続』に該当する」という。
 しかしこれは条例の解釈を誤ったものといわざるを得ない。

   イ, 本件の端緒である原告の02年10月16日付け個人情報訂正請求の論旨は、「住基ネットの運用の是非」「実施機関の責務」「収集の制限(本件条例第6条)」「利用及び提供の制限(同第7条)」「提供先に対する措置請求(同第8条)」「適正管理(同第9条)」などを理由として削除を求めるものである。
 法は、第30条の40において自己の本人確認情報の訂正等の規定をおいているが、単に「開示を受けた本人確認情報」に関してその「内容の訂正、削除」の申出を認めたものである。法は、収集制限、利用及び提供の制限規定に関するものではないし、運用、責務、提供先に対する措置請求、適正管理についての調査や審査、判断をするものではないし、そもそも是非について争う手続規定も有していない。

   ウ, 上記第4、5で述べたのと同じ理由により、法第30条の40の規定は、本件条例がいう「訂正の手続きの定め」には該当しないのである。

   エ, したがって、被告が法第30条の40の規定を本件条例がいう「訂正の手続きの定め」と判断したことは、本件条例の解釈を誤ったものである。

 (2) 第3項の中段(11行目まで)
 被告は、原告の当初の請求に対して、「条例第27条5項が適用され、法第30条の40に規定する手続きによって処理されねばならない。よって、異議申立人には条例第20条に基づく訂正を請求する権利は認められていない。『法令に基づく申請(行政不服審査法第2条2項)』と認めることができないから、行政不服審査法第2条2項の『不作為』にはあたらない。」という。
 しかし、上記(1)のエのとおりであるから、原告には訂正を請求する権利がある。即ち、本件請求は本件条例に基づき判断されねばならない場合であって、被告の不作為は明らかである。
 被告の不作為は違法である。

2, よって、原告は、2003年1月8日付けの行政不服審査法第6条に基く異議申立が認められなかったことから、行政事件訴訟法第3条3項に基づき、請求の趣旨−2のとおり、本件異議申立を却下した2003年3月5日付け処分(市町村第1427号の2)の取消を求めるものである。

第8 不作為の違法確認の請求(請求の趣旨−3)
1, 被告の原告の各請求への対応は不作為との面も有している。
 被告は、原告が個人情報保護条例に基づいて2002年10月16日付けで個人情報の訂正の請求をしたことに対して、@2002年11月8日付けで、法第30条の40の規定があることをもって、「当該訂正の請求は条例に基づく請求とは認められません」としている。
 さらに、原告が2003年1月8日付けでした前記@の不作為を改めることの決定もしくは措置等の請求(異議申立)に対して、A2003年3月5日付けで、法令に基づく申請ではないから不作為には当たらないとして、被告は異議申立を却下した。
 しかし、上記第7の1の(2)のとおり、被告の不作為は許されないから何らかの決定もしくは是正等がなされねばならない。

2, よって、原告は、2003年1月8日付けの行政不服審査法第7条に基く異議申立が認められなかったことから、行政事件訴訟法第3条5項に基づき、(請求の趣旨−3)のとおり、2002年10月16日付けでした住民基本台帳ネットワークに関する情報の削除請求に対する被告の不作為が違法であることの確認を求めるものである。

第9 結び
1, 2002年8月5日、住民基本台帳に記載された日本「国民」に11桁の住民票コードが付番された。行政機関等をオンラインで結ぶ住基ネットで住所・氏名・生年月日・性別・住民票コード・変更履歴の本人確認情報が流されている。 今後、住民票コードをマスターキーとして国民の個人情報のデーターベースが作成・利用され、国民生活のあらゆる個人情報が国等の行政機関によって管理されることになるとの強い懸念も示されている。
 このところの各種事件で明らかなように、公務員の個人情報保護・プライバシー保護に関する認識と責任感の欠如ははなはだしい。

2, 2002年には、岩代町の全町民に関する15情報のデータの盗難事件の発生、日弁連による住基ネット離脱を認めるべきとの国への意見書提出、12月26日の国立市の住基ネットから正式離脱(切断)など、状況は混沌としている。 本年になり、長野県個人情報保護審議会は、県としての住基ネットからの離脱を提言した。

3, ところでICカード等の「電子署名」システムに関して、全国3300市町村のすべてに行き渡らせるソフトや読み取り機の開発について、岐阜県知事は2002年12月20日の全国知事会・情報推進化対策特別委員会(委員長は梶原拓知事)の場で岐阜県が主導することを引き受けている。
 このように、岐阜県はITを推進する自治体の先進県であることやそのリーダーを目指しているのである。

4, 他方で、本件に象徴的なように、個人情報保護制度を狭く解釈しようとする岐阜県の姿勢は、県民に大きな不安をいだかせる。
 県の個人情報保護制度の根幹である本件条例の解釈運用の在り方は極めて重要なことである。IT推進の自治体を自称しているからこそ個人情報保護条例の適正な運用とともに、より適切な条例への改正が必要である。

5, 本件削除請求について、個人情報保護条例のもとで判断をすることは十分に可能である。それにもかかわらず、判断を回避したことは、意図的であるというしかない。
 原告の個人情報の削除請求に関する被告の本件判断は、本件条例第1条の「個人の権利利益を保護することを目的とする」との条例の目的に反し、他の諸規定にも反しているのは明らかである。
 原告は、先のような全国の状況や岐阜県の特殊な状況を考え、他の県民とともに削除請求や異議申立を行ってきたが、本件原告が代表として本件訴訟を提起するものである。


            証 拠 方 法

甲第1号証 岐阜県個人情報保護条例(平成10年7月1日 条例第21号)
甲第2号証 原告の2002年10月16日付けの個人情報の訂正の請求書
甲第3号証 原告の2003年1月8日付けの不服申立書

 その他、口頭弁論において、随時、追加提出する。

2003年6月5日

岐阜地方裁判所民事部 御中

                              以 上