「岐阜県の名前が、全国に知れればいい」
     岐阜県の首都機能誘致策について   
                くらし・しぜん・いのち 県民ネットワーク
                      事務局 寺町知正
                    (96年全国集会報告集発言要旨)

 本日の資料として、岐阜県が作成した「首都機能移転」「東濃研究学園都市」のパンフレットと「岐阜県知事措置請求書」を配った。岐阜県の住民の動きについては、主催者作成の資料にも説明されている。《首都機能移転誘致》に一般的に共通する問題点は、本日の提起の中で既に出されている。岐阜県も非常にフィーバーして宣伝しているが、何故なのか、或いは、住民からみて岐阜県の行政が何を狙っているかについて、「岐阜」として特に触れる必要のあることを述べたい。
 岐阜の県政全般の特徴として、例えば長良川河口ぜきが大きな問題として継続し、徳山ダムという問題もある。また、関東の方でどのように報道されているか分からないが、産業廃棄物処分場問題に関連して、御嵩という町の町長、元NHKの解説委員の柳川さんが、三週間前の10月30日に暴漢に襲われた。
 これらは、岐阜県政、特に県知事の行政の進め方に大きな原因があって、住民や市町村と県や(事業者)との軋轢(あつれき)が高まっているという、象徴的な出来事だ。
 現在の岐阜県の知事《梶原拓》という人物は、建設省の出身。来年の二月に知事選挙があり、三期目に立候補すると表明しているが、建設省出身ということでいろいろなハコ物を造り、大規模公共事業をどんどん進めるている。「何でも“壊して、造る”」という事が好き。これがしかも、特定のゼネコンと結び付いている。
 自分の思いで何でもやって行くことから、県の職員でも強く反発する人たちもいる。逆に、うまく乗って言うことを聞く人たちもいる。こういったギャップが大きくなっているのが、岐阜の県庁内の特徴である。
 例えば、長良川河口ぜきについて、ここ数年の政権交替で就任した野坂建設大臣が「慎重な運用」をいうと、梶原知事はすぐに「地方自治を守れ!」「自分が河口ぜきに座り込んで、運用中止はさせない!」とアピールする。今年になっても、岩垂環境庁長官が「慎重な運用を」と言った途端、猛反発して騒いだ。
 一方、廃棄物問題については、県内でももめている所が多く、市町村も県に比して慎重な姿勢を持っているところが多い。先の御嵩町は、昨年、計画の凍結を知事に要望した。これを受けた県は、県知事の許認可に関わる農地法関連の手続きについて、産廃計画に関係のないものも含めて御嵩町申請の分は全て、審査をストップしてしまった。あるいは、補助金を減らすということもある。それから、環境庁が2年前に、国定公園内には産廃施設は造らせない、という方針を決め、通知を全国に発したが、岐阜県はこの件について、約2年間にわたって市町村への指導を放置した。この間に、事業者とそれぞれの自治体などで計画の調整を鋭意済ませ、申請を受理しておいてから、やっと先の環境庁の方針を通知するということを、実際にやってしまった。
 産廃問題で御嵩町長が襲われた時、翌日のマスコミの質問に対して、産廃計画の申請には住民の同意が必要と県の要綱に決めてあるにも拘わらず「国の法律に同意が決めないから、市町村から凍結してくれといわれても、なかなか聞けない」と平気で答えるような神経だ。
 国に対しては、自分の思いが抑圧されそうになると地方自治を持ち出して反発し、市町村や住民に対しては、自分の思いを押し通す、ということを平気でやる。何事も、知事自らの判断が第一優先という論理が明瞭だ。
 このように勝手な思いで事を進めていく。情報操作ということもよくする。今、岐阜県は、ソフトピアジャパンという情報産業関連の大きな施設を造って、情報発信基地をつくり、そこから全国だけでなく、世界に向けて発信するという宣伝を知事がやっている。莫大な予算をつけて、今春完成した。ここに、全国の大学に入るように要請しているが、一定のスペースを確保するには随分お金が要るので、一つの部屋の半分位しか使えないところもある。こんな訳で、辛うじて体裁を整えて運営している。知事は、自分の一方的な情報だけを発信するかのようだ。
 岐阜の知事はトップダウンが好きだ。自分は、意義を唱える住民には絶対直接会わない。部長・次長クラスも、まずは会わない。県議会議員を通じて初めて、やっと部長か次長に会える。この程度の住民認識しか持っていない。裏返しとして、知事が独断でパッと決めて、部長に命令する。 
 先日の御嵩柳川町長の襲撃事件の翌日、産廃担当の衛生環境部長が県の見解について記者会見する予定だったのが、直前になって、突然、知事が「総務部長でやれ」ということで変更してしまった。知事の見解は「町長は暴漢に襲われたけれど、動機が産廃問題とは限らない。だから、総務部長関連だ」という。総務部長は産廃問題は何も知らないので、記者の質問に全く答えられない。
 こういったような背景の中で、今回の首都機能移転に関して「東濃」という候補地が挙がって来た。「東濃」というのは、岐阜県の東の方という意味。配布資料の「東濃研究学園都市」というパンフレットでは、19ページに地図があるが、ここで岐阜の中心の岐阜市は青い丸がついている、その右に薄いグリーンの少し大きな丸がついているところが「東濃」である。
 今回、首都機能移転ということで、岐阜県が東濃という地域を挙げているのは、実は研究学園都市構想が10年以上前からあって、いろいろな調整、立地が進められていることを、前提にしている。これらの構想段階のところに首都機能をスライドした、という訳だ。 この東濃の一番の中心の都市が多治見市で、人口10万人程の市だ。陶磁器の町だが、昨年(95年)の統一地方選挙で現職の保守系の市長、確か五期目だが、これに対して、ずっと無所属でいわゆる市民の立場でやって来た市議会議員が立候補、大接戦の末、この西寺氏が勝った。そして新しい多治見市政が始まった。当然新しい市長は首都機能移転に関して「ノー」、少なくても「慎重」に取り組むと予想された。ところが、岐阜県は非常にうまくやって、締め付け、結局、県も含めた周辺市町村の推進協議会の会長に据えてしまった。国に要望する時はいつも一番前に出る、という構図が出来上がった。多治見市長は宴会などでぼやいているという。
 また、原発の高レベル放射性廃棄物を地下処分しようという国の政策があり、全国で東濃など3ケ所が候補地と目されている。核融合施設やこれらの問題を最も早く指摘し、運動を提唱して来た当人の西寺氏が、隣接する土岐市にこの高レベル放射性廃棄物地層処分研究施設建設が決定した95年8月以降、まったく「無言」でいるのも、同様とみられている。
 岐阜県は非常に巧妙に市町村を操作誘導しているのだ。
 だから、表向き、多治見あるいは東濃という地域は、受け入れを熱望していると取られがちである。実際には、推進する側と一般の意識や現実がかなり乖離(かいり)していることを、承知いただきたい。 
 それから、他の候補地でも指摘されるが、移転=急激な人口増という点で「水」が無いという問題だ。東濃は典型的に渇水に悩んで来た地域であり、将来予測をしても確保は非常に難しい。以前は全く問題無いと表現、宣伝されていたが、最近は「当初は国会移転だけなので、人口も11万人の増加だから、十分賄える」というようにトーンダウンした。60万人増加なら全くメドが無いという指摘に対して、岐阜県は、木曽川の下流から大きな導水管を敷設、東濃に持って行けば可能という案も考えている。これは、現在、長良川河口ぜきから愛知県へ水を持っていくのに導水管工事をしているが、これと同程度の管を敷設することで可能、ただし、導水管敷設だけで700億円かかる、という。
 東濃には現在50万人の人が暮らしており、ここに移転で60万人増えると、一人当たりの負担額は、導水管敷設工事だけで6万円になる。これらは、受益者の住民が払うにも拘わらず、これらのことは何も公にされていない。地元の人たちが、これら本当のことを知ったら、とても容易に受け入れられないだろうということも、徐々に明らかになっている。
 また、岐阜県には100位上のゴルフ場があるが、このうちの2/3がこの東濃地域に集中している。そこで、岐阜県知事はこれらゴルフ場から1ホールずつもらって、少し造り変えて住宅地にする、そうすれば首都機能移転は楽にできる、という案も提唱している。ゴルフ場業界も、この地域で幾つかの経営不振のゴルフ場もあってか、賛成と発表している。知事は、これら開発業者や経済界とも一体となってやって行くつもりのようだ。
 県庁では知事の下に企画部長がこの首都機能移転を担当している。先日ある国会議員に聞いたことだが「自分が企画部長に、『こうやって、宣伝して行ってどうなるのか、やめられなくなるぞ』と聞いてみたところ、『岐阜県の名前が全国にでるだけでいいじゃないですか』と言っていた」という。先日は私たちの郡(岐阜市の北部)の議員の総会で、企画部次長が首都機能移転についての講演をしたが、一時間、ただただ、下を向いて配布資料を棒読みするだけ。移転誘致へのやる気など、微塵(みじん)も感じられなかった。
 このように、県の上層部には、自分たちが住民、県民に訴えて何とか誘致を実現しようという意気込みは全く感じられない。ただ、事務的にやっているだけだ。県の執行部でこんなものだから、他の職員や、市町村の首長、関係者はどんな程度かは創造に難くない。まして県民に至っては。
 実際、最近は知事本人も、報道機関の問いに「岐阜の名前が売れればいい」と、平気でいうようになった。
 首都機能を持ってくるということに対する必要性とか要求ではなくて、岐阜県という名前を全国にピーアールしたいという知事の発想だということが、露骨になって来た。岐阜県の首都機能誘致策の目的、そして進め方は、ただ岐阜県を宣伝したいということに尽きよう。
 それに加えて、先程の学園都市構想の資料の中にあるが、関連していろいろな施設や道路の計画が構想されている。これらを、より有利に、或いはより早く実現させるために、首都機能移転に引っかけようとしていることも間違いない。
 このように考えると、非常に物事の理解がしやすい。これは、岐阜県に居て実感する。 全国の首都機能移転の問題で共通していることに、どこもメリットだけを強調していることが挙げられる。「こんないいところがありますよ」とだけ宣伝して、一方的な世論形成をはかっていく。本日の報告を比較してみて、典型的なのはやはり何といっても岐阜県のようだ。
 具体的には、岐阜県は首都機能誘致のために、全国の新聞への全面広告などや看板など単なる宣伝費としてこの1年半で、2億4千万円を使った。他の候補地と比べて5〜10倍以上である。一方、県民に首都機能やその移転について、メリットもデメリットも公表し、ともに考えていくことを行っていない。そこで、私たち県民は、意味のない宣伝費の支出は不当であるとして、9月に県の監査委員に対し監査請求を行った。しかし、先日「誘致は政策判断であり、支出について議会の議決も経ている」との結果通知があった。私たちは到底、受け入れ難いので、早急に住民訴訟を提起するよう、現在準備をしている。私たちは、宣伝に無駄遣いをするのでなく、誘致すること自体の是非について、もっと県民が判断するための手法・事業が必要である、という立場から、今後もいろいろと進めていたきたい。
(96年全国集会報告集原稿)