平成一一年一二月八日判決言渡同日原本領収 裁判官書記官 徳丸哲夫
平成一一年(行ウ)第一号寺舎建築目的違法地区協力費返還請求事件
口頭弁論終結の日 平成一一年九月二九日

        判 決 
岐阜県山県郡高富町西深瀬二〇八番地の一
                原告(選定当事者)  寺町 知正
岐阜県山県郡高富町西深瀬八八一の三〇
                脱退原告(選定者)  林 武
岐阜県山県郡高富町高木九九〇番地の一
                脱退原告(選定者)  信田 雄三
岐阜県山県郡高富町西深瀬二〇八番地の一
                脱退原告(選定者)  寺町 緑
岐阜県武儀郡武芸川町宇多院一二七五の一
                被    告     田内 賢
岐阜県武儀郡武芸川町宇多院一一三三
                被    告     河村 孝夫
                右被告二名訴訟代理人弁護士  堀部 俊治
岐阜県山県郡美山町笹賀一三六番地の一
                被    告     長屋 益雄
岐阜県山県郡美山町片原四三七番地
                被    告     矢口 貢男
                右被告二名訴訟代理人弁護士  小出 良熙
                同              栗山 知

        主 文
一 本件訴えを却下する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。 

        事 実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは、岐北衛生施設利用組合に対し、連帯して金一億二五〇〇万円及びこれに対する平成一一年三月四日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 第1項につき仮執行宣言

二 被告らの本案前の答弁
主文同旨

第二 当事者の主張
一 請求原因
1 当事者・関係者
(一)原告らは、いずれも岐阜県山県郡高富町の住民である。

(二)岐北衛生施設利用組合(以下「本件組合」という。)は、岐阜県山県郡の高富町、美山町及び伊自良村の三町村並びに同県武儀郡の武芸川町、洞戸村及び板取村の三町村のし尿処理に関する事務事業を共同処理するために、昭和四五年八月三一日制定の組合規約に基づき設けられた地方自治法二八四条所定の一部事務組合である。

(三)後示本件各支出当時、被告田内賢(以下「被告田内」という。)は本件組合議会の議員であった者、被告長屋益雄及び被告矢口貢男は本件組合の管理者であった者、被告河村孝夫は武芸川町宇多院地区の区長として本件各支出を受領した者であり、かつ同地区にある陽徳寺の壇家である。

2 本件各支出
 本件組合は、平成七年頃から、組合の設置目的にない火葬場建設業務に着手し、平成八年三月二五日に開催された平成七年度最終の定例議会で、火葬場建設予定地周辺の宇多院地区に対して、当年度中に三〇〇〇万円を、さらに、平成八、九年の二年間で九五〇〇万円を支出する債務負担行為を議決した。
 そして、本件組合は、実際に、地区協力費として、平成七年度中に三〇〇〇万円、平成八年度中に四七五〇万円、平成九年度に四七五〇万円、三年間で合計一億二五〇〇万円を支出した(以下右金員を「本件地区協力費」といい、右金員の支出を「本件各支出」という。)

3 本件各支出の違法性
(一)本件各支出は、贈与契約に基づいて、組合庫から宇多院地区もしくは特定個人に支出されたもので、組合財産の無償贈与であると考えるのが合理的であるところ、宇多院地区あるいは住民にとって、火葬場が建設されたからといって、何ら被害、損害発生せず、何ら苦痛や不便をもたらすものではなく、また、地区協力費を支出せずに当地に火葬場が建設できないという法的要件、手続的制約は何ら存しない。
 したがって、本件各支出は、地方公共団体の事務処理について、最小の経費で最大の効果を上げることを要求する地方自治法二条一三項及び目的達成のための必要かつ最小限を越える経費の支出を禁ずる地方財政法四条に違反する。

(二)本件組合は、し尿処理施設に関する事務事業を共同処理する目的で設けられたものであるところ、平成八年三月一九日、契約規制を改正し、その目的に「火葬場の建設及びその管理運営に関する事務」を加えた。
 しかしながら、右組合規制の改正前から、本来の業務ではない本件火葬場建設に関しての議論、検討を進め、平成七年度の支出を具体的に予定したのであり、右は地方自治法二八六条、二八七条に違反する。

(三)本件火葬場建設の全体事業費一〇億円のうち、起債(火葬場整備事業債、斎場整備事業債)総額は五億四六二〇万円、県支出金である県市町村振興補助金は二〇〇〇万円であるところ、起債及び県の補助金は、将来国から交付されるものとして国や県の厳しい事業審査、認定を受けるものであって、本件のような不適正支出は許されない。

(四)本件各支出は、全額、宇多院地区を通して、陽徳寺の寺舎改修費用に使用された。宇多院地区の陽徳寺は宗教団体であり、一方宇多院地区の集落組織は、寺の建築に当たって全世帯が高額の寄付を行うなど、実質的に陽徳寺の檀家集団であることは明らかであって、本件組合関係者は、本件各支出が寺改修に使われることを暗黙に了解し、被告田内の求めるままに、本件各支出を決定したのである。したがって、本件各支出は、政教分離原則を定めた憲法二〇条第一項、三項、八九条前段に違反する。

(五)被告田内は、宇多院地区の実質的統率者であるとともに、陽徳寺の檀家総代及び寺建設委員長でもあり、また本件火葬場建設用地は被告田内の親族の所有する土地が多いことから、本件各支出についての審議、議決では、被告田内は重大な利害関係者として除斥されるべき立場にあったところ、本件支出の審議、議決において被告田内は全く除斥されなかった。したがって、本件各支出決議は、議長及び議員の除斥について定める地方自治法一一七条に違反する。

4 本件監査請求
 原告らは、平成一〇年一一月一八日付で住民監査請求(以下「本件監査請求」という。)を行ったところ、平成一一年一月一四日付けで右住民監査請求を却下する旨の決定がなされた。  

5 よって、原告らは、地方自治法二四二条の二第1項4号に基づき、被告らに対し、請求の趣旨記載の金員の支払を求める。

二 被告らの本案前の主張に対する認否及び反論
1 被告らの本案前の主張は否認ないし争う。本件地区協力費は三年間で支出すると議決のもとになされたものであるから、監査請求の期間の経過について、本件各支出ごとに判断するのではなく、本件各支出を全体として判断するべきである。また、本建築協力金の受領者である宇多院地区は、いわばトンネル機関に過ぎないから、本件支出がなされた日は、宇多院地区から宗教法人に資金が渡った日というべきである。

2 正当な理由の存在
(一)本件組合議会は、広報などを発行しておらず、他に活動や予算決算の報告もない。市町村と住民の関係以上に、組合の構成自治体の住民が本件のような支出を認識することは困難である。実際に、本件各支出を原告らが文書において認識したのは、平成一〇年九月、原告寺町知正、同寺町緑が、組合事務所にて議会議事録を閲覧したことによるものである。

(二)仮に本件各支出自体の存在を知ることができたとしても、当該行為が違法・不当であることを知り得なければ監査請求をすることができないから、当該行為を知ることができたといえるためには、当該行為の存在のみならず、当該行為が違法・不当であることを基礎付ける事実を知りうることが必要というべきである。

三 被告らの本案前の主張
1 本件監査請求は、平成一〇年一一月一八日になされたものであるところ、本件地区協力費は、平成八年三月二九日に三〇〇〇万円、同年六月二五日に四七五〇万円、平成九年六月二五日に四七五〇万円各支払われたものである。したがって、本件監査請求は、本件各支出の最終日の翌日から起算しても、一年以上を経過した後になされたものであるから、本件監査請求は不適法であり、よって、本件訴えは適法な監査請求を経ておらず、不適法である。

2 また、高富町議会発行の平成一〇年五月一日付「議会だより」には、同議会議員である原告寺町知正の質問として、本件地区協力金について、「武芸川町の地元には、一億二五〇〇万円を「地区協力金」として支出することも決定されています。」との記事が掲載されており、更に同月八日、原告ら全員を含む7名の者から提起された住民監査請求の請求書には、本件地区協力費の支出が記載されているなどの点を考慮すると、それから六か月余りを経過して監査請求をすることに、地方自治法二四二条二項但書所定の正当な理由は存しない。

理 由
一 本案前の主張について
 地方自治法二四二条二項は、住民監査請求は、「当該行為のあった日又は終わった日から一年を経過したときは、これをすることができない。ただし、正当な理由がある時は、この限りでない。」と定めている。

1 証拠(乙一ないし乙三)によると、本件各支出として、平成八年三月二九日に三〇〇〇万円、平成八年三月二五日に四七五〇万円の支払いがなされたことが認められ、また、本件監査請求が平成一〇年一一月一八日になされたことは当事者間に争いがない。 右によれば、本件監査請求は、本件の最終支出日である平成九年三月二九日から起算しても一年を経過してなされたことは明らかである。

2 以下、原告らに地方自治法二四二条二項但書所定の正当な理由があるか否かについて検討する。
 同項但書所定の「正当な理由」とは、地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査しても客観的にみて当該行為がなされた当時これを知ることができず、かつ、当該行為を知ることができたと解されるときから相当な期間内に監査請求をした場合をいうと解すべきである。
 これを本件についてみるに、証拠(乙四ないし乙八)によれば、以下の事実が認められる。
(一)平成八年五月三〇日、高富町議会の火葬場建設特別委員会で、本件火葬場建設に関して審議され、その審議の過程で、地元協力金一億二五〇〇万円のうち前年度に三〇〇〇万円が支出され、残額は平成八年度及び九年度に支出が予定されていることが報告されたところ、原告寺町知正は、高富町議会議員として右委員会を傍聴していた。(乙七)。

(二)平成九年一二月五日、高富町議会の火葬場特別委員会で、本件火葬場に関して、地元協力金として一億二五〇〇万円が支出済みであることが報告されたところ、原告寺町知正は、高富町議会議員としてこの委員会を傍聴していた(乙八)。

(三)平成一〇年三月二〇日、原告寺町知正は、高富町議会議員として、高富町定例会において、「地元である武芸川町に、一億二五〇〇万円が地区協力費という名目で支出決定がなされています。」と述べたうえで、本件火葬場に関して質問した(乙四)。

(四)平成一〇年五月一日、高富町議会発行「議会だより」二二号(平成一〇年五月一日発行、高富町全戸に配布)の「一般質問・町政の課題問う」の欄に、原告寺町知正の質問として、「山県郡と武儀郡の六ケ町村が火葬場建設を進め、四月オープンが可能となりました。武芸川町の地元には、一億二五〇〇万円を「地区協力金」として支出することも決定されています。」との記事が掲載された(乙五)。

(五)原告ら四名を含む七名は、平成一〇年五月八日、本件組合管理者らは本件組合に金一〇〇〇万円を返還するように求める住民監査請求書を提出し、右請求書には、「地元補償費一億二五〇〇万円が組合から支出されたが、これらの多くは組合関係者の(暗黙の)了解の元、宇多院地区の寺院の改築費となった。」と記載されている(乙六)。 以上に事実を照らせば、原告ら住民は、遅くとも高富町発行の議会だよりが配布された平成一〇年五月一日ころには、「地区協力金」として本件各支出がなされたことを認識し得たというべきである。さらに、原告らは、自ら住民監査請求をした同月八日ころには、本件地区協力費が寺院の改築費となったことを確実に認識したというべきである。 以上によると、原告らは、遅くとも平成一〇年五月八日には、本件各支出が違法、不当になされたことを知ることができたというべきであり、これから半年余を経過してなされた本件監査請求には正当な理由が認められない。

二 よって、本件訴えは不適法であるのでこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

  岐阜地方裁判所民事第二部
            裁判長裁判官 青山邦夫
               裁判官 夏目明徳
               裁判官 今泉裕登