岐北衛生施設利用組合
             住民監査請求書



 請求の理由
◆岐北衛生施設利用組合は、九五年頃より、業務外の火葬場建設に違法に着手した。
 1 組合は九六年三月二五日に、宇多院地区に対して合計一億二五〇〇万円を地元協力費として三年間で支出することを議決(債務負担行為)し、九五年度三〇〇〇万円、九六年度四七五〇万円、九七年度四七五〇万円と三年間で分割して支払った。
 2 宇多院の陽国寺は、組合からの地元協力費の支払いと平行して、九五年頃から寺の本堂の建築工事に着手し、九八年に完成した。寺院敷地内の整備や集会場建設も平行された。

◆地区協力費支出は財産財産の無償贈与であるが以下の理由で、違法である。
 1 地元協力費(九五、九六年度分)を火葬場計画が不明確なままに支出した。
 2 宇多院地区あるいは住民にとって、火葬場が建設されたからとて、何ら被害、損害は発生せず、何ら苦痛や不便をもたらさない。
 3 地元協力費を定める法や制約はない。
 4 岐阜市出屋敷地区には、支出していない。
 5 県も出せないといい、総事業費の一割以上という高額な支出は他の公営火葬場建設に例もなく、社会的に許容される余地はない。
 6 地方自治法第二条一三項、地方財政法第四条違反。

◆政教分離原則違反
  陽国寺は宗教団体であり、集落組織は、寺院建築の際は全世帯が寄付を行うなど、実質的に陽国寺の檀家集団である。本件支出は宇多院地区をトンネル団体とした、宗教団体への支援である。

◆特定意図による働きかけは違法
 1 田内賢は宇多院地区の実質的統率者である。一方、組合及び組合議会は火葬場建設の実質的牽引者である田内賢の提示のままに、半ば強制的状況で贈与の決定に至った。
 2 田内賢は、地元協力費及び用地契約等についての 審議・議決では重大な利害関係者であるのに、除斥されていない。審議、議決が異なっていた可能性は高く、支出議決は無効である。

◆その他 
 1 組合議会が大部分を協議会で承認して実質的に意志決定をなしたのは著しい裁量権の濫用である。 2 地元協力費を小切手という出損の記録の残らない形で手渡した、というのは極めて特異である。   受け取り名義人の明らかな領収書も無い。
 3 火葬場最終候補地選定が著しく不合理で、県の撤退も不自然である。

◆監査を求める事項
 1 田内賢外宇多院地区の役員ら及び宗教法人陽国寺の役員らは不当利得として金一億二五〇〇万円全額の返還責任がある。
 2 長屋益雄は当時の組合管理者として、金一億二五〇〇万円の損害賠償責任がある。
 3 矢口貢男が現在の組合管理者として、速やかな賠償請求措置を講ぜず組合財産の管理を怠たることは違法である。

二 請求者  別紙
  右、地方自治法第二四二条一項の規定により、別紙事実証明書を添えて、必要な措置を請求します。
    一九九八年一一月一七日
  岐北衛生施設利用組合 監査委員     

  《別紙事実証明書目録》
第一号証 火葬場整備事業概算事業費及び町村負担金試算額の表

 住民監査請求 補充書
第一 本件監査請求の意義
 岐北衛生施設利用組合(以下、組合という)は、火葬場建設地周辺の宇多院地区に対して合計一億二五〇〇万円を「地元協力費」名目で支出した。しかし、この地元協力費は火葬場建設のためには何ら必要性のないものであり、同時に、憲法の政教分離原則に反して、寺院の建築費用に使われる事を承知の上で支出されたものである。
 宇多院地区に対する支出は、組合にとって支出の必要性も合理性も全く存在しない。理由や必要性のないことに対する財産(公金)の贈与は、カラ支出であり違法である。
 かかる支出は年間の実質事業費が数億円程度の当該組合、そして構成自治体や住民にとって、あまりに莫大な損害である。
 組合管理者らは、火葬場建設に関して、田内賢武芸川町議会議長の主張、要求するままに、杜撰な運営、支出を継続してきたのであり、管理者とともに組合議員の責任は重大である。一方、田内賢は組合議員としての職責に反して自らの利益誘導に走り、組合及び組合議会を私物化してきた。その責任は重大である。また、議会は正規の本会議を殆ど開かず、協議会で実質的に意志決定して運営に当たるなど、本件支出以外にも、違法、杜撰な運営が多々あり、運営体質が根本的に改善されなければ、組合の構成自治体及び住民の利益が保障されない。
 よって本件監査請求を提起する。

第二 本件支出の経過や背景
(一)組合は、岐阜県山県郡(高富町、美山町、伊自良村)及び武儀郡(武芸川町、洞戸村、板取村) 六ケ町村の「し尿処理に関する事務事業を共同処理する」ために、一九七〇年八月三一日制定の組合規約に基づき設けられた地方自治法第二八四条所定の一部事務組合である。九六年三月一九日規約改正し「火葬場の建設及びその管理運営に関する事務」を加えた。
 組合議会は、各町村長及び各議会議長らで構成されている。組合の執行機関について、「管理者は、関係町村長の互選により定める」(組合規約第六条二項)とされ、申し合せにより、管理者は美山町長とされている。 

(二)組合は、九五年頃より、地方自治法第二八六、二八七条に違反して組合の設置目的にはない火葬場建設業務に着手した。

(三)当時、岐阜県は“動物ふれあいパーク”を建設する計画を進めていた。組合内では、武芸川町がこの施設を見事誘致したら、成功報酬的に、「組合が武芸川町(地元)に二五〇〇万円を払うこと」まで合意されていた。

(四)九六年六月、県は“動物ふれあいパーク”を武芸川町に建設することを県議会で表明した。そして、県は組合が建設を予定していた土地を希望したので、組合はひとつ南の谷に建設場所を変更し、九八年四月、火葬場をオープンさせた。ところが、県は九七年春になって計画からの撤退を明らかにした。

(五)組合は九六年三月二五日に開催された九五年度最終の定例議会で、建設地周辺の集落である宇多院地区に対して合計一億二五〇〇万円を「地元協力費」として支出することを、債務負担行為としての議決した。そして、九五年度三〇〇〇万円、九六年度四七五〇万円、九七年度四七五〇万円と三年間で分割して支出することで「地元協力費」支払いを完了した。

(六)一方、宇多院地区の陽国寺は、組合からの金員の振込と平行して、九五年頃から寺の本堂の建築工事に着手し、九八年に完成した。寺院敷地内の整備や集会場建設も平行された。

第三 地区協力費支出の違法性と組合の損害
(一)本件は財産の無償贈与
 本件地元協力費は贈与契約に基づいて組合庫から「宇多院地区」もしくは「特定個人」へ支出されたもので、組合財産の無償贈与であると考えるのが合理的である。もし無償贈与でないとするなら、本件支出は財産権や生活権の侵害に対応したものではないから、法的支出根拠のない違法なものである。
 本件地元協力費支出の手続き、目的、必要性、方法の正当性、組合の負担の程度、組合支出決定に対する働きかけの態様、程度等を評価することで、違法な支出であるのか、組合にとって損害なのかが明らかとなる。そこで、各項目について検討する。

(二)手続きとしての違法
 1 九六年三月一九日の規約改正の前に、本来の業務として法的位置付けされていない火葬場建設に関しての議論、検討を進め、九五年度内の支出を決定し、さらに支出行為(地区協力費九五、九六年分)までなしたことは、明らかに法第二八六条《組織・事務及び規約の変更》、法第二八七条 《規約》に違反している。

 2 九六年当時、組合は、火葬場建設の合意には至っていたが、斎場については、その規模などは勿論、建設するのか、しないのかすら協議が成立していない(九六年六月二八日組合議会全員協議会時点でも、「斎場併設問題は、都計法はとりあえず斎場ありとして申請する」とされているだけである)など、全体計画、規模など明確に描かれていなかった。 それにもかかわらず、九五年度に地区協力費を支出した。

(三)支出の必要性はない
 1 宇多院地区あるいは住民にとって、火葬場が建設されたからとて、何ら被害、損害は発生せず、何ら苦痛や不便をもたらすものではない。

 2 また、地元協力費を支出せずには当地に火葬場が建設できないという法的要件、手続的制約は何ら存在しない。

 3 岐阜市出屋敷地区は、本件火葬場からは宇多院地区と同程度の距離にあり、しかも、火葬場周辺の水系としては、宇多院側ではなく出屋敷側に流下(傾斜)している地形である。にもかかわらず、出屋敷には地元協力費を一切出さず、宇多院だけに出したことは、本件地区協力費支出が客観的・絶対的必要性のないことの証しである。

(四)支出に妥当性はない
 1 一般に公営火葬場の建設において、本件のごとき名目あるいは金額の公金支出の例もなく、本件支出が社会的に許容される余地はない。

 2 この地元協力費は「県からの支出は不可能とする地元協力費を肩代わりする了解の下」とされている通り、「組合」と「県」の両者の施設に対応する分としての認識の下に支出された。県はこの種の支出はできない、としているのである。

 3 本件地区協力費一億二五〇〇万円は、火葬場の総事業費の一割以上にもなる。常軌を逸した高額の「地区協力費」の支出は、右記規定に照らして不要かつ違法な支出である。

 4 地方自治法第二条一三項は地方公共団体の事務処理の原則について「地方公共団体は、その事務を処理するに当たっては、住民の福祉の増進に努めるとともに、最小の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない」と定めている。これは地方公共団体が住民の付託を受けて、住民の税金によりその事務を執行していることから当然の規定である。本件地元協力費支出において、組合管理者らは、最小の経費で最大の効果を挙げるように何ら努めていないことは明らかであり、同条の規定に違反している。

 5 地方財政法第四条は、地方公共団体の予算の執行について「地方公共団体の経費は、その目的を達成するための必要且つ最小の限度をこえて、これを支出してはならない」と定めている。これは地方公共団体が住民の付託を受けて、住民の税金によりその事務を執行していることから当然の規定である。本件地元協力費支出が必要且つ最小の限度を越えていることは明らかであり、同条の規定に違反している。

第四 憲法の政教分離原則違反
 宇多院地区の「陽国寺」は宗教団体であり、住職が特定の宗派の定めにのっとり儀式を行う場であり、建物は礼拝等の施設となっている。一方、宇多院地区の集落組織は、寺の新築に当たって全世帯が高額の寄付を行うなど、実質的に「陽国寺」の檀家集団であることは明らかである。地元協力費のうちの八〇〇〇万円以上がこの「陽国寺」の改築費用使われた。その他、一部は敷地内での地区集会場建設に費され、その余は、寺の周辺整備に費やされた。組合及び議会関係者は、地区協力費が寺改修に使われることを暗黙の了解の下に、田内賢の求めるままに、憲法の政教分離原則違反の検討をする事なく支出決定をした。
 本件支出は、地元協力費に名を借り、宇多院地区をトンネル団体としただけで、実質的には宗教団体への援助で、寺を特別に支援し、特定の宗教への関心を呼び起こすもの、と言わざるを得ない。
 以上、地区協力費としての組合公金支出は、政教分離の原則を定めた憲法に違反し、禁止された違法な支出である。
 尚、憲法の定めるところは以下のようである。
 ・第二〇条一項「信仰の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない」
 ・同条三項「国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない」 
 ・第八九条「公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない」

第五 特定意図による働きかけ
(一) 田内賢は宇多院地区の実質的統率者である。組合及び組合議会は、組合議会の火葬場問題に関する実質的牽引者である田内賢の提示のままに、半ば強迫的状況で贈与の決定に至った。

(二) 地方自治法第一一七条《議長及び議員の除斥》「・・議員は、自己若しくは父母、祖父母、配偶者、子、孫若しくは兄弟姉妹の一身上に関する事件又は自己若しくはこれらの者の従事する業務に直接の利害関係のある事件については、その議事に参与することができない」と定めている。地方公共団体の議決や公金の支出が当該利害関係者に不当に有利になるように導かれることを防止するための規定である。
 本件において、田内賢は、組合議員であり、宇多院地区の役員であり、「陽国寺」の直接関係者であり、火葬場建設用地は親族の土地である。組合議会での火葬場問題に関して、地元協力費及び用地契約等についての審議・議決では重大な利害関係者として除斥されるべき立場であった。 しかし、法第一一七条《議長及び議員の除斥》に違反して、全く除斥されなかった。
 本件審議、議決において田内賢が除斥されていれば、異なる結論となった可能性は極めて高い。
 よって、本件支出の議決は、違法かつ、法第二条一六項に照らして無効である。

第六 その他、杜撰で不合理な組合運営
(一) 組合議会は、正式の議会を殆ど開かず、火葬場に関しては実質的に被告田内賢がリードし、大部分を協議会で「承認」して実質的に意志決定をなしてきた。組合関係者らは疑義を抱きながらも、これに歯止めをかけず、議会としての正常な状態ではなく、審議等議決に至る過程において、著しい裁量権の乱用があったというべきである。

(二) 当初の地域一帯が組合の火葬場最終候補地となったのは、@地権者が少数で交渉が容易 A近くを高圧線が通っているが、高圧線下はよくないなどの点が考慮されたものである。しかし実際には、火葬場を高圧線の真下に建設した。敢えて、組合が高圧線の真下へ移り、現在の施設を建設したのは、極めて不合理である。

(三) 最終的に組合が取得、建設した場所は、水が抜けることで地元では知られるなど、建造物を構築するには極めて不適な場所である。実際に、オープンした四月以降、降雨時には、火葬場のホール内の壁面が水吹くなど具体的支障が生じている。この土地の選択は著しく不合理である。

(四) 九七年春になって、岐阜県は“ふれあいパーク”計画を突然撤回した。
 その理由は、県が希望した土地は、ゴルフ場の計画地の一部と重なっており、トラブルを懸念、これを嫌って撤退方針を固めた、とされている。
 しかし、このゴルフ場の計画は、地元の武芸川町に正式に事前協議が申請されており、県も指導中である。町や県の各課、県の出先機関など行政関係者が本件予定地とゴルフ場計画地の関係を知らないということは、行政手続き上あり得ない。

(五) そもそも火葬場建設用地としての適地性や経済性の比較考量が十分になされておらず、実質的に当地ありき、で進められた。加えて、本件地元協力費は、客観的必要性の検討の下に積算、決定されたものではなく、

(六) 所得税法の適用を免れる、もしくは税務当局に対するに隠蔽に協力していることは、許されないことである。

第七 一連の支出であることについて
 本件地元協力費は「三年間で支出」することが合意された契約であり、一連の支出を分割して評価することはできない。よって、監査請求あるいは住民訴訟において特定すべき事実(対象)とは、この三年払いの地元協力費全体を指すものである。

第八 監査・勧告を求める事項
 以上、本件地元協力費支出は、手続き、目的、必要性、方法の正当性、組合の負担の程度、組合支出決定に対する働きかけの態様、程度を総合考慮して、明らかに違法かつ不必要な支出であって、組合にとって多大な損害である。よって、関係者に以下のように勧告することを求める。

(一) 田内賢は宇多院地区の実質的代表かつ陽国寺の直接関係者であり、同時に武芸川町議会議長として、本件組合の議員として本件支出の実質的決定に最も深く関与した。田内賢の自らの地位を利用し、自らの地区や自らの親族等の利得を諮った行為、しかも地区組織をトンネル名目にして憲法に違反した公金支出を図った責任は極めて大きい。これらを承知して利益を享受した右記関係団体役員らの責任も重い。よって、田内賢外宇多院地区の役員ら及び宗教法人陽国寺の役員らは不当利得として金一億二五〇〇万円全額の返還をする責任がある。

(二) 長屋益雄は火葬場建設当時の組合管理者として、杜撰な運営、支出を継続し、本件支出に重大な責任を有する。よって長屋益雄は、金一億二五〇〇万円の損害を弁済する責任がある。

(三) 矢口貢男は、現在の組合管理者として、かつ火葬場建設当時、美山町議会議員、議長として組合議員でもあった。矢口貢男は、田内賢らに対して、不法行為に基づく損害の速やかな賠償請求措置を講ずべき責務を有するところ何らこの措置をとらないので、組合財産の管理を怠たることは違法であり、かつ賠償責任があることの確認を求める。
                   以 上