平成一二年七月一二日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
平成一二年(行コ)第六号 寺舎建築目的違法地区協力費返還請求控訴事件(原審・岐阜地方裁判所平成一一年(行ウ)第一号)
口頭弁論終結日 平成一二年五月一七日

        判 決
岐阜県山形郡高富町西深瀬二〇八番地の一
           控訴人(選定当事者) 寺町知正
                (選定者は別紙選定者目録記載のとおり)
岐阜県武儀郡武芸川町宇多院一二七五の一
           被控訴人       田内賢
岐阜県武儀郡武芸川町宇多院一一三三
           被控訴人       河村孝夫
           右被控訴人二名訴訟代理人弁護士
                      堀部俊治
岐阜県山形郡美山町佐賀一三五番地の一
           被控訴人       長屋益雄
岐阜県山形郡美山町片原四三七番地
           被控訴人       矢口貢男
           右被控訴人二名訴訟代理人弁護士
                      小出良熙
           同          栗山知

        主 文
一 本件訴えを棄却する。
二 訴訟費用は控訴人(選定当事者)の負担とする。 

        事 実
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人(選定当事者。以下「控訴人」という。)
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らは、岐北衛生施設利用組合に対し、連帯して金一億二五〇〇万円及びこれに対する平成一一年三月四日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え
3 訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人らの負担とする。

二 被控訴人
主文同旨

第二 当事者の主張
 次ぎのとおり付加するほか、原判決「事実]の「第二 当事者の主張」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。
(原判決の付加)
 九頁九行目の「平成一〇年一一月一八日付で」の後に「本件組合の監査委員に対し」を加える。
(当審主張)
一 控訴人の当審主張
1 控訴人及び選定者ら(以下「控訴人ら」という。)が本件各支出を違法であると認識できたのは、平成一〇年九月である。

2 控訴人らは、平成一〇年八月まで、本件各支出は組合から武芸川町支出されたものと考えていた。ところが、平成一〇年八月ころ武芸川町住民から、「火葬場に関する地区協力費が、宇多院地区に渡され、これが強引に寺の建築資金に丸ごとスライドされて、寺の建築や寺の敷地内に公民館を作ったりしてイる。こんなことが許されていいのか。」との指摘を受け、本件各支出が組合から宇多院地区に直接支出された可能性があるとの懸念を持つに至った。

3 控訴人らは、平成一〇年九月九日、西濃法律事務所の弁護士に相談したところ、事実関係の整理が必要であるとの指摘を受けた。そこで、控訴人らは、組合事務所を訪れて、議会議事録を閲覧し、「本件支出が債務負担行為として議決され、議会の提案説明において、組合が宇多院地区に直接支出するものである。」との記述があるのを確認し、本件各支出が違法であると認識できたものである。

4 控訴人らは、平成一〇年五月八日提出の別件の住民監査請求において、真偽に関係なくうわさに聞いた「本件各支出が宇多院地区の寺院の改築費となった」ことを示したが、これは、控訴人らが本件各支出が武芸川町に支出されたものであると誤解し、高富町の住民は、組合の支出に対しては住民監査請求できるものの、武芸川町に一度支出された公金については、武芸川町の会計としてどのように処理されようとも関与できないと考えたことから、武芸川町の行政や議会関係者の自覚を促すつもりで、記載したものに過ぎない。したがって、当時控訴人らは、各支出を違法であるとは認識していなかったもので、仮に違法であると認識していれば、別件の監査請求と同時に、本件各支出についても住民監査請求をしている。

二 右主張に対する控訴人らの応答
1 控訴人らが、本件各支出が宇多院地区の寺院改築費に使われたのを承知したのは、遅くとも平成一〇年五月八日である。

2 控訴人らが作成した監査請求書(乙六)には「・・・地元補償費一億二五〇〇万円が組合から支出されたが、これらの多くは組み合い関係者の(暗黙の)了解のもと、宇多院地区の寺院の改築費となった。」との記載があるのは、控訴人らが、右の事実を承知していたからである。

        理 由
一 当裁判所も、控訴人の本件訴えを却下するべきものと判断するが、その理由は、次のとおり訂正、付加するほか、原判決「理由」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。
(原判決の訂正)
原判決一六頁八行目の「本件組合管理者らは」から九行目の「求める」までを「本件組合の監査委員に対し、「本件組合管理者らが本件組合に対して連帯して一〇〇〇万円の損害を弁済するとの勧告を求める。」旨の」と改める。
(当審主張に対する判断)
控訴人は、「本件各支出を違法であると認識できたのは、平成一〇年九月である。」旨主張するが、前記認定のとおり(引用にかかる原判決の認定を含む。)、@平成一〇年五月一日、高富町議会発行「議会だより」二二号(平成一〇年五月一日発行、高富町全戸に配布)の「一般質問・町政の課題を問う」の欄に、控訴人の質問として、「山県郡と武儀郡の六か村が火葬場建設を進め、4月オープンが可能となりました。武芸川町の地元には、一億二五〇〇万円を「地区協力費]と支出することも決定されています。」との記事が掲載されたことA控訴人らは、平成一〇年五月八日、本件組合の監査委員に対し、「本件組合管理者らが本件組合に対し連帯して一〇〇〇万円の損害を弁済するとの勧告を求める。」旨の住民監査請求(乙六)を提出したが、右請求書には「・・・地元補償金一億二五〇〇万円が組合から支出されたが、これらの多くは組合関係者の(暗黙の)了解のもと、宇多院地区の寺院の改築費となった。」との記載があることなどが認められることからすれば、高富町の住民である控訴人らは、平成一〇年五月一日ころには「地区協力費」として本件各支出がなされたことを認識することができたこと、控訴人らは、同月八日ころには、本件地区協力費が寺院の改築費となったことを確実に認識していたことを認めることができる。
 そうすると、控訴人らは、遅くとも平成一〇年五月八日には、本件各支出が違法、不当になされたことを知ることができたというべきである。
 この点、控訴人は、「控訴人らは、本件各支出が武芸川町に支出されたものであると誤解し、高富町の住民は、組合の支出に対しては住民監査請求はできるものの、武芸川町に一度支出された公金については、武芸川町の会計としてどのように処理されようとも関与できないと考えたので、本件各支出が違法であるとは認識できなかった。」旨主張するが、控訴人らが「組合から支出された地元補償費一億二五〇〇万円が、組合関係者の(暗黙の)了解のもと、宇多院地区の寺院の改築費にあてられた。」と認識していた以上、その地元補償費が武芸川町に支出されたと誤解していたとしても、その支出の違法性を認識し得たというべきであるので、控訴人の右主張は採用できない。

二 よって、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法六七条一項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

    名古屋高等裁判所民事第三部
            裁判長裁判官 寺本榮一
               裁判官 内田計一
               裁判官 倉田慎也

        選定者目録
一 岐阜県高富町西深瀬八八一の三〇
               選定者 林武
二 岐阜県高富町高木九九〇番地の一
               選定者 信田雄三
三 岐阜県高富町西深瀬二〇八番地の一
               選定者 寺町緑

右は正本である。
  平成一二年七月一二日
    名古屋高等裁判所民事第三部
            裁判所書記官 山内一正