岐阜地方裁判所民事部御中
                         2002年8月22日

 訴      状

   原告選定当事者  寺 町 知 正
                         外7名(目録の通り) 岐阜県山県郡高富町西深瀬208−1                    TEL 0581−22−4989  FAX 0581−22−2281
   被  告  山 崎 通
   岐阜県山県郡高富町東深瀬521

町長拘留中給与等返還請求事件

 訴訟物の価格 金950、000円
 貼用印紙額    金8、200円
予納郵券代金   金9、000円

         請 求 の 趣 旨
1 被告山崎通は、高富町に対し金111万円及びそれに対する本訴訟送達の翌  日から完済まで年5分の割合による金員を支払え。
2、訴訟費用は、被告の負担とする。
  との判決、ならびに第1項につき仮執行宣言を求める。

         請 求 の 原 因
第1 当事者
1 原告は肩書地に居住する住民である。
2 被告山崎は97年高富町長選挙において当選し、01年に再選され、02年  6月4日までその職にあった。

第2 本件住民訴の意義
 自治体の長ら特別職の給与とは、「その勤務の実態が常勤である者に対し、当該勤務の対価として支給されるもの」とされている。
 地方自治法第204条の趣旨も「町長は常勤」と位置付けている。
 被告山崎に給与・期末手当を支給した高富町の見解は、「助役が職務を代理しても、この間においても町長の身分は有しているから、支給は違法ではない」というもの。しかし、争点は、職員が身分を有しているか否かでなく、被告山崎の拘留状態が勤務といえるか、その拘留状態に対して給与・期末手当を支給することが許されるかあるいは給与の支給を受けることができるか、を問うものである。 町の公共事業に絡んで収賄容疑で逮捕され拘留されている町長に、通常どおり給与・期末手当を支給することは納税者の感情としても許し難い。
 よって、本件住民訴訟を提起する。

第3 本件事案の概要と本件支出
1 被告山崎は2002年4月28日より連日、県警の事情聴取を受け、5月1日収賄容疑で逮捕され(甲第1〜4号証)、5月22日に岐阜地検により起訴された(甲第5、6号証)。
 同人は5月23日付けで「6月4日に辞職したい」との辞職願いを提出(甲第7号証)、6月4日に高富町議会で辞職の承認を得た(甲第8号証)。
 他方、保釈申請は5月28日に却下され、住民監査請求時点でも拘留中であり、7月15日の初公判を経て翌16日に保釈された。
 このように、同人は、5月1日以降は実質的に職務=公務についていない。

2 高富町助役は、5月3日に弁護士を通じて、「職務代理が必要である」と被告山崎自身が認識していることを確認した。そこで、地方自治法第152条(長の職務の代理)に基づいて、5月5日に告示して、助役が町長の職務を代理した(甲第3号証)。
 よって、職務代理を選任する表明の時点から、被告山崎自身には町長の職務に就く意思がなかったのは明白であり、手続き的にも5日の告示後は、職務=公務を全く行っていないことになる。

3 「高富町常勤の特別職職員の給与に関する条例」(以下、「特別職給与条例」という)(甲第9号証)第3条において、「給料月額は、別表による」とされ、同別表で町長職の一ケ月あたりの給料は77万円とされている。
 同第5条2項において、期末手当は「3月1日、6月1日及び12月1日を基準日とし」「給料月額及びその額に100の15を乗じて得た額の合計額に、3月に支給する場合においては100分の50、6月に支給する場合においては100分の205、12月に支給する場合においては100分の210」としている。即ち、(77万円×1,15×4,65)=411万7575円が期末手当の年額であるから、1カ月あたりにすると約34万円である。

4 特別職給与条例は、名称のとおり「常勤の特別職」と明示し、同第6条は(給与の支給方法)を「一般職の職員の例による」としている。
 準用されるところの高富町の一般職の職員にかかる定めである「高富町職員の給与に関する条例」(以下、「一般職給与条例」という)(甲第10号証)第11条、12条は(給料の支給)を規定している。
 同第11条で「給料の支給日は規則で定める日」とし、高富町職員の給与の支給に関する規則(以下、「職員給与規則」という)(甲第11号証)第2条(給料の支給)は「その月の21日」としていることから、高富町は5月21日に5月分給与を被告山崎に支給した。
 その後も、議会が辞職を承認した6月4日分までは給与を支給した。
 期末手当は、6月1日を基準として支給した。

第4 住民監査請求前置
 原告寺町知正は、2002年6月13日(他の原告は、5月24日)に高富町監査委員に対して、住民監査請求を行った。要点は、「5月分の給与の返還と、今後の給与・期末手当の支給の差し止め」である。
 これに対して、監査委員は、8月9日(同7月22日)付けで、「棄却」の監査結果を通知した(甲第13号証)。要点は、「町長は常勤であるが、特別職には地方公務員法は適用されず、勤務時間の定めもなく休職とはならないから、町長に給与を支給することは違法といえず、給与・期末手当の今後についても休職の扱いがない以上、支払われるべきである」というものである。

第5 法令等の位置付け
1 地方自治法第152条(長の職務の代理)は「長に事故があるとき、又は長が欠けたとき」を規定している。事務の一部を代理させもしくは委任する場合は法第153条(長の事務の委任・臨時代理)が適用される。
 このように、長の職務の代理とは、原則として長の職務の全部を代行するものである。「長が欠けたとき」もしくは「欠けたときに相当する程度の事故のとき」を想定しているものである。

2 地方自治法第204条は「長及び一般職員の給与等は条例で定める」、同法第204条の2は「いかなる給与その他の給付も法律又はこれに基づく条例に基づかずには、これを支給することができない」、としている(給与条例主義)。 給与条例主義のもと、本件特別職給与条例が、「給与の支給方法については一般職給与条例に準ずる」と規定している以上、給与の支給方法については高富町においては特別職といえど一般職給与条例がそのまま適用される。

3 「特別職の給与」とは、「第二節 給料 (1)特別職給 これは地方公務員法第3条3項にあげられた特別職のうち、その勤務の実態が常勤である者に対し、当該勤務の対価として支給されるもの」《地方公共団体・歳入歳出科目解説・123〜124頁/ぎょうせい》とされている。
 地方自治法第203条が「非常勤の特別職」に関して報酬と費用弁償を規定し、同法第204条が「常勤の特別職及び一般職」に関して給料、手当及び旅費を規定していることからも、「長は常勤である」との位置付けは明らかである。

4 高富町の場合も含めて通常、常勤特別職には、何時から何時という勤務時間としての拘束は定めていないが、「常に勤務する」ということは、「当該庁舎にあって常に勤務していること」を指すのは明白である。

5 特別職を含めて職員は、勤務地での勤務の例外として、他の自治体や官庁、その他国内視察や海外視察等の勤務地を離れて職務を行う場合は、出張扱いがされる。そして、条例の規定に従い、旅費、日当、宿泊費が支給される。
 「高富町職員等の旅費に関する条例」(以下、「旅費条例」という)(甲第12号証)は、第2条1項(1)は「職員 特別職給与条例、一般職給与条例・・・者をいう。」、同(2)は「出張 職員が公務のため一時その在勤公署を離れて旅行・・・することをいう」、同第15条1項「日当の額は、別表第1の定額による」、同第16条1項「宿泊料の額は、宿泊先の区分に応じた別表第1の定額による」とし、別表では町長の日当を2,600円/日、宿泊料を11,800円/夜と規定している。

6 一般職給与条例第18条(給与の減額)は「勤務しないときは、減額した給与を支給」としている。これは職務をしない時は給料を支給しないとのことであり「ノーワーク・ノーペイ」の当然の原則である。

7 同第23条の5、6では期末手当の不支給及び差し止めを規定している。

第6 本件支出の違法性
1 町長の給与に関しては「常勤」として認識されている以上、客観的に「常勤」といえる実態が伴わなければ、給与を支給する根拠が伴わないことなる。
 本件は「常勤」といえる実態が伴なっていないのは明白であり、かつ、告示に基づく職務の代理者が存在するから、被告山崎に給与を支給する根拠がない。

2 高富町が本件拘留を「勤務」と認識しているなら、勤務地を離れているから、条例の規定に従い「出張」として旅費、日当、宿泊費を支給していなければならない。しかし、高富町は被告山崎の本件拘留に関しては、旅費、日当、宿泊費を支給していない。
 よって、高富町は被告山崎の本件拘留を「勤務」と認識していないのである。にもかかわらず、給与や期末手当を支給したから、違法な支出である。

3 一般職給与条例第18条(給与の減額)は「勤務しないときは、減額した給与を支給」と規定しているところ、本件拘留状態が「勤務しないとき」にあたるのは明白であるのに、当該給与の減額をしなかったのは条例違反である。

4 拘留中は高富町職員としての勤務がないから、相当する期間については、期末手当も支給できない。
 特別職給与条例が準用する一般職給与条例第23条の5、6には期末手当の不支給及び差し止めが規定されているにもかかわらず、不支給及び差し止めをしなかった違法がある。
 
5 職員給与等が住民の税金を原資とすることからも、社会通念上も、拘留中の町長に給与・期末手当を支給したことは許されない。

6 拘留中の町長に給与・期末手当を支給したことは、最小の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならず(地方自治法第2条14項)、必要かつ最小の限度をこえて支出してはならない(地方財政法第4条1項)との規定にも反する。
第7 損害賠償責任など
1 上記のとおり、違法な給与・期末手当の支出は、高富町の損害である。
 5月1日の逮捕から6月4日の辞職承認までの期間に対して支給された給与のうち、本件において原告が高富町の損害であるとして請求する額は、おおよそ「1カ月分」であるとみたときの77万円である。
 期末手当に関しても一ケ月相当の34万が本件で原告が請求する額である。
 以上の合計は111万円である。

2 被告山崎が、拘留中は勤務していないこと、加えて職務代理の必要を表明していること、辞職承認の時点でも拘留中であること、それにもかかわらず当該期間の分として受領した給与・期末手当111万円について、高富町に損害を与えたものとして、同額を高富町に返還する義務がある。
 よって、原告は、地方自治法第242条の2第1項4号後段の規定に従い、高富町に代位して、当該行為に係る相手方として被告山崎に請求の趣旨記載のとおり損害賠償請求する。
                                 以 上
 《証 拠 方 法》
甲第1号証 山崎通高富町長を5月1日に逮捕   (02年5月2日付け新聞)甲第2号証 5月1日、町長が助役に出勤できないと電話(同5月2日付け新聞)甲第3号証 町政への深刻な影響を懸念する記事    (同5月8日付け新聞)甲第4号証 自ら倫理条例を踏みにじったとの記事   (同5月8日付け新聞)甲第5号証 5月22日に岐阜地検が山崎町長を起訴 (同5月23日付け新聞)甲第6号証 町議会が辞職勧告決議の方針決定    (同5月23日付け新聞)甲第7号証 山崎容疑者からの辞職願いの記事    (同5月25日付け新聞)甲第8号証 高富町長の詫び状、辞職決定の記事    (同6月5日付け新聞)甲第9号証 高富町常勤の特別職職員の給与に関する条例
甲第10号証 高富町職員の給与に関する条例
甲第11号証 高富町職員の給与の支給に関する規則
甲第12号証 高富町職員等の旅費に関する条例
甲第13号証 住民監査請求監査結果(7月22日付け。請求人23日受取分)
   その他口頭弁論において、随時、追加提出する。

《添付書類》
   別紙の選定書一式及び当事者選定書届書

                          2002年8月22日岐阜地方裁判所民事部御中
                       原 告  寺町知正 外7名
当事者目録《原告》

岐阜県山県郡高富町西深瀬208−1     原 告  寺 町 知 正
岐阜県山県郡高富町西深瀬881−30    原 告   林   武
岐阜県山県郡高富町高木990−1      原 告  信 田 雄 三
岐阜県山県郡高富町高富1064−1     原 告  田 中 勝 雪
岐阜県山県郡高富町西深瀬1433−2    原 告  川 田 三 千 彦岐阜県山県郡高富町西深瀬208−1     原 告  寺 町  緑
岐阜県山県郡高富町西深瀬1433−2    原 告  川 田 登 志 子岐阜県山県郡高富町高木1517−5     原 告  丸 山 智 恵 美

                               以 上