訴     状   

    原  告 岐阜県山県郡高富町西深瀬八八一の三〇 
                  林   武 
                   外三名 (目録の通り)
    被  告 岐阜県武儀郡武芸川町宇多院一二七五の一 
                  田  内  賢
                  外三名 (目録の通り)

寺舎建築目的違法地区協力費返還請求事件

          訴訟物の価格   金九五〇、〇〇〇円
          貼用印紙額      金八、二〇〇円
予納郵券 金一五、三九〇円
 一九九九年二月四日
岐阜地方裁判所民事部御中

         請 求 の 趣 旨

一、被告四名は、岐北衛生施設利用組合に対し、連帯して、金一億二五〇〇万円及びそれに対する本訴訟送達の日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
二、訴訟費用は、被告の負担とする。
との判決、ならびに第一項につき仮執行宣言を求める。

         請 求 の 原 因

第一 当事者
(一)原告は肩書地に居住する住民である。
(二)被告田内賢は武芸川町議会議長として、岐北衛生施設利用組合議会の議員であった。同時に、火葬場建設地周辺の武芸川町宇多院地区にある「陽徳寺」の檀家総代であり、寺建設委員長である。
(三)被告長屋益雄は九八年九月まで岐阜県山県郡美山町長であり、同時に組合の管理者の職にあった。(四)被告矢口貢男は九八年九月より、岐阜県山県郡美山町長であり、同時に組合の管理者の職にある。(五)被告姓名不詳の者は九七年以前の宇多院地区の区長であり、「陽徳寺」の檀家である。

第二 本件住民訴訟の意義
 岐北衛生施設利用組合(以下、組合という)は、火葬場建設地周辺の宇多院地区に対して合計一億二五〇〇万円を「地区協力費」名目で支出した。しかし、この地区協力費は火葬場建設のためには何ら必要性のないものであり、同時に、憲法の政教分離原則に反して、寺舎の建築費用に使われる事を承知の上で支出されたものである。
 宇多院地区に対する支出は、組合にとって支出の必要性も合理性も全く存在しない。理由や必要性のないことに対する財産(公金)の贈与は、カラ支出であり違法である。
 かかる支出は年間の実質事業費が数億円程度の当該組合、そして構成自治体や住民にとって、あまりに莫大な損害である。
 組合管理者らは、火葬場建設に関して、被告田内賢の主張、要求するままに、杜撰な運営、支出を継続してきたのであり、管理者とともに組合議員の責任は重大である。一方、被告田内賢は組合議員としての職責に反して自らの利益誘導に走り、組合及び組合議会を私物化してきた。その責任は重大である。また、議会は正規の本会議を殆ど開かず、協議会で実質的に意志決定して運営に当たるなど、 本件支出以外にも、違法、杜撰な運営が多々あり、運営体質が根本的に改善されなければ、組合の構成自治体及び住民の利益が保障されない。
 また、近年、地方自治行政において広域的な事務事業が目指されているが、広域行政は制度上の不備もあり、透明性が極めて乏しく、議会や住民のチェックも入り難いとされている。
 また、岐阜県内で進められているところの廃棄物処理事業としての「地球環境村・ぎふ」構想は、本件同様の地元対策費的な面においてみても、地方公共団体会計として不要、不当な支出を伴うおそれがある。
 以上、広域行政の在り方とともに、地方行政における地元対策費支出の在り方を明確にするために本件住民訴訟を提起する。

第三 本件支出の経過や背景
(一)組合は、岐阜県山県郡(高富町、美山町、伊自良村)及び武儀郡(武芸川町、洞戸村、板取村)六ケ町村の「し尿処理に関する事務事業を共同処理する」ために、一九七〇年八月三一日制定の組合規約に基づき設けられた地方自治法第二八四条所定の一部事務組合である。九六年三月一九日規約改正し「火葬場の建設及びその管理運営に関する事務」を加えた。
 組合議会は、各町村長及び各議会議長らで構成されている。組合の執行機関について、「管理者は、関係町村長の互選により定める」(組合規約第六条二項)とされ、申し合せにより、管理者は美山町長とされている。 
(二)組合は、九五年頃より、地方自治法第二八六、二八七条に違反して組合の設置目的にはない火葬場建設業務に着手した。
(三)当時、岐阜県は県内のどこかに“動物ふれあいパーク”を建設する計画を進めていた。組合内では、武芸川町がこの施設を見事誘致したら、成功報酬的に、「組合が武芸川町(地元)に二五〇〇万円を払うこと」まで合意されていた。
(四)九六年六月、県は“動物ふれあいパーク”を武芸川町に建設することを県議会で表明した。そして、県は組合が建設を予定していた土地を希望したので、組合は一つ南の谷に建設場所を変更(九八年四月、火葬場をオープン)した。しかし、県は九七年春になって計画からの撤退表明した。 (五)組合は九六年三月二五日に開催された九五年度最終の定例議会で、建設地周辺の集落である宇多院地区に対して「当年度中に三〇〇〇万円」を、さらに「九六、九七年の二年間で九五〇〇万円を支出する債務負担行為」を議決した。そして、実際に九六年度四七五〇万円、九七年度四七五〇万円と三年間で地区協力費合計一億二五〇〇万円を支出した。
(六)一方、宇多院地区の陽徳寺は、九五年頃から寺の本堂の建築工事に着手し、寺院敷地内の整備や集会場建設も平行され、現在は概ね完成している。
(七)火葬場の全体事業費一〇億円のうち、起債(火葬場整備事業債、斎場整備事業債)総額は五億四六二〇万円、県支出金である県市町村振興補助金は二〇〇〇万円である。

第四 地区協力費支出の違法性と組合の損害
 本件地区協力費支出の手続き、目的、必要性、方法の正当性、組合の負担の程度、組合支出決定に対する働きかけの態様、程度等を評価することで、違法な支出であるのか、組合にとって損害なのかが明らかとなる。そこで、各項目について述べる。
(一)本件は財産の無償贈与
 本件地区協力費は贈与契約に基づいて組合庫から「宇多院地区」もしくは「特定個人」へ支出されたもので、組合財産の無償贈与であると考えるのが合理的である。もし無償贈与でないとするなら、本件支出は財産権や生活権の侵害に対応したものではないから、法的支出根拠のない違法なものである。
(二)支出(無償贈与)手続きとしての違法
 1 九六年三月一九日の規約改正の前に、本来の業務として法的に位置付けされていない火葬場建設に関しての議論、検討を進め、九五年度内の支出を具体的に予定したことは、明らかに地方自治法第二八六条《組織・事務及び規約の変更》、第二八七条《規約》に違反している。
 2 組合は、九六年度においても、斎場についてはその規模などは勿論、建設するのか、しないのかすら協議が成立していない(九六年六月二八日組合議会全員協議会時点でも、「斎場併設問題は、都計法はとりあえず斎場ありとして申請する」とされているだけである)など、全体計画、規模など明確に描かれていなかった。つまり、事業計画が不明確な段階において、事業に関する「地元協力費」なるものを算定し、さらに議決まで行った手続きは本質的に不合理である。
(三)支出(無償贈与)の必要性はなく損害である
 1 宇多院地区あるいは住民にとって、火葬場が建設されたからとて、何ら被害、損害は発生せず、何ら苦痛や不便をもたらすものではない。
 2 また、地区協力費を支出せずには当地に火葬場が建設できないという法的要件、手続的制約は何ら存在しない。
 3 岐阜市出屋敷地区は、本件火葬場からは宇多院地区と同程度の距離にあり、しかも、火葬場周辺の水系としては、宇多院側ではなく出屋敷側に流下(傾斜)している地形である。にもかかわらず、出屋敷には地区協力費を一切出さず、宇多院だけに出したことは、本件地区協力費支出が客観的・絶対的必要性のないことの証しである。
(四)地方自治の支出原則における違反
 1 地方自治法第二条一三項は地方公共団体の事務処理の原則について「地方公共団体は、その事務を処理するに当たっては、住民の福祉の増進に努めるとともに、最小の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない」と定めている。これは地方公共団体が住民の付託を受けて、住民の税金によりその事務を執行していることから当然の規定である。本件地区協力費支出において、組合管理者らは、最小の経費で最大の効果を挙げるように何ら努めていないことは明らかであり、同条の規定に違反している。
 2 地方財政法第四条は、地方公共団体の予算の執行について「地方公共団体の経費は、その目的を達成するための必要且つ最小の限度をこえて、これを支出してはならない」と定めている。これは地方公共団体が住民の付託を受けて、住民の税金によりその事務を執行していることから当然の規定である。本件地区協力費支出が必要且つ最小の限度を越えていることは明らかであり、同条の規定に違反している。
(五)支出(無償贈与)に妥当性はなく損害である
 1 一般に公営火葬場の建設において、本件のごとき名目あるいは金額の公金支出の例もなく、本件支出が社会的に許容される余地はない。
 2 本件地区協力費一億二五〇〇万円は、火葬場事業費のうち一般財源である町村負担金一〇億円の一割以上にもなる(甲第三号証)。常軌を逸した高額の「地区協力費」の支出は、右記規定に照らして不要かつ違法な支出である。
 3 この地区協力費は「県からの支出は不可能とする地区協力費を肩代わりする了解の下」(組合資料)とされている通り、「組合」と「県」の両者の施設に対応する分としての認識の下に支出された。県はこの種の支出はできない、としているのである。
(六)起債、補助金の不適正使用
 起債は、将来国から交付されるものとして国や県の厳しい事業審査、認定を受け、県の補助金も同様である。起債、補助事業における本件のような不適正支出は許されない。

第五 憲法の政教分離原則違反
 憲法は「信仰の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない」(第二〇条一項)、「国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない」(同条三項)、「公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない」(第八九条)と定めている。
 宇多院地区の「陽徳寺」は宗教団体であり、住職が特定の宗派の定めにのっとり儀式を行う場であり、建物は礼拝等の施設となっている。一方、宇多院地区の集落組織は、寺の新築に当たって全世帯が高額の寄付を行うなど、実質的に「陽徳寺」の檀家集団であることは明らかである。地区協力費の全額が寺の整備に費やされた。組合及び議会関係者は、地区協力費が寺改修に使われることを暗黙に了解し、被告田内賢の求めるままに、憲法の政教分離原則違反の検討をする事なく支出決定をした。 本件支出において、関係者にとっては、宇多院地区は実質的にトンネル団体だったのであり、地元協力費に名を借りた寺への公費による援助である。宗教団体を特別に支援し、特定の宗教への関心を呼び起こすもの、と言わざるを得ない。
 以上、地区協力費としての組合公金支出は、政教分離の原則を定めた憲法に違反し、禁止された違法な支出である。

第六 公職を利用した利益誘導
(一)組合及び組合議会は、組合議会の火葬場問題に関する牽引者である被告田内賢の提示のままに、半ば強迫的状況下の働きかけによって地区協力費としての贈与の決定に至った。
(二)地方自治法第一一七条《議長及び議員の除斥》「・・議員は、自己若しくは父母、祖父母、配偶者、子、孫若しくは兄弟姉妹の一身上に関する事件又は自己若しくはこれらの者の従事する業務に直接の利害関係のある事件については、その議事に参与することができない」と定めている。地方公共団体の議決や公金の支出が公職者としての当該利害関係者らに不当に有利になるように導かれることを防止するための規定である。
 本件において、被告田内賢は長年来、宇多院地区の実質的統率者であり、「陽徳寺」の檀家総代及び寺建設委員長である。
 さらに、火葬場建設用地は親族の土地が多である。よって組合議会での火葬場に関する地元協力費及び用地契約等についての審議・議決では重大な利害関係者として除斥されるべき立場であった。 しかし、法第一一七条に違反して、全く除斥されなかった。
 本件審議、議決において被告田内賢が除斥されていれば、異なる結論となった可能性は極めて高い。よって、本件支出の議決は違法もしくは著しい裁量権の乱用であって、地方自治法第二条一六項に照らして無効である。

第七 杜撰で不合理な組合運営
(一)組合議会は、正式の議会を殆ど開かず、火葬場に関しては実質的に被告田内賢がリードし、大部分を協議会で「承認」して実質的に意志決定をなしてきた。組合関係者らは疑義を抱きながらも、これに歯止めをかけず、議会としての正常な状態ではなく、審議等議決に至る過程において、著しい裁量権の乱用があったというべきである。
(二)当初の地域一帯が組合の火葬場最終候補地となったのは、@地権者が少数で交渉が容易、A近くを高圧線が通っているが、高圧線下はよくない、などの点が考慮されたものである。しかし実際には、火葬場を高圧線の真下に建設した。敢えて、組合が高圧線の真下へ移り、現在の施設を建設したのは、極めて不合理である。
(三)最終的に組合が取得、建設した場所は、水が抜けることで地元では知られるなど、建造物を構築するには極めて不適な場所である。実際に、オープンした四月以降、降雨時には、火葬場のホール内の壁面が水吹くなど具体的支障が生じている。この土地の選択は著しく不合理である。
(四)九七年春になって、岐阜県は“ふれあいパーク”計画を突然撤回した。
 その理由は、県が希望した土地は、ゴルフ場の計画地の一部と重なっており、トラブルを懸念、これを嫌って撤退方針を固めた、とされている。
 しかし、このゴルフ場の計画は、地元の武芸川町に正式に事前協議が申請されており、県も指導中である。町や県の各課、県の出先機関など行政関係者が本件予定地とゴルフ場計画地の関係を知らないということは、行政手続き上あり得ない。
(五)そもそも火葬場建設用地としての適地性や経済性の比較考量が十分になされておらず、実質的に当地ありき、で進められた。加えて、本件地区協力費は、客観的必要性の検討の下に積算、決定されたものではない。
(六)本件火葬場の用地取得に関して、九六年二月二一日にウラ金から違法に用地費一〇〇〇万円が地権者二人に支出されていた。これは、監査委員の「組合に損害はない」との監査結果を受けての別訴、平成一〇年(行ウ)一四号火葬場用地買収支出金返還請求事件における第一回公判(一〇月七日)の直前の九月三〇日付けで組合に返還された。

第八 住民監査請求
 原告は、九八年一一月一八日付けで住民監査請求を行い(甲第一号証)、監査委員は九九年一月一四日付けで「要件を欠き不適法である」と却下した(甲第二号証)。
 しかし、原告は、監査結果は到底承服できないので出訴に及んだ。

第九 請求期間
(一)本件監査請求の期間に関して、監査委員は、支出行為から一年以上を経過しているとの判断をしている。しかし、請求の一年以上前に支出が完了していた、との確証はどこにもない。
特に本件の公金の流れに関しては地区がトンネル機関であるので、最終支出日は宗教法人に資金が渡った時点、というべきである。
 また、本件地区協力費は「三年間で支出」するとの議決のもとになされた契約であり、一連の支出を分割して評価することはできない。よって、監査請求において特定すべき事実とは、この三年払いの地区協力費全体を指すものである。
(二)仮に、一年以上経過しているとしても、本件は以下の理由で、地方自治法第二四二条二項の規定の「正当な理由があるとき」の条件を満たす適法な請求である。
 1 組合議会は広報なども発行しておらず、他に活動や予算決算の報告もない。市町村と住民の関係 以上に、組合の構成自治体の住民が本件のような支出を認識することは、困難である。
支出の事実を請求人らが文書的に認識したのは、九八年九月、原告寺町知正、原告寺町緑が組合事務所にて、議会議事録を閲覧したことによる。しかし、これとて、その算定根拠や、さらに宗教法人への支出とは一切記載されていない。
 本件違法な支出はいずれも、住民が支出から一年以内に「客観的に知り得なかったもの」である。 2 本件支出は、最高裁判例に照らしても、通常の住民が知ることは困難な事実であり、右記の時点をもって、「知ることができた時」と解すべき正当な理由があるというべきである。
 最高裁判決(昭和六三・四・二二判時一二八〇号六三項・判タ六六九号一二二項)は期間制限の趣旨について「当該行為が秘密裡にされた場合、同項但書にいう『正当な理由』の有無は、特段の事情のない限り、@普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査したときに客観的にみて当該行為を知ることができたかどうか、またA当該行為を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべき」と判示している。
 その事案は、具体的には「昭和五五年四月一九日に町による用地買収の補償金を土地権利者に対して支払ったが、右支出は予算外収入の金員でなされた予算外支出であったために関係者以外には秘密とされ、一般の住民も町議会もそれを知らなかったところ、昭和五九年六月に町議会議員が議会において右支出について質疑し、町長が陳謝したが、昭和五九年一〇月に右質疑、陳謝の事実を記載した町議会だよりが、町の住民に全戸配布された。その後、昭和六〇年二月に右支出について新聞報道がなされたが、その新聞報道を見た住民が同年三月八日に監査請求をした」というものである。右最高裁は、住民にとって議会だよりが配布された昭和五九年十月までには本件支出は明らかになったはずであり、右時点から四ケ月あまりを経過した昭和六〇年三月八日になした監査請求は、当該行為を知ることができたとさ解される時から相当な期間内になされたものとはいえず、正当な理由はないと判断している(但し原審大阪高裁は「新聞報道のなされた時点において知り得た」と判断している)。
 3 「当該行為が秘密裡にされた場合」とは、隠蔽工作がなされた場合に限らず、通常、住民が知り得ない状況におかれている場合を広く意味すると解されている。「普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査したときに客観的にみて当該行為を知ることができたかどうか」の判断は、平均的な住民の注意力と情報収集などの調査能力を基準に、当該事案で問題とされる当該行為の種類、内容、態様などに即して個別に判断することである。
 4 当該行為の存在を住民が知ることができたとしても、当該行為が違法・不当であることを知り得なければ監査請求をなすことができないから、当該行為を知ることができたと言えるためには、当該行為の存在のみならず、当該行為が違法・不当であることを基礎づける事実を知り得ることが必要、というべきである。
 5 また、「予算、決算審議だけ」ではその行為の個別的内容がわからない場合が多く、「予算、決算審議がなされた事実」のみをもって正当な理由を否定することはできない。 
 6 この「相当な期間」の基準については、行政不服審査法が審査請求について定める六十日という期間を参考にしつつ個別的事案ごとに具体的に判断すべき、との説が有力である。本件は、速やかな期間内に請求しているのであるから、適法な請求である。
 なお、大阪高裁判決(平成三・五・二三判タ七六八号一一七項)は、違法な公金支出がなされて一年経過後、新聞報道により住民が右事実を知って四一日後になされた監査請求につき「正当な理由」を認めている。
 7 以上、各判例や学説等に照らして、本件は、正当な理由がある適法な請求というべきである。

第一〇 結論
 以上、本件地区協力費支出は、手続き、目的、必要性、方法の正当性、組合の負担の程度、組合支出決定に対する働きかけの態様、程度を総合考慮して、明らかに違法かつ不必要な支出であって、組合にとって多大な損害である。よって、原告は、組合に代位して、被告らに対して、連帯して以下のように返還、賠償する事を求める。

(一)被告田内賢は宇多院地区の実質的リーダーかつ陽徳寺の檀家総代であった。特にこの寺には、住職がおらず、被告田内賢の権限は絶大であった。さらに、寺建設委員長として建設を取り仕切り、建築業者も当初に自ら特定一社を選定してしまうなど、著しく独断的であった。同時に武芸川町議会議長、本件組合の議員として本件支出の決定に最も深く関与した。以上、被告田内賢の自らの公私における地位を利用し、自らの寺、地区、親族等の利得を諮った行為、しかも地区組織をトンネル団体にして憲法に違反した公金支出をさせた責任は極めて大きい。よって、被告田内賢は不当利得として金一億二五〇〇万円の全額の返還をする責任がある。

(二)被告長屋益雄は火葬場建設当時の組合管理者として、杜撰な運営、支出を継続し本件支出に重大な責任を有する。よって被告長屋益雄は、金一億二五〇〇万円の損害を弁済する責任がある。

(三)被告矢口貢男は、現在の組合管理者として、かつ火葬場建設当時、美山町議会議員、議長として組合議員でもあった。被告矢口貢男は、組合管理者就任前の本件の損害金一億二五〇〇万円の速やかな損害賠償請求措置を講ずべき責務を有するところ、これを怠っている。よって、被告矢口貢男は金一億二五〇〇万円の損害を弁済する責任がある。

(四)寺社など宗教施設の建築に当たっては、一般的に、地域関係者、信仰関係者らの建築寄付金等で賄うところ、本件における被告姓名不詳の者は、宇多院地区の区長である自らの地位を利用し、自ら及び地区の住民らが寄付すべき金員の大幅な減額を諮った。しかも地区組織をトンネル団体として憲法に違反した公金支出を図ることに加担した責任は極めて大きい。よって被告姓名不詳の者は不当利得として金一億二五〇〇万円を返還する責任がある。
   以 上

 《証 拠 方 法》       口頭弁論において、随時、追加提出する。
          岐阜県山県郡高富町高木九九〇
               右  原  告    林  武                                     外三名
岐阜地方裁判所民事部御中

当事者目録《原告》
        岐阜県山県郡高富町西深瀬八八一の三〇 
           原  告       林    武 
        岐阜県山県郡高富町高木九九〇       
 原  告  信  田  雄  三       岐阜県山県郡高富町西深瀬二〇八の一
           原  告     寺  町    緑 
       岐阜県山県郡高富町西深瀬二〇八の一
           原  告     寺  町  知  正  
《被告》
岐阜県武儀郡武芸川町宇多院一二七五の一
      被  告    田  内    賢
岐阜県山県郡美山町笹賀一三六の一
           被  告 長  屋  益  雄
岐阜県山県郡美山町片原四三七
    被  告 矢  口 貢 男
岐阜県武儀郡武芸川町宇多院
被  告 姓名不詳の者

寺舎建築目的違法地区協力費返還請求事件

証 拠 説 明 書
        原  告     林   武  外三名 
        被  告     田  内  賢  外三名
 一九九九年二月四日
岐阜地方裁判所民事部御中

             記

甲第一号証 一一月一八日付け、監査請求書
    原告らが組合監査委員に監査請求した内容を示す

甲第二号証 一月一四日付け、監査委員の却下通知書
    組合監査委員が、請求に基づいて監査を行い、その結果として、請求を「却下」したことを示す

甲第三号証 火葬場整備事業概算事業費及び町村負担金試算額(組合資料)
    火葬場建設に関する各予算の明細が明らかとなっている。
甲第四号証 平成一〇年(行ウ)一四号火葬場用地買収支出金返還請求事件の被告側書証
    被告河村孝夫は、ウラ金から違法に支出された用地費の受取人であり、その返還を明らかにしたものである。

以上